今年もよろしくお願い致します。
…新年早々投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
バット―――宮代 志穏はFPSでオセロットやクワイエットから授けられた知識や技術を疑似的とはいえ経験として昇華していった。
目の前に出された豪華な料理の数々をゆっくりと咀嚼し、その舌と脳でじっくりと味わうように。
確かに早撃ちや格闘戦は苦手ながらも、狙撃を得意としてゲーム内とは言え狙撃兵として頭角を現した。
キルゾーンを定めて罠や地形で狩りを行ったり、移動してポイントを変えては位置を悟らせないように狙撃する。
ただそれだけでは突発的遭遇戦や勘や嗅覚が鋭いプレイヤーに捉えられた際の戦闘には不利でしかない。
志穏はクワイエットやジ・エンドのような驚異的な身体能力を持たぬゆえに急遽の戦域の離脱も突破も難しい。
だからこそそれを解りきっていたオセロットは教育を施しておいた。
通常の銃撃戦も行えるように教え込まれ、その中でもサブマシンガンの扱いは中々だったと評されている。
それはFPS内でも中々戦果を叩き出す手助けとなったのも確か。
本人も狙撃に次いで自信を持っている。
残弾をばら撒くだけの
だけど志穏の主だった攻撃方法は狙撃でサブマシンガンは予備として捉えている。
しかし今だけはサブマシンガンを主力とせねばならなくなった。
それも非常に危機的な状況に追い込まれたがゆえに…。
「何なんですかアレは!早すぎるでしょう…当たらねぇんだけど」
ソリッド・スネークと地下で別れたバットはクワイエットと合流。
同時に敵兵に捕捉されて遭遇戦に発展。
即座撤退したくともここで退けば眼前の敵兵はスネークに向かう事となる。
仲間を見捨てるのは目覚めが悪過ぎる。
だからこそ応戦して敵を数を減らすか突破を図るつもりであったが、敵は中々の精鋭部隊をぶつけてきた為に突破も難しくなっている。
狙い撃つも敵兵の動きと判断が今までの兵とはけた違いであり、クワイエットが居なければ数もあって敗北は確定してしまっていただろう。
苛立ちながらも正確に撃ち続けるバットは敵兵のエンブレムに目を見開く。
「―――ッ!?DD…ってまさか!」
「ダイヤモンド・ドッグズの兵士達」
「道理で強い訳だ。そして撃ち辛い!!」
「――手加減する?」
「加減して勝てるほど自己に己惚れてはいませんよ」
以前親父の戦い方に疑問を持ったことがある。
時に苛烈な程に敵プレイヤー達を倒して行ったと思えば、負傷や行動不能にさせるばかりで倒さない事があった。
状況や相手に精神的に負担を負わすなどで倒すか苦しめるかなど戦法を変える事はある。
けれどその時は別段そう言った事を配慮している様子はなかった。
疑問の問いに対しての答えは「
それに続いて「僕はこの考えを強要する気はない。強要した結果、やられたら元も子もないからね」―――と…。
従って…というのは癪だが、考えには理解・納得して自身もそうあるべしと考えてはいる。
ゆえに旧友だからと言って手を抜くことは出来ない。
ただ出来る事なら足や腕などを撃ち抜いて戦闘不能な状態には負い込みたいとは思っているが…。
素早い動きで翻弄し、精確な射撃でこちらを追い詰めようとする兵士達に銃撃を返す。
様相から想いを察したクワイエットは透明化して驚異的な身体能力を活かして近接戦闘に持ち込む。
蹴りや拳の一撃で兵士は壁へと叩きつけられ、中には衝撃で気絶や骨折と言った負傷者が目に見えて増えていく。
だが死者は出ていない。
「クワイエットさん!俺は強要しませんよ!!」
「――これは私がしたいだけ…」
「…そうですか。でも、ありがとうございます!」
たった二人の狙撃手は戦う。
偉大な蛇の亡霊に率いられた戦士達と戦いつつ、仲間の蛇の無事を祈りつつ…。
一方ソリッド・スネークは突如現れた男と対峙していた。
スニーキングスーツをベースに改良されたらしき特殊なスーツで身を包み、冷気を放ちつつこちらを見定めるような視線を向けて来る。
あまりにも異常な冷気に室内が白く染まり、寒冷地仕様ではなかったとはいえ今の装備では完全に冷気は防げてはいない。
特に薄着のホーリーにとってこの環境は酷というものだ。
「何者だ?ただの兵士には見えないが…」
「俺か?俺はただの老兵さ」
「普通とは思えないがな」
「普通だとも。戦場で負傷して自らが戦う場を失い、否応なしに蓄積した経験を若手に教える訓練教官だ」
見るからに歳を取っているのは解るが、見た目から予想される年齢とはとても見えないほどの溢れ出る雰囲気に佇まいから圧倒される威圧感を発している。
単なる老兵ではない。
この気迫はこれまで出会って来たどの兵士よりも強烈だ。
否、この気迫に勝るとも劣らない人物に一人だけ
「歴戦の勇士という訳か」
「違わないが今はしがない試験官だ」
「なら現場に出張らず訓練兵の面倒だけを見ていて欲しいが。この出会いにも目をつむって」
「それはいかんな。なにせ俺はお前さんの試験官なのだから」
どうも俺は試されているらしい。
それが何に対してなのか、誰に対してなのかは解らないが…。
なんにしても戦闘は避けられないようだ。
手にしているグレネードランチャー付きのM16A1アサルトライフルが構えられた。
「それは大変だ。赤点補習にならないように気を付けるか」
「あぁ、そうしろ。俺の採点は厳しいからな」
何とも皮肉の解かる人のようだ。
敵なのが非常に厄介でとても残念だが…。
ふわりと浮いた空気が一瞬でピリッと張り詰める。
「俺はパイソン。元FOX、
互いに銃を構えて動き始める。
案山子のように立って撃ち合う事などせずに、距離を離しつつトリガーを引く。
対してパイソンは微動だに動かずに銃弾をその身に浴びる。
普通ならそれで勝負はついた。
しかしパイソンは見事それらを受け止め、直撃した弾丸は貫く事無くそのまま床を転がる。
一体どんな手品を使ったんだと考えるより先にまずは回避に専念せねば。
仁王立ちしたままゆったりと歩きながら苛烈な程に銃撃を放ってくる。
戦いが始まると察してホーリーは柱の陰に隠れたとはいえ、パイソンのアサルトライフルにはグレネードランチャーが備え付けてある。
ホーリーの近くに移動した際に使われれば巻き込まれてしまう可能性大だ。
逃げ先と仲間の位置を確認しつつ走りながら撃つ。
「ほう。思ったより動きが良い。いやはや若さとはなんとも眩しいものだ。老いたこの身には羨ましいばかりだな」
効いていないのかと思う程に微動だにしない様子に呆気に取られる。
もしも全く効果がないとすれば今の戦い方では意味を成さない。
何らかの策を講じなければ敗北は必至。
かといってあの冷気を放っている発生源に近づけば霜焼けでは済まない。
最悪冗談抜きで凍り付いてしまいそうだ。
何発も叩き込んでマガジンを交換していると再びパイソンが呟く。
「それにしてもさすがに
「グレネード!?―――ッ!?」
自ら効果はあるとぼやきながらグレネードを発射してきた。
慌ててその場を跳んで回避しようと試みたが、放たれたソレは単なるグレネードではなかった。
破裂音と共に発生したのは爆発などではなく、周囲を白く染め上げるほどの冷気。
なんなんだを眉を潜めながら銃口を向け、トリガーを引こうとするもビクともしない。
手にしていたFNブローニング・ハイパワーに視線を向けると、所々に霜が降りて凍り付いていた。
「凍り付いた!?ドライアイス…いや、液体窒素か!!」
「ご明察だが、この状況でどう動く?お前さんの武器は凍り付いたわけだが?」
確かにバットから
されど武器はそれだけではない。
貰っといて潜入して間もなく手に入ったベレッタM92Fがある。
拳銃を取り換えて撃ち…違うな、
「予備の銃を持っていたか。それは良い事だが
「なんの話だ?」
「―――ん、そうだな。そうだった。ここは
苦笑いを浮かべ呟くも何処か懐かしみ嬉しそうであった。
その反応に対して撃つ事すら躊躇われる。
「さて、続けようか。とは言ってもお前さんの不利な状況は変わらんが…っと、こんなもので俺を倒そうと言うのか?実直過ぎるな」
「やはりそのスーツも液体窒素入りか…」
周りも含めて地雷原で
そのうちの一つをパイソンへ投げつけるも回避せずに迷わず掴んだ地雷は爆発する事無く凍り付いて起爆する事は無くなった。
銃弾を凍り付かせて防いだのも地雷を凍り付かせたのもあのスーツ内に液体窒素が満たされているのだろう。
これでは近接戦闘は出来ない。
殴りかかっても触れば凍り、ナイフで切り付けても溢れ出た液体窒素で凍り付く。
どちらにしても凍るのであれば戦闘継続は不可能。
ダメージを負わせるにしても代償が大き過ぎる。
―――だからこそ策を弄さねばならない。
マガジン内の三発をパイソンへ。
残りは周囲の地雷へと撃ち込んだ。
触れて凍り付かせたわけでもなく、液体窒素入りのグレネードなどで周囲に液体窒素を撒いた訳ではない。
起爆可能な状態の地雷を銃弾が貫き、爆発して破片を撒き散らす。
間近、それも三方向から地雷の爆発と破片をもろに喰らったパイソンはさすがに堪らず倒れ込んだ。
―――勝った。
そう油断してしまった。
倒れ込む中で足を止めていたスネークにパイソンが放った弾丸が二の腕を貫いた。
焼けるような痛みを感じ、傷口から血液が垂れ流れる。
止血も兼ねて傷口を押さえながら銃口は外さない。
「ははは…やってくれる」
爆発によって生じた煙と発生した熱量を冷やそうと撒かれた液体窒素の白煙より姿を現したパイソンは、十分すぎるほどのダメージを負っているものの、臨戦態勢を解除するどころか拳を構えて殴り合いを持って戦うつもりらしい。
先ほど持っていたアサルトライフルはと言えば、地雷によって壊れたようで床に転がされている。
「CQCは得意か蛇よ!」
「あぁ、得意だ」
ホルスターにベレッタを仕舞い、スネークも拳を構える。
じわりじわりと近づき、互いに手の届く位置まで接近すると流れるように動き出す。
掴み、払い、流しと舞う様な動作で始まった近接戦闘は次第に苛烈さを増し、殴っては殴り返し、投げ飛ばしては投げ飛ばされるの繰り返しとなる。
高いCQC技術を持つスネークでも長年の経験によって熟成された動きも兼ねたパイソンに早々に勝つことは難しかった。
だが、技術以外の面で勝敗は訪れる。
それは年齢からくる身体の不調に加えて、体力面の衰えであった。
ソリッド・スネークが生まれるよりも前から兵士として活躍していたパイソンも寄る年波には勝てなんだ。
すでに地雷から身を守るべく液体窒素を流出させ過ぎては、自身の身に宿った熱量を抑えるだけで精いっぱいで氷結に流用するほどの余力は存在しない。
「あぁ…歳を重ねても熱くなり過ぎる性格は治らなんだな」
「それよりその歳で強過ぎだろアンタ…」
「なぁに、これでもかなり弱体化はしてるさ」
先に倒れ込んだパイソンに続いてスネークもその場に倒れ込む。
疲労とダメージによって大の字で寝転ぶ。
そこにDDのマークを付けた兵士が入って来る。
ここまでかと脳裏に過ったスネークであるも、パイソンが制止させた。
「彼の者への手出しはするな」
「合格か。しかし良いのか?」
「構わん。俺は食客でお前を倒せとの命は受けていない。これは俺の意志で見定めに来ただけなのだから」
「それだと兵士達には俺達を捕らえる仕事があると思うが?」
「彼らがザンジバーランド所属の兵士ならな。彼らはDDの古株達。とうに年齢から退役している。俺と同じロートルだ」
「自ら試験官を買って出た趣味人達という事か。勘弁してくれ」
「それはこっちの台詞」
入って来たDDの兵士に続いてバットとクワイエットも入室してきた。
幾らか掠って制服の一部が損傷しているが、大きな怪我はしていないようで安堵する。
どうやら彼らはバットに対する試験官だったらしい。
「数と質で攻められたんですから」
「可愛がってもらえたようだな」
「可愛がられましたよ。今も昔も」
「知り合いだった訳か」
「DDにはミラーさんも居ましたから多く知り合いが居ますよ」
バットはそう言いながら駆け寄り、応急手当を施し始める。
手際のよい手当てを受けて幾分か痛みが和らぎ、スネークは巻かれた包帯部分を眺めて腕を回して具合を確かめる。
少量の痛み止めでも打たれたかのように楽になった事は不思議に思うも、薬物で感覚的に鈍っている訳ではなさそうなのでとりあえず放置する。
「で、アンタらはどうするつもりだ?追試試験でもするのか?」
「いや、彼らも満足したようだ。俺達は引かせて貰おう」
「予想外。最期まで戦うのかと思ってた」
「俺らも歳だ。それに大分前に拾った命。老後を十二分に楽しんで老衰と決めているんでね」
「本当にぃ?戦う事こそ生を感じるを口癖だったのに。丸くなっちゃって」
揶揄う様なバットの言葉に老兵たちは笑いながら、ガキが言うようになったじゃねぇかと軽く小突き、くしゃくしゃと頭を撫でる。
「蛇よ。俺は死にきれなかった老兵だ。奴とは戦友であったが敵だった事もある。それでも奴と共に道を歩んだ。ゆえに悩んでいる。奴の為を想うならばお前を…お前達をここで仕留めておくべきだろう。だが同時に考えてしまう。未来を担うのはお前達若い連中だ。過去に囚われた老兵がどうこうする事ではないのでは―――と」
転がっていた体躯を無理にでも起こし、こちらを見つめるパイソン。
その瞳は優し気ながらも強く、芯の籠っていた。
真正面から受け止めたソリッド・スネークは真っ直ぐ見つめ返す。
「だから若き蛇よ。若き蝙蝠よ。俺達はお前達に託す」
「まったく…なにが合格だ。試験は継続だな」
煙草に火を付けて、苦笑いを浮かべながら紫煙を吐き出す。
そして立ち上がったスネークはバットとクワイエット、それとホーリーと共に出入り口へと向かう。
「託された賽の目がどう出るか解らないが、思いっきり振らせてもらう。恨むなよ」
パイソンはDDの老兵に肩を貸して貰い、スネーク達を見送る。
懐かしい若き日の