スネーク達の仕事は大方蹴りが付いた。
事件の発端であったホット・コールドマンの死去。
裏で暗躍していたコスタリカ国連平和大学ラモン・ガルベス・メナ教授…否、KGB工作員ヴラジーミル・アレクサンドロヴィチ・ザドルノフの捕縛。
三種類のAI兵器の破壊に核搭載二足歩行戦車メタルギア“ピースウォーカー”は自ら湖の底へと沈み、世界を核戦争に誘いかけた核弾頭は回収した。
協力してくれたサンディニスタ民族解放戦線はコスタリカからニカラグアに拠点を移し、革命を成功させようと躍起になっている。
ヒューイやストレンジラブは国境なき軍隊で働くことになり、身内も帰る場所もないパスはガルベス教授の支援を受ける事が無いので学校にも通えなくなったのでとりあえずマザーベースに置く事に。
帰る場所もあるセシールはもう少し居たいとの要望でまだ残っている。
アクシデントは多々あったが、任務は無事に達成した―――とは言い難い…。
コールドマンを失ったコスタリカに居た武装勢力は活動を続け、未だに武器や兵器を持ってその場に居続けている。
今後はそれらへの対策や国境なき軍隊の今後に向けて動かねばならない。
そんな一コマの話である。
●歩く銃器…。
研究開発班に所属しているストレンジラブ博士とヒューイ博士は研究の息抜きがてらマザーベースを散歩し、ついでに用事を済ませようとバットに貸し出された一室に向かっていた。
人間嫌いでもあるストレンジラブが出歩くと言うのは非常に珍しく、ヒューイに誘われることが無ければ出る事も無かっただろう。
正確にはもじもじと卑屈に誘ってくるヒューイに苛立ち、断ってもねちねちと態度や表情に出して鬱陶しいので出てきたが正しい。
「君が人に会うなんて…珍しい事もあるんだね」
「変な勘繰りはするな」
声色からヒューイが抱いた感情を察し、即座に強く否定する。
確かにマザーベースではバットとよく絡む事が多い。
“スネークイーター作戦”にてバットはザ・ボスと一度手合わせしたらしい。
その時の彼女の印象が強く心に残っていて、知りたいと私に話を持ち掛けたのがきっかけだ。
誰でもと言う訳ではなく、一度でも彼女を知って心惹かれた者同士であり、アイツがそこまで男らしくないというのもあるのだろうな。
どことなく面白くなさそうなヒューイを連れて、目的地に辿り着いてノックをする。
中より返事があり、扉が開かれる。
いつもの野戦服に黒のロングコート姿ではなく、白いカッターシャツに紺色のベスト、黒のズボンという普段着で迎え入れてくれた。少し前まで客人が居たのか奥の机にはカップが二つ並んでいた。
「誰か来ていたのか?」
「パスちゃんが先ほどまで。珈琲で良いですかね?」
「仕事の合間によく飲んで飽きている」
「だったらフルーツジュースとかどうですか?新鮮な果物が届いたんですよ」
「ならそれを頂こう」
「僕もそれで」
冷蔵庫より果物を取り出し包丁やミキサーを用意しているバットの横を通り抜け、ソファに腰かけて持ち込んだ複数のアタッシュケースをテーブルの上に乗せる。さすがに全部持つのは難しかったので半分以上はヒューイの膝に置かせてもらったおかげでそれほど手は疲れていない。
室内は清潔が保たれ、荷物は少なく簡素…いや、少なくはなくなっていた。
バットはよく女性陣の玩具にされていて、色んなものが贈られることが多い。
可愛らしいピンクのテディベアや水色のウサギなどのぬいぐるみが飾られ、衣装ダンスには執事服やメイド服といった着せらてそのまま置かれている衣装類が納められている。
フルーツジュースを素早く作ったバットは三つのコップを持ってやって来た。
出されると早速口につけて果物による複数の甘味と柑橘系の酸味が絡まり、まったりとしながらもすっきりとした味わいをもたらす。
飲んでいるだけで気分が安らぎ、身体が軽くなったような幻惑に囚われる。
バットの作った料理や飲み物はそう言った効果があるのか、ここに来るとどうも期待してしまう。
これもまたバットと関わる理由の一つなんだろうな。
「すみませんね。わざわざ持ってきてもらって」
「構わない。どうせついでだ」
「あぁ、ヒューイ博士とデート中でしたか」
「で、デートってそんな…」
「ただの息抜きに散歩をしていただけでそれ以上でも以下でもない」
こちらもまた否定すると隣でズーンと効果音が出てそうなほど落ち込む男が一人。
鬱陶しいことこの上ないのでさっさと用事を済ますとしよう。
テーブルに乗せたアタッシュケースを開ける。
そこには銃器が納められていた。
長くバットと共にしていた“モーゼルC96”。
元々旧ドイツ帝国が第一次世界大戦時に開発した自動拳銃で、改造もオプションパーツも取り付けていないノーマルタイプ。
本人は何も不便を感じてなかったのだが、ここで開発でき改造も行えるようになったので改修をスネークに勧められたらしい。
火力を上げて、弾倉の容量を増やして装填数を十発からニ十発に増量、セミオートからフルオートに改修を済ませた。
目を輝かせながら愛銃が戻ってきた事に喜んで頬ずりする様子はある種の異常に映り込む。
ヒューイは苦笑いを浮かべ、ストレンジラブは気にする事無く次のアタッシュケースを開いて中身を見せる。
国境なき軍隊でも生産できるようになったコンバットリボルバー“M19”。
装弾数は六発だけだが357マグナム弾を使用しているために威力は非常に高く、比例するように反動も大きい。
これは初期生産されたタイプではなく命中精度向上のために銃身を伸ばしたものとなっている。
さらに命中精度を上げるためにレーザーサイトを取り付けれるが、それは「何か違う気がする…」と感性と曖昧な答えで断られた。
続いて信号銃のように見える小型グレネードを撃てる拳銃“カンプピストル”が納められたアタッシュケースを開く。
装填数はたったの一発だけであるも、拳銃程度のサイズでありながら装甲車にも有効打を与えれる充分な性能を持つ。
早速と言わんばかりに装填していない事を確認して銃の状態を、真剣な様子で確認作業を続けている。
「満足か?まったく人殺しの道具にどれだけお熱なんだか」
「すみません。見苦しかったですよね」
「パスの前ではするなよ」
「気を付けます…」
あの子は戦争を憎んでいる。
今回の件で余計に憎悪は増しただろう。
そんな彼女が戦場で生き甲斐を探す兵士が集まるマザーベースで、特に心を開いている相手は彼女を事を真剣に心配して怒ったバットだろう。
今でも気をかけて手料理を振舞ったり、他愛のない話をしたりしているようだ。
おかげで二人の仲が良くて周りの者が近寄り難くて羨む者が出るほどに。
「そうだ。もうすぐ注文の改修と開発が終えるから今度取りに来るといい」
「あ、了解です。レールガンの方は?」
「そちらはまだ時間が掛かるかな。さすがに手間取っているよ」
ヒューイの言葉に嬉しそうに返事をするバット。
開発・改修が近々完了すると言う事で二つの武器を思い出す。
ブルバップ式アサルトライフル“SUG”。
大部分がプラスチック製という変わったアサルトライフルである。
トリガー部分の前にグリップ、後ろには弾倉という変わった形をしているが、小回りの良さも反動の低さもあって扱い易い。
重量も四キロ以内に抑えてバットでも扱い易い。
それともう一つは“水平二連ショットガン”の銃身を短くし、非殺傷武器とゴム弾を撃てるようにしたものを、リロード性能の向上を頼まれた。
つい最近スモークグレネード、スタングレネード、チャフグレネード、催眠ガスグレネードなどの効果時間の強化を頼んだばかりだと言うのに知らぬ間にまた頼んでいたとは…。
…そう言えばグラーニンとソコロフ辺りが忙しそうにクリサリスに搭載されていた“レールガン”をどうにか小型化しようとしていたのはこいつが原因だったか。
呆れ果ててため息を吐き出し、用事も済んだことで離籍しようと席を立ちあがる。
「本当にありがとうございます。また今度お菓子でも作って行きますね」
「楽しみにしている」
些細な楽しみに僅かばかり頬を緩ませたストレンジラブは、慌てて後を追って来たヒューイと共に研究室に戻るのであった。
ちなみにバットは左脇のホルスターに自動拳銃のモーゼルC96、右腰ホルスターに装飾施された回転式拳銃SAA、左腰ホルスターにカンプピストル、後ろのズボンの隙間にコンバットリボルバー“M19”を収め、手にはブルバップ式アサルトライフル“SUG”を握り、背には非殺傷の水平二連ショットガンを背負い、ポーチには医療品の他にグレネード類を大量に入れて出撃し、あまりの武装の多さに“歩く銃器”という新たな異名を付けられるのであった…。
●孤島のバカンスにはアクシデントが付き物?
日光が降り注ぎ、青い海がキラキラと反射し、白い砂浜には数人の人物が思い思いに過ごしていた。
国境なき軍隊が任務達成を祝っての打ち上げが数日前に行われた。
無論スネークやカズヒラなど幹部も強制ではないが参加しており、兵士達は騒ぎに騒いで日頃の疲れと鬱憤を晴らすように飲み食い荒らした。
だが参加したスネークやバットはそう楽しむことは出来なかった。
兵士の誰もが憧れて尊敬してやまないボスと接する事のない兵士達は、我先にとスネークの周囲に集まって関り、酔った影響でいつもより暴走した女性陣にバットは玩具にされ、二人共楽しむより対応に追われて逆に疲れが貯まるばかり。
そこでスネークが知ったとある孤島にて少数による打ち上げをしようという話になったのだ。
少数の中には研究開発班のエース達も含まれていたのだが、ストレンジラブは肌が弱くて日に焼きたくなく、ヒューイは足が不自由で車椅子では砂浜では動き辛い。ソコロフは単にあまり気乗りせずグラーニンは二日酔いでダウンして不参加。
戦闘班ではパイソンが暑さに弱いとの理由で来ておらず、参加したのは八名だけ。
「本当に僕も参加してよかったの?」
「悪い事なんてないよ。共に闘った仲間…いや、戦友じゃないか」
サーフ型の水着にパーカーを着たバットにチコは問いかける。
数日前の打ち上げにも出席し、今回の打ち上げにも呼ばれたことを光栄と想いながらも本当に良いのかなと不安だっただけに、バットの返しに嬉しかったが照れ臭くもあった。
照れ隠しにそっぽを向く。
すると視線の先に居た女性陣を見て止まってしまった。
立てられたビーチパラソルの下に複数のビーチチェアが設置されており、水色のチューブトップ型のビキニ姿のセシールと紐を首の後ろで結んだ黄色のホルターネックビキニ姿のエルザが横になって日光浴を楽しんでいた。
年頃の少年であるチコにとってその光景は目に毒。
意識を惹き付けるには充分過ぎる魅力で溢れていた。
「ちょっと何見てんのよ」
「―――ッ!?べ、別に…」
急な誘いで水着など持っていなかったために国境なき軍隊支給の水着を着ているアマンダに指摘され、比べ物にならない恥ずかしさから耳まで真っ赤に染まるチコ。
揶揄われているのは解かっている。
遠くから眺めているスネークもセシールも含みのある笑みを浮かべてこちらを見ている。
「あからさま過ぎるでしょうが」
「ふべらっ!?」
助けを求めてバットを探すと、サングラスをしているから気付かれていないと思っていたカズが思いっきり投げ飛ばされて砂浜を転がされていた。
その光景に笑みが零れ、白いビキニ姿のパスもクスリと笑っていた。
「一緒に遊びましょうか?」
「え?あ、はい」
横になっていたエルザが微笑みながら立ち上がり、誘ってくれたことに戸惑いながら返事を返す。
揶揄われて恥ずかしがっている俺に助け舟を出してくれたのだろう。
今は心の中で感謝し、後で礼を言いに行こう。
エルザに引っ張られパスとバットと共にビーチバレーを始めた。
最初は和気藹々としていたが、途中でスネークとカズが参加した頃から白熱し始め、最終的にスネーク&カズのペアとバット&エルザのペアで試合が始めった。
サイコキネシスにより身体機能を強化したエルザの動きはスネークやバットに見劣りせず、かなりの接戦を繰り広げて観客になっていた僕はパスと共に声援を飛ばしていた。
その後は浜辺でバーベキューしたり、海で皆と泳いだりして遊びまくった。
程よい疲れと満足感を胸に浜辺でゆっくりしているとカズとスネークの会話が聞こえて来た。
「しかしよくこんな穴場知っていたな」
「あぁ、個人的な知り合いが教えてくれてな…っと、噂をすればなんとやら」
誰かを見つけたのか手を振り始めたスネークを見て、その先に居るであろう人物に視線を向けた。
―――猫だった。
いや、正確には大きめのリュックサックを背負って二足歩行している猫だった。
「アレ何?」
「さっき言っていた知り合いだ。名を“ト●ニャー”という」
「“トレ●ャー”?」
近づいて来た二足歩行の猫に対してスネークは低音ボイスで「ニャー」と猫の鳴きまねをしながら会話を始め周囲を困惑…違うな。髭ずらの大の大人が低音ボイスで鳴く様に若干引いていた…。
それよりも
「凄い!本物のUMAだよ!!」
歩行する猫など驚くべき存在だ。
興奮しながら見つめていたチコは鳥の羽ばたきにも似た音に気が付かなかった。
が、次第に近づいて大きくなる羽ばたきと、騒ぎ始めたトレ●ャーにより嫌でも気付く。
巨大な影が通過した言った事で空を見上げると赤みを帯びたドラゴンが頭上を飛翔していた。
「ど、どどど、ドラゴン!?」
「リオ●ウス!」
スネークが砂浜に降り立ったドラゴンの名前らしきものを叫ぶと、離れた森の方からも咆哮が響き渡って振り返ると刺々しい背中の肉食恐竜を思わせる大型の怪獣が姿を現す。
周囲には図鑑で見たラプトルに似た青色の生物が何匹も追従していた。
さらにムササビのように黄色と黒色がマダラのようになっている巨大なトカゲのような怪獣も姿を現し、さながら浜辺は怪獣大戦争のようになっていた。
「こんな時にティガ●ックスにギアレッ●スか!」
「よく知っているようですねスネークさん。話はあとでしっかりと聞かせて貰いますよ」
「……おぅ」
叫ぶスネークに対して笑いつつ怒っているバットは、何処からか取り出した銃器を構えてソレラと対峙する。
素早くエルザは僕とパスをサイコキネシスで浮かし、ソレラから遠のいて護衛に周ってくれた。
怪獣達に取り囲まれたままのスネークとバット、そして
なんでバカンスもこう慌ただしく、ハプニングが続くのだろうかとチコは呆然と眺めるのだった…。
●不祥事と誤解
マザーベースにはスネークやバットが認める優秀な
所属は医療班でありながら、その戦闘技術はスネークに並ぶと称され、最前線と治療所を渡り歩いていた。
彼としては心の底から尊敬する
なにせ目標としているバットの医術は神業と言うより奇跡に近い。
骨折だって秒で完治させるなど他の誰も出来ないと断言できる。
同じように出来ないとしても少しでも近づきたい所だ。
そんな想いを抱きながら戦場より帰還した彼は硝煙と砂埃に塗れ、垢と汗がこびり付いた身体を洗い流そう浴場に訪れていた。
身体の垢どころか皮膚ごと削り取るような勢いで擦り、身体中泡だらけの状態で今度は頭をガシガシと洗い始める。
汚れと一緒に疲れも落ちれば良いのだがと鼻で小さく笑っていると会話が耳に届く。
「サングラスぐらい取ったらどうだ」
「ん?…あぁ、道理で暗いはずだ」
泡で見えないが声からボスと
ボスは戦場を駆け、副指令は司令部に居る事が多いので会う事は少ない。しかも彼は医療班と戦闘班の仕事を熟してマザーベースから出る事が多いので余計にだ。
普段は接する事の出来ない憧れの伝説の兵士と同じ空間に居ると言うのは何とも言えない高揚感が生じてしまう。
盗み聞きなど褒められた事ではないが、どんな会話をしているのだろう聞き耳を立てると最近出来たというサウナの話をしているようだ。
以前より副指令がボスに提案していた本格的なフィンランドのサウナ。
今のままでも十分だと思っていたが運用資金は風呂より掛からず経済的で、体験した仲間からかなり良い評判を聞いていたので気にはなっている。
ここ数日はマザーベースでゆっくり出来るので行ってみるのも良いかも知れないな。
話を聞きながらそんな事を思っているとサウナの話は変わり、ここで怪我をした“アルマジロ”の事を話始めた。
“アルマジロ”というのは動物ではなくある兵士のコードネーム。
由来は超がつくほど慎重な性格と重戦車並みの安定感があるからだとか。
それが石鹸で足を滑らせて転倒し、尾骶骨骨折で全治一か月というから苦笑いするしかない。
どうせ入院と言う事であの美人の彼女“スワン”と仲良くやっているんだろうなと様子見がてら茶化しに行ったらこの世の終わりでも来るかのように沈み込んでいたな。
「スネーク。サウナ入る?」
「案内してもらおうか」
会話の途中から副指令の様子が何処か余所余所しくなり、ボスも言葉に重みと言うか威圧が籠り始めた。
おかしいなと首を捻りながら聞き耳を立てていると、二人はサウナへと行くらしい。
先ほど体験してみるかと思っていただけにボスとご一緒するのも良いなと思い、身体と頭についている泡をシャワーで流し始めた。
マザーベースの浴場に新たに設けられたサウナ室にカズと訪れたスネークは不愛想な表情を浮かべながら腰かけていた。
今回浴場に来たのは身体を清める目的ではなく、カズとある会話をする為である。
カズは金銭面や組織運営、後方支援の指示など多くを賄っているマザーベースを支える大きな柱の一人だ。
だからと言って何をしても良いと言う訳ではない。
寧ろ副指令と言う立場と地位を持つ以上、それにふさわしい行動と認識をしなければならない。
一人の兵士がシャワールームで足を滑らせて負傷したという事件が起きた。
それだけなら不運な怪我で済んだが事態はそう簡単なものではなかった。
“ガゼル”という美人な女性兵士より相談を受けたのだ。
総司令という立場から度々意見を求められたり、相談事を持ち掛けられたりすることは以前からあった。
内容は簡潔に言うと色恋沙汰で、そういったのは個人の自由なので俺は介入する気は特別な理由がない限りはするつもりはない。しかしガゼルの相談は俺が介入するしかない大事へと繋がって行った。
ガゼルは恋人としてカズと付き合いをしていたが、ある日カズが“スワン”と合瀬を重ねているのを目撃してしまったそうだ。
二股をしていた事実と同時にスワンはアルマジロのガールフレンドと聞いた事があった俺は、アルマジロから直接聞くことにした。
すると怪我をした日の事を詳細に語ってくれたさ。
シャワールームで自身の恋人であるスワンがカズと“石鹸プレイ”に興じており、驚きと絶望に陥ったアルマジロは“石鹸プレイ”をした事で転がっていた石鹸で足を滑らせて負傷したと…。
さらに調査を進めると“ドルフィン”、“ピューマ”、“コットンマウス”、“エレファント”とも関係を持っていたことが発覚。解っただけでも六人と関係を持っていた…。
二股どころか六股。
共用施設の乱用。
スタッフの負傷。
加えてこの閉鎖的なマザーベースという空間で人間関係も悪影響しか与えない事態に頭が痛くなる。
こんな馬鹿げた事を仕出かした大馬鹿者をこれから俺は叱らねばならない。
察してはいるから話を逸らそうと白樺の枝を束ねた“ビヒタ”という自らの身体を叩いて血液循環を促して代謝させる道具を説明している。
あえて話に乗って使用方法を実演させて、自らも使用しながらカズを見つめる。
中々の使い心地を気に入ると同時に、腰かけたために大股を開いたカズの内股に爪で引っ掻いた後を見つけた。
それもナニかしらのプレイの跡なんだろう。
「お前、内ももに傷があるな」
「何処を見ているんだ?」
「お前の全てだ。そのタオルで隠している所以外はな」
俺は睨みを利かしながらカズを見つめる。
恥ずかしがるような仕草を見せるが俺は追及を止めはしない。
「カズ、立って後ろを向いてみろ」
「へ?」
「あと腰のタオルを取れ」
有無を言わさぬスネークの圧に、戸惑いながらタオルを外してカズは壁に手を付いて背を向ける。
他にもあるんだろうと目視確認だけでなく、手で触れても痕跡を探す。
余計に戸惑いを見せるカズを無視して探すとやはり尻にまで同じような引っかき傷があった。
「前を向け」
「あぁ…」
観念したのか大人しく従ったカズは振り返る。
後ろを確認したように前も確認すると「何処を触っている」と震えながら講義するも俺は止めない。
確認し終えて座らせる。
手持ち無沙汰なのとこれから行う事への馬鹿らしくも阿保らしい説教を行う事への苛立ちからビヒタを手に持って定期的に自身の身体を叩く。
出会った頃に「ものにした女の数」を競って来た事を持ち出して今の現状を聞くと片手どころか両手で数えだす。
調べた以上に指を折る様に頭痛を通り越して熱が出そうだ。
そこからガゼルからの相談事を受けた事からアルマジロの事を咎め、熱くなった俺はビヒタでカズを思いっきり叩きつけていた。徐々に口も感情もヒートアップし、最終的にはグーで殴りつけた。
密室であるサウナ室だからと無意識に認識し、壁を隔てて一人の兵士が居るとは知らずに。
サウナ室より薄っすらとした会話が聞こえてくる。
最初は小さかったが近づくにつれて大きくなり、ドアの前に立つ頃には聞き取れるほどになっていた。
「…ぃずがあるな」
「何処を見ている?」
「―――
ボスを追ってサウナ室に入ろうとしていたメディックは、ドアノブに伸ばしていた手を止めた。
今なんて言った?
サウナ室より聞こえて来た会話を脳内でリピートし、
何を俺は早とちりをしているんだと喝を入れるべく両頬を叩く。
情報と言うのは戦場で非常に大事なものである。
伝達が遅れれば鮮度が落ちて使えなくなり、正確さを欠いて急いで伝達しても誤情報に泳がされて味方に被害が出る事だってある。
会話からボスが副指令を見ていたのは確かだが、ここは戦場を生き抜く兵士達が集う場。
戦場で受けた傷の自慢や自身の鍛え上げられた肉体をひけらかしたり比較することはままあるし、男同士になれば下ネタ的な話も勿論するだろう。
確証もないのに勝手な想像をするのはボスに失礼だ。
大きく頷いて、サウナ室の中を除けるように扉に取り付けられていた小窓から中を覗き込む。
壁に両手を付いてこちらに背を向けて立ち、その後ろに立っているボスは副指令の身体を撫でまわしていた。
副指令が腰に巻いていたタオルは取られており、撫でまわしていた手は副指令の臀部へと向かい…。
メディックは扉の前から離れて、近くの壁に背を預けて今見た光景に困惑する。
事実だけを述べると全裸の副指令の身体をボスが撫で回していた。
確かな事で誤解もない事実だ。
それを俺が何と解釈するによって事は変わる。
見間違え――ではないが想像違いしている可能性はまだあり、実際はなんていう事のないじゃれ合い見たいなものかも知れない。
大きく深呼吸して落ち着かせ、もう一度覗き込む。
副指令とボスは真正面から向き合っており、その状態でボスが同じように撫で回していた…。
またも同じく扉の前から退けたメディックは慌てふためく心情を無理やり押さえつける。
なんていう場面に出くわしてしまったのだろうか。
数分前に戻れるなら見ないように俺自身の足止めを必死にするだろう。
人がどのような趣向を持とうが個人の自由だ。
それを否定する気は俺には無い。
ただ見た光景が俺が想っている事なら“見なかった事”として墓場まで見って行かなければならないだろう。
出来れば“見なかった事”ではなく知らないで居たかったが…。
その場を離れようとしたメディックは、サウナ室内より副指令の呻き声にバシリと何かを叩いたような音を耳にして、何事かと慌てて覗き込む。
四つん這いになって床に膝と手を付いて尻をボスに向ける副指令に対し、ボスは思いっきりビヒタを振るっては叩き、喘ぎにもとれる呻き声を副指令が漏らしていた…。
もう何を見ても驚かない。
ハイライトが消えた瞳でその“プレイ”を見つめ、大きく頷くとそっとしておこうと今度こそサウナ室を離れるのであった…。
その後、スネークとカズは殴り合いに発展し、サウナ室から大浴場、さらには空を拝める外へとステージを変更しつつ全裸で暴れ回り、最終的に判決を下してこの件は一応の終わりを見せるのだった。