メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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偽装基地にて

 採掘場の地下に設けられた偽装基地。

 スネークとバットを迎え撃つべく出て来た部隊もこのような展開は予想していなかっただろう。

 待ち構えていた相手には侵入を許してしまい、自分達は捕縛どころか足止めすら出来ず、後から現れた二人の男女によって呆気なく倒されてしまうなど。

 最後の一人を壁へと投げ飛ばし、気絶させたことで敵部隊の無力化を完遂したエルザとパイソンは武器を確認する。

 二人の任務はスネークとバットの支援。

 連戦続きの彼らと違ってまだまだ十分余力があるならば、負担軽減と任務達成のために前に出るべきだろう。

 弾倉を交換し、施設の敵兵の排除と退路の確保をしていたジョナサンの班と一度合流すべく、振り返ったその時、キャタピラが地面を踏み締める音が聞こえた。

 戦車かと周囲を見渡すも見当たらず、音だけが採掘場に響き渡る。

 

 「一体どこから…」

 「―――っ、上だ!」

 

 パイソンが音の発生源に気付き、視線をそちらへ向ける。

 採掘場を…パイソンとエルザを見下ろす形でナニカがそこに居た。

 巨大な砲に多数の機銃にガトリング群。

 頑丈そうな装甲に戦車だって踏み潰しそうなキャタピラ。

 装甲車でも戦車でもピューパのような小さな(・・・)兵器ではない。

 

 ―――要塞。

 まさに“動く要塞”と呼ぶにふさわしい大型過ぎる兵器。

 

 ヒューイが作り出した三つのAI兵器。

 “繭”の名を持つ型式番号TR-cocoon7000【コクーン】

 圧倒的なほどの巨体が斜面を滑り降りて接近する様に、歴戦の勇士であるパイソンですら怯む。

 

 「これを二人がかりでか。骨が折れそうだな」

 「けどやらないとやられるわ」

 「そうだな。しかしなんとも…」

 

 この状況はエルザは兎も角、パイソンにとっては不利な状況であった。

 現在パイソンが着ているスーツには以前同様液体窒素で満たされた特注品。

 防御力や液体窒素の保有量を増やしたり、マザーベースの技術力でかなり強化されている。勿論液体窒素を用いた凍結能力も効率よく強化されているもののこれだけ開けた場所では上手く発揮することは出来ないし、そもそもあんなデカ物を凍り付かせるなどスーツ内の液体窒素を使い切っても不可能だ。

 

 「主砲装填完了」

 「散れ!!」

 

 主砲が狙いを定め、砲身を向けて来たので叫び左右に散開する。

 狙いがパイソンに向いた事でエルザが機関銃“MG3”二丁を浮かせて銃撃を仕掛ける。

 カンカンと装甲に弾が当たって弾かれる音がするものの、無傷と言う訳にはいかずにコクーンはダメージを負う。

 搭載されているAIは即座に反撃行動を開始し、側面と上部に取り付けられた機銃とガトリングガンにより弾雨の嵐が降り注ぐ。

 

 エルザは超能力が使用できることからパイソンの液体窒素のように特殊兵装を用意されている。

 それが降下されたケースで、あれは鋼鉄同様の防弾性能を持ちながら軽い“チタン装甲”を六枚くっ付けたものであった。

 サイコキネシスで六枚の板に分解して自身を護る様に展開させ、襲い掛かる弾丸の嵐を耐え凌ぐ。

 

 「これでも喰らえ!!」

 

 主砲を何とか躱したパイソンはエルザに気をとられているコクーンに四連装ロケットランチャー“M202A1”を連続で叩き込む。

 硬い装甲で守られている部位には効果が薄いだろうが剥き出しの主砲は話が別だ。

 四発のロケットランチャーが全弾直撃した主砲は黒煙を上げ、砲身は歪んでしまっていた。

 あれでは主砲を撃つことは出来ないだろう。

 そのダメージにより甲高い悲鳴のような音を発し、コクーンは怯んだのか銃撃をほんの僅かだが緩めた。

 

 今だと言わんばかりに二人は近くの遮蔽物に身を隠しながら攻撃を継続する。

 が、立ち直ったコクーンは両者に弾雨を降り注いで反撃の手を止めさせた。

 さらに後部クレーンに連結された機銃が自由に動き回って攻撃してくるので、遮蔽物に隠れているからと言って安心はできない。

 

 「カズヒラ!こちら巨大な兵器と交戦中。こちらの火力では如何ともし難い」

 「手数が足りない上に火力不足。援軍を呼べませんか?」

 『暫く耐えてくれ!すでに援軍は送ったが時間が掛かる』

 「分かっ―――くそったれが!」

 

 返事をする最中「範囲攻撃実施」との声が発せられ、頭上に幾つかの爆雷らしきものが射出された。

 陸上兵器の癖に対潜迫撃砲を装備しているとはどういうことだと叫びたくなる衝動を抑え、その場を大急ぎで飛び退く。

 降り注ぐ爆弾の雨に先ほど居た場所は地面を抉られるほどの連続する爆発に晒された。

 少しでも遅れていたらと思うとぞっとする。

 ロケットランチャーの装填は済んでいたので、とりあえず全弾叩き込む。

 装甲で爆発を起こして周囲の機銃を吹き飛ばすもほんの一部の機銃を失っただけで、武装はまだまだあるようだ。

 

 「なんだあれは!?撃ち方用意!!」

 

 異変に気付いて駆け付けたのだろう。

 現れたジョナサンの部隊は仲間の危機を知り、コクーンを前に怯むことなくロケットランチャー“LAW”を構えて一斉に放つ。垂直に並んだロケット弾は見事に直撃して多くの機銃やガトリングガンを葬り去る。

 味方の到着に安堵する間もなく、コクーンは次の攻撃を宣言する。

 

 「ミサイルターゲット捕捉」

 「いかん逃げろ!!」

 

 直上へと飛来するミサイル群。

 上空へ飛びあがると目標であるジョナサン達に向かって急降下し始める。

 慌てて逃げ出すも間に合わないと察した何人かが撃ち落そうとアサルトライフルを撃つも、ミサイルは無情にも向かってくる。

 弾雨で迎えずに見る事しか出来ないエルザとパイソンは肩を震わせながら自分達の力の無さを恨む…。

 

 降り注ぐミサイル群は地面にぶつかると大爆発を起こしてジョナサン達を爆炎に包んで吹き飛ばす――――筈だった(・・・・)

 

 ミサイル群は直撃する前に空中ですべてが機関砲によって爆散し、降り注ぐ破片から身を護る為にジョナサンたちは岩場の陰に身を隠す。

 何事かと頭上を見上げるとローター音を響かせるヘリが一台飛んでいた。

 

 AH56A-R。

 新型航空火力支援システム構想により設計された初の攻撃ヘリAH56の対戦車戦闘仕様。

 輸送ヘリに比べてスマートかつ小型なボディで、360キロという画期的高速性能を得た。

 非常に強力な兵器であり、頭上を飛んでいるのは黒色の迷彩が施されている事から、現地改修を施されたカスタム機(AH56A-R(C))である。

 

 『うっははははは!見たか小僧共!これが儂の力だ!!』

 

 興奮気味に叫ぶスコウロンスキー大佐に、苦笑いを浮かべながら感謝を抱く。

 ミサイルを撃ち落とした30mm機関砲がコクーン上部にあるAIポッドに攻撃しながら、開きっぱなしだった垂直発射方式ミサイルランチャーの発射管に対戦車ミサイルをぶち込んで大爆発を発生させた。

 内部にも火と爆発が周ったのか至る所で煙が上がり、所々では火が噴き出し始めた。

 いきなりの登場からやってくれたスコウロンスキー大佐に対して皆が歓声を挙げる。

 ただパイソンとエルザ、それと無線を繋いだままのカズは嬉しいながらも何処か浮かない表情をしていた。

 

 「マザーベースにあったのってAH56A-Bだったよね?」

 「あぁ、決して対地用のRではなかったな」

 『最近不明金があったんだがまさか勝手にアマンダから買ったのか…』

 

 だろうなと相槌を打って二人はコクーンに追い打ちをかける。

 ジョナサン達も所持していた弾薬を全て消費する勢いで撃ち続ける。

 

 「一気に畳みかけるぞ!」

 「勿論よ」

 

 チタン装甲を展開したまま機関銃を撃ち続けるエルザに、M16A1アサルトライフルを取り出したパイソンもコクーンへの攻撃を再開する。

 抵抗する術を著しく失ったコクーンの撃破も時間の問題となった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地内に潜入したスネークとバットは二手に分かれて内部を進んでいた。

 多少なり時間があるのならツーマンセルで動いたのだが、時間が少ない上にエルザやパイソンに地上を任せた事もあて余計に急ぎ、効率優先で二手に分かれてのママルポッド捜索を行っているのだ。

 当然のことながら基地内の警戒は最大にまで引き上げられ、内部にはコマンド兵が侵入者を見つけようと巡回している。

 …ただそれにしては甘い所が多々見られ、どうにも誘われているように思えてならない。

 

 「そっちは敵との接触はあったか?」

 『今のところバレた様子はないですね』

 「こっちもだ。罠の可能性がある。注意しろよ」

 『了解。スネークさんも気を付けて』

 「あぁ…」

 

 最後に短い返事を返して、警戒しながら先へ進む。

 警戒している兵士達の死角を突き、戦闘を避けてエレベーターで下へ降り、閉じ切れていないシャッターを無理やり上げて、奥へ奥へと入り込んでいく。

 最下層にある格納庫にようやくお目当てのママルポッドを確認したが、周囲には研究員に警備兵の姿もあって迂闊に出られない。

 しかもママルの近くにはストレンジラブ博士とコールドマンの姿まで…。

 聞き耳を立てているとまだ作業は完了しておらず、まだ結構な時間が掛かるようだ。

 どうするかと悩んでいると「皆、休憩にしよう」とストレンジラブの指示が出され、全員が部屋から出て行く。

 これは好機だと警戒しつつ近づくとママルポッドは起動した状態で置かれていた。

 

 『ジャックね』

 

 ママルポッド内部に降り立つと“ザ・ボス”の声を発してきた。

 その雰囲気と声に呑まれて、トリガーを引くどころか銃さえ構える事も出来なかった。

 ただただ無防備に立ち竦むだけ…。

 

 『どうした?体温が下がっている』

 「…気のせいだ」

 

 嘘だ。

 体温が下がるどころか呑まれて呼吸さえ乱れている。

 

 『壊しに来たの?』

 

 その言葉にさらに搔き乱される。

 心臓がドクンドクンと大きく跳ね上がり、汗が噴き出してくる。

 それを検知したママルが今度は『心拍数があがった』と言い、俺は強がってここは寒いとだけ返す。

 しかしそれに「そう」とだけ返した声色はこちらの状態を察しながらも追及はしないという意思(・・)を感じた。

 

 「ボス…ボスなのか?」

 『どうしたのジャック?』

 

 もう強がりも聞かず、感情を俺は抑えきれなくなった。

 俺は聞きたかった。

 エヴァから伝えられた真実でなく、彼女自身の想いを。

 あの最後の任務での事を。

 詳しく語り掛けたが、ママルは知らない情報だとボスの口調で首を傾げる。

 

 「そうか…そうだな。アンタはボスじゃない」

 

 ようやく銃を構える事が出来たが、やはり壊す事は出来なかった。

 否、させてはもらえなかった。

 

 「銃を捨てろBIG BOSS(ビッグボス)

 

 ママルを覆っていた外部カバーが開かれ、周囲は完全に敵兵に囲まれていた。

 近くにはコールドマン、そしてストレンジラブも居り、まんまと罠に掛かってしまった事を悟る。

 

 「ママルに研究所(ラボ)でお前が現れた時と同じ反応があった。お前が近くに居る証拠だ」

 

 ストレンジラブの言葉を聞きながら、周囲を囲んだ兵士達の前に出て来たスキンヘッドにコヨーテが描かれたコールドマンに視線を向ける。

 勝ち誇ったようににやけずらを浮かべた様子に睨み返す。

 

 「また会えて光栄だ。君は知らないだろうが十年前から知っているぞ」

 「十年前…スネークイーター作戦の関係者か?」 

 「まさしくそうだ。あの計画は私が立案したものでね。裏切者の抹殺計画(スネークイーター)

 

 バットからストレンジラブとの話を聞いていて不思議に思っていた事がある。

 どうやってコールドマンは極秘作戦が多かった筈のボスの情報を事細かに収集する事が出来たのか?南米支局長だからと言っておいそれとできる事ではない。が、あの作戦の立案者なら当時は本部(ラングレー)の制服組。情報も集めやすいわけだ。

 だが、ここで疑問が一つ。

 本部勤めの制服組が何故中米の支局長になっているのかと言う事。

 

 「真実を知る者としてこんな僻地に飛ばされてしまったがね」

 「つまり返り咲く為の【ピースウォーカー計画】か」

 「半分はそうだが、もう半分はそうでもない。新たな秩序の確立だよ」

 

 コールドマンが語ったのはヒューイより聞いていた人間に感情があるがゆえに発生する不確実性と、決して判断を誤る事のないAIの優位性。

 そして自分が放つ核こそが冷戦後最初の核であり、人類史上最後の核になると優越感交じりに語られる。

 自分の語りに酔い、優越感に浸った事で満足したのか周囲の兵士達に邪魔者の排除を命じた。

 

 「殺せ」

 「待て。その男にはまだ聞きたい事がある」

 

 それに待ったをかけたストレンジラブ博士。

 彼女の思惑は前回話した際に理解している。が、それだけは絶対に話す訳にはいかない。

 あのザ・ボスの真相だけは口が裂けてもいう訳にはいかないのだ。

 

 「諦めろ。ボスは死んだんだ!」

 

 強く叫ぶとサングラス越しでも睨み返すのが解るも、スッと落ち着きを取り戻して凭れていた壁より離れて近づいて来た。

 するとポケットから取り出した無線機を口に近づける

 

 「聞こえているか蝙蝠」

 「貴様っ!」

 

 無線機は偽装基地内のスピーカーと繋がっており、至る所からストレンジラブの声が聞こえてくる。

 今の状況が恨めしく、自分の迂闊だった行動に怒りが込み上げる。

 バットは事の真相を知っており、俺は人質にとられて脅しの材料として使われる。

 あの時有無を言わさず破壊出来ていれば…。

 悔やむと同時にバットが本当に破壊できるのか問い質してきた事を思い出し、アイツは俺が壊せない事を判っていたんだと理解する。

 

 「お前は知っている筈だ。スネークと共にあの地に居たお前なら彼女の真相を!」

 

 考え込む間にもストレンジラブは訴え続け、無線の周波数帯を口にしてバットからの連絡を待つ。

 間が空く時間が多くなるにつれてストレンジラブの焦りが見て判り、とうとう我慢できずに大声で叫ぶ。

 

 「言わねばここでスネークが死ぬことになるぞ!私にとってはどちらからか最後のデータ(彼女の死の真相)を聞ければ良いのだからな!!」

 『―――分かりました』

 「バット!!」

 『貴方には知る権利がある。スネークさんだって同じ立場だったら知りたいはずでしょう?―――ただ他の人には聞かれたくないんですが…』

 「分かった」

 

 どうにかして止めたいが、確かに気持ちが分からない訳ではない。

 自分だってボスが自身の知らない所で汚名を着させられて殺された可能性があったのならば、真実を知ろうと動くのは容易に想像できる。ゆえに感情はせめぎ合ってしまう。 

 無線機に耳を当てて表情に感情を出さずに話を聞き、最後に大きく俯いて感情の整理を行っているようだ。

 

 「もう用は済んだな。殺せ」 

 「待て。約束が…」

 「約束?私も博士も“生かして返す”とは一言も言ってない筈だが?」

 「うん、知ってた」

 

 ニヤつくコールドマンの表情が凍り付いた。

 いきなり自分でもストレンジラブでもスネークでもない事が聞こえたのだから。

 周囲の兵士も察して驚きの表情を浮かべる。

 

 「貴様!何時の間にッ!!」

 

 声の方向に振り向く前に六つの銃声が響いて六名の兵士が崩れ落ちる。

 その一人が手放したアサルトライフルを手に取って正面の敵兵を射殺。すぐさま跳び出してストレンジラブへと手を伸ばす。

 狙いは胸元に付けているIDカード。

 引っ手繰る様にIDカードを奪うとその場を駆け抜ける。

 視線をバットへと向けると六発打ち終えたSAAを仕舞い、小型軽量カービン“M653”を撃ちながら援護してくれている。

 急ぎ駆け抜けて合流を果たす。

 喋った事に対し睨んでしまうが、バットはにっこりを笑みを向ける。

 

 「お待たせ。待った?」

 「バット!お前は―――」

 「言いたい事は解かります。僕も言いたい事がありますが積もる話は後程。撤退しますよ!」

 「―――ッ…了解した」

 

 目の前にママルポットがあり、敵兵が乱れた事で隙は出来たのでそこを突くことは出来る。

 しかしながら派手に銃撃戦を開始した事で警備に当たっていた敵兵がここに詰め寄せて来るのは明白。

 任務は全うしたいがこのままでは俺達は確実に死んでしまう。

 それに敵の目的は解かっても手段の全容が把握し切れていない。

 ピースウォーカーがママルポッド無しでも行動できるのならまた話も変わるだろう。

 ゆえにここは一度体制を立て直すべく撤退する。

 苦々しい決断に二人は地上を目指して来た道を引き返していく…。 

 

 

 

 地上まで進む道中にてカズより「パスと連絡が取れなくなった…」との報告を耳にするのであった…。

 

 

 

 

 

 

 コスタリカ国連平和大学で教鞭をとっているラモン・ガルベス・メナ教授は、落ち着いた様子で珈琲を飲みながら待ち人の到着を待つ。

 借りた一室には教え子であるパス・オルテガ・アンドラーデという16歳の少女もおり、窓辺で外をぼんやりと眺めていた。

 本日は教え子を導く教育者の肩書と、本業であるKGB工作員としてここにいる。

 現在CIAが行っているコスタリカでの作戦計画は、我々にとって非常に目障りながらも有能なもの。

 ただ今のままでは毒でしかないので、色々準備をして中和させないとつかいものにならない。

 その為にこれから会う人物が必要なのだ。

 

 珈琲を味わいながら待っているとドアがノックされ声を掛けられ、「どうぞ」と返すとゆっくりと扉が開かれる。

 

 「すみません。遅くなりましたかね」

 

 扉を開けて入って来たのは黒いロングコートの間より野戦服を覗かせた二十代後半のアジア系の青年だった。

 “BIG BOSS”の称号を得たスネークの戦友であり、武器や糧食だけでなく味方まで敵勢力より現地調達する特殊な潜入工作員。

 ソ連では反逆者として裁かれる筈だった多くの兵士達を、英雄として堂々と帰還させたソ連兵士にとっての英雄。

 歴戦の勇士と言うには年齢に対して童顔なために多少疑いが混じってしまう。

 しかし情報部が調べたグラズニィグラードにサンヒエロニモ半島などでの活躍からすれば能力は一級品で疑う余地なし。

 

 「いえいえ、よくお越しくださいましたリトゥーチャムイーシ(蝙蝠)。いや、バットとお呼びした方が?」

 「そうですね。バットの方が良いですかね」

 

 軽い握手を交わしながら話して席へ促す。

 CIA工作員として参加したグロズニィグラードからサンヒエロニモ半島での事件まで姿を消し、以降は消息不明となっていただけに、今回接触できるとは思っても居なかった。

 そもそもバットに関しては情報が少なすぎるというのもある。

 家族構成や出身地などソ連の情報部をもってしても調べられず、グラズニィグラードでの活躍以前の経歴は一切知られていない。さらにその後はCIAにすら属さず単身フリーで動いているのにその頃の情報も一切出て来ない。

 まるで巨大な力により隠匿されているように…。

 

 「言伝によると助けを求められているようですが」

 「はい。どうか私達を助けて下さい!」

 

 私は祈るように、縋る様に演技をしながらバットに話す。

 コスタリカに入り込んだ武装勢力の排除。

 如何に政府が動けないか、どれほど恐ろしい奴らか、そしてコスタリカの平和が乱されている事を心情に訴えかける。

 

 …まぁ、当然ながらすんなりと信じて貰えるとは思っていない。

 相手が素人ならまだしも人心掌握を得意とするバットだ。

 詳しく理解出来て無くても疑いは持っている筈。

 それを指摘するかあえて乗って来るかでこちらの対応は変わるが問題はないだろう。

 

 金が欲しいのなら十分ではないにしろ用意は出来る。

 名声が欲しいのならばこの作戦を成功させた暁にはコスタリカを救った英雄として、現地でも我々の間でも歴史に刻まれる。

 地位が欲しいのならこちらで用意してやることは出来る。なにせソ連兵にとっての英雄だ。上の連中も引き抜く事も視野に入れて喜んで用意するだろうな。

 

 「所でそちらは?」

 「あぁ、彼女ですか」

 

 相槌を打ちながら話を聞いていたバットはパスに視線を向けて問いかけた事で、まだパスの事を紹介してなかったことを思い出して話し始める。

 彼女は私生児(バスタード)で家族であった母親を幼くして亡くし、内戦で祖父母も亡くしまって身寄りがない。

 そんな彼女は行方不明の友人を探しに赴き、武装勢力に捕まって乱暴された…。

 

 パスの経緯を語っているとバットは俯いて震え出した。

 どうしたのだと伺っていると顔を上げたバットは涙を流して悲しんでいた。

 

 「まだ16歳の女の子に…」

 

 ガン泣きしている様子に面食らってしまった。

 彼は本気で悲しみ、パスを想って泣いている。

 

 バットは立ち上がってパスに歩み寄ると優し気に頭を撫でた。

 

 「(つら)かっただろうね。僕が何とかしてあげるから。絶対に」

 

 ひと撫でしながら優しく語り掛けたバットは、真剣な顔つきで入り口へと向かい始めた。

 私は本気で慌ててしまった。

 

 「ど、何処へ行くのです!?」

 「コスタリカ!!」

 「ちょっと待って下さい!!」

 

 上ずった声を気にせずに大慌てで駆けよって引き留める。

 

 「まだ話は終わってませんよ。報酬の話だって…」

 「好きな額で良いよ。一刻も早く行ってぶっ飛ばしてやる」

 「どうやって向かう気ですか?」

 「船でも徒歩でもなんとかなるでしょ」

 

 勢いと怒りのまま行こうとするバットを必死に引き留め、通信機を渡して前金代わりに“スネークが参加する事”という条件を呑むと彼はこちらが用意した移動手段を使って行ってしまった…。

 

 「引き受けてくれましたね」

 「あ、あぁ…予定とは違ったが…」

 「妙に不安が残るのはどうしてでしょうか?」

 「気のせい…ではないですよねぇ」

 

 どうしてだろうか…。

 実績から非常に頼りになる人物である筈なのに、微妙に頭痛が起こるほど不安が残るのは…。

 

 ため息を吐き出した辺りで妙な浮遊感を感じて、ガルベスは身体を起こす。

 なんだなんだと周囲を見渡すと先ほどの一室でなく、移動中の車内の中であり、今の自身が何をしていたのかを正しく理解した。

 

 「どうかされましたか?」

 「…いや、少し夢を見てしまったようだ」

 「夢、ですか」

 

 近くで待機していた兵士の問いに答えるとシートより身体を起こして伸びをするガルベスは、蝙蝠と出会った時の事を夢で見ていた事に笑みを浮かべる。

 本当にあの時はどうしようもない不安に襲われたが、結果は最良と言っても良いだろう。

 最高の状態で収穫できそうで胸躍るよ。

 

 「目的地まであと一時間もあれば到着いたします。それとお耳に入れたい事が」

 「なんだ?」

 

 兵士が語ったのはCIAの手によりパスが攫われたという事。

 教え子が攫われたのなら教授として慌てるのだろうが、今は教育者ではなく工作員としての仕事を優先するとしよう。

 

 「なに、行先は同じだ。焦る事もあるまい」

 

 クツクツと嗤いながら部下を引き攣れ、ガルベスは戦場に足を踏み入れるのである。

 

 

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:歴史を先取りし過ぎた開発物

 

 スネークは技術開発班の報告を受けるべくマザーベースに帰還していた。

 最前線ばかり出向いているスネークは実戦部隊として戦うだけではなく、マザーベースの司令官としての職務も熟さなければならない。

 カズによれば開発班が色々と開発したと言う事で返って来たのだが、ヘリが降りる前から着陸場にカズが居るのは見えていたのだけど、近付くにあたって輝かんばかりに笑みを浮かべた表情が見えて来た。

 どうしたんだと疑問符を浮かべながら着陸したヘリより降りると風圧などものともしないような勢いで駆けよって来た。

 

 「待ち侘びたぞボス!」

 「どうした。そんな気色悪い笑みを浮かべて…」

 「そんなに笑っていたか?いや、それは良いんだ。ぜひボスに見てほしいものがあるんだ!」

 「分かった分かった。行くから手を引っ張るな」

 

 興奮気味に連れて行こうとするカズにさらに疑問と違和感を抱きながら、引っ張られるままに研究開発班へと辿り着く。

 するとそこにはヒューイにグラーニン、ソコロフだけでなくエプロン姿のバットやアマンダやセシール、チコにパイソン、エルザまで集まって何やら騒いでいるのだ。

 

 「なんだこの騒ぎは?」

 「あぁ、研究成果の事で打ち上げさ」

 「打ち上げ?バットやアマンダもか?」

 「バットは糧食班に協力してね。アマンダ達は味見(・・)でかな」

 「開発したというのは食べ物系か。バットが関わっているならさぞかし美味しいんだろう」

 「ま、まぁ、盛り付けは俺の方が上手かったけどな」

 「で、今度は何を開発したんだ。ちょっとやそっとでは驚かんぞ」

 

 負けじと言い出したカズを無視して話を進める。

 研究開発班は優秀過ぎる科学者が所属している事もあって非常に高い技術レベルを持っており、フルトン回収用カールグフタスM2を始めとして、銃器に地雷、さらには支援砲撃マーカーと支援補給マーカーなんてものも開発している。

 特に気に入っているのは支援補給マーカーで、設置型、投擲型、射出型と三種類あり、場所をマザーベースに知らせると武器弾薬が戦場でも届けられるという優れもの。

 しかも段ボールに入れてだ!

 自分で被り、敵を欺き、ステルス性に富んだ潜入工作員にとって必需品の段ボールに物を詰めて送るなど思いつきもしなかった。さすがうちの優秀な研究開発班だ。

 ※段ボールの正式な使い方です。

 

 余裕を見せるスネークに対してカズは満面の笑みを浮かべる。

 

 「戦場でカレーが食えるようになると言ってもか?」

 「なんだと?馬鹿な…戦場でカレーを作っている余裕など」

 「それがこいつは三分あればできるんだな」

 「三分?そいつは凄いな」

 

 そう言ってカズは箱に収められていたパックを取り出し、カセットコンロで湯を沸かしていた鍋に浸けた。

 カレーの名前は“ボ●カレー”と言うらしい。

 “ボ●”というのは“美味しい”とか“良い”というフランス語だとセシールが教えてくれたが、名付け親はカズらしい。どうせまたパリジェンヌがどうたら言うんだろうと問いかけるとそっぽを向いて「憧れが……悪いか」とだけぼそりと呟いた。

 そっとしておくかと視線を逸らすとチコが読んでいる雑誌が気になり首を傾げる。

 

 「チコ、その読んでいる雑誌はなんだ?」

 「これ?最近ソコロフ博士とかが開発したんだよ」

 「雑誌を開発!?それはまた…」

 「い、いや、私は印刷できるようにしただけだ」

 「凄いわよ。色んな種類があるから読んでみたら。時間も掛かるだろうし」

 

 確かに時間を潰すのに良いだろうなと、アマンダが進められるがままに置かれた雑誌類を見渡し、種類の豊富さに驚く。

 料理本に週刊少年マ●ジン、電撃ゲー●ズ、電撃Play●tation、週刊ファ●通。

 本当に種類が豊富過ぎて何を読むか迷うな。

 カズが「電撃ゲー●ズの表紙が良いんだよ」と熱く押して来たがスルーして、何故かパスが表紙を飾っている電撃Play●tationを手に取った。

 

 「あ、そうだ。これ渡しておくわね」

 「なんだコレ?」

 

 エルザより渡されたのは黒いスプレー缶だった。

 虫よけか何かかと思っているとカズやグラーニンがポケットより取り出して自らに吹きかけ始めた。

 

 「A●E フレグランス ボディスプレーよ。良い香りがするから試してみてね」

 「いや、俺は別に…」

 「男もこういった事に気を使わねばな」

 「そうだぞスネーク。手軽で本格的な香りを楽しめる。男もお洒落でないとな」

 「ならバットはどうなんだ?」

 「僕にはこれがありますから」

 

 バットが懐のケースより取り出したのは煙草であった。

 ただし中身は違う。

 中には珈琲と紅茶でブレンドされた物が入っており、ニコチンなどは含まれていない。

 要は香り付けの煙草モドキ。

 中身が中身なだけにチコやパスが使用しても問題なく、チコなどは格好つけの為に吸っていたりする。

 今でこそ皆が周知しているが、始めは煙草を吸わせたとしてアマンダやエルザにバットが怒られていたのを思い出す。

 

 そうこうしていたらカレーが出来上がり、それぞれ好きな種類を手に取る。

 レトルトカレーを開発しただけでも凄いのにバリエーションまで用意したのは流石だ。

 “ボ●カレー あまくち”に“ボ●カレー ゴールド21 コクと旨味の中辛タイプ”、“ボ●カレーネオ 中辛”。

 悩みながらも一つを開封して、一口含むと野菜の甘味たっぷりのカレーの味わいが広がる。

 

 「美味い!」

 「だろ?パイソンもそればっかでなくこいつを食ってみろよ」

 「…俺はこれで良い」

 

 カレーに舌鼓を打っていると少し離れたところでチップスらしきものを食べていた。

 袋には“ド●トス”を書かれており、こんがりとした小麦色のスナック菓子が描かれている。

 

 「美味いのか?」

 「あぁ、美味いだけでなく辛みもあってな、この柑橘系の爽やかな炭酸飲料とも合うんだ」

 

 ドリ●スを一つ齧ると“マウン●ンデュー”の缶を口につける。

 炭酸飲料と言うのにごくごくと飲んでいる様子からかなり飲みやすいのだろう。

 缶であると言う事は作戦行動でも持ち込み可能。

 戦場での楽しみが増えると言う訳だ。

 

 「確かにマウンテ●デューも美味い。が、俺はこれを一押ししよう!」

 

 自信満々に取り出したのは“ペ●シNEX”と書かれた缶だった。

 口に付けるとグビグビと飲み、一息つくとプハァと豪快に息を吐き出す。

 

 「このキレにコク、炭酸の程よい強さに癖になる甘さ。それでいてゼロカロリー!!一度飲んだら病みつきで手放せなくなる」

 「ゼロカロリーでも飲み過ぎは注意ですよ」

 「分かってる分かってる」

 「儂も人の事は言えぬがいつも持ち歩いて無かったか?」

 「ソ、ソンナコトナイダロウ…」

 

 急に雲行きが怪しくなった。

 言葉が片言と言うか感情が無いと言うか…。

 ジト目で睨むと目を逸らす。

 怪しいと思っていると空気を読んでなかったヒューイが一言。

 

 「スネークやバットが作戦行動中の時だってドリ●ス片手に飲んでたじゃないか」

 

 にこやかに「何言ってるんだよ?」と言うヒューイだったが、カズからしたら「何喋ってくれちゃってんの!?」という話だ。

 青ざめて立ち上がるカズは「さ、さて…仕事に戻るかな」と部屋から出ようとする。

 が、肩をポンと叩いて声をかける。

 

 「―――カズ。少し話がある」

 「待ってくれボス。これには訳があってだな。話せば解って―――」

 「行くぞ」

 「…はい」

 

 スネークは圧をかけながらカズを連れて出て行く。

 その際、カズは手にしていた缶を手放す事は無かったのであった…。

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