花粉がキツイ…。
技術スタッフのレベル上げたら花粉症対策のスニーキングスーツとか開発できないかなぁ。
寄生虫技術の権威としてコードトーカーのダイヤモンド・ドッグズへの加入は、声帯虫の抑止以外にも大きな進展を見せた。
特定の言葉を使う者だけを殺す“声帯虫”。
常人場慣れした能力を与える“覆い尽くすモノ”。
スカルフェイスの計画に大きく携わっており、その根幹も知っていたのだ。
“メタリックアーキア”。
コードトーカーが発見したほとんどの生物が存在する事すら不可能な環境のみで増殖する“極限環境微生物”。
さらに研究や改良を重ね“ウラン濃縮アーキア”に“腐食性アーキア”など複数の種類が存在する。
スカルフェイスがしようとしているのはこれから広まる
己がどれだけ持っているかではなく“個人”があらゆる核の決定権を持つという事。
僅かにウランを含んだ鉱石とメタリックアーキアを売り捌き、現地でメタリックアーキアを用いてウランを濃縮し、
どんな弱小勢力であろうと容易に核武装する事が出来る。
大小問わずあらゆる勢力が手を出すだろう。
そしてスカルフェイスのみがその決定権を持ち、臨界にまで達したとしても濃縮とは別のメタリックアーキアが、スカルフェイスの命令一つで無効化する。
すでに核爆発を即座に停止させる実験は成功しており、あとは世界各国に売り捌くだけ。
奴の計画阻止をするにはもはや時間がない。
計画にはコードトーカーのメタリックアーキアなどの寄生虫技術と、どこでも走破出来る二足歩行兵器が必要。
ここまで種が解るとスカルフェイスがヒューイの技術を欲したのかがよく解る。
同時に奴の位置を知っている可能性を高めた。
正確にはサヘラントロプスが保管されている場所だ。
ヒューイがスカルフェイスの命令通りに研究開発してたからには、計画が進むにつれて何処で何をするかも知らされている筈だ。
そう決めつけたうえで尋問したらあっさり吐いた。
ソ連ベースキャンプ先にあるソ連の賢者達が築いた研究所“OKBゼロ”にサヘラントロプスがあると…。
同時に諜報班からの報告でソ連ベースキャンプが全滅。
交戦の跡が無かった事から声帯虫を使ったと思われる。
マザーベースより多くの兵士が出撃を開始。
勿論声帯虫がソ連兵士を殺した事を鑑みて人選は行われた。
多くのヘリが飛び立ち、その多くが陽動部隊として役割を担う。
スカルフェイスには聞きたい事があるし、報復を行うとしても生きて貰わなければならない。
ゆえに本命であるスネークが潜入して捕縛する為にも大規模陽動が必要なのだ。
ソ連ベースキャンプの先にはかなりの戦力は配置して警戒を厳にしていた。
兵士の質も武装の量も、投入された兵器もかなりのレベルで…。
正面突破は出来たとしてもかなりの被害が出かねない。
誰もがダイヤモンド・ドッグズは闇夜に紛れて潜入工作を行うと予想していた。
しかし闇夜にというのは正解だったが、予想を裏切るようにバットは
進軍先には岩肌を切り抜いた巨大な扉が設置されたゲートがあり、スカルフェイス直属の部隊が集まって来ていた。
向けられる銃口に怯むことなくバットは黒いロングコートを靡かせながら歩み寄る。
一人異常に突出し過ぎているバットはライトで照らされ、向けられた銃口から弾丸が集中して放たれる。
「弾雨を駆け抜ける事はあっても、弾雨の中を歩くというのは無い経験だよね」
避ける素振りも見せずヘラヘラと笑うバットの周囲に、突如として現れたスカルズが盾となってかすり傷一つ負う事は無い。
スカルフェイス側からダイヤモンド・ドッグズに移ったスカルズは取り扱いや制御するのが難しいとの事で、とりあえず説得したバットの直属部隊として扱われることに。
編入してから今日まで本当に短い期間内にスカルズの能力を発揮出来る頭から足先まで覆う
防御特化のスカルズ四名の戦闘スーツには覆い尽くすモノで作られた鉱石のような装甲で覆われ、アサルトライフル程度の銃弾ならばものともせずにバットの歩みに合わせて突き進める。
「さぁ、暴れよう。胸中にため込んだ鬱憤を吐き出そう。憎しみを、恨みを、辛みを、悲しみを…報復すべきは今だ。存分に晴らそう」
無線を通して伝えられた言葉に後方に居たダイヤモンド・ドッグズの兵士達はやっとかと言わんばかりに雄たけびを上げ、思い思いにトリガーを引き始めた。
すでにバットに攻撃を集中していただけに敵の居場所は割れており、敵兵にとっては後方の部隊の相手もしなければならないが悠々ながらも向かってくるバットを放置することなど出来はしない。
対処しきれない状況に殺意が込められた弾丸で次々と仲間が射殺され、状況は悪化の一途を辿るスカルフェイスの部隊…。
そこにさらに悪化させる要因が襲い掛かる。
スカルフェイスの下を離れたスカルズは八名。
現在バットを護っている防御型のスカルズに、狙撃を得意とする女性のスカルズ達。
クワイエットを加えた超人的能力も持った狙撃手が狙撃を開始したのだ。
攻勢の前に場所どころか狙撃されている現実に気付く者は少なく、重機関銃のトリガーを握って有効的な反撃を行おうとする者が真っ先に撃ち抜かれていく。
圧倒的過ぎるほどの不利にゲート前を護っていた部隊は後退を宣言。
まさに命からがら閉まり始めたゲートへと向かっていく。
頑丈そうな扉が閉まる様子に焦る事も無く、バットはリキッドへと無線を繋げる。
「そっちの調子はどう?」
『問題ない。っというか遅い。とうに準備を終えて暇してたんだけど』
「ごめんて。後で美味しいおやつ差し入れするからさ」
『で?どこまでやれば良い?』
無線を受けたリキッドはアサルトライフルを担ぎながら、頬を吊り上げて嗤っていた。
リキッドとしてはちょっとした確認と意地悪を兼ねて聞いてみたが、バットの言葉は酷く冷たいものだった。
「勿論
正直バットは完全にキレている。
クワイエットのように事情があるのならまだしも、彼らは確固たるものでなくとも自らの意思が関与した結果あちら側に居るのだ。中には国境なき軍隊を壊滅させたときの兵士も居るだろう。
そんな連中は今回の報復対象である。
手加減などしてやるものか。
ゲートが閉まり切ったのを復讐の悪鬼と化している蝙蝠がジッと眺める。
「砲撃戦用意!」
掛け声に後方が明るく照らされる。
闇夜に朝日が差し込んだように辺りを照らし、銃声とも砲弾の発射音とも異なる発射音の後、閉め切られた扉に直撃して大きく歪ませる。
その威力に歓声が燃えるのを耳にしたバットは忌々しく思う。
「
そう…僕達は“ピースウォーカー計画”を阻止している最中に研究開発した技術。
十年前には当然のように持っていた技術を今更になって取り戻した…。
あの髑髏面のせいで…。
憎しみを込めた瞳を浮かべるバットの後ろには巨大なレールガンを放ち、放電している新兵器“バトルギア”が待機していた。
ヒューイが隔離されたダイヤモンド・ドッグズ内で開発した新兵器。
歩行も可能であるが基本ピューパ同様のホバー走行を行う。
ピューパほど大きくも重くもないのでホバーであらゆる地域を走破する事は可能となった。
逆に重量の問題があるので多種に渡る武装の装備は難しく、唯一の武装は大型のレールガン一つ。
『アイツの兵器だ。信頼はするなよ』
「けど運用試験は必要でしょう?」
『それをこの大事な局面で扱うか普通…』
呆れた様子のカズからの無線を受けて少し微笑む。
背後のバトルギアより次弾が放たれゲートの歪みをより深く広げていく。
砲弾よりも貫通能力に長けている分、ボコボコと大きく凹み歪む扉は後数発で吹き飛ばせるだろう。
「任せたよ。リキッド」
小さく無線に呟き、バットは横に並び立ち仲間たちと共に扉が打ち破られるのをただ待つ。
怒りで爪が食い込み血が出るほど拳を握り締めながら…。
無線越しに呟かれた言葉に頭を掻きながらリキッドはため息を漏らす。
「言われるまでもねぇ」
いつもふざけているようで仕事を熟す蝙蝠が、嫌に殺気立ってやがる。
そうとう頭に来ていると見える。
けど正直アイツがキレていようと関係ない。
ダイヤモンド・ドッグズの連中が報復と騒いでいるが“カリブの大虐殺”など知らないリキッドにしてみれば関係ない事。
今回の作戦に参加してやる義理も責務もないが、こちらはこちらで溜まっているので憂さ晴らしをさせて貰おう。
俺達が築いた王国は奪われ、何もかも推しつけられ制限される窮屈な暮らし。そしてスネーク達に
ただの八つ当たりで悪いが付き合って貰うとしよう。
「各自発砲自由。撃ちまくれ」
無慈悲に向けた銃口がダイヤモンド・ドッグズによる報復の火蓋を切った。
指示と同時にぶっ放すリキッドに合わせて、陽動部隊残り半数が各々の得物で攻撃を開始する。
陽動部隊…。
バットもリキッドも今回の作戦では囮として動いている。
本命はスネーク。
時間も然程ない状況下で厳重に警戒されている基地内を潜入して探すとなれば相当な時間が掛かってしまう。
そこで警備を緩めさせるのと排除を兼ねて陽動作戦が提案されたのだ。
想定通りにバットの部隊により敵の大半がゲート前に集中した。
後はその部隊を釘付けにするだけだが、カリブ海の大虐殺で怒り心頭の連中はそれで済ませる筈がなかった。
バット達に注目させている間に、リキッド達が山間部から接近して側面から奇襲して挟撃を完成させ、敵勢力の殲滅を図ったのだ。
闇夜で視界が利かない上にゲートを挟んで対峙するバットに注視していてはリキッド達に気付かなくとも仕方がない。
高所を取ったリキッド達の文字通りの弾丸の雨にゲート前に集結していた部隊は突然の銃撃で呆気なく崩れる。
兵士達は大慌てで反撃しようとするも暗闇の中…それも高所の相手に早々と有効打らしい反撃は出来ずに乱射しては撃ち抜かれていくばかり。
勇敢な者は果敢に挑み、判断の速い者は高所からの銃撃から逃れるべく身を隠す。
しかし残念な事にこの場を放棄して逃げ出す賢い者は居なかった…。
ゲートから向かってくるバット達に対して、開けられると同時に火力で押し切る気だったらしく、並べられた戦車隊や装甲車が備えられた重機関銃や砲身がリキッド達を捉える。
否、確実に捉えてはいない。
そこに居ると断定して周辺ごと刈り取るつもりだ。
確かに重機関銃による集中弾幕に砲弾を降り注がれればリキッド達は成す術も無く肉片と変えられる事になるだろう。
だからこそ対策をしない訳はない。
リキッド達の攻撃目的はバットに向いている敵部隊を側面から攻撃を加えて致命的なダメージを与える事。
敵兵力の殲滅は主ではなく、敵に再起不能なほど深刻なダメージを与える事となれば戦闘車両の破壊の方が優先度が高い。
部隊には山の悪路を超えれるウォーカーギアが配備され、装備されていたグレネードや対戦車ミサイルが目標の車両に着弾し、爆風と火炎で包んで廃車へと変えていく。
絶望的な状況下で生き延びた兵士達は歪む程度で耐えられなくなった扉が吹き飛び、そちらに視線を戻してしまった
「
SAAではなくC96モーゼルを構えるバットは冗談交じりに呟く。
もはや彼らにとって悪夢でしかないだろう。
が、手加減なんて優しさをスカルフェイスに自身の意思で従う連中に対して持ち合わせてはいない。
扉がブチ開けられる前に合流した残り半数がバットの横並びで構え、高所からの弾雨から逃れた者らを弾幕により蹴散らして行く。
まさに一方的な虐殺である。
兵器も戦力も殺意も上回る彼らを止められる存在など限られる。
一方的だなと内心ほくそ笑むリキッドは、戦場の真ん中で火柱が上がった事に余計に頬を緩めた。
火種は至る所にあれど、火元は無かった。
万が一にもあったとしても弾薬や燃料は置かれておらず、可燃物である建造物や木材の類もそこにはない。
何も無いのだ。
あるのは宙を飛び交う弾丸と飛び散った血で濡れる土の地面、それと怨嗟を孕んだ淀んだ空気のみ。
そんな場所で炎が起こる…ましてや火柱が発生する事などあり得はしない。
可燃性のガスが漂っていた可能性を考えても、一瞬の炎上や爆発ならあり得るも燃え続けるというのは可笑しい。
ここら一帯にガスだまりなど確認されてないし、存在したら基地など建設される筈もない。
事情を知る両サイドの兵士は誰もが真っ先に気が付いただろう。
アイツが現れたのだと…。
事実、ガスマスクで素顔を隠した赤毛の少年が突如として出現し、宙に浮きながら戦場を眺めている。
少しばかりリキッドの方へ視線を向け、やけに納得できない様子で首を傾げた。
その少年の近くで起こっている火柱は収束し、人の形を形成して大地を踏み締める。
鬼のような角に全身を覆う火炎、ギラリと輝く瞳には憎悪が宿る…。
“燃える男”が戦場に現れた。
敵兵は恐怖から、味方は敵わないとすぐさま離れる。
銃弾を叩き込めばため込み、一定量にまで達するとクレイモアの如く撃ち出す。
近接戦闘に持ち込めば放たれる熱風と火炎が肌を焼く。
敵も味方も関係なしに襲い掛かる不死身の化け物…。
誰が好き好んで近づくというのか。
周りに奴の弱点である水場でもあれば話は別だが、水場も貯水タンクも見当たらない。
雨でも降ってくれればと願うも空は星空が綺麗に見えて、遮る雨雲は何処へやら…。
ただバットだけは違った。
銃をホルスターに納め、ゆっくりと歩み寄る。
燃える男もバットを視界に収めるとずんずんと力強く踏み締め近づいてくる。
近くにはダイヤモンド・ドッグズの兵士の姿もあるというのに、バット以外は眼中になしと言った風だ。
「僕を狙いますか?」
問いかけに答えやしない。
別に期待していた訳でも無いから構わないが再会にしては味気ない。
再会と言っても高いワインと豪華な食事で出迎える気も無ければ義理も無い。
寧ろ砂塵舞う戦場で得物を構え、殺意を向けて戦う方が彼との再会に相応しいだろう。
「この前は怒り任せで冷静ではなかった。けれどあれから想う事があったんです」
やはり返答はない。
けれどバットは続ける。
まだ手が届く様な距離ではないけれど、確実に距離は狭まってきている。
「燃えさかる人物を僕は知らない。けれどあの時、僅かながら
掴んだ右掌を眺めながらゆっくりと続ける。
建物ごとあの少年を燃やされた怒りがぶり返すも、それを素直に向けてはやらない。
やるもんか。
キッと睨むも若干の憐れみを持って燃える男を見つめる。
「貴方を僕は知っている。そして貴方は僕だけではなく
二人の共通の相手。
あれだけの憎しみを向けられる間柄。
そこまで分かれば何となく正体を掴めてくる。
何故燃えているかは謎だが、やはり正体は彼で間違いないのだろうと結論付けた。
そして再び相対した事で確信へと変わった。
燃え盛る炎の中に薄っすらと伺えるボディスーツ。
身体中に巻き付けられたようにスーツにめり込む薬莢。
火炎で大きく見えるも元々が筋肉隆々で大柄な肉体。
「久しぶりですねヴォルギンさん。相も変わらず
皮肉を込めた言葉と嘲笑うかような嗤い顔に、燃える男の脚が止まる。
ぶるぶると身体が震え、怒気が身体から炎となって膨らむ。
怒った様子に満足そうに笑う。
「怒ってますね。怒ってますよね?―――でも、僕はそれ以上に怒ってるんですよ」
生きたまま燃やされた。
僕の目の前で…。
手の届く距離で
腹立たしくて仕方がない。
だからこそバットは
「生憎ですが僕は忙しいんです。貴方の相手などしてあげられないんですよ」
怒気に染まった燃える男が速度を上げて迫って来るも、バットは突っ立ったままで動きを見せない。
怨嗟の炎で焦がさんと手を伸ばすも、突然の
「弱点が解ってますし、出てくるだろうと思ってましたので対策ぐらい立てますよ。火には水を。“燃える男”には―――“寒い男”を!」
「言い方に気を付けろよ。先に凍らせるぞ」
ため息交じりに現れたのはパイソンであった。
強度に液体窒素の蓄積量を大幅に上げた戦闘スーツを装備し、放り投げられた手榴弾より液体窒素が振り撒かれて燃える男は忌々しく後退する。
『バット!スネークがスカルフェイスと接触した!だが状況が芳しくない。援護に向かってくれ』
「了解です。パイソンさん。ここは任せます!」
「ならあの小僧を連れていけ。アイツの面倒までは見る気はない」
「はーい。ってことでバイバーイ」
走り去ろうとするバットを追撃しようともまた液体窒素を撒かれて進むに進み辛い。
白い煙の先で
憎しみの対象を見失った燃える男は鎮火させるどころか、熱をさらに上げて纏わりつく液体窒素が生み出した冷気を払い除ける。
その様子に奴が今何を思い、何に向けているかを察してパイソンはため息をつく。
久しぶり過ぎる実戦だ。
最近は教員の真似事ばかりでデスクワークに掛かりっきり。
鍛錬は怠らなかったとはいえ、訛っているのは間違いない。
コキコキと身体を捻り、目の前の敵を見据える。
「蝙蝠でなくて悪いが私の運動不足の解消に付き合って貰おう」
絶対零度の冷気と怨嗟の灼熱が戦場でぶつかり合う。
●ちょっとした一コマ:再会
出張中のストレンジラブ博士は、一日だけ仕事と関係なしに出掛けていた。
暑苦しい鉄仮面を外し、メイクと以前使っていた物とは違うサングラスに帽子、レディーススーツ姿で迎えの車両に乗り込んでいた。
素性を隠す鉄仮面であるが、アレは日常的に見れば逆に悪目立ちする。
一般社会では顔を知られている可能性の方が低く、襲ってくる可能性のある国境なき軍隊の生き残りを含めた面々は、謎の伝染病でマザーベースに帰還させられ、外に出る事すら叶わない状況。
ならば簡易な変装で十分すぎる。
車に揺られる事数分。
一軒の建物に到着するとゆっくりと停車した。
周囲一帯は完全に封鎖されており、至る所に火器を装備した兵士が周辺警備に努めていた。
こちらでは唯一素性を知っており、仕事の手伝いを行って貰っているアマンダに呼ばれて来たのだが、これはあまりに過度な護衛ではないだろうか。
正直歴戦の兵士ではないストレンジラブがひと目で彼らの練度を図るのは難しい。
ただ感覚として国境なき軍隊やダイヤモンド・ドッグズに近しいように感じてはいる。
扉を開けると日傘をさして頭上からも見えないようにして建物へと歩いていく。
警備の兵士達を隙間から伺うも、誰一人としてこちらを見ようとしない。
そうであるべきと徹底された節度ある兵士…否、軍隊のようだ。
足がぴたりと止まる。
装備品の開発に関わった事がある事から、それがどこ産なのかを判別する目は養われた。
軍隊のようなではない。
彼らは軍隊だ。
それも現地の軍隊ではなく、装備品の数々から解るのはアメリカ軍。
どうしてと疑問を過る中、扉がギィと音を立ててゆっくりと開かれた。
「ようやく来たわね。さぁ、入って入って」
「あ、あぁ…」
「聞きたい事があるのは解っているわ。とりあえず中で話しましょう」
煙草を加え、紫煙を撒くアマンダはにっこりと笑い、ストレンジラブ博士を招き入れる。
扉を閉めて中に入ると美味しそうな匂いがふわりと鼻につく。
何となく懐かしさを抱かせる匂いに思考が傾く。
思い出そうとするもはっきりと出て来ず、歳をとると記憶を辿るのも苦労するなと苦笑する。
「今日呼んだのは会わせたい人が居てね」
「会わせたい?」
「お久しぶり。相変わらずお肌綺麗ね」
疑問に思った矢先、現れたのはワイン片手に少しばかり頬を赤く染めているセシールだった。
彼女とは色々あった。
“ピースウォーカー計画”に携わった時に、見られてはならない物を見られ捕縛された彼女を私が面倒を見た。
コールドマンに渡せばどんな目に合わされるかと危惧し、可哀そうなことになると同情した…のもあるが彼女の綺麗な肌に惹かれたというのも大きい。
もし捕まったのが男だったらそこまでしたかと問われれば、周りの反応を考えるに沈黙で答えていただろうな。
その後はスネークに救出され、計画を潰されて国境なき軍隊に身を置いた際に再会を果たす。
スネークより彼女があまりの執拗さに怖がっていたと聞いた時は本当に悲しかったのを今でも覚えている。
後は知っての通り彼女はフランスへ帰国し、私は国境なき軍隊をヒューイに言われるがまま離れた。
あれ以来だから何年振りか。
「お互い歳をとったな」
「そうねぇ。でもそう実感するだけ生きていたのだから上々でしょう」
クスリと久しぶりの再会に微笑み合う。
テーブルに並べられた食事には手を付けられた跡があり、セシールの様子から先に始めていたのだろう。
並んでいた空のグラスが渡され赤ワインが注がれる。
「待とうっていったのに先に始めちゃってね」
「だって美味しそうな料理が冷めそうだったんだもん」
「まったく」
グイッとワインを飲み干すセシールにやれやれと肩を揺らしていると、奥より追加の料理が運ばれてきて視線を向け、ストレンジラブは驚きのあまり膠着する。
癖のある黄金色の髪を揺らし、幼さは消え去っていたが面影は強く残っている女性。
あれから十年という月日が経ったのなら当然か。
驚愕する一方冷静に思考している自分が居て、感情は高ぶって自然と瞳に涙が潤う。
「……パス」
「えぇ、お久しぶりです」
バットから聞いてはいたが、こう目にして生きていると実感して嵐のように心が騒めく。
恨み辛みなどの負の感情ではなく、生きていてくれて嬉しい。
今なら自然な形でハグしてもおかしくない。
そう思い一歩踏み込んだ瞬間、赤子の鳴き声が響き出した。
「ちょっと待ってね」と一言残して隣の部屋に向かうと泣き喚く赤子をパスが抱きかかえてあやし始めた。
「聞いてはいたがそれが奴との?」
「そうよ。可愛いでしょう」
恐る恐る頬を撫でれば柔らかく、懐かしい感覚に襲われる。
あの子は今どうしているだろうか。
それを知るすべはあるにはあるが奴は居場所は知らないと言うばかり。
本当かどうかは怪しいが…。
赤子をキャッキャ笑いながら指を弱々しくもしっかり掴む。
そこで疑問が生まれる。
サイファーに追われる身であるパスが何故赤子と共に私達の前に姿を現したのか。
「私はこの結末を見届けなきゃいけない。でも戦えない私が戦場に行っても邪魔になるだけ。だからせめて同じ
問い掛けるとそう答えた。
言っている意味を完全に理解するには至らないが、強い意志を確かに感じてそれ以上聞く様な真似はしなかった。
続いて「皆にも会いたかったし」と微笑まれ、四人して席についてパスの手料理を口にしながら、所々でワインを含む。
そこでふと外の連中の事を思い出した。
パスとの再会の衝撃が大き過ぎて忘れるところだった。
「外の連中は?」
「アレはバットが用意したのよ」
「私も詳しくは聞いてないんだけど、戦友に元グリーンベレーの少佐が居て部隊を借りたらしいの」
「そちらもか?」
「彼は信用の置ける戦友としか言われなかったの」
意外とバットは顔が広いらしい。
コールドマンが集めた資料の中に“スネークイーター作戦”時はCIA所属だったから、グリーンベレーとの個人的な繋がりがあっても可笑しくないのか…。
しかしもう一方はよくわからない。
兵士には外で警備に当たらせている割には一人建物内で待機し、一言すら発せずこちらに参加する様子はない。
口元を覆えるようにしてあるスニーキングスーツに
軍人にしては違和感があるし…。
余計な詮索はしないでおこうと考えを撃ち切り、ストレンジラブは再会を果たした面々との談笑に興じた。
ある程度子を育てた者と育て始めた者が集えば育児の話題がメインとなり、どちらでもない二人は子供の話題に頬を緩ませながら聴いたり、途中途中で別の会話を入れては盛り上がる。
アマンダはチコの様子をストレンジラブに聞いたり、セシールはフランスと国境なき軍隊の生活を比べてやっぱりあの頃の生活が…と思い出に浸る。
パスが惚気全開の旦那自慢をするものだから酒も入った事で感情が高ぶり、アイツの愚痴を口から漏らしてしまう。
閉じ込められた事ではなく日常的に思う所はある。
何かしら弱気で若干引いた性格ゆえにはっきりとした回答も無く、話しかけても「あぁ」とか「うん」とか短い返事ばかり。
すると逆にパスはバットの方が料理が上手く、勝てないのが悔しいとか言い始め、そう言う事もあるんだと談笑は夜が更けるまで続くのであった。