メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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ある種の恐怖

 バットは床をジッと見つめながら、調べつつゆっくりと進む。

 クワイエットとの交戦後、ビル1より入った扉は電子ロックが壊されて使用不能。

 ならばと敵兵が来たであろう道を進んだ。

 奥に進めば真っ暗闇で満たされ、道中で拾ったライトで照らす。

 進み辛い上に嫌らしくも落とし穴の罠も用意されていた。

 罠があると解っていればスネークは問題ない。

 ゲーム内でパスによりこっ酷く罠に嵌められ、鍛えられてしまったバットは罠に対しての感知が高い。

 しかしエレン・マッドナーは別だ。

 出来れば彼女は安全な場所に置いて、こんな危険極まりない道は二人で行くべきだった。

 けれど入り口は塞がれ、置いて行ける訳もない。

 ゆえに連れて危険な道のりを進むしかなかった。

 

 「ここ走り抜けますよ」

 「解った。しっかり掴まっていろよ」

 

 罠を発見して目測で図ったバットの言葉にスネークは返事しながら背負ったエレンに注意する。

 頷いたエレンはぎゅっと目を瞑って、しっかりとスネークにくっ付く。

 駆け出すとすぐ後ろを付いて走り、起動した落とし穴が中心を軸に広がっていくのに飲まれないように駆け抜ける。

 

 「これで何個目か…」

 「止めろ。数えても無駄だろう」

 

 新しい通路に出る度にある罠に危機感よりも正直飽き飽きしている二人はため息交じりに呟く。

 人を背負っての移動を成し、途中ダイアンより「落とし穴があるから気を付けて」と遅すぎたアドバイスを受け、行き止まりにぶち当たった。

 コンコンとノックするかのように叩いてみると音が軽い。

 

 「塞がれた壁か」

 「吹き飛ばしますかね」

 「手際よくなってきたなお前」

 「突っ込むのも無駄だと気付きましたんで」

 

 突っ込むだけ無駄…。

 どうしてクワイエットさんがゲームの中に居るのか? 

 映像は兎も角触感や匂いの現実感。

 なによりNPCだと思われる奴らの生々しさ。

 これではまるで人そのものではないか。

 考えたところで無駄だろう。

 ゆえに今は(・・)突っ込まない。

 

 C4で爆破させて壁を壊すとバットが先に様子を見に行って即座に戻ってきた。

 

 「この先ガス地帯だった。しかもビル2地下の直結」

 「それは何とも…良いのか悪いのか解らんな」

 

 バットはガスマスクを被って、スネークは息を止めるとの事でエレンに被せる。

 さすがに同行させるには危険すぎる為、エレンを近場の小部屋に隠れて貰って二人で進むことに。

 ガス地帯なら巡回もないので見つかる可能性も低いだろう。

 

 二人で一度は通った道のりを進んでマッドナー博士が待つ二階へと急ぐ。

 途中面倒な奴(・・・・)を無視して進み、博士の待つ小部屋に辿り着く。

 

 「エレンを助けてくれたのか!なんと礼を言えば良いか…」

 「お礼なんて良いですよ。約束通り情報提供をして頂ければっていうか言わないとドタマぶち抜きますよ?」

 「落ち着けバット。本音と苛立ちが漏れてる」

 

 ニコニコと笑顔を振りまきながらも今にもベレッタを抜きそうなバットに、スネークは一言告げて制止を駆ける。

 マッドナー博士はバットの言動を気にせず情報を提供してくれた。

 メタルギアがビル2から二十キロ北にあるビル3にあるという事。

 破壊方法は装甲の薄い脚部に順番通りに爆弾を仕掛ける事らしいが、16回仕掛ける順序の最後は右か左か忘れているのでそこはどちらにも仕掛けるという事で17個プラスチック爆弾が必要。

 

 「ビル2を出る為に必要なカードはアーノルド(ブラディ・ブラッド)が持っている」

 「アーノルドって誰だ?」

 「私が開発した人型AI兵器だ。ここに来る途中に居なかったか?」

 「…あの走って来る奴か」

 

 スネークの言葉でバットもアイツかと理解した。

 無視した途中面倒な奴(・・・・)

 三方向に扉がある部屋にいた敵兵で、ガタイの良さに合わせて黒の革ジャンにサングラスを付けた異様な雰囲気を纏っていた。

 ただおかしな点があり、決して辺りを見ようとせずに同じところを行ったり来たりするばかり。

 視界に入っても襲ってくることも何もせず、行き来しているレーンに入ったら猛ダッシュで突っ込んで来た。

 いったい何だったんだと思っていたら、まさかロボットだったとは。

 

 「じゃあアレを壊せば良いんだ」

 「強固に作ったから普通の銃器では効果は無いだろう。しかし弱点はある!」

 「水に弱いとかか?」

 「ロケットランチャーに弱い!―――ふがっ!?」

 「舐めてます?弱点というより威力でごり押しじゃあねぇか!!」

 「それは俺も同意するが銃を突き当ててやるな…」

 

 怒りのあまりに銃口を額にゴリゴリ押し当てるバットを落ち着かせて今後の方針を確認する。

 マッドナー博士をここに放置する訳にはいかない。

 ビル2にも捕虜になっていたレジスタンスが居たので、彼らにビル1までの移送を任せて先に二人はメタルギア破壊に向かう。

 …が問題が解決していない。

 

 「なんかAI兵器壊すのにロケットランチャーが必要なんですけど、何処に置いてあるか知りません?」

 『俺は知らないがジェニファーなら…』

 「その人なら知っているんですね」

 『多分な。ただジェニファーはプライドが高いために認めないと応答に答えてくれるかどうか…』

 

 大丈夫かな…とスネークもバットも思いながら、無線で答えてくれたシュナイダーの言うとおりに周波数を弄ってジェニファーに繋げる。

 不安を抱きながら呼びかけると捕虜を多く救出した事ですでに認められており、意外にあっさりと出てくれた。

 

 『こちらジェニファー…』

 「良かった出てくれた。実は―――」

 『ロケットランチャーを用意するわ。以上』

 「え?ちょ…何処にって切れてる」

 「マジか…」

 

 どうして説明も受けずにロケットランチャーが必要なのかを知っているのか?

 何処に用意するというのか?

 などと疑問を抱きながら再び無線をして何とか聞き出し、指定された同階の一室に向かうと確かにロケットランチャーが置かれてあった。

 しかしながら弾頭が無いのでそこはしっけいしなければならないが…。

 歩き回って弾薬から弾頭を補充してアーノルドが居るであろうエリアに向かう。

  

 「援護要ります?」

 「いらんだろう。これで撃つだけだろ」

 「戦車並みの装甲じゃない限り問題ないでしょうからね」

 「なら行ってくる」

 「俺は観戦させて貰います」

 

 扉を開けるとやはり正面に入らなければ襲って来ないらしく、扉の前に並んだ二人をガン無視して行ったり来たりを繰り返す。

 タイミングを見計らってスネークがロケットランチャーを構えて跳び出す。

 即座に放たれた弾頭が扉の前を通過して、バットは壁で見えないものの命中して爆発と爆音を響かした。

 終わったかなと思ったら、続けて二発目が扉の前を通過した。

 何事!?と驚いていると扉前でロケットランチャーの直撃を受けても、全速力でスネークが居る方向に駆け抜けていくアーノルドの姿に唖然とする。

 静かになった事で扉より顔を覗かせて伺う。

 視線の先には驚愕の顔をしているスネークに、何発もロケットの直撃を受けて焼けこげながら原型をまともに残して倒れ込むアーノルドの姿…。

 

 「大丈夫ですか?」

 「なんていうモンを作ってるんだあの博士は!」

 「速力は車より遅いけど人より早く強度は装甲車並みって…さすがロボット工学で有名な博士ですね」

 

 アーノルドは二体居て二か所の扉を護るように行き来しており、もう一体のアーノルドも同様に倒して置き、その扉の先へと向かう。

 警備を行っている兵士を倒したり、目を掻い潜って先に進むと扉がロックされた部屋があった。

 今までも電子ロックで開かない扉はあった。

 が、この扉は違う。

 電子ロックは電子ロックなのだろうけど、カードを通す差込口が存在しないのだ。

 

 「開かずの間か。なにかあると思います?」

 「解らんな。しかしそこまでするという事は、何かしらあるという事だろうな。カードで開かないという事は頻繁には開ける必要性はないが、厳重に保管しておく必要性はあるという事だろうな」

 「なんとか開けれないかな」

 

 そうは思ってもカードの挿入口も鍵穴も無ければ、無理やりこじ開けるような道具を持ち合わせていないので何も出来ないのだが…。

 

 「そうだ!シュナイダーなら…」

 

 レジスタンスのリーダーでアウターヘブン内に詳しい彼ならばと無線機を手にする。

 彼だと思い込んで無線したバットは返答の声に二重の意味で驚く事になる。

 

 『こちらジェニファー…』

 「あ…えっ!?」

 

 先ほどジェニファーの周波数に合わせていただけに、そのままジェニファーに無線してしまっていたのだ。

 間違えましたというより先にジェニファーが口を開く。

 

 『今から扉を開けるわ。以上』

 

 素っ気ない言葉に呆けていると目の前で扉が開いた。

 無戦が切られた呆然としてただただ開いた扉を眺めるバットにスネークが首を傾げて見つめる。

 ハッと我に返った周囲を見渡したバットはカメラがないのを確認して余計に戸惑った。

 

 「どうしたバット?」

 「いえ、ジェニファーって人…凄いんですね」

 

 ゲームだから都合が良いんだと理解はした。

 けれどあまりにリアル過ぎるゲームなゆえに、カメラも無い場所でこちらの様子を理解して扉のロックを解除する様が、妙に怖くて背筋がぞぞぞと凍り付くのだった…。

 

 

 

 

 

 

 どれだけ時間が経過しただろうか。

 アウターヘブン内に侵入者が現れてから、未だに対処したという報告は入っていない。

 それどころか配置していた精鋭四名中三名と連絡すら取れなくなっている。

 捕らえていたグレイ・フォックスやメタルギア開発させていたマッドナー博士、人質だった博士の娘であるエレンまでも奪われ、部隊への被害も時間の経過と共に拡大。

 ビル1の駐留部隊と連絡は出来ているがどうも怪しい(・・・)

 盗られた(・・・・)と思ってまず間違いないだろう。

 

 『ボス(・・)。ビル1に向かっていた部隊壊滅。生き残りから話を聞いたところ、やったのは侵入者ではなくクワイエットとの事』

 

 ビル2とビル1を繋ぐ地下道より向かわせた部隊とも連絡途絶。

 捜索隊を派遣したが結果はこれかと報告を聞きながら苦笑い(・・・)を浮かべた。

 

 『宜しいのですか!?これは明らかな反逆行為ですぞ!』

 

 味方をやられた怒りに畏怖、焦りなど諸々の感情が込み合った言に葉巻にライターで(・・・・・)火を付ける。

 彼の心中に負の感情は混ざってはおらず。

 長椅子に凭れながら優雅に味わった煙を吐き出す。

 

 「好きにさせろ。アレ(クワイエット)には関わるな」

 『しかし!!』

 「全部隊に徹底させろ。クワイエットと侵入者が出会った際には手出し無用」

 『―――ッ!!……了解しました、ボス』

 

 納得は出来ていないだろう。

 だが報告してきた奴もプロだ。

 わざわざ無理に命令に背いて動く事は無いだろう。

 それ以前にここの兵如きで(・・・・・・・)クワイエットに勝てるような者など皆無だ。

  

 兵達の気持ちは理解出来る。

 しかしながらこちらの思惑だとはいえ、搔き集めた傭兵の類(・・・・・・・・・)とクワイエットでは価値が違う。

 相手は蛇に蝙蝠…。

 想う所があるのは俺も一緒…。

 

 懐かしくもあるが今は計画を移行(・・)させねばならない。

 想定以上に蛇が優秀過ぎた。

 そしてまだ未熟だとしても蝙蝠の乱入は予想外に事態を悪化させた。

 これでは当初の計画では成り立たない。

 

 「いつの時代も蛇と蝙蝠の組み合わせは厄介だな」

 

 味方なら心強かっただろうに…。

 もしもなど考えたところで詮無き事。

 鼻で嗤いながら葉巻を咥え直す。

 

 当初の計画は完全に頓挫。 

 だけど他の計画は問題なく続行(・・・・・・)

 一応に用意していた修正計画や第二計画を潔く放棄し、無線機を手にしてクワイエットに繋げる。

 

 「聞こえるかクワイエット。計画の大半が頓挫したが作戦事態は続行。だから―――好きにやれ。己が思うがままに」

 

 返事など期待していない。

 そのまま無線を切る。

 付いて来てくれただけ有難いのだ。 

 すでに覚悟を決めて自身の自由など捨てた俺と違って奴は自由なのだから。

 

 アウターヘブンの指令室は静かで、ただただ紫煙が満たすのであった。

 

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:ハンター

 

 世界は広い。

 あらゆる地に人類が入り込み、未開の地は踏破されつつある。

 大地を這うだけの身でありながら、翼が無ければ飛行機を、海上を進めないなら船を、深海に潜れないなら潜水艦を、地球の外側に向かえないならスペースシャトルを建造する。

 未知は明らかにされ、人々が思い描いていた名前と形を勝手に与えられていた不明物は解明されて駆逐された。

 

 けれど世界は広く深い。

 絶滅されたと思われても世界各地で生き残っていたと話される恐竜らしき未確認生物。

 剣や弓などものともしない硬い鱗に覆われ、巨大で力強い翼で空を駆け、強靭な爪は獲物を切り裂き、巨木のような足や尻尾は簡単に人や建物を潰し、吐き出される火炎は一切合切を焼き尽くす空想上の生き物とされるドラゴン。

 長年をかけて人知によって発展されてきた科学力の常識を無視して、別離された理で事を成す錬金術。

 それらは寝物語や馬鹿げた話として多くの者は存在を否定するモノ。

 しかしながら俺は否定する認識を否定する。

 なにせソレらは実在するのだから。

 

 木々と緑が満たすジャングルと青く広がる海の狭間。

 太陽の光を浴びる白い砂浜にて、凄まじい咆哮が響き渡る。

 それは音の大きさや相手に恐怖を与えるだけでなく、衝撃波を纏って周囲の砂を巻き上げる。

 赤い鱗に覆われた巨体を震わしながら大きな翼を広げ、怒りから鋭い牙を生やした口より火が漏れ出している。

 物語に登場するドラゴンそのものの容姿をした竜種の一角―――“リオレウス”。

 

 対峙するチコは恐れから冷や汗を垂らすも、口元は楽し気に笑っていた。

 小さい頃はハンターをしていたという同志から聞いたモンスターの話に心躍らせたものだ。

 船頭を務める二足歩行する猫“トレニャー”の案内が無ければ決してたどり着けない地図にも載っていない怪物たち(モンスター)の島。

 スネークのおかげで訪れる事が出来、あの頃はモンスター見たさに頼み込んで何度か連れて行って貰い、強大なモンスターをハント(狩猟)する様子を眺めた。

 しかし今は違う。

 自ら装備を整え戦うハンターとして、あの時の自分のように戦う様を見せている。

 

 恐竜図鑑に載っているラプトルを思わせる小型のモンスター“ランポス”の素材で作り上げた、ガンナー用のランポス装備で身を固めたチコは“ライトボウガン”の名と違って砲のような銃器のトリガーを引く。

 弾の口径に見合わず低い反動を流しつつ、リオレウスの動きを注意する。

 口を閉じて頬が僅かに膨らみ、隠しきれない殺意が炎となって隙間より漏れ出る。

 

 (ブレス(火球)が来る!!)

 

 動きで理解したチコは攻撃を止めて横へと転がる。

 首が大きく振られて向けられた口より高温の火球が飛び出し、装備越しに熱さが肌を撫でた。

 直撃していたら骨すら残さない火力。

 それを避けたチコは立ち上がると同時にライトボウガンの銃口を開きっぱなしの口へと向け、装填されていた徹甲弾を撃ち込んだ。

 鱗の無い喉奥に弾丸(砲弾)は突き刺さり、痛みで叫ぶリオレイスの口内で爆発を起こして吹き飛ばす。

 大量の血を撒き散らしたリオレウスはそれまでのダメージもあって、力なくその場に倒れ込んで動かなくなった。

 警戒しつつ様子を眺めていたチコは、確認を取ってから大きく息を吐き出して安堵した。

 

 「ふぅ…リオレウスの討伐完了…」

 「すごい!すごいすごい!!」

 

 そんなチコに凄いと連呼しながら離れた位置で見ていたシオンが駆けだしてくる。

 遅れてシオンを護るように寄り添っていたビィも歩いてくる。

 正直狼達ならまだしもビィを連れてくるのはどうかと思う。

 一瞬“アオアシラ”という熊に似たモンスターに見間違えそうになるので誤射しそうで怖い。

 目をキラキラさせて駆け寄るシオンの頭をひと撫でし、倒れ込んだリオレウスをナイフ一本で解体し始める。

 

 「他にも狩るの?」

 「襲ってくるならまだしも狩らない。いや、狩る必要性がない」

 「必要?どういう事?」

 「ハンターは自然と共にあるものだと俺は思う。狩り過ぎても狩らな過ぎてもダメなんだ。調和が大事なんだここは」

 「ふぅん…」

 

 解らなかったのか生返事が帰って来たが、年齢を考えれば解らないのが普通か。

 国境なき軍隊時代に“ギアレックス”というモンスターが襲ってきた。

 アレはこの島の主だったのだろう。

 幾度と戦って敗れてはゾンビのように立ち上がり、ある一定の期間を空けて攻めて来る。

 奴の最期は海を渡ってまでマザーベースに攻め入って来て、そしてスネークの手に依って葬られた。

 島では主不在が続いてモンスター同士の無法地帯に化し、リオレウスや“ティガレックス”と言った大型モンスターの数が増え始めた。

 大型モンスターの多くが飛行能力を有しており、その気になれば島外に出る事も可能。

 そうなれば今まで隠れていた島の存在がバレ、人間に寄って乱獲または危険生物として狩られてしまうだろう。

 ハンターはそれを良しとしなかった。

 ゆえに多くなって縄張り争いの結果、外に出て行かないように一定数に保てるように調整するようになったのだ。

 無論これも人間のエゴだと解りつつ、モンスターの島の存続を優先させた。

 だから島の存在と向かい方を知っていて、ハンターの一面も担うようになったチコが調査とハント(狩猟)を担当する様になった。

 

 「“回復薬”の作り方は覚えたか?」

 「うん。はいこれ」

 「どれ…良し、出来てる出来てる」

 

 瓶に入った緑色の液体を口に含み、広がる苦味と共に身体中の細胞が活性化している気がする。

 良薬口に苦しというがまさにその通り。

 この回復薬は欠損部を直す事は出来ないが、疲労や身体に蓄積したダメージは瞬時にある程度回復させる事が出来る。

 ただ材料はこの島で取れる“アオキノコ”と“薬草”で作られるだけに酷く苦い。

 

 「ハチミツを入れると効果も上がるし、味も多少良くなるぞ」

 「へぇ、そうなんですね」

 「それはまた後で教えるとして先に飯にするか」

 「にゃー!」 

 

 飯の言葉に反応してトレニャー同様に二足歩行する猫――“アイルー”や“メラルー”達が声を上げる。

 声を上げたのはこの島に住まう野生のモノではなく、トレニャーの紹介でチコに雇われているモノたちである。

 彼らは戦う事も出来るし料理をする事も出来る。

 頼めば料金や素材によって美味い料理を振舞ってくれるが、それがまた豪勢で豪華なものばかり。

 正直そこらの店に入るよりここで食う飯の方が美味いし安い。

 

 「飯食ったらホットドリンクの作り方でも教えてやろう。材料的に飲み辛いかも知れないが…」

 

 雪山だろうと体温を上げてぬくぬくとしていられる飲み物。

 材料の“トウガラシ”はまだしも“にが虫”の方は人に寄っては無理だろうな。

 アイルーにメラルーが手際よく料理する様を眺めつつ、教わる事も楽し気なシオンに笑みを零す。

 もうすでにエルザの紹介でスネークと合流する事は決まった身。

 それまではこの子に―――バットとパスの子供に付き合ってやろう。

 

 あの懐かしくも激動だった頃を思い出す。

 


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