FAIRY TAIL〜邪悪なる者 作:ノグソトウエイ
「…ダメか?」
俺が無言で黙り続けていると少し落ち込んだ様子で聞いてくる。
ダメではない、むしろ大歓迎だ。だが俺が心配しているのは間違いなくこいつはいい子ちゃんのクソ真面目だってことだ。
逃げる途中で歩けない奴がいたら肩を貸して連れて行くほどの偽善者だろう。つまりこいつの前では俺は汚い手を使えない。
人質をとったり他の奴隷を囮にしたり、あとは俺が逃げた後に逃げ道を塞いで他の奴らが来られないようにするとか。
こいつの前でそんなことをすれば間違いなくブチギレするだろう。
しかしわざわざこんな俺を誘ってくれるってことはそこそこ信用されてるのか?
それともこいつも俺を囮に使う気か? そんなことをする奴には見えないが…
二人で行けば間違いなくここから逃げられる可能性は増える。だがそれと同時にあのじじいに狙われる可能性も跳ね上がる。別々行動なら俺は全力で戦える、しかしガリ眼鏡と仮面フードには敵わない。
どっちを取るかだ…
「…ごめん。変なこと言ったな、忘れてくれ。」
「いや…ジェラールあの、俺はその…あまり戦えないんだ。きっと足手纏いになると思う。だから…」
とはいえ見捨てられるわけにはいかない。どの道俺にはもう後はないんだ。少しでも生前率の高い方を取りたい。
そんなことを考えていた。
「それなら大丈夫だ! 俺が戦える。お前にはここの道案内をして欲しい。知ってるんだろ?」
なるほど、戦力としてではなく案内役として…その発想はなかったな。
だがこれで俺も連れて言ってもらえるわけだ。
「わかった。なら急いで作戦を立てよう。ここから俺たちは外には出られない。だが奴らが外から開けた時なら俺たちは出ることができる」
この牢屋は魔法を敷かれており厄介なことに魔法を使うことができなくなる。
「なら、奴らがここの扉を開けた時に一気に畳み掛けるってことか?」
「そうだ。扉を抜けたら次は左に曲がる。長い階段がある筈だからそこを降りる。」
「階段を降りたら後は敵から隠れるようにして出口を探す。」
「出口まではわからないのか?」
「いや、わかるにはわかるがおそらく奴らも待ち構えている筈だ。それにあの混乱だ。人が多いところには行かないほうがいい。」
「成る程…でもエルザ達は大丈夫かな…」
「お前が連れて来られた時仲間達は自分で逃げたのか? それとも奴が連れて行ったのか?」
「黒い渦のような魔法でエルザ達を消したんだ。あいつが言うには出口まで転移させたとか…」
転移魔法…だと? そんなものまで使えたのか?
いやあり得ない。使えたとしてたわざわざ奴隷のガキ相手にそんなものを使うか?
どこかに閉じ込めたのか、それとも本当に消滅させたのか。
くそ、面倒なことになりそうだ。
「…どっちにしろここから出ないことには始まらないな。ジェラール、お前はどんな魔法を使う?」
「実はまだ使えるようになって間もないんだ。だけど高速で動いたり光の魔法を使ったりできた。」
高速移動と光の魔法。抽象的すぎてどんなものかは見当がつかない。
俺の魔法についても話しておくべきか…だが俺のは少し特別だ。
何せ俺がこの世に生まれてから一度たりとも俺と同じ魔法を使うやつを見たことがない。
その中でも特別な竜迎撃用魔法。
『滅竜魔法』
相当に珍しい魔法だ。そして俺の体内にこの魔法のラクリマを埋め込まれていることを知られたら間違いなくバラされて奪われる。
こいつはそんなことしないがこいつの口から誰かに伝わる可能性はある。
特にここの連中なんかは血眼になって奪いに来るだろう。
「…レン。」
「…ああ。」
しかしどうやら考えている暇はないらしい。
すぐそばに人の気配。しかも特別凶悪な。
ギィィと牢屋の外の扉が開かれる。コツコツとブーツの音が響きわたる。
そして俺たちの牢屋の前で立ち止まる。
冷や汗が止まらない。ジェラールを見るとやっぱりこいつも警戒していた。
最悪だ。予想はしていたがまさか初めから詰んでいたとは…
「元気にしておったか? 小僧ども」
そこには最悪のじじいが立っていた。
「フハハハハそう怯えるな。貴様らの考えなど全てこちらに筒抜けだ。故にわしがここに来た。万が一に備えてな…」
じじいは得意げに笑う。
「ところで…貴様には心底がっかりしたぞ? 確か…レン、じゃったか?」
「せっかくわしが貴様を見込んでやったというのに…その仕打ちがあの裏切りとは、少し仕置きが必要なようじゃな!」
じじいはそういうと有無を言わさず牢屋の外から俺に魔法を当てて来る。
闇のオーラ、それは死を擬似的に体感させる魔法。
「あが!!! ウァァァ…ぁぁぁぁぁぁあ!!!!」
激痛で牢屋の中をのたうちまわる。まずい…また意識が遠のく。
このままじゃ…
「レン! 大丈夫か!! やめろ!!」
ジェラールが俺の前に立ち庇う。さすがのじじいも現在の器であるジェラールを痛めつけることはできないのか、魔法を止める。
助かったのか…
いや、まだだ…
俺の前に立っているジェラールは俺にわかるように頷く。ああ、こいつも同じ考えか。
奴は油断してる。激痛でほぼ身動きの取れない俺、そして後はジェラール1人だけ。奴が牢屋を開けた時、この牢屋の魔法解除装置は一時的にオフになる。
だから奴が牢屋を開けたその瞬間、俺はあの魔法を使う。
ジェラールもそのつもりだろう。2人で本気の魔力をぶつければいくらこいつでも間違いなく倒せる。
「フハハハハ! 新たなる器に感謝するのだな出来損ないが。まぁいずれ貴様は地獄行きになるが。」
そう言って俺のことをまるで虫けらのように見下す。好きに言ってろ。
俺は生きる。こんなところでは死ねない。
「さて、では器よ。こちらに来い。」
やはり用心深いのかじじいはまだ扉を開けずジェラールに来るように命ずる。従わないわけにはいかない、ジェラールは従順なふりをしてその言葉に従う。
「レン、貴様はここで待っていろ。いずれ裏切り者に相応しい地獄に連れて言ってやろう」
そう言って扉を開ける。
その瞬間を俺たちは見逃さなかった。
ジェラールは両手から溢れ出そうなほどの大きさの光弾を、そして俺は…
「死ねクソじじい。邪竜の咆哮!!!」
口から全力のブレス。この塔に来て、幾多もの涙を、恐怖を、絶望を、そして死を喰らい続けてきた。つまりこの一撃は貴様への怨みの一撃。
「な…」
じじいは驚愕し、魔法を展開しようとするがすでに遅い。ジェラールの光弾が身体中に当たり、魔法陣は崩壊する。
そして俺のブレスがその体を飲み込んだ。
爆音と地鳴り、そして眩しい明かりが見えた。どうやら邪竜の咆哮はこの塔を貫通して外まで行ったらしい。想像以上の威力だった。
「やったな、レン!」
「ああ…だが悪い。もう魔力が…」
くそ、せっかくじじいを始末したってのに体が動かない。この爆音と惨劇だ、すぐに他の奴らが駆けつける。
ここまでか…
「フハハハハ!」
どこかで聞いたことのある笑い声。邪悪で気味が悪くて、そして恐ろしい。
ああ…終わったな。
「…やるではないか。想像をはるかに超える魔力じゃっだぞ2人とも。だが…詰めが甘い、やるならもっと徹底的にやらねば…わしは倒せん。」
そこには右手を失い、瀕死の状態ながらもこちらを見て不敵に笑っているじじいがいた。