メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 お待たせしまして申し訳ありません!

 二話の変更の影響がまだ続く…。
 今週中にPW編五話目投稿したいなぁ…。


探し物は遠のくも、得るモノは大きかった

 型式番号【GW-pupa5000】AI搭載水陸両用戦機―――通称“ピューパ()”。

 【ピースウォーカー計画(平和歩行計画)】で制作された試作機の一機。

 このピューパはソコロフ博士が制作したデータを参考にし、新たな技術を用いて僕が作り出した兵器だ。

 人工知能によって制御された無人機で、主な特徴はその戦車より巨大な体躯でありながらも優れた機動性と速度を誇り、脚部にホバーを採用している事で多少の凹凸はものともしない。

 さらに無人機と言う事から有人機の様に重力負荷を考えずに済み、ロケットブースターで加速をする事も可能。

 武装は頭部と後部に機関銃が合計六基に頭部前方の雷撃の放電口、放電を単一目標ではなく周囲に拡散する事が出来る円盤状の避雷針をばら撒いたりと対人能力が非常に高い。

 問題をあげるとすれば搭載したホバーがコスタリカの地形に合わずに、不採用になったことぐらいだが、生憎とここは整地されたドーム。しかも壁は丸みを帯びているのでピューパは壁走りに近い形で走行可能。外部に繋がる通路入り口が四つほど中央に向けて備え付けられているので、そこを通れば四方の何処からでも出現する事が出来る。

 

 ピューパに有利な地形で戦いを挑むは二人の兵士。

 武装はアサルトライフルだろうか。

 管制塔より眺めていたヒューイは絶望感に苛まれていた。

 彼は【ピースウォーカー計画】の為に雇われた科学者だ。

 …いや、正確には雇われていた科学者か…。

 

 計画立案者であるコールドマンの“絶対的な核抑止による恒久的世界平和”と言う抑止論に賛同して、彼の言うがままに研究に勤しんで来た。

 だが、彼はここにきて核を撃つことを告げてきた。

 撃たない、撃たせない事が抑止であり、それを自ら撃つなんてナンセンスだ。

 そもそもヒューイは核を嫌っている。否、憎んでいると言っても良い。

 父親は原子爆弾開発を行った【マンハッタン計画】の関係者であった。

 幼い頃は父は凄い科学者だと尊敬をしていたが、原子爆弾が落とされた日本の惨状を知ると幼かった彼はトラウマを抱え、抱いていた感情は見事に消し飛んだ。

 英雄の様に思っていた父は、その日を境に憎むべき存在に変わった。

 

 だから撃つと断言した計画立案者―――ホット・コールドマンに賛同する事はもはや出来なかった。

 無論見て見ぬふりなど出来ず、僕は止めようとしたさ。

 結果は聞く耳持たずで邪魔者は階段より突き落とすで終わった。

 生まれた時より脊髄の異常で歩く事が出来ない僕では彼を止めるどころか、追い掛ける事すら出来はしない。

 

 僕の想いは踏み躙られ、核を撃った連中の烙印を押されるだろう。

 なんて不甲斐無く、浅はかだったのだろうか。

 悔しくて涙すら出て来ない。

 そんな中、事情も知らない二人の兵士が現れた。

 

 彼らは絶望感と焦燥感でパニックを起こしていた僕の断片的な叫びを頼りにコールドマンを追って行った。

 僕はそんな彼らの背を見つめ、何かしなくちゃと車椅子に何とかして乗って管制室に急いだ。

 通常の車椅子は車輪であるけど僕のは四つの脚が取り付けられ、ゆっくりながらも階段だって進めるように開発したもの。

 管制室に入り、ピューパが搭乗してからは戦っている二人に情報を伝えようとマイクを握った。

 

 相手に有利な地形で不利な状況。

 正直言って彼らに勝ち目など万に一つも無いと思った。

 思っていても期待はしてしまう。

 漫画のヒーローの様に強大な相手にも立ち向かい、諦めずに勝利を勝ち取る光景を。

 夢物語を抱いた僕は良い意味で期待を裏切られた。

 

 「三つ!四つ!―――ッ!?放電来るぞ!!」

 「だったらこれでどうですか!!」

 

 凄いの一言だった。

 たった二人の兵士がピューパを翻弄し、無傷で追い詰めている様子は…。

 眼帯を付けた兵士がアサルトライフルで四つ目となる機関銃を破壊。

 移動しながら機関銃を撃つ動作から放電攻撃に移ったところで、もう一人の黒コートの青年が駆け寄ってロケットブースターの入り口にグレネードを放り込む。

 爆発が入口より漏れると同時にロケットブースターは内部より大爆発を起こし、残っていた燃料が飛び散って後部が炎上している。これによりロケットブースター近くにあった避雷針の発射口が炎で塞がれた。

 彼らは少しの戦いでピューパの行動パターンを理解し、放電を行う際には停止しなけばならないという僅かな隙に仕掛けたのだ。

 少しでもタイミングを誤れば至近距離で放電を受けて死ぬこともあるだろう。

 

 驚愕と興奮に飲まれるヒューイの眼下にて、ロケットブースターの爆発により前のめりに倒れ込んでいたピューパは、機関銃を破壊され続け、放電口に甚大なる損傷を与えられ、とうとう頭脳であるAIポッドを地面に叩きつける形で倒れ込んだ。

 

 僕は叫んだ。

 AIポッドを破壊するのは物理的に困難だが、内部にある記憶盤を抜き取れば動きは止まる筈だ。

 それを聞くや否や一人がグレネードでハッチを破壊し、もう一人が勢いよく中へと跳び込む。

 中では記憶盤を抜き取り、外に居た一人が受け取ってはそこらへんに転がす。

 かなりの記憶盤を抜き取られたAIポッドが再起動し、ダメージの具合から戦闘継続は困難だと判断したのだろう。

 ピューパの身体を切り離し、AIポッドだけが逃げようと下部より火が噴き出る。

 慌てて二人は跳び下り、空高く飛び去って行くAIポッドを見上げていた。

 

 さて、興奮冷め止まぬ状態であるが、今は一刻も早く冷静に彼らと話をする必要がある。

 ガシャン、ガシャンと車椅子は昇って来た階段を降り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ジャングルに囲まれた地をバットとスネークは馬に乗って移動していた。

 速度を考えればヘリでの移動が良いのだが敵地でそんな目立つことは出来ないし、装甲車での移動はジャングルと言う地形的に不可能。となれば徒歩であるのも遅すぎる上に体力の消耗も激しい。

 そういう理由から彼らの移動は馬となった。

 騎乗した二人はとことこと目的地を目指して馬を進ませ、片手で手綱を握りながら食事を行っている。

 今日のランチはバットが握った具材入りの握り飯。

 これなら片手で食事を済ませる事が出来る。

 ガツガツと握り飯を頬張り、ストローが突っ込まれた球体状の器に入れられたマテ茶で喉を潤す。

 

 『二人共急いでくれ!何時コールドマンが撃つか分からないんだよ!?』

 「分かってはいるが、無茶をして馬を使い潰したらそれこそ間に合わなくなるぞ」

 

 無線より急かすヒューイの声にスネークが苦笑いを浮かべつつ答える。

 ヒューイというのはこの前階段より突き落とされた車椅子に乗っていた男性だ。

 彼は敵側の人間であったが、敵側のトップであるホット・コールドマンと意見が対立し、スネーク達に保護される形でこちらへと鞍替えした。

 おかげで敵の目的を知る事が出来た。

 

 敵の首領はホット・コールドマンというCIA中米支局長の地位を持つ人物だった。

 彼は現在世界各国に広まっている核抑止論に疑問を抱いている。

 撃ってきたら撃ち返すというのが大前提でありながら、先手でミサイル発射基地を破壊されれば撃ち返す事は出来ないし、そもそも撃てば大量破壊だけでなく数百年に渡り汚染するような兵器を人は躊躇いなく絶対に撃てるのかという疑問。

 この疑問を解消する案として彼が立案したのが【ピースウォーカー計画(平和歩行計画)】。

 確実に撃ち返すようにする為に必要なものは二つ。

 敵に位置を捕捉されるであろうミサイル発射台からの発射ではなく、位置を知られないように移動する核発射装置。

 不確実な要素である人間を介さないで、反撃するにしても効果的な目標を判断し、確実に撃ち返す事の出来る人工知能。

 コスタリカに投入された人員も資金も兵器も全てその計画の為に投入されたものである。

 

 核発射装置として目を付けたのはグラーニンが提唱していた核搭載二足歩行戦車であった。

 しかし、当のグラーニンはヴォルギンの事件以来行方不明。

 そこで足が不自由な事から歩行システムの研究をしていたヒューイをスカウトし、二足歩行戦車の礎を作らせたのだ。

 もう一つの人工知能は未だ未完成で、そちらは同じくスカウトされたストレンジラブ博士という女性が担当しているとの事。

 

 すでに二足歩行戦車“ピースウォーカー”はほぼ完成しており、残るは人工知能を完成させるのみ。

 完成してしまえばコールドマンは歴史上最後となるであろう核を発射して人間では撃ち返せない事を立証し、人工知能により最適な行動を行う“ピースウォーカー”の有用性を世に訴えるつもりらしい。

 

 ヒューイ曰く、確実な核抑止による恒久平和を謳っているらしいが、中米支局長に左遷された事を根に持ち、今回の計画を上手く行かせて長官の座を得て本局に復帰すると言う野心塗れの理想に多くの人間が巻き込まれるのだろうと考えると余計に怒りがこみあげて来る。

 

 現在バットとスネークは人工知能完成を阻止すべく、ストレンジラブ博士の研究施設である遺跡へと向かっているのだ。

 遺跡ならば潜入は容易いと思ってしまったが、どうも人間嫌いの性質があるらしく、古き遺跡であるにも関わらず研究器材のみならず入り口は専用のIDカードでなくては開かないとの事。

 ヒューイからIDカードは預かっているので開閉は問題なく、考えるべきはAIポッドの破壊だけだろう。

 一緒にストレンジラブ博士に渡してほしいと手紙を預かっているけど、見るなよと念押しされた以上見たくなるのは人間の性だろうか。

 呑気にそんな事を考えていたバットを他所に話は進む。

 

 「早く行くにしてもガイドが欲しいな」

 『あぁ…ジャングルに詳しいパスに協力してもらう』

 『スネーク、それにバット。サバイバルの達人だからって油断しないで、何百と言う動植物が織りなす太古のジャングル。その辺りは霞で視界も悪いし、岩礁が堅いからこそ度重なる地震の中でもマヤの遺跡が生き残れたの』

 「へぇ、パスちゃんは物知りだね」

 

 マテ茶を啜りながら聞いているスネークと違い、バットは表情をころころと変えて興味を持って聞いている。

 もう少し聞きたいなと思っていたらカズが無線に割り込んで来た。

 

 『二人共良いか?諜報班より連絡があった。すでにその辺りの警戒レベルは上がり、“クリサリス”のような無人兵器も多数確認されたようだ』

 

 クリサリスとはアマンダ達サンディニスタが言うところのコリブリで、ピースウォーカーの試作兵器の一つ。

 地上を高機動にて攻撃するピューパとは違い、空中からの攻撃に主眼を置いて制作された。

 警戒レベルがあがっただけでも厄介なのに、頭上まで注意しなければならないとは…。

 ため息をつきたくなる一行は長距離移動させていた、馬を休ませるべく木陰で立ち止まる。

 

 噂をすれば影。

 カズが名前を出してしまったせいかは分からないが、ちょうどスネークとバットの頭上にクリサリスが姿を現したのだ。

 こんな視界の悪いジャングルの真っただ中で、赤外線や熱センサーも搭載されているクリサリスを相手にするには状況的にも武装的にも不利過ぎる。

 ピューパの時はまだ武器が通用したし、シャゴホットに比べたら遅いし小さいし脆いので何とか出来た。

 二人からしたらここでの戦闘は避けたいところだ。

 祈るように草むらに潜んだ二人は立ち去るまで息を潜める。

 

 彼は非常に幸運に恵まれた。

 馬を休めるべく立ち止まった事で図らずも木々の下に居て、即座にクリサリスに発見されなかった事。

 そしてもう一つは熱源を感知して空中で、ホバリングしつつ接近してきた事で驚いた馬が飛び出したので熱源は馬だと判断して、それ以上捜索しなかった事。

 去って行くクリサリスを見送り、安堵で胸を撫でおろす。

 移動手段だった馬が逃げ出した事で少し思うところがあるものの、ここから先には敵が警戒している事を考慮すると馬を連れて行くのは難しい。

 

 「ここからは徒歩だな」

 「了解です。行きますか」

 

 お互いに武装を確認し、バットは暗視ゴーグルを装備する。

 暗視ゴーグルとは熱源を探知して暗所でも視界を確保出来る電子光学機器だ。

 今は太陽が昇っていて明るいが、進む先は木々が生い茂るジャングル。

 いくらでも暗所は生まれ、周囲に溶け込む敵兵の熱を拾って炙り出してくれる。

 案の定バットの視界には待ち伏せをしていた兵士達を見つけ、次々と拘束してはフルトン回収でマザーベースへと送り付けていく。

 

 「にしても凄いですねコレ。肉眼だと解り難いですよ」

 「そういう目的だからな……こいつらもこんなにあっさり見つかるとは思わなかっただろうに…」

 

 拘束した敵兵―――偵察兵(スカウト兵)が着ていた草木が生えているかのように偽装されたギリースーツに感心する。

 こんなのを着たのがそこら中に居たとなると暗視ゴーグル無しではどれだけ時間をかけて慎重にならざる得なかったのだろう。

 最後になにか呟かれたようだが独り言のようだったので、気にせずにセルバ・デ・ラ・レチェのジャングルから坂道を突破し、二人はカタラタ・デ・ラ・ムエルデに足を踏み入れる。

 そこはここまでと同じく木々で覆われていたが、先は深い谷間がある断崖絶壁となっており、向かいは幾つもの滝が下へと流れ落ちていた。

 

 「綺麗ですねぇ」

 「あぁ、少し涼しく感じるしな」

 

 滝のおかげか涼しくなったような気がしたスネークと、暗視ゴーグルを外したバットは僅かな間であるがその光景を眺めていた。だが、近付いてくるローター音に意識が戦闘状態へまで引き上げられる。

 何処かにヘリが居る。

 慌てて銃を握り締める二人にソレは姿を現した。

 

 茶色の迷彩色を施された凡庸戦闘ヘリコプター“Mi-24A”。

 兵員輸送を可能とした巨躯が威圧感を与え、左右に広がるロケット弾を装填した32連装ポッドが二基に対戦車ミサイル二基が恐れを抱かせ、12.7mm機銃が命を刈り取らんと銃口を向けて来る。

 

 「ミル24(Mi-24)…いや、改良型か!?ソ連のハインドまで持ち込んでいたのか!」

 「ガンシップ相手にどうやっ………て?」

 

 慌てふためいた二人であったがその感情はみるみる鎮火されて行った。

 武装はピューパ戦同様の武装しかなく、ヘリの長所である上空よりの攻撃を行われたら打つ手はない。

 なのにMi-24Aは谷間の底より上がって来るように浮上してきて、陸地擦れ擦れでホバリングをして兵員を降ろす為か止まったのだ。

 

 無言でバットとスネークはアサルトライフルの銃口を操縦者に向けて撃ち始めた。

 出来得ることなら殺さないようにして来たバットであるが、敵を優先して味方や自分が犠牲にするほどの想いは抱いていない。

 危険の可能性が高ければ敵を撃つ。

 それなりに硬かったであろうガラスはなん十発も撃ち込まれれば罅割れ、気付いた兵士は操縦桿を引いて下がろうとするも割れて弾丸が身体を貫く方が早かった。

 一度は引いた操縦桿は操縦士が死に絶え、前に倒れかけたことで前へと倒される。

 Mi-24Aは地面に不時着するかたちで突っ込み、降りようとしていた兵員は機体内で転げまわり、死にはしなかったが負傷者だらけとなって戦うべく動けるものは皆無となっている。

 

 「ヘリって歩兵に目線を合わせる形で戦うんでしたっけ?」

 「こいつが低く飛んでいただけだ。全部がアサルトライフルの届く位置にいる訳は無い(PWはだいたい居ます)からな」

 

 敵に対して何やっているんだろうかと呆れながら回収班に連絡して、ほぼ無傷のガンシップの回収を指示する。

 指示したならばここは用済みとばかりに遺跡へと向かうも、急ぐ二人の脚はすぐに止まってしまう。

 木陰の下に人を見つけたからだ。

 疲れた果てた金髪の女性。

 銃の携帯はしていないらしく服装は下着のみ。

 とても兵士には見えないかったし、罠と言う風にも感じられなかった。

 こんなところに一般人がいる訳もないだろうが…。

 

 疑問を抱きつつ警戒したスネークが近づくと女性はぶつぶつと呟く。

 バットは聞き取れなかったが、聞き取れたうえに覚えのあったスネークはフランス語だと理解した。

 

 「フランス人か」

 

 小さく呟くと女性に“君は何者だ?”と問いかける。

 女性はスネークがアメリカ人と知ると今度は英語で話し始める。

 

 「お願い…殺さないで…銃を向けないで…」

 

 弱々しい呟きに応じて銃口を下げ、さっとマテ茶を差し出す。

 振り絞るように動いた女性は手にしたマテ茶を一気に飲み干した。

 途切れ途切れながら彼女―――セシール・コジマ・カミナンデスは事情を語る。

 

 セシールは鳥類学者で、コスタリカには観光で訪れたそうだ。

 なんでもこの辺りは有数の珍しい鳥たちが生息しているらしく、戦争も起こっていないのもあってバーダーウォッチャーにとっては憧れの場所。

 彼女はここでケツァールの鳴き声を撮っていたら、森の奥より二人の女性の声を聴いてしまった。

 それが不味かったのだろう。

 迂闊にも近づいて敵兵に見つかり、聞かれては不味いものを聞かれた事で追い回され、捕まってしまった…。

 ただ彼女は運が良い事に乱暴も拷問もされず、声の片割れの女性により手厚く扱われたのだ。。

 目隠しを外さない、逃げ出さない事を釘刺され、毎日お風呂で拭いてくれたり、食事を食べさせてくれたりした。さらにひと月で帰れるとまで言って安心させてくれたとも言う。

 

 こちらからすれば安心は出来る事ではないが…。

 何かを見た、聞いた彼女が無事に解放される事態とは、ソレらが隠す必要が無くなった時。

 つまりはここで行われていることが約一か月以内には完了すると言う事。

 危機感の募る二人は焦らず、話の続きを求める。

 

 結局セシールは忠告を無視して逃げ出した。

 IDカードを隙をついて盗んで入り口のセキュリティを突破。

 道中敵兵に捕まりもしたが何とか振り払って逃げ延びたのだとか。

 盗んだIDカードはその時に奪われた…と。

 

 「俺の所に来るか?帰りたくなったらいつでもパリに帰してやる」

 「身体を洗って、煙草を吸って、服を着たい」

 「幾らでも、ついでに美味い飯も保障できる。なんたって凄腕の職人が居るからな」

 「それは素敵。フランスの煙草ある?両切りの…」

 「今は葉巻しかないが俺の所に来ればフランス煙草ならいくらでもある」

 「楽園みたい」

 「生憎そこは天国の外(アウターヘブン)だ」

 「ますます魅力的ね」

 

 乗り気の彼女にスネークは聞いた声の事を数度問いかけ、一応納得したようなのでバットがカズに連絡を入れる。

 

 「カズさん。民間人の収容をお願いします」

 『おいおい、ホテルじゃないんだぞ。民間人を受け入れる余裕はない』

 「…そうか。金髪のパリジェンヌなんだが」

 

 カズが否定するのは間違っていない。

 国境なき軍隊は何処の組織にも国にも属さない軍隊。

 拠点はマザーベースしかなくそれを大っぴらに知られるわけにはいかない。

 そこに味方でも捕虜でもない民間人を収容するなどもってのほかだ。

 兵士ならば雇う事も出来た。

 捕虜ならば説得して味方にする事も出来る。

 しかし民間人に戦えと強要する気も無いし、拠点を知られないように監禁する訳にもいかない。

 何より監禁しても生活させる為の資金を出さねばならず、得るモノは何もないのだ。

 一銭の得もない。

 ならば酷な話だが収容しない方が良いのだ。

 

 そう判断した言葉であったが、バットとカズの会話にぼそりとスネークが呟くとカズは喰い付いてしまった…。

 

 『なんだと!?金髪のパリジェンヌ!!』

 「どうにかなりませんか?彼女、食べ物も武器も持ってなくて、必死に逃げ出して来たんですよ。着ているものだって下着ぐらいしか――」

 『下着のみ!?直ちにヘリを急行させる!!』

 

 鼻歌交じりに交信を切ったカズに少し想うところがあるも、とりあえず彼女を保護する事は何とかなり、二人は迎えが来るまでそこで待機するのであった。

 

 

 ……ちなみにカズのやり取りを見ていた司令部に詰めていた女性兵からのカズの評価は大幅に下落したのだった…。

 

 

 

 

 

 

 ●ちょっとした一コマ:MSF、脅威の技術力

 

 ヒューイ・エメリッヒはコールドマンの核発射を阻止すべく、スネークに協力すべく国境なき軍隊(MSF)の拠点であるマザーベースに到着した。

 自分も参加していた【ピースウォーカー計画】を止める為にはAIポッドの破壊及び核弾頭を奪う必要がある。

 現在この件で動けるのは彼らのような存在だけだろう。

 アメリカに訴えかけても、ソ連に訴えかけても戯言として無視されるか、最悪の場合はこれをきっかけに戦争…。

 今となっては遅すぎるのかも知れないが、コールドマンを止める為にスネークやバットには頑張ってもらうしかない。

 彼らの実力はMSFにある過去の戦闘データに自身の目で見たピューパ戦などで実証されているので疑いの余地は無い。しかし、どれだけ腕が立とうと彼らは所詮人。当たり前のように拳では装甲車を壊せないし、拳銃だけで戦車と正面から撃ち合って勝てる訳がない。

 数多くの兵器群が投入され。ピューパの様に【ピースウォーカー計画】の為に制作されたAI兵器を倒すには強力な武器が必要となる。

 一科学者として僕はそういう面で協力していくつもりだ。

 

 それにしてもここは異常だ。

 いや、スネークやバットの事ではないよ。

 …人としては異常だとは思うけど。

 

 僕が異常と感じたのはマザーベースに存在する研究開発を行う技術面の話だ。

 拠点位置を多勢力に察せられないように隠匿する必要性があるのは理解出来る。

 物資の補給や人員の確保などは急務でありながら運ぶ手段や選別には格段の注意が必要となるだろう。

 なにせマザーベースには200名以上の人員が在籍しており、一か月の食糧だけでもどれだけの金と量が必要になるか。

 特に戦場を渡り歩くので武器弾薬は必須で、実戦部隊百名近くの人員に必要分の武器と弾薬を揃えようと注文すれば、嫌でも武器商人の印象に強く残る。さらにここでは鹵獲した兵器群の整備や補充も行うので個人が揃える域を完全に超えている。

 これらを国でも軍でもない者が買い込んでいると知られれば、誰かしらに目を付けられるだろう。

 最初は上手く誤魔化せても何時までもは続かない。

 

 だからと言ってまさか自らの力だけで現行の銃を開発して生産するだろうか?

 

 銃を整備するぐらいなら気にする事も無かっただろう。

 銃弾を生産したならばまだ納得しよう。

 しかし銃を生産するばかりか新兵器まで造り出そうする組織とは一体何なんだ…。

 

 話を聞いてみると僕が訪れる前にC4爆弾を開発して送ったと聞いたが、君達は自分達の異常性に気付いていないのかい?

 

 これから僕が所属する研究開発班には複数の部署が存在する。

 銃器開発のスキルを主に使って銃器の制作。

 糧食班と協力して新たな携帯食糧の生産。

 新装備の改良及び開発。

 そしてメタルギアを制作しようとする部署。

 僕が所属するのはそのメタルギア制作だ。

 

 一組織でメタルギアを開発するなんて無謀過ぎると思う。

 が、部署に到着するとそうでもないんだなと理解させられた。

 

 「久しいなヒューイ」

 「まさかグラーニン!?」

 「なんだ?儂が居たら可笑しいとでもいうのか?」

 「いや、そういう訳ではないんだけど…」

 

 アレクサンドル・レオノヴィッチ・グラーニン。

 ソ連の偉大な兵器開発者で、僕がコールドマンに持ち込んだメタルギアの本当の発案者。

 以前より互いの研究を語り合って友人関係にあったので、まだ思想段階のメタルギア―――当時はまだメタルギアなんて名前は無かったけど―――の話も聞いていた。

 だから僕がやった行為はコールドマンが言い放ったように盗作…。

 行方不明(公には)になっていた彼がこうして生きて目の前に現れたのだ。

 改めて自身がした事を想い、恐る恐る今回の件を話て素直に頭を下げた。

 人の研究成果を盗んだのだから、それなりの叱責はされると思っていたのだが、グラーニンは朗らかに笑った。

 

 「構わん。お前さんはアイツ(ヴォルギン)なんかとは違ってよく理解していたからな。それに儂が死んだときはメタルギア研究を引き継いでほしいと思っとった」

 

 怒られると思っていただけに拍子抜けではあるものの、その朗らかな笑みに胸に痞えていたものが無くなったようだ。

 代わりに室内に入ってから異様な酒気が漂って胸に溜まっていく感じはするが…。

 誰かが酒を持ち込んだのだろうと周囲を伺うと予想通り酒瓶を見つける事は出来た。

 

 「凄い酒瓶の数だね。あそこのデスク」

 「…あぁ、酒浸りの生活が続いたからな。今ではこれを手放す日がない」

 「いつも飲んでるのかい?」

 「これは二日酔いを治す薬だ」

 

 それは迎え酒と言うのではと喉元から出掛かった言葉を無理に飲み込む。

 

 「で、グラーニンは勿論メタルギア研究をしているんだよね」

 「少し違うな。儂はメタルギア開発を行っているのだよ。アイツと一緒にな」

 

 すでに開発を行っている事実に反応するよりも、指をさしてアイツと称された人物に目にした衝撃の方が大き過ぎた。

 兵器開発に関わる科学者であるなら知らない者はいないと断言出来る。

 当然会った事は初めてでも“シャゴホット”のデータを調べた知ってはいるし、見間違えることはない。

 

 ニコライ・ステパノヴィッチ・ソコロフ。

 グラーニン同様ソ連の優秀な科学者で、ロケット開発でその名を馳せた人物だ。

 彼も行方不明になっていたと聞いたが、まさかここにいるとは驚きである。

 視線を向けるも全く気付く様子はなく、淡々と資料に目を通しながらキーボードを叩いていく。

 

 「知っておるかアイツの事は?」

 「会ったのは初めてだけど話だけなら。けどまさかここに所属していたとは思わなかったけど」

 「あー…アイツはここには所属しとらんよ」

 

 グラーニンが言うにはソコロフは出向で来ているらしい。

 以前ヴォルギンの一件でシャゴホット開発のために働かされていたソコロフは、何とかグラズニィグラードを脱出した。その後は祖国であるソ連にも家族が亡命しているアメリカにも行けずにジーンの下で弾道メタルギアを作らされた。

 ずっと裏社会で兵器開発を強いられるのだと思っていた所にスネークとバットが現れ、ヴォルギンの時と同じくジーンの野望を打ち砕いて解放された。するとバットに恩を感じているニコライに声をかけられ、彼が運営する傭兵部隊で厄介になる事に。

 全員がバットのおかげで祖国に帰れたと恩を感じている連中で、ソコロフはそこの武器や兵器の整備士として働いていたのだが、今回バットがMSFに協力すると言う事で科学面の人員が必要だろうと出向の形で送られて来たそうな。

 兵器開発に飽き飽きしていたソコロフも、ニコライにはアメリカにも拠点を持ってからは二度と会えないと思っていた家族に度々会えるように(密入国…)手配してくれた事もあって断らなかったとか。

 

 簡単な事情を説明をしたグラーニンは思い出したかのようにポンっと手を叩いた。

 

 「お前さんは人工知能搭載のメタルギアを作るのだろ?儂らは坊主の為に有人メタルギアを作る」

 「グラーニンとソコロフが!?それは凄い。ソ連屈指の科学者がタッグを組むんだ。とんでもない物が出来るんだろうなぁ」

 「設計図は以前に渡しとったんだがあの坊主…作らずにずっとデータだけ持っとったそうだ。ったく」

 

 何をしていたのかと言わんばかりの態度だが、化け物染みた兵士でもメタルギアなんてものを設計図だけ渡されても作れないのは当然だろうと思うのだけど…。

 小さく笑みを浮かべたヒューイは名高い科学者と肩を並べて研究を出来る事を嬉しく思う。

 はたと彼女(・・)も来ればいいのにと過るも周囲の酒気を考えると一瞬で消し飛んだ。

 もしもこちらに所属する事があるならば、今から色々改善しなくちゃな。

 

 確信がある訳ではないけど好意を寄せている彼女とここで共に仕事を夢見て、ヒューイは己がすべき仕事に取り掛かるのであった。

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