メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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澄んだ空と狙撃手

 澄んだ青空にゆるりと白い雲が流れて行く。

 地面に横たわって穏やかな時間をバットとスネークは過ごしていた。

 陽の光はぽかぽかと温かく、風はゆっくりと肌を撫でる。

 周囲は朽ちた遺跡に囲まれながら自然豊か。

 風が通るたびにふらりと草木が揺れる。

 

 「ヴェノムさん、どうぞ」

 「すまない」

 

 寝転んだ状態でバットは持ち込んだ水筒よりお茶を蓋兼コップに注いでスネークに渡す。

 この陽気の下で、優雅にランチと洒落込んでいる。

 無論料理はバットが作ったもので、おかずに鳥の唐揚げにウインナーなどが用意され、メインには具材の種類が豊富なおにぎりがランチボックスの中に並ぶ。

 日本の料理らしいがこれが中々に美味い。

 白米に塩を塗して三角型に握っただけのものであるが、この薄っすらとした塩気と噛むとほんのりとした旨味と甘味が広がる米の相性が良い。

 中の具材も様々でかつお節の旨味と醤油の深いコクと塩気、脂身たっぷりのサーモンフレーク、甘辛いタレに包まれたしっとりとしたミートボール、しゃきしゃきと歯応えのよい甘味と塩気がハーモニーを奏でる漬物。

 どれも美味しくて手が止まらない。

 …ただ梅干しという酸っぱいやつは手が出し難いが…。

 隣でその梅干し入りをパクリと含むバットのにこやかな顔を眺めつつ、温かいお茶を啜る。

 

 「のどかですねぇ…」

 「そうだな…」

 

 深々と深呼吸をしながら頷く。

 戦地を駆け巡っている身としてはこういう時間というのは中々得難く、自分からは作り辛い。

 こういう機会なのだから満喫するのも良いだろう。

 

 「この銃声さえなければな…」

 

 寝転がっている二人を囲んでいる遺跡の残骸に衝撃が走り、飛んできた弾丸が食い込まされる。

 続いて遅れに遅れて銃声が響き渡って来る。

 現在狙撃手に頭を抑えられているのだ。

 今までいろんなダイヤモンド・ドッグズに依頼された任務を熟して来た。

 俺の義手を制作したバイオニクスの権威(技術者)の救出に“ハニービー”と呼ばれる二波長誘導式携行ミサイルランチャー“キラービー地対空ミサイル”の回収、会合を開いた敵部隊長達に戦車隊に装甲部隊の排除などなど。

 ハニービーの時にはカズを救出した時に現れた異能な敵部隊―――“髑髏部隊(スカルズ)”が現れて交戦した。

 驚異的な存在ではあったけどもバットと共に行動していただけに容易に退ける事は出来たが、奴らはいくら撃っても立ち上がってきた。まるで不死の化物のように…。

 そして今日はラマー・ハーテ宮殿の廃墟にて収容されていたマラクという人物を救出しに来たのだ。

 他にも民間人からゲリラまでも囚われており、それらの全員を救出しようと敵を無力化してまとめてフルトン回収して任務を完了して帰投――――の筈だった…。

 

 任務を午前中に終えてしまって弁当を持ち込んだバットとしては、天気も良いので何処かでランチをしようという話になり、そこでカズよりアブ・シャファフ遺跡という古い遺跡があると聞いて、観光がてら行ってみようという事になったのだ。

 移動の道中にはカズより要人を暗殺しているスナイパーが居るなんて噂話程度の話を聞きながら談笑し、到着早々狙撃されて身動きが取れなくなってしまっている。

 

 『無事かスネーク!?バット!?』

 「…うーん、味噌汁が欲しいですね」

 「俺はこの前作ってくれた卵焼きが―――」

 『余裕かお前ら!!』

 

 無線よりカズの突っ込みが入るも正直現状着弾するも、周囲を遺跡などで囲まれているので狙撃で撃たれる可能性は低く、バットの雰囲気に当てられてどうも緩んでしまっている。

 一応突っ込まれてバットが弁当箱を仕舞い始めて様子を伺う。

 

 「下手に頭出すと撃ち抜かれふほ(るぞ)

 「心配するなら食いながらしないでもらえます?」

 「―――ゴクン、美味いから仕方がない」

 

 顔を覗かせた瞬間に弾丸がバットの脳天を吹き飛ばそうとしたものの、相変わらずの反射神経(CQCモードの応用)で回避したバットは不満そうに注意するが、返された言葉でにんまりと笑って機嫌を直した。

 それにしてもあの狙撃手の技術は凄まじいものがある。

 高い命中精度に照準を合わせる速度、広範囲を一人で索敵もする視野の良さと広さ。

 ダイヤモンド・ドッグズ…否、国境なき軍隊で狙撃を得意としていた兵士と比較しても、アレほど優れた狙撃手は居なかった。

 何よりもあの移動方法…。

 

 反撃にこちらも狙撃銃で反撃するも弾は当たらず、人間離れした飛翔した後に目で追うのも難しいほど足が速い。

 しかもどたばたと走って足音や砂煙を立てるのではなく、力強く地面を蹴って跳ぶように駆けて行く。

 様相が違うだけであの“スカルズ”のようではないか。

 

 「カズさん、こちらの映像見えますか?」

 『送られている映像は逐次目を通しているぞ』

 「あの身体…凄いですよね」

 『あぁ、確かに。出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる。何という―――』

 「…言っておくがバットが言っているのは、あの身体能力の事を言っていると思うぞ」

 『………も、勿論解っているさ。今のは場を和ませようとだなぁ…』

 「戦闘中だぞ」

 「僕達には注意したのに…」

 

 こちらもため息もだが、無線越しにカズの周囲でもため息を漏らされているらしい。

 カズの言葉に確かにと納得はするが、素直にそう言う視線をスネークは向ける事は出来ない。

 なにせあの女には見覚えがある。

 キプロスの病院にてスネークは武装集団に襲われた。

 戦闘ヘリに装甲車、戦車まで持ち出した一団が襲撃する少し前。

 病室のベッドで医者に説明を受けていた際に殺しに来た暗殺者…。

 身動きがろくに出来なかった俺の前で看護師と医者を絞殺し、次に俺を殺そうと襲い掛かって来たが、隣のベッドで治療を受けながら護衛についてくれていたイシュメールのおかげで事なきを得た。

 が、それはそれで可笑しい事もある。

 

 あの時の暗殺者はイシュメールが投げつけた薬品と火によって全身を焼かれ、熱さに耐えかねて雨が降る外に出ようと窓から飛び降りた筈だ。

 しかしあの狙撃手は上下ビキニに穴だらけのストッキングという兵士にしては露出の多い格好をしており、その肌は綺麗なもので遠目ながら火傷の跡など見受けられない。

 

 「まさかヴェノムさんも見惚れましたか?」

 「そういうお前さんはどうなんだ?」

 「僕はパス一筋ですから」

 「惚気か。とりあえず俺にそれはない。一度病院のベッドでアイツに襲われたからな」

 『ベッド!?襲われた!?あんな美女に!?なんて羨ま―――』

 「命を狙われかけたんだが?」

 『―――…そ、そうか』

 

 バットの雰囲気に当てられた事により張っていた緊張が解けて、以前に比べて明るくなったという者が幾人かいるとオセロットより聞いたが、これは緩み過ぎではないだろうか。

 特に副指令がこれでは風紀が乱れる。

 後でオセロットに引き締めを図ってもらうとして、とりあえず現状の打破を図らねば。

 …腹も膨れた事だしな。

 

 「さて、どうやってアレを倒す?」

 「僕らの狙撃では勝てそうにないですからね」

 「援護してやるから突っ込んで来い」

 「さすがにあの長距離走るのはきついですよ。それに速力も違いますし」

 「打つ手なしか」

 「ビィ(・・)で近づく訳にも行きませんから」

 

 “ビィ(・・)”というのはバットの相棒(バディ)である。

 ダイヤモンド・ドッグズの依頼は多く、複数の任務または任務の種類によっては広い範囲を行き来しなければならなくなる。

 その際にヘリで移動すれば離陸着陸時に目立ったり、近場にレーダー施設があれば確実に見つかってしまう。

 ジープなどの車両もあるが場合によっては置いていく必要があって、回収はもちろんガソリンなどにもお金と手間が掛かる。

 そこで考案されたのが動物を相棒として移動などに扱う事だった。

 

 スネークを例に挙げればD・ホースと名付けられた、元はオセロットの馬であった白馬がそれにあたる。

 オセロットによって調教されたD・ホースは指示に従順で、口笛を吹けばすぐさま駆け付け、待てと言えばお呼びがかかるまでジッと待機する。他にも荒野に居ても別段警戒するような事もないので少し離れて付いて来ても怪しまれない利点もある。

 今回は任務が救出なのでまずは捜索に重きを置き、DD(・・)を連れて来た。

 

 DDは任務中に保護したこの間の犬で、オセロットに調教を任せっきりにしていたら成長期だったのか、任務帰りに会う度にみるみる大きくなって、今や大型犬ほどの大きさまで成長している。

 犬だけあって嗅覚が非常に優れていて、長距離の相手でも位置が分かってしまう。

 おかげで目で追えなくとも狙撃手の位置が把握できて助かっている。

 

 そしてバットの相棒である“ビィ”だが、50キロの速度で駆ける上にD・ホース以上に荷物を運べる力持ち。

 正式には“D・B”と名付けられたダイヤモンド・ドッグズ所属の(BEAR)…。

 バットが大量に捕獲した動物の中の一頭であるヒグマ。

 正直オセロットは目立つし、近くを歩いていたら敵も別の意味で警戒する。

 それ以上にヒグマ相手に調教などしたくないと言ったのだが、大きくて可愛いからとバットは諦めきれず、自らいう事を聞かせるという事で相棒となったのだ。

 ただ調教など一切しておらず、なのに何故かはわからないがバットの言う事を理解しているらしく、アイツの言う事は素直に聞いている。以前D・ホースと一緒に居たが襲う事も無かった。

 襲う事が無かろうとD・ホースは怯えていたが…。

 そのビィはバットに“待て”と言われて離れた位置で横になり、次の指示が出されるのを置かれたご飯を食べながらじっと待っている。

 あれに乗って近づけば確実にビィが撃ち抜かれてしまうのは容易に想像できる。

 

 打つ手なし…。

 だけどバットならば何かしら手を打てるのではと期待の眼差しを向ける。

 頬を掻きながらバットは微笑、無線でカズに何やら指示を出しているようだ。

 出し終えるとニタリと嗤って撃たれないように気を付けながら双眼鏡を覗き込む。

 

 「何をした?」

 「まぁまぁ、見ていてください」

 

 勿体付けるという事は本当にろくでもない作戦を思いついたのだろう。

 どうするつもりか拝見させてもらおう。

 同じく位置が解っているので狙撃され辛く隠れながら双眼鏡で狙撃手を見つめる。

 すると予想していた位置より少しズレていて、銃口が双眼鏡と重なる。

 しまったと撃たれる事に慌てた矢先、強い衝撃が頭を襲った。

 

 …あの狙撃手の方の、だが…。

 

 向こうも思いもしなかっただろう。

 頭上より緑色の箱が降ってくるなど…。

 降って来た高さに質量もあって、衝撃から脳が揺さぶられて気絶したのだろうか?

 狙撃手は箱が落ちてからピクリとも動かない。

 

 「行きますか。ビィ!」

 

 呼ぶとビィはのそのそと歩み寄り、バットはその背に飛び乗る。

 期待したのは俺だが思ったより邪道というか悪知恵が働くというか…。

 呆れの混じった視線を向けながら狙撃手へと向かっていく。

 

 降って来た箱はダイヤモンド・ドッグズより運ばれた輸送物資だ。

 ダイヤモンド・ドッグズは非公式の傭兵組織。

 各国の軍隊のように領土内や制圧区域に拠点を乱立させる訳にはいかないし出来ない。

 同時に補給線を張り巡らす事も出来ない。

 任務によっては長期に渡って行う事や任務に出て他の装備が必要になる場合、勿論任務中に武器弾薬が足りなくなることだって

あり得る。

 そこで箱に物資を詰めて、気球を用いて注文者が送って来た座標に配達する。 

 相手の位置を座標指定し、箱に重しを入れてそれを高所より落として物量兵器に…。

 本当に呆れてしまう。

 

 何度目かのため息を漏らしながらようやくたどり着く。

 そして倒れた狙撃手の元まで来たところでバットは様子を見て大慌てでポーチを漁り始めた。

 

 「どうした?」

 「頭蓋骨が!キュアー(治療)!!」

 「お前なぁ…」

 

 急ぎ治療を始めたバットを半眼で見つめた後、転がっている箱を見下ろすと、落ちた衝撃で蓋が開いてグレネードランチャーやアサルトライフルがちらりと見受けられる。

 何十キロもあるものを空から降らしたら頭蓋も割れるわな…。

 けどバットが怪我を治療するのであれば死んでいなければ完璧に治せるだろう。

 さっと治療を終えたバットは早速フルトン回収しようとして無線が入った。

 

 『止めを刺すんだ』

 

 先ほどの雰囲気など微塵もなく、冷たいカズの言葉が放たれた。

 

 『そいつは解かっているとは思うが“スカルズ”の同類だ―――殺せ』

 『待て!そいつを少し調べたい。連れて帰ってくれ』

 『サイファーだぞ!絶対に受け入れない!!』

 『そいつを決めるのはボス(スネーク)だ』

 

 カズとオセロットの言い合いでバットは手を止め、こちらに問いかけるように視線を向けて来る。

 答えは決まっており、途中で止められたフルトンを外して手錠で拘束した。

 

 「ヘリを呼んでくれ」

 『スネーク!危険だ、殺せ!!』

 『よく生け捕りにしてくれた。そのまま連れ帰ってくれ』

 『連れ帰っても殺すだけだ』

 

 狙撃手を持ち帰るのを賛成しているオセロットと反対しているカズとでの言い争う声が無線からずっと垂れ流される。

 手足を縛って身動きできないようにして担ぎ、設定した着陸地点にヘリが到着するのを待つ。

 その間にも二人の言い争いが聞こえ、バットとは別なため息が漏れる。

 すでに連れ帰るつもりでいるスネークは聞き流していたが、バットは苛ついたのかムッとして大きなため息を吐き出した。

 

 「…民間人だけど下着姿で金髪のパリジェンヌには速攻でヘリを準備してくれたのに」

 『ちょ、お前ッ!!それは違ッ―――』

 『ミラー…お前…』

 『そんなゴミを見るような目で俺を見るんじゃない!みるんじゃぁあなぁあああああい!!』

 

 叫び声の後に無線は切れた…。

 多分指令室で何かあったな。

 

 「えげつないなお前」

 「え?ナンノコトデスカー」

 「解ってやったな」

 

 ワザとらしい片言にクシャリと嗤う今までに見た事の無い悪い笑みに、以前までの違いをハッキリと感じる。

 けどすぐさまニカリと爽快に笑う様子に小さな安堵を浮かべる。

 スネークとバット、そして拘束された名の知らぬ狙撃手は降り立ったヘリに乗り込むのであった。

 

 …ビィとDDはフルトン回収で一足先に帰還するので、空に舞う一頭と一匹は楽しそうに叫ぶのである。

 

 

 

 

 

 

 マザーベース指令室は空気は最悪だ。

 ミラーの失言の数々で雰囲気はパイソンが液体窒素を撒いた訳でもないのに非常に冷たく寒い。

 特に指令室に詰めていた女性兵たちの表情は感情が抜け落ち、ミラーに向けられる視線はどんな刃よりも鋭かった。

 先ほどまでオセロットとあの狙撃手をどうするかで揉めていたのが嘘みたい。

 一応様子を伺っていたエルザはあの事(セシール)かと懐かしい思い出にクスリと微笑む。

 彼女は今頃何をしているかな?

 “カリブの大虐殺”が起きる大分前にフランスに帰国したので無事だったが、元々が表の住人だっただけにもう会う事は無いだろう。

 

 一人ほのぼのと思い出に浸っていると警報が鳴り響く。

 なんだなんだと皆が警報の原因を探り、それがスネーク達が搭乗しているヘリからと知ると緊張が走る。

 緊急事態というのは予期せぬからこそ起きる。

 整備不良や機器の不具合などいつもならあり得ないと思っている些細な手違いが徐々に機体の調子を狂わして最悪墜落なんてのもあり得るのだが、今回は皆が予期していた事態を速攻で思い浮かべた。

 ヘリの中にはミラーが言うようにサイファーの手先と思われる化け物(狙撃手)が乗せられている。

 拘束したとはいえ何をしてくるかは解らない。

 脳裏に過るのは“カリブの大虐殺”にてスネークが搭乗していたヘリが墜落した原因とか…。

 

 機内の様子をモニターが映すと中で狙撃手が何かやらかしたという訳では無かった。

 考えてみればそんな事あり得ないとすぐ解る。

 スネークだけでも難しいというのにバットも搭乗しているのだ。

 狙撃手が拘束された状態であの二人を前にどうこうするなど、ザ・ボスでない限り出来る筈がない。

 

 そして安堵する間もなく、警報の理由に指令室の皆が焦りを現す。

 見つかってしまったのだ。

 輸送しているヘリの後方を戦闘機が飛行する。

 何処の軍隊のかは解らないが非常に不味い。

 ヘリでは速度的に戦闘機を離せないし、戦闘能力に機動性を考えて勝ち目はない。

 戦場も陸地の見えないだだっ広い海上ともなれば隠れる事も出来ない。

 このままではマザーベースの位置を知られてしまう。

 

 スネークもバットも異常な戦闘能力を持ち、コスタリカの地では歩兵ながらヘリや戦車とも戦ってきたが、真正面から正々堂々と挑んで勝利を得た…という訳でない。

 完全ではないにしても勝つ為の武器を手にし、地形や遮蔽物を利用して勝利してきたのだ。

 地形は利用できない上に足元は狭すぎるヘリの機内のみ。

 逃げ場も無ければヘリとは異なる戦闘機相手に有効な武装も無い。

 状況は最悪…。

 彼らに出来るのはヘリに搭載されているガトリングガンや手持ちの小火器で弾幕を張るか、諦めて投降もしくは撃墜されるかだけだ。

 

 「マザーベースの位置を知らせるな!」

 『了解。回避します』

 

 少し前までの雰囲気は完全に消し飛び、緊迫したミラーの指示が伝えられる。

 さすがに戦闘機は持っておらず、持っていたとしても今からでは救援も間に合わない。

 最も最悪な状況だけは避けるべく、帰投しようとコースを取っていたヘリは進路方向を変える。

 マザーベースまで約1900マイルもあって、戦闘機はまだこちらの位置は確認できていない。

 だからこそヘリの方向転換を見逃すわけにはいかないらしい。

 急に方向転換したヘリに追い付いた戦闘機は通り様に機銃を撃って行く。

 勿論当たらないように進行方向先に撃ってはいたが、これは警告を交えた威嚇射撃であっただろう。

 

 「不味いわね…」

 「おい、あの狙撃手が居なくなってないか!?」

 

 不味い状況に不安を覚えているとオセロットが機内に狙撃手の姿が無い事に気付いた。

 他のカメラで確認するも何処にも居ない。

 この騒ぎのどさくさに海にでも落ちたか?

 そう一瞬思うも今は居ない狙撃手より戦闘機の方が問題だ。

 

 『ロックオン警報!』

 『フレア発射!!』

 

 通り過ぎた戦闘機が旋回し、ヘリがロックオンされたことを示すとすぐさま赤外線センサーを惑わすデコイ―――フレアをばら撒く。

 警報後に放たれたミサイルはフレアによって目標を乱され、あらぬ方向へと飛んで行った。

 どうやら向こうは案内させることを諦め、撃墜して捕虜を取って情報を搾り取る選択肢を棄てて、ヘリの撃破を優先する気満々らしい。再び通り過ぎて反転、二度目のミサイルを発射して来たのでまたもフレアにて対処しようとしたが、向こうも馬鹿ではなかったらしい。

 赤外線センサーではなくレーザー誘導によるミサイル攻撃。

 これではフレアは役には立たない。

 スネークとバットは機内からのミサイル迎撃を行おうとするも、ヘリは回避運動しようと機体を大きく揺らし、二人は照準を付けられないどころか機内を転げまわる。

 ガトリングガンが揺れに従って左右に触れるだけ。

 

 指令室内は固唾をのんで見守るしかない。

 祈る様にヘリの取り付けられている機内機外のカメラより送られてくる映像を見つめる。

 

 その時、誰も手にしていないガトリングガンが向かってくるミサイルを捉えるように動いたのだ。

 偶然かとも思った矢先、ガトリングガンのトリガーが付いているハンドルに何も無い空間より指先が浮かび上がり、徐々に腕から身体と狙撃手の姿がスーと現した。

 どうやってと驚きに飲まれる前に彼女(狙撃手)によってミサイルが撃ち落され一難去った。

 ホッとするのも束の間。

 ミサイルを狙撃された戦闘機は迎撃不可の機銃による弾幕で片付ける気らしく、旋回してそのまま突っ込んでくる。

 ガトリングガンをスネークと代わり、彼女は一緒に回収されていた狙撃銃を手に取って構える。

 よく見れば腕を拘束していた手錠は外されていた。

 

 近づく戦闘機にスネークとバットにより撒かれる弾幕の銃声が鳴り響く中、静かに狙いを定めた狙撃手はトリガーを引く。

 響き渡る一発の銃声。

 終焉の鐘の音だったのだろうか。

 その銃声が響いた後、戦闘機の動きが変わった。

 高度がぐんぐん下がって行き、ヘリの真下を通過するとそのままの速度で海面に突っ込んで機体はバラバラになっていった。

 まさか狙撃銃の一発で戦闘機を落としたというのか?

 驚愕すべき事実の前に安堵と共に静まりかえる指令室に、ヘリより追尾が居なくなった事で帰還すると報告が来た。

 

 「…エルザ。パイソンと一緒に迎えに行ってくれ。すぐに俺も行く」

 「解ったわ」

 

 単なる出迎え―――ではない。

 あの狙撃手に対してもしもの時は対処すべく私とパイソンが選ばれたのだろう。

 それと姿を消したのを目撃した事から赤外線ゴーグルを装備した部隊にも声をかけていた。

 

 着陸地点に赴くとすでに武装した一個小隊に周囲には狙撃手が配備され、即座に射殺できるだけの兵士が展開されていた。

 それに加えて私にパイソン。

 オセロットも居るが連れ帰る事に賛成していただけにミラーは対処する戦力から外している。

 ヘリが見え、着陸地点上空に差し掛かったところで彼女は何十メートルもの高さより跳び下りた。

 自殺かと思ったが、彼女は怪我を負う事も手を付く事もなく自然に着地した。

 映像で見ていたとはいえ恐るべき身体能力だ。

 そして姿が消えていき、視界から完全に消える。

 しかしながら姿が消えただけで存在が消え去った訳ではない。

 赤外線ゴーグルに捕えられて肉眼では見えない位置に部隊が囲み、警戒を払いつつ銃口を向ける。

 観念したのか別段どうする気もなかったのか姿を現した。

 

 「撃て!」

 

 ミラーが即座に射殺命令を下す。

 指示を受けた兵士の人差し指に力が籠り、トリガーにかけられると着陸したヘリより降りたスネークが銃口を下げさせる。

 

 「何故庇う!?」

 「…独房に入れろ」

 「さっきのはこいつが助かりたかっただけだ!危険だ!!」

 「それなら消えた隙に何処かに潜むことだって出来ただろう」

 「お前は黙っていろ!俺はボスに―――」

 

 指令室から着陸地点前に場所が変わっただけで口論が繰り広げられる。

 そのミラーの怒鳴りを遮り、囲んでいた兵士達を掻き分けて前に出たものが一人。

 

 「すっごい技術でしたねさっきの!!」

 

 興奮し切ったバットがずかずかと無警戒で彼女に近づく。

 あんなに目をキラキラ輝かして…。

 毎度の事ながらため息が漏れた。

 それはエルザだけでなくパイソンもであり、離れて眺めていたチコはクツクツと肩を震わしながら笑っていた。

 

 「あんな高速の飛翔物を一発で。それも操縦者の脳天に一撃なんてどうやったんです!?僕狙撃は下手で下手で…だから先の狙撃は感激でした!!」

 

 ズイズイと近づいて行くバットに気圧されて彼女は戸惑いながら一歩ずつ下がる。

 特大のため息をついて前に出たエルザはバットにチョップを喰らわせた。

 

 「痛い!?」

 「落ち着きなさいバット。完全に引いているわ」

 「だって本当に凄かったんですよ」

 「解ったから少し向こうに行ってましょうね」

 

 なんでこうも空気を読まないのだろうか。

 バットの乱入により緊迫した空気は霧散し、毒気を抜かれたミラーは肩を竦めるしかなかった。

 

 「…分かった分かった。ボスの言う通り独房へ入れる。ただし、何かあったらその時は……良いな?」

 「あぁ、それで頼む」

 「だったら独房じゃなくて射撃場で―――とっ!?」

 「いい加減になさい」

 

 銃口を向けられ連れていかれる彼女にバットが付いて行こうとするのを、首根っこを掴んで止める。

 まったく背ばかり伸びて性格は十年前から変わらないんだから…。

 呆れつつもほっこりと和み苦笑するエルザは、連れていかれる彼女を見送ってから自身の持ち場である医療プラントへと戻るのだった。

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:博士と蝙蝠はかく語る

 

 自身の素性を隠し、罪滅ぼしと言わんばかりにダイヤモンド・ドッグズに技術提供という形で協力するストレンジラブ博士。

 変声機を組み込んだ鉄製の面で素顔を隠す事から“鉄仮面”と呼ばれ、所属する兵士や研究員と距離を置いて生活している。

 元々人嫌いである事から別段人との接触が制限された環境は苦というより寧ろ有難いとさえ考えるも、時折寂しくも感じる時がある。

 素性を隠すゆえに面を外して散歩したり、通路に置いてある自販機で珈琲を飲むなど気軽(・・)な行動は慎まなければならず、何かしらあって話し合う際には自身の素性に繋がりかねない情報を漏らさないように注意を払わなければならない。

 不便でないが窮屈…。

 となればストレスも僅かだったとしても塵も積もれば山となる。

 

 だからと言って誰とでも喋りたい訳ではない。

 カズヒラ・ミラーは下世話な話が多いし、チコはどちらかと言えば聞き手より話し手で話題が噛み合い難く、パイソンは寡黙で会話が成り立たない。これはオセロットも同様。

 他に私という“鉄仮面”の素性を知っている者は二人だけ。

 エルザは話したいし興味がある(・・・・・)ので語り合いたいけど、彼女も仕事があって入り浸る訳にはいかない。

 それに少しばかり警戒されている気もするし、中々自ら寄って来てくれない…。

 

 「来ましたよ博士」

 「あぁ、久しぶりだな。珈琲でもどうだ?」

 「頂きます」

 

 人通りが制限されている私の研究所に入れるのは事情を知る者と、その時限り仕方なく入室を許可した者のみ。

 今入って来たのは事情を知っているバット。

 性格は十年前とほとんど変わってないが、見た目は年月を重ねただけ随分と変わってしまっている。

 スラッと伸びた身長に細身ながら筋肉質になっている身体。

 可愛らしく幼さの残る顔立ちは大人びて綺麗さが目立つ。

 戦地を駆け回っている割にはそれまで表に出る事が無かったのか肌もすべすべしていて触り心地が良い。

 四十歳手前になってもまだ興味が尽きない(・・・・・・・)

 

 カップ二つにインスタントコーヒーを淹れ、その片方を差し出すと嬉しそうに受け取っては無警戒に口を付ける。

 これがエルザならば何か入っているのではと少しばかり警戒されるのだから悲しい事だ…。

 無警戒だからと言って何かしらする気はない。

 

 「美味しいですね」

 「もっと美味しいものを口にしている癖に」

 「あはは、僕は美食家ほど味覚に自信は無いんで。どれが美味しいというよりはとりあえず美味しいものを誰かと味わう方が重要かなと」

 「高級品であろうと見切り品であろうと美味ければいいか…身も蓋もないな」

 「合理的でしょう」

 「自分の能力不足を棚上げしている気もしなくはないがな」

 

 クスリと微笑みながら鉄仮面を外して自分も珈琲を口にする。

 深いコクと苦味が広がり、温かさからほぅと息を吐く。

 

 「確かに悪くはない」

 「でしょう?」

 

 席に腰かけながら、バットが持ち込んだお茶菓子のクッキーに手を付ける。

 相変わらず不思議な美味さを纏ったものを作ると思いひょいひょいっと摘まむ。

 

 「そう言えば元大佐には会ったか?」

 「会いましたよ。まだヘリに乗るんだって熱く語ってくれました」

 「お前が居る時はまだしゃんと(・・・・)しているらしい」

 

 スコウロンスキー大佐…。

 “ピースウォーカー計画”以前にバットとスネークにより救出され、国境なき軍隊ではヘリの操縦士として働いていた老兵。

 元ソ連軍の基地司令の彼には傲慢な所が有り、周りと軋轢を生み易い。

 しかしバットとは仲は良好で、いざこざがあったなどは聞いた事は無い。

 

 “カリブの大虐殺”では試作機を操縦してエルザとパイソン達を回収し、幾人かの兵士と共に生き残る事に成功した。

 あれから十年という歳月はスコウロンスキー大佐の意識を薄れさせ、今では日がな一日ぶつぶつと呟き徘徊する事が多々ある。

 老化による惚けが始まったのだ。

 ただ日によっては調子のいい日もあり、普通に会話が成立するときもあるらしい。

 されどその状態でヘリの操縦などもっての外。

 バットが来たことで幾分マシになっても変わらない。

 けどまぁ、しゃんとしたらしたで乗せろ乗せろと五月蠅いのだ。

 なのでそのまま乗せられないのならAIを搭載しての自動操縦可能なヘリを作ろうかと現在模索中なのだ。

 

 「グラーニンさん達にも会いたかったけど」

 「あの頃は騒がしかった。私は会いたいとは思わないけど。酒臭かったし」

 「良く飲んでましたっけ」

 「飲み過ぎよアレは」

 

 懐かしくも鬱陶しい研究者にため息が漏れる。

 いつも酒を飲んで酒気を纏ったグラーニンに、ヒューイ以上に弱々しいソコロフ。

 どちらとも自ら関わる事は無かったけれどいなくなればそれなりに寂しくは――――いや、そんな事も無いか。

 あの酒臭さもうじうじとした態度も両方鬱陶しく近づきたくなかった。

 

 ソコロフは元の職場であるニコライの民間軍事会社へ戻り、“カリブの大虐殺”以来こちらとの接触を避けている。

 それもその筈。

 彼は研究に協力してくれていたが、争いごとに巻き込まれるのはもうこりごりだと…。

 もしもこちらと接触して噂でも上がればサイファーなどの組織により家族が危険に晒される可能性だってある。

 自身の命のみならず家族までとなると手を引くのが普通だ。

 ミラーもその辺りの事情を考慮して、ダイヤモンド・ドッグズ設立後はニコライの民間軍事会社とも接触を断っている。

 こちらとしても危険に巻き込みたい訳ではないから。

 

 グラーニンは過度なアルコール摂取が祟ったのか、高血圧と高齢な事から病魔に苛まれ、最後は病院で息を引き取ったのだという。

 最後の最期まで酒瓶を手放さなかったのは流石というべきか…。

 

 「グラーニンで思い出したがもうメタルギアを作れとは言わないんだな」

 「言いませんよ。僕の操縦が下手ってのは知っているでしょう」

 「そう言えばそうだったな」

 「TONYの回収だって、引き上げられないでしょ。あの重量級は」

 

 「一応襲撃前にコンテナに処置を施してZEKEとは別に入れてあるはずだからお金さえあれば」

 「ならビィで良いですよ」

 「熊に乗るというのもどうなんだ」

 

 くすくすと笑みを浮かべ、こちらも取って置きのチョコレートを差し出し、口にしたバットは満面の笑みを浮かべた。

 見た目だけで本当に中身は変わってないな。

 未だに子供っぽい…。 

 

 「今日は時間はあるのか?」 

 「そこは話してあるから大丈夫」

 「ならまた語ろうか」

 「飽きもせず同じ内容かも知れませんよ?」

 「それはそれで話すさ」

 

 二人はそう言って懐より大事にしまっていた我が子の写真を机に並べ、お互いに子供の自慢話にもつれ込む。

 親馬鹿と呼べばいいのか理解し合える親同士の会話は弾み、気が付けば珈琲を四杯もおかわりして日も暮れてしまう。

 ストレンジラブは語れば語るほど会えない子供に想いを寄せるのだった。

 

 …その後、パスに遅くなると伝えていたが遅くなり過ぎてバットはこっぴどく叱られるのであった…。

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