メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 待たせたなぁ…。
 また投稿遅れまして申し訳ありません…。

 …花粉症何とかならないかな…。
 花粉で目と鼻が…。


静かな狙撃手と蝙蝠と髑髏顔

 私は彼が憎い。

 以前はそう(・・)ではなかった。

 車より早く走れ、誰よりも高く跳べ、姿を文字通り消す事が出来る。

 人間離れした能力の数々。

 聞けば望む者もいるだろう。

 そうなりたいと。

 そうでありたいと。

 だけど私は望んでなった訳ではない。

 望んでこうなりたかった訳ではない。

 

 私は恨む。

 こうなる原因たる(スネーク)を。

 私は憎む。

 こうした髑髏顔(スカルフェイス)を。

 

 任務を言い渡された。

 キプロスの病院に入院中の兵士の暗殺。

 兵士として任務に忠実であれ。

 その言葉を実践しようとした訳ではないが、任務に従って病院に潜入して、ちょうど目標の情報を知った上で担当していた医師と看護師を殺害。

 後は伝説の兵士と謳われるも十年間昏睡状態で身動き一つろくに出来ない半死半生の病人を殺すだけ。

 簡単な任務の筈だった…。

 

 隣のベットに居た全身を包帯でぐるぐる巻きにされた病人の妨害があったが、どちらも動きは酷く悪くてこちらの有利には変わりなかった。

 油断していた訳ではない。

 しかし咄嗟に投げつけられた薬品が衣類に沁み込み、身体にぶっかけられた。

 そこからは酷い有り様だ。

 火を付けられると薬品は燃えに燃え、抗うも追加で薬品を投げかけられてさらに炎上。

 全身火だるまになった私は水を求めて、雨が降り注ぐ外へと出ようと、窓から飛び出して落ちて行った…。

 

 気が付いた時にはサイファーの施設で手術を受けていた。

 異能の力の代償に肺呼吸ではなく皮膚呼吸を行い、太陽光を浴びて水を皮膚から吸収する事でエネルギーを生成する人間らしからぬ身体にされてしまった。

 理性ではこのスカルフェイスが言う報復心を否定するも、こうなった事を考えれば報復心が生まれない事も無かった。

 報復する事も自身を終わらせる事も行える手段(・・・・・)も与えられた。

 その為に戦闘機を狙撃して蛇の巣穴に潜り込み、いつでもその手段を取れるように準備を行った。

 だけどまだ私は使用してはいない。

 理性と感情の狭間で報復心が揺らいでいるからだ。

 そもそもスカルフェイスの言うとおりにするのも何か間違っている気がする。

 なので私は報復心を晴らす前に彼らと行動を共にしてみようと思う。

 

 

 

 

 

 任務地へ向かうヘリの中でスネークは葉巻を吹かす。

 最近は任務でもマザーベースでも色々あり過ぎて少々疲れが溜まってきている。

 エメリッヒを回収してからオセロットの尋問(・・)の様子を眺めながら、自身に真実のように言い聞かせた戯言を徐々に砕いて取り出した曖昧で新鮮な情報を吟味し、俺達が求める真実の欠片を採取していく作業。

 正直ストレンジラブ博士の証言にこれまでの状況的証拠も合わせて真っ黒…。

 敵に内通していた裏切者確定ではあるのだけど、自分を正当化すべく言い訳と都合の良い嘘でがちがちに鍍金していて罪悪感など一切見られない。

 寧ろカズが怪しい、バットが疑わしい、スネークが悪いなどなど自分の事を棚に上げて、“カリブの大虐殺”の責任は自分以外の誰かにあると本気で言っているらしい。

 質が悪いにもほどがある。

 しかしながら優秀な科学者である事は間違いはなく、少しばかりコスタリカまで出張して貰っている鉄仮面(ストレンジラブ)の抜けた穴を塞いでもらわなければならない。それにまだ聞きたい事や聞かなければならなくなる事も多くあるだろうしな。

 エメリッヒの一件でも面倒なのに任務を行っていれば他の面倒事も重なって来る。

 

 反政府組織が老朽化の為に油田会社が放棄した油田施設を占拠・再稼働させた。

 すると老朽化から油田より原油が漏れて、周辺一帯を汚染している事から環境NGOより油田施設の破壊を頼まれれば、反政府組織ではなく元々老朽化が進んだので放棄したと言っていた油田会社が反政府組織を語って再稼働させており、その油田会社というのはいわゆるペーパーカンパニーで実態のない会社だった。

 実体のない油田会社にサイファーが関与している反政府組織、そして油田施設より見つかった胸部が以上に膨れ上がった大量の奇妙な死体…。

 

 とある依頼で救出した“子爵”という男より得た情報では近隣のプライベート()フォース()がソ連製のウォーカーギアを大量に配備しているらしいとの事。プロトタイプの最新兵器のウォーカーギアを…だ。

 流しているのはサイファーと見て間違いないだろうが何の目的で流すのか?

 疑問に答えを得る前に配備されたウォーカーギアを排除してくれって依頼が来て、バットが嬉々として回収(・・)しに行ったな。ついでに伝説のガンスミスまで引き入れて…。

 おかげで開発班の銃器開発は進み、ウォーカーギアを失ったPFの動きより油田会社自体がサイファーの隠れ蓑である事と、そこいら一帯のPFを繋ぐサイファーの物流の流れの一端も掴んだ。

 そこからサイファーがウォーカーギアの代金にPFから受け取っていた鉱物資源は、髑髏部隊(スカルズ)の護衛を付けていた割には片や護衛を付けるほどの物ではなく、片や核兵器の材料となるウラン精鉱(イエローケーキ)であったが核兵器を作るには量が圧倒的に足りない。

 何故最新兵器のウォーカーギアを流してまでそんなものが欲しかったのか?

 

 奇妙な死体に不可解な対価…。

 謎は深まるばかりだ。

 一体サイファーは…スカルフェイスは何を企んでいる?

 

 考えるだけで頭痛がしてきそうだ。

 そこに付け加えるようにクワイエットが任務に同行したいと行動で表して来た。

 確かに彼女の狙撃技術には目を見張るものがある。

 出発前にオセロットがやられたヘリの回転中のプロペラに弾丸を当てずに間を通すという芸当を難なくこなした目の良さも驚くべき技術だろう。

 しかしながらただでさえ何をやらかすか分からないバットが居るのだ。

 心労に苦しむ俺に二人も面倒を見ろとは酷な話だろう。

 バットが一緒に行きたいと強く押し、オセロットの勧めもあって了承したが、用意された苺大福(バットの手作り)では割りに合わないと思うのだが…。

 

 …それにしても苺のさっぱりとした甘酸っぱさが疲れた身体にスッと入り込み、餡の濃厚で品のある甘味が疲れを癒やすどころか活力すら与え、しっとりと滑らかな口当たりの良さが癖になる。

 手が止まらない。

 持ち込まれた時はニ十以上あった苺大福があと三つしかない。

 

 「ヴェノムさん。到着しまっ……どうしたんですか?」

 「何がだ?」

 「口の周り真っ白ですよ」

 

 ガラスの反射を使って確認すると確かに真っ白に染まっていた。

 大福に振られた粉が食べている間に付着したらしい。

 クワイエットもその発言から視線を向け、俺の様子に隠れるように笑っていた。

 恥ずかしさもあって乱暴に口元を拭う。

 

 「依頼の確認だ!」

 

 最初こそ笑っていなかったバットだが、クワイエットの笑いに釣られて笑い出したため、無理にでも話題を変えようとする。

 というか変えなければヘリのパイロットまで釣られて笑い出してしまいそうだしな。

 コホンと咳を挟んで今回の任務を確認も兼ねて再度説明を行う。

 任務内容は目標に設定された六名の抹殺。

 暗殺や排除依頼というのは別段珍しい類では無いとしても、依頼主が目標人物達を支配下に置いていた将軍となると話は別だ。

 “なにを”とは聞いていないが口封じのために部下を殺して欲しいとの事。

 どうやらバットはこの依頼、乗り気ではないらしい。

 敵と通じていたなら尋問するだろうし、何かしら仕出かしたなら処罰すれば良い。

 それをせずにこちらに依頼してきたという事はそういった類の話ではないのだろう。

 つまり自分の都合に悪いから消してくれと…。

 気に入らないとはいえ受けた依頼は熟さなければ評判が落ちてしまう。

 

 「仕事だ」

 「解ってますよ。解ってはいるんですけどねぇ…」

 

 大きなため息を漏らすバットだが、武器の確認をしている様子から任務は任務として最低限熟す気はあるらしい。

 ヘリが目標地点である中部アフリカのアンゴラ・ザイール国境地帯にあるバンベベ農園付近に到着し、設定してあった着陸地点に降り立った。

 ここからはそう遠くない為に徒歩での移動となる。

 

 「先行してくれるか?」

 

 地図を指差しながらクワイエットに告げると、狙撃銃を抱えたまま姿を透明化させてその場より消えた。

 移動時に発生する音から言う事を聞いて向かってくれた事を理解する。

 そして二人で移動する事数十分。

 農園を視界に収める位置に立ったスネークは早速潜入しようとするも、何故かバットはライフルを構えるような動作を見せた。

 ような(・・・)という事で銃を手にしている訳ではない。

 本当にただのフリ。

 そして撃つ動作をすると、その先に居た兵士が糸が切れた人形のようにその場に倒れ込んだ。

 

 「見事でしょう?」

 「…あぁ、クワイエットがな」

 

 あの動作だけで夜間という暗闇の中でバットの意図を理解し、見事な狙撃を披露した事に賞賛を贈るが、わざわざこいつの遊びに付き合わなくてもいいものを…。

 苦笑を浮かべながら身を屈ませ、農場へと足を踏み入れる。

 内部の捜索はバットと二人で任務に当たるよりかなり楽であった。

 潜入能力と戦闘技術に長けた二人に凄腕の狙撃手が加わっただけで全く気付かれる事無く進められる。

 その間に何度かバットが撃つフリをして狙撃を行うという遊びが挟まれたが、もう反応はしてやらない事にする。

 長距離はクワイエット、周辺はバットに任せて自身は目標の人物が居る建物へと入り込む。

 目標に対して背後から忍び寄り、首を絞めあげつつ足を払って抵抗させないようにし、ナイフを喉元に突き付ける。

 

 任務内容は排除…。

 このままナイフを突き刺しても良いが、その前に残り五名の位置情報を聞き出す必要もある。

 正確には場所はすでに掴んでいるので、一応の確認が欲しいところ。

 

 「――言え」

 「俺は裏切ってはいない…皆を護る為…自分を…売ったんだ……」

 

 絞められている事とナイフを突きつけられている恐怖から絞り出すように零れた言葉…。

 スネークは突き刺すのではなくそのまま絞め落とした。

 

 『スネーク?どうするつもりだ?まさか回収するのか』

 「…駄目か?」

 『依頼は抹殺…だがあんたの判断に従うさ。次の目標であるクンゲンガ採掘場に向かってくれ』

 「向かうならこれ乗って行きません?」

 

 目的の人物を担いで移動しようとしていた矢先、入口よりバットから声を掛けられたと思ったら、外に止めてあった装甲車のハッチより顔を覗かせていた。しかも装甲車上部にはクワイエットがすでに乗って待機している。

 少し目を離したうちに何をしているのかこいつらは…。

 ため息を吐きながら目的の人物をフルトンで回収し、バットが乗り込んでいる装甲車に自らも乗り込む。

 道中装甲車で検問所を避けるように道なき道を進み、結構な距離を稼いだが目的地にたどり着くまではいかなかった。

 目的地であるクンゲンガ採掘場は軍事基地や利便性をよくするために舗装された場所ではなく、鉱物資源を掘り出すだけの場所なので自然の大半がそんまま残されている。

 周囲には木々が生え、近くを川が流れ、岸壁や岩場による段差がそこら中にあり、さらには金になる鉱物資源と鉱山そのものを護る為に兵士が駐在しており、入り口には監視も兼ねた詰所が設置されている。

 装甲車で突っ込めば確実に見つかって撃ち合いになるのは必須。

 ならば手前で下車して徒歩で向かうしかない。

 

 「ここからは山登りだ。見つからないように気を付けろ」

 「はーい」

 「伸ばすな」

 

 ハッチより降りるとクワイエットが視界内で姿を透明化させ、跳び去る音と共に周囲に溶け込んだ。

 昇り始めると水の音が耳に届き、あえなくして川を目視した。

 その川を挟むように二手に分かれて昇ると情報通りに詰め所があった。

 詰所の中に何人いるかは解からないが、詰所の外に見張りが一人立っているのを目視で確認する。

 無線でその事を伝え、スネークはクワイエットに無線で麻酔による狙撃指示を出す。

 サプレッサーによりくぐもった発砲音の後に見張りの兵士はその場に倒れ、意識を失った事を川を隔てて詰所に近かったバットが確認すると、詰所内に睡眠ガスを噴き出す手榴弾を放り込んで室内の兵士を完全に無力化した。

 バットが向こうよりサムズアップ後にまた狙撃の仕草をする。

 敵が居たのかとそちらを見つめると上流に板をかけただけの簡易な橋付近に兵士が立っており、クワイエットの狙撃により眠りにつかされた。

 その先にも兵士が二名ほど警戒していたが一人一人で行動していた為に、この三人にとっては鴨でしかない。

 案外楽な仕事かと思った矢先、鉱山入り口にはいくつものテントが張られ、物資も置かれた小さな拠点と化しており、それなりの人数が居る事にバットはがっくりと肩を落としていた。

 

 「面倒ですね。もうこいつでも放り込みますか?」

 「やめろ。手榴弾を使ったら確実に応援を呼ばれるぞ」

 「ですよねぇ…はぁ…」

 「どうした?任務は熟すんだろ?」

 「もう寝ている頃なんですよねぇ。夜が明けるまでには帰りたい。二人の寝顔を眺めてから爆睡したい」

 「………真面目にしないんだったらここで永眠させてやろうか?」

 

 かちゃりと拳銃を取り出すとため息一つ漏らし、頬をバチンと思いっきり叩いて気合を入れバットは駆け出す。

 やはりこうなるかと思いつつクワイエットに援護してやってくれとだけ連絡を入れておく。

 駆けだしたバットは敵を目視で確認すると死角に回るように駆けまわり、次々とCQCで放り投げて行く。

 相変わらず無茶な戦法だと思うがクワイエットと俺が支援すれば問題ないだろう。

 だれも夜間にたった三名で夜襲を駆けて来ると思っていない油断と軍事基地のように人が多くない事もあって早々に片が付いたが、無茶な行動であったのは変わりないので合流したらケツに蹴りを入れてはおいた。

 

 無力化したキャンプ地の先には坑道に続く道が有り、警戒しながら進めば奥に簡易的な牢があった。

 そこには残りの目標である五人の子供(・・)が座っていた。

 

 「この子らが目標ですか?」

 『あぁ…依頼は全員の抹殺だ』

 

 バットとクワイエットのなんとも言えぬ視線を背に受け、無線より淡々とカズが指示を出すもやはりどこか想うところがあって声は沈んでいた。

 こちらに気付いた少年たちは立ち上がり、牢の隙間より手を差し出す。

 その手にはダイヤの原石が握られていた。

 

 『助けてくれって事か?しかし彼はもう元の部隊に戻れない。そして彼らが向かう先はここと変わらぬ地獄か…天国だけだ…』

 「いや、もう一つある」

 『アウターヘヴン(天国の外側)か…ボス、テープは回っている』

 

 それを聞いてスネークはアサルトライフルを構え、牢へと銃口を向けてトリガーを引く。

 銃声が行動内を響き渡り、放たれた弾丸は転がっていたバケツに穴を空けた…。

 

 『録音はした。依頼達成だな。帰投してくれ。言うまでもないが現地調達した人員(・・・・・・・・)も連れてな』

 「あぁ、了解した。お前ら、ここから出るぞ。ついて来い」

 

 恐る恐る牢より出る少年たちが牢より出るのを確認し、満足そうに笑みを向けるバットへと振り返る

 

 「さすがヴェノムさん」

 「良いから行くぞ。この子らを連れての撤退となると手間だぞ」

 「問題ないですよ。僕とクワイエットさんが先行しますから――ね?」

 

 振られたクワイエットはこくんと頷くとバットについて外へと先に向かっていく。

 まさか本当に子守りをする事になるとはなと苦笑しながら、先行した二人によって安全を確保された退路を子供達と駆ける。

 幼い命と彼らが手にしたダイヤと共に…。

 

 

 

 

 

 

 子供達を鉱山より助けて数日後。

 バットは一人ヘリに揺られて移動していた。

 今回の任務は鉱山で働かされていた少年たちのリーダーを務めていた“シャバニ”という少年を救出するというもの。

 なんでも引き離されて現地の人間が悪魔の住処―――ンゾ・ヤ・バディアブルと呼ぶ地域にあるングンバエ工業団地へと連れ去られたとのこと。

 子供一人助ける任務なので、別段一人でも大丈夫だろうとバットが任務に当たっている。

 その分スネークはクワイエット共に少年部隊を指揮している“ホワイトマンバ”と呼ばれる少年兵を回収しに向かっている。

 

 「にしても一人ってのは寂しいものですね」

 『子守りをしてくれる奴がいなくてな』

 「いつまでも子供扱いですか?」

 『なら多少は大人しくしてくれ。スネークのように慣れてない奴はお前の行動で心労を起こしちまう』

 

 酷いなぁと思いながら頬を膨らませる。

 僕には子守りというか面倒を見れるだけの人員が同行しなければならないと認識が一致しているらしい。

 ヴェノムを除けば候補は三人ほどいるが、エルザは医療班から離れられず、パイソンは長時間戦闘可能な液体窒素入りの戦闘服の開発待ち。オセロットはヒューイの監視やチコと共に新兵教育、カズの補佐など仕事が立て込んでいて戦場に向かわせるだけの余裕がない。

 なのでいつも組む相手が決まっているのだ。

 

 膨れても仕方ないと肩を落とし、銃の確認を暇潰しに行う。

 そうこうしている内にヘリは着陸地点に到達し、バットは一人戦場に降り立つ。

 任務上、敵地に侵入して子供を攫う事になるので相方のビィはお留守番。故に本当に一人での任務…。

 “スネークイーター作戦”の頃に戻ったみたいだ。

 あの一件以降はだいたいスネーク(・・・・)さんと一緒だったから。

 

 「じゃあ行きますか」

 

 大きく息を吐き出し、気持ちを切り替えて歩き出す。

 目的地までは結構距離があるが、たまにはじっくりと任務に当たるのも問題はないだろう。

 道中の検問所を悉く襲っては情報に人員に資源などを次々と現地調達していく。

 本当なら速攻で向かいたい所であるがングンバ工業団地までは監視に拒まれて情報がほとんどない。

 なので少しでも得れればと思ったのだが、ここいらの兵士には知らされていないらしく情報らしいものは手に入らなかった…。

 ため息交じりに先に進めばさらに面倒臭い事が待ち受けていた。

 ングンバ工業団地に向かう谷には警戒に兵士が配置されていた上に、谷を渡る為の橋が落とされていて谷を降りなければならないなど面倒が増えた。

 けど悪い事ばかりでも無い。 

 谷には一年を通して霧に覆われており、その中を進むので敵兵に見つかるリスクは格段と減る。

 実際見つからずに下った谷を抜け、目的地のングンバ工業団地に古びたトンネルを通って入るが、霧と泥に近い足場によって至る所がべた付いて気持ち悪い。

 ため息を零しながらングンバ工業団地を見渡す。

 基本的に開けた場所であり、ぽつんぽつんと廃墟のような建物や簡易な木造の資財置き場などが点在している。

 周辺には敵兵どころか人気すら感じない。

 

 「敵兵の姿なし。不気味ですねぇ…お化けでも出そうです」

 『確かに不気味だ。兎も角ターゲットの少年を探してくれ。無事だと良いが…』

 

 警戒しつつ進むもやはり人気はない。

 それどころかどこも古びていて廃棄された場所なのではと思う程に痛んでいる。

 本当にこんなところに…と疑問を抱いていると建物より何やら“声”らしきものが聞こえてくる。

 恐る恐る近づいて行き、建物内を覗き込む。

 

 ぼそぼそと複数の声が微かに聞こえ、床や壁はびっちゃりと血で濡れていた…。

 通路にも血がぶちまけられ、並べられた棚には薬品などが乱雑に置かれ、放置されたストレッチャーには人が袋で覆われて放置されている。

 死体安置所…否、人体実験を行っていた研究所のように見え、少年の安否が心配される。

 

 その不安は現実となる。

 個室というにはお粗末でカーテンで仕切っただけの場所に一人の男が居た。

 台の上に一枚の布が胸元に掛けられただけという上半身裸に近い形で放置されている。

 首元が切り開かれており、そこには一本のコードが伸びていた。

 すぐにキュアーで調べると喉元に入り込んでいるのはイヤホンだと解るが、分かったからこそ意味が解らない。

 何故喉内部にイヤホンを突っ込む必要がある?

 それにキュアーには胸部の異常も示されており、布を退けると異様に肥大化した胸部を目にする事となった。

 治療法が分からぬ以上は手が出せず、とりあえず喉元のイヤホンに繋がっているカセットテープに手を伸ばし、中身のカセットだけを回収する。

 そしてシャバニを探そうと奥のカーテンを捲ると同じように喉元からコードを生やし、胸部が肥大化した人達が所狭しと台の上に寝転がされていた…。

 

 『何だこれは…バット、シャバニは…もう…』

 

 悲惨な光景にそう思いかけたが確認するまで諦める訳にもいかない。

 シャバニが居ないか見渡しながら奥へ奥へと進むと、シャバニは確かにそこに居た…。

 居たのだがやはり同様の症状に処置を施されていた。

 ただ首元にイヤホンは突っ込まれておらず、呼吸も他に比べてしっかりしている。

 

 生きている…。

 それだけで希望が持てた…。

 

 「シャバニ君ですか?」

 

 声をかけるとわずかに顔が動き、開かれた薄目がこちらを見つめる。

 意識もあると解り安堵するも、やはり胸部のふくらみが気になるところだ。

 

 「……殺して…くれ…」

 

 辛いのだろう。

 苦しいのだろう。

 けど子供を殺すなどしたくはない。

 今しがただけでも痛みを無くすべく麻酔銃を撃ち込む。

 麻酔が回ると同時に意識と痛みが揺らぎ、安堵したかのように眠りに落ちる。

 ずっと握っていたのだろう木彫りの首飾りが手から零れ落ちそうになったのを慌てて受け取る。

 

 『シャバニを回収してくれ。とりあえず検査して見ない事には…』

 「分かって――—―ッ!?」

 

 返事を返し終える前に カツンカツンと聞き覚えのある(・・・・・・・)足音に殺意が溢れる。

 さっと身を隠してカーテン越しに覗き込むとそいつは居た。

 テンガロンハットにチェスターコートなど黒で統一した衣類で身を固め、“カリブの大虐殺”を起こした張本人であるスカルフェイス。

 奴は向こう側で横たわっている男性に耳を傾けるとコート下より銃を取り出す。

 

 「お前達の屈辱も悔恨もこの私が引き受けた―――安らかに眠れ」

 

 そう呟くと男性の頭に銃口を向け、トリガーを引いた。

 銃声と共に血が飛び散り、周辺を鮮血で濡らす。

 それがバットに対しても引き金となり、バットはすかさずホルスターからSAAを抜く。

 

 「スカルフェイス!」

 「ほぅ…ここに辿り着いたか蝙蝠」

 

 気の高ぶりから放った弾丸は予想外に乱れ、スカルフェイスの頭部から外れて頬を掠って壁に着弾した。

 ギリと音がなるほど歯を噛み締め、もう一度トリガーを引く前に反撃がバットを襲う。

 悠々と片手で構えられたレバーアクションのライフルがバット後方の壁を抉る。

 咄嗟に回避して正解だった。

 見た事のない銃に驚きながら身を隠す。

 

 「お前が居ると言う事は蛇も一緒か?」

 「さぁ、どうでしょう。当ててみたら如何ですか!」

 「相変わらず駆け引きは苦手と見た。ここには居ない。そうだな」

 「根が正直なもので!!」

 

 旧式のライフルかなにかと当たりを付けたものの、意外に潜めている壁に撃ち込まれる弾数の多さには驚かされる。

 どうしたものかと悩みながらバットは跳び出した。

 狭い室内では“CQCモード”を使用しての回避法も難しく、出来たとしても相手の装弾数によっては先に切れる可能性がある。

 そもそも“CQCモード”は近距離格闘戦で動きを指導・補佐する目的で与えられたシステム(・・・・・・・・・)であり、弾丸を回避する為にものではない。なので間違った使用方法という事でシステム内の“体内時間の加速”が途中でも切られるのだ。

 なので馬鹿正直に突っ込む事も、真正面から撃ち合う事もしない。

 床擦れ擦れを横っ飛びしながら奴の天井に早撃ちの残りの六発を撃ち込む。

 瓦礫ほどではないが着弾の影響で破片などがばらばらと降り注いで確実に注意を削ぐ。

 そこを一気に詰めよれば良い。

 

 …目の前に手榴弾が転がって来るまでは…。

 

 慌てて跳び起きて走り出し、少年が寝ていた台を転がして簡易の盾にする。

 勿論少年を護るようにしてだ。

 爆発が起きて破片が飛び散るも、何とか自身の身と少年に被害を与える事は無かった。

 しかし顔を覗かせるとそこにはスカルフェイスの姿は無かった。

 

 「バット!」

 

 外からの声に急ぎ跳び出すと短身のレバ―アクションライフル―――“ウィンチェスターM1873”を構えたスカルフェイスと対峙する。

 

 「憎しみを晴らした(・・・・)割には浮かない顔だな?」

 「晴らした矢先に植え付けられた(・・・・・・・)んじゃ堪らないって話ですよ」

 「報復心は未だ消えずか。だがそれはお前達だけではない」

 

 そう言い放つとスカルフェイズは銃口を降ろして背を向ける。

 まるで撃ってみるが良いと言わんばかりに。

 トリガーを引こうとしたその瞬間、スカルフェイズの背を護るように宙に浮くガスマスクを着用している赤毛の子供が何処からともなく姿を現し、同時に背後より気配と熱気を感じた。

 

 「貴様らに報復心を持つ者も居ると言う事だ」

 

 振り返った先には全身に火を纏いながら確固たる意志を持って歩んでくる一人の男性の姿があった。

 言葉を交わす事も表情を伺わなくとも解る。

 周囲に漂わす程の強い憎悪を感じた。

 飛び退くように距離を離すも男は突如として駆け出して距離を詰める。

 そのまま首元を掴まれ押し倒され、間近でそいつを見た。

 憎悪と共に灼熱を纏い、額より生えた二本の角は鬼を連想させる。

 身体に燃え移る前に投げ飛ばすとなんとも妙な懐かしさに襲われた…。

 

 「先約だ。十分に楽しむと良い」

 

 スカルフェイスの去り際のセリフを聞きながら、意識は目の前の“鬼”に向ける。

 同時に“鬼”の出現によって一気に燃え盛った建物にも…。

 窓や入り口、僅かな隙間からも内部より火が噴き出るほどの火力。

 あれでは中に居た少年も…。

 

 「やりやがったな畜生が!」

 

 怒りに震えながら弾を装填し、迷いなく脳天に六発を叩き込む。

 衝撃で仰け反るも倒せておらず、体勢を直して再び突っ込んできた、

 

 表面が硬くて弾いている?

 熱で溶かしている?

 違う、直撃はして弾丸は食い込んでいるのにダメージを負っていない。

 そんな感じだ。

 

 化け物染みた連中と戦った事は有れど、本当の化け物と対峙したバットは初めて臆するも怒りがそれを緩和させる。

 再びリロードしようとするも先に近づかれ、止む無く火傷覚悟で攻撃を受け流しながら重心を崩し、そのまま投げ飛ばす。

 地面を転がる“鬼”にブルバップ式アサルトライフル“SUG”を弾切れになるまで撃ち込む。

 立ち上がった“鬼”は腕で顔や体を隠すも効いている様子はなく、弾切れを起こしてもその体制のまま身体を丸め、次の瞬間には撃ち込まれた弾丸を身体を仰け反らすと同時に周囲に解き放ったのだ。

 クレイモア地雷のような攻撃方法に戸惑いながら飛び退くも数発足に被弾した。

 痛みに顔が歪むも急ぎキュアーで弾を取り出して止血を急ぐ。

 その間に“鬼”はバット目掛けて向かって来るもぴたりと足を止めた。

 

 足を止めた先には小さいながら水を溜める場があり、“鬼”はそこに入らないように回り込んでくる。

 

 もしかしてと手持ちの手榴弾を放り投げ、バットの狙いに気付いていない“鬼”は ガードしようとするも、手榴弾は直接狙う事はせずに“鬼”の横に転がり落ちる。

 爆発による破片と爆風によろめき、ガード体勢を解いた所にカンプピストルより放たれた小型グレネードが直撃する。

 手榴弾でよろめいた事で水溜め場を背負わされ、さらに小型グレネードの衝撃によって後ろへと押された“鬼”は水溜め場の段差によってバランスを崩し、倒れ込むように水に接触した。

 同時に起こる温度差による水蒸気に苦しむ“鬼”の咆哮。

 弱っているのは明白でも殺しきれる装備の無いバットは退くしかない。

 

 「次は絶対殺してやる…」

 

 燃え盛る建物にちらりと視線を向け、少年を助けられなかった事実に爪が皮膚を破るほど拳を握り締め、その場をあとにするのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●ちょっとした一コマ:新兵から見た蝙蝠と山猫

 

 

 

 ダイヤモンド・ドッグズ…。

 ある時期を境に事業として拡大しつつある傭兵組織の一つで、以前はそこそこ腕が良い程度の噂しか耳にしなかった組織だ。

 それが今やアフガニスタンを中心に勢力を拡大し、依頼主に十分過ぎる戦果を見せて高い信頼性を獲得している。

 組織の拡大から活躍を担っているのは経験豊富な運営人に戦闘技能の秀でた精鋭達による組織の在り方と、“エイハブ”と“バット”というたった二名の兵士によるところが大きい。

 ここに入ったばかりの俺でも“エイハブ”に対する先輩方の信頼や信用はもはや崇拝に近い形であり、一騎当千の強者たちがそれだけの念を抱いている時点で凄い人物である事が知れる。

 逆に“バット”という兵士はあまり良い印象はない。

 精鋭中の精鋭達は国境なき軍隊という組織に所属したらしく、バットという人物はその組織が壊滅した原因を作った裏切者だと噂されている。

 噂程度と気にも止めない奴は少なく、疑いがあると言う事はそれなりにナニカがあると警戒する方が大概だ。

 俺とてその一人だし、他にも戦場では無茶ばかりして前線にも運営にもかなりの迷惑をかけているというもの多々耳にする。

 だからこそ新人の間でもそう言う人なのだろうと思っていた。

 

 

 

 ある日、マザーベースの一角にて射撃訓練が行われていた。

 教官は射撃が得意なリボルバー・オセロット。

 一度射撃の腕前を見せて貰ったが、ただただ腕が良いとか言うレベルではなく、早撃ちで跳弾を用いた射撃術で目標の的に弾を叩き込むという驚異的技法を持っている。

 そんな超人的技術を持つ人物が、俺達新兵の後ろから一挙一動を見逃さないように鋭い視線を光らせる。

 並んだ新兵達はダイヤモンド・ドッグズ内で新兵なだけであって、現地調達や自信があって売り込んでくる者なので大なり小なり戦闘経験者ではある。

 一人ずつ手にした自動拳銃(オートマティック)を的に向かって撃つ。

 順番に一発ずつ撃って行き、俺の番が回って普通通りにトリガーを引く。

 弾丸はど真ん中とはいかなかったものの、的に命中していた事に肩に籠った緊張が少しだけ和らいだ。

 視線は俺から最後の一人へと移り、隣にいた奴がホルスターから素早く抜くと同時に撃った。

 

 見事な早撃ちではあるが、教官のオセロットはその行為を許しはしなかった。

 男はホルスターから抜くと両手で構えるのではなく、抜いた位置で片手撃ちを行う。

 それはまだ良いとしても扱っている銃と撃ち方の特性を理解していないのが丸わかりだ。

 早撃ちを行ったために銃はホルスターから抜いた位置に居り、その状態で射撃するには肘が曲がった状態となり、彼は肘より反動を抜く構えを取っていた。

 反動の大きいリボルバー向きの撃ち方を大口径でもない反動の小さな自動拳銃で披露した。

 

 「もう一度だ」

 

 感情を込めずに告げられた言葉通りにもう一度早撃ちを披露すると、薬莢が抜けきらずに弾詰まり(ジャム)を起こした。

 困惑した男にオセロットは手を出して、それに従って銃を渡す。

 弾倉だけを抜き取って返すと、詰まった薬莢を取り除く。

 

 「ウエスタン(映画)でも観たか?この拳銃はオートマティックだ。反動(リコイル)を逃がす撃ち方には向いていない」

 

 怒鳴りはしていないがしっかりとした怒りを感じる。

 下手を打ったのは隣の彼であるが、ピリッとした雰囲気に釣られて他の者まで姿勢を正して話を聞く。

 

 「ダイヤモンド・ドッグズもかなりの規模に成長した。世界も注目している。何処かで聞きかじった程度の間違った行動をしたいのなら他所でやってくれ――――正しい戦技を身に着けろ。次は見逃さない」

 

 厳しいがその通りだと誰もが納得し、言われた本人は後悔と恥ずかしさから俯いている。

 そんな本人ではなく、手にした銃を見つめながらオセロットは続ける。

 

 「こんな彫刻(エングレーブ)には何の戦術的(タクティカル)優位(アドバンテージ)もない」

 

 拳銃に施されていた彫刻を見ていたのか。

 戦場によっては細工を施す場合がある。

 雪山では銃に白いテープを巻いたり、森の中ならギリースーツ同様に草木を覆わせることで周囲に溶け込ますなどなど。

 だけど拳銃に掘られた見た目重視の彫刻にはそんな意味合いはない。

 ゆえに間違ってはいない。

 なのに…。

 

 「ブフォッ!」

 

 話を聞いていたバットが噴き出し、笑い出すのは我慢しようと肩を震わしながら堪えている。

 しかし視界の端でそんな反応をされたら気になって仕方がない。

 

 「…何が可笑しい?」

 「い、いやぁ、だってねぇ…僕知ってるもん。戦場でその戦術的優位性の無い彫刻が入ったこのリボルバーを使っていた人」

 

 ホルスターから抜かれたリボルバー(SAA)は確かに彫刻が施されており、それを見た瞬間にオセロット教官の顔色があからさまに悪くなった。

 え?まさか…と新人皆が思っているとクツクツと笑いながら続きを口にする

 

 「バイクの後輪を顔面に喰らわされて、僕に投げ飛ばされたりとか」

 「おい、それ以上は…」

 「しかも戦場のど真ん中でリロードするんですよね!“リロードがこんなにも息吹を!”とか言いながら―――ねぇ、オセロットさん?」

 

 最後に噴き出しながらげらげら笑うバット。

 誰もが話の人物を察してつられて吹き出しそうになるも必死に我慢する。

 なにせオセロットがにっこりと笑いながら怒気を放っているのだから。

 

 「順番が逆になったが手本を見せてやろう」

 「はへ?」

 

 オセロットの言葉に抜けた声を漏らしたバットは、向けられた二丁のリボルバーに目を見開く。

 次の瞬間には容赦なく銃声が響き、弾丸は容赦なくバットに向かっていった。

 驚くべき動きで弾丸を回避するも跳弾も含んだ銃撃に地面を転がって無様にも逃げていく。

 あのオセロットの妙技にも、負傷すらせずに逃げて行ったバットにも驚愕と称賛を抱きながら見つめ、オセロットは逃げて行かれた事に忌々しそうに舌打ちをする。

 視線をバットからこちらに戻すと歩いて来た。

 

 「ただ早撃ちは見事だった―――いいセンスだ」

 

 褒められながら拳銃を返され、そそくさと去って行くオセロットは、装填しながらバットが逃げて行った方向へ速足で向かって行く。

 後日、陽気が降り注ぐ甲板上に“私は訓練の邪魔をした愚か者です”と書かれた看板を首にぶら下げ、正座させられるバットの姿があり、新兵達は呆れ顔でそれを眺めるのであった。

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