復讐少女と暗殺者   作:個人情報の流出

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どうもこんにちは。個人情報の流出です。

他の2作品がばりばり途中なのに、またやらかしましたとさ。
アイデアがあふれて止まらなかったのが悪い。僕は悪くない。


復讐劇の開幕
最低最悪な始まり


「いいか?俺は今から、お前を殺す」

 

俺は暗殺対象の喉元にダガーを突きつけ、耳元で囁く。俺はいつも仕事の時、この言葉を相手に聞かせる。死の間際、対象に俺の存在と自身の死を知らせる……決め台詞ってやつだ。

部屋の電気は消え、夜の真っ暗な世界を照らすのは、窓から差す月の光しかない。故に対象は俺の姿が見えないようで、

 

「あっ……あぁっ……」

 

と、小さな悲鳴を上げている。

もし、彼がヴァンパイアだったら……その場で力を増し、俺を殺して生き延びることが出来たかも知れない。だが、魔物はとうに滅びている。彼が自らの死を覆すことは、出来ない。

 

ずっ、と。ナイフが肉に食い込む、鈍い音が響く。死の音だ。俺は血のしたたるダガーを鞘にしまって、ふぅ、と息をつく。

 

辺りには誰もいない。今回のターゲットは金持ちだったから、使用人や奴隷も大勢いたが、口封じのために全員殺してしまった。もはや屋敷に命は残っておらず、ここにいるのは、返り血で真っ赤に染まる俺だけだろう。

だが、油断は出来ない。暗闇に慣れた目で、物音に敏感な耳で、慎重に辺りを探っていく。

ゆっくり、ゆっくりと屋敷を見回っていると……かさっ、という小さな音を耳が捉えた。それは左側。奴隷部屋から聞こえた。

 

「……誰か、いるのか?」

 

なるべく足音を立てないように、ゆっくりと音のした場所へ向かう。

そして、部屋の中で見たのは。真っ赤な目をした少女だった。

奴隷部屋には窓などない。当然真っ暗だ。その暗闇の中で、ガーネットのような真っ赤な目だけが、神秘的に輝いていた。

 

「しまったな。まだ、生き残りがいたか」

 

俺は少女に近づく。その子を殺すために。

目撃者は居ない方が良い。それだけ、俺の正体に近づく者が居なくなる。

血濡れのダガーを鞘から抜き、目の前の少女の喉元に正面から突きつける。

 

「いいか?俺は今からお前を殺す」

 

数多の血を吸い、どす黒く染まった刃は暗闇の中では存在しないように見える。ただ、肌に触れる金属の冷たさだけが、少女に刃の存在を認識させているだろう。

 

少女は俺の目を真っ直ぐ見て、ぽつりと呟いた。

 

「いいよ」

 

その言葉に、俺は心底驚いた。大抵奴隷のガキは、自分の人生にまだ希望を持っている。いつか自分が解放されるはずだと、叶わない夢を抱いている。だから、泣く。喚く。より間近に迫った自らの死に、恐怖を抱く。

だがこの少女は違った。みればガーネットの目は死んでいて、全てを諦めているかのような暗さがあった。輝いていて、死んでいる。相反する2つを持つその目に、俺はほんの少しだけ恐怖した。

 

「いいよ。殺して」

 

もう一度、俺に言い聞かせるように少女は言う。相変わらずその目は、しっかりと俺を見据えていて……

 

俺は、少女を殺すのをやめた。

 

「どうしたの?私を、殺すんじゃないの?」

 

少女は首をかしげて言う。

 

「気が変わった。お前は殺さない」

 

どうせ、身寄りのない奴隷だ。放っておけばその内どこかで野垂れ死ぬ。……生きる意志もない少女だ。確実に死ぬだろう。だから、今、殺す必要はない。

そうして、俺はダガーをしまい、少女を残して足早に屋敷を去る。

この時の俺にとっては、何てことのないいつもの仕事。ただ、らしくない気紛れを起こしただけの、いつもの仕事だった。

これが5年前の話。俺はまだ知らなかった。この時見逃した少女が、俺の最凶最悪の依頼主になることを。

 

 

 

 

 

 

辺境の町、フリーベン。

その酒場に、俺は居た。

 

改めて自己紹介をしよう。俺の名はモルテ。もちろん本名ではなく、アサシンとしてのコードネームだ。

アサシンになってから、依頼を失敗させたことは一度もない。暗殺対象も、その周辺の人間も、目撃者ですら皆殺しにするスタイルから死神を意味する名をつけられた。

 

先ほども言ったが、俺は依頼を失敗させたことが一度もない。

そのために、俺の元には様々な依頼が舞い込んでくる。今日フリーベンにいるのもその依頼のため。

今回の依頼者と直接話すためである。

酒場には人気がない。時刻が昼間というのもあり、ここがあまり繁盛していないというのもあるだろう。暗殺の話をするには絶好の場所である。

 

「もう、来ていましたか」

 

カランカランと言う音と共に、女性が入店する。

彼女が今回の依頼主だろうか。

 

「マスター、これからここで話すことは、他言無用でお願いします」

 

女性はそう言いながら、カウンターに札束を置く。口止め料を用意しているあたり、こういう秘密の話には慣れているようだ。

 

「初めまして。私はシルビア。あなたがモルテですね?」

 

彼女は俺の向かいの席に座る。シルビア、と名乗る彼女は、深緑の髪を長く伸ばした、クール系の美女だった。

彼女は一つため息をついて、俺に依頼の話を始める。

 

「今回私があなたに殺していただきたいのは……この町の町長。ガルシア・フリーベンという男です」

 

「ほう。それはまたどうして?」

 

「彼は横暴の限りを尽くしています。税は高く、逆らう者はあらぬ罪で逮捕する。……そして、最近のこと。彼は町中の若い女性を攫い、性のはけ口にし始めたのです」

 

机の上に置かれたシルビアの手がぎゅっと握られる。この女性は冷静らしい。感情を抑える術を知っている。賢い人だ。

 

「潜入ルートはこちらで用意しました。あなたはこのルートに従って行動していただきたい。そして、どうか、対象以外を殺さないでもらいたい」

 

「それはなぜ?」

 

「恐らく、屋敷には攫われた女性も居るでしょう。……それに、私の娘もそこにいます。彼女らも助けていただきたいのです」

 

「……なら、俺に依頼しない方が良かったんじゃないか?俺の噂は聞いてるだろう?俺に直接接触してくるようなあなたなら」

 

皆殺しのモルテ(死神)

先程説明したとおりだ。俺は暗殺対象の周辺は皆殺しにする。殺せと言われた者は殺す。が。殺せと言われない者も殺すのだ。

 

「ええ。お噂はかねがね。あなたは一度も依頼を失敗させたことがないらしいので……あなたなら、侵入ルート付きの簡単な依頼くらい、余裕でこなせますよね?」

 

シルビアは笑顔で言う。ああ、先程説明したとおりだ。俺は一度も失敗したことがない。……流石。俺のことをよく知ってるようで。それにこの笑顔。断ったら何をされるかわからない迫力がある。

 

「……オーケー、わかった。受けてやるよ。その依頼。その代わり、報酬は弾んでもらうぞ?」

 

迫力に負けて依頼を受ける。この女は敵に回しちゃいけないやつだ。俺の勘がそう言ってる。

 

「ええ。もちろん。成功のあかつきには、たっぷりと」

 

シルビアは微笑みを崩さず、俺に黒い機械を差し出してくる。

 

「これは……」

 

「魔導式通信機。お渡ししておきます。何かあれば連絡を。こちらからも連絡する場合があります」

 

魔導式通信機。それも最新のモデルか。相当な値段のする物だ。そう人にポンポン渡せるような物ではない。

 

「怖いなぁ。これ、報酬の前払いとか言わないよな?」

 

「ええ、もちろん。任務成功のあかつきには返却してもらいますから」

 

「そりゃ残念」

 

魔導式通信機を受け取り、懐にしまう。次にシルビアは、一枚の紙を取り出した。

 

「これがターゲットの部屋への侵入ルートを書いた地図です。お渡しします」

 

「……ふーん」

 

俺は地図にざっと目を通す。かなり詳細な地図だ。まるで屋敷の関係者が書いたような。

……罠の可能性も考えておこう。心配しすぎても良いことはないが、考えておいて悪いこともないのだ。

 

「わかった。決行は今夜だ。報告、楽しみに待っているといい」

 

「ええ。お待ちしております。モルテ」

 

俺は席を立ち、酒場のドアを片手で押す。

 

「最後に」

 

確かめたいことがある。振り返って、シルビアの顔をしっかりと見る。

 

「本当に、俺で良いんだな?」

 

「ええ。あなたを信用しているから頼んでいるのです」

 

俺は無言で酒場を出て、暗くなってきた町の闇に紛れる。

向かうのは町長の屋敷。今日、俺はやつの命を奪う。

 

 

 

 

 

 

『モルテ。着きましたか?』

 

夜。町長の屋敷内部にて。魔道式通信機から依頼人の声が聞こえる。

 

「ああ。既に屋敷に侵入している」

 

俺は気づかれないよう、最大限声を殺して返事をする。

 

『侵入ルートはお伝えしたとおりです。……再三になりますが、今回は対象以外誰も殺さないようにお願いいたします』

 

冷静な声で告げるシルビア。俺はその言葉に、感情を悟られないような無機質な声で答える。

 

「……すまないが、その願い叶えられそうにない」

 

『なぜ?何かあったのですか?』

 

「血の匂いがするんだよ。……異様にな」

 

屋敷に充満する、大量の血の匂い。俺にしてみればいつも通りの、普通の屋敷としては異様な匂い。

 

人が死んでいる。確実だ。

 

『……何が、あったんですか?』

 

「死体が転がってる。大量にだ。恐らく、この屋敷の人間は全員殺されてるだろう」

 

『そんな……』

 

依頼主の悲痛な声が聞こえる。一部屋一部屋、屋敷の中を見回るが、見つかるのは死体のみ。生きている人間は、一人もいない。

俺はこの惨状に舌打ちをする。誰が、なぜ、なんのためにこんなことをした?それも、俺が来る前に……

 

思考を回しながらも、屋敷の探索は続ける。全ての部屋を見終わり、そこまでは全員が死亡しているのを確認して。

町長の寝室に到着したときに、俺はそれを目にした。

 

月明かりに照らされて、男の首を掴み、片手で持ち上げている少女の姿。

男は恐らく町長だろう。絶望したような顔で少女を見ている。

そして、少女の方は、その表情をうかがい知ることが出来ない。全身を覆うフード付きポンチョが、顔を隠しているからだ。ただちらりと、宝石のような赤い目が見えただけ。

少女と言えるのも、男を持ち上げる腕の細さと、身長の低さからだ。明確に性別が判断できるわけでもない。

 

少女は俺の目の前で、町長らしき男の首に指を食い込ませて。

首の、骨を、折った。

男は力を失い、少女の腕にだらりとぶら下がる。少女はそれを、ゴミのように投げ捨てた。

 

凄まじい怪力だ。右手一本で成人男性を持ち上げ、首を折るなど正気ではない。それも、少女に見えるような細腕で、だ。

 

こいつは、やばい。明らかにやばい。

 

少女を前に立ち尽くしていると、少女はゆっくりと、俺の方を見た。

まっすぐと、その赤い目を見る。その目は、どこかで見たことがあるような、気がした。

 

「今宵は、月が綺麗ですね」

 

状況に似合わぬ、甘く可憐な声が部屋に響く。その響きは紛れもなく少女のもの。そして、次の瞬間。

その少女は、俺の目の前に居た。

 

「なっ……!?」

 

俺の目は、少女の繰り出す速度の乗った左拳を捉えた。

……避けきれない!咄嗟に左腕で防御を試みる。が。

 

「っが……!?」

 

その左の一撃で、俺は大きく吹き飛ばされた。

 

「げほっ、ごほっ……っは!」

 

俺は壁に叩きつけられ、大きく咳き込む。防御に使った左腕には激痛が走り、あり得ない方向に曲がってしまっていた。

 

「ふっ……!」

 

少女は一瞬で俺の目の前に移動すると、右の拳を振りかぶり、俺に叩きつけるように振り下ろした。

動かない体にムチを打って転がるように回避する。大きな衝撃と轟音と共に、拳を受けた床に穴が開いた。

 

その時、俺はようやく気づく

 

『今宵は、月が綺麗ですね』

 

あの言葉は、アサシンの決め台詞。相手を殺すという、意志の証明の言葉だったのだ。

 

ゆらりと立ち上がる少女の姿は、さながら鬼のごとく。

その威圧感に、俺は死を覚悟した。

 

「あなたは、モルテ?」

 

少女は俺に問いかける。なぜ知っているのかはわからないが、これから自分を殺す相手に嘘をつく必要もない。

 

「ああ。俺が、モルテだ」

 

それを聞いた少女はゆっくりと、俺に近づいてくる。

 

とん、とん、とん、と軽い足音が俺の目の前で止まる。そして、そっと俺のそばによって。

 

俺を、抱きしめた。

 

「やっと会えました。私の、いい人」

 

……何が起こったのかわからない。こいつは何を言った?こいつは誰だ?

 

「私を、覚えていませんか?」

 

そう言って、少女はフードを取る。月に照らされて、少女の顔がよく見えた。

 

「お前……!」

 

ガーネットのような赤い目。よく覚えている。5年前のあの夜、見逃した少女。

きっとそうだ。彼女が今、俺の前に立っている。

 

「あの時見逃していただいたおかげで、私はこうして生きています。あなたにお礼を言わせてください」

 

そう言って少女はポンチョの端をつまみ、深々と礼をする。

 

「いきなりではありますが、私はあなたに依頼をしたいのです。」

 

彼女は口角をあげ、俺の耳元にささやく。

 

「付き合っていただけませんか?私の、復讐に」

 

これが、この物語(復讐劇)の始まり。

ちらりと盗み見た彼女の横顔は、まるで悪魔のようだった。




「ええ、復讐です。私の運命を狂わせた、酷い人たちへの復讐!」

「お前、どうしてそこまで歪んだ?」

「あなたなら付き合ってくれますよね?ねえ?」

「いいか?お前の名前は……」


次回。『結ばれた契約』
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