任務は終了した。
米軍ミサイル基地にてCIA南米支局長ホット・コールドマンと、俺達を操りKGBに都合の良いように事を運ぼうとしていたガルベス教授を拘束し、マザーベースに帰還するヘリに乗せた。
全てが終わって大団円…なんて都合の良い話は実際には少なく、これだけの事を仕出かしただけに後始末が山積みだ。
バットが説得して引き入れたコールドマンの部下に、ガルベスが基地制圧に連れ込んだソ連兵など来た時よりも人が増えたために移動手段が足りておらず、さらに米軍の基地で騒ぎを起こしただけに時間が経てば別の基地より偵察部隊が訪れる可能性があるので時間も限られる。
さすがに時間単位で駆け付ける事は無いだろうが、やる事が多いだけに作業は大急ぎで行わなければならない。
コールドマンに至っては負傷して出血が酷い。
バットならば瞬時に治療できるのだが「パスちゃんに酷い事した奴を治す気はない」と拒否。
説得しようとしても逆に説得されかねないので諦めてマザーベースに運ぶことに。
ヘリの中には手錠をかけたガルベスにパス、応急処置を済ませたコールドマン。そして操縦士に隣に腰かける俺―――カズの五名が居り、スネークは
ストレンジラブ博士はその道案内で、バットは見届け人として基地に残った。
俺は基地に返って後処理の為に指示を出さねばならず、残る事は叶わなかった。
否、叶ったとしても俺が立ち入る場所ではないだろうな。
「パス、慣れない銃は降ろしておけ。撃つ覚悟もなく構えるだけでは抑止力にはなり得ない。それは俺達の役目だろう?」
後の席でガルベスから握らされたマカロフを振るえる手で握り、ガルベスに向けるパスに告げるとゆっくりと頷いて銃を降ろした。
奴がした事を想えば許せるものではないだろう。
だが、彼女は撃てやしないし、
パスは「ありがと…」と涙を流しつつ笑みを浮かべ、ピースサインを向けて来た。
カチ…カチ…カツ…。
時計の秒針にしてはリズムがズレた音が微かに聞こえた。
何の音だと首を傾げる前に「ピー」という高めの音が流れ始め、嫌な予感がして変な汗が流れる。
後を振り返ると最後尾で横たわっているコールドマンが力なく笑い、スーツケースに手を伸ばしていた。
あのスーツケースは荷物を入れる物ではなく、ピースウォーカーへの偽装情報を送信する端末だったはずだ。
そう気付いた俺は席より立ち上がって詰め寄っていた。
「何をした…何をしたんだ!!」
怒り任せに怒鳴るが弱っているコールドマンはすぐには語らない。
いや、ガルベスが興奮気味に喜んでいる様子から仕出かした事は理解している。
こいつは…コールドマンは最期の最期にピースウォーカーの報復―――核のスイッチを押したのだ。
苦々しくゆっくりと語り出すコールドマンの言葉に耳を傾ける。
起動したピースウォーカーは偽装データを元に報復目標を算出。今回の場合はガルベスがストレンジラブに変更させられたキューバに発射されることになる。
しかも迎撃阻止の為か北アメリカ航空宇宙防衛司令部へ偽装データが送信され、複数の核ミサイルが向かってくるという史上最悪な状況のデータがレーダーに表示され、それは本物と見分けがつかない。
発信されるデータを止めようにもすでに対策が施されて阻止できず、受け取った米国は報復に核攻撃に出るだろう。
「慌てる事は無い。暫し悪夢を見るだけだ…どうせ人には核は撃てない…破壊者として歴史に負の記録をされたくは無いからな」
咳き込みながら言い切ったコールドマンは不敵な笑みを浮かべ、Vサインを高らかに上げ「勝利のVサイン」と呟いて、計測されていた心音は途絶えて心肺停止を知らせる警報が鳴り響いた…。
スネークはストレンジラブが運転するトラックの助手席に座って、ピースウォーカーが待機している水辺近くの倉庫へと向かっていた。
これはピースウォーカーを国境なき軍隊で利用する為に回収する為ではない。
機械とは言え蘇らされた彼女の亡霊を埋葬する―――違うな。正直にザ・ボスと向き合う為だ。
ザ・ボスの最期の意思を知りたかったストレンジラブ。
彼女の研究がこの一件に大きく関わった事は確かだが、ザ・ボスと親しい間柄だったからこそ最後の意思を知りたいというのは納得も理解も出来るがゆえに責められる立場にない。
会話の無い車内は静かで車のエンジン音だけが響く。
荷台にはバットが座り込み、俺と彼女の決着を見届けてくれるとの事。
そんなバットは荷台より身を乗り出してピースウォーカーを見つめていた。
グラーニンが発想した核搭載二足歩行戦車を元にヒューイとストレンジラブの技術が合わさって産み落とされたメタルギア。
前に熱く語り合ったほどロボットを好いているバットにとって実物を目の当たりにして興奮するのは道理だろう。
…ただ、取り付けられたママル・ポッドに光が灯るまでは…。
「博士。ピースウォーカーが起動しているっぽいんですけど」
「なに?そんなはずは…」
『大変だスネーク!。コールドマンが核発射スイッチを押しやがった!!』
おかしいと気付いて声を挙げた時にカズより無線が入った。
なんでも輸送中のヘリ内部でコールドマンが核発射のコードを入力し、このままでは核がキューバに撃ち込まれてしまう。
停止コードを知っているのはコールドマンのみで、その本人は撃ち終えた後に息絶えたために停止は不可能。それは停止コードを知らされていないストレンジラブ博士も同様で術がない。
悪い情報は続き、ピースウォーカーより米軍に核発射の偽装データが送信され、米国首脳部はレーダー上は判別がつかないために核報復に出る可能性があるとの事。
現在大統領はウラジオストクで会談中で、副大統領は空席。報復を行う最高決定権は誰に移るのか分からないが、その人物が核を撃たない事を祈るばかり。
どちらにしても少しでも情報が欲しい所だ。
ストレンジラブ博士曰くママル・ポッドは北アメリカ航空宇宙防衛司令部と繋がっているので、機材さえあればモニターして向こうの状況を知る事が出来るとの事で、早速ヒューイが博士が機材を使ってモニターを開始した。
すでに偽装データは本物のデータとして認識され、即座に集めれる米国首脳陣による緊急会議が招集された。
「止める方法は?」
「核と偽装データ…どちらもピースウォーカー…となれば!」
「壊すしかない!」
核発射の報告を聞いて速度を上げていただけに停車時には急停止となり、トラックはタイヤを大きく滑らせて停止し、バットとスネークは跳び降りた。
ピースウォーカーは四本の脚部で踏ん張りを利かせ、核発射の為に発射装置を空へと向けている。
『核発射シークエンス開始。発射角度設定完了。ミサイルハッチオープン―――発射一分前』
「発射態勢に入った!ピースウォーカーの裁断が下った!」
『核を撃たせるな!!』
降り立った二人は荷台に置いてあった武装を手に取って、すかさずピースウォーカーに放つ。
バットの小型軽量カービンM653とスネークのアサルトライフルM16A1では多少のダメージは与えられても、行動不能にするほどのダメージは負わす事は出来ない。
だけどとりあえずはそれで良い。
攻撃を受けたことでピースウォーカーは注意を割く。
『自己防衛システム作動。ロケットランチャー発射』
意識が向けられても核発射体勢を解いたわけではない。
だから彼らは証明する。
片手間で倒せるような存在ではないと言う事を。
発射口よりミサイルランチャーが飛び出るとロックオンから逃れるように動き回り、ロケットランチャーLAWと携帯対地空ミサイルFIM-43の弾頭を直撃させる。
背後で着弾したロケットが爆発して薄っすらと爆風と爆音が背中に繋がるも振り向く事もせず、ただただ撃ち続けてピースウォーカーに攻撃し続ける。
一発では足りずとも何発も叩き込まれればピースウォーカーも無視できる存在ではなくなる。
『自己防衛モードニ移行』
発射体勢を解除してゆっくりと振り向き、ピースウォーカーはスネークとバットと対峙する。
無視出来ない敵として認めたのだ。
『さぁ、来い!!』
ピースウォーカーは彼女の声で叫び、『跳躍体勢』と告げると巨体に似合わぬ身軽で高々と飛躍し、大きな音と揺れを起こして近くへと着地する。
眼前に迫ったピースウォーカーに呆気に取られる時間は与えられない。
下部に取り付けられた銃口が向けられる。
『火炎放射開始』
「あっつ!?」
バットに向けられて放たれた火炎は肌を撫でるも咄嗟に飛び退いた事で身を焼き尽くす事は無かった。
逆に狙われなかったスネークは火炎放射器をロックオンしてトリガーを引いた。
放たれた弾頭は放射器に直撃し、爆発炎上して周囲に火炎をばら撒く。
ついでにと言わんばかりに頭部らしき円形状の部位をロックオンするも、ピースウォーカーも易々と敗北する気はないらしい。
『電磁パルス最大』
放った弾頭は頭部より放たれた電磁パルスによって目標を見失い、頭部の周りをぐるぐると回ってスネークの下へと戻って来た。ロックオンを乱すのは理解できても、相手に向けて返すなど露とも想像していなかっただけに大慌ての回避となり、スネークは爆風も相まって転げまわされる。
「ロックオンは乱されるか…ならこれはどうだ!」
電磁パルスの影響を受けないロケットランチャーによりピースウォーカーは横合いより殴りつけられたかのように傾く。
怯んだ今こそ好機だと素早く一発ごとに捨て、次のLAWを構えては頭部または首元のAIポッドへと直撃させる。
ダメージが蓄積しつつあるピースウォーカーは直接的な攻撃手段に打って出た。
前脚を持ち上げて振り下ろす。
バットやスネークを単純に踏み潰そうとしたのだ。
一撃で潰されるのは見て判る為に必死に走って避ける。
『ドリルミサイル発射』
距離を取った事でロケットランチャーを放った発射口より先にドリルが付いたミサイルがボテっと落とされるように地面に突き刺さった。
それらは地面を掘削して潜っていき、地中を進んで近づいてくる。
振動にて察した二人は地表に出ようと上がって来たところで跳び避ける。
ドリルを地中より覗かせたドリルミサイルは自爆し、近くに爆炎と破片を撒き散らす。
『脚部駆動モーターチャージ』
体制を立て直せない二人に立て続けに襲い掛かる。
モーターをチャージしたピースウォーカーは四脚を素早く動かして、先ほどまでとは比べ物にならない軽快な走りで突っ込んで来た。
スネークは倉庫を陰に跳び込んで回避し、バットは瞬間的にゆっくりと時間を体感できるCQCモードを起動して突っ込んで来たピースウォーカーの足元をすり抜ける。
通過した事を察すると脚を踏ん張らせて減速し、滑るまま振り返って再び発射口を開く。
『ドリルミサイ―――』
「二度も喰らってたまるもんですか!!」
発射口に向けてバットはM653を撃つ。
本当はLAWを撃ち込みたいところだが、撃ち尽くしたために手元にない。
そんなバットの代わりにスネークは携帯型無反動砲カールグスタフM2を撃ち込んで、発射口に直撃させて発射前のドリルミサイルが誘爆して大爆発を起こした。
火炎放射器を失い、ドリルミサイルの誘爆でロケットランチャーも発射不可。
攻撃手段を失いつつあるピースウォーカーは残っていた兵装を使用する。
『Sマイン発射』
射出されたSマインが高度を維持し、真下へと内部にため込んだ鉄片を爆発と同時に降り注ごうとしていた。
が、バットはそれが何なのか解らずもとりあえずSAAを用いた早撃ちにて、浮遊していたSマインを全て撃ち抜き、バットやスネークの真上に辿り着く前のSマインは爆発してピースウォーカーにダメージを与えた。
度重なるダメージによりピースウォーカーは倒れ込み、その動きは制止した…。
スネークは期待を込めて無線をかける。
「ヒューイ。偽装データは!?」
『まだ送信している。ピースウォーカーは駆動系にダメージを負っただけなんだ』
「どうやったら止められるんですか!」
『ピースウォーカーは完全自立型のシステムだ。ママルさえ壊せれば―――けど頭脳であるママルポッドの内装の強度はシェルター並みの設計を施されている』
「なんだったら破壊できる!」
『…か、核攻撃なら…』
「ふざけるな!!」
「ペンタゴンに繋げ!俺が話をつける!!」
すでにピースウォーカーの核攻撃シークエンスは停止している上に、駆動系が損傷しているために発射核を保つ事すら出来ない状態にある。つまり核は撃てず、架空の核発射データで直接の被害は存在しない。
物理的に破壊・停止が不可能であるならば核を本当に撃つ可能性のある彼らを止めるしかない。
モニターしていた米国上層部はコールドマンの予想は外れ、報復行動を行う気であった。
最悪の状況の中でスネークにとって幸運な事があった。
それはヒューイによって繋げられた先で通信に出たのが、ちゃんと話を聞く人間であった事と“BIG BOSS”を知る人物であった事。
例え本名を告げたとしても信用して貰えるかと問われれば“NO”と答える。
偽装データは南米支局長が誤って流した実験データだと報告しても、スネークはコールドマンの名を知るだけでは証明する事は出来なかった。
“BIG BOSS”の称号を知ると言う事は称号をジョンソン大統領から得た式典の一室に居た人間に限られ、あの部屋での表彰は極秘事項となっている。
俺はCIA長官より握手を求められたが、なにに忠を尽くすべきか分かったからこそ俺は断った。
相手はやはりその一室に居た者であり、スネークから告げられたその時の出来事と想いの籠った言葉により本人だと解ってくれたようだ。
スネークが本物だと分かると即座に報復の中止を命じ、米国からソ連に対しての核攻撃の危機は去ったのであった――――この僅かな瞬間だけ…。
たった一人が納得して理解したところで、その他の者は納得も理解も出来はしなかったのだ。
偽装データを事実だと信じ、真実を戯言として葬った彼らは唯一味方してくれた人物を拘束し、無駄死には嫌だと核による報復行動をすると宣言した…してしまったのだ…。
打つ手がない…。
説得までも失敗してしまい諦めにも似た感情が脳裏を過る。
どうするかと必死に考え込む二人の頭上を一発の砲弾が通過し、ピースウォーカーへと直撃した。
何事と振り返ればダンボール戦車を中心に部隊を展開している国境なき軍隊の兵士達が隊列を組んでいた。
「銃身が焼け付いても構わん!撃って撃って撃ちまくれ!!」
「ここが踏ん張りどころよ!弾薬が尽きても構わない!核を止めるよ!!
パイソンの叫びに駆け付けたエルザ達歩兵部隊も銃撃を開始し、遅れてアマンダ達サンディニスタが到着した。
さらにガルベスのソ連兵、コールドマンに雇われていた兵士達が駆け付け、数刻前まで敵対関係だった者達が一丸となってピースウォーカーに対して攻撃を開始したのだ。
アレさえ破壊できれば止まると信じて最後の足掻きを見せる。
砲撃からグレネード、重機関銃から軽機関銃までありとあらゆる弾丸が四方八方よりピースウォーカーに放たれ、すでに弱り切っていたとは言え抵抗も出来ずピースウォーカーは各部で異常が発生して小さな爆発が起こっては怯むように巨躯を大きく揺らす。
「―――ッ、スネークさん!ママル内部で記憶盤を引っこ抜くのはどうでしょう」
「考えるのは後だな。やれることをやるしかない!」
バットの提案を検討する暇すら勿体ないと思い、スネークはピースウォーカーを駆け上がっていく。
無論銃弾飛び交うのでバットが道を作る為に通り道になるであろう個所への攻撃中止命令を出して周る。
おかげで頬を掠る程度の怪我だけで辿り着く。
するとスネークに反応してハッチが開かれ、招かれるままにママルポッド内へと跳び込む。
入り込むと一心不乱に記憶盤を抜き取る。
内部ではBGMのようにザ・ボスの言葉が流れ続け、抜き取った量が増えるごとにその声は小さく掠れて行った。
全部の記憶盤を抜き取り、ママルは偽装データの送信は出来なく―――なるどころかママルを迂回してデータの送信は行われ続けた。
大脳が損傷しても他の部位が補って生命活動が続く事がある。
機械でありながら生物を模したピースウォーカーでもそれと同じことが起きてしまったのだ。
ピースウォーカー外部では至る所が爆発と弾丸の直撃で黒ずみ、関節部の隙間より火花を散らし始め、もはや支える事すら難しくなったのか脚は大きく伸び切って地面に突っ伏した。
全勢力が一つとなって戦う様に高揚感を抱くも、ピースウォーカーに勝利した事に喜ぶ間は無い。
偽装データの送信だけは止まっておらず、掠れる機械音声にて偽りの着弾までのカウントダウンは継続中。
「ヒャクキュウジュウビョウ……ヒャクハチジュウゴビョウ……ヒャクハチジュウビョウ…」
残酷にも告げられるカウントに誰もが駄目なのかと肩を落とす。
『圧力が加えられれば…』
零すように呟かれたヒューイの一言が無線機を通してバットに届いた。
「圧力って…それこそどうやって?」
『湖に落す事が出来れば僅かな隙間からでも浸水し、精密機器の塊であるAIポッドはショートしてデータ送信は止まる』
『落とすって言ってもあんなデカブツをか!?何トンあると思っているんだ!』
『およそ五百トン…』
『出来るわけがない!!』
焦りから口論のようにカズが怒鳴り声を上げるが、バットは突っ込む間も惜しんでピースウォーカーに駆け寄って押し始めた。
たった一人の人間が五百トンもの巨体を押したところで動くはずはない。
「無理だ!いくら何でも…」
「だからって黙って見ている訳にもいかないでしょう!!」
常識的に考えてバットの行為を否定したストレンジラブだったが、バットの放った一言は彼のスキルによって兵士達の心にスンと入った。
一人…また一人と駆けだしてピースウォーカーを押し始める。
世界の為に、祖国の為に、仲間の為に。
それぞれがそれぞれの想いの下、必死に世界の危機を防ごうとピースウォーカーを押し始める。
例え無意味な行為であろうともしない訳にはいかないと同意したのだ。
アマンダもチコもエルザもパイソンも力を合わせて押し始める。
その場の全員の力でもピースウォーカーはビクともしない。
ママルポッドに対して祈るように、縋るようにボスの名を呼び続けるスネーク。
―――彼女はそれらに呼応するかのように意識を覚ました。
カウントダウンが掠れて小さくなり、代わりに歌が…歌声が響き渡る。
透き通るように綺麗で優しい声色。
聞いているだけでほんわりと心温める。
誰も彼もが手を止めて聴き入ってしまう。
場違いなほど美しい歌声を謳いながら軋みをあげる脚部で引き摺るように動き、湖へとその巨体を進ませていく。
「…ボス」
「ゴースト…イン・ザ・マシン…」
常識的に考えればあり得ない光景だろう。
まるで自らを沈める事で偽装データを止めようとする自己犠牲。
大きな波を立てながら身体を湖に沈め、より深く沈める為に歩み続ける。
論理的観点は破棄され、兵士達の感情にその光景は訴えかけ、ある真実をこの場にて晒してしまった。
世界最悪の狂人で犯罪者として語り継がれているザ・ボスの潔白。
誰もが躊躇うであろう強く儚い覚悟と決断。
ピースウォーカー…ママルポッド……否!ザ・ボスは唄う。
自らを沈めるが為に歩み、その背でスネークとストレンジラブに最期の意思を伝え、湖の中へと消えていく…。
偽装データの送信は止まり、レーダーには平和を現すようにモルフォ蝶のマークが舞い踊る。
世界はまたも彼女の行動によって核の危機より救われたのだ。
集まっていた兵士達は彼女に対して涙を流し、心の底から敬礼を行って見送る。
スネーク一人を除いて…。
ママルポッドによって蘇ったザ・ボスの最期の意思を見届けたスネーク。
その心情を漂う感情は彼女による裏切りで溢れていた。
彼女は最期に銃を棄てた。
生命を差し出す事で軍人としての全てを放棄した…。
培ってきたそれまでの人生を、仲間を、俺を、全て否定したのだ。
スネークは強く決心する。
俺は彼女とは違う選択を行うと。
彼女とは異なった未来を掴むと。
沈み切った彼女に対して背を向け、スネークは…“BIG BOSS”は自らの居場所に帰って行く。
●ちょっとした一コマ:儂は撃墜されないヘリを欲する
世界が全面核戦争の危機から脱した数日後。
マザーベースは任務時以上に忙しく皆が仕事を熟していた。
バットのおかげで新たに国境なき軍隊に加入しようとするソ連兵・米兵はかなりの数で、さすがに収容しきれないのでこれから忙しくなるサンディニスタやニコライの民間軍事会社などに振り分けられる事になっている。
が、それでもかなりの人数が国境なき軍隊に入るので部署分けに新たな部隊の編制、武装の生産など仕事は山積みだ。
加入したのは何も兵士だけではなく、ママルポッドを研究開発したストレンジラブ博士にガルベス教授の支援を受けて学校に通っていたパス。
彼女達もマザーベースに身を寄せている。
ストレンジラブ博士は仕事を無くしている事もあるが今回の件で祖国に戻るとなにかと問題が発生すると言うのがあり、AIを搭載したメタルギア“ジーク”を開発している国境なき軍隊としては博士自ら申し出てくれたことは有難い事だった。
パスは常に戦いの中に身を置くここに居ては悪影響があるのではと懸念の声も上がったが、帰っても居場所もなく支援が亡くなって学校にも通えない身となればしばらくは置いておくしかない。
幸い料理が得意と言う事なので糧食班に配置して、料理の手伝いなどを行って貰って給金を出している。
今後どうするかは分からないもとりあえず幾らかのお金があればここを出ても当分は何とかなるだろう。
…加入ではないがマザーベースの独房にはガルベスが居るが、彼は素直にそれを受け入れているのか独房内での生活を反抗することなく過ごしている。
兎も角猫の手も借りたいマザーベース内にて研究開発班は無理難題を突き付けられて困り果てていた。
「何も難しい事は言ってないだろう。ロケットランチャーを物ともしない儂の戦闘ヘリを作ってくれと言っているだけだろう」
「いや、それが難しいって理解してほしいのだが…」
突然来るなり無茶ぶりをしてきたのはスコウロンスキー大佐であった。
彼は偽装基地にて突如現れたピースウォーカーに立ち向かうも、ロケットランチャーを叩き込まれてあえなく撃墜。
地面に激突する直前にエルザのサイコキネシスによって救い出された為に負傷こそしなかったものの、自身の機体を失ったばかりか最後のピースウォーカー戦どころか米軍基地への攻撃に参加する事さえ出来なかったことを悔やんでいるのだ。
もし次があるならばこのような事は繰り返さないと対策を打ち出している―――と、言うのは科学者である彼ら・彼女も理解しているが、飛行する為に軽量化も行わなければならない戦闘ヘリに、ロケットランチャーを物ともしない装甲を取り付けて飛べるのかと考えてしまう。飛べたとしてもその装甲分重くなって長所たる速度が殺される可能性が非常に高い。
「逆に考えたらどうだ」
「逆?逆ってなにを…」
「“当たっても”ではなく“当たらない”にすればいいのではないか?」
酒をがぶがぶと飲みながら放ったグラーニンの言葉に全員が思考を変える。
回避性能を向上させて攻撃から回避するのであればロケットエンジンを積み込むのも有りかとソコロフに視線を向け、機動能力をあげるのであればアクロバティックになるがロケットエンジンの方向を変更するシステムが必要と凡その形を脳内で組み立てる。
実際にロケットランチャーを回避し得たクリサリスを創り出したヒューイも居るのだ。
出来ない事は無い。
ただ回避する事の出来ない問題が一つだけあった。
「すまないが大佐が死なないかそれ…」
「死ぬな。というかミンチだろう」
ロケットエンジンと急な方向転換によって生まれる負荷に高齢の大佐が耐えきれるとは思えない。
高齢でなくとも鍛えられたパイロットでさえ死に絶える負荷がかかるのが目に見えている。
「AIを積むというのはどうだ?」
すかさずストレンジラブが発言するが、即座にスコウロンスキー大佐が反論する。
「馬鹿ものか小娘!儂が乗らねば意味がないだろうが!!」
「フン、お前が乗ると私のAIを乗せたものより性能が落ちるのは明白だろう。なら性能を落とす要因は払拭すべきだ」
小娘呼びにも怒声にも反応することなく、淡々と告げるストレンジラブ。
確かに性能はストレンジラブが言う方が良いのは解かるが、それでは論点がズレてしまう。
そもそもこのような要望に長時間とられる訳にはいかない。
ソコロフとグラーニンはバットのメタルギア、ヒューイとストレンジラブはメタルギア“ジーク”の制作と言う大仕事を受け持っているのだ。
さらに言えば
とりあえず要望を叶えるヘリの設計は先延ばしにし、国境なき軍隊が保有している戦闘ヘリの一機に赤外線誘導を逸らす“フレア”を開発し、電磁パルスと小型のロケットエンジンを装備させることで決着を見せた。
勿論機体には電磁パルス対策に多少の装甲強化は行った。