『amazarashi』さんの『空に歌えば』……爽快感があるいい曲だと思います。
それでは本編どうぞ(`・ω・´)
「いやぁ~、お疲れ様!! 初戦から、中々白熱した戦いだったな!!」
HAHA! と腰に手を当てて高らかに笑うオールマイト。
初戦が終了した後、屋内対人戦闘訓練を行っていた三人はここに集合させられた。残り一人は誰かと言えば、指と足の骨をバッキバキに折った緑谷である。
訓練を終えた直後、早急に治療が必要と小型搬送用ロボ『ハンソーロボ』に運ばれていったのだ。
残る三人はと言うと、一人はサンタが蓄える髭に見えるほどティッシュを顔面に押し付け、一人は憮然と俯き、一人は放心状態で床と睨みあっている。
ある意味死屍累々の状況下、オールマイトは何とも言えない笑みを浮かべつつ、場の雰囲気を盛り上げる為に、声を張り上げた。
「それじゃあ、講評といこう!! それじゃあ、今戦のベストはどっちか分かる人居るかな!?」
「ハイ、オールマイト先生」
風を切る音が鳴り響くほどの挙手で、生徒に発言を催促したオールマイト。
それにすかさず反応を見せたのは、大胆に腹部や胸元を露出する、黒髪ポニーテールの美少女―――八百万百であった。
「強いて言えばですが、波動さんですわ。轟さんが氷結を繰り出すのを見越して、外に確保テープを待機させておいたことは評価すべき点。ですが―――あ、もう一箱要ります? ……このように、自己犠牲精神で多量の失血を犯してしまうのは頂けません。これがもし本番でしたら、核の確保後の行動も想定しなければいけませんから、多量出血で動けなくなったら本末転倒ですわ」
“個性”で熾念にティッシュ一箱を創り上げて差し出す八百万。
八百万百:個性『創造』
生物以外を、体に蓄えた脂質で創りあげることができる“個性”だ! とても万能な“個性”だが、大きな物を創り出すにはそれなりの時間が必要になるぞ!
因みに、先程までも熾念が使っていたのは、八百万が見かねて創ってくれたティッシュだ。
「そして緑谷さん。無線で逐一コンビの方と連絡をとっている点は評価対象ですが、最後のタックルで足を折るのは愚策。幾ら時間を稼ぐ為とは言え、自ら移動手段を失うのは頂けない判断ですわ」
そして爆豪の行動は、戦闘を見る限り私怨丸出しの独断。
彼とコンビの轟については、爆豪の独断を見て遊撃兵と割り切り、防衛に回った点は評価できるものの、自身の“個性”が強大である故の慢心が見られた点。捕縛された後、すぐに爆豪へ救援を求めなかった点が減点対象だと述べる。
「ついでに申し上げる点があるとするならば、ヒーローチームは轟さんの“個性”を危険視しての速攻・挟撃であった訳ですが、それならばまず波動さんの“個性”で轟さんを核兵器近くから引き剥がすべきでした。体力テストや今の訓練を見た限り、“個性”で動かせる物体にそれほど制限がないように窺えましたので」
そこまで八百万が述べれば、モニタールームに居る面々は黙り込み、シンとした得も言えぬ空気が流れる。オールマイトも例外ではなく、『思ってたより言われた』と言わんばかりにプルプルと震えた後に、サムズアップで八百万の講評を正解だと述べた。
だが、当の本人はと言えば、当然と言わんばかりの凛とした表情で、フンと息を吐く。
「常に下学上達! 一意専心に励まねば、トップヒーローになどなれませんので!」
「Hey、百ちゃん。冷えピタとか出せる?」
「冷えピタ? 冷却ジェルシートのことでしょうか? それなら、すぐに……」
「Thank you……」
熱を冷ます為に冷えピタを所望する熾念に、八百万は快く承諾し、腕から一枚創り上げて出して差し出す。
それを一区切りに、息を吐いたオールマイトは『それじゃあ、次いってみよう!』という、どこかで聞いたことがあるようなフレーズを口にし、第二試合の準備へと取りかかった。
第二試合は、葉隠&麗日ペアVS尾白&耳郎ペア。
敵チームは、“個性”の都合上、籠城戦を決め込もうとした。尾白が核兵器がある部屋の天井で待機。そして耳郎が“個性”でヒーローチームの足音を索敵してタイミングを見測り、その後は核兵器の防衛に徹するというような作戦だ。
だが、部屋に入ってきた麗日は即座に捕まえられたものの、麗日の“個性”で浮いていた透明人間・葉隠の存在に気付けず、核兵器への接触を許してしまい、ヒーローチームの勝利となった。
流石は透明人間。全裸になれば、居場所が分からないということだ。
因みにその際、峰田が葉隠について熱弁していたことにより、轟の氷結の如く凍てついた目で女子が彼のことを睨んでいたことを、ここに追記しておこう。
第三試合は、八百万&瀬呂ペアVS芦戸&峰田ペア。
この試合もまた、敵チームは籠城戦を挑んだ。峰田が頭のモギモギを部屋中にばら撒き、簡易トラップを作成したのだ。
しかし、ヒーローチームの八百万は部屋に発煙筒を投げ込んで視界を塞ぐことによる攪乱。さらに第一試合を踏襲するかのような、アクロバティックな動きで窓から侵入した瀬呂が、天井を伝うことによってモギモギを回避し、そのまま核兵器を触れて試合終了。
何も考えずにモギモギを設置したことが、奇襲で攪乱された時に動きを阻害する結果となってしまったのだ。
第四試合は、砂藤&常闇ペアVS飯田&障子ペア。
このペアの試合は中々熾烈なものであり、序盤こそ砂藤の怪力と常闇の“個性”が猛威を揮い、飯田と障子が苦戦を強いられる。
だが、突然砂藤の動きが鈍くなったことで形勢逆転。核兵器を抱えた飯田がそのまま常闇の猛追を振り切り、時間切れで敵チームの勝利となった。
最後の試合は、蛙吹&切島ペアVS上鳴&口田ペア。
これも接戦となった。最初に敵チームの上鳴がヒーローチームを迎え撃ち、切島が囮となることで蛙吹が核兵器の部屋へ。
すると、部屋には大量の鳥たちが待ち構えており、蛙吹はこれらの対処に追われた。
しかし、時間ギリギリとなったところで、上鳴の“個性”を危険視して一時撤退を装って核兵器部屋までやって来る。そこで帯電しながら追撃してきた上鳴が、部屋を蹂躙していた鳥たちを怯えさせてしまい、窓から大半の鳥が逃げてしまう。
その隙を突いて長い舌で核兵器を触れた蛙吹により、この試合はヒーローチームの勝利となる。
以上、初戦の緑谷以外は特に大きなケガもなく、初日の戦闘訓練は終わるのであった。
☮
「Huh? 鋭児郎と三奈ちゃんは同じ学校なのか?」
「うんうん! クラスは違かったけどね!」
「そうだな。はっきり話したのって、雄英に来てからじゃね?」
「へー! なあ、芦戸ってどんな食べ物好きなんだ? 今度飯食いに行かね?」
「君達! 折角こうして反省会を開いているのだから、真面目に議論を交わし合い、次につなげるような有意義なものにするべきだ!」
放課後、教室で和気藹々と喋る一部のA組の面々。
そこへ独特な手の動きを入れながら制止しようとするのは、純粋ハイパー真面目の飯田だ。
現在、皆で今日のヒーロー基礎学での戦闘訓練について反省会をしていた。お互いの“個性”はなんなのか、あの時はこうしていれば良かったのではないか、など、味方・敵・第三者と様々な視点から訓練を観た上での議論は、非常に有意義なものになりかけている。
だが、やはり彼等は高校生。上がっていく雰囲気に煽られ、ついつい話が脇道に逸れてしまい、そのまま逸れた道をズンズン進んでいってしまう。
「飯田ちゃん。まだ学校生活始まったばかりだから、こうして仲を深め合うのもいいと思うわ」
「ムッ!? それもそうか……互いに親交を深め合い、心を開く事によって多くの発言を促し、議論をより豊かなものとする! 成程、それも一理あるな! ありがとう、蛙吹くん!」
「梅雨ちゃんと呼んで。それに、そんなに深く考えた訳じゃないんだけれど……」
「そうなのかい? 兎も角ありがとう、梅雨ちゃんくん!」
「『くん』はいらないわ、飯田ちゃん」
蛙吹の言葉に、一人勝手に理論づけて納得する飯田。
表情には乏しいが、なんとなしに周囲の人々を窘め、宥めることができる辺り、蛙吹は包容力のある人物なのかもしれない。
他のA組の面々も交えながらの反省会……というより、談笑は次第に白熱していく。学校が始まって二日目ではあるが、元々積極性のある人間が集まる雄英ヒーロー科であることから、打ち解けあうにはそれほど時間は必要なかった。
例外として、轟は既に帰宅し、爆豪もつい先程教室を出て行ってしまったが―――。
その時、遠慮気味に開かれた扉から、指と足に包帯をグルグルと巻き、松葉づえで歩行する緑谷の姿が皆の目に入ってきた。
すると、席に着いていた者、立って話をしていた者問わず、一斉に彼の下へ駆け寄っていく。
「おお、緑谷来た!!! お疲れ!! 実技一位とよくやり合ったな!! あ、俺は切島鋭児郎!!」
「私、芦戸三奈! 凄かったよー、緑くん!!」
「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「俺、砂藤!」
「わわ……」
突然押し寄せるクラスメイトに戸惑う緑谷。彼は小中と虐められる側の人間として過ごして来ており、このように友好的に迫られる経験など皆無だったのだ。
故の戸惑いであったが、悪い感覚はしていないようであり、頬が思わず緩んで自然と笑みが零れている緑谷。
「Hey、出久!」
「あっ、波動くん。今日はお疲れさ――」
「ゴメンなっ!」
「へっ?」
徐に駆け寄ってきた熾念は、申し訳なさそうに顔を歪めて手を合わせ、首を垂れる。
そんな彼に訳も分からない緑谷は、只目を点にして茫然とするだけだ。
一方熾念は、ゆっくりと面を上げながら、視線を緑谷の足へ向けて話を続ける。
「そのケガ、俺が『時間を稼いでくれ』って言ったからしたケガだろ? 俺がもうちょい上手くやってれば……」
「そ、そんなことで謝らなくて大丈夫だよ! あの時はお互いに最善だと思った作戦で臨んだんだ!
慣れてない作り笑いを浮かべる。
あくまでも熾念が緑谷に頼んだのは『爆豪の足止めによる時間稼ぎ』。『怪我をしてでも食い止めろ』などは一言も言ってないというのが、緑谷の主張だ。
「出久ゥ……
「そ、そんなんじゃないよ。ははっ……!」
「明日、メシ奢るからな!」
「ありがとう……あ、そう言えばかっちゃんは?」
「勝己なら、ついさっき帰っちまったぜ? 皆で反省会やろうって誘ったんだけどなー……」
「っ! ゴメン、みんな! ちょっとかっちゃんの所行ってくる!」
感極まる熾念の礼を受けて、彷彿とした笑みを浮かべていた緑谷であったが、爆豪の所在を聞いた後は血相を変え、大慌てで教室を出て行った。
松葉づえをつきながら追いかけていく姿はとても危なげで、『手伝うか?』と誰かが声を掛けたものの、それを拒んで彼は駆けていく。
その後、廊下の窓から校門の方を見下ろせば、やけに小さい歩幅でトボトボ歩く爆豪に、松葉づえをつく緑谷が追いつき、何かを伝えたようだ。更には途中からオールマイトも全力疾走でやって来たが、それほど長い時間も話さない内に、爆豪がさっさと門を潜って帰宅してしまった。
上手いこと爆豪と話せなかったオールマイトは、得も言えぬ哀愁を背中に漂わせ、近くにいた緑谷の下へ歩み寄るが……。
「……なんだったのかしら?」
「あれは……もしや男の因縁!?」
「Wow」
顛末を眺めていた蛙吹は唇を指で押さえながら首を傾げ、麗日は熱い青春ドラマにありそうな要素を口にし、熾念はそれについて意外な感性だと反射的に声を上げる。
ただ、何かを彼等の関係を示唆するかのように、夕焼けの空は、炎のように真っ赤に澄み渡っていた。
☮
「お、熾念じゃん」
「Wow、一佳。同じ時間のに乗ってたのか」
反省会を経て帰路についた熾念は、自宅の最寄り駅から出たところで偶然一佳と鉢合わせた。表面では平静を装っているが、内心ではこのまま一緒に帰れるのではとワクテカしている。
自然な流れで、自販機の前に佇む一佳の隣に歩み寄る熾念。
彼女はどうやら、乗車カードにも使える電子マネーで飲み物を買うようだ。
「何買うんだ?」
「ブラックコーヒー」
「Hmmm……自販機で買うのって高上りじゃないのか?」
「ん~……そか。それもそうだなぁ」
熾念の言葉に暫し唸った一佳は、後ろ髪を引かれるような表情で買うのを断念した。200mlの缶コーヒーを百二十円で買うのは、流石に損をする。特に駅などでは、値段が割高に設定されているのだから尚更だ。
しかし、余程喉が渇いていたのは、名残惜しそうな顔を浮かべながら自販機から目を逸らす一佳に、『Ah……』と額に手を当てて唸った熾念は、彼女の方に手を置く。
「Hey! そんなにコーヒー飲みたいなら、そこのコンビニで奢ってやるよ!」
「え? いや、それは流石におまえに悪くないか?」
「Don`t worry。俺の買い物するついでだ。つ・い・で」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。おまえには家庭教師の貸しがある訳だし」
「そういうこった、HAHA」
熾念の提案に、悪戯な笑みを浮かべる一佳。
勿論、熾念に元々コンビニに立ち寄る予定などなかった。一重に、彼女がコーヒーを飲みたそうにしていた―――それに尽きる。
内心、貢いでいるみたいだと自嘲気味に口を吊り上げたまま近くのコンビニに足を踏み入れ、適当に手に取ったサイダーをカウンターに置く。その間、隣に並んで歩いていた一佳は店員に『アイスコーヒー、レギュラーで』と慣れた様子で注文した。
「カフェとかも行くのか? コーヒーが旨い所」
「カフェは行ってないなぁ。高校に入って行動範囲も広がったし、どっか行ってみたいなー」
互いに好きな飲み物を口に含みながら会話を交わす。
なんのことはない。他愛ない会話だ。
だが、このどうしようもない呑気な会話が、熾念の心を擽り、歯がゆい想いにさせてくれる。
「なあ」
「Huh?」
「熾念の好きな子のタイプってどんな子だ?」
「ッ!? え゛ほッ!!」
「おぉ!? 急に咽てどうしたんだよ……?」
「はぁ……はぁ……What`s up?」
突拍子もない質問に、思わず飲みかけのサイダーが逆流してしまった熾念は、何度も咽て真っ赤になった―――理由はそれだけではないが―――目が点になっている顔を一佳に向けた。
「いや、今日クラスの女子でそんな感じの話題になってさ。逆に男子的にはどうなんだ、って思って。 どうだ? もう気になる子とか見つけたのか?」
まるで揶揄うようにいじらしい笑みを浮かべながら問いを投げかけてくる。
―――素直に言うか?
―――Hey, Hey, Hey……いや、この流れはないだろ
―――適当に誤魔化すか? ……いや
「……居る」
「えッ!? マジかよ……因みにどんな感じの子?」
意外だったらしい返答に驚く一佳であったが、やはり年頃の女の子。他人の恋事情には興味が湧くらく、興味津々と言わんばかりに目を輝かせて身を寄せてくる。そんな彼女の姿は、どことなくねじれを彷彿とさせる。
だが、ここで易々と伝えるほど熾念は素直ではなく、度胸もなく、どうしようもなく格好つけたい男の子であった。
「今度体育祭あるだろ? それで一佳が俺よりリザルトよかったら教える」
「ほー」
「で、もし俺の方がリザルト良かったら、その子に告白するッ!」
「は? それ賭けになってんの……?」
賭け事をするような言い草の熾念であったが、内容を聞く限り、どちらにしろ熾念の気になる子は明らかになりそうな内容に、一佳は眉を顰める。前者は兎も角、後者は『人の口に戸口はられぬ』という諺がある通り、いずれ言伝に聞きそうな内容だ。
―――雄英体育祭。それは“個性”が発現し超常社会へと社会が遷移する以降、形骸化したスポーツの祭典であるオリンピックに成り代わるようにして開かれるようになった催しだ。
生中継で全国に自己アピールできる機会ということもあり、雄英生にとってはプロヒーローの注目を集める絶好の機会となるのだが、今はその説明を省こう。
「No problem! ま、俺の方がいい成績残すだろうけどなッ」
「ハ? おまえ私のこと舐めてんの?」
「Wow、怖い怖い」
「ハハ~ン……だったら、意地でも私の力でおまえの口から聞き出してみせるよ」
神経を逆撫でされたかのように目尻をピクピク痙攣させる一佳の眼光は、思わず冷や汗が流れるほどに凄まじいものであった。
彼女もトップヒーローを目指す雄英生の一人。そう考えれば、この気迫も納得できる……熾念も雄英生だが。
威圧感を放ちながら、残るコーヒーを一気に飲み干す一佳は、宣戦布告するように熾念の肩を小突いてから、さっさと早歩きで去って行ってしまった。
(Ah……言わなきゃ良かった)
後の祭りとはこのこと。
これは自然と、体育祭が終えるまで彼女と登下校するのを拒否されるパターンだ。熾念はそう直感した。
だが、早かれ遅かれ一度は想いを伝えたいと思っていたのだが、これでよかったのだろうと無理に納得する。
こうなれば、是が非でも体育祭で良いリザルトを残さなければなるまい。
波動熾念は、基本自分がカッコいいと思わない行動はしない男。つまり、賭けに負けて好きな相手がお前だなどとは、口が裂けても言えぬことであることは容易に想像できるだろう。
サイダーのペットボトルの飲み口から唇を放した熾念は、徐に帳が下りた空を見上げる。
嫌なほどに燦然と星が輝いている夜空を仰げば、寧ろ清々しさが心を支配した。
ここでもまた、一つの関係が変化を迎え始めるのであった。