メタルギアの世界に一匹の蝙蝠がINしました   作:チェリオ

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 投稿が遅れに遅れて申し訳ありません。
 ゴールデンウイーク初めより体調を崩してしまい、今まで回復やら次話の打ち込みなどで遅れてしまいました。


蝶は舞う

 敵地と化している研究所に潜入したスネーク達はいつ敵と交戦してもおかしくない状況に身を置いている。

 ゆえに回避不可能な状況に陥って銃撃戦も止む無しと言う事もあるだろう。

 だが、この銃撃戦は常識的に考えて逸脱し過ぎていた。

 たった一発の銃声にしては大きく、弾丸が直撃した破砕音はけたたましい。

 コンテナに弾痕どころか易々と大きく吹き飛ばし、そのコンテナに身を隠していたバットは素早く移動を開始する。

 

 ゲリーがフレミングだと知ったスネーク達は、アリスの透視で周囲が敵兵によって封鎖されていた為に倉庫まで戻った。

 周囲を抑えて置いて一か所だけ逃げ道を用意してくれた…なんて親切な訳もなく、倉庫にて待ち構えていたのは研究所を制圧したレオーネ本人。

 唯一の脱出路を断たれた事で強行突破を図っている訳であるのだが、三対一と言う数的有利な状況でありながらも未だに圧し切れずに攻めあぐねていた

 

 「隠れてばかりだな。それでもビッグボスを倒した英雄か?」

 「うるせぇよ!本来蝙蝠は暗がりに潜んでんだよ!テメェこそ吠えるだけの木偶の棒じゃあねぇか!!」

 「弱い犬程よく吠えるというが本当だな」

 「言ってろデカブツ。そうやって調子に乗って蛇の尾でも踏んでくれ!手痛く噛まれるだろうからな!!」

 

 怒声交じりに言い合うが、これは考え無しに行っている訳では決してない。

 声を発している間はそこから位置を知る事が出来る。

 コンテナなどで視界が大きく遮られている倉庫内と言えど、それほど広大な建物と言う筈もなく、声で大体の場所を把握するのは容易い。

 逆に言い合いをしているバットの位置もレオーネに知られることになるが…。

 

 凡そ把握したレオーネは発生源たるバットが潜んでいたコンテナに銃口を定め、轟音と共に装甲車にもダメージを負わせる炸裂弾が放たれる。

 囮役(・・)のバットはトリガーに指が掛かった音から察して移動したために、隠れていたコンテナが吹き飛ぶだけで負傷する事は無かった。

 レオーネが持っているのは反動の大きな対戦車ライフル“シモノフ”。

 反動に重量もあって拳銃のように小回りは利かず、早々連射する事など不可能。

 その隙を突いて別方向に潜んでいたスネークが飛び出し銃弾を浴びせる。

 連射した弾丸がレオーネに着弾するも忌々しそうに睨むだけで血飛沫はあがらない。

 

 「頑丈にもほどがあるだろうに!」

 

 吐き捨てながらスネークは再び身を隠しながら、即座にその場を移動する。

 コートを含んだ制服の下に何を仕込んでいるのかは定かではないが、銃弾を受け止める程度の防弾装甲を有しているようだ。

 銃撃の衝撃と痛みを耐えたレオーネは今度は銃口をスネークへと向けて発砲。

 

 アサルトライフルの銃弾を防ぐだけの防御力を持ち、片手で対戦車ライフルを振り回す…。

 それは最早人と定義して良いものなのか。

 アウターヘブンやザンジバーランドにも戦闘のエキスパートは居たが、こいつはクワイエットやグレイ・フォックスほどではないが異常な部類の一人だろう。

 

 「あれで左腕があったのならシモノフ二丁抱えて出て来たんだろうか…」

 「勘弁してくれ。今でさえ苦戦を強いられているのに」

 

 ついついぼやいてしまうバットとスネーク。

 向こうは一発当てれば即死させれる攻撃が通常で、こちらは向こうの防御力を削り取らなければならない。

 まるでゲーム(・・・)だ。

 互いに苦笑いを浮かべている中で、レオーネの声が響き渡る。

 

 「聞こえるか犬共。これが最後通告だ。手を引くというのであればお前達を無事に外まで案内してやろう。しかし拒むなら排斥するほかないが…どうする?」

 

 戦闘に入る直前に僅かながらレオーネと言葉を交わした。

 奴がレオーネと名乗る以前はジェフ・ジョーンズとして合衆国の為に働いていた事。

 部下を含めて合衆国に対して強い恨みを抱いている事。

 そしてBEAGLE(ビーグル)に対しても貶められ、誇りを踏み躙られたとして憎しみを募らせている事。

 レオーネはその復讐を果たす為にピュタゴラス―――メタルギアを欲している。

 

 『聞こえる?BRCの北西に非常口を視たの』

 「…了解した。レオーネ、お前の提案は飲めない」

 「そうか。ならば仕方ない。ピュタゴラスもフレミングも分け合う事は出来ない。となれば貴様たちは俺の復讐の邪魔だ!」

 「こっちからしたらアンタは仕事の邪魔だけどな!テリコ!!」

 

 最後にバットが叫ぶと隠れて待機していたテリコがスモークグレネードを放り投げる。

 テリコもスネーク同様に攻撃役に徹していたが、こちらの攻撃は元々時間稼ぎ。

 アリスが透視にて脱出経路を見つけるまでのもので、倒せるのなら倒そうという程度。

 経路が見つかった以上ここに留まる理由はない。

 最悪敵の兵士まで殺到して今度は数で押し潰されかねない。

 

 撤退時用にスネークとテリコはバットよりスモークグレネードを渡されており、無線にて退路が知れたのでそれを放り投げたのだ。

 自分に向かって飛んで来る手榴弾に気を取られたレオーネ。

 その隙にバットは跳び出して狙いを付けた。

 放たれた弾丸はレオーネの頭上に差し掛かったスモークグレネードを撃ち抜き、レオーネの周辺を煙幕で覆い隠した。

 急ぎ踵を返してアリスの指示通りに非常口へと向かう。

 

 『大丈夫か?』

 「あぁ、何とか抜けられたが…出るまでは気は抜けられないな」

 『そうか…』

 

 無線越しであるもロジャーの言葉に覇気がない。

 寧ろどこか不安を抱えているようだ。

 重い雰囲気に気付きながら、それ以上に苛立つバットにスネークもテリコの方が重要だった。

 フレミングの会話によりスネークがハンスではないかという疑惑が生まれ、ぎくしゃくした二人の間を仲介したバットは、こんなことさせるなよと言った様子であり、今もあの時に近い空気が流れたことに苛立ったのだろう。

 

 「言いたい事があるなら言いなよ。訳は知らんが作戦行動中にそんな空気撒かれたら支障が出る」

 『す、すまん…実はハイジャック犯はどうもスネークに遺恨があるようなのだ…』

 

 その言葉に対して思い当たる節はある。

 何かあるとすれば一番に疑わしく思うのはハンスの一件であろう。

 だが、それを話したところで疑惑は深まるばかり。

 テリコも伝える気はないようで口を噤んだ。

 

 『私は君の事を信じている。いや、信じたい。だが、もし思い当たる節があるなら教えてほしい』

 「思い当たる節は…ない…」

 『……解った。なんにしても今はそこからの脱出に集中しよう』

 

 ロジャーも追及はしなかった。

 それこそがこの場でこれ以上波風を立てないやり方だと理解しているから…。

 しかしスネークの顔は冴えない。

 先頭を進んで周囲の安全を確保するバットはちらりと振り返る。

 視線が合ったところで何処か不安げなスネークが小さく口を開いた。

 

 「バット。お前はアリスの超能力を疑わなかったな」

 「実例を知ってますからね」

 「なら俺より詳しい…か」

 「別に超能力の専門家ではないよ―――でも聞くだけなら聞きますよ」

 

 仕方ないと言わんばかりに苦笑するバットにスネークも苦笑いを浮かべる。

 二人のやり取りにテリコは間に入らずに見守り、警備の敵兵の眼を掻い潜りながらスネークはぽつりと零す。

 

 「人に他人の記憶を植え付ける事は出来るか?」

 

 スネークは考えていた。

 自分に無い記憶が頭の中にある困惑。

 本当に自分がハンスなのかスネークなのかも疑心暗鬼になるほどの不安。

 あり得ないと否定しながらも自身に起こっている非現実的な事態に弱っている。

 だからあり得ないと思っているような事を口走った。

 

 「相手を透視する能力もあるんだ。他人の経験を刷り込ませたり出来たり…」

 「いや、無理だと思うよそんなん」

 

 一蹴であった。

 確かにスネークはそんな事ないよと否定して欲しかった。

 だけれども明らかに「なに言ってんのアンタ?」と言わんばかりに怪訝な顔をされるとは思ってはいなかった。

 …逆の立場だったら同じことをしていたとは思うけど、するのとされるのとでは大きく異なる。

 

 「疑似体験する事は出来るだろうよ。俺の知り合いに暗示とか得意な人はいるけどそう思い込ませる(・・・・・・・・)事は出来ても、そうであったとすること(・・・・・・・・・・・)は難しいってさ」

 「そう…なのか」

 「というかそんな便利な力があったとしてスネークに植え付ける必要があんの?」

 

 言われてみればその通りだ。

 不安と困惑に駆られて自分らしくない事を口にしてしまったなと大きなため息を漏らす。

 

 「助かる…が、相変わらず口が悪いな」

 「包み込む様な優しい言葉をかけて欲しいんだったら相手を間違えたね。そういうのは彼女さんかカウンセラーにどうぞ」

 「本当に容赦ないな――おかげで確認が取れたよ」

 

 ザンジバーランド…否、アウターヘブンから変わらぬ口の悪さ。

 不確かな記憶より戦友との記憶を信じよう。

 意識を切り替えたスネークはバットの背を眺めるようにではなく、横に並んで指示された非常口へ急ぐ。

 

 急ぎ出た先は施設内というよりは自然が多い場所であった。

 先には小さな小屋と大きな橋ぐらいの人工物で、他は広がる草むらに木々ばかり。

 橋と言ってもただの吊り橋ではなく跳ね橋。

 それも透視したアリスによると一様式の跳開橋だというらしい。

 

 アリスは西側に異様な気配を感じたと口にしたが、今のところ用があるのは北なのでそのまま橋を渡る事に。

 橋に向かう途中、サイファーという無人のドローンが警備していたが、そこはある程度近づいた所でバットの拳銃での狙撃か、チャフグレネードで掻い潜った。

 

 「私がポイントマンになるわ」

 「それなら俺が…」

 「脱出の際は頼り切りだったから私にさせて」

 「…そうだな。先導だけでなく俺の面倒も見てもらったからな。少し休めバット」

 

 テリコが警戒しながら先へと進み、その後をスネークとバットがついて行く。

 跳ね橋は結構長い距離があり、ようやく中間辺りに差し掛かったところでテリコが不意に振り返った。

 バットもスネークもその視線の先が自分達ではなく後ろを捉えている事を察して振り返る。

 

 かちゃりと音がするまでは…。

 

 「横ッ跳べスネーク!」

 「――ッ!?」

 

 言われるがままのその場を飛び退いたスネークの側を銃弾が通り過ぎて行った。

 振り返れば銃口を向けたまま走り去っていくテリコの姿が…。

 バットも急ぎ銃口を向けるも早撃ちは得意ではない。

 先にテリコがそのまま銃撃を行い、横に避けようと動きながらトリガーを引いた。

 精密射撃に成らなかったことで頭を狙った(・・・・・)弾丸は頬を掠る。

 しかし皮膚らしきナニカを裂く程度で血は流れなかった。

 

 「はぁ!?被りもんか何かか!立てるかスネーク?」

 「立てるが…しまった!跳ね橋が…」

 

 走り抜けたテリコが橋を渡り切ると先の跳ね橋が上がり切ってしまった。

 これでは渡る事は叶わない。

 やられたと苦虫を嚙み潰したような顔をしていると無線機よりテリコ…否、テリコを語る何者かの声が届く。

 

 『あはははは。ごめんねスネーク。上手く行き過ぎて笑いを堪えるの大変だったわ。そしてバット。悲しいわ、仲間だと思っていたのに足や肩ではなく顔を狙うんだもの』

 「笑いながら悲しいとか言うな」

 「テリコ…いや、お前は誰だ?」

 『言ったじゃない。私はアゲハチョウだって』

 

 それだけ言うとブツリと切られた。

 この時バットは狙撃銃を持ってくるんだったと激しく後悔した。

 入れ替わるようにロジャーが無線を入れてきた。

 

 『大丈夫かスネーク、バット!』

 「あぁ、俺達は大丈夫だが橋が揚げられた上に“ピュタゴラス”のデータは奴が…」

 『クソッ!どういうことだ?どういう事なんだこれは!!』

 『ロジャー冷静に』

 『初めからテリコではなかったのか?クソッ!クソッ!!奴からディスクを取り戻すんだ!!』

 『落ち着いて。近くに吊り橋を動かす操作室がある筈よ』

 「近くにあるならあの小屋か―――ッ、やられた!!」

 

 思い当たるのは橋を渡る前に見た小屋であったが、振り返った矢先に小屋が爆発した。

 こちらの行動はお見通しだった訳だ。 

 爆音と跳ね橋が上がっている事から敵が殺到してくる事だろう。

 

 「背水の陣だなこりゃあ…くそったれが!!」

 「とりあえず戻るぞ!」

 

 橋の上では遮蔽物がない。

 急ぎ来た道を戻りながらバットはふと思い出す。

 確かクソ親父も“モルフォ蝶”とかいう蝶を捕まえるのに苦労したとか言ってたか…。

 

 「どうも親子揃って昆虫採集は向いてないらしい…」

 「不向きを言っていても仕方ないだろ。なんにしてもあの蝶は何としても捕まえるぞ!」

 「おうさ!」

 

 走りながら遠目ながら兵士が集まってきているのを見て、銃を構えながら何とか突破を図るのであった。

 

 

 

 

 

 

 テリコが偽物だった事に困惑を隠せないロジャー。

 いつもの冷静さを失うばかりか声を荒げている事に対してアリスは落ち付く様にと声をかける。

 作戦行動中にパニックを起こして良い結果が得られる筈はない。

 それもハプニングがあって状況が悪化しているなら尚更だ。

 大荒れのロジャーに落ち付く様に声をかけ続けながら、内心で大きなため息を零す。

 

 こういう事は自分の仕事ではないというのに…。

 寧ろゴーストの方が適任ではないだろうか。

 ちらりと視線を向けるもゴーストは部屋の片隅で腕を組んだまま、こちらを見つめるばかりで一向に近寄る気配がない。

 逆に近づきたくないように距離を取っているようにも伺える。

 

 そのゴーストは袖下に隠してあるスイッチを押し、仕込まれた骨伝導式の無線機を起動させていた。

 

 『状況は?』

 「メタルギアの存在を確認。だけど経路は不明」

 『こちらでも手を回す。対象から目を離すなよ』

 「了解…」

 『データを入手出来れば一番良いんだが…』

 「難しいな。今は蛇&蝙蝠に獅子、新たに蝶々が加わって取り合いしてる」

 『蝶々か。揃いも揃って蝶には苦労するようだな』

 「もしかして知り合いではないよな?」

 『我々は今回の件(・・・・)には関与してはいない』

 「…また何かあったら連絡を入れる」

 

 アリスやロジャーに聞こえないように小声で呟き。

 報告を終えたゴーストは周波数を変えて今度は別の相手にかけ始める。

 

 『どうした?何か動きがあったのか?』

 「確証はないが…何かは(・・・)あったらしい」

 『どういうことだ?』

 「ちょっと怪しいってだけ。それとこちらでも…」

 『監視を続けろ。私はロジャーも疑っている』

 「勿論です。元々そういう仕事ですし」

 『頼んだぞ。タブ(・・)

 

 厄介な仕事を引き受けたものだとため息を零し、チクリチクリと刺さるアリスの視線を受けながらゴーストは再び無線を切る。

 あんたが相手をしなさいよと言わんばかりの視線に苦笑した。

 確かに自分の役目のような気がするが、こちらもこちらで仕事がある。

 …ただそれにだけ集中する事無く、最大限の警戒を警戒をしたままいつでも銃を抜けるようにはしておく(・・・・・・・・・・・・・)

 

 「“ピュタゴラス”の争奪戦か。さて、どうなる事やら…」

 

 クスリと微笑みながらゴーストはほくそ笑む。

 そこへアリスが睨みながらゆっくりと近づいてくる。

 

 「…良いご身分ね。一人特等席からの見物かしら?」

 

 明らかにご機嫌斜めである。

 さて、こういうときってどうすれば良いのか?

 娘が居たのならまだ考え付いたかも知れないのだけど…。

 

 「えっとぉ…お菓子でも食べるかい?」

 「そう、私ってお菓子で簡単に釣れると思われているのね」

 

 地雷を踏み抜いてしまったらしい。

 うん、どうやって弁解すべきだろうか…。

 ゴーストは命は掛かっていないとはいえ、目の前の難局を前に冷や汗を垂れ流すのであった…。

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