メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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蝙蝠と平和は蛇を困らせる…

 バットと別れたスネークは階段を駆け上がり、メタルギアZEKEのデッキへと出る。

 そこでは格納庫へと繋がる開閉口が開かれ、エレベーターでメタルギアZEKEがデッキへと上がって来たところだった。

 改めてこう対峙するとその巨大さに圧倒される。

 ピースウォーカーと違い基本二足歩行で歩き、ピューパのブースターにクリサリスのレールガン、コクーンの装甲と今まで戦ったAI兵器の良いとこ取りした機体。

 これを何者かが悪用しているとしたらかなりの強敵であるが、新規に製造したAIによる無人機であるがゆえに管制塔から遠隔で停止させることは出来る。 

 デッキに上がったのを確認してカズに連絡を入れようとする前に、ZEKEより音声が発せられる。

 複合音声により喋る機能を得ているが、発せられたのは人の声であった。

 

 『遅かったね。BIGBOSS』

 「パス?何をしているんだ。危ないから降りろ」

 『危ないのはどっちかな』

 

 予想外の人物に困惑しながら促すも、何やら様子がおかしい事に眉を潜める。

 そもそも無人機であるZEKEにパスが居る事事態おかしな事なのだ。

 今度こそカズのと回線を開く。

 

 「カズ。ZEKEを止めろ」

 『駄目だ。制御を受け付けない!』

 「なんだと!?」

 『私が改造したの』

 『改造だと!?どうやって…いや、いつの間に」

 『さぁてね。意外とメカ好き?』

 『まさかザドルノフはその為の囮か!』

 

 ザドルノフの脱走を手引きしている者が居るのは察していたがそれがまさかパスとは思いもしなかった。

 盲点…。

 十代の少女だからと信じすぎた代償がこの状況下と後悔するも、今はその時ではないと銃を構える。

 

 『これは(ZEKE)CIPHERの創造物よ。だから返してもらうわ』

 「パス…君は一体…」

 『五月蠅い!その呼び方は止めろ!反吐が出る!私はパシフィカ・オーシャン。

  名前も年齢も計画も全てCIPHERから与えられ、今日この日の為に活かされてきた…

  嗅ぎ煙草も十代の女学生も平和の使者も今日でお終い!」 

 

 荒々しく言い放つも一時の気の迷いと言う訳ではなさそうだ。

 真剣に耳を傾けながら、いつでも動けるように心づもりはしておく。 

 

 「そいつでどうするつもりだ?」

 『簡単な事よ。国境のない軍隊は国境の無い国家に尽くすべきなのよ。そう“国境なき統治世界”の為に』

 「国境なき統治世界…」

 『もうすぐ冷戦は崩壊し、電子防諜(シギント)の時代が始まる。あらゆるものが電子の世界に統合されることになり、それらをCIPHERが情報を集め、世界を見張り、意識を誘導管理する。

  争う事しか出来ない人類が初めて一つの意思の下に統治される。

  貴方達にはそれが完成するまでの守護者となって貰いたいの。

  抑止論はコールドマンが言ったように欠点がある。彼はそれを補う形でAI兵器に頼った。だけどCIPHERは違う。CIPHERは抑止ではなく制御。銃を管理することを思いついたの。これこそ平和幻想への最後のアプローチ』

 「銃を…力を管理する事など出来はしない」

 『ぶっぶー!では交渉決裂!残念でした!そして今度は最後通牒。ZEKEは核攻撃態勢に入った。目標は合衆国東沿岸!』

 「なんだと!?何のために!」

 『貴方達がどれだけ危険な存在かを世界に知らしめる。世界は恐怖するでしょうね。貴方達のような驚異的存在に。そして二度と同じことを繰り返さないように貴方達のような存在を作らせないように抑止力になる。気に入ってくれたかな私のシナリオは?』

 

 可愛らしい笑みを浮かべているのだろうな。

 いつもなら和む口調であるも、今はそんな余裕はない。

 彼女は本気で撃つ気なのだろう。

 止めなければ…。

 そう思ってトリガーをひこうとしたスネークは、周囲より響いて来た声で指を止めた。 

 

 『僕は気に入らないなぁ』

 

 姿は見えないが大音量に拡声されたバットの声。

 パスも何処からかと周囲を探索しているようで、ZEKEの頭部が辺りを見渡すように動く。

 されどバットの姿は全くと言っていいほど見えはしない。

 

 『僕だったら核攻撃を阻止し、ZEKEを止め、悪さをした女の子には説教をして、最後はみんなで宴会して騒いで楽しむのが良いかな。ワインも残っているしまたサングリアを作ってさ。つまみは豪勢にあるだけの食材出し切る感じで酔って騒いでの大団円』

 『下らない。二流…三流作家以下のシナリオね』

 

 姿が見えない事に急に不安を覚え始めた。

 まさかまさかと思いながら視線を―――メタルギアTONYのデッキへと向ける。

 

 『目には目を。歯には歯を。銃には銃を―――メタルギア(ZEKE)にはメタルギア(TONY)を!』

 

 嘘だろと半分呆れながら上がって来るメタルギアTONYを眺める。

 二機のメタルギアが自分を中心に対峙している。

 いや、今は挟まれている自分もそうだがこの状況そのものが非常に不味い。

 マザーベースにて二機のメタルギア同士の戦闘が開始されようとしているのだから。

 被害は相当なものになり、最悪洋上プラントの一つや二つ崩壊しかねない。

 

 『貴方も邪魔をするというのなら容赦はしない!』

 『勿論邪魔させてもらうさ。行くぞメタルギアTONY!初陣を飾るぞ!!』

 『スネェエエエエク!あの馬鹿(バット)と核を止めろぉおおおお!!』

 

 無理だろ…。

 半ば自棄になったスネークは二機のメタルギアの間より離れ、海を眺めながら葉巻に火をつけた。

 先ほどまでのシリアスは何処に行ったのやらと他人事みたいに考え、その後ろでは汎用換装二足歩行戦機・有人改造機“メタルギアZEKE”とバット専用四足歩行戦機“メタルギアTONY”が咆哮を上げて戦いの火蓋を切ろうとしていた…。

 

 

 

 

 

 

 ―――メタルギアTONY。

 グラーニンがバットとの約束を果たすべく専用機として開発を進めていたトリケラトプスを連想させるような四足歩行のメタルギア。

 国境なき軍隊では核を搭載し、コスタリカにて改良型AI兵器と戦っては記憶盤を回収させられていた事からメタルギアZEKEの認知度は高いが、TONYは一部の者しか知らない。

 大型レールガンなどで遠距離からの攻撃を行えるZEKEに対し、TONYは中距離・近接戦に特化した対人兵器。

 私はグラーニンやバットとの会話で情報を仕入れていたので知ってはいたが、対峙するとなるとかなり厄介な相手である。

 

 「止めれるものなら止めてみろ(お願い…止めて)!」

 『止めるよ。絶対に』

 

 気持ちに蓋をして叫び、跳躍して別のプラントへと飛び移る。

 近接・中距離対応と言う事で防御力が高く、重量もZEKE以上にあるメタルギアTONYとの近接戦闘は分が悪いと考えたのだ。

 プラントに飛び移ると大型レールガンを上空へと向ける。

 すでにレールガンには核が搭載されており、あと数秒で発射することが可能。

 止めようとも身体を二足で支えれずに四足で支えている重量級のTONYは跳び越える事は出来ない。

 ゆえに来るのはミサイル攻撃。

 コクーンから流用した対人対戦車ホーミングミサイルが胴体中央より放たれ向かって来るも、予想していただけに三門の機銃で撃ち落していく。

 こちらは武装情報や機体スペックを知っている事で攻撃が読め、さらにレドームで覆っているレーダー系の索敵機器により誘導兵器などの補足は容易。

 すぐさま発射機動に戻そうとすると予想外の衝撃に襲われてバランスが崩れる。

 何事!?とTONYを睨むと、聞いていない武装―――コクーンの主砲がこちらに向けられていた。

 

 「コクーンの主砲!?そんな物まで搭載していたなんて…」

 『そっちはレールガン持っているから良いでしょ。こっちだってそう言うの(主砲)欲しかったんだもん』

 「何が“だもん”だ。戦闘中に馬鹿にして…」

 

 酷く苛立つ。

 あの抜けたような性格が神経を逆なでする。

 戦場では場違いのような優しさと笑顔を振りまき、周囲にほんわかとした雰囲気を撒き散らす男。

 どれだけ私が救われ、癒やされたか分からない。

 だけどそれ以上に私は嫌っていた。

 羨んでいた。

 憎んでいた。

 バットは私が持ってないものを全部持っていて、楽しそうに人生を謳歌している。

 私にはそれは許されないというのに。

 

 誘導ロケットランチャーは放つと向こうも機銃で迎撃に入る。

 しかし向こうのレーダーシステムはZEKEほど性能は良くなく、外しては着弾を許している。

 そもそもあの機銃は接近してきた歩兵を狩る兵装であり、ロケットやミサイル迎撃用ではない。

 爆発によって生じた煙が晴れるとそこには無傷に近いTONYの姿が…。

 防御力が高いだけあって有効打に成り得ない。

 TONYは巨体を四足で支え、特例を除いて速度は遅い。

 その分、敵からの攻撃を真正面から受ける事を想定して頭部の装甲を強化すると同時に胴体を護るように傾斜をつけるように広がっているので正面からの撃ち合いは決定打に欠ける。

 

 「所詮ゲームはゲーム!勝つか負けるしかないのよ!!」

 『ゲーム(遊戯)っていうんなら楽しもうよ。そんな悲痛な顔してやるもんじゃない』

 「誰がッ…貴方みたいに誰もが能天気には生きていられないのよ!」

 『だったらパスも馬鹿になれば良いじゃないか』

 

 それが出来ないから私はこうしているというのに…。

 あの無神経さが腹立たしい。

 知りもしないでずかずかと入り込んできて鬱陶しい。

 

 ―――怒りのあまりパキリと理性の枷が外れた。

 

 レールガンが使えたのなら有利に事が運べたはずだが、搭載してしまった核が邪魔でただの重しだ。

 目的を忘れて邪魔な核を搭載したレールガンを外し、目の前の戦闘に勝つべく身軽となって飛翔する。

 近接戦を得意とするTONYには頭部に角があり、着地した瞬間を狙って振るってきた。

 身軽になっただけ動きが機敏になって直撃は逃れたものの、胴体を掠めた角によって装甲が削られてしまう。

 

 それぐらいの代償は厭わない。

 削られながらも側面に回ると蹴りを入れる。

 ずっしりした図体の割に大きく揺れたTONYを見てパスは微笑む。

 

 防御力が高く、重量と装甲を用いた近接攻撃を誇るメタルギアTONYは、大きな弱点が存在する。

 現在パスが行っているように側面からの攻撃。

 正面からの攻撃は自慢の正面装甲によって防げるが、側面は硬いも正面ほど強固ではなく、重量ゆえに小回りが利かない。

 さらに脚部は巨体を支える事が目的なので狙って負荷をかけてやれば自重を支えれず自壊する。

 

 そもそもこのように海に囲まれたプラントでは、折角のTONYの長所を殺してしまっている。

 開発に関わったのはグラーニンだけでなく、優れたロケット技術の科学者であるソコロフもおり、シャゴホットにも使用されていたロケットエンジンを搭載している。

 巨体に似合わぬ加速での突撃。

 それこそTONY最大の攻撃…だと言うのに海に囲われたここで使用すると確実に海に落ちるので使えないでいる。

 

 『ちょっ!?ハメ技はキツイって!!』

 「うるさい!うるさい!うるさいっ!!」

 

 叫びながら無我夢中に蹴って、踏みつけ、踏み躙る。

 やはり動き辛いのか反撃は機銃のみ。

 ならばと蹴りを続けるもバットもされるがままなのは気に食わない。

 

 『こうなりゃ僕も自棄だ』

 

 懐に入られたら何も出来ない事を受け入れ、バットは自滅覚悟の攻撃を開始する。

 対人用のSマインを全弾撃ちあげ、背より設置型の避雷針をばら撒いての電撃ユニットにて、自機ともに攻撃を敢行したのだ。

 それに構わず蹴り、攻撃が足りないと思えば機銃での攻撃も始めて、互いに攻撃し続ける。

 ZEKEも相当のダメージを負って、今にも倒れ込みそうなほどガタがき始めていた。が、それでも倒れはしない。

 逆にTONYは主砲が曲がり、機銃は壊れ、脚部は何度も行われた攻撃で駆動系を痛め、その場に倒れ込んだ。

 

 勝ったんだと言う事実による余韻は長くは続かなかった。

 勝者になったと同時に我に返り、予想以上の損傷と自ら仕出かした事(核の放棄)を思い出して頭が痛くなる。

 …なにより横たわるTONY(バット)を見て虚しさが込み上げてきた…。

 

 「結局戦うしかなかったのよ…」

 

 出来ればずっと平穏な日常というものを味わっていたかった。

 皆と馬鹿騒ぎして鬱陶しくも賑やかに過ごしていたかった。

 無駄話に華を咲かせて、お茶会などを楽しんでいたかった。

 

 皆の側でただ単に笑っていたかった…。

 

 「所詮平和なんて幻…ピースマークの“ピース”は勝利の“V”なのよ」

 

 すべては幻想。

 もはや戻る事も叶わない。

 TONYから目を離し、今度はスネークへと向き直る。

 決着がついたのに気付いたのか振り向くスネークは、相も変わらず葉巻を吹かしていた。

 

 「今度は貴方の番よ」

 

 そう宣言するも銃を構える様子はない。

 死にたいのかと問い質そうとした時、葉巻を口元から離しながら口を開いた。

 

 「俺は止めなければならない。どんな結末になろうとも絶対に」

 「なら―――」

 「だがお前の相手はまだ(・・)俺じゃない」

 「―――ッ!?」

 

 意図を察して振り返る。

 相も変わらずTONYは倒れ込んだまま。

 ただコクピットが空いており、降りたバットが最近開発されたばかりのレールガンを構えていた。

 レールガンからの攻撃は容赦なくメタルギアZEKEに放たれ、TONYによって大きく削られた部位に直撃する。

 薄くなっていた装甲を貫通されてはさすがのZEKEもひとたまりもなく、全弾叩き込まれる頃には完全に機能しなくなってしまっていた。

 負けたと脳が理解するもそこに悔しさはなかった。

 

 あったのは「あぁ、やっぱりか」という納得だけであった…。

 

 

 

 

 

 火花を散らし、軋みを上げ、震えながらでもメタルギアZEKEは―――パスはバットと対峙し続ける。

 が、もはや勝負はついた。

 戦闘継続は不可能な状態のメタルギアZEKEに対して攻撃する事は無い。

 撃ち切ったレールガンをその場に転がし、近づいて来たスネークへと振り返る。

 

 「終わったな。存外に派手に暴れやがって」

 「あとでグラーニンさんに謝らないと」

 「カズも怒っているぞ。さて、これからどうする?」

 「どうするって…決まっているじゃないですか―――CIPHERをぶっ潰す」

 

 苛立ちを隠すことなく呟いた。

 パスは言った。

 私は活かされている(・・・・・・・・・)―――と。

 彼女を救おうとするならば利用する大本を潰すしかない。

 こうまでしてくれたのだ。

 徹底的にやってやる。

 “操られる女の子を救ってのハッピーエンド”。

 また三流以下のシナリオだと言われるかな。

 クスリと微笑んだバットは視線をZEKEに戻す。

 

 「まずは悪い子を叱って反省させてからですね」

 「お前らしいな…」

 

 苦笑を受けて笑い合う二人だったが、不意に起きた爆発に反応する。

 予想以上にダメージが大きかったのか、ZEKEの至る所で爆発が発生し始めたのだ。

 パスの安否が気掛かりとなって駆け出したその時、コクピット辺りで爆発が起きて煙の中からパスが飛ばされた(・・・・・)

 

 「止せバット!」

 

 後ろからスネークさんの制止の声が向けられたが、気にも止めずに走り続ける。

 爆発の影響で傾き、運悪くパスが吹き飛ばされた方向は甲板上と甲板外の境。

 間に合えとだけ願い、必死に足を動かす。

 落下してきたパスが手の届く位置に迫り、無我夢中で手を伸ばす。

 伸ばした指先はパスに触れる―――ギリギリで届かず、彼女は甲板外である海へと落ちて行く。

 

 これはゲームであってゲームでは無い。

 洋上プラント甲板から海まではかなりの高さがあり、落ちれば死ぬ可能性が高い。

 勿論恐ろしいさ。

 けどそれ以上に目の前で誰かを失う方が恐ろしい。

 

 無意識にバットは跳んでいた。

 落下していくパスに追い付くように体勢を整え、追い付くともう離さないと言わんばかりに抱き締める。

 海面まで目の前まで迫るも、エルザのように超能力が使える訳ではないバットは落ちるしかなく、少しでも衝撃を緩和しなければと胸にパスの頭を押し付け、覆うように抱え込む。

 迫る海面に対してぎゅっと目を瞑ったバットに、荒立つ波の音が耳に届く…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ここは何処だろう?

 

 意識を取り戻したバットは瞼を開けて周囲を見渡そうとするも、ぼやけてて薄っすらと色と光の識別ができる程度で、ここが何処で自分がどうなっているかさえ理解できないでいた。

 ただ分かるのは右手が誰かに握られて温かなことぐらい。

 ぼやけたままの視界をそちらに向ければ手を握っているだろう人影が映る。 

 そのシルエットから誰かを推測したバットは安堵した。

 

 「無事…だったんだね…パス」

 

 声をかけると影はびくりと跳ねて何処か余所余所しく動く。

 どうしたのだろうと思いながら、今は目を休めようと閉じる。

 彼女は何も言わず、時間がゆっくりと過ぎていく。

 話し出すまで待つつもりだったけど、こういう場合は声をかけたほうが良いのかな?

 なんて思い始めていると彼女は恐る恐る口を開いた。

 

 「…ごめんなさい」 

 「どれの事?ZEKEで暴れちゃったこと?皆を騙していた事?それとも―――頼らなかった事(・・・・・・・)?水臭いじゃない。困っているならそう言ってくれないと。僕って鈍感なんだから」

 「言ったからって…」

 「どうにかするさ。君は僕達の大事な仲間(・・)なんだから」

 

 騙し、裏切り、脅し、殺そうとしたというのにバットはまだ仲間と言う。

 その言葉に蓋していた感情が溢れ出し、パスは思いっきり泣き出してしまう。

 ひとしきり泣き、落ち着くまで待ったバットはまだぼやけた目の代わりに周囲を知ろうと問いかける。

 

 「あー…目がぼやけて周りが見えないんだけど、ここってマザーベースの医務室?」

 「違うわ。何処かも判らない。見たことのない物がいっぱい並んでて……もしかしたらCIPHERに捕まったのかも…」

 

 声から不安や悲しみが感じ取れ、バットはパスの頭をそっと撫でた。

 多分戸惑っているんだろう。

 手のひらから感情が伝わってくるようで面白いなと微笑む。

 

 「大丈夫だよ。僕が居るから」

 

 落ち着かせるように言い、ゆっくりでいいから周囲を教えて貰う。

 室内はベッドや机など知っている家具が置いてあるものの、用途不明の箱型の機器に壁に張り付いたモニター、バットに装着された機械類など伝わり切らないが色々語ってくれた。

 徐々に視界がクリアになっていく中、バットは聞き逃せない単語を耳にする。

 

 「透明な筒に葉巻(・・)が入っている」

 

 その言葉に宮代 健斗(バット)は跳び起きる。

 箱型の機器(ゲーム機)に壁に張り付いたモニター(テレビ画面)装着された機械類(VR機器)

 室内の家具は見覚え処が馴染みがあり、ここが自身の―――現実の一室であることを理解して混乱するも、頭の中は歓喜乱舞していた。

 

 なにせこちらには(・・・・・)CIPHERなんてものはない。

 パスが縛られる事は無い筈だからだ。

 

 ただあちらの世界に帰りたいと言われても帰す手段は持ちえないが、それでもパスにとってはあちらよりこちらの方が生きやすい……筈だ。

 

 それを伝えようと興奮気味にパスへと振り返った健斗は膠着した。

 

 理由は解からないが世界を超えた二人。

 バットから宮代 健斗に戻った事で服装はこちらの私服に戻っているが、こちらから渡った訳ではないパスは向こうの服装のまま…。

 メタルギアZEKEを有人機に改造して乗り込んだが、元々人が乗る用に作られたわけではないので乗り心地は最悪。揺れればもろにコクピットにも反映されるので、最悪パイロットが死んでしまう。

 そこでパスはコクピット内を水で満たす事で衝撃を緩和させ、潜水用の装備を使用する事で乗り込めるようにしたのだ。

 いつものブレザー姿では水を吸って重たく、動き辛いので身軽になって…。

 

 つまり海に落ちて行く時の姿であるパスは、真っ白の下着姿で肌を濡らした状態…

 

 「―――ッ!?と、とりあえずこれ羽織って!!」

 

 顔を茹蛸のように真っ赤にした健斗はベッドにあったシーツを投げ、身体が冷えているだろうから風呂の準備をしつつ、何か服はないかと洋服ダンスの中をひっくり返す。

 シーツを受け取り、自分の状況を知ったパスも真っ赤に染まり、シーツで身体を隠すように羽織ると、慌てふためいて空回りしているバットの様子にクスリと笑うのであった。

 

 

 

 

 

 

 メタルギアZEKEとメタルギアTONYによる世界初メタルギア同士の戦場となったマザーベース甲板上で、スネークは海を眺めながら葉巻を吹かす。

 あれから一週間…。

 結局バットもパスも見つかる事は無かった。

 パスがCIPHERの工作員であったことも衝撃的であったが、バットが行方不明となった事も相まってマザーベースはお通夜のように静寂と重苦しい雰囲気に包まれている。

 あまりに重苦しくてこうして一人海を眺めながら葉巻を吸っている訳だが…。

 

 ニカラグアに戻らなければならないアマンダは、海岸線付近に居る同志に漂流者が居ないか網を張ると言ってくれ、チコは干からびるのではと思えるほど大泣きしてしまい引き摺られて帰って行った。

 セシールは親しかった女性兵士と共に思い出を語りながら残して行ったサングリアで酔い潰れ、パスともバットとも親しかったストレンジラブはぽっかりと感情に穴が空いてしまったようだ。

 特にカズは深刻だ。

 カズはパスの正体を知っていた。

 それもCIPHERの工作員と言うだけでなく、CIAともKGBとも繋がりのあるトリプル・クロス(三重スパイ)だと。

 知っていて組織拡大の為に利用しようとパスがマザーベースに居られるように便宜を図ったりもしただけに、今回バットが行方不明になってしまった事で悔やんでいるようだ。

 

 正直バットに関してはそう気に病む事ではないと思うのだが…。

 アイツが海に落ちた程度で死ぬとは思えないし、突然姿を暗ますなど毎度の事ではないか。

 

 これは俺だけでなく以前から付き合いのある連中は皆が同様の考えであった。

 グラーニンは派手に壊しよってと愚痴を言いながらTONYの修理に専念し、スコウロンスキー大佐はそのうちひょっこり姿を現すだろうと気にも止めていない。

 心配するだろうと思われたソコロフでさえ「また消えたのか」と呟く程度…。

 その程度の認識なのだ。

 だから大佐の言うようにまたやって来るさ。

 唐突に…。

 

 「またここで吸っていたのね」

 「副指令が不調なんだ。司令が指揮所に居てくれなければ困る」

 「すまん。中は重っ苦しくてなぁ」

 「それは確かにな…」

 

 甲板に上がって来たエルザとパイソンは苦笑いを浮かべて同意する。

 彼も彼女も同じく重く受け止めていないので、今のマザーベースは居心地悪く感じてしまうようだ。

 

 「まったく引っ掻き回すだけ回すなアイツは」

 「おかげでこっちは乱されっぱなしだ。重苦しい上に甘ったるいと来たもんだ」

 「甘ったるい?…あぁ、ヒューイか」

 「良いじゃない。いつまでもうじうじされるよりは」

 

 ヒューイはストレンジラブに好意をずっと寄せていた。

 今回の件が原因なのかは解からないが、憎からずも思っていたストレンジラブが発破をかけた事で、やる気を出して一歩ずつ歩み出しているようだ。

 進展しているようで何よりだが、そのせいでZEKEの修理があまり進んでいないのはどうにかして欲しいものだ。

 

 吹かしながらあの時の事を思い起こす。

 海へ落ちて行くバットとパスに追い付けなかった俺は、海面に叩きつけられる直前の光景を目撃した。

 二人が落ちて行く先に空間を切り裂くようにして出来た穴。

 その中からこちらを見つめ、受け止めようとしているようだった複数の人影…。

 

 あれは何だったのか。

 自身の瞳で確かに見た筈なのだが、幻覚と言われた方がしっくりくる。

 煙ではなくため息を吐き出して、曖昧なモノを頭から追い払う。

 

 「まぁ、いつかバットに話してやろう」

 「貴方のせいでこんな状況になったのよって?」

 「愚痴っても良いだろう」

 「―――戻ってくると思うか?」

 「絶対に」

 

 パイソンの問いに間髪入れずに答えた。

 何時かは分からないがまたアイツとは会えると何となく解るのだ(・・・・)

 三人してアイツを思いながら海を眺める。

 

 「そう言えばアイツのコードネーム蝙蝠(バット)だったよな」

 「ああ、そうだな」

 「目立つような長い真っ黒のコートを靡かせて…まるでマントを羽織っているようだったね」

 「それが?」

 「蝙蝠。マント。突如として現れ、霧のように消えていく。まるで映画で見た吸血鬼ドラキュ――」

 「止めてくれ」

 

 最後まで言わさない。

 「どうした?」と不思議がるパイソンと察したエルザから逃げるように、スネークはその場を去るのであった。




 PW編完結! 
 如何でしたでしょうか?
 楽しんで頂けたのなら幸いです。
 
 次回…来週よりⅤに突入致します。
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