マスター・ミラーことカズヒラ・ミラーはソリッド・スネークを始めとした兵士達の育成に携わった鬼教官。
ただ机上から眺めては気分で威張り散らすだけの上官ではなく、現場で活躍した経験もあってか兵士よりの人物であり、厳しく優秀な教官ながらも多少なりとも融通の利く人であった。
ゆえに世話になった兵士達からの信望も厚く、尊敬もあって“マスター”・ミラーと呼ばれているのだ。
「多くの兵士を教育していたとは言え、お前さんもそうだったとは思わなかったぞ」
「まぁ、兵士の教育としては偏っていたように思えるけど…。一応色々教わりましたよ」
『都合の良い……コホン、中々教え甲斐のある生徒だったな』
突如として現れて自爆同然に敗北したランニング・マンを拘束して放置した後、クワイエットの能力をもってして周囲に敵兵は見えないし、気配も感じないと言う事で警戒しながらも多少会話を混ぜつつ来た道を戻っていた。
あまり深く突っ込んだ質問は自然と避けていたのだが、マスター・ミラーが無線でバットに『久しいな』と懐かしむ様子から話が進んだのだ。
しかも時期的に言えば“
『世間も狭いものだな。まさかマスターの生徒だったとは』
『正確には教官の一人だな。俺…もとい私以外にも鍛えていたからな。そこのクワイエットも含めて』
「こういうのを英才教育って言うのか?」
『普通は習う事は無いだろうけどな…それは』
『間違いではないがな。狙撃に銃の扱い方も教えて貰っていたものな』
会話を聞いていて疑問が過った。
今でようやく青年に掛かった程度でアウターヘブン時はより幼く、それ以前となると十代前後になるだろう。
クワイエットが狙撃云々を教えたとしてもマスターは何を教えたというのだ?
身体を鍛えるにしては幼過ぎて負荷や影響を考慮しないと成長や身体に影響が出てしまうだろう。
ならば銃の扱いなどではとも思ったが、先程マスターは
となれば実際の経験を語ったぐらい…か?
「ところでマスターから何を習ったんだ?」
『え!?いやぁ…それは…そのぉ……』
つい口にした疑問にマスターの歯切れの悪さが目立つ。
本当に何を教えたんだと眉を潜め、大佐も不振がっているとバットが微笑みながら口を開いた。
「本当に色々ですよ。ポーカーやブラックジャックでミラーさんが勝つように小手先の技術を叩き込まれ、
過る沈黙。
本人は単に懐かしんでいる様子であるが、周囲は非常に冷めた瞳で無線ゆえに見えないミラーへ向ける。
ミラー自身も気まずいのかそれとも弁明を考えているのか言葉を発せずにいる。
戦場だからなどは関係なく、なんとも微妙な空気が漂い続ける。
「いやぁ、楽しかったなあの頃は…」
「お前の年齢でしみじみと過去を振り返るな。そういうのはもっと歳食ってからするもんだ。なぁ、大佐?」
『あぁ、そうだな。私ぐらいの年齢になるとよく過去を振り返るようにもなる。良い事も悪い事も……な…』
微塵も感じていないバットはぽつりぽつりと漏らすが若者らしくなくも思う。
それを指摘すると同時に皮肉を含ませてマスターにも向ける。
余計に口を開き辛くなるマスター…。
それにしてもバットも若いながら相当な苦労をしているらしい。
「お前は両親もだが色々と大変だったな」
「いえ、親父に対する周囲の評判で苦労こそしたけど、出会いは良いものばっかりだったよ。勿論ミラーさんともクワイエットさんとも」
『………バットぉ』
「あの鬼教官が涙声で…」
「最もミラーさんの節操の無さはどうかと思いましたけど」
『上げてから落とすな!?余計に傷つくだろうが!―――そんな目で見るなぁああ!!』
『見えてはいないんだがな』
「居たら冷やかな視線は向けていたな」
呆れながら会話を続けていたが、底なし沼を抜けた所で無線が入って一旦中断する。
無線相手はジェニファーでシュナイダーを連れて脱出する準備が整ったというのと、リモコンミサイルの在処が解ったとの事。
相変わらず情報を知るすべが高い。
先へ進む為に寄り道をせねばならなくなった。
それもメタルギアを相手すると言うのであれば必要な武器である。
「戻るしかないですね」
「だな。メタルギア戦を想定したら必要になるからな」
あの地雷原で守られた先が非常に怪しいが、こればかりは致し方ない。
さすがに拳銃や短機関銃でやり合うのは御免被りたいのは誰も同じであろうから。
底なし沼から木々が生い茂る森を抜け、ビルへと戻って来た一行はジェニファーの情報を信じてリモコンミサイルがあろう場所へと進む…否、進みたかったのだがそう易々とはいく筈もない。
リモコンミサイルを――という訳ではないのだろうけど、施設内の警備がまた上がっているのか兵士の数が増えている。
楽には突破させてくれないらしい。
「さて、どう突破しようものか……あ?」
「―――ん?」
これは
必要な時は戦うべきであるも、戦闘自体は必要最低限で出来れば避けるべき。
だからこそスネークはどうやってこの場を切り抜けるかと考え込む。
なのにバットとクワイエットは無言で狙撃銃を手にして
「お前潜入工作の意味解ってるのか?」
「タイムアタック狙った時ってたまに強行突破した方が早い時ってありません?」
「……まぁ、ジェニファー達に対して陽動にもなるか…好きにしろ」
「順応早いですね」
「―――違う、これは諦め」
クワイエットの言うように半ば諦めも混ざっている。
もう半分はクワイエットとバットの能力を確かめる目的もある。
クワイエットとは高い身体能力と狙撃技術を味わったが、体験するのと第三者として見るのでは情報の捉え方が異なる。
体感では凄く感じてもデータや離れてみるとそうでも無かったりするなど日常でもある事だろう。
バットは共に戦った事で間近で見る事が出来たけど、どれも遭遇戦や乱戦などで
解らないで済まして先延ばしにするより、ここでハッキリさせておいた方が良いだろうとの判断からスネークは観察する。
バットとクワイエットは目線と指で指し示すばかりで、会話もなく静かに打ち合わせを済ませて狙いを定める。
スー…と空気を吸い込む呼吸音が聞こえ、それが止むと同時に二つの銃声が一つとなって
室内に広がる銃声に反応する兵士達の中で、二人の兵士がぼとりと倒れ込む。
音と倒れた仲間に反応を示すも次の瞬間にはまた二人、また二人と銃声と共に崩れ落ちる。
恐ろしく早く正確な狙撃…。
しかし実力は銃声が響く度に差となって見えてきた。
最初こそ一発に聞こえる程揃っていた銃声がズレてきている。
一発撃つごとにボルトアクションに寄る排莢、次の目標への狙いを定め、トリガーを引くなどなどの動作のどれをとってもバットが劣っており、クワイエットの技術の差から徐々にだが置き去りにされている。
だけどそれでも早く正確な狙撃で、敵兵士が対応すべく動く前にかなりの数を減らしてしまっている。
中にはギリギリ壁に隠れようとしていた者も居たが、隠れ切っていなかった腰を撃たれ、衝撃と痛みで身体を捻るように
何人かは壁や障害物を盾にして反撃に出始めたが、銃口をこちらに向けた際には顔を僅かでも出る訳で、そこを二人は淡々と狙撃して行く。
五分と経たぬ間に室内の敵兵は掃討された。
「お前たちが敵でない事を喜ぶよ」
「突然なんです?」
「化け物染みてるって話だ」
「失礼な。クソ親父みたいに人間辞めてないですよ俺」
「そうか。お前の親父さんは人外なんだな…」
否定された事もそうだが、否定された理由に反笑いを浮かべてスネークは急ぎリモコンミサイルを回収に急ぐ。
室内は片付けたがあれだけ派手に動いたのだから敵兵もこちらに集まって来るだろう。
………二人が待機している出入り口の方向から手榴弾らしき爆発音や銃声が聞こえるが気のせいだろう。
気のせいという事に出来ないだろうか…。
『スネーク…潜入工作の意味を――』
「俺でなくアイツらに言ってくれ」
大佐から呆れ交じりの講義を受けるもこちらは被害者なんだ。
出来るならアイツらに直接言って貰いたいものだ。
そう思いつつもリモコンミサイルを回収し、合流したバットとクワイエットと共に少しずつだが集まってきている敵中を突破し、木々が生い茂る森へと駆けこむ。
視界が悪い森の中では罠や伏兵を警戒して追撃の速度は落ちるだろうし、この先には地雷原もあるので余計に。
「で、俺は探知犬か何かですか?」
「得意だろそういうの」
処理とかではなく罠などへの探知能力の高いバットに先頭を歩かせ、速やかに地雷原を突破した事で追手との距離はさらに開けただろう。
地雷原の先はトラックの停留所となっているのか何台も停まり、こちらの動きもあってか警備の兵士が多い。
さすがに
トラック群と警備の兵士達を抜けた先は開けた場所となっていて、整備されたヘリポートが設けられていた。
勿論戦闘ヘリが待機した状態で…。
「遮蔽物も無しか!?」
「リモコンミサイル使いたくないですけど
無人ならまだしも搭乗者が見えた事で通り過ぎる事も戦闘を避ける事も出来ないらしい。
アウターヘブンでの戦いを思い返していた最中、ヘリコプターはプロペラを回してゆっくりと浮上し始める。
「あー…今度のヘリは飛ぶんだ」
「普通はそうだからな―――って呆けている場合か!?」
浮上し始めたヘリを前に呑気な感想を口にするバットに怒鳴り、慌ててその場を離れようと走り出す。
ヘリの正面に立っていれば下部に装着された機銃で蜂の巣にされる。
バットも駆け出すも二発の銃声でその考えは掻き消えた。
「「―――はい?」」
振り返ったスネークとバットは呆けた声を漏らした。
それもその筈。
飛翔していたヘリが銃声が鳴り響いてすぐに傾き、地面へ向けて突っ込んでプロペラをへし折り、そのまま動かなくなってしまったのだ。
よく見てみれば射撃手と操縦手がぐったりとした様子で倒れ込み、フロントガラスには二つの小さな穴が…。
「…操縦手を狙撃したのか?」
考えてみればただ単に上昇中のヘリだっただけに、動きの予想は尽くし狙い易かったのかも知れない。
けどプロペラに寄る風圧に振動で揺れる目標の一点を狙うと言うのも難しいものだろう。
それを難なく熟して問いかけに首を傾げて不思議そうな様子のクワイエット。
非常識の塊かこいつは…。
『驚いているところ悪いがそいつは猛スピードで迫る戦闘機の操縦者を一発で撃ち抜いた事もある。その程度で驚いていたらこの先持たんぞ』
「戦闘機を!?さすがクワイエットさん!!」
こういう時だけ子供のような反応を示すバットの首根っこを掴んでさっさと先へと進む。
ヘリポートの先はタワービルへ続いていたのだけど、さすがに厳重な警備と強固で閉じた出入り口を突破するのは難しそうだ。
ただ物資搬入口の警備は然程高くはないのでそこから侵入するのが良いだろう。
早速と言わんばかりに拾っておいたダンボールに入り込むスネーク。
若干躊躇いを見せながら入るバット…。
搬入口で待機していると敵兵が荷物と思い込んでベルトコンベアで内部へ。
そのまま資材置き場まで運ばれて、運んだ兵士の気配がなくなってから外に出る。
「さて、内部に侵入できた訳だが―――そう言えばクワイエットは何処だ?」
出て早々に動こうとするもクワイエットの姿が見えない。
思い返せばダンボールに入る辺りから居なかったような…なんて思っていると透明化していたクワイエットが現れる。
そういえばそういう能力を持っていたなと納得していると無線が届く。
「この周波数…ホーリーか?」
『スネーク!助けて!?』
「どうした?何があったんだ?」
『紛れて探っていたのだけど正体がバレて捕まっちゃったの…。マルフ博士と接触がとれたって言うのに』
「博士の居場所が!?」
『残念だけど目隠しされていたから…』
見ていないし場所も解らない…。
だけど接触したからこそ分かる情報もあるだろう。
情報が何もない状態であるから少しでも得れるものがあるなら縋るべきか。
「場所は解るか?」
『だから目隠ししていて…』
「違う。お前が今居る場所だ」
『解らない…けど音がするの?』
「音?何の音だ?」
『左からエレベーターの音がするわ。右からはポンプらしい音。前と後ろからは水の流れる音が』
「ポンプに水音、それにエレベーター…分かった。なるべく早く助けに行く」
『待ってるわ』
無線を終えると二人に視線を向けると何も言わず、
ポンプ音に流れて水音が聞こえるというのなら一番に疑うのは下水施設。
大概そう言った区画は地下と決まっている。
警備の眼を掻い潜ってエレベーターの乗って地下へと向かえば、そこは思っていた通りの下水施設。
ただ想定外だったのは子供が居て、散歩したり遊んでいたりする事だろうか。
「戦争孤児ってところでしょうかね」
「だろうな。あまり
「解ってますけど前回の件があるから少し考えさせられますね」
それに対しては答えない。
否、答えられない。
暫しの沈黙が流れた後に、この下水施設にいるであろうホーリーの捜索に入る。
軽く見たが警備兵が居ない事から、捜索の時間短縮する為に別れて探す。
道中の子供達に話しかけながら小部屋を検め、途中途中プラスチック爆弾や弾薬などを入手して進む。
そんな中広い部屋の中に一人の子供がぽつんと立っていた。
どうしたのかと近づけばこう返して来た。
「
「――ッ!?…そうか。伝言ありがとう」
どうもここに来ることが解っていたらしい。
それもそうか。
怪しんで捕えたホーリーは無線で連絡してきた。
わざと没収せずに残しておいて、自分達がここに来るように仕向けた。
ともなれば罠の可能性が高い。
無線でバットに連絡を入れ、無線機を持っていなかったクワイエットにはバットが探して伝えるとの事。
警戒しつつ捜索を続けた結果、怪しい小部屋を見つけた。
外から見たら広そうなのに中に入ったら狭く感じる。
案の定壁を調べて行ったら薄い場所があった。
そこを先ほど入手したプラスチック爆弾で吹き飛ばせば、先には広い一室に繋がって女性の姿があった。
「助かったわスネーク」
こちらにそう言った事と声からホーリー自身だとは分かった。
ブロンドの髪にスッとした目や鼻立ち。
それに
返事がなく戸惑ったような様子にホーリーは首を傾げる。
「どうしたの?」
「…君がこんなに美人だとは思わなかったんでな」
「まぁ!イメージと違った?」
「あぁ、そうだな。もっと早くに合流すればよかった」
「お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞なんかじゃあ…」
「兎も角ここを離れましょう。気付かれたら
「
彼と言われて脳裏に過ったのは道中の子供が言っていた眼帯のおじさん…。
それなら逆に会わねばならない。
そう思った矢先にホーリーは首を横に振るう。
「違うわ。私があったのは別のナニカよ」
「どういう事だ?」
「それがよく解らないの。けど彼と戦うのは危険なのよ。私は彼に触れられただけで
言っている意味が解らない。
詳しい話を聞こうとする前に冷気が通り過ぎた。
最初こそ寒いなと思う程度だったが徐々に凍てつく様な寒さに変わって吐息が白くなる。
それと誰かが後ろの方に居る気配がする。
隠せていないのではなく、隠す気がないように察する。
「地下だというのに
銃をホルスターより抜いたソリッド・スネークは振り返り、その何者かと対峙するのだった…。