クワイエットと再び会うべくやる気に満ちたバットだったが、明らかに苛立ちを隠し切れていない様子にスネークは苦笑する。
ファイヤー・トルーパーを無力化したスネークとバットの二人は、メタルギアの情報を持っているであろうマッドナー博士を捜索し、ようやくにして発見することに至った。
博士から情報提供を受け、安全な場所へと避難―――させる予定は狂う事になった。
マッドナー博士は“ロボット工学の父”と謳われる程の人物で、アウターヘブンでのメタルギア開発を任されていた。
ただ好き好んで協力した訳ではなく、脅されて協力せざるを得なかったとの事。
博士には一人娘が居た。
名前は“エレン・マッドナー”。
“ボリショイ・バレエ団”の花形スターとして活躍した人物で、今はマッドナー博士を研究させる為の脅しの材料として、ここアウターヘブンで監禁されている。
協力する気はあるが娘を救出しなければ一切しないと博士は取引を持ち掛けた。
それ自体はバットは納得して受けた。
しかしながらマッドナー博士は娘を助け出すまでは情報提供をしないばかりか、今居る場所を一歩も動かんと言ったのだ。
捜索する最中で敵兵と交戦する事もあったし、博士は貴重な情報を持つ重要人物。
敵としても警備を厳重にせざる得ない上に、最悪また場所を移される可能性すらある。
ずっと連れていくことは出来なくとも他の場所に移して隠れて貰う事は出来た筈だ。
何度説得しようとも同じ言葉を繰り返して動かなかった。
バットは後の事態を想定して苛ついている。
また探す可能性に、口封じに殺されるかも知れないのだから。
そんな苛立つバットに追い打ちをかけるように、エレンが監禁されている
「気持ちは解るが落ち着け」
「俺は冷静です!」
(そうやって自分で言う奴ほど冷静じゃない場合が多いんだがな…)
ビル2から荒野へ戻り、ビル1へと入る。
すでにビル1内部の大半はレジスタンスに依って制圧されている。
救出された者にバットが手懐けたドーベルマン、加えてリーダーであるシュナイダーが直接指揮を執っている事で指揮も士気も上々。
元々二人が幾度か交戦したおかげで戦力が著しく低下したのと、ビル1がビル2に比べて重要度が低く、侵入されたことで敵の眼がビル2に集中している事も容易に制圧出来た訳だが…。
逆に容易過ぎて妙ではあるが…。
到着したスネークは現状をビッグボスに、バットはシュナイダーから情報提供を受けようと連絡を取った。
「マッドナー博士から協力を得る為には娘さんを救出する必要があるんです。居場所に心当たり無いですか?」
『制圧したと言っても完全ではないんだ。人数が絞られる上にいつ敵がこちらに兵を向けて来るか解らんから警備を薄くするわけにもいかんしな。ただ心当たりはある』
「何処ですか?」
『地下の独房。それも君らが捜していたグレイ・フォックスが居た秘密の独房の奥。あそこにはセキュリティレベルが高過ぎて、君らから写したカードキーでは開かないエリアがある』
「重要人物を捕えるならそこか」
「ならさっさと救出に行くぞバット」
侵入したときに比べて楽に進み、目的の秘密の独房があるエリアへと辿り着いた。
ちなみに秘密の独房にはショット・ガンナーとマシンガン・キッドが捕らえられている。
奥の扉へ向かってビル2で入手した
先には兵士ではなくドーベルマンが二頭。
慣れた手つきで手懐けると二人はすぐ側の部屋に入るが、物一つ置いていない空部屋であった…。
「空振りですね。他を探し――」
「待て!静かに…」
部屋を出ようとしたバットに制止を掛けたスネークは耳を澄ます。
それに習ってバットも耳を澄ませば「助けて!」と声が聞こえた。
「聞こえましたか!?」
「ああ!こっちからだな」
声の方向に進もうとしたスネークを今度はバットが止め、床を指差して薄っすらと見える線を見させる。
落とし穴と理解してバットの察知能力に感心すると同時に、割と本気でどのような経験を積んだのか気になってきた。
無事帰投したら聞いてみるのも後学の為にも良いかも知れないなと考えるスネークであった。
罠を避けて声が聞こえた壁にC4爆弾を設置する。
「壁から離れてろ!」
大声を上げて二人は壁より離れて身の安全を図り、C4爆弾が爆発するのを待った。
爆発により壁は吹き飛ばされた先には赤い服を着た女性が座り込んでいた。
「マッドナー博士の娘さん?」
「そうです!私はドラゴ・ペトロヴィッチ・マッドナーの娘、エレン・マッドナーです!」
「安心しろ。俺達は君を助けに来た」
「その前に父を!父は脅迫されてメタルギアを作らされているの!!」
「解ってる。そのマッドナー博士から救出を頼まれた」
「ここから移動します。立てますか?」
「はい!」
立ち上がったエレンを連れて二人は来た道を戻ろうと部屋を出て―――銃声を耳にした。
何事かとお互いに得物を構え、周囲を確認すると一人の女性が立っていた。
ビキニという露出の高い格好に、下は所々穴の空いたタイツ。
手には狙撃銃を手にしている狙撃兵。
「先程振りだな狙撃手」
「久しぶりですクワイエットさん」
銃を向けて声掛けするも沈黙で返すクワイエット。
その目は品定めをするかのようにスネークとバットを見つめる。
そして最後にエレンを見ると、顎で部屋に戻れと示す。
「嫌よ!私は…」
「違う。そうじゃない」
戻れと受け取ったエレンは拒否したが、バットが別の意思を提示する。
バットが指で示した先には秘密の独房があるエリアから繋がる扉があり、カードキーを通す電子ロックが綺麗に撃ち抜かれて火花を散らしていた。
クワイエットはスネークとバットの退路を塞ぎ、ここを戦いの場と定めた。
それに対して非武装で人質であるエレンは邪魔でしかないのだ。
「撃てば俺達の行動も止まっただろうに…意外と優しいな」
「意外とは失礼です。クワイエットさんは凄く優しく綺麗な人ですよ」
「…初恋相手だったりしてな」
「な!?何を言うんですか!!」
「意外とマジっぽいな…」
言葉に何らかの想いを感じ取って口にしてみれば、真っ赤に染まるバットに苦笑する。
対してクワイエットは悪い気はしなかったのか微笑んでいた。
「でだ、そのお優しい狙撃手さんは俺らを見逃しては――――くれないみたいだな。バット!」
「解ってます!話は後の楽しみに取っておきます!!」
現状はスネークとバットに有利だった。
狙撃手の強みと言えば何処にいるか分からない点と遠距離からの精密な射撃にある。
しかしながらクワイエットは姿をさらした上に、然程離れていない位置に立っている。
狙撃用ライフルを使うよりバットのベレッタや、スネークのデザートイーグルなどの拳銃の方が有効。
まして二対一ともなれば尚更だ。
しかしながらその有利さは覆された。
跳ぶように踏み出された一歩で目にも止まらぬ速さでクワイエットは右へ、左へと高速で移動したのだ。
以前ヴェノム・スネークと対峙したクワイエットは、その高過ぎる身体能力で長距離を極僅かな時間と歩数で移動し、跳躍を以てちょっとした崖ならば飛び越える能力を披露した。
そんな彼女であればこれぐらいの芸当は余裕であった。
撃つたびに高速で動かれては当たらない。
急ぎ銃口を向けて撃つむ間に合わず、あっという間に距離を詰められる。
銃撃戦ではなく接近戦に持ち込まれたスネークは即座に掴み掛ろうとするも、簡単に突き放されて転ばされた。
バットが横合いから足を狙って引き金を引くも見事なまでに躱された後に関節を決められて身動きが取れなくなる。
「やっぱり強過ぎますね…」
苦しそうに呟くバットに嬉しそうに微笑むクワイエット。
ギリギリ見えた表情に苦しそうながらもバットは喜んだ。
何しろクワイエットの眼には失望の色が無かったのだから。
「バットを離せ!」
転がされたスネークは立ち上がり、クワイエットに掴みかかると腕の関節を決めようとする………が、力が入り難いように関節を決めようとするも、その状態で力の差があり過ぎて押し返されてしまう。
スネークの攻撃で緩んだ隙にバットは抜け出し、飛び掛るも二人纏めて転がされる。
「化け物かよ…」
「美女と化け物は付き物でしょう…」
「化け物染みた美女は聞かないがな。それに取り巻きも来たみたいだ」
奥より大量の兵士達が駆けてきた。
クワイエット一人に良いようにされたというのに、ここで敵兵が来るとはなんとも最悪な状況だ。
しかも隠れる場所どころか退路はクワイエットに初手で潰されている。
「動くな侵入者共!」
「抵抗しなければ殺さない!」
「足だ!足を撃って動けないようにしろ!」
兵士達が周囲を囲み、銃口が向けられる。
一人の兵士が前に出てクワイエットの横へと並ぶ。
銃口は足に向けられていて、ここまでかと諦めを過らせつつ最後の瞬間まで何とか脱せないかと思案は止めない。
…そして銃弾は放たれた…。
銃声が響き、放たれた弾丸は床を削った。
狙われていたスネークやバット以上に床に向かって
「なにをするのかクワイエット!?」
撃つ瞬間に銃口を下げさせて外させたクワイエットは、説明も弁明もせずに沈黙を貫く。
ただバットへ少し残念そうな視線を向けて。
その様子に過剰に周りが反応し、銃口をクワイエットへと向け直す。
「裏切るつもりか!?」
いつも無口でどのような者なのか不明。
アウターヘブン内ではボス以外と絡むこと無し。
正確な狙撃術に高過ぎる身体能力。
彼女はアウターヘブンの兵士にとっては異質で、分からないこそ恐怖を抱く対象であったのがここで溢れてしまった。
事態が動いたのは一瞬だった。
隣の兵士が反応できない速度で顎に一撃が振るわれ、意識を刈りとられて手の上からトリガーを握り締める。
明確な敵対行動に驚きながらも何人かが銃口を向けて撃ち始めるも、意識を失った兵士を盾にして防ぎ、その兵士の銃で乱射して周囲の兵士を薙ぎ払う。
無論それで全員を仕留めきれる筈も無かったが、今度は盾にした兵士に蹴りを見舞い、蹴られた兵士は床にぶつかることなく数メートル飛ばされた。
その光景は映画などで見られるワイヤーアクションのようで現実味が無い。
しかしそれは目の前で起こった出来事であり、彼女はそんな非現実的な動きを現実にするほどの能力を有している事を見せ付けたのだ。
蹴飛ばされた兵士は他の兵士に激突し、止まるどころかぶつかった二人の兵士を巻き込んで吹っ飛ばした。
驚くべき光景に呆気に取られた兵士達。
クワイエットはその瞬間を狙ったかのように銃を構えずに突っ込んだ。
跳躍する様に恐ろしい速度で左右にジグザクと曲がりつつ、一歩ごとに透明になっては姿を現すを繰り返す。
左右に移動を繰り返して回避運動を行い、姿を消していては手当たり次第に撃たれて被弾の可能性が出て来るので、姿を現す事で向けられる銃口をある程度誘導している。
距離を詰められた兵士達は抵抗する間もなく、ひと蹴りで次々と倒されていく。
人間離れした戦闘を見せ付けられたスネークは、密かにその場を離れようとするバットに続いた。
「良いのか?」
「邪魔が入ったから仕切り直す。クワイエットさんも同じだと思うから」
「そうか。互いに解っているんだな」
「伝え合うのには言葉が一番。だけど沈黙もまた雄弁なんだ」
バットとスネークは部屋の入口付近で隠れていたエレナを連れ、兵士達と戦いつつもクワイエットに見送られながら、その場から多少強行突破に成りつつも急ぎ離れるのだった。
●ちょっとした一コマ:クワイエットとシオン
蝙蝠の息子が訪れていたのは知っていた。
だけど別段自分と関わる事は無いだろうと思っていた。
しかしながらヴェノムより面倒を任される事に…。
理由は久方ぶりにマザーベースに戻ってきたミラーにある。
シオンというバットの息子を口八丁で仄めかし、マザーベース内で金稼ぎを行っていたのだ。
子供の成長に悪影響という者もいれば、その技術を見込んで少し借りたいと言い出す者が出てくる始末…。
少し仲間に対する注意喚起と新たな規則作りに時間が必要で、その間はフリーとなるシオンをマザーベース外へ避難させる必要が出て来て、仕事で外に出る兵士の中で最もそういった事情から安心して任せられると私が選ばれた。
幸いだったのはシオンが蝙蝠と違って聞き分けが良かった事だろう。
おかげで騒がしくも無く、手間もそんなに掛からない。
背の低い草むらに転んで身を隠し、ターゲットである動物を待つ。
今回の仕事は危険区域より野生動物の保護。
ただ警戒心が高いゆえに任務に挑んだ兵士は失敗してしまい、クワイエットへと回って来たのだ。
目標の動物が現れても即座に撃つ事は無い。
ゆっくりとじっくりと観察し、自分という存在を只管に周囲と一体化させ、麻酔銃に改造された狙撃用ライフルを構える。
こちらに気付かずゆったりとした足取りで歩み、射程圏内に入った事を確認して小さく息を吐きスッと止める。
静かな心持の中でトリガーを引けば、放たれた麻酔弾はターゲットに命中し、少し動いた末に転倒して眠りに落ちた…。
終わったとターゲットに近づいてフルトン回収にてマザーベースに送る。
シオンはずっとそれを黙って眺めていた。
暇そうにではなく、興味津々と言った様子で。
正直子供にはつまらないものだとばかり思っていた。
時間通りに事が進む事は無く、じっくりゆっくりと待ちに待って、ようやく機会が巡って来る。
いつ駄々を捏ねるかと思ったが、彼は黙って付き従っていた。
意外とこういった事に向いているのかも知れない。
ほんのちょっとした気紛れだった。
仕事は一つだけではなく、他にもついでに請け負っていた。
なので彼に銃を扱い方を教えた。
すでにオセロットに依ってかなりの扱い方の指導を受けていたので、想像以上に教えるのは楽ではあった。
そしてシオンは失敗した…。
当たり前だ。
銃の扱い方だけで自然相手に狙撃が意図も容易く成功できるはずがない。
隠れているつもりでも残した痕跡や様子、雰囲気から獲物は警戒し、近づこうともしなかった。
そうとう悔しかったのもあったのか、その日より彼は私に懇願する様になった。
純粋無垢な瞳を真っ直ぐに見つめて…。
気紛れと言えど手を貸したのは私だ。
ゆえにその懇願を受け入れて、私はシオンに教え込んだ。
言葉数は少なく、誰かに教えを与えるなど不慣れな身。
教官としては不十分だったと思う。
けれどシオンは一から十を聞くのではなく、一を聞いては私の手本を見習って知識を経験に昇華して取り込んで行った。
まるで乾いたスポンジのように、得たものを吸収していく様を見て、私は楽しかったし嬉しかった。
何よりこうも誰かと共に居たのは久方ぶりだ。
ダイヤモンド・ドックス内で私の立ち位置は微妙だった。
よく接してくれていたバットは居らず、一番関りのあるヴェノムも暗殺しようとした過去があるだけに後ろめたさがある。
そんな中、シオンだけはそういった事情は存在せず、化け物染みた能力を恐れる事無く接してくれた。
自然との接し方。
周囲への溶け込み方。
様々なものを教えている内に分かった。
彼は私に似ていた。
私は自身が行った過去が、シオンは両親の功績が重く圧し掛かり、息苦しさを感じていた。
シオンは言った。
私に会えて良かったと。
狙撃の時間は周囲の疎ましさの一切合切を忘れさせ、穏やかな時間を自分を包んでくれる。
自分は貴方に救われたのだと…。
違う。
それは違うのだ。
救われたのは私なのだ。
彼に教えた期間は短く、会話もそれほど多くは交わさなかったが、その時間は濃密且つ充実していた。
ほどなくしてシオンは簡単なものであったが、狙撃を成功させてターゲットを見事捕縛する事に成功した。
あの時の笑みを忘れる事は無いだろう。
そして出来る事なら彼の成長を見てみたいものだ。
いずれ帰ってしまう事から無理だろうと解っていても、そう願わずにはいられない。
モシン・ナガンを手にする彼は今日も今日とて、私と共に獲物を狙って潜むのだった。