FAIRY TAIL〜邪悪なる者 作:ノグソトウエイ
次の日の俺の朝は早かった。ジメジメとして暗いがここからは太陽の明かりが見えないがここに来て長いのでなんとなくだが時間の感覚がわかる。
エルザたちを起こさないようにそっと起きて今日の計画について考える。
昼に監督達がいなくなり、器が作業場に現れたらそこを捕らえる。監督たちが全員いなくなりなおかつ器がここに来て、そして俺が器を捕らえられるか…
可能性としては1%ほどだろうか、だが諦めるわけにはいかない。俺たちにはもう後がないのだから…
今日、全てが決まる。
器を捕らえあいつらに器と交換に首輪を外させ、船を出させる。ここにいる奴隷全員の脱出は不可能だろう…
でも、それでも俺は…俺の後ろでうずくまって泣いている奴らを助けたい。恨むなら俺を恨んでくれ。
「ジェラール?」
後ろから声が聞こえる。エルザだ。
きっと俺が起きたのに気づいたんだろう。初めて見た時の綺麗な緋色の髪は霞んで、顔と服は泥だらけで…だけどエルザは強くて優しかった。
「…ねぇエルザ。もしもここから出られたら…どうしたい?」
「え? な、何言ってるの? ジェラール?」
「俺はここから出たら…ここから出たら…」
…どうするんだ?
わからない…
俺がいた村はもうあいつらに潰されたじゃないか…
…なぜ、俺たちがこんな目に合う…
俺やエルザだけじゃない、ウォーリー、シモン、ショウ、ミリアーナ…ここにいる人たちが何をした?
今日もまた人が死ぬ。
「 何でもないよ。エルザ、今日はご飯をもらえるように頑張ろう。」
誤魔化せているだろうか。ちゃんと笑えているだろうか。俺はエルザに笑顔を向けるが心の中ではあいつらを殺したいという醜い感情に支配されていた。
ついに今日が始まった。
俺たちにとって1日の始まりは昼間までの労働だ。そして昼間に僅かな休憩、別の監督が来たらすぐに再開し夜遅くまで働く。そしてそこでようやくその日優秀だった20人に食事が与えられ、ベッドで眠ることを許される。
もちろん体の小さな俺たちは豪華な食事もベッドで眠ることも許されていない。
だがそれは今日で終わる…きっと…今日までだ。
仕事が始まるとあいつらは動けない人を鞭で打ち、魔獣に襲わせ、そして殺す。俺たちは消耗品らしい。泣き叫ぶ声飛び出す人の臓器と血、そして醜悪な笑い声。それらの全てが俺たちを蝕む。
耳を塞ぎ目を塞ぎ、必死に気づかないふりをする。怖くて、怖くて、どうしようもなく怖かった。
そして今の時刻は午後一時の針をさしていた…多くの監督は休憩しに行ったがまだ一人ここに残っている。
器が来ることはもうないだろう。時間が経ちすぎている。
それでもみんなを守るために俺はまだ諦めるわけにはいかない。すでに計画は失敗だ。もちろん失敗する可能性の方がはるかに高いのはわかっていた。
でも今日に限って監督は随分とやる気だ。俺たちの粗探しをして鞭を打つという仕事に。
ザッという音が俺の後ろから聞こえた。
体が凍りついたように動かない。俺はその時悟った…もう終わりだと。どこか他人事のような気分で俺は後ろを振り返った。
疲れがたまっていたのかそれとも元々限界だったのか、エルザがフッと腰を抜かしたかのように座り込んでいた。正確には崩れ落ちる、の方が正しいのかもしれない。
みんなが急いで立たせようとするが心ここに在らずといった感じで返事もない。無理もない、今日は普段よりもはるかに辛い仕事だった。それに伴い他の奴隷たちの叫び声や血の匂いがエルザを消耗させていたんだろう。
ショウやミリアーナを気遣って守っていたエルザだが、どうやらすでに限界を超えていたようだ。
その目は死んだように濁り、そして口を半開きにさせただただ項垂れている。
駄目だ。
俺は必死になってエルザを立たせようとしているシモンとウォーリーを傍目に最低にもこんなことを考えてしまった。だが何となく、そう思った。エルザはもう駄目だ、と。
ミリアーナとショウもエルザの前に立ちエルザの姿があいつらに見られないように何とか頑張っている。だが俺の体は動かなかった。
シモンとショウの声が聞こえる。俺に手伝ってくれといっている。ミリアーナとウォーリーの鳴き声が聞こえる。俺に助けてくれた縋ってくる。
監督の下卑た笑い声が聞こえる。俺たちを標的に鞭をしならせている。
だがこんな時にも俺の心は弱く、そして醜くなっていた。やめろエルザから離れて、頼むから騒ぐなと。
これ以上問題が起きれば他のみんなまで犠牲になる。すぐにエルザから離れなければ他のみんなまで…
「ジェラール…俺はもう我慢の限界だ! ! お前がやらないなら俺がやる…下がってろ!」
シモンが俺を押し退け監督からエルザを庇うように前に立つ。やめろ無理だ。
武器もない、魔法もない。あるのは奴らの所持品だという証の首輪。それは服従の証で逆らえば電流を流される。故に俺たちは逆らえない。
「む? なんだ貴様は。そこをどけ、その小娘は規則を破った…故に罰を与えねばならん。」
「嫌だ! 絶対にお前をエルザに近づけさせない!」
「…口答え。それも罰則だな。貴様も共に鞭打ちをしてやろう背中を出せ。」
「いやっ!やめてぇ!」
「シモン!!」
「うわぁぁぁ!!!」
ミリアーナとウォーリーが監督の足に縋り付く。臆病で泣き虫だったショウも監督に立ち向かっている。周りが騒がしい。
「うぬ!邪魔だ貴様らぁ! 」
「きゃっぁ!」
「うぐっぁ!」
監督がミリアーナとウォーリーを突き飛ばし、ショウを蹴り飛ばす。そして睨みつけるシモンを鞭で叩きつける。今までと違う…痛ぶる為ではない本気の鞭打ち。鮮血が舞い、たった数発でシモンの体は血だらけになる。鮮血が俺の顔に飛ぶ。
「おいお前!! さっきまでの威勢はどうした? ははは!」
「あっ…がっ…ぁぁ…あ…ぁ」
シモンの意識はすでにない。それでも監督は止めない。
やめろ…
もう、やめてくれ…
その言葉が出てこない…いつからか俺は、ジェラール・フェルナンデスは臆病になった。
そして最低の卑怯者になった。簡単に諦めて仲間を見捨てて…でも、もし俺が…俺に力があれば、こいつらを殺せる力があれば!!
「やめろてめぇ!!! 」
「エルちゃんとシモンを離して!」
監督の前に立ちふさがる二人。ウォーリーが監督に殴りかかる。
「ふん! その行為…死刑だとわかっているだろうな?」
「ひっ! う…うぉぉぁ!!」
「ウォーリー!? 逃げて!」
ふと気づいた。
あたりが騒々しい。周りを見渡せば多くの奴隷たちが集まっていた。だがその目はいつもの彼らではなかった。
『怒り』彼らの目にはそれが浮かんでいた。
「な、なんだ貴様ら! 持ち場に戻れ!!」
シモンとウォーリーに気を取られていたのか今更気づいた監督が慌てて魔法を発動させこの場から離れようとするもすでに遅い。
奴隷たちが一斉に監督に群がっていく。
「う、える…ざ。」
奴隷たちの熱気に当てられていた俺をシモンの声が現実に戻す。
「…ジェ…ラール、今な、ら逃げ…られる。早くエルザたちを…連れて、逃げろ」
「何言ってるんだよ! お前を見捨てるわけないだろ!」
シモンの言葉にウォーリーが反論する。監督を殺すべく暴れている者、逃げ道を探すべく急いで走り出す者でこのあたりは混乱している。
こんなに騒げばもう上にいる奴らに知られしまったはずだ。
落ち着け…俺はどうすればいい。シモンは傷だらけで歩けない。エルザは気を失ってしまっている。俺とウォーリーでシモンを運び、ミリアーナとショウでエルザを連れていくしかない。
どこに行けばいいのかはわからないが行くしか道はなかった。
武器もない、船もなく、どこに行けばいいのかさえわからない。もしも逃げる途中で奴らと出くわしてしまったらその時点で俺たちのうちの誰かが、あるいは全員が死ぬ。
「ショウとミリアーナはエルザを、ウォーリーは俺とシモンを運ぶぞ。」
シモンが何かを言おうとするが俺はすぐに止める。こんなところで置いていくか連れていくかの話をしてる場合じゃない。あとウォーリーはなるべく傷が痛まないようにシモンの肩を組み支える。
ふと頭の中にロブさんのことが過ぎるもすぐに振り払うようにして前を向く。心配だが今はこいつらを外まで連れて行かないと。
いくつかあるであろうこの塔からの出口。
俺たちはなるべく人の少ない道を選んだ。大勢あればどうしても見つかってしまう可能性が高まる。でも少なければ暴走している奴隷たちが鎮圧されても何処かに隠れることができる。
裸足だったからだろう、通路にペタペタと足音が鳴り響く。そしてタタタタと何かが走ってくる音も聞こえる。
冷や汗が止まらない、でも意外と震えはなかった。ふと横を見るとウォーリーとミリアーナが拳を握りしめていた。ショウも石を持って足音のする方向をじっと見つめている。
昔ロブさんが俺たちに言った言葉を思い出した。全ては信じる心から始まると。
「…あ」
どうやら俺は大切なものを忘れていたらしい。
今まで重たかった肩の力が抜ける。そんな自分に少し可笑しくて笑う。俺は何処かでこいつらのことを守ってあげなくちゃいけない存在だと思っていたんだろう。
だがそんなことはない…こいつらは弱くなんかない。
弱いのは俺だった、仲間を信じず何もかも一人でやろうとして、そして失敗した。
でも今は違う。俺の横には共に戦う仲間がいる。
「ウォーリー、みんなを頼む。あいつらは俺がやる。」
体から光が迸る。ウォーリーたちが眼を大きくして驚いている。俺自身驚いている、こんなのは生まれてきたから初めてだし、なんとなくこの使い方がわかることにも驚いている。これが魔法…この力があればあいつらにだって負けない。
足音の主達が暗い通路から顔を見せる。突然の光に驚いているのか少しキョロキョロと周りを警戒している。よく見るとそいつらの顔は俺たちがよく知ってる奴の顔だった。
重い石を持ち上げられなかったミリアーナを庇うエルザを魔法で傷つけた奴。夜泣いていたショウを殴り、心に大きな傷をつけた奴。
奴らは慌てて火の魔法を俺たちに向かって放つが俺はそれを光の魔力で防ぐ。
「ジェラール! 大丈夫なのか? 」
「ああ! みんなは下がってくれ! ここは俺に任せろ」
奴らはさらに連続で火の玉を撃ってくる。俺はそれに向かって走り出す。自暴自棄になったと思ったのだろうか…奴らは醜い笑い声を上げる。
走っている俺の体を光のオーラが包み込み火の玉を弾く。奴らの顔が驚愕に周りの動きが遅い。
「『
「!?馬鹿な!?」
そのままの速度で右にいる奴に蹴りを入れる。そして体勢を崩しているところを押し倒し、頭を掴み地面に叩きつける。これでこいつは動けないはずだ。
次に火の玉ではなく鞭でこちらを狙ってくる奴の左腕を蹴り飛ばす。
「ぐあぁぁぁ! ク、クソ!」
ゴキッという音と共に左腕を庇いながら距離を取ろうとするが、さらに距離を詰めて腹に全力で拳を突き立てる。男はのまま白目を向いて倒れる。
勝てた。不意に笑顔が零れ落ちる。まあ俺の体は限界のはずなのに何故か全力で大声をあげたい気持ちになる。
「おいジェラール!! それって魔法だよな! やっぱスゲェやお前!」
「あぁ…これが俺の魔法だ。これならあいつらにだって勝てる。ここから出られるんだ。」
「ほんと? これで自由なの?」
「もう俺たちは自由だミリアーナ。でも先に首輪を外そう。みんなこっちに来てくれ。」
さっき使った高速移動の魔法とは違う魔法を使い首輪を壊す。これで俺たちは解放されたんだ。この地獄から。
「ふふふ…ハハハハハはははは! 素晴らしい魔道だ!! 」
突如後ろから笑い声がする。バッと振り向くとそこには杖を持った老人---正確には禍々しい魔力を帯びた老人。
こいつには…勝てない。魔力が違いすぎる。
「クソ!
「ほう…戦いを挑まずに逃げを取るか。賢い選択じゃ。だがわしの前では無意味!! 貴様ならば新たなる器になれるだろう。素質がある。」
「なに? 新たなる器…だと?」
「ああ…先ほど器の最重要候補だった小僧が逃げ出そうとしてのう。どうやらこの騒ぎに乗じてわしらを裏切りつもりだったらしいが。そんな不良品をゼレフ様に捧げるわけにはいかん。」
「そこで貴様じゃ…先ほどの戦いは実に見事だった。若き日のわしを見ているかのようじゃった。」
「…なにが言いたい…」
「貴様ならば器の予備どころか…あの出来損ないをはるかに超える依り代になれる。そこで、じゃ。」
老人はなにをして来たらそんなに邪悪な笑みを浮かべられるのかと思うほどのおぞましい笑みを浮かべる。
「どうじゃ? そこの小僧たちは逃がしてやろう。貴様が器になるのならば、だが」
…俺が犠牲になればみんなを見逃してくれるのか。その言葉に信憑性はまるでない。だがどのみちここで意味もなくこいつにやられるぐらいなら…
せめて仲間たちは助けたい。
「…わかった。だが俺の仲間に手を出してみろ…必ず殺す。」
「フハハハハハ! 取引成立じゃな! では消えろ稚魚ども」
そう言ってウォーリーたちに魔法をかける。
何を! と突っかかっていく俺を魔法で押さえつけながら。あれはワープゲートだと説明してくる。
この塔の外に出してくれたらしい。良かった…これでみんなは自由だ。
だけど…最後に別れをいうことすら出来なかったな。
書いていて思ったんだけどもうジェラール主人公でよくね?(白目)