オルガル(仮)   作:since

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 日本は世界的に見ても犯罪率が低い国だ。殺人事件だってOECD加盟国では3位だとかいう話を、テレビだかなんだかで聞いた覚えがある。だから「日本は治安がいい」とか「日本は安全な国だ」なんて海外でも言われているらしい。

 

 それを踏まえたうえで思う。

 なんだこれ……。

 

 久方ぶりの連休をのどかな町にでも出かけて過ごそうと旅行を計画し、ホテルに向かう途中のことだった。白いコートを着たやつが破壊の限りを尽くしていた。周囲のビルのガラスや信号機、さらには通りゆく車など、ありとあらゆる物を壊していた。さらには念力でも使っているのか人を宙に浮かせ、ボールのように壁や地面に叩きつけていた。

 

 いわゆる通り魔と言うべきだろうか。……それも超能力で人を襲う通り魔。フードを被っているために性別は分からない。

 ……いや、そもそも手に紫色の光を集めて念力のようなものを使っている時点で、本当に人間なのかも疑わしいが。

 

 とはいえ、人間でないとすると何なのか。

 

 即座に「夢」という可能性が思い浮かぶも、自ら頬を抓ることによって否定された。

 そうこうしているうちに“白いコート”がゆっくりとこちらに近付いてくる。

 

 

 「マズいのですよ」

 

 ふと隣で声がした。

 そちらを見ると、中学生くらいの女の子がいた。女の子はアニメのキャラクターを模したような変てこな帽子を抱き締め、後ずさりをしている。

 

 「とにかく、逃げるよ!」

 

 俺はそう言って女の子の手を掴んで走る。

 

 「お兄さん、見えているのですよ?」

 

 女の子の言葉に、チャックでも閉め忘れたのかと後悔する。チャック全開で女の子の手を取り、走る。事案だ。通報される。

 

 「って、今それどころじゃないでしょ!!!」

 

 寧ろ通報大歓迎な状況だ。というか、既に通報済みだ。早く来いよ警察!

 

 「一応、警察は呼んでるから!」

 

 そう女の子に言った直後、後ろの方で爆音が鳴り、振り返ると“白いコート”が弾けていた。

 “白いコート”は倒れたままぴくりとも動かない。よく分からないが、逃げるには好機と足を再び早めようとすると、変てこ帽子の女の子に手を放される。そして、すたすたと“白いコート”に近寄り、さらにはペタペタと触り出した。

 

 「ちょっ!? 何やって……」

 

 言葉が続かなかった。

 “白いコート”が唐突に霧散したのだ。青紫の煙を出しながら消えていった。残ったのは青色の三日月の形をした石ころだけ。

 てか、石ころはどこから現れたんだ……?

 

 「えっと……、その……、君が何かしたのか?」

 「違うのですよ。シルビアちゃんがやってくれたようなのですよ」

 「シルビアちゃん?」

 「シルビアちゃん、ありがとうなのですよ。ちゃんと確認したのですよ」

 

 どうやらインカムで連絡を取り合っているようだ。

 うん、意味分からん。

 通り魔が念力使って暴れてたけど、中学生くらいの女の子が友だち?と倒したようで、通り魔は煙となって消えた? 何そのSF?

 

 「さて、お兄さんにはお話があるのですよ」

 

 女の子は通信を終えたらしく、こちらに向き直る。

 

 「いや、こちらとしても訳が分からないから、説明してくれるなら大歓迎なんだけど……」

 「しずくはしずくなのですよ。まさかいきなりホテルに連れていかれるとは思わなかったのですよ」

 「人聞きの悪いことを言わないでくれ」

 

 単純にホテルのチェックインの時間が迫っていただけだ。そもそも男性専用のカプセルホテルなので、今だってロビーで話している。

 通りすぎる他の男性客の視線が気になるのは自意識過剰だろうか?

 

 「それで、さっきのは一体……?」

 「夜獣なのですよ。普通の人には見えないので、オルタナという特別な才能を持った女の子が倒しているのですよ。オルタナの女の子たちに感謝するのですよ」

 

 普通の人に見えない? 特別な人間だけ見える?

 その人たちが影で平和を守ってる的な?

 何それ、どこの漫画? それともラノベ?

 

 「いや、でもちょっと待って。俺にも見えてたけど……。俺って、その、いや、まあ仮にだけど普通の人じゃないとかだったり……?」

 「だから、こうして話しているのですよ。お兄さんには、オルタナの女の子たちのキャプテンになってほしいのですよ」

 

 本当にお約束展開ではありませんか。

 ただ、キャプテンと聞いて即座に思い浮かぶのは、義手で長い黒ひげの船長だが、自分は両手とも正真正銘自分のものだし、ひげも剃ってる。

 

 「キャプテンはオルタナの女の子たちに指示を出すのですよ。キャプテンの指示によってオルタナの女の子たちは、もっともっと活躍できるようになるのですよ」

 

 指示ということは、軍師とか監督的な存在だろうか?

 

 「いや、でも戦略とかの知識なんてまったくと言っていいほどないんだが」

 「これから学べばいいのですよ。男の人でありながら、夜獣が見える人は特別な力を持っているのですよ」

 「特別な力?」

 「まず、指示を出さないにしても、オルタナの女の子たちの近くにいるだけで、オルタナの女の子たちは通常の3倍以上の力を発揮できるのですよ。体力攻撃防御素早さ300%アップなのですよ」

 

 何そのチートアイテム。

 いや、アイテムというか人だけど。

 

 「自分で戦ったりとかは?」

 「出来ないのですよ。本人が戦っても弱いので、オルタナの女の子たちの後ろで指示を出すことで貢献するのですよ」

 

 女の子に戦わせておきながら、後ろで命令だけ出すってどうなんだ……。超絶格好悪い。

 

 「そんなわけで、お兄さんにはキャプテンになってほしいのですよ!」

 

 暫し考える。

 正直、悪い話ではないと思う。女の子たちとキャッキャウフフしつつ、世界の平和を守る。間違いなく、漫画やラノベの世界ならば、主人公的な立ち位置。

 

 「ふ、ふむ…………い、いや俺の会社忙しいからそんな暇ないし……」

 「もちろん、ちゃんとお給金は払われるのですよ!」

 

 なん…だと……?

 

 「国から助成金を貰っているので、問題なく出せるのですよ。というか、いわゆる公務員なのですよ。一般に公表されていないだけなのですよ」

 「何で公表されてないんだ?」

 「いつでも見えない夜獣から襲われる可能性があるなんて伝えれば、きっと混乱に陥るのですよ。だから隠しているのですよ」

 

 え、なにこれ本当に夢じゃないよねこれ。

 

 「でも安心していいのですよ! オルタナの女の子達が守ってくれるから、危険はそんなにないのですよ! もちろん、福利厚生もしっかりしているのですよ! 社会保険完備なのですよ! 社宅ではないですが、寄宿舎に無料で泊まれるのですよ! オルタナの女の子たちも、みんないい子ばかりで、明るく和気あいあいとしたアットホームな社風なのですよ!」

 

 女の子に守ってもらうというのは格好悪い気もするが。

 というか、最後のに至ってはブラック企業の謳い文句じゃなかったっけ……?

 そもそもこのしずくちゃんは何者なのか。

 

 「しずくは妃十三学園の秘書なのですよ」

 「妃十三学園?」

 「オルタナの女の子たちは、学業と夜獣討伐を両立しないといけないのですよ。でも、普通の学校だと途中で抜け出すわけにはいかないのですよ。そして、夜獣を倒すのに必要な知識もここで学ぶのですよ」

 

 つまりは専門学校か……。あるいは一般の授業も行う警察学校や防衛大学みたいなものか……。

 というか、秘書って……。正直中学生くらいの子と思っていた。 

 

 「そのキャプテンというのは、貴校の教員といった解釈で宜しいのでしょうか?」

 

 秘書と聞いて即座に言葉遣いを改める華麗な掌返し。

 しずくさんは「興味ありなのですよ!」やら「脈ありなのですよ!」などと騒いだあとに説明を始める。

 

 「教員というより、アドバイザーなのですよ。さっき言ったように戦闘に関する助言を行ったり、あとはオルタナの女の子たちも年頃の年女の子なので相応の悩みがあるのですよ。寧ろ、オルタナであるだけに普通の女の子より悩み多き乙女なのですよ」

 「お悩み相談の相手でもすれば宜しいのでしょうか?」

 「その通りなのですよ! それから、あとは雑用をするのですよ!」

 「雑用とは?」

 「妃十三学園は全寮制の学校なのですよ。だから生活全般を支えて欲しいのですよ。いわゆる寮長なのですよ」

 

 女子寮の寮長が男ってのは、どうなんだ……。

 薄い本にはよくある展開だが。

 

 「もちろん、手出しはNGなのですよ! キャプテンとオルタナの女の子には信頼し合うことが必要不可欠だから側にいさせるだけなのですよ! 信頼し合うことによってキャプテンのオルタナ能力上昇の効果がはね上がるのですよ」

 「ということは、両思いとかになれば最強になるのでは……」

 「駄目なのですよ!」

 

 「バン!」と思いきり机を叩いたしずくさんは、叩いた手が痛かったらしく涙目でこちらを睨む。

 

 俺のことが好きだからオルタナとやらに取られたくないとか……?

 

 「気持ち悪い顔をやめるのですよ。キャプテンはオルタナの女の子たちと恋愛をしてはいけないのですよ」

 

真面目な顔で、しずくさんはその理由を話し始めた。

 

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