エレンとマッドナー博士をレジスタンスの連中に任せ、先へと進んだ蛇と蝙蝠は二人して今まで以上に警戒しながら駆ける。
メタルギアの情報を得た際に聞いた北にあるというビル3に向かうは良かったもののそこは天然の罠で満たされていた。
見渡す限り遮蔽物どころか腰かけれるような岩場すらない場所に、夥しい数のサソリの群れが満たしている。
立ち止まっていれば良いのだが、奴らは動き回っては近くの生物に毒針を振るう。
途中解毒剤を拾って毒は大丈夫だとしても、わざわざ痛い思いはしたくない。
だから二人はうじゃうじゃいるサソリの動きに注視しつつ、出来るだけ早くこの場を脱しようと急ぐ。
「意地が悪すぎるでしょこれ!!俺は嫌ですからね!サソリに集られてゲームオーバーとか!!」
「冗談言っている余裕があるなら足を動かせ!!」
「言われずとも!!」
二人して駆け抜ける。
コンパスと解毒剤片手に必死に駆け抜ける。
一面を抜け、二面を超え、三面に達したあたりで先が見えた。
ビル1ビル2と似た風貌のビル3に、壁沿いに並び停められたトラック群。
何度も戦闘を経験して
どちらも口にするまでも無く、そのトラックに敵意を見た。
サソリ漂うエリアから脱するや否や、バットは跳び込むように地面に伏してモシン・ナガンを構えて荷台へ銃口を向けて撃ち始める。
響く銃声に続いて短い悲鳴が挙がり、トラックの荷台より敵兵が降りてきた。
姿を隠した状態から集中砲火を浴びせようと目論んでいたというに、逆に先手を取られたことで非常に焦っている。
だからこそ不用心に跳び出した敵兵はスネークが手にしたサブマシンガンで撃ち抜かれていく。
「やはりというか、当然目が良いな」
「そっちこそよく見えましたね」
「俺のは経験から来るもんだ」
互いにさすがと褒めつつ、敵兵を掃討しきった。
待ち伏せを受けたのだから仕方がない。
潜入ではなく強行突破。
本意でなかろうがこのまま突き進むしかない事実にスネークはため息を漏らし、バットはこういう展開になったかと笑う。
「じゃあ行きますか。最終ステージ」
「行くしかないんだがな。で、何する気だ?」
「先制パンチ。親父がよくやる手で腹立しいが…」
そう告げてバットは入り口の扉を開けると同時に手榴弾を投げ込んだ。
中で爆発が起きると跳び込んで銃口を向けつつ周囲の確認を行う。
すでに手榴弾で敵兵三名は倒れ込んでおり、もろに喰らってしまったようだ。
『―――こちらビッグボス。左の扉に入れ…』
生死の確認を行っていると唐突にビッグボスからの無線に戸惑い、スネークはかけ直すも出る事は無かった。
首を傾げていると不審な目でバットが見る。
「何かあった?」
「あぁ、無線で扉に入れって」
ちらりと視線を向ければ確かに扉がある。
というか左にしか扉がない。
なにか引っ掛かるところはあるものの、言われるがまま扉を開けて中へ入ったスネークは一歩踏み出して、背をガシリと掴まれて引き留められた。
「どうしt……ッ!?」
何故と問う途中に目の前の床が抜け落ちて、大きな穴が露出する。
落とし穴…。
それも行く手を塞ぎきるほどの巨大な大穴。
あと一歩でも踏み込んでいれば確実に落ちていただろう。
「さすがにこれは無いだろう。入ってからガスの事を教えるのもどうかなって思っていたのに」
連絡が遅いとかではない。
明らかにボスの指示で行かされ、罠にはまりかけた…。
バットはやれやれと呆れ顔を浮かべる程度で来た道を戻り始めていたが、スネークは足は止まったまま…。
怪し過ぎる事態と通信がつかない現状…。
「まさか…な」
嫌な予想を振り払うように急いで後を追う。
戻るとすでにバットが探索を始めていて、爆破で吹き飛ばせそうな場所にC4爆弾をセットしていた。
淡々と爆破して先の事などまったく気にしていない様子に、考え無しなのか自身の気にし過ぎなのかと思い始める。
「うわぁ…えげつな」
「どうした?」
「この先落とし穴があって、起動したら通路そのものが奈落の底になる」
「確かにえげつないな」
「初手でこれだろ。多分……あー、やっぱり抜けた先にもそれらしいのあるな」
双眼鏡で先を眺めながら呟かれた言葉に、どうも落とし穴トラップが二段構えで配置されているらしい。
運良く一つ目のトラップを抜けて安堵したら、もう一つの罠が起動するなど初見殺しな上に用意周到過ぎる。
僅かな隙間などから目測と予想で当たりを付けてルートを床に書き込む。
「駆けるか?」
「駆けましょう。それも全速力で」
真顔で答えられて、それしか手も無い事を理解して二人はタイミングを合わせて走り出す。
重量センサーによって起動した落とし穴トラップが中央より外へ外へと広がっていく。
立ち止まる事も振り返る事もせずに先ほど覚えた道を信じて走り抜け、何とか落ちる事無く奥のエレベーターに辿り着いた。
迫っていた罠にひやりと冷や汗を垂らし、無事に超えた事に安堵する。
エレベーターに乗り込むと最下層までの一直線であり、降りたところで敵兵のお出迎え―――ではなく、ジェニファーからの無線が鳴り響く。
『こちらジェニファー。壁の向こうに酸素ボンベがある筈!!』
言う事を言い切ったらいつものように切るが、バットは怪訝な表情を浮かべている。
「まるで見ているかのように適切な指示出してきますよね…」
完全に怖がっている様子…。
確かに到着して速攻でこちらの居場所を理解して何処に何があるのか言うのだから軽いホラーだろう。
周囲には敵が用意した監視カメラが置いてはあるが、エレベーター前は完全に死角になっている。
ハッキングしたとしても俺達の位置を知ることは出来ない。
本当にどうなっているのやら…。
バットほどではないが少しばかり怪しみつつ、監視カメラに注意しながら壁を探って、一階に続いてC4で吹き飛ばして隠し部屋を見つけ、言われた通りに中には酸素ボンベが置かれていた。
酸素ボンベで思い当たるのはビル2の水路だろう。
ここで保管されているという事は何かしらあるに違いないと判断し、向かう前にエレベーターを降りた階には扉が有ったのでそちらもま見ておく事に。
入った矢先に無線機に連絡が入って足を止める。
それに気付いたバットは先を見ておくと足を進めていったので、悪いと思いつつ無線を繋ぐ。
「こちらスネーク」
『繋がったか!こちらシュナイダー。手短に話す。アウターヘブンのボスの正体が判ったんだ!』
「アウターヘブンのボス!?」
上からの説明でも詳細どころか性別や名前すら話に出てなかった事から、軍でも詳細が掴めなかったのだと思っていただけに、正体が判明したというのは有難い。
『なんとアウターヘブンのボスは………なんだ!?うわッ…………』
「おい、どうした!?おい!!」
不穏な叫びから無線が切れて繋がらなくなった。
戻って来たバットはその様子に真剣そうに見つめ、今の内容を告げると少し悩んで頷いた。
「戻りますよ」
「酸素ボンベを取って来る」
急ぎ支度を済ませてエレベーターで一階へと向かう。
その最中ビッグボスから連絡が届いたのだが『作戦中止だ!ただちに帰還せよ。これは命令だ。今すぐ
首を傾げているとバットは渋い顔をしてため息を零していた。
ビル3の外に出ると続いて『右端のトラックに乗れ』と追加の無線が入ったが、迷いつつビッグボスからの命令ゆえに重い足を向かわせようとするも、バットが強く袖を引いて命令を無視するようにサソリ漂う荒野へと引っ張っていく。
あまりに有無を言わせぬ様子に問おうかと思ったが、何かしら強い意志があったようで黙ってついて行く………というかサソリに警戒して問いかける余裕がなかったという方が正しいか…。
急ぎビル2に戻った二人は二つあった酸素ボンベを装備し、兵士の眼を気にしながら水路に潜ろうとしたのだが、バットの脚が完全に止まって怪訝な顔を浮かべていた。
「何かあったか?罠か?」
「……いえ、潜ってびしょびしょになるのはちょっと…ねぇ?」
予想外の解答に今度は俺が手首を掴んで引っ張って、水深が深くなったあたりで突き飛ばして潜らせた。
我侭な餓鬼かよと内心呟くも実際ガキだったなと思い出して笑ってしまった。
後を追って潜り先へと向かう。
潜った先には潜らなければ通れない水路があり、先には異変に気付かず警備を続けている兵士達がうろついている。
びしょ濡れな状態で周囲を警戒して気付かれないように進むが、しっかり足跡を残していく為に結局敵兵と戦闘になってしまった…。
濡れ濡れな事もあってデカイため息をつくバットは、先に進んでさらにデカくて深いため息を吐き出した。
いつぞやの床に電流が流してあるトラップが仕掛けてあった。
濡れた状態で電流など危険極まりない。
即座にリモコンミサイルで操作盤を破壊し、左右に扉があるので右側に入ってみる。
すると縛られている捕虜三人の真ん中に兵士が一人おり、こちらを見るや否や頬を吊り上げて嗤った。
「俺は
「……スネーク」
「……なんだ?」
「あの人ずっとここで待っていたんですかねぇ?」
「だろうな。来るかどうかも分からないのに」
「しかも人質で囲んだ状態で」
「周りのこんな卑怯な事いきなりする奴なんだからそうとう陰険な奴なんだろう」
「人質が可愛そうですね。二重の意味で…ですが」
「貴様らぁ……ぶっ殺す!!」
キレたカワード・ダッグ は腕を振り上げてブーメランを放り投げてきた。
ブーメランは木製などではなく鉄製で刃になっている。
しゃがんでブーメランを躱すとそのブーメランは特性から投げた持ち主へと戻っていく。
床に転がるようにカワードを見つめるスネークとバットに無線が届く。
『こちらジェニファー…カワードはカード8を持っているわ。捕まっている捕虜の中には私の兄がいるの!殺さないで……………もし兄になにかあったら―――わかってるわよね?』
「イエス、マム!!」
最初こそ泣きそうで頼み込む様な声色だったというのに、最後の一言に顔を青ざめてバットが恐怖から即座にモシン・ナガンを構えた。
人質を盾にしている状態である事から自身有利だと疑わなかったカワードは、低めにブーメランを放り投げようとして腕より鮮血を散らした。
撃たれた事に戸惑って撃たれた腕を押さえながら、人質に掠らせる事すらなく狙撃を成功させたバットを睨みつける。
気がバットに向いて、隙だらけのカワードにスネークがデザートイーグルで肩と太ももを撃ち抜いて転倒させ拘束する。
「何故だ!?人質が居たのに…何故!!」
縛られるのに抵抗しながらカワードは怒気を含ませてバットに叫ぶ。
…が、バットは首を傾げて不思議そうな視線を向ける。
「人質が居たって言っても、ブーメラン振るう為に腕を振るえば人質の陰から出るでしょ。それを撃っただけなんだけど?」
「お前さり気なくやったが、普通に凄い狙撃だったぞ」
「何言ってんですか?本当に凄い狙撃ってのは飛行中の戦闘機のパイロットを一発で狙撃したり、回転させたヘリのプロペラに当てずに弾丸を通したり、狙撃で葉巻に火を付けたりする人の事ですよ」
「「比べる対象がオカシイだろうが!?」」
可笑しいのは俺の方かと思いながら突っ込むと、縛り終えたカワードも同様に突っ込んでいたので
…いや、
●ちょっとした一コマ:背負う者に背負わされた者
あれからどれほど経ったのだろう。
最初は物珍しさが強かったシオンという存在は、いつの間にかダイヤモンド・ドッグズの生活に馴染んでいた。
女性兵士に甘やかされ着せ替え人形のように玩具にされ、男性兵士に年齢に似合わぬ賭け事などの遊戯に誘われて参加したり、動物たちによく懐かれては楽しそうに世話をして、ミラーに巻き込まれては時たま大騒ぎの渦中に…。
呆れ顔のオセロットから軽くお叱りを受けつつ銃器の扱いを教えられたり、チコから習った調合の反復学習してナニカを作り、クワイエットによく懐いて狩りや任務に連れて行って貰っている。
いつものように海を眺めながらヴェノム・スネークは葉巻を咥える。
ただいつもと違って隣には海を眺めているシオンが座り込んでいる。
何かしているとかどちらかが誘ったとかではない。
偶然とでも言えば良いか。
エルザとチコはすでに発ち、オセロットは兵士の訓練で忙しく、カズヒラは若い兵士共を誘って街に繰り出し、クワイエットを含めた多くが重要な任務で出払っている。
動物たちの世話をしていたらしいが、昼飯を食って腹を満たして昼寝をしている。
手持ち無沙汰となったシオンは海を眺めに来て、葉巻を吸っていた俺と鉢合わせた。
本当にそれだけなのだ。
たまに関わることあれど、それほど互いに積極的に関わる事は無かった。
ゆえにこの沈黙が何処か居心地悪い。
なにか話題を考えるも共通の話題というのが少なく、そもそも口達者でもない。
悩むのも馬鹿馬鹿しく思えてきた頃、シオンが送られた理由は何だったのかと頭を過った。
事情があるからと聞いてはいるが、その事情が何なのか聞かされてはいない。
シオンもその理由らしきことに触れる事がないので誰も触れずにいたが…。
これは良い機会とばかりにヴェノムは問いにして投げかけた。
そのままズバリ聞くのではなく、ここに来る前の生活はどうだったと世間話をするように…。
するとシオンは少し悩む様な様子を見せ、ぽつりぽつりと漏らした。
簡略化されていたが
まず年端のいかない我が子を戦場に連れて行くなよとため息を漏らし、次に
蝙蝠によく接していた者ならばそんな感情を抱く事は無かったろう。
騒がしく、落ち着きがなく、敵も味方も引っ掻き回す。
面倒で子供っぽくて好きな事を好きなように振舞い行う餓鬼。
常識を無視する医術に数刻前まで戦っていた敵を味方に引き込む話術、前線では頼りになる戦闘技術。
悪い面もあればそれを覆い隠す程の良い所があった。
接し易くて部下や周りから親しまれ、信用や信頼はされても崇められるなんてある筈がない。
だから俺はただただ憧れ羨んだ。
あの人の横に素で並び立て、俺以上に医術に秀でていた。
死者は蘇らせれないが、どんな怪我でも一瞬で完治させ、処置に必要な道具さえあれば死者以外は治してしまう。
俺は見てきた。
憧れと尊敬の念を持って、戦場を駆け抜ける蛇と蝙蝠を。
この子に圧し掛かっている苦悩と向けられる期待を…。
それはとても重すぎる…。
とても、とても重すぎる…。
二十にも満たぬ子供が背負うべきものではない。
そりゃあ逃げ出したくもなるだろうさ。
嫌にもなるだろうさ。
両親を憎みもするだろうさ。
当然だ。
最初は唐突過ぎたが理由を聞いて納得だ。
蝙蝠の判断はある意味正しかった。
それ以上にこんな所に子供を送りつけるなよというのはあるがな。
「…辛かったな」
「…うん」
「親が憎いか」
「…うん、
心が負った傷とは治らない。
さも治ったかのように欺き騙し隠して塗り潰して覆い隠し、前を向こうが下を向こうが歩ませるしかない。
小さい頃の傷は成長してもずっと付いて回るだろう。
それをシオンは
本当に蝙蝠は正しかったと結果が出た。
ここでの生活はシオンの治療に繋がった。
本当に良くもまぁやるもんだし、やらされたもんだ。
懐かしい顔を思い浮かべて苦笑する。
「ここでの生活は楽しかったか?」
「凄く楽しかった。ずっとここに居たいぐらい」
「そりゃあ良い。連中も喜ぶだろう――――けど家に帰れなくとも良いのか?」
嬉しそうに答えたシオンだったが、ヴェノムの問いに表情を曇らせて俯いた。
「帰りたく……なくはない…」
小さく漏れ出された言葉を聞く。
決して急かす事は無く、自ら語るのを葉巻を味わってゆっくり待つ。
「父さんや母さんに
「大丈夫だ。許してくれるさ」
「本当?」
「あぁ、絶対に大丈夫だ。笑って許してくれる。俺が、俺達が保証してやる」
「なら、帰りたいかな。帰って謝りたいかな」
「そうか」
最後にそれだけ言ったヴェノムは紫煙を吐き出し、シオンとの別れの時期だなと
その前に騒ごう。
思う存分騒ぎ狂おう。
美味い飯に酒でどんちゃん騒いで送ろう。
涙の別れではなく笑って送ろう。
後で慣れているカズヒラに相談しなければと、吸い切った葉巻を棄てて二本目に火を付けるのであった。