メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 遅れに遅れて申し訳ありません。
 前週分書くに書けず今週になってしまいました。
 今週中にもう一話行けるかな…。


パスの日記

 今日からマザーベースで生活することになった。

 コールドマンの“ピースウォーカー計画”が頓挫して世界の危機は去ったのだけど、資金援助してくれていたザドルノフが捕まった事でKGBから流れていた資金も止まり、学校には通えないし戻るべき居場所も無いからとマザーベースで働きたいとスネークに願い出たのだ。

 事情を知っている兵士が多い国境なき軍隊では同情的な者が多く、副指令のミラーの強い後押しもあって私はマザーベースに受け入れられた。

 

 本当に馬鹿な連中だ…。

 

 私の名前は“パシフィカ・オーシャン”。

 戦争を憎み、平和を求める十代の女学生パス・オルテガ・アンドラーデという少女の役割を演じている、非政府諜報組織“CIPHER”の工作員。

 いくら強かろうと誰一人その事実に気付きもしていない。

 疑うどころか好意を寄せている連中を見ると表情では微笑みながら内心嗤ってしまう。

 

 しかし何時までも騙しきれるものでもない事は解かり切っている。

 行動は慎重に、役割を演じながらも任務を熟さなければ私には死より恐ろしい事が待ち受けているだろう。

 私に課せられた任務は専属の戦闘部隊を所有していない“CIPHER”が、新たに組織を設立するまでの時間を補うべく国境なき軍隊を“CIPHER”の傘下に加える事。

 幼いころから訓練を受けたと言っても私個人では彼らを屈服させることは出来ないし、説得など不可能に近い。

 よって私が取るべき手段は戦車やメタルギアとも渡り合える歩兵部隊をもっと強大な力で屈服させること。

 夢物語のようであるがこのマザーベースならば可能となる。

 湖に沈んだピースウォーカーより回収した核弾頭を搭載した二足歩行戦車“メタルギアZEKE”。

 あれならば交渉でも戦闘でも事を有利に運べる。

 ただ問題としてはAIで機能する機体なので、私でも操縦できるように有人機としての改造を加えなければならないと言う事だろう。

 難しい任務だがやり遂げなければ…。

 ここまで育ててくれた恩というのもあるが、逃げ出したりしたらそれこそどんな目にあわせられるか…。

 助けを求めても無駄だろう。

 予想だが私の受け入れを賛成した兵士の中にも“CIPHER”の協力者が潜んでいる。

 

 私には逃げ道など存在しないのだ。

 任務を全うするか、任務で命を落とすか…。

 生きるか死ぬか―――その二択しか用意されていないのだから…。

 

 

 

 

 

 任務を熟す為には情報を集め、兵士達と良好な関係を築かねばならない。

 日々の偵察は抜かりなく、他愛のない雑談ではボロが出ないように注意を払う。

 そんな私は打ち明ける味方も居ない状態で一週間以上動き続けている。

 正直に精神的にきつく、何かしら発散するような娯楽が欲しい。

 設定では十代となっているが実年齢は二十を過ぎていて、出来れば甲板で煙草を吹かしたいところだ。

 けど設定上それは出来ないので上唇と歯茎の間に挟んだ嗅ぎ煙草で我慢するしかない。

 まだ不慣れな為に位置を直さねばならないのだけど、その時に上唇を人差し指で抑えるのだが、煙草と気付いていない連中は私の可愛らしい癖と評しているらしい。

 まったく能天気な連中だ。

 

 溜め息を零しながら甲板上を歩いていると足元を子猫がすり寄って来た。

 この子猫の名前はニューク。

 私が名付け親である。

 何処からか拾って来たのか、それとも迷い込んだのかは分からないけど甲板上に居た子猫に兵士達が集まっており、何なのかと近寄って自然にその輪の中に入ったら名前を付けてほしいと頼まれたのだ。

 仕方がなく平和がうんたらと心にもない事を述べてニュークと言う名前を付け、餌を与えるとあっさりと私に懐いてしまって、今ではこうやってすり寄って来るようになってしまった。

 単純な生き物とため息を漏らしながら頭を撫でてやると嬉しそうにひと鳴きする。

 

 戦いばかりのマザーベースであるが、意外にもニューク以外にも動物が暮らしている。

 ザ・ボスの馬のアンダルシアン。

 ストレンジラブがマザーベースに所属する際に連れて来たのだ。

 施設内に馬小屋は用意されたが閉じ込められてはいないので、たまに甲板上を散歩している姿を目撃する。

 とても賢い老馬なのだろう。

 暴れたり、海に落ちかけたりと言う問題を起こした事は無い。

 

 馬小屋はストレンジラブの研究室に近い所に作られているので私もたまに訪れている。

 ZEKEの進捗をストレンジラブより聞くのもあるが、ただ単にあの白く美しい馬を見に行く時もあるので任務でとは言い難い。

 ブラッシングするとしている方がとても穏やかな気分になれて好きなのだ。

 何よりあそこは静かで誰も来なければ人目を気にする事もなく楽に接することができる。

 今日はニュークも連れて行ってやろう。

 

 

 

 

 

 今日は格納庫を探索していた。

 勿論任務の為にメタルギアZEKEの完成具合の確認である。

 普通科学者でもない者が格納庫をうろついていれば注意を受ける事もあるだろうが、私の場合は物珍しいからと言った理由で切り抜けられるほどあまい対応で何とでもなる。

 寧ろストレンジラブやグラーニンなどは問いかければ喰い付いて聞いていない事まで教えてくれるので情報収集する身としては楽だ。

 探索するように格納庫を歩き回っていると、いつものように酒を飲んでいたグラーニンに出くわした。

 これは都合が良いと思い近づくとバットと話をしているようだった。

 グラーニンとバットは仕事抜きでロボット(メタルギア)の事―――つまり趣味が合うようで語り合うのだ。

 やはり今回もそのようで、差し入れを口にしながら会話に華を咲かせていた。

 にこやかに声をかけると二人共笑顔で迎えてくれて、差し入れのガトーショコラを貰いながら話に入る。

 アルコールで口が回り易く、話を聞いてくれる聞き手が居る事でグラーニンはペラペラと語ってくれた。

 と、いっても彼が担当しているのはメタルギアZEKEではなく、バットの為に作っているメタルギアTONY。

 必然的に話はそちらへとなる。

 武装面からシステム面を語られてうんうんと頷きながら話を聞くも、話が進む度に興味は段々と薄れていく。

 メタルギアTONYはあらゆる問題を含んだ兵器だ。

 まず核弾頭などホイホイと手に入る物ではないのでメタルギアTONYには搭載されず、乗り手の事とシステムの難しさから二足歩行は難しいとの事で四足歩行。大まかな研究資金はメタルギアZEKEの方に流れているので新造の専用兵器は作れずに、今まで倒したAI兵器などの武器を応用している。

 戦場で出くわしたら脅威ではあるだろうけど、メタルギアZEKEさえ押さえてしまえば問題はない。

 警戒するほどの脅威ではないだろう。

 興味さえ失ってしまった話に頷いていると休憩時間を過ぎても帰ってこないグラーニンを心配してかソコロフが迎えに来た。

 まだ話足りないのか残ろうとするグラーニンをバットが説得し、ソコロフに連れられてやっと仕事に戻って行った。

 このまま解散かなと思ったらバットと話をする事に。

 正直疲れて部屋で休もうかなと過っていただけに、本気で悩むも少しだけならと残ってしまった。

 先ほどまで演技をして聞き手に徹していたからか意外と自分の口が回りに回って、グラーニン以上にそこで話し続けてしまっていた。

 この時は喋り過ぎたと演技ではなく恥ずかしさから顔を赤く染めてしまった…。

 迂闊だった…。

 しかし逆に疑問も残る。

 どうしてこんなにも彼と無駄話をしてしまったのだろうかと。

 マザーベース内でよく私を気遣ってくれるから?

 一番年齢が近いから?

 考えるも明確な理由は浮かばず、最終的にはどうでも良いかと流してしまう。

 それにしてもあの冗談は面白かった。

 「僕って異世界(・・・)より来た人間なんだ」なんて冗談は嘘にしては設定がちゃんとしていてまるで本当にそんな世界があるかのようで、思わず本気で聴き入ってしまった。

 平和で不自由はあっても選択の自由がある生活。

 選択する自由すらなかった私には羨ましい限りだ。

 私は見た目は悪かったけど、味はほっぺが落ちそうなほどガトーショコラは美味しかったなぁ。

 また今度作って貰おうかな。

 

 

 

 格納庫付近の施設情報は集めた。

 ZEKEの設計図も何とか入手できた。

 こんなに上手く行くとは正直思わなかった。

 大概外部に注意を向け、内部への警戒と言うのは薄れるものとしてもざる過ぎる。

 私が疑われ難い役であるのもあるのだろうけど。

 色々と理由はあるが一番はザドルノフの奮闘だろう。

 マザーベース内の独房に収容されているザドルノフは正確に私の正体を知らない―――筈。

 察してはいるのだろうが彼は快く協力をしてくれている。

 自らが脱走しているように見せて、私が手助けして何かをしている事を知らせない。

 彼自身にもはや戻る場所がない事と、退屈な毎日への仕返しと暇潰しも兼ねているのだろう。

 逃がす手引きはするがその後は彼自身の行動なので、毎回よくそこまで逃げ延びたものだと感心してしまう。

 非武装状態で武装集団が行き来する地域を単独で潜むなど、潜入能力の高さはマザーベース内でも上位に食い込むのではないかと私は思っている。

 

 何度も逃げ出し巧妙に身を隠すザドルノフに頭を悩ませるカズは申し訳なさそうにスネークに捜索を頼むと、一度や二度なら兎も角四回も超えれば辟易としていた。

 ただバットは逆に楽しそうであったが。

 どうしてそんなに楽しそうなのか気になって問いかければ「かくれんぼってした事なかったんですよ」と嬉しそうに語っていた。

 本当に何処か抜けているのだろう。

 性格上の問題ではなく、単に頭のネジが…。

 

 そこが良いというスタッフもいるが、潜入工作員であることを考えるなら問題ではとも思うのだけど、実際にそんな彼に惹き付けられて説得されている者がいる事から“だから”なのか…。

 考えれば考えるほど頭がこんがりそうだ…。

 

 今は彼の事よりも目の前の任務を優先しよう。

 こうして五回目のザドルノフ脱走で生まれた隙。

 有用に活用させてもらうとしよう。

 

 

 

 …不覚にも風邪を引いてしまった。

 マザーベースの現状を考えれば病気と言うのは非常に怖いものである。

 スネークの下に集まった兵士は国も違えば人種も違い、派遣される国は多種にわたる訳で、その分色んな病気に触れる機会が増えるのでどんな病気が入って来るか分かった物ではない。

 今回エルザの診断でただの風邪と聞いた時は安堵すると共に、そういった可能性を考えて気を付けねばならないだろう。

 一週間も自室で大人しくしていれば完治するとの事で、私は部屋のベッドで寝転がる。

 人と言う生き物は環境によって大きく影響される。

 以前は静かな時間を過ごすのに何の苦労もなかったのだけど、ここで生活するようになってからは毎日誰かと接したり、馬鹿騒ぎに巻き込まれて一人の時間の方が少なくなっていて、今では寂しく惨めに感じてしまう。

 それを知ってかニュークがベッドの片隅で心配そうに見つめ、私は撫でて気を紛らわせる。

 すると風邪をひいた事を聞いてアマンダ達に比較的私に親しい兵士達が見舞いにと訪れて来たのだ。

 アマンダは風邪に効くと言うスープを作ってくれて、チコはエルザと共に部屋を飾る為に花を持って訪れた。スネークやヒューイ、ソコロフやセシールはお菓子をくれると少し話をして帰って行った。

 中にはあまりしゃべった事の無かったパイソンも来て「熱いならこれを使うといい」といって液体窒素を周囲に撒く手榴弾を渡されて困惑してしまった。

 すると「冗談だ」と笑いながら額に触れるか触れないかの位置に手を近付け、液体窒素が循環しているスーツによってひんやりして気持ちが良かった。

 

 皆、有難くもあるのだけども結果的に迷惑な見舞客もやって来る。

 

 ミラーは「ゆっくり休め。俺が子守唄を歌ってやる!」とギターを持参し、歌い始めたのだが日本語の歌詞だからか意味は分からないし、何より音痴過ぎて休むに休めない。

 さらに「風邪には座薬が効く」といって見本を見せようとズボンを脱ごうとしたのでティッシュ箱を投げつけて追い出した。

 いきなりの出来事に熱が酷くなりそうなほど頭痛を覚えたが、この時の私はストレンジラブの事を失念していた。

 彼女はインドの塗り薬を持って来てくれたのだけど、胸に塗ると良く効くとジャージを脱がせようとしたので、今度は枕でぶん殴って叩き出してやった。

 何なんだと頭痛を覚えているとグラーニンが訪れて「万病にはこれが効く」とウォッカを飲むように強引に渡して来たので、速攻でナースコールしてエルザに強制退去して貰った。

 すぐに退去してくれたけど、短い時間で彼の酒臭さだけ居残って気分が悪い。

 ニュークまで気分が悪くなりそうなので、倦怠感のある肉体に鞭を打って換気しようと窓を開けた。

 

 そんなこんなあり、夕食頃になってバットが訪れた。

 「食事を作って来たよ」と玉子雑炊という出汁や醤油でほんのり味付けしたトロトロにふやかした米に玉子を混ぜた料理を持って来てくれた。

 バットは盛り付けが下手だったけど、これは意外にそうは見えないので「リゾット系なら盛り付けは大丈夫だね」と言うと苦笑いを浮かべられた。

 するとその仕返しなのか、それとも素なのかスプーンで一口分すくって、少し冷ますと「あ~ん」と言って食べさせようとしてくる。 

 まるで子供のような彼が私を子ども扱いをしてくるのは少し癪である。

 十代の女子学生という嘘を信じるなら正しいが、実年齢はバットとほとんど差がないのだ。

 ムッとするも「実は貴方とそんなに年齢変わりません」なんて言える筈もなく、恥ずかしくも食べさせてもらう事に。

 食べたことで少し元気がになり、温かな食事で少し身体が火照ってしまい汗が流れる。

 

 この時、私は熱で思考回路がまともではなかったのだろう。

 ジャージの裾を少しだけ捲って「汗を拭いてくれない?」と口にしてしまっていたのだ。

 効果は抜群だったようでバットは顔を真っ赤に染めてそっぽを向いた。

 初心過ぎないかと考えも過ったが、それ以上に楽しくて悪乗りをしてしまい、最終的にバットがストレンジラブを呼ぼうとしたので必死に謝る事になってしまうとは誤算だった…。

 

 

 

 国境なき軍隊は常日頃訓練に明け暮れ、仕事となれば戦地に飛んだりと休みをとっても精神的にも肉体的にも疲労がどうしても蓄積してしまう。

 娯楽があればマシなのかも知れないけど洋上プラントである事から難しい。

 そこでスネークとミラーは月に一度、誕生日の兵士を祝う名目でちょっとしたパーティを開く。

 皆が皆、日ごろの鬱憤を晴らすように酒を浴びるように飲み、獣のように肉をかっ喰らい、スラングな悪口が飛び交っては、本気ではないにしてもちょっとした殴り合いが起こったりと騒がしくも楽しんでいるようだ。

 五月蠅すぎる喧騒の中、私も参加せねばならないのが辛い。

 別に強制参加ではないけど顔を出さない訳にはいかないだろう。

 

 娯楽と言う事で趣向も追加されてもはや収拾が付かなくなる事がある。

 誰が一番酒を飲めるのかと飲み比べを行えば急性アルコール中毒で倒れては秒でバットが治し捲り、力自慢大会と言う事で参加している者で腕相撲のトーナメントを行えば勝敗や不正云々で喧嘩祭りに変わったりと今まで死人が出なかったのが不思議なほどである。

 今回はそんな馬鹿騒ぎではなく、仮装パーティと言う事で皆が普段と違い衣装で参加していた。

 スネークは着なれないタキシード姿で現れ、ミラーは葉っぱ一枚(・・・・・)で登場した所をそのまま叩き出されて、ヒューイやアマンダが何やっているんだかと苦笑いを浮かべていた。

 私はと言うと髪をポニーテールにして、動きやすいようにスーツ姿での参加だ。

 万が一にも喧嘩になった際にはドレスでは動きにくいし、ストレンジラブの視線が怖かったというのもある。

 ドレス姿を期待していたのか普段参加しないストレンジラブ(普段通りの服装)が肩を落とし「似合っているけどドレス姿も似合うと思う」と言って来たので、「今度二人してドレスで参加します?」と返したら黙ってしまった。

 各々が仮装をする中でひときわ注目を集めた人物がいた。

 

 黒のエンパイヤロングドレスを着こなした小柄な人…。

 覗く肌は健康的で、シミやしわの無い綺麗な肌。

 ふわっと肩に掛かっているブロンドヘアが揺れ、少し照れ臭そうな表情が周囲を見渡す。

 素直に綺麗と思ってしまった。

 ストレンジラブも同性でありながらも見惚れるほどの美しさと引き込まれる雰囲気を持ち合わせているが、それに似た感覚を味わって魅入ってしまう。

 周囲の男性兵士達はそうであり、行動力の高い者は声をかけては玉砕していった…。

 見渡していた視線が私に向けられ、ヒールに慣れないのか不安定そうに歩み寄って来る。

 間近にまで迫って私はようやく気付いた。

 その女性だと勝手に思っていたのは女装したバットであったのだ。

 驚きの余り変な声を出してしまったのは今でも恥ずかしい…。

 なんでも仮装の話が出た時点で女性兵士の一部が女装させて参加させようと画策していたらしく、まんまと拉致られて衣装を着せられメイクを施され、かつらをセットされて今に至るとの事。

 道理で一部女性兵士の反応がおかしいと思った。

 くだらないと思いながらもまんまと騙されてしまった身としては悔しいばかりだ。

 まぁ、女性と思って声をかけて玉砕し、それが男だったと理解した彼らを見ると少しは溜飲も下がったが、やはりバットに対して気が収まらない。

 

 どうすべきかと悩んだ私はバットをダンスに誘った。

 ダンスは得意…と言う訳ではないがそれなりに踊れはする。

 対してバットは今までの様子や会話から踊りの経験はないだろう。

 追加して言うと女性パートとなると余計にだ。

 案の定ダンス経験のないバットは大慌てで断ろうとするも、服を着て戻って来たミラーが乗っかり、会場の空気がバットの逃げ道を完全に封鎖してしまう。

 もう踊るしかなくなった状況下で誰かが音楽を再生させる。

 悪乗りした兵士達も踊り出し、意を決してバットも踊り出したけどわたわたと小刻みな動きに恥ずかしさから真っ赤に染まる顔が滑稽で、先ほどまで抱いていた悔しさは消し飛び、リードしてあげる事で優越感に浸って私は心の底から笑ってダンスを楽しんだ。

 

 …あれ?どうして私はこんなことをしているのだろう?

 

 

 

 

 

 マザーベースであるイベントが予定された。

 なんでも普段戦いに明け暮れているが、年に一度はゆっくりと平和な日を過ごそうという趣向のイベントだとか。

 娯楽に飢えているマザーベースの皆にとって朗報であり、すでに歓迎ムードが出来上がっていた。

 浮かれ過ぎだなと思い、少し距離を置いてみていた私だったが、まさか巻き込まれるとは思いもしなかった。

 突然ミラーが「名前に平和繋がりって事でバンドをしよう!」っと誘って来たのだ。

 いきなりの事で戸惑うが正直楽器も歌も自信はない。

 断わろうと口を開こうとしても「昔からバンドをするのが夢だった」とか「ザドルノフも誘っといた。アイツも平和に関する名前なんだろ」と語り掛けて来て断る隙がない。

 しかも終いには「すでに申し込みは済ませておいた」と事後承諾で伝えているときたもんだ。

 道理で出会う兵士達に「楽しみにしているよ」など声をかけられる訳だ…。

 抗議すべきか悩むもあれだけ期待されて逃げると言うのも気が引ける。

 なら下手を晒して笑いものにはなりたくない。

 面倒であるがしっかりとやるしかないと覚悟を決める。

 すでに曲は仮ではあるけど出来てはいるとの事で、あとでデモテープを届けると言って嵐のように去って行った。

 

 まさか私が歌詞を作る事になるとは…。

 

 

 

 

 

 最近酷く疲れている。

 任務に加えてバンドの練習にマザーベースでの仕事も相まって、精神的にも肉体的にも相当に参っているのだろう。

 おかげで仕事ではミスを連発するし、歌詞作りの方は停滞して進まない。

 こんな状態では工作活動なんてもっての外。

 どうにかしなければと思っていたらバットにお茶会に誘われた。

 バットがお茶会に誘う場合は大抵何かしらのお菓子や料理を作った時で、彼の料理は美味しいだけでなく精神的に良い影響を及ぼす(バフ)ような気が毎回するので、こう参ってしまっている時には非常に有り難い。

 バレてはいけないのでボロは出さないように注意をしなければならないが、私はありがとうと礼を言って誘いに乗った。

 

 部屋に付くとバットはすぐに作るからと言って室内に用意された台所で調理を始める。

 バットに宛がわれた室は個室で結構広めだ。

 彼の個室と言うより女性陣が憩いの場として利用する事がある為に広い部屋を宛がったというのも理由だとか。

 所々にコスプレらしい服が見え隠れする辺り玩具(着せ替え人形)として扱われ、女性兵士達に娯楽を提供している(させられている)のだろう。

 ソファに腰かけているとあっと言う間に出来上がった料理を並べて行く。

 治療もそうだが調理に関してもバットは早い。

 作業時間なんて有って無いようなものだ。

 まるで工程をスキップ(・・・・・・・)しているかと思わんばかり。

 

 並べられたのはサーモンサラダにハーブティー、フルーツヨーグルトだ。

 勧められるまま口にすると疲れが綺麗さっぱり無くなったかのような解放感が突き抜ける。

 さっぱりとして食べ易く、脂身にサーモンの旨味がぎゅっと詰まったサーモンサラダ。

 香りが気分を癒やし、温かさが身体を落ち着かせるハーブティ。

 バナナやいちごやキウイなどの果物本来の甘さや酸味が、シロップの掛かったヨーグルトに合い、ピーナッツやアーモンドなどのナッツ類が程よいアクセントになっているフルーツヨーグルト。

 疲れていた身体に沁み込み、食欲がストレスで薄れていたというのにすんなりと胃に収まってしまった。

 食べきるとデザートにと苦めのチョコレートとミルクココアを用意してくれて、私はリラックスした気分で他愛のない会話に華を咲かせた。

 

 気が付くと私は眠りこけてしまっていたらしい。

 起きたらバットのベットの上で横になっており、外は夕暮れ色に染まっていた。

 眠るつもりなんてなかったのにと驚きながら、バットに謝罪と礼を述べて私は自室に戻る。

 

 久方ぶりだ。

 身体が綿のように軽く、気分がすこぶる良いなんて。

 今だったら良い歌詞だってかけるかも知れない。

 

 …迂闊にもこの時の事をセシールに話してマザーベース内にバットと私がお部屋デートしていたと噂されるのは誤算だった…。

 

 

 

 

 

 夢のようだった。

 ここ数日私は思い詰めていた。

 “CIPHER”より作戦決行の指令が下ったのだ。

 それもよりによって平和の日の前日。

 多分ZEKEの完成と改造が終えた事を知ったのだろう。

 報告したのは私ではない。

 マザーベースに潜んでいる別の協力者の方だ。

 なんでもう数日待ってくれなかったのかと考えるほど辛かった。

 恥ずかしい想いはしたくないと本気で練習し、三人そろってのセッションも問題なく出来、あとは本番を待つばかり。

 どうしてと何度も疑問を浮かべて、朝目覚めたら指令そのものが夢にならないかとも願ったけども残酷にも現実であると告げられる…。

 私は精密な駆動系に細工でもして決行日を数日だけでも延期できないかと悩み、その考えはミラーからの通知でかき消えてしまった。

 

 なんと平和の日が早まったのだ。

 理由はバットがそろそろマザーベースを離れるとの事で、平和の日とバットのお別れ会を一緒に行うからと。

 正直バットが去る事に悲しみを覚えるも、作戦を決行すれば彼はスネークと共に立ち塞がり、彼らか私かが命を落とす。

 そうなれば今別れようと変わらないと割り切り(感情に蓋をし)、計画延期を画策するほど楽しみにしていた平和の日を楽しむことにしよう。

 

 毎月行われるパーティと違って穏やかに、和やかに始まった平和の日。

 誰も彼もが微笑み合い、楽し気に談笑している。

 そんな全員の視線を集めて私達は舞台の上に立つ。

 楽器を持ったミラーとザドルノフに、マイクを握った私。

 皆の顔を眺めるとふつふつと今日までマザーベースでの生活の光景が脳裏を過った。

 

 チコに誘われた釣りは、私に無駄な事をさせないでほしいと思いながらも、初めての体験に興奮しつつ大物かと思われた獲物が想像していたより小物だったことに肩を落とした。

 接し方が分からないのか距離を置いていたのに、意外と気にしてぶっきらぼうに話しかけて来るパイソンには、戸惑いが見え隠れして可愛らしく見えて内心苦笑してしまう。

 アマンダとセシール、エルザとわいわいと騒がしくも料理を作り、出来上がった料理を振舞って美味い美味いと兵士達の舌を唸らせ、それを満足気に私だってこれぐらいの料理が出来るのだと微笑んだ。。

 兵士達が行っていたサッカーの試合では欠員が出て、ヒューイによって私が急遽参加させられる形になり、適度に手を抜けばいいものを熱くなって汗だくで必死にボールを追った。

 甲板で日光浴をしていたらストレンジラブに紫外線による肌への危険性を解かれ、日焼け止めクリームを塗られてしまった時は狙われている(・・・・・・)と不安を抱くも、塗る時に間近で観た彼女の美しさに魅入ってしまった事に驚いてしまった。

 二股をしたミラーを注意したスネークが浴場から甲板まで全裸で殴り合いをしながら移動する様は呆れ果て、グラーニンに無理やり付き合わされた飲み会(私はジュースで)には同席させられたソコロフと一緒に困り顔を浮かべてしまう。

 

 いろんなものが脳裏を過り、私の感情が大きく揺さぶられる。

 だけど私も立ち止まる事は出来ないのだ。

 

 私は歌う。

 今この平和な時を噛み締めるように。

 パス・オルテガ・アンドラーデという少女はもうすぐ死に、パシフィカ・オーシャンとして数日後には対峙するのだ。

 私は感情を込めて歌いながら、微笑を向けているバットを見つめる。

 心の底から聴き入り、マザーベースで一番接しているにも関わらず、全然察する事すら出来なかった人…。

 だからもう少し良いよね?

 もう少しだけパスで居ても…。

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