「…あんまり美味しくない」
「ここが高級レストランにでも見えたか?文句言わず食え」
不本意ながらの銃撃戦を行い、交戦状態から警戒態勢に移行されるまで身を隠していたバットとスネークは、出会ったトラックの駐車場になっている場所でレーションを食べていた。
腹が減っては戦は出来ぬ。
まさにその通りで腹が減って戦闘時に力を発揮できなかったら大事だとスネークが、首を傾げたバットに無理にでも食べるように言い聞かせたのだ。
ゲームだと思い込んでいるバットにとっては、栄養分は接種しているのでゲーム内で食べて意味があるのかと思うも、何かステータスや話の都合上影響が出るかもと危惧して口にする。
…が、料理が提供される訳でも、材料や器具がない状態では自分達で作る事も出来ず、食べるものと言えば落ちていたレーションのみ。
食事は栄養を摂取するだけでなく、美味しいは舌を喜ばし英気を養う。
しかし軍からの支給、または申請して得るレーションなどが美味し過ぎては食い過ぎや備蓄の消費拡大に繋がってしまう。
供給が増えれば軍の資金源も圧迫しかねないので、味をほどほどにしている国もある。
二人が口にしているレーションはそういったもので、美味くもなければ不味くもない微妙なものであった。
「…微妙だな」
「そっちも似たような事言うじゃん」
不服そうな言葉にバットが突っ込む。
会話が成り立つ事で忘れそうだが、ゲームなんだよなとスネークを見つめながら思う。
NPCにしては対応がスムーズで送ってきたゲーム会社の社員が役を演じているとしても、製品として出した場合に同じように出来る筈もない事から、高度なAIによるものなんだろうなと感心する。
そんな事を思われているとは知らないスネークは、妙な視線に戸惑い首を傾げるも手と口は止めはしない。
もぐもぐと食べているとすぐにレーションは空になった。
「味は兎も角食い足りないな」
「だったらおかわりすれば良いじゃないですか」
「そんなに持ってないし、今から消費し過ぎる訳にもいかないだろ」
「何言ってんのさ」
手持ちを心配して遠慮している事に、バットは重い腰を上げる。
持ち物を
しかしながら
停まっている四台あるトラックの一台に近づき、そそくさと荷台の中に入って行った。
どうしたのかと見つめているとすぐに出てきたバットは、
「ほい」と手渡してくるバットに疑問を向ける。
「これどこから?」
「は?トラックの荷台」
「それはさっき俺が回収したはずだが…。お前の分を分けてくれたのか?」
「回復アイテムに余裕がない状態でする訳ないでしょうに。ただでさえライフ1の鬼畜ゲーで…っとプレイ中に無粋な言葉を…」
「アイテム?プレイ?何の話だ?」
「ごめん。今のは無しで。それよりさっきの問いの答えだけど荷台見てみなよ」
違う疑問が残るもとりあえず言われるがままに荷台を覗いてみる。
すると荷台のど真ん中にレーションが転がっているではないか。
「…レーションがある」
「それ拾ったら出て来てよ」
若干バットが置いて行ったのではと疑いを残しつつ、拾って外に出るとコトンと物音がする。
荷台には誰も居ないし、バットは隣にいる。
となれば今の音はなんだとデザートイーグルを手に、再び荷台を覗くと先ほどと同じくレーションが置かれている。
先ほど拾ったレーションを確認してどういう事かと首を捻っていると、今度はバットが回収して戻ってきた。
「自動的に補充されるんでしょ。多分」
「補充って誰がだ?」
「あんまり
そう話を切られて渋々了承し、レーションを片付けて本題に移る。
「情報は持っていないんだったな」
「こっちは陽動後に手助けしろって言われただけだからね」
「手掛かりがないのは同じだが、狙撃手が仲間になったのは有難くあるか」
お互いの情報を交換した結果、同じ任務内容を告げられ、援護につけかつくかしか聞いていないとの事。
相手が追加で情報を持っていると期待していただけにがっかりするも、スネークは前向きにとらえて次に考えを進めている。
バットとしては潜入任務や情報収集などは得意分野でないので、リードしてくれそうなスネークに従う気でいる。
少し態度が大きく、小生意気ではあるも基本素直で狙撃手としての腕が良いバットに好印象とまではいかずとも信頼は出来そうだとスネークは気に入っていた。
今まで関わってきた兵士の中にはもっと生意気な奴や、横柄な奴も居たのでこの程度可愛いものだと割り切っているところもあるが…。
「武装面も心配だから戦闘は避ける感じ?」
「あぁ、というか潜入任務はステルス性を重視するから避けるべきだ。それは狙撃手も一緒だろう」
「獲物が来るまでは」
「なら避けていくぞ。下手して戦車で応戦されたら今の装備では難しいからな」
潜入してからここまで戦車を十台以上も見ただけに、全面的な戦いになれば任務処ではないのは理解している。
戦闘は避けるか最小限で進むのが最善策だと互いに理解し、向かうルートを確認する。
この建物は屋上も含めて四階構造になっており、ビッグボスよりもたらされた情報によると三階への直通エレベーターがあるらしい。
全階に行けるのもあるとの事だが、現在地から少し離れていて、基地内が高度なセキュリティで扉がロックされている為に、空かない扉が多いらしい。
セキュリティレベル1の扉を開ける
なんでもこの近辺で活動していたレジスタンスが捕虜として捕まっており、彼らならこの基地やグレイフォックスの情報を持っている可能性があるのだ。
そうと決まれば武装の確認をして二階を目指す。
二階へと続くエレベーターまで兵士達が二人一組で警戒に行っているも、周囲の気配を探るのが上手いバットのおかげで位置を知り、視界が切れた隙にスネークが気絶させるといった手段でどんどんと片付いていく。
ただ問題になったのがエレベーター前に居る兵士二人。
完全に視界を切る事も無く、こちらも近づくための遮蔽物がなく動けない。
「狙撃しようか?」
「音でバレる。もしエレベーターに乗れても途中で止められたら一貫の終わりだ」
「なら陽動かぁ…やりますよ」
「それは最終手段だ」
もし同じくエレベーター前に兵士が居たとして、毎回乗る度にバットに囮をやってもらう訳にはいかないだろう。
ゆえに何かしら手段を考えねばと思っていた矢先、警備していた兵士に動きがあった。
「交代だ!!」
((そんなデカイ声で言うことあるか!?))
こちらに聞こえるように言っているのではないかと罠を疑うレベルで、大きく発せられた交代に二人は一瞬膠着する。
そうすると警備の兵士が
バットもスネークも何の感情も見せずにただ黙って待ち、同じく大きな声で交代が告げられると、兵士が離れた隙にエレベーターに乗り込んだ。
「質問良いですか?」
「…あぁ」
「ここの兵隊って馬鹿なんですか?視野は狭いわ、大型トラックの荷台に荷物一個だけ載せて運ぶわ、敵は侵入しているのにでかい声で交代を知らせるわ」
「言ってやるな」
「そんなのに
「言ってくれるな」
同じことを思っただけにスネークは申し訳なさそうに答える。
なんとも言えない空気が漂うエレベーターは目的の三階に到着してドアを開く。
開閉部の僅かな隙間に左右それぞれに潜みながら、エレベーターの外の様子を確認する。
敵兵の姿は無いが監視カメラが設置されており、取り付けられたレーンをゆっくりと動きながら周囲を監視している…らしい。
二つのカメラが異なる軌道を動くも、点でバラバラなので監視している筈なのに死角……違うな、どちらのカメラにも映らない空間を一定時間ごとに生み出してしまっている。
(これでは監視カメラの意味があるのか?)
「ガバガバじゃん。これ意味あんの?」
思った事がそのまま隣から洩れた事に苦笑しながら行くかと視線を送る。
二人してカメラの動きに注意しながら左へと向かう。
左の区画には中央の小屋を中心に敵兵が巡回しており、スネークとバットは手早く無力化………したのだけどもそれは無意味に還る。
なにせその小屋は入り口で電子キーで制御され、そのレベルは2。
持っているカード1では開けようがなく断念。さらに先の区画に進むのにも
来た道を戻って、またもカメラの死角を通って別の区画へ入る。
巡回している兵士二名を気絶させ、ロックされている扉は二つあるも片方は左側同様にレベル2。
けどもう片方はレベル1で難なく開ける事が出来た。
中は小部屋になっているも敵兵が居ない。
喜ばしい事であるもののそれが問題である事にすぐに気づく。
小部屋は繋がっており、隣には捕虜と思われる男性が縛られていた。
縛られているが物理的に動けないように
思いはするもとりあえず縛りを解いて自由にする。
「助かった!」
そう礼を言った彼はレジスタンスの一員で、捕まったグレイフォックスやメタルギアの情報は何一つ持ち合わせていなかった。
内心がっかりしながらレジスタンスを逃がしてやろうとするスネークに対し、バットは待ったをかけて引き留めて何やら話し込み、考え込んだレジスタンスは頷いて何か了承した様子。
疑念を抱いていると来た道を戻ろうとした事から肩を掴んで止める。
「何をさせる気なんだ?」
「なにって…武装して手伝って貰うんですよ。父曰く、
「…深く突っ込まないが、お前の父親は何者なんだ?」
「…本当に何なんでしょうね」
問われて明確な答えを返せないバットはため息を漏らしながら、本当に異常ですからねと遠い目でする様から本当に色々あるらしく興味が湧いてくる。
兎も角、バットの案に賛成して、外で気絶させた兵士を小部屋に連れ込んで一人は隠し、もう一人は制服も含めた装備品を剥ぎ取り、捕虜の服装と入れ替えて縛っておく。
代わりにレジスタンス兵士が制服を着て銃を構える。
「じゃあここは任せる。行くぞバット」
スネークはバットと共に先へ進む。
先へと続くであろう電子キーレベル1をカード1で解除し、開かれた扉より踏み出した。
急な息苦しさと痛みが身体を蝕む。
何事かと困惑した二人に無線が届く。
『言い忘れて
「「遅いよ!本当に先に言ってくれ!!」」
バットは紫に、スネークもつられてビックボスに怒鳴って口元を押さえ、大慌てで飛び込むように小部屋へと戻ったのであった…。
●ちょっとした一コマ:ヴェノムと子蝙蝠
ヴェノム。スネークは洋上プラントの甲板上で一人葉巻を吹かしていた。
何年ぶりだろうか。
久しく姿を見ず、噂すら耳にする事すらなくなって、死んだのではと推測が流れ始めたバットより突如連絡が来た。
息子のシオンを少しそちらに預けたいと…。
久方ぶりに連絡を寄越したと思えば、予想外の内容に面食らった。
ここは託児所ではないと文句を言うも、事情があるとの事で頼まれてしまったのだ。
言っている内容が内容だけにどうかとも思ったのだが、銃器には覚えがあるらしく戦場に連れて行かなければ問題ないらしい。
蝙蝠が関わると良い意味でも悪い意味でも乱される。
そろそろ休憩を終えて戻るかと踵を返そうとした矢先、視界の端に人影が映って視線を向けると、ぱちくりと目を見開いてポカーンと呆けている少年の姿が…。
確かにダイヤモンド・ドッグズのマザーベースには少年兵が居る。
バットが居た頃の少年兵はイーライと共に戦場に戻ったり、数年経ったことで青年に成長して祖国に戻るかダイヤモンド・ドッグズで働くかしている。
最近でも少年兵を保護しているけれども、それは現地で生まれ育った少年・少女であり、今目の前にいる少年は明らかにアジア系。
売られて少年兵として扱われていたのを保護していたとしても、アジア系で青い瞳という特徴的な少年をさすがに俺が知らないという事は無い。
いや、待てよ…。
黒髪のアジア人。
ふわっと癖のある髪質に青い瞳。
顔立ちも含めて何処か覚えがあり、ヴェノムは呆れたようにため息をつく。
親が親なら子も子か。
突然現れては突然去って行く。
ただこの子の場合は海に囲まれ、周辺の海域も空域も監視体制を敷いているというのに何処から入り込んだという疑問もあれど、予想通りであるならば疑問を抱くだけ無駄であろう。
「お前がシオンか?」
問いかけながら振り向くと少年はびくりと肩を震わし、不安そうな表情を晒しながら頷く。
やっぱりそうかと近づけば、恐る恐る距離を取ろうとする。
それもそうか。
見知らぬ地でたった一人。
面識のない大人が寄って来るのだから怖い筈だ。
子供をここに置いてなにをしているのだろうかと蝙蝠に呆れ、とりあえず落ち着かせようと膝をついて出来るだけ視線を合わせようとする。
「そう怖がらなくて良い。俺は―――」
そこまで言うとヴェノムの言葉は劈く様な泣き声で掻き消された。
耳に障る高音に思わず耳を塞ぎ、戸惑うもこの反応も無理ないこと。
少年視点から見れば膝をついても自分より大きく、ガタイも良くて厳つい。
所々に残る古傷に眼帯、さらに角が生えた異様で見知らぬ男性が急に迫って来たのだ。
ビビらずに耐えられる十歳未満の子供の方が稀有だろう。
子供の相手もままならぬというのに、泣きじゃくる子供をあやす術など知る由もないヴェノムはただひたすらに戸惑う。
どうすれば良いのかも解らず、ほぼ思考停止したかのように固まり、仕方なく放していた葉巻を加え落ち着こうとする。
その様子に気付いた歴戦の戦士達が近づいてくる。
「おうおう、坊主。泣き喚いてどうした?」
「男が大口あけて泣くもんじゃあねぇよ」
「もしかしてバットの子供ってコレですかい?」
年月が過ぎたせいでバットを見知った兵士も少なくなった。
戦場での死亡に負傷による引退、または歳により身体がきつくなった事を理由に辞めたりと、今や話で知っていても実際にバットと接していない兵の方が多いかも知れない。
すでにバットの子供が来ることはダイヤモンド・ドッグズの兵士達に連絡しており、近づいてきた連中はバットを知る古参達。
泣き喚く少年も珍しいがバットの子供とすればこれほど興味を惹かれる者もないだろう。
自分一人では何も出来ずに困り果てていただけに、彼らの登場にホッと内心安堵する。
それは尚早過ぎた訳なのだが…。
先の数倍の大声と枯れんばかりの勢いで涙を流し始めたのだ。
いきなりの出来事に驚く古参に、どうして余計に泣き喚くのか理解出来ていないヴェノム。
歴戦の猛者が体格に似合わずおろおろと慌てふためく様子は滑稽で、それゆえに多くの目を引く。
「何してるんですか!?」
「子供に寄って
「違ッ!?俺たちゃ別に…」
「ボスも見てないで止めて下さいよ!!」
「…あ、あぁ、すまない」
怒鳴りながら現れたのはダイヤモンド・ドッグズで兵士として働く女性兵士達。
囲んでいた古参の兵士もたじろぎながら道を譲ると、一人の女性兵士が慣れたように少年を抱き上げる。
「ただでさえ顔が怖いのに囲まれたら泣くわよ!」
「ただでさえ…顔が怖い……だと!?」
「おー、よしよし。もう大丈夫ですよ」
先ほどまでが嘘のように鳴き止み、ひしっと瞳を涙で潤わせながら女性兵士に抱き着く少年。
ヴェノムはスタングレネードさながらの音による攻撃から解放されて良かったと思う反面、顔が怖いともろに言われてショックを受けた古参に同情の視線を送る。
少年が怖がり自分を頼る様にしがみ付く様に、女性陣は思う所があったのだろう。
視線だけで意思疎通してこちらを強い
「この子の面倒
「…頼む」
大事に抱き締めながら女性兵士に囲まれ、わいわいと賑わいながら去って行くのを見送り、ヴェノムはどこか覚えのある光景だなと思い出に浸って、古参達と共に疲れた表情を浮かべて葉巻を咥えるのだった。