メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 …間に合わなかった。
 遅れて申し訳ないです。


決死の突破劇

 アウターヘブンには精鋭と呼ばれる実力が他の兵士より跳びぬけて優れた兵士が所属している。

 戦闘不能に陥ったライアット・ガンの使い手であるショット・ガンナーもその一人。

 ゆえに精鋭の一人に数えられる元SAS(英国特殊部隊)に所属していたマシンガン・キッドは、打ち倒した侵入者を心待ちに待っていた。

 同胞の敵討ちなんて考えはない。

 自身の方が奴より上であるという証明と同時に、元スペツナズ(ショット・ガンナー)を倒した手応えのありそうな敵との戦いに心躍らせているというのが大きい。

 

 コードネームの通りにマシンガン(機関銃)の使い手であるキッドは愛銃を整備を怠らず、来たる侵入者との対峙に心躍らせていた。

 

 「俺はマシンガン・キッド!!この先は通さん!―――って多すぎるだろ!?」

 「撃つな!身を隠せ!」

 

 入って来たのは侵入者が一人………ではなくぞろぞろと集団で訪れたのだ。

 寧ろ味方の兵士達が来たのかと誤認しそうなほどに。

 即座に動けなかっただけに先手を譲る事になってしまったが、俺の優位性は複数の条件が重なり揺るがない。

 俺が護っている一室は特殊な作りになっており、奴らが入ってきた出入り口の向かいと斜めに電子ロック式の扉がある。

 先に進むには向かいに行かねばならず、奴らが先に進む為に必要な道具は斜めの扉の中にある。

 そして遮るように長い壁が間を開けて三つ並んでいる。

 これは侵入してきた相手の行動を制限すると同時に、こちらの強力な火砲と向かい合って戦うしかない状況を生み出す。

 加えて敵集団は連なって室内に入ってきた為団子状態。

 射線も限られる状況でいきなりの遭遇戦。

 この状況下で拳銃(ハンドガン)短機関銃(サブマシンガン)で真っ向からマシンガンに勝る事は無い。

 

 しかしながら相手の方が動きが良いようだ。

 体躯は小さく幼い少年兵が咄嗟に叫んで、銃口が向く前に壁の裏へと身を隠した。

 面白い…。

 通り通りを通過様にマシンガンの銃口が火を噴く。

 長く直線的で回避するにも狭い道をマシンガンの射撃を喰らわず突破できるものなど居はしない。

 否、居るには居るがそいつは(・・・・)敵対する事は無い。

 

 「牽制しろ!」

 

 誰かが叫んだ。

 向かいより壁で身を隠しながら牽制射が行われるも被弾を恐れての当てずっぽうでは俺には届かない。

 マシンガンの猛攻に成す術はなく、牽制を止めて身を隠す。

 これが…こいつらがショット・ガンナーを破った侵入者だというのか? 

 肩透かしを食らったと残念がりながら通り通りで斉射を繰り返す。

 

 …が、その残念感は良い意味でも悪い意味でも裏切られた。

 斉射を行いながら通りに身を出したところ、先程の少年兵と目が合った。

 牽制射が行われる事から銃口は向こうの銃口辺りに行っていた。

 位置的には成人男性の胸部または肩辺り。

 しかしその少年兵は床に寝そべってモシン・ナガンを構えていたのだ。

 

 牽制はこちらの銃口の位置を固定し、こちらの銃撃が届かぬ死角を生み出させられた。

 

 やってくれると笑みを浮かべながら銃口を下へと向けるも、すでに銃口を向け終えて狙いも定めた狙撃兵の弾丸の方が早く正確。

 放たれたモシン・ナガンの弾丸は機関銃に直撃して大きく破損させる。

 破損自体は小さいが銃口を狙撃されれば最早使い物にはなりはしない。

 すでにメイン武器である機関銃が破壊された上に、二発目で右肩を撃ち抜かれては戦闘能力を失い、三発目で右太ももを撃たれて移動すら困難に…。

 

 そこにスネークが突っ込み、拘束する事でマシンガン・キッドの戦いは終わったのであった…。

 

 

 

 

 

 

 ショット・ガンナーを戦闘不能に陥らせ、赤外線ゴーグルを入手して赤外線を張り巡らされた罠を突破したスネークはバットと共に建物内を散策しながら中庭に向かう方法を模索していた。

 とある捕虜を助けた際に“メタルギア”を開発したドラゴ・ペトロヴィッチ・マッドナー博士が、中庭にある小屋に幽閉されていると聞いたからだ。

 開発者ならメタルギアの情報…それも使用目的から破壊するにはどうしたら良いかなど多くの情報を持っている事だろう。

 しかし残念ながら中庭には頑丈な柵で遮られ、先にはドーベルマンが群れている。

 無理な突破は難しい上に、爆破など派手な事をすれば位置的にすぐさま敵兵が殺到する。

 別のルートを模索するもそれもそれで中々見つからない。

 

 そこでスネークは単独行動で屋上に訪れていた。

 秘密の独房があった地下でバットが見つけたボム・ブラスト・スーツという強風対策を施された特殊なスーツ。

 倉庫や電子ロックのある部屋ではなく、幾つもの壁を塞いで隔離される徹底した保管方法。

 厳重過ぎる扱いに何かあると踏んで、使うとなると強風が吹き荒れる屋上以外に考えられなかった。

 本来ならバットと共に行くはずだったのだが、スーツは一着しかなくサイズ的にスネークが行くことに。

 バットは他に道がないかと建物内を詳しく捜索している。

 

 万が一で捜索して貰ったがどうやら屋上が当たりらしい。

 ショット・ガンナーとの戦闘後、レジスタンスのリーダーであるシュナイダーと何とか連絡が取れ、アウターヘブンに敵意を持っている事からこちらの協力をしてくれると確約を取り付けた。

 と言っても援軍を送るとかではなく、施設内に詳しいとの事で情報提供である。

 おかげで彼からパラシュートの位置を聞く事が出来、こうしてパラシュートを手にする事が出来たのだ。

 後は中庭に降下できる丁度良い場所を探すのみ……なのだが…。

 

 「いつからインディの世界に紛れ込んだのやら…」

 

 目の前に広がるのは橋。

 向かいに渡るにはこの橋を渡るほかないのだが、なんと手摺が存在しないのだ。

 間に縄を張って鉄板でも置いているのかと思うほど安定性は無く、風通しが良い為に強風を喰らっては大きく左右に揺れる。

 根元の方は比較的安定しているけれど、中間に向かう程揺れは激しくて、真っ直ぐ進めば確実に踏み外して地面に落下。

 あえなく即死するだろうな。

 潜入任務とは危険が付き物だ。

 だがこれはまた違うだろう…。

 

 悪態をつきたい気持ちを押さえて、比較的安定している辺りまではゆっくり進み、揺れの激しい部分はゆっくり進むと寧ろ危険だと判断し、タイミングを見計らって駆け抜ける。

 中間の地点を挟んで合計二回繰り返し、何とか無事に渡り切る事が出来た。

 

 安堵するのも束の間、少し進んだ先で兵士に見つかってしまったのだ。

 スネークとしては気付くのに遅れたことを悔やむも、それ以上にその兵士の装備を見て困惑した。

 飛んでいるのだ(・・・・・・・)

 宇宙服のような服装に背中には飛行する為の推進力を発生させているバックパック。

 手には操縦桿と銃が握られている。

 そんな装備の敵兵が複数方向より飛び立ち、頭上を飛行しながら撃ってくる。

 安全な隠れれる場所など無く、応戦するしかない。

 

 銃口を向けるも以外に動きが早く、一々狙っていては難しい。

 しかしどうやら操縦は難しいらしく曲がる度に大きく速度が落ちる。

 サブマシンガン“イングラムM11”を取り出して弾幕を張るように銃弾をばら撒く。

 厚みのある装備であるが飛行を目的にしている故か、防御力は低いらしくて一発命中する度に落ちて行く。

 

 「意外に厄介だが…。いや、こんな装備何処から?」

 

 疑問を抱きながらもスネークは、立ち止まる訳にはいかないのでそのまま先へと進む。

 そしてホバリングしている戦闘ヘリと対面した。

 一瞬驚きで表情が歪み、機銃が動き始めた瞬間には近場のコンテナへと駆けていた。

 背後で放たれた弾丸が床を削っている音がするも、決して振り向く事無く必死に足を動かす。

 迫る音はスネークを貫く事無く、偉く頑丈なコンテナによって防がれた。

 

 「ハインドD!?ソ連のガンシップ(戦闘ヘリ)か!一体どれだけの戦力を有しているんだ!」

 

 歩兵が戦闘ヘリと正面切って戦うなど無謀。

 だが今回は状況が違う。

 何故かは分からないがあのハインドDは全く動かない。

 道を塞ぐように待機して、最早機銃のような役割をしているようだ。

 敵を狩るよりは先に進ませる事を拒んでいるような…。

 おかげでこちらはコンテナを盾にして安全地帯を得たわけだが。

 スネークはハインドDを排除すべくリモコンミサイルを取り出して弾頭を射出した。

 射出された弾頭はコントロールに従いながらコンテナを避けれハインドの正面に直撃する。

 コンテナから出て撃破を確認しようとしたスネークは呆気に取られた。

 

 無傷なのだ。

 機銃どころかフロントガラスにもダメージは通っていない。

 強化されているガラス体を使用しているとしても、どんな装甲をしているというのだ。

 もしかして動けないのは方針上の都合などではなく、戦車並みの装甲を施したゆえに飛び回る事が出来ないのではないか?

 

 正直リモコンミサイルが通用しないのであれば、他の武器では火力不足。

 それこそ戦車の砲塔、もしくは列車砲でも持ち込まなければ落とせないのではないかと思う程。

 

 「こちらスネーク。応答してくれ」

 

 無線機でダイアンに呼びかける。

 スティーブより兵器に詳しいと聞いており、対処法がないかと淡い期待を抱き、前回は買い物に出て居なかった為に祈るように応答してくれるのを願う。

 

 『ハーイ。こちらダイアン』

 「良かった繋がった。こちらスネーク。手短に頼む。やたらと硬いハインドDと交戦中。何か有効手段を知らないか?」

 

 無線機から聞こえる女性の声がダイアンと名乗った事に安堵しつつ、慌てて問いかけるとあっさりと返される。 

 

 『…ハインドDはグレネードランチャーで倒せるわ』

 「グレネードランチャー!?しかしリモコンミサイルは聞かなかったぞ」

 『そこのハインドは戦車並みに硬いのよ。戦車の弱点は何処?』

 「……底か!?」

 『無線から聞こえる音からホバリングしているのでしょう?なら尚更よ―――BYE』

 

 そう言い切って切られ、スネークは言われるがままグレネードランチャーを手に取り、機銃の撃ち終わるタイミングに合わせて飛び出す。

 そして言われるままグレネードを撃ち出してハインド近くで爆発させると、ハインドは態勢を多少なり崩した。

 戦車の装甲は非常に厚く硬い。

 しかし唯一攻撃される可能性の低い底面を、わざわざ厚くする戦車は無い。

 正面装甲は硬かったが下部への防御面は疎かにしたと見える。

 …ただグレネードランチャーの三連射程度では揺らぐだけで落ちる事は無く、撃破するまでに20発以上も撃つことになった…。

 ダメージが蓄積してバランスを崩した上、爆発する度に発生する爆風で僅かに勝ちあげられ、立て直しも聞かずにハインドは火花を散らしながらコンテナにぶつかったりして大爆発を起こす。

 

 すでに潜入からかけ離れた戦闘を行っている事実にため息を漏らし、スネークはその先にあるフェンスが切れている地点より飛び降り、パラシュートを用いて中庭への降下を果たすのであった。

 ちなみに貴重な情報を持っているだろう博士が居るとされた小屋には、誰も居らずにすでに移された後だった…。

 

 

 

 

 

 

 バットは合流を果たしたスネークと共にビルより出た。

 中庭に降下したスネークは博士に会う事は叶わなかったが、それでも収穫無しという訳ではなかった。

 今まで手に入れたカードより上位のカード4を入手し、博士がここ――ビル1から北に十キロ離れた場所にあるビル2に移されたと捕虜より情報を貰ったのだ。

 すぐに向かう前にビル内で開かなかった電子ロック式の扉があり、上位のカードキーが手に入ったので試しにと向かい、新たにボディアーマー(防弾チョッキ)を手に入れるついでに銃弾の補充を行う。

 万全に整え外へ出た二人を待っていたのは広がる荒野であった。

 

 「広ッ!あの遠くに見えるのがビル2ですかね?」

 「だろうな。さっさと行くぞ。こんな遮蔽物の少ない場所だとすぐに見つかってしまう。それに狙撃手が居たら格好の的にされかねない」

 「ですね…」

 

 屋上で見つけたという地雷探知機で周辺を確認しながらビル2へ向かって歩き出す。

 言ったように遮蔽物はほとんどなく、あったとしても停車しているのか破棄されたのか分からないトラックがあるばかり。

 荷台にレーションが見えた為に取りに行ったバットは外で待っていたスネークに手渡した。

 

 「いるでしょ?」

 「有るに越した事は無い」

 「あり過ぎたら邪魔ですけどね。最低限以上に持つと荷物が邪魔になるし…――――ッ!!」

 

 スネークがレーションを仕舞う中、先にトラックの陰より顔を出したバットは、覚えのある(・・・・・)視線を感じて視線を動かしながら足は自然と後退を始めた。

 眼前をヒュンと風を切る音と共に銃弾が通り過ぎ、遅れて銃声が響き渡る。

 

 「スナイパー!?何処からだ!」

 「ビル2の屋上でナニカが光ったのがギリギリ見えました」

 「あそこからか…腕が良いな」

 

 顔を出さないようにトラックの下に潜り込み、双眼鏡でビル2屋上を見たバットは唖然とした。

 何故あの人がここ(ゲームの中)に居るのか…。

 

 「居たのかバット!」

 「クワイエット…さん…」

 「クワイエット(静寂)?ビッグボス、知っている事は…」

 『静かなる狙撃手…クワイエット。アフガニスタンで活躍した凄腕のスナイパーだ。狙撃の腕に徹底して痕跡を一切残さない事から正体すら不明な狙撃手。そこでは不利過ぎるが何とか突破してくれ』

 

 スネークが無線で情報を求めてビッグボスが答えているようだが、そんな事は正直どうでもいい。

 あの人…両親の事で問題を抱え居た自分を救ってくれた恩人の一人で、狙撃を教えてくれた師匠…。

 最早あの出会いは夢だったのではと自身ですら思っていたのに、こうして出会えたことに喜び興奮すると同時に、何故ゲームの世界に存在しているのかと疑問が混乱を生み出す。

 

 ビル2の屋上でスナイパーライフルを担ぎ、相も変わらず露出の多く水着と大差ない格好で中腰でこちらを見つめているクワイエットは、ただただ静かに銃口を再び向けた。

 きらりと何かが光るもバットは混乱で動けず、気付いたスネークが足首を掴んで引っ張る。

 手放してしまって唯一取り残された双眼鏡が撃ち抜かれ残骸と化す。

 

 「なにをしている!?死ぬ気か!!」

 「だって…あそこにクワイエットさんが…」

 

 心ここにあらずと言った様子で呆けるバットにスネークは頬を叩く。

 突如のビンタに驚き、頬に残る痛みで我に返ったバットは困惑しつつもスネークを見つめる。

 

 「しっかりしろ。あの狙撃手とどんな関係なのかは今は聞かない。だが、そんな状態だと間違いなくお前は死ぬ」

 「は…い…。―――ッはい!」

 「なんにせよあの狙撃手をどうにかしないと先には進めない。殺せとは言わない。武器破壊でも肩でも良いから無力化しろ。話はそれからだ」

 

 気をしっかり持ち直し、あの人と話をするにも死んでゲームオーバーになる訳にもいかない。

 ポーチよりスモークグレネードを放ってトラック周辺を煙幕で覆う。

 自身も相手からの視界を塞ぎ、陰より出て片膝を突く形でモシン・ナガンを構え、ビル2屋上付近に銃口を向けた。

 多分あの人は同じ場所に居ない。

 かといってトラックの陰で隙を狙ったとしても遮蔽物もトラック以外なく、高低差から向こうの有利は覆らない。

 だけど痺れを切らすまでの耐久戦は敵地の真ん中で行う作戦ではない。

 あの人だけで厄介極まりないというのに、無線で援軍を呼ばれたら最早勝機すらなくなる。

 ここで親父みたく早撃ちになるなんて腹立たしい限りだが、経験の浅いバットには他に打開策が思いつかなかった。

 視界を塞いでいたスモークは風で流れて徐々に薄まり、切れ目から互いの姿を晒せた。

 

 クワイエットは移動していなかった。

 さらに言えば隠れてすらいなかったのだ。

 まるで撃ってくれと言わんばかりに立ち上がり、銃口を向ける事無く担いでいた。

 トリガーに掛かる指が震える。

 先ほどまで無力化すべく撃つぞという気構えだったにも関わらず、脳裏には本当に撃つのかと抑止する意思が自身を惑わす。

 

 「バット!撃つんだ!!」

 

 スネークの叫びが聞こえる。

 スコープ越しのクワイエットは銃口をゆっくりと向けた。

 撃たれれば死ぬ。

 解ってはいるんだ。

 だけど――――…。

 

 「―――ッ撃てません!!」

 

 すぐ側に着弾し、また遅れて銃声が響く。

 外した…。

 否、わざと外したんだ。

 自身はあの人にとって取るに足らない獲物…いや、的にも思われなかった。

 冷めた瞳で見つめていたクワイエットは周囲に溶け込むように姿を消した。

 

 悔しさや悲しさで震えるバットに、スネークは肩を軽く叩く。

 

 「そう言う事もある。しかしお前は決めなければならない。立ち止まるか進むかを」

 

 ゆっくりと受け取った言葉を受け取り、涙を流すバットは立ち上がる。

 

 「進みます!その先にあの人が居ますから」

 

 瞳に強い意志を宿したバットに満足気に頷き、再び進もうとしたスネーク達に爆音が襲い掛かる。

 何事だと振り向けば距離はあるがはっきりと地面が抉れて周囲が焦げていたのが見えた。

 砲撃かと上を見上げれば空からは無数の爆弾が降り注ぐ。

 

 「………爆撃?」

 「――ッ!?ぼさっとするな!走れ!!」

 「嘘でしょ!?」

 

 感情に浸る暇もなく兎に角足を動かすバットは、ただゲームをクリアするのではなくクワイエットに再び会う為に先へ進むのであった。

 

 

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:射撃訓練

 

 ダイヤモンド・ドッグズの本拠地であるマザーベースに完備された射撃訓練場。

 本日は訓練が予定されていなかったことから貸し切り状態となっており、二人の人物がシオンの射撃の様子を眺めていた。

 

 一人はスネーク(ネイキッド・スネーク)やバットと戦った過去のあるオセロット。

 現在はある男(・・・)と行動を共にしており、その行動内容とヴェノムの一件で敵対…まではいかなくとも道を違えてしまっている。

 もう一人は国境なき軍隊の頃に“ピースウォーカー計画”阻止でスネーク達と協力する様になったチコ。

 あの頃は戦士としても未熟であったが幾つもの戦場を歩み、歳を経て熟練した戦士と成長した今では故郷に戻り、軍事顧問として若手育成に励んでいる。

 

 どちらも歴戦の勇士であり、優秀な教官なだけあって射撃訓練を見守る瞳には熱が籠る。

 本来二人共忙しい合間を縫ってバットの息子に会っておこうと訪れたのだが、話をしてみれば銃を扱った経験(ゲーム)があるというではないか。

 それも教わったというよりは軽いレクチャー(ゲームでの説明程度)を受けただけで、あとは実戦で適当と慣れで扱っていると聞けばバットに対する呆れと、間違った使い方は怪我に繋がる事から見ておこうという事になったのだ。

 

 で、子供でも撃ち易い反動の低い拳銃を渡したところ、片手(ワンハンドシュート)横撃ち(サイドグリップ)をしたのだ。

 横撃ちは照準器を使用しない為に視野を広く得て、素早く銃口を向けて撃つという早撃ちに向いていると言えば向いているが、それは当人の技量によって戦闘能力の低下になる可能性が高い。

 オセロットのように手慣れた者ならばまだしもシオンは未熟。

 反動を逃がしきれておらず、片手撃ちという事もあって銃口が一発ごとに大きく揺れる。

 そんな状態で照準器を持ち入らないのだから命中率は大きく下がってしまっている。

 

 「あはは…これは酷い…」

 「坊主。誰に教わった?」

 

 安定性がない上にさらにぶれた銃口を目標に戻す為、早撃ちの筈が余計に時間が掛かって寧ろ遅い。

 あんまりな結果にチコは弁護出来ず乾いた笑みを浮かべ、オセロットは眉を吊り上げて問い詰める。

 最近は慣れたシオンであっても肩を震わし恐る恐る答えた。

 

 「えっと、お母さんが父さんの銃でこういう撃ち方してたから…」

 「なにを使ってたんだ?」

 

 シオンの母親…つまりパスが使用している銃と言う事で小型のリボルバーなどを想像したチコであるも、手振り身振りと口にする僅かな情報からバットがいつも持ち歩いていたモーゼルC96である事が判明。

 その瞬間オセロットはため息をついた。

 

 「C96を横撃ちするのは、撃った反動を利用して横なぎに撃つやり方があるからだ。今持っている銃には合わない」

 「言い方がきついですって。バッ……お父さんの撃ち方とかはどうかな?」

 「参考にならないです…」

 「ごめん、言ってから俺も気付いた…」

 「それに早撃ちはどうも苦手で…」

 「苦手云々の前にしっかりとした撃ち方を覚えるべきだ」

 

 言い方はきついが事が事だけに子供だからと言って容赦せずにしっかり教え込むオセロット。

 子供ゆえに委縮するかなと思いつつ、立ち方から握りまで教える様子を見ていると案外そう言った事も無く、寧ろ嬉しそうに指示を聞いている。

 

 「まだ幼い子供に大人が寄って集って戦い方を教えるなんて」

  

 呆れたと言わんばかりの表情でエルザが射撃場に訪れ、声を耳にしたチコは苦笑いで答えながら振り向く。

 言葉にされるとまさにその通りなのだが仕方ないだろう。

 

 「だってあのバットとパスの子供だよ。絶対何かしら引き起こすよ?」

 「…それもそうね」

 「あっさりと」

 「私も貴方もそんなバットに巻き込まれた者の一人なのだから納得するしかないでしょう」

 「確かに」

 「ほらね」

 

 同じく即答するしかなく、お互いにクスリと笑い合う。

 ひとしきり笑うと少し寂し気にエルザが振り返る。

 エルザはダイヤモンド・ドッグズを去る。 

 けど特殊な能力を持つエルザを一人出す訳にはいかない。けれどダイヤモンド・ドッグズの兵士であろうともそう易々とスネーク(ネイキッド)の居場所を知らせる、または特定させかねない情報を与える訳にはいかない。

 そこでダイヤモンド・ドッグズに関わりながら、スネークの手伝い(・・・・・・・・)をしているチコが護衛役に付くべく迎えに来たのだ。

 手伝いと言っても資金提供や物資の横流しなどで直接的なものではないが…。

 英雄(アマンダ)の弟という肩書とこれまでの人生で得た縁やコネというのが意外と役に立ったなとチコは、手助けした当初は良く思っていたっけ。

 

 「…未練でも?」

 「そうね。未練は山ほどあるわ。蝙蝠を一発殴るとか?」

 「あはは、それは多くが思っているさ」

 

 何も言わずに突然消えた戦友。

 色々と言いたい者も居るというのに、当の本人は顔を出しにも来ないのであれば文句の一つすら言えない。

 

 「いつも尻を拭わされるのは周りの人間…相変わらずよね」

 「ま、逆にこっちも色々と貰ったからな」

 「だからよ。今度顔を出したら思いっきりぶってやるわ」

 「おぉ、怖い怖い」

 

 揶揄うように言うと肘内で脇腹を突かれて体制を大きく崩す。

 フンと鼻を鳴らしてそっぽを向かれ、疲れた脇腹を押さえながら頬を掻く。

 

 「それにしてもあのバットの子供だからどんな奴かと思えば…」

 「良い子でしょ。素直で女性兵士からは可愛らしいって玩具にされてるわ」

 「年下が好み?」

 「ふふ、十年後(・・・)が楽しみかもね」

 「おいおい…」

 「冗談よ」

 「………はぁ~、俺も付いて行こうかな…」

 

 ポツリと漏らした言葉にキョトンとした顔をされ、どうしたのかと首を傾げる。

 そして含みのある笑みを浮かべられる。

 

 「意外とチコも可愛らしいのね」

 「はぁ!?なに言って…」

 「私から頼んでみてあげる」

 

 くすくすと笑われた事で自分が無意識に心配と嫉妬(・・・・・)からの発言をした事に気付いて顔を赤らめ否定するも、肩に頭を乗せられる形で寄られては黙るしかなかった…。

 目を合わさぬように視線を逸らすとその先ではシオンとオセロットがこちらに気付かず射撃訓練を続けていた。

 

 「そう言えばこの撃ち方ってどうなんです?」

 「…奴に教わったもの一通りやってみろ」

 

 拳銃を持つ右手首を左腕に乗せる事で安定させようとしているのだけど、その左手は拳銃を握っているような動作から二丁拳銃だと察したオセロットは深く思いため息を吐き出す。

 何やってんだかと思いながらエルザもチコもシオンのもとへと向かう。

 せめてこの子は蝙蝠のような無茶な奴にならないようにしてあげないといけないと思いながら。

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