メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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新たな蝙蝠と蛇の出会い

 南アフリカの奥地に不穏な動き在り。

 練度の高い兵士達が集まり、大量の武器に兵器が流れ込み、さらに“アウターヘブン”という武装要塞まで建築されていたという。

 アメリカ政府は自らの諜報機関を用いて情報を搔き集め、そこで新型の兵器が開発されているという情報を得た。

 さすがに不確かな情報のみで大規模な軍事侵攻は出来兼ねない為、より正確な情報を手に入れる為にもアウターヘブン内部への単独潜入作戦を決行。

 その危険極まる作戦に選ばれたのはハイテク技術を駆使し、非常に高い練度を誇る特殊部隊“FOXHOUND ”内で、最高の兵士と称され“FOX(フォックス)”の称号を持つ男―――グレイ・フォックス。

 期待と絶対的な信頼を受けてアウターヘブンに潜入したグレイ・フォックスであったが、後最後の通信では“メタルギア”とだけ残して消息不明に…。

 アメリカ政府は再度潜入作戦を決定し、特殊部隊“FOXHOUND ”への命令を下した。

 

 状況説明を受ける宮代 志穏―――バットは、現在南アフリカ上空を行く輸送機内で待機していた。

 装備品とコードネームを決めるとゲーム(・・・)が始まったのか、視界が移ってこの輸送機内へ移動させられた。

 一緒に居た紫の姿は無く、無線にて指示を行うとの事。

 まだかまだかと待ち侘びるバットに、紫は説明を続ける。

 

 『貴方様の任務はグレイフォックスの捜索に、メタルギアに対する情報収集及び破壊を命じられた特殊部隊“FOXHOUND ”への支援となっております』

 「俺、狩場を選定して待つのが基本戦法何だけど?」

 『何度か拝見させて(・・・・・)頂きましたが、志穏様…いえ、バット様の技量でしたら問題ないと思われますが』

 「いや、そうじゃなくて…ううん、何でもない…」

 『そう…ですか?…とりあえず降下したら陽動としてFOXHOUND隊員の潜入支援をお願います』

 

 自信がないわけではない。

 好きなのが待ち伏せなだけで、乱戦になっても結構活躍した事もあるさ。

 けどもどうしてもそう言ったクエストとなると、母さんと比較してしまう。

 たまに母さんもFPSをプレイするのだが、ある意味親父より質が悪いのだ…。

 

 正面切って戦う親父に対し、母さんは工作(・・)に優れている。

 自身のアバターの見た目を一新し、キャラクターネームも統一性がなく、演技力は女優かと思わせるほどに上手い。

 いつぞやのギルド戦を行った時などアレは酷かった…。

 確か結構な好戦的ギルドで周囲の初心者も多い弱小ギルドが被害にあっており、さすがに懲らしめてあげましょうと言う事で動いたらしい。

 何と母さんは一年も前からそのギルドに入団し、内部情報を調べ上げながら信頼関係を構築。

 異なる派閥をギルド内で作らせて、小さな事から徐々に不和を広げ、内部抗争にまで発展させたのだ。

 最終的に被害にあった弱小ギルド連合がギルド戦を仕掛けたのだが、内部抗争により大半のギルドメンバーの離脱にギルド要塞内の防衛機能など情報流出、修復しようのない不和によって連携が成り立たないなどなど、内部から崩され過ぎて戦いにすらなっていなかった…。

 あまりの手際の良さに聞いてみると“昔の杵柄よ”と苦笑して誤魔化された(・・・・・・)のだが何かしらの冗談だよな…。

 

 『FOXHOUNDより送られる隊員のコードネームは“ソリッド・スネーク”。新人隊員ですがFOXHOUND司令官のビッグ・ボス(・・・・・・)が認めるほどの逸材です』

 「スネーク()?」

 『そうです。蛇と蝙蝠(・・・・)です』

 

 何か含みのある言い方が気になったが、機内のランプが点灯した事で払い除ける。 

 

 『目標地点上空まで十分前。降下準備お願いいたします』

 「了解」

 

 指示されるがまま、降りる前に最終確認を行う。

 モシン・ナガンにMP5、デザートイーグルなど銃器に弾薬。

 ポーチに詰めた医薬品や手榴弾などのアイテム。

 背負ったパラシュートと使用方法。

 忘れ物がないかと念入りに調べ、確認と準備を終える。

 

 『降下五分前後部ハッチ解放』

 

 ゆっくりと後部ハッチが開き、風が勢いよく内部に入って来る。

 広がるのは遠くまで続くジャングル。

 リアルではお目に掛かれない絶景を眺め息をのむ。

 

 『天候・風圧問題なし。降下一分前、後部ハッチへの移動願います』

 

 体内に蓄積された空気を吐き出し、吹き込む空気を取り入れる。

 深呼吸を数度繰り返し、気合を入れると後部ハッチ手前に立つ。

 眼下に広がる絶景だけでなく高所だと認識して妙に足が落ち着かない。

 

 『降下三十秒前、すべて正常、異常なし。カウント開始します。十秒前、九、八、七、六…』

 

 カウントダウンを耳にしながらパラシュートの手順を思い返す。

 それと紫のカウントダウンに感情が籠り始める。

 

 『…二、一、ゼロ―――“鳥になってこい!”幸運を祈ります』

 

 全身で風を受けながら降下する。 

 目標とする建物を視野に収めながら急速な降下に焦り、予定よりは速くパラシュートを展開してしまう。

 速度が落ちて着地時は対ショック姿勢を取って転げ、すぐにリュックごとパラシュートを外す。

 

 『パラシュートに気付いた敵兵が警戒態勢に入りました。哨戒部隊が向かっております』

 「こっちは潜入ではないんだよな?」

 『現在行うべきは陽動。任意での武器の使用が認められております』

 「…ふぅ……狙撃を開始する」

 

 背負っていたモシン・ナガンを手にし、茂みに隠れながら耳を澄ませる。

 数人の足音に僅かに唸り声が聞こえる。

 犬…こういう場合は軍用犬かと嫌な顔をする。

 大概ゲームに出てくる犬に良い思い出はない。

 移動速度が速いし、聴覚と嗅覚が良いという理由で索敵能力高いし、噛みつかれたらダメージだけでなくこちらの行動に支障を与えて来る。

 厄介だなとため息を漏らしながらスコープを覗き込む。

 

 アサルトライフルを持った兵士数名に軍用犬らしきドーベルマンが数頭。

 覗き込みながらMP5を取り易い位置に置く。

 一呼吸おいて一人目に狙いを定める。

 

 トリガーを引いた時、妙な感覚に包まれた。

 撃った感覚というのは他のゲームでも再現されるも、火薬のにおいなどは再現されてはいない。

 だけどここではにおいもするし、命中した際に妙な手応えを感じた。

 不可解に思いながらもすぐに次弾を装填して撃つ。

 一人、二人と倒れたことで敵襲に気付き、何処だと探す間に三人、四人目と撃ち抜く。

 先に発見したのはやはり軍用犬。

 入ってくる姿を確認しながら先に最後の兵士を撃ち抜き、次に軍用犬の対処に急ぐ。

 さすがに移動速度が速いのでモシン・ナガンではなくサブマシンガンであるMP5を構える。

 連射し続けることなく数発ごとに指を放して区切り、近づく軍用犬は短い悲鳴を上げる。

 

 そして最後の一頭…予想外の事が起きた…。

 MP5が弾切れとなり、弾倉を交換するよりかはデザートイーグルを使用しようと構えて撃ったのだ。

 弾は命中したのだが、反動により肩に酷い痛みが起こったのだ。

 十三歳の少年が50口径の銃(デザートイーグル)を撃って、それで済んだのは寧ろ幸い…。

 しかし戦場という場所では命取り。

 それにまさかゲームで泣き叫びそうになるほどの痛みがあるとは思っていなかった為、パニック寸前にまで陥る。

 

 『聞こえますかバット様?』

 「聞こえる…聞こえるけどちょっと…待って…(イテ)ぇ……」

 『キュアーを使用してください。多少痛みが和らぐはずです』

 「使えって…どうやっ…イテテテテ…」

 『キュアーと唱えれば一時停止となり、画面が表示される筈です。そこで治療に必要なアイテムを選ぶことで自動的に治療が施されます』

 「分かった…キュアー!」

 

 言われるまま叫ぶと周囲がモノクロとなって制止し、眼前に治療画面が浮かび上がる。

 治療に最適なアイテムが並べられ、それを指でなぞると使用されて肩の痛みがだいぶん楽になった。

 といっても完治してはいないので幾らか痛みは残る。

 

 こんな仕様聞いていないと文句を言いたくなるも、遠くから足音が聞こえてきた事でとりあえず後回しにする。

 降り立った周囲にはジープが置いてあるので、遺体の一つを近くまで引き摺って動かし、手榴弾をピンを抜けやすい状態にして遺体の服に引っ掛けて簡易のブービートラップを仕掛けて茂みに隠れつつその場を離れる。

 苛立ちながらも進んでいるとすでに後方となった着地地点の方から爆発音が響いた。

 どうやら様子見に来た連中がブービーに引っ掛かったようだ。

 これで敵の目は向こうに向く事になる。

 

 「あんなの聞いてないんだけど」

 『ですからデザートイーグルはオススメしなかったのですが…』

 「そっちじゃない!痛みの話だ!!」

 『……リアリティありましたか?』

 「あり過ぎ…すっごく痛い」

 『痛覚切りましょうか?』

 「別にいい…けど!先に言ってほしかった!」

 『以後気を付けます』

 

 文句を口にするも痛みが無くなる事は無く、残る痛みに耐えながら降下時に見えた建物に向かう道中、一台のトラックを発見した。

 興味深くもあるも警戒は怠らず、近づき荷台の中を覗き見て呆気に取られる。

 外から見れば八人乗れるからという程度なのに、覗いてみれば二十人は入れそうなほどの空間があり、中にあったのは荷台いっぱいに武器・弾薬または衣料品や食料品が積み込まれて――――おらず、置いてあったのは双眼鏡一つ…。

 

 「なにこれ?」

 

 双眼鏡を手にしながら呟き、とりあえずポーチにしまっておく。

 先を急げば同様に三台のトラックが停車し、荷台が無い一台を除いて何かしらないかと一応見てみると電子カード(カード1)が一枚落ちていた…。

 

 「本当にナニコレ?」

 『カード1ですね。電子ロックのレベル1なら解除できます』

 「違う、そうじゃない」

 

 何かズレてるんだよなこの紫って人…。

 頬を掻きながら三台目に乗り込むと中には何も無く、それどころかエンジン音と振動が響く。

 先ほど誰も居ない事を確認した筈なのに、運転手がいつの間にか戻って来たらしい。

 

 痛みと疑問に悩まされながら、バットはトラックに揺れに身を任せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ソリッド・スネーク。

 本名デイビットは特殊部隊“FOXHOUND”内でも優れた兵士である。

 空挺降下、スキューバダイビング、フリークライミングのエキスパートで、銃器・兵器の扱いや近接格闘術にも長け、六か国語に通じていて、19歳の頃にはグリーンベレー(アメリカ陸軍特殊部隊)に所属、湾岸戦争にてイラク西部に潜入で初陣を飾った。

 平和に生きるより戦ってこそ生を実感する戦士…。

 

 今回の任務はFOXHOUND司令官に復帰(・・)した伝説の兵士であるビッグボスより直々に命じられた任務。

 内容はグレイフォックスの救出に、新兵器メタルギアの情報収集及び破壊。

 そのために単独での潜入作戦を行っている。

 水路からの侵入の為に武装の類は持ち込めず、武器と言えるのは自身の肉体のみ。

 

 何処かで武器を調達しないとなと思いつつ、周囲に敵兵が居ないのを確認して水路から上がる。

 上がった先にはずらりと戦車が並んでおり、それだけでもかなり力を持った相手である事を強く認識できる。

 濡れた衣類が気持ち悪くもあるが、ふかふかなタオルも真新しい着替えが置いてある訳もないので我慢するほかない。

 水滴で足跡が付かないようにある程度絞ると先へと進む。

 

 水路の向こうは格納庫にもなっているらしく、またも複数台の戦車が止めてある。

 しかし周囲に警備の目は無い。

 どうやら陽動が上手くいっているらしいな。

 

 FOXHOUNDとしては支援はビッグボスからの無線指示しかないのだが、政府上層部が重く見たのかCIAから工作員一人を支援に送るとの事。

 話によれば空挺降下して敵の目を引きつけ潜入時の陽動を行い、その後潜入する事が出来たのなら俺の支援を行う事になっている。

 下手な期待はせずに自身一人で行うという気持ちで居た方が良いだろうな。

 

 潜入任務である事と武装がない事から警戒を怠らず、慎重に警備の目を掻い潜って進む。

 ここの兵士は特殊なゴーグルを使用しており、かなり遠くでも鮮明に見えるらしく、どれだけ離れていても前に立てば見つかってしまう。

 逆にゴーグルゆえの弱点で正面以外は見えない(ゲーム上の仕様)

 例え真横に立っても気付かぬほどに…。

 

 気付かれぬように調査しているとアウターヘブン内にトラックが四台(・・)停車しており、荷台を確認しようと一台ずつ調べて回る。

 中には電子カード(カード1)にレーション、双眼鏡が置かれており、それらを回収して四台目に入り込んだのだが何も無い。

 何が運ばれたのかと疑問を浮かべて荷台から出ると背後より銃口を向けられた。

 

 「…動くな。両手を頭の後ろに」

 「若いな。新兵か?」

 

 声からして相当若いのが解る。

 問うてみれば雰囲気から苛立ったのを感じる。

 感情が素直に現れ過ぎるが、どうも感情のまま動く短絡的な奴ではないらしい。

 距離を保ったまま警戒している。

 

 「若くて悪いかよ」

 「いやぁ、悪い事はないさ」

 

 手を頭の後ろにしながらゆっくりと振り返ると、予想以上に若過ぎて一瞬だけ動揺する。

 新兵どころではない。

 少年兵だ。

 同時に服装や装備からここの兵士でもないと察した事も同様の原因だ。

 アウターヘブンの兵士でもなく、現地民がこんなところまでヅカヅカ入ってくることも叶わない。

 …と、なればこの少年兵がCIAが送り込んだ工作員という事に…。

 

 「そこで何をしている!?」

 

 お互いに相手を警戒し、観察していると敵兵が現れた。

 スネークは遮蔽物で身を隠していない為、今撃たれれば非常に不味い。

 敵兵の指が銃のトリガーに触れようとするも引く事叶わず、弾丸をその身に浴びて地に伏した。

 

 「貴方が蛇か?」

 「そうだ。俺がソリッド・スネークだ坊主」

 「坊主は止めろ」

 「じゃあ何て呼べばいい?スモールソルジャー?それともミーシャか?」

 「バット。それが俺のコードネームです」

 「蝙蝠か。了解した。ところで何か銃は持ってないか?」

 

 一難去ってまた一難。

 お互いの疑心暗鬼は解消されるも先の銃声を聞き付けて敵兵が集まってきている。

 それらを任せる訳にもいかないが、アクションだけで武装兵力に戦いを挑むなど映画の話だ。

 スッとバットが差し出して来たのは50口径のハンドガン(デザートイーグル)

 予備の弾倉も渡され、銃声が気になるところであるも状況が状況だけに余裕がない。

 

 「前衛は任せますよ。これでもスナイパーなんで」

 「誤っても誤射してくれるなよ」

 「そっちこそ前衛役が先に潰れないで下さいよ!」

 

 トラックに身を隠しながら入り口に集まる敵兵と交戦を開始する。

 さすが50口径の拳銃としては最大の攻撃力を持つ銃だけあって大した威力だ。

 代わりに反動が凄いがな。

 七発撃ち終えて預かった予備の弾倉を入れ替える。

 その間にMP5からモシン・ナガンに持ち替えたバットが離れた位置より次々とヘッドショットを決めていく。

 身体の小ささを活かした自滅覚悟の突撃を行う少年兵でも、実戦経験の少ない新兵という訳でもない。

 最低限足手まといにはならなさそうで一応安堵する。

 状況は最悪の一途であるが…。

 敵兵を撃てば撃つほど銃声が響き、救援要請を受けた援軍が集まる。

 今はまだ良いが、弾薬とて無限ではない。

 

 「現状を打破する手段はあるか?」

 「手持ちの弾薬以外に手榴弾が」

 「なら投げろ!」

 

 ポーチから手榴弾を片手に一つずつ掴むと口でピンを抜き、一個ずつではなく二ついっぺんに放り投げる。

 入り口に転がった二つの手榴弾は連続して爆発を起こし、集まっていた敵集団が転げまわる。

 

 「ムーブ(移動)!!」

 

 僅かに出来た隙に突っ込む。

 反撃を行う者もいるがそれは走りながら対処するしかない。

 二人して敵中突破して視界から逃れるように走り、戦車の下へと転がり身を隠す。

 視界の狭さから見失った敵兵が声を荒げ、捜索しているのが声や走り回る足音からよく分かる。

 とりあえず撒けたことに一息つき、同じく戦車の下に潜り込んで隣にいるバットへ向く。

 

 「持っているなら(手榴弾)先に使って欲しかったな」

 「…すみません。普段使い慣れてないんで忘れてました。普段トラップに使うばかりだったので」

 「そういや変わった使い方してたな」

 

 先ほどバットは手榴弾を二つ放り投げていた。

 二か所ではなく一か所に…。

 疑問を抱いていただけに自然に口から出た。

  

 「あー、以前一つ放り投げたら親父が何事も無かったように蹴り返してきて大変な目にあったので(※ゲームの話です)…」

 「………そうか…」

 

 両親というものを知らず、多くの育ての親を持つスネークはそうかとしか返せなかった。

 まず親に手榴弾を投げるという状況事態異常な上、難なく対応して見せた彼の父親にも驚かされる。

 気になるところであるが話の内容的にあまり掘らない方が良さそうな話題であるのは確かだ。

 その後両手両足撃たれて行動不能になるだの、自分が行動不能になった穴から部隊が壊滅して色々叩かれた(責められる)だの、別の意味で怖くあまり聞きたくない呟きがぶつぶつと漏れるが気にせず話を続ける。

 

 「この銃(デザートイーグル)、子供にはデカすぎる」

 「なんですか?喧嘩売ってます?」

 「いや、そうじゃない。俺はお前の実力は理解しているし認めている。だけど体格的に難しいだろうって話だ」

 「…で?」

 「無理に使っても身体を痛める。俺は現状武器を持っていない。そこで俺にくれないだろうか?」

 「だったら最初からそう言えば良いじゃないですか」

 

 まったくと唇を尖らせながら納得したようで、渡し切れてなかった残りの弾倉も渡して来た。

 子供っぽい感情の起伏と少しばかり生意気な口調に笑みを漏らし、敵兵が辺りから引くまで蝙蝠と蛇は暗がりに潜むのであった。

 

 

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:悩む親

 

 四年前…。

 バット(オールド・バット)―――宮代 健斗は悩んでいた。

 これまで様々な状況に出くわして来たが、この悩みは対処の仕方がまったく解らない。

 挑んで来る敵対者なら銃撃戦でも格闘戦でもぶちのめせば良い。

 仲間を増やしたいのなら縛ってから交渉したり、得意な仲間に任せれば良い。

 けれど今回の件はそれらに当て嵌まらない。

 

 息子の志穏が酷く疲弊しているのだ。

 理由は俺と比較されるのが嫌で嫌で仕方ないからと。

 どうにかしてやりたい気持ちは当然ながらある。

 しかしながらここに大きな壁が立ちはだかっている。

 相手は実体が見えないゲーム内の多くのプレイヤーで、法律的にも物理で何とかすること叶わず。

 志穏と言葉を交わして和らげようとも、比較の対象である僕の事も嫌っていて真面に話を聞いてはくれない。

 一応ゲーム会社にメッセージは送ったものの、対応してくれるかどうかは解らない。

 八方塞がりな状況にため息を漏らし、我が子一人護れない自身に苛立ちが募る。

 

 「………永遠とリスキルしてやろうか…」

 「なに物騒な事を口走っているの?」

 

 ポツリと漏らした言葉にパスが呆れ顔で反応する。

 火のついた煙草を咥えて向かいのソファに腰かけ、煙を吹かして灰を灰皿に落す。

 

 「むぅ…紙巻か」

 「いつもと言う訳にはいかないわ。それにこっちの方が楽だから」

 

 好みとしては噛み煙草(無煙煙草)なので、紙巻きであったことを残念がって唇を尖がらせた。

 ただし“好み”と言っても噛み煙草が好きなのではなく、噛み煙草を使用(・・・・・・・)しているパスが好き(・・・・・・・・・)”で、位置を直す為に唇を指先で押す仕草が可愛いのだ。

 そしてパスはそんなバットの好みを察しているがゆえに、最早慣れている(・・・・・)噛み煙草の位置を直す振りをして仕草を見せ付けている…。

 

 一時は呆れ顔を見せたパスであったが、理解と歯痒さを知っている為にすぐに表情は真面目なものと入れ替わる。

 

 「あの子の事よね…」

 「うん、何とかしてやれないかなと思ってさ」

 「難しいわよね」

 「投げるようで悪いんだけどパスの方で励ませる?」

 「私、何処かの誰かさんみたいに敵兵を味方に抱き込むほど口達者じゃないのよ?」

 「ごめん、今のは忘れて」

 

 冗談めいた口調ではあったが苦々しさを含んでいた事に、自分の浅慮な言葉に対して余計に深く沈み込む。

 気にしていない風なパスは大きく煙を吸い込み、ため息と共にゆっくりと吐き出し言葉を続ける。

 

 「特定(・・)侵入(・・)も出来ているから黙らす事は出来るのだけど」

 「……なんて?」

 「だから相手()の住所の割り出しは終わってるし、システム内にも入ったからやろうと思えば何でも出来るのよ。それこそ改竄して罪に問うことぐらい簡単に」

 「どっちの方が物騒なんだろうね…。そんな事させるんだったら僕が出向くよ」

 

 …行ってどうするつもりなんだと普通は突っ込むところなのだが、この室内にそんな突っ込みをするようなまともな人間はいなかった…。

 

 互いに解決に導く事が出来ない状況を再確認しただけに、空気は重く苦しく感じる。

 

 「ねぇ、小さい頃どうだったの?」

 

 そう聞かれて自分の幼い頃を思い返すも解決策に繋がる事は思い浮かばなかった。

 誰かと比べられて苦痛と感じる以前に、まずそんなに比べられる事もなく、日々をただただ過ごして居た記憶。

 パスもパスとてサイファーの下で訓練を積まされ、悩みを抱く余裕のない生活だった為、志穏の悩みを近いレベルで共有することは出来ない。

 健斗が首を横に振るうとパスは「そうよね…」と淡い期待を抱いていただけに苦い表情をする。

 

 「バット(・・・)、なんとかしてあげれない?」

 

 普段は健斗呼びであるも二人っきりの時はバット呼びをするパス。

 それでふと健斗は思ってしまった。

 

 「あっちに(・・・・)連れて行けば何とかならないかな?」

 「向こうへ(・・・・)?」

 

 正直思い付きだった。

 だけどパスはその言葉に驚き考え込む。

 

 パスは悪い考えではないと思う。

 身近に居て知らず知らずの内に甘えのある自分達より、繋がりの無い第三者の方が接しやすいのではないか…と。

 国境なき軍隊で知っているカズはふざけているものの、基本は真面目な性格で察しも良くフォローも出来るので、近くにいるだけで自然と志穏の棘も大分和らぐのではと思いもする。

 …まぁ、息子でなく娘だったならば絶対に送りたくない相手ではあるが…。

 それにパスはサイファーの工作員としてスネークの下へ素性を隠して潜り込んだ時を思い出す。

 相手は敵だと思ってはいてもそこでの生活に心地よさを抱いて普通に楽しみ、任務を全うせねばという使命感と失いたくないという気持ちのせめぎ合った身としては余計に…。

 

 「良いわね。それ行きましょう!」

 「ヴェノムさんに投げている様で思う所あるんだけどねぇ」

 「だったら他に妙案ある?」

 「…すみません」

 

 何も考え付かずに謝る健斗は早速連絡しないとなと思うと同時に、その前に彼ら(・・)に頼まなければと特殊なケース内で保存された葉巻の側にある古めかしいVRゲーム機に目を向けるのだ。

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