メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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解放

 アレクサンドル・レオノヴィッチ・グラーニンが提唱した“歩兵と兵器をつなぐ金属の歯車(メタルギア)”は、基礎データと思想を元に研究開発を行ったロボット工学専門のヒューイ(エメリッヒ)と、AI研究のエキスパート(専門家)であるストレンジラブにより形付けられた。

 ピューパにクリサリスにコクーンなどの試作機を経て生み出された“ピースウォーカー(AI搭載自動報復歩行戦機)”。

 試作機とピースウォーカーの部品を応用して作り出されたMSF専用の“メタルギアZEKE(AI搭載自動報復歩行戦機)”。

 そして遂に技術的に難しいとされた直立歩行をシステム上は(・・・・・・)実現させ、報復心に呼応する超常の力を以てして大地を踏み締めた巨人―――“サヘラントロプス(核搭載直立歩行兵器)”。

 

 ヴェノム・スネークに敗れるも修復された巨人は、時を経て立ち上がりその猛威を振るおうと咆哮を上げた。

 十年以上前の兵器なれど侮ることなかれ。

 確かに時の流れによって強力な兵器や武器が生み出された事だろう。

 しかし当時の戦車の砲弾を意図も容易く防ぐ強固な装甲に、戦闘車両を包む強固な装甲を簡単に撃ち抜く武装は今も尚健在であり、その巨体から繰り出される質量を含んだ動きそのものが脅威なり得る。

 そんな超兵器に対してソリッド・スネークとバットは挑むのだ。

 

 「なんだよコレ!?何なんだよアレは!!」

 「知るか!これが本命(・・)だったって事だろう!」

 

 巨人(サヘラントロプス)に見下ろされて、各々の拳銃で発砲するも効くはずもなかった。

 不条理な状況に叫びながも勝ち目を探ろうと動く。

 

 『これが本命?違うな。これは古びた過去の遺物。アウターヘブン蜂起においては予備戦力でしかない存在だ』

 「オーバーテクノロジーにもほどがあるだろうに!」

 

 頭部のガトリング砲が火を噴き、大口径の弾丸が二本の線を描くように降り注ぐ。

 当たるものかと必死に駆けるバットを追うも、的の小ささと小回りの利かなさ(・・・・・・・・)から中々に当たらない。

 

 それもまた当然である。

 サヘラントロプスのコンセプトは二足歩行によってアフガニスタンの起伏の激しい地形を走破し、ステルス性の高い移動型の核発射装置。

 破壊されぬように強固な防御力を施され、装甲を貫く武装を与えられてもそれは対兵器用の武装。

 元々が対人用に制作された訳ではないのだ。

 さらに付け加えればサヘラントロプスは欠陥機である。

 製作上仕方なかったとはいえコクピットが予想以上に小さくなり、子供が搭乗するのがやっとの品物。

 現在ビッグボスが搭乗しているのは無理にコクピットスペースを広げ、衝撃緩和の為にコクピット内部を水で満たすという無茶で簡易な措置を施したからである。

 設計者であるヒューイは追放し、ストレンジラブは事情があって関わりたくない為に、大規模な改修が施されなかったゆえにこうなった。

 それに加えてサヘラントロプスが過去動けたのは、超常の力を持つ赤毛の子供(・・・・・)が報復心に惹き付けられて手を貸したからで、機体のシステム面に寄るものではない。

 小型化されたAIが内部に収められているものの、アシスト(補助)であって完全に自動で動くようにはなっていない。

 

 ちょこまかと駆けるバットを追うサヘラントロプスに爆発と衝撃が襲う。

 ギギギと重く振り返ったサヘラントロプスのメインカメラには、リモコンミサイルを発射したソリッド・スネークの姿があった。

 

 「今度はこっちで引き付ける。お前は―――」

 「了解!狙い撃ちます!!」

 

 駆け抜けていた勢いからすぐに立ち止まれず、転がって速度を殺してモシン・ナガンを構えるバット。

 対物ライフルでもない狙撃銃とリモコンミサイル。

 どちらが兵器にとって脅威かは明白。

 

 『まずは貴様からだ!ソリッド・スネェエエエク!!』

 

 ガトリング砲で蜂の巣にしようとする前に、スネークはリモコンミサイルを発射。

 狙いをスネークから弾頭に変えて弾幕を張るも、弾頭は左右に動いて巧みに回避し、背中に取りつけている球体型のレドームに直撃した。

 リモコンミサイルは遠隔操作可能な特殊弾頭である。

 2D(平面)のゲームなら兎も角、三次元の現実世界(・・・・・・・・)ならば自由自在とまでは行かずとも、先端を向き次第で上下も選択も可能。

 レドームへの直撃はミサイルなどの照準装置に深刻なダメージを与える。

 

 『やってくれる!だが操作中は動けまい!!』

 

 遠隔操作ゆえにリモコンミサイル発射後は操作に集中せねばならず意識が分割されてしまう。

 そんな状態で弾頭を目標に叩き込みつつ、バルカン砲から回避し続けるなど不可能。

 勝ちを確信するビッグボスに対し、スネークは諦めはなく不敵に嗤う。

 確かにその通りであり、一対一では使い辛い武器だ。

 しかしサヘラントロプスに対峙しているのは一人ではない。

 カンカンカンと金属がぶつかり合う音が何度も響き、サヘラントロプスの背中で爆発が起きて大きくよろめいた。

 

 『何事だ!?燃料タンクの破損……だと?―――まさか!』

 

 サヘラントロプスコクピット内のモニターに表示されるは、背中にある四本の燃料タンクの破損を知らせる警報。

 後方を映し出すサブカメラに映し出されるは、決して撃つのを止めずにリロードを行っては狙撃し続けるバットの姿。 

 

 「一発では撃ち抜けない。ならば撃ち抜けるまで撃ち続けてやる」

 『モシン・ナガンで撃ち抜いた?馬鹿な!!』

 「クワイエットさんならもっと手早くやったでしょうけどね!!」

 

 バットが狙ったのは燃料タンクそのものではなく、燃料タンクを繋いでいる繋ぎ目そのもの。

 決して硬くない訳ではないのだけど、それでも他の装甲に比べて脆く薄い。

 その個所に誤差をあまり出さず(・・・・・・)に何十発も狙撃したのだ。

 

 『本当にやり過ぎるなお前たちは(蛇と蝙蝠)!!』

 「グレランを!!」

 「了解した!!」

 

 振り返り様のサヘラントロプスの踏みつけをなんとか回避したバットはスネークに叫び、スネークは下部に取り付けられた火炎放射器の矛先が向けられた事で走りながらグレネードランチャーをバットに向けて転がす。

 勿論早々届く事はなくグレネードランチャーは地面を転がって停止した。

 それを見逃すビッグボスではなく、ガトリング砲の砲火を持ってバットを釘付けにする。  

 

 「チッ…大型モンスター戦ではタゲが他に向いている時に攻撃を仕掛けるもんですよ!」

 「言われなくても解っている!」

 『させると思うか?』

 「膝裏!!」

 

 背後にいるスネークを警戒して腕を背に回して燃料タンクを護るようにするも、バットの一言で攻撃先を変更したために、重量級であるサヘラントロプスを支えている脚部の膝裏という関節部にリモコンミサイルが直撃する。

 さすがに一発で壊れきる事は無くも、一瞬だけでもバランスを崩させる事には成功した。

 膝をつきそうになった事で大きな揺れがビッグボスを襲い、その揺れによってバットの姿を見失ってしまった。

 

 『何処に行った!?』

 「遅いですよヴェノムさん!」

 

 真下に潜り込んだバットはグレネードランチャーを拾い、下部よりコクピット部分を狙う。

 無論下部には火炎放射器があるが、それはバットの動きを見ていたスネークがリモコンミサイルで破壊する。

 装填しているだけを全てアッパーを喰らわすように叩き込まれ、天を仰ぐようにサヘラントロプスは傾く。

 

 「やりましたかね…」

 『まだだ!まだ終わってなるものか!!』

 「気を抜くなバット!」

 

 破壊にはまだまだ足りない。

 倒れかけそうになるも耐え、サヘラントロプスは背負っていたレールガンを起動させる。

 …が、巨体に見合う超砲身のレールガンは大き過ぎたために、バットに向けるよりも先に壁にぶつかってめり込んでしまった。

 相手を圧倒する巨体が仇となってしまった。

 

 『クッ…ならばこれで』

 「―――ッ、撃ち落せ!!」

 

 背中より垂直に何かが発射された。

 それは大型探査ミサイルで一定時間空中を浮遊して、周辺を探査しては降って来ると言う厄介な品物。

 スネークは咄嗟にサブマシンガンで、バットはそのままモシン・ナガンで狙撃を敢行する。

 対処が早かったために降って来る前に全弾叩き落す事には成功。

 それを嘲笑うかのようにビッグボスは脚部の誘導ミサイルを弾が尽きるまで連続発射させたのだ。

 すでにレドームに深刻なダメージを負っている以上、すんなりとスネークとバットを狙う筈はない。

 辺りに撒き散らされるように放たれるミサイルは壁や突き刺さったままのレールガンに直撃して、破損したパーツや壁を壊して残骸を雨のように降らせた。

 

 「いや、さすがにこれは…」

 「立ち止まるな!」

 

 人を簡単に押し潰すサイズの物も落下してくる中、あんまりな光景にバットは立ち尽くす。

 そこにスネークが駆け寄りタックルをするようにして無理にでも伏せさせると、瓦礫は見境なく降り注いだ。

 

 周囲が瓦礫に埋まった中、スネークはバットを連れて這い出る。

 降り注ぐ瓦礫の直撃はかなり不味い状況でも、二人にとっては良い雨宿り出来る場所があった。

 強固な装甲で守られた巨人。

 敵であり瓦礫を降り注いだ兵器の下に潜り込むことで助かるなど皮肉な話だ。

 

 「無事かバット」

 「えぇ、助かりました…というか助けて貰ってばっかですね」

 「そうかも知れないが、俺も結構助けられたさ」

 

 先に這い出たスネークはバットに手を貸して引き上げる。

 サヘラントロプスも瓦礫に埋もれ、所々は自身のミサイルが直撃してかなりの損傷を受けて動けないと見た。

 後はビッグボスを捕えて………。

 

 そう考えていたスネークは、瓦礫に埋まっていなかったサヘラントロプスのコクピット部分に目をやると、そこは大きく開かれて空っぽの内部を曝け出していた。

 困惑をそのままに視線をコクピットから流れ落ちる水に沿うようにして下へと向けると、酸素ボンベを放り捨てたびしょ濡れのビッグボスが立っていた。

 ホルスターに手を伸ばす格好で…。

 

 「伏せろ!」

 「ちょ―――ッ!?」

 

 バットを後ろに放るように引っ張り、手を離すと同時にホルスターよりデザート・イーグルを構え、お互いに迷うことなく引き金を引いた。

 スネークが放った弾丸はビッグボスの腹部を貫くも、ビッグボスが放った弾丸は吸い込まれるようにスネークの頭部へ…。

 倒れ込みながら振り向いたバットは咄嗟にスネークの膝裏に蹴りを入れた。

 かくんと曲げられた事で体勢が崩れ、仰向けに倒れるスネークは眼前を通り過ぎた弾丸を目撃した。

 

 「無事ですか!?」

 「おかげで助かった…」

 サヘラントロプスには負傷せず勝利したものの、随時駆け回っての大立ち回りは体力を大きく消費して疲れ切っている。

 気を抜けばその場にへたり込みそうなほどに。

 けれどそういう訳にもいかない。

 基地の自爆プログラムが作動している上に、蛇も蝙蝠も所縁のある人物の様態が気になって仕方がない…。

 

 ビッグボスは撃たれた衝撃でサヘラントロプスの装甲にぶつかり、血を擦り付けるようにその場に座り込んでいた。

 びしょ濡れの衣類を腹部より流れ出る鮮血が赤く染める。

 痛みに耐えながらぐったりとしているビッグボスは、二人が近寄ってきたのを認識すると頬を緩めて笑みを浮かべた。

 

 「本当に厄介な。俺がお前を選んだのは間違いだった…な」

 「…ボス。どうしてだ?何故こんなことを」

 「さて、どうしてだろうな…」

 

 スネークの問いに答える気も治療を受けるつもりも無いらしく、駆け寄って手当しようとしたバットの手を押し留めた。

 それでもバットはヴェノム(ビッグボス)を助けようと無理にでも治療しようと払い除けるも、傷口を隠すように押さえる手が断固として離れようとはしない。

 治療したいのにさせてくれない事に焦れてバットは怒鳴る。

 

 「手当てしないと死にますよ!?」

 「この怪我だ。間違いなく俺は死ぬだろうな」

 「だったら!!」

 「考え無しは同じか(・・・・・・・・)

 

 肩を震わし笑っているが、その揺れが腹部の傷口に響いて歪む。

 一息ついたビッグボスは真顔で正面からバットを見据える。

 

 「シオン。いや、バット。お前は怪我を即座に完治させれるのか?」

 「それは……出来ない…」

 「なら応急手当を施した俺をどうする気だ?手当てするからには助ける。または捕虜にする気があると言う事だろう」

 「そうですよ!俺は貴方を助けたい!死んでほしくないんだ!!」

 「現実的に不可能だ。お前はまだ小さく負傷している身だ。俺を連れてあの梯子を上る事は叶わぬだろう。ソリッド・スネークなら別だが、迫りくる自爆までの時間では絶対に無理だ」

 「けど…でも!」

 「甘ったれるな!お前の判断は間違っている。それは自身だけでなく味方も巻き込む悪手だ」

 「―――ッ!!」

 

 妙案もなく、スネークに期待の眼差しを向けるも沿う様な答えは出せる筈もない。

 涙を零しつつ必死に考えを働かせるバットの頭をビッグボス(ヴェノム)はクシャリと乱暴に撫でる。

 

 「戦士としては不合格…だが、良い子に育ったな。シオン」

 

 助けれないという事実。

 絶望と悲しみに満たされたバットは声を上げて泣き出し、ヴェノムは力強くも優しく撫で続け、視線をスネークへと移す。

 

 「ソリッド…お前はよく似ている。“戦いの中でしか生の充実”を味わえない(あの人)と…。けれどお前は同じ道を辿るなよ」

 「それはどういう意味だ?」

 「なぁに…そのうち分かるさ……さぁ、行け」

 

 撫でる手を止めて、転がっていた拳銃を握って構える。

 弱っているからか腕がぷるぷる震えて照準があっていない。

 脅しにしても効果は薄い。

 それはスネークとバットを追い立てるだけの意思表示でしかなかった。

 

 「行くぞバット…」

 

 小さく頷いたバットに背を向けてスネークは先に梯子を上がる。

 一瞬振り返ろうとしたバットだったが、ぴたりと止まって梯子へと急いだ。

 その様子を満足気に見たヴェノムは銃を降ろし、上へ上へと昇って行く二人を見送った。

 

 地上に出た二人はただただ走った。

 基地の爆発より逃れようと必死に。

 決して足を止めずに振り返らずに。

 息を切らし、足が縺れそうになっても走り続けた。

 

 どれだけ走っただろうか。

 地揺れと共に響き渡る轟音でようやく立ち止まって振り向くと、遠くで巨大な爆発が起こって火柱が立っているのが見える。

 あの怪我であの爆発だ。

 ビッグボスは生きてはいないだろう。

 

 懐から煙草を取り出して加え、ポケットに忍ばせていたライターで火を付ける。

 吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出し、ビッグボスが自身に言った言葉の意味を考え込むも、今のソリッド・スネークでは理解は出来なかった。

 疑問をとりあえず頭の片隅に追いやっていると、バットがビッグボスを別の名で呼んでいた事を思い出した。

 

 「そう言えばビッグボスの事を“ヴェノム”と呼んでいたが、アレはどういう意味だったんだ?」

 

 煙草を咥えながらぽつりと問うも答えが一向に返って来ない。

 不思議に思ったスネークは振り返ると先ほどまで後ろを付いて来ていたバットの姿がない。

 周囲を見渡しても同じであり、まさか戻ったのではないかと少し戻ったところで足を止めた。

 

 確かに自分の後ろに居た事を現す小さな足跡。

 それはスネークの足跡を追うように続いて来ており、戻ったような足跡はない。

 寧ろ自分の後ろで突如として消えたかのようだ。

 周囲には茂みも木もある事から飛び移れば足跡を残さず移動できるも、いくら何でもそれに気付かない筈もない。

 

 「蝙蝠(バット)…か。面白い奴だったな」

 

 あの若さで確かな技術。

 またどこかの戦場で会えるだろう。

 ソリッド・スネークは帰還すべく歩き出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 ゲームをクリアしたバット…否、宮代 志穏は声を殺しながらただただ泣き続けていた。

 自分がやったのはゲームの筈だ。

 筈だったのにこれはどういうことなのだろうか。

 クワイエットにヴェノム。

 どちらも記憶に強く残っている人達。

 リアル過ぎて現実と誤認してしまう世界(・・・・・・・・・)で出会えて嬉しかった。

 

 けど戦いの結果である別れを何事も無く受け止めれる程、志穏の心は強くも無ければ壊れてもいない。

 

 本当にゲームだったのかも怪しい。

 何故なら届いたダンボールも記録媒体(ゲームソフト)も無くなっている。

 ギアのログにも記録は一切残っておらず、何時間もギアを付けたままずっと座っていたらしい。

 狐にでも摘ままれたようだ。

 かといって夢で済ませるにはあまりにも現実感があり過ぎる。

 

 訳も分からず悲しさのあまり泣き続ける。

 体内の水分を出し切ったのではないかと思うぐらい泣き続け、真っ赤に晴れた眼を擦りながら志穏は連絡をつける。

 

 『貴方から連絡するなんて珍しいわね。何かあったの?』

 「…うん。少し話を聞いてほしくて…その、突拍子も無い話ではあるんだけどさ」

 

 自分の中だけに詰め込むにはあまりに辛かった。

 一人でため込む辛さは良く知っている。

 だから打ち明けたかった。

 父さんに…とも思ったが、自然と母さんに連絡先を呼び出していた。

 涙声と志穏の声色から成る雰囲気を感じ取ったパスは、少し考え込み間を空ける。

 

 『幾らでも聞いてあげる。けど電話では駄目ね。今からそっちに行くわ』

 「いや、電話で良いよ…本当に変な話だから…」

 『それでもよ。何だって良いのよ。手の届く距離で面と向かって話をするの』

 「……分かった。ありがと」

 『すぐ行くわ』

 

 その後、到着したパスに感情が混ざりで順序も前後しながら志穏は自分が体験した事、感じたことを語り出した。

 パスは話し終えるまで一切口を挟まず聞き、最後には泣きじゃくる我が子を優しく抱きしめ、13歳の子供には辛い成長(・・・・)彼の顛末(・・・・)に同じように涙を流すのであった…。

 

 

 

 

 

 

●ちょっとした一コマ:解放

 

 ヴェノム・スネークはぼんやりとしながら葉巻を咥える。

 濡れた衣類を探ってライターを取り出し、何度かスカりながらもようやく火を付け、大きく吸い込んで味わうと紫煙を周囲へと吐き出す。

 

 「俺もお前もよく頑張ったよな…」

 

 背を預けているサヘラントロプスに言葉を投げかけるも返答は無論ない。

 あれから何年も経っているのだ。

 一応の整備はしていたがシステム自体は更新せず、コクピットを人でも搭乗できるように改造した以外は維持する程度で済ませ保管していた。

 

 当初の計画は大分狂わされた。

 こいつ(サヘラントロプス)も予備戦力であって投入する予定はなく、投入したのは狂わされた最たる結果と言えるかもしれない。

 

 アウターヘブンの武装蜂起は“愛国者”に対しての宣戦布告であり陽動。

 サイファーなどを経てアメリカを裏で支配する“愛国者”という存在はビッグボスにとって脅威でしかない。

 世界にとっても奴らが命ずる方針や思想には危険なものも多く、俺達にとってはいつまでもビッグボスを付け狙う敵である。

 最早頸木から解き放つには打倒するほか手段がないが、規模や組織などの情報が圧倒的に不足している。

 ソリッド・スネークに偽の情報を持ち帰らせるのは、核搭載二足歩行兵器であるメタルギアに核弾頭が搭載されているという誤情報を掴ませ、集めに集めた大規模戦力と核弾頭をチラつかせて時を稼ぎ、向こうの出方と動きを分析したビッグボス(ネイキッド・スネーク)の本隊が叩く手筈になっていた。

 ゆえにこのアウターヘブン蜂起にはダイヤモンド・ドッグズの兵士達は参加してはいない。

 表上は解散したダイヤモンド・ドッグズの兵士達は、本隊主力を担う為にビッグボスと合流して中東に潜伏しているのだから。

 

 しかし予定外に崩され過ぎた。

 これも強く育った(ソリッド・スネーク)と成長した蝙蝠の子供(シオン)のせいだ。

 崩しに崩されて最早計画遂行は危うくなり、基地そのものがレジスタンスを含めた奴らに乗っ取られそうになる始末…。

 

 だから俺は計画は大きく変更した。

 ここまで来たら脱出も兵器の移送すら難しい。

 ならばこの武装蜂起がもたらす成果を大きく変えるしかない。

 

 大量の兵器と人員を集めて起こされた武装蜂起は、ビッグボスの死亡(・・・・・・・・)によって終結したと…。

 俺はビッグボスのファントムだ。

 元々の存在理由自体が公式の記録上死んだとされるビッグボスであるも裏の世界では存在が怪しまれ、生きてると知られれば追手を差し向けられるために、裏での注目を集める為の影武者。

 現状裏でビッグボスと信じられている俺が戦死したとすれば、それは表裏共にビッグボスそのものの死を意味する。

 あの人の事だから戦いを諦める訳もない。

 ならば俺のすべき事はあの人の為に繋げる事だけ。

 

 計画が崩壊の兆しを見せ始めたころから新型メタルギア制作や実験で得られたデータを送信し、サヘラントロプスが回収されないように破棄も行うべく起動の用意を行った。

 

 新型メタルギアは破壊され、サヘラントロプスも基地の自爆と共に消失。

 ソリッド・スネークが提出するであろう報告書と、基地の爆破の規模から死亡したと判断されるであろう。

 俺はここで最期を迎えてアウターヘブンは幕となる。

 ここで逃げ出しても良いがこの負傷では逃げきれないし、下手に生き延びた所を目撃されれば計画は無に帰す。

 DNA鑑定されれば偽者とバレる為に死体を残す訳にもいかないしな。

 

 最期の瞬間を前にして自身の言葉を思い出して笑ってしまった。

 

 (次代を担う蛇と蝙蝠よ―――か。俺は何を口走ってるんだか…)

 

 俺はビッグボスの影なのだ。

 それなのにビッグボスが“愛国者”と決着をつける未来でなく、あの二人が未来を紡ぐと無意識にも想っていたんだな。

 あれだけ演じていたというのに呆れも通り過ぎて笑えて来た。

 

 「あぁ…それもまた………見て見たかっ…………なぁ…」

 

 加えていた葉巻が力の抜けた唇より離れ、自然に従って落下して先の火種が血の混ざった水たまりに落ちて消えた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………痛ッ…。

 薄れかかった意識が痛みによって覚醒させられ、閉じた筈の瞼を無理にでも持ち上げる。

 ぼやけた視界の先に居たのは見辛くも見知った相手であるとすぐに理解した。

 

 「なにを…している?」

 「――――…」

 

 相変わらず口を閉ざしたままか。

 クワイエットが動くたびに痛みが走り、ようやく定まった瞳が捉えたのは応急手当を施している様子であった。

 駄目だ。

 (ビッグボスのファントム)はここで死ななければならない。

 生かすだけ無駄であり、生きながらえた先はあってはならない。

 力の入りきらない腕を動かして、治療の手を押しのけようとするも、簡単に払い除けられてしまう。

 

 「止めろクワイエット…俺は…役目を全うし(ビッグボスの死を演じ)なければ……」

 

 そう口にしたところで人差し指で唇を押さえられた。

 喋るなと言うのだろうがそういう訳にはいかない……が、最早抵抗する力すら入らない。

 

 「―――違う。貴方の役目は終わった」

 

 やんわりとした口調でそう言われた(・・・・)

 クワイエット(静かな狙撃手)がそう言ったのだ(・・・・・)

 英語株の声帯虫を取り除かれても極力喋らなかったアイツが…だ。

 

 「ビッグボスはここで死ぬ。新たな蛇と蝙蝠に撃たれ、基地の爆発に巻き込まれて戦死する。けれど貴方が死ぬ理由はない」

 「違う。俺はここで…」

 「貴方はヴェノム。貴方はエイハブ。ビッグボスなんかじゃない。私の報復対象であるビッグボスなどでは絶対に無い。役目を終えた貴方は英雄に憧れ、蝙蝠を羨んだ一人の戦士でしかないのだから」

 

 止血を含めた応急処置は終わり、最後にきつく巻かれた包帯で傷口が痛む。

 もう俺が何を言ったところで無駄…なんだろうな。

 応急手当されたがこの傷に出血量。

 助かる可能性も低いだろう。

 けれど彼女は生きろと言う。

 スカルフェイスの命令で暗殺に赴き、ビッグボスの抵抗により全身大火傷を負い、人とは離れた肉体と能力を押し付けられ、そんな肉体にされた憎しみを俺にも抱きつつ、決して仕込まれた声帯虫を命令に背いてまで頑なに使用する事の無かった彼女が…。

 元々抵抗できる力など無いが、心の底から彼女に全てを任せる。

 無抵抗のまま背負われたヴェノムにクワイエットは微笑む。

 

 「もう貴方は自由に生きるべき」

 「それはお互い様だな…」

 

 ヴェノムはそれだけ返すと今度こそ意識を手放した。

 まるで寝ている様で死んでいるかのような(・・・・・・・・・・)顔にクワイエットはきゅっと口を噤む。

 そしてそのまま彼女は人の眼では追い付けない脚力を活かし、基地を跳び出るとジャングルの中へと消えて行ったのだった…。




 これにてアウターヘブン完結です。
 次回ザンジバーランド!!……………なのですが、メタルギア2のプレイと構成を纏めるべく、また次回投稿まで少々時間を頂きます。
 
 予定としては十一月入ってから投稿しようと思っております。
 
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