FAIRY TAIL〜邪悪なる者   作:ノグソトウエイ

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ジェラールとの出会い

 時は少し前まで遡る。

 

 

 この塔からの脱走を企てていた俺はその計画を実行すべく昼時に作業場のところまで赴いていた。

 

 

 いつもならこの時間は休憩のはずなのだがどうやら今日は忙しいらしく鞭を奴隷たちに打ち付けている奴が一人だけまだ残っていた。

 

 一人ならやれるか…そう思い魔法を発動しようとした時、まだ俺と同じかそれより少し上くらいの奴らが騒いでいることに気づく。そしてその中にまるで壊れたかのように座り込む赤い髪の女がいた。

 

 他の子供達は鞭で打たれるからかその女を立たせようとするがその尋常じゃない焦りように監督が気づく。さっさと見捨てれば良かったものを。

 監督からその女を守るように一人の少年が立ちふさがる。

 

 馬鹿なのか? わざわざお仕置きしてくださいと言いに行っているようなものだ。案の定その少年は鞭で打たれる。血が飛び散る。

 

 

 あれの痛みは相当だろうな。こういったイかれた連中の大概は人の壊し方をよく知ってる。どうすれば痛むか、どうすれば屈服させられるかを。

 

 鞭打ちは大の大人でも泣いて恐れるほどの痛みを与えられる。でもそれは泣いて恐れる程度(・・)に加減してやっているからだ。

 だがあの監督…間違いなく昂ぶっていて全力だ。下手をすれば骨すらも砕くような一撃が数発あの子供に浴びせられる。

 

 死んだな。

 俺はそう思っていた。そしてもしもここで俺がこの場から離れていれば…きっとあんなことにはならなかった。

 

 

 

 鞭打ちされている子供を助けるかのように他の子供達も動き出す。どこか猫を思わせる少女と少し長めの髪の少年が監督に縋り付いて止める。

 監督は苛立っているようだ。無理もない、あんな薄汚い格好をした奴らに抱きつかれてはたまったもんじゃないだろう。

 

 

 と、そこで気づく。やけに騒がしい。

 何人もの奴隷が監督を囲むように集まってくる。これは…まさか反乱か?

 

 グッドタイミングなのかバッドタイミングなのかはわからんが混乱に乗じて逃げ出すなら早いほうがいい。

 

 

 そう思い俺は踵を返して走り出そうとする---体が動かない。

 自分の体を見下ろすと黒い靄のような物が纏わりついていた。いつの間に…思う暇すらなく、俺は意識を奪われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ろ! はや…き…! 早く起きろ!!」

 

 体を揺さぶられる気持ちの悪い感覚で目がさめる。何が起きたか理解するのに時間はいらなかった。捕まったのか…くそ! 油断した。

 下にいる連中は雑魚ばかりだと思って完全に気が抜けていた。これで唯一無二のチャンスを逃してしまったのか…

 

「おい! 大丈夫か?」

 

 横から声をかけられる。まだ幼い。どうやらあいつらではないらしい。俺は体を横に向け声の主の顔を見る。青い髪に顔に奇妙な刺青を入れている。どこかで見覚えのある…

 

「あの時のガキか…」

 

「…俺を知っているのか?」

 

 少し驚いた顔で聞いてくる。

 

「ああ…さっき下で騒いでた奴らの一人だろ?」

 

「…お前も、あの場にいたのか?」

 

「お前らの騒ぎに夢中になっていたらいつの間にか拘束されて眠らされていた。お前、名前は?」

 

「…ジェラールだ。ジェラール・フェルナンデス。いつこの塔に来たかは…覚えていないが結構昔だ。お前の名前は?」

 

「レン。」

 

「…それだけか? お前もここに無理矢理連れてこられたのか? …器、って奴なんだろ?」

 

 何で無神経な奴だ。普通こんな所に来た時のことを思い出させるようなことを言うか? クソが。

 

 

「…俺の場合は少し違う。ここに来た時はお前達と同じただの奴隷だった。だがある日、ここにとんでもなく強い三人の魔導士がきた。何でもここの奴らの上司の友達らしくてな。そいつらに見初められて今に至るってわけだ。」

 

「なんであいつらはお前に従ってるんだ? 」

 

 

「それは…俺が器だからだ。奴らのとっても大事な。」

 

「…器って一体何なんだ?」

 

「正確には依り代だ。この塔を建設する意味を知っているか?」

 

 

「! いや、なにも聞かされてこなかった。ただ働けとしか。」

 

 そいつは随分と酷な話だ。目標もなく、いつ終わるのかもわからず、終わった後どうなるのかすら分からない中強制労働させられる。俺なら間違いなく苦痛で気が狂ってしまうだろう。

 

 

「まだ完成してはいないがこの塔の名は楽園の塔---又の名をRシステム。ある人物を蘇らせるための装置だ。」

 

「な!? 蘇らせる…それって一体。」

 

「黒魔導士ゼレフ。俺もよく知らんが最悪の魔導士だ。間違いないのはこの塔が完成しちまったら間違いなく俺は生贄になりこの塔の労働者は殺されるだろうってことだ。」

 

「…そんな、」

 

 わざわざ生かしておく価値もないしな。俺があいつらなら間違いなく皆殺しにする。

そしてしばらくの沈黙が俺の居心地を悪くする。

 

 

 

 

「…レン。お前は何で…」

 

 ジェラールは何かを聞きたげに言い澱む。

 

「何だ? 聞きたいことがあるならはっきりと言え。」

 

 どうせこの後は一か八か暴れるだけだ。こいつに何か話したところで俺にデメリットはない。

 俺がそう言うとジェラールは意を決したように俺の目を見つめる。

 

 澄んだ瞳だった。きっとこいつは優しい奴だ。そんな目をしている。だが気にくわない。

 

「…少し前から食事が変わった。毎日一食だった固いパンと塩のスープが豪華なものに変わって…20名だけに与えられた。」

 

「…お前が…」

 

 …ああ、なにを聞いてくるのかと思えばそんなことか。理由は単純かつ明快だ。

 苦しみが欲しかったからだ。人の苦しみや怒り、憎悪、人の不幸が俺を強くする。そう言う魔法を使うからだ。

 

 ただ、全く食事を与えないなんてことは連中は認めないだろう。だからそれなりに理由をつけて納得させた。人は生き残るためなら何だってできる。もちろん限界を超えることも可能だ。

 百人近い奴隷の数、そして1日に与えられる食事の数は20。つまり少なくとも80人近くは食事を食べられない。

 

 だが慣れとは恐ろしいものだ。すでにこの制度を行ってから3週間経っているが、不思議と死者は以前より僅かに少し増えたくらいだ。これなら監督の癇癪で殺される人の数と大差はない。

 

 食事を得た奴隷の中で何人かは他の奴隷に恵んでやっているのは知ってるしそう言うことをする奴がいることを見越していた。

 

 

 結局飢えはあるが死ぬほどではない。そして長生きはできないだろうが少なくとも数ヵ月はもつ。

 

 それだけ時間があればこの塔は完成するだろうし奴らとそれをわかっていたから了承した。

 

 奴隷達は食事を得るために競って仕事をする。中には他の奴隷を貶めて食事を得ようとする輩もいたはずだ。

 奴隷同士の結束が揺らぎ、生きるためにより従順になる。奴らにとってデメリットは存在しない。そして俺にも。

 

 これだけの不幸を食ったのは初めてだし、おかげで強くなれた。

 

 俺の分の食事を確保するためでもあったが。あいつらは俺を器様などと言っておきながら奴隷とそう大差ない食事しか出さない。なにしろ奴隷達を人間とは思っていないのだ。

 まるで犬猫、いや虫けらのように扱い、死ねば新しくペットを飼うかのように新しく攫ってきて補充する。そして俺のことも内心は奴隷だと思っているに違いない。あのヤバイ魔道士達がいるから表向きは俺を器様などと呼んでいるだけだ。

 

 

 結局は奴隷も俺も死んでも構わない使い捨ての駒。

 俺が生き残るために、勝つためにやった。

 

 …だから俺は悪くない。悪いのは弱かったお前らだ。俺は悪くない。

 俺は…悪くない。

 

 

 

 だが…本当のことを話せば間違いなくこいつは激昂するだろうし、そうなれば面倒なことになりそうだ。適当にごまかしておくか。

 

「…すまない。やりたくなかった…なんて言い訳にはならないよな。ただ…士気の低い奴隷は始末するという話が奴らの方で広がりつつあった。」

 

「…だから、あんなことを?」

 

「…ああ、食料を得るためなら働くことだってできるだろ?」

 

「っお前!! お前のせいで…多くの人が…」

 

 ジェラールが俺の胸ぐらを掴む。

 その死んだ奴らはどの道この地獄を生き抜くことはできなかっただろうが。

 

 

「わかってる…俺のしたことは許されることじゃない。多くの人を飢えさせ、強制的に働かせていたにすぎない。…あいつらと何も変わらない。」

 

「後悔してるのか?」

 

「…いや、今さら悔やんでももう遅い。死んだ奴は生き返らない、俺はただの人殺しだ。」

 

「…」

 

 互いに目をそらして黙る。どうやらこいつにもそこまでコミュニーケーション能力があるわけじゃないらしい。まぁここでベラベラ喋られても鬱陶しかったが。

 それと後悔してるというのは本当だ。もっとうまくできなかったもんかなと。

 

 

 

「…とりあえず、今はその話はやめよう。これからどうするかが大切だ。だろ? レン」

「…あぁ。外の反乱は今どうなってる?」

 

「…俺がここに連れてこられてからまだ10分くらいしか経ってない。きっとまだ戦ってるはずだけど、そういえばさっきお前が言ってたものすごい強い魔道士って?」

 

「…ああ、3人だ。ガリガリの眼鏡男といつも仮面とフードを被っている男。そして一番ヤバイのが奇妙な魔力を持ったじじいだ。こいつらと敵対しちまったらその時点で終わりだ。」

 

 ガリガリ眼鏡は氷の魔法、仮面フードはよくわからないがおそらく拘束系の魔法、さっきは俺もこいつにやられた。そして変なじじいは…あいつだけはあの中でも別格だ。

 

 闇魔術などというよくわからんものを使う。

 

 

「…そんな奴らが、エルザ達は…」

 

「エルザ? お前の仲間か?」

 

「…ああ、多分お前がさっき言ってた変な魔力を持つ老人に俺が器になる代わりに俺の仲間を見逃してくれるって。」

 

「はぁ!? 」

 

 おいおい、どうなってやがる…こいつが器だと?

 なら俺はどうなる? まさか用済みで始末されるのか?

 

 いやあり得ない。なら俺をこんなところに連れてくるはずがない。その場で始末すれば事足りる話だしな。

 

「…レン?」

 

「い、いやなんでもない」

 

 奇声を上げた俺を、ジェラールが訝しげに見つめる。

 今は何も考えるな、この戦いはもう始まってる。ここで焦る必要はない。こいつが器に選ばれたということはそこそこやれるってことだ。

 

 こいつが俺に付くかどうかはおいておいて、戦力としては申し分ない。二人掛かりならガリ眼鏡か仮面フードのどっちかはやれる…はずだ。

 

 問題はじじいだ。

 あいつに関しては全くわからない。強すぎる。

 

 

 ゼレフの復活とやらに誰よりも力を注いでいるのも奴だ。間違いなく俺の前に立ちふさがる。

 

 とてもじゃないが今の俺では歯が立たない。ジェラールの強さは知らないがじじいに従って来たということはやはりマトモには戦えないはずだ。

 

 どうする…手段としてはこいつを囮に使うのが最適だ。こいつが器としてじじいに認められたということは俺は用済み、もしくはスペアに回されるんだろう。

 と言うことはおそらく俺よりもジェラールを狙うはずだ。

 

「レン。」

 

 思考の波に飲まれていた俺をジェラールが呼び戻す。

 

「その老人は…約束を守るのか?」

 

 …逃がしてもらった仲間のことか。

 あのじじいは約束を守る…のか? 実は俺もよく知らない。そもそも奴と約束なんてしたことはないからだ。

 

「わからない、が俺が奴なら間違いなくそんなことはしない。お前を連れて言ってから始末する筈だ。」

 

「…レン、お前はどうするんだ? まだここにいるつもりなのか?」

 

「まさか…どの道俺はもう奴らからの信用を失った。ここにいても待ってるのは監視の中での生活だろうよ。そしていずれゼレフとやらの受け皿にされる。そんなのはごめんだ」

 

「俺も…仲間を助けたい。力を貸してくれないか…エルザ達を助けるために。」

 

 

 …さて、どうしたものか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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