メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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猜疑心…

 二対の人形―――エルジーとフランシスはカタカタとハイジャックした機内を闊歩し、楽しそうで嘲笑うようにケタケタと嗤っていた。

 まだ時間は来ていないとはいえ、本気が足りないとやる気を出させる状況を作ろうと動いていた。

 発破を掛けるというやつだ。

 …文字通り爆破するという訳ではないけどね。

 

 「全部私達のものになったのお姉ちゃん」

 「そうよ。今や私達の思うがままの空になったわ」

 

 楽し気に笑い合うもそれは二対の人形にとってであって、他の人にとっては悪夢でしかなかった。

 なにせ人形たちが言っているのは空―――合衆国上空を飛行する飛行機を全て自分達の支配下に置いた事。

 もう一機の飛行機をハイジャックした事件から規模は大いに高まっていた。

 気分次第でどうする事も出来るという訳だ…。

 

 「お姉ちゃんが怒ったら大変ね」

 「大変なのよ…ってエルジー、ちゃんと言いつけ通りしたの?」

 

 フランシスの問いに元気いっぱいに頷いた。

 その動作は可愛いものであるが、漂う雰囲気と周りの状況から許容できる人と言うのは少数であろう。

 

 「勿論よ。ちゃんと“5”って刻んだよ」

 「良くやったわね」

 「えへへ…あ、けどその時に隣の女の人が叫んで、エルジーもビックリして…」

 「びっくりして?」

 「殺しちゃった」

 

 まるで悪びれる様子のないエルジーにフランシスは軽く頭を抱える。

 とは言っても叱る気はない。

 なによりこの事を伝えてもっと頑張ってもらう事にしよう。

 早く裸の“ピュタゴラス”が必要なのだから…。

 

 ハイジャックされた飛行機は空を行く。

 人形二体が支配する機内に爆弾を探す一人の少女を乗せたまま…。

 

 

 

 

 

 

 フレミングの下へと急ぐ三人であったが道のりは険しい。

 警戒態勢が上がっているだけではなく、施設内のシステム的にも問題が発生したのだ。

 倉庫を抜けた先はしっかりとしたセキュリティが駆けられている。

 それもハンスとして認証されたスネークだけではどうしようもないシステムが組まれていた。

 というのも至るところに設けられた端末を操作する事で。別の部屋の扉を開ける事が出来る。しかし端末から離れると解除されて、また扉は閉じてロックされる仕組み。

 最低でも二人以上必要だというのにゲリーはどうやって先へと進んだというのか。

 疑問は残るけどもそれを考えている暇はない。

 ハイジャック犯の要求時刻にもゲリーがフレミングに暗号を解かせたら殺すと示唆した事で時間がない。

 加えてメタルギアの存在が明らかになったのなら尚更。

 

 ロジャーの方にも一応可能性としてメタルギアの情報はあったらしい。

 とは言っても本当にあってないような僅かな可能性。

 それでも物が物だけに上層部は調べていたようだが、確証を得るには至らなかった。

 小型の武器なら兎も角核搭載二足歩行戦車などというデカブツ。

 情報が無いならまだしも調べようとして調べれないなんて事はある筈がないのだ。

 それも合衆国の諜報機関が動いてなら余計に…。

 これらを鑑みてBEAGLE(ビーグル)には相当なバックが付いているとロジャーは推測している。

 

 なんだか当初より徐々に話が難しい方向へと転がり落ちて行く。

 そしてなにより新たな問題まで浮上してしまった。

 スネークの体調が優れないのだ。

 決して熱っぽいとか身体が怠いとかではなく頭痛と幻聴…。

 

 (ハンス…ハンス…起きてハンス・ディヴィス。目覚めるのよ…)

 

 違う。

 俺はハンスなどではない。

 全くもって知らない名前の…筈なのだが…。

 

 疑問を抱きながら複数人いるアドバンテージを活かして端末を操作して行き、突破した三名は施設内のダクト前に辿り着く。

 さすがにダクトに三人纏まって行く訳にもいかず、警戒の為に二人を残してスネークだけが先攻する事に。

 警戒しながら目的地へと進み、ダクトより室内へ視線を配ればロングコートの人物が背中を向けて立っていた。

 誰かは判別がつかないがアレがテリコが言っていたフレミング博士だろう。

 ダクトに繋がる梯子を下りて、周囲を警戒してからフレミングに声をかける。

 

 「フレミングだな?」

 

 助けに来たとでも言おうかと思ったのだが、それは先に遮られてしまった。

 それも聞き覚えのある声で…。

 

 「おかえりなさい―――ハンスさん」

 「なんだと!?お前は…ゲリー!」 

 

 ハンスと呼んだこともだけどここにゲリーが居るという事はフレミングはすでにもう…。

 最悪の予想を察してゲリーは微笑ながら頭を左右に振って否定する。

 

 「違います。えぇ、違いますよハンス。私が“フレミング”ですよ―――まだ思い出せませんか(・・・・・・・・・・)?」

 

 衝撃的な発言と同時に頭痛に襲われる。

 これまでの軽いものとは全く異なり、あまりの痛みに頭を抱えたまま膝をついてしまう。

 視界が揺らぎ、ある光景が浮かび上がる。

 白基準の簡素な室内で子供達が殺し合いを行っている。

 俺は…フレミングと共に窓越しにその光景を淡々と眺めていた。

 二人して興味深そうに観察しながら、どの子が生き残るなどと賭けを口にする。

 悍ましい記憶(・・)………違う。俺にこんな記憶は…。

 

 「俺が…ハンス?俺がフレミングに命じてネオテニー(・・・・・)を…」

 

 違う、違う、違う、違う!

 痛み頭に混乱している脳に喝を入れて振るい、ゲリーを睨みつける。

 

 「お前は一体…なんだ!?」

 「私はウィリアム・フレミング。そして貴方はハンス・ディヴィス。BEAGLE(ビーグル)の幹部でこの研究所の所長。そして二人でACUA(アキュア)を創ったではありませんか」

 「本当に何を言って…」

 「安心してください。先ほどはロジャー達の手前芝居をしましたが、今は妨害電波で遮ってあります」

 

 本当にこいつは何を言っているのだと否定したくても頭痛と覚えのない記憶が過って自信が薄れる。

 無論否定はするがな。

 そんな様子にゲリー…フレミングは難しい顔をする。

 

 「本当に記憶を無くしているのですか?無くしている振りをしているのではなく…」

 

 考え込んだ彼は語り始めた。

 BEAGLE(ビーグル)とは世界有数の財閥系企業の複合企業で途上国の発展の援助を目的に活動…などという名目で財界の利権を回す巨大軍需メーカーである事。

 そして今回我々は新兵器の開発を行う事が出来た。

 既存の兵器の常識を逸脱した巨大兵器且つ核弾頭を装備した戦略も戦術も欲しいままにするメタルギア…。

 

 「それにしても何故失踪を?」

 「俺は…ハンスじゃあない…」

 「いえ、貴方は間違いなくハンスです。ネオテニーと口にしたのが証拠ですよ。幹部連中は奴を“心の操縦者”や“傀儡師”と呼ぶ。“ネオテニー”を知るのは私を除けばハンスさん…貴方のみなのですから。本当に何も覚えていないようですか?」

 「…大勢の子供達が殺し合いを…」

 「あぁ、“蟲毒の儀式”ですね。もうすぐ思い出しますよ。なんにしても賭けが私の負けです」

 「賭け…だと?」

 「孤独の儀式の際に私と貴方は賭けをした。私はNo.104に賭けましたが貴方はNo.16。そしてNo.16は見事我々が想像した能力を宿してネオテニーへ。“名を識る者”がACUA(アキュア)を投与されれば全てNo.16の支配下に―――」

 

 そこまで話したところでフレミングは周囲を確認して小声で話しかけ始めた。

 

 「ハンスさん。私は今娘を…コンスタンスを人質に取られて奴に脅迫されています。そしてNo.16は貴方にも恨みを向けております。ハイジャックも奴の…時折連絡をしてくるのですがどうやら死者に刻んだ数字は貴方へのメッセージ」

 「俺へのメッセージだと…どういうことだ?」

 「大丈夫です。貴方はロジャーの作戦の妨害を。私がその間に何とかしますので―――ッ!?」

 「スネーク!」

 

 纏まらない思考と頭痛に悩まされていたスネークは我に返った。

 甲高いテリコの叫び声と共に放たれた弾丸がフレミングを掠めた。

 衝撃でよろめいてコート内から記憶媒体を落とす。

 

 「“ピュタゴラス”のデータが……貴様は奴らが…くそっ!」

 

 拾おうとするもフレミングはダクトより銃口を構えているテリコを見て急いで逃げ出した。

 落とした記憶媒体を拾うとダクトよりテリコを先頭にバットまでも降りてきた。

 

 「大丈夫なのスネーク?」

 「俺は…な。奴が!ゲリーがフレミングだった!」

 「ダクト内にまで聞こえてきたわ。ねぇ?」

 

 同意を求められたバットはコクリと頷いた。

 その表情は戸惑い…などは一切見られなかった。

 逆にテリコの視線は話しの内容が内容なだけに疑わしいと語りながら、俺が手にしていた記録媒体に向いていた。

 

 「それは何?」

 「奴は“ピュタゴラス”のデータと言っていた事からメタルギアのものだろうな。暗号化されていたら中身を視れるかどうかはわからんがな」

 「貴方が解除すれば良いじゃない。貴方がハンスなんでしょ?」

 「違う!俺は…」

 「じゃあさっきの話は何?蟲毒の儀式とかネオテニーとか…」

 「騙されるな!アレはフレミングが…」

 「騙されるな?誰に?貴方に?」 

 「このっ…」

 「うるせぇよ!」

 

 言い合いが始まった事にバットが苛立ち大声を上げた。

 そしてその両手には銃が握られており、それはどちらにも向けられていた。

 

 「ごちゃごちゃと…ここは敵地だ。スネークがハンスだろうとかどうでも良い。俺達はメタルギアの情報を手にしただけ。それで任務は終わりじゃないんだ。良く解からんけどスネークは落ち着け。テリコは疑わしいスネークを殺すなり縛る成りすれば満足なのか?それで任務は達成できるのか?」

 「じゃあ貴方はハンスかも知れないスネークを信用できるの?」

 「知らん。ただ任務を熟す気があるならハンスと認識されているスネークは必要だ。なら一緒に行くしかない。疑う貴女がスネークの後ろを歩いてね」

 

 冷たいように聞こえるが正しい判断だとスネークは思った。

 セキュリティを考えればハンスと認識される俺は必要だし、フレミングから接触があるかも知れない。

 そして信用出来ないならスネークを後ろから撃てばいいと牽制と監視役をテリコに委ねた。

 沈黙するテリコは理解はしたのだろう。

 ただ妥協点として“ピュタゴラス”の記憶媒体を預かると言い出し、テリコ側に立ってみると疑わしい者に預けられる筈も無い。

 渡す代わりにテリコはバットにセキュリティレベル2を解除するカードキーを渡される。

 

 「…私は貴方を信じたい。だって貴方は私の英雄だもの」

 「……助かる…」

 「なんにしてもここから脱出しますよ」

 「バットもすまんな」

 「良いですよ―――なんて言わないからな。こんな面倒な仲裁二度としない」

 

 子供に怒鳴られるとは思いもしなかった。

 そこにロジャーとの通信が回復。

 テリコもバットも先の事を口にせず、新たな指示を受ける。

 周囲を大勢の敵兵に囲まれているだけでなく、待ち伏せしているとアリスの透視からの情報。

 ここは倉庫に戻るしかないらしい。

 

 可笑しな話だ。

 囲んで伏兵も用意しておきながら完全な包囲には至っていない。

 確実に罠だろうな。

 そう思いながらも進むしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 現場でそのような動きを見せる中、ロジャーが控える指令室に珍客が訪れた。

 ノックと入室の許可を取った彼―――チャールズ・シュマイザー。

 ロジャーの部下であり、個人的にもBEAGLE(ビーグル)を追っていた捜査官である。

 

 「大佐、ご報告とお聞きしたい事があります」

 

 チャールズの不穏な空気を感じ取ってロジャーは勿論アリスも眉を潜める。

 …ゴーストは仮面で見えはしないが、雰囲気から警戒している様子はない。 

 寧ろ初見である筈のチャールズからのアクションが全くもって見られない事にアリスは怪訝な顔をした。

 

 「なにかな?改まって」

 「まずはご報告から。ハイジャック犯が残した数字ですが、アルファベットの順序を現しているものだったようです」

 「やっぱり(・・・・)そうなのね」

 「…君はアリス・ヘイゼルか。なるほど。気付いたのだね」

 「私もただただ食べていた―――コホン、暇を潰していた訳ではないもの。初めに14と1。次に11と新たに刻まれた5。次は19と思われます」

 「どういう事だ?なぜ次の数字が…」

 「先程の数字をアルファベットの順序通りにすると“N”、“A”、“K”、“E”…そして19は“S”。これらのアルファベットを並び替えると?」 

 「―――ッ、スネーク(SNAKE)か」

 「暗号…にしては幼稚すぎるわ。何かを伝えるのが目的と考えるの何者からのスネークへのメッセージ」

 「本部はスネークに恨みを持つ者の犯行と断定しました…」

 

 怪訝な表情を示したリチャードの視線が刺すようにロジャーを貫く。

 何かしらの嫌疑を掛けられている事は理解した。

 同時にそれが何を示しているのかも。

 答えれるものなら良かったのだが…。

 

 「ここで疑問が浮かぶのです。何故ハイジャック犯が望むように本作戦にスネークが起用されたのか?」

 「…なにが言いたい?」

 「大佐。ロジャー大佐。何故本作戦への志願を?十年以上指揮を執らなかった貴方が…」

 

 問いに対してロジャーは口を閉ざした。

 答えられるものではない。

 己としても決して口に出す訳にはいかない…。

 沈黙に余計に眉を潜めながらチャールズは続ける。

 

 「次にこの作戦の人選は指揮官になった大佐に委ねられました。何故現職の軍人ではなくソリッド・スネークを起用したのです?または起用するように推したのは誰です?」

 

 またも沈黙で返す。

 答える気がない。または答える訳にはいかないのかチャールズは小さくため息を漏らす。

 

 「現在その推した者(・・・・)をハイジャック犯、または共犯者・協力者の可能性が高い。大佐、答えて頂けますか?」

 「――断る…」

 「私は子供の使いではありません。上に報告する義務がある。そもそもスネークが大佐の知るスネークでなかったら」

 「別人だとでもいうのか?しかしバットの証言も…」

 「そのバットは誰が本物と保証するのです。それに正気を失えば本人でも別人になり得ます」

 「人の心なんて脆いもの。まして何度も戦場で極限状態を味わった彼ならば」

 「しかしスネークの起用は――ッ…」

 「起用は?」

 

 口を滑らすかもと期待したチャールズだが、ロジャーは咄嗟に口を閉ざした。

 疑いはあれど証拠が無ければ強行にでないらしい。

 ため息を零してチャールズは険しい顔つきで睨む。

 

 「良いですか大佐。今後スネーク、またはバットの言動に奇異な点があればご報告を。虚偽の報告はしない方が良いかと伝えておきます。本部の眼は近くに居ますので」

 

 そう言われてロジャーもアリスもゴーストに視線を向ける。

 肯定は勿論否定すらしなかった。

 

 「私もBEAGLE(ビーグル)を追う為にロビト理化学研究所を調べて来ました。何度も何度も上に握りつぶされましたが今回の好機を逃す気はありませんよ。こちらは私とタブ(・・)で色々と動きますので…失礼」

 

 チャールズは背を向けて退室していった。

 現場のみならず指令室内でも疑いの芽が生えるのであった…。

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