しずくさんと話して丁度1週間である昨日、妃十三学園から内定が出た。正確には妃十三学園ではなく、妃学園グループの職員として採用が決まり、配属先が妃十三学園だった。
妃学園グループは十数の学校の運営を行っているようで、運営する学校は妃十三学園を除いて、ごく普通の人が通うごく普通の学校だそうだ。
妃学園グループは普通に転職サイト等で調べた限りではホワイト企業だし、元の会社よりも良さそうだったので、転職に躊躇いはそれほどなかった。
しずくさんから「明日、○○駅に行くのですよ。学校までは迷いやすいから、委員長っぽい子に学校まで案内をさせるのですよ」と連絡を頂いたのだが、まだ来ていないみたいだ。
適当にスマホで暇潰しでもと思っていると、黒髪長髪ストレートのザ・委員長っぽい女の子が走ってきた。いや、委員長というよりは口うるさい風紀委員の方がぴったりな気もする。
風紀委員っぽい子は「はぁはぁ」と息を切らしながら「若菜です。雪城若菜です。待たせちゃいましたか?」と尋ねてくる。
うん、凄く色っぽい。
そして当然「いや、今来たところですよ」と返す。
何か彼氏彼女っぽくてドキドキする。
恋愛禁止?
確かにしずくさんに言われて、何度も念押しされて、「教員が生徒と恋愛とかあり得ない」と断言したよ。
でも、嘘に決まってる。
ハーレム展開がすぐ前にあるというのに手を出さないなど、それこそあり得ない。汗を拭きながら「それなら良かったです。これから、よろしくお願いしますね」なんて笑顔で言ってくる黒髪長髪ストレート美少女に興奮しないなんてこと、あり得るわけがない。寧ろ、興奮しない方が失礼だ。
「キャプテンはどちらからいらしたんですか?」
「隣の県から。旅行中に夜獣というのに襲われて、しずくさんと会って、そのご縁で妃十三学園に。……って、まあ1週間前の話なんですけどね」
雪城さんは「ふふっ」と微笑んで、
「しずくさん、喜んでましたよ。キャプテンは中々見つかりませんから。私たちもキャプテンが見つかったと聞いて、とても驚いたんですよ」
どうやらキャプテンが希少な存在であるらしい。
「あ、もう見えますね。あれが妃十三学園で……、って、あれ?」
雪城さんが示す方を見てみると学校があり、そしてその門の前に生徒が数人集まっていた。
「みんな何してるの?」と雪城さん。
「それがですね……。新しい人が来るってなったら、みんな集まってきちゃって……」
雪城さんは茶髪ロングの、いかにも育ちの良さそうなお嬢さんと話し出す。というか、この茶髪の子はあれだ。絶対に生徒会長だ。話し方から仕草から母性溢れる生徒会長感が滲み出ている。
「若菜ちゃん! 聞いて聞いて! 今日からね、私たちのキャプテンが来るらしいんだよー!」
雪城さんと生徒会長(推定)が話しているところに元気よく赤髪の子が乱入する。
キャプテン。俺のことですね。
「って、あれっ? えっと……、もしかして……、あなたが……?」
「キャプテンとして妃十三学園で働くことになりました。よろしくお願いします」
「キャープテーン! こちらこそよろしくー!!!」
「み、美弥花! いきなり失礼でしょ!」
「ごめんなさい。この子、ちょっと頭がお花畑で……」
雪城さんが赤髪の子を嗜めるが、頭がお花畑と紹介するのは赤髪の子に対して失礼ではないだろうか……?
「むむっ……! この気配は……」
女子校生との楽しいお喋りを邪魔する声に振り向くと、そこには白い変てこな生物がいた。言葉こそ人間の言語を話しているが、どう見ても人間ではない。身長は恐らく50㎝もなく、尻尾があり、目や鼻、口以外は真っ白な生物。さらには宙へ浮かんでいた。
近くにいた雪城さんを庇うように珍妙生物の前に立つ。
「お前は?」
「何を言ってるメロ? メロはメロメロ」
ふざけた回答をする小さな白生物だが、“白いコート”と同じ夜獣であるならば念力みたいな超能力を使うかもしれないので油断はできない。
というか、咄嗟に庇うように前に出たけど、オルタナの方が強いんだっけ……?
「キャプテン、メロがどうかしたの?」
「いや、どうも何も……」
「って、今はそんなこと話してる場合じゃないメロー! 夜獣メロ! 敵が来たメロー!!!」
白生物のそんな言葉に女子校生たちは「えっ?」とざわつき始める。
「えっ? 大変! こんなタイミングに!?」
雪城さんは普通に白生物と会話を始める。
え?
何、この白生物?
仲間なの?
「お前がキャプテンメロ? それじゃあ、さっそく腕前を見せてもらうメロ!」
なぜかドヤ顔する白生物。
「……雪城さん」
「はい! 何ですか?」
「えっと……、この白いのは夜獣じゃなくて仲間なんですか?」
そう尋ねた瞬間、白生物から体当たりを食らった。
「メロはメロメロー! メロを夜獣呼ばわりするとか、キャプテンはぽんこつキャプテンメロ!!!」
「メロ! 何をしているんですか!?」
駆け寄って手を取ってくれる雪城さんマジ天使。
「キャプテン、メロちゃんは仲間です! 今はあまり話している時間がありませんので、失礼します!」
「キャプテン! あとでいっぱい話そうね!」
そう言って生徒会長(仮)と赤髪の子は走っていく。
「お前も行くメロー!」
白生物に蹴り出され、生徒会長(仮)たちのあとを追う。
「白生物! 行くのはいいけど、俺はまだ指示とか出来ないぞ!」
「白生物じゃないメロ! メロはメロメロー!」
「キャプテン! 戸惑われてると思いますが、私もメロもサポートしますので安心してください」
メロメロうるさい白生物に期待は出来ないが、雪城さんと一緒なら大丈夫だと思い、先を急ぐ。
来るときは人生初のデート気分で、雪城さんにしか気が向いていなかったが、妃十三学園はそこそこ高い山に位置しているようで、慣れているのか土地勘のある女子校生のあとを追うのは一苦労だった。
「いました……。あれが私たちの敵、夜獣です」
それほどスポーツをやっていなかったため、ゼエハアと息を整えていると、雪城さんが話しかけてくる。
顔を上げると、でかい蛙と鳥、鹿人間みたいなやつ、ワニ人間みたいなやつ、そして“白いコート”が町で暴れていた。
「この程度の体力もないやつが指揮を取るのか?」
「真知さん! キャプテンに失礼ですよ!」
生徒会長(仮)と赤髪の子の他に、これまた厳しそうな黒髪長髪の……、というのは雪城さんと被るけど、とにかく厳しそうで剣呑な雰囲気を漂わせた子と、それを宥めるようにする子がこちらへ近付いてきた。
しずくさんが「オルタナは戦闘時には耳が生えるのですよ」などと訳の分からないことを言っていたのだが、その通りに剣呑な雰囲気を漂わせているにも関わらず、猫耳がぴょこんと生えていて、シュールだ。
「安心するメロ! メロも手伝って、きちんと指揮を取らせるメロ!」
「ふん。早くしろ」
「真知さん! すみません! すみません、キャプテン! 真知さん少し厳しいところがあるから……」
そんなに謝らなくても気にしないからいいのだが。何というか、宥め役の子が可哀想に思えてくる。
「じゃあ、キャプテン! オルタナと同期するメロ!」
何言ってんだこの白饅頭。
「く……! こんなことしている場合か! 私は一人でも戦える。同期とやらが出来るようになれば、また呼んでくれ」
「あ、真知さん! キャプテン、私も時間を稼いでくるので、その間に準備をお願いします!」
「真知っちー、詩音ちゃーん待ってよー! 私も戦えるよー!」
同期というのが出来ない俺に痺れを切らしたらしく、厳格女が夜獣の方へ走り出し、生徒会長(仮)も赤髪の子もそれに追随して夜獣の方へ行ってしまった。
これ、キャプテン失格なんじゃ……?
「もう……。あの子たちは……」と眉間を押さえる雪城さん。これで雪城さんにまで見捨てられていたら、ショック死していたかもしれない。
「とにかく、今は同期を急ぐメロ! のの! 手伝ってくれメロ」
「わかりました!」
宥め役の子も残ってくれていたので、早速同期とやらを試みる。
「とにかく相手をイメージするメロ。それでポワッとしたところにググッとして、ふわっとしたら同期出来てるメロ!」
この白生物殴ったろか……。
しかも、さっきあったばかりの子をイメージとか、そんなに簡単に出来るわけがない。
「白生物。その子は殆ど話したこともないし、イメージするのは難しすぎる。雪城さんじゃ駄目なのか?」
「えっと……」
「白生物じゃないメロ! 若菜はまだ覚醒していないメロ……。そんなに細かく考えないで何か一個でも強くイメージしてみるメロ!」
それを先に言えよ白饅頭。
「すみません、キャプテン。私が覚醒していないばかりに……」
「若菜さんが悪いわけじゃないですよ! それに若菜さんならすぐに覚醒するはずです」
うん。一個のイメージね。
凄く簡単だった。
宥め役の子はとにかく何事も穏便に、みんな仲良くといったイメージ。
そうイメージすると、頭に宥め役の子の使える魔法?などの情報が入ってきて、さらに視界が一つ増えた。
……これは宥め役の子の視界だろうか……。
まるで監視カメラでも見ているようで、頭の中に宥め役の子の視界が自分の見ている視界とは別に出来た。
「凄い……。力が溢れてるみたいです!」
宥め役の子もキャプテンの能力の攻撃防御素早さ3倍とやらになっているようだ。
すぐさま、生徒会長(仮)と赤髪の子、厳格女もイメージする。
生徒会長(仮)は母性溢れて何でも出来ちゃう万能超人かつ聖人のイメージ。赤髪の子は元気いっぱい、溢れる笑顔で太陽のようなイメージ。厳格女はとにかく他人に厳しく、高圧的で、傲慢で、自分勝手なイメージ。
イメージをすると一気に視界が三つ増え、成功したことが分かった。
それと同時に、厳格女の視界から生徒会長(仮)に後ろから敵が来ていること、生徒会長(仮)の身体能力なら屈むだけで避けられることが分かった。
「会長屈んで!」
生徒会長(仮)とは結構な距離があったのだが、きちんと聞こえたらしく、屈んで攻撃を避けて反撃に移る。
そして脳内に声が響いた。
【ありがとうございます!】
「え?」
戸惑っていると、白饅頭が説明を始めた。
「オルタナとキャプテンは同期してるから繋がってるメロ。だから、声を出さなくても、伝えたいオルタナに意識を向けるだけで、伝えたいことは伝わるメロ」
何じゃそりゃ。
「でも、少し羨ましいです」
覚醒とやらをしていない雪城さんの呟きに「すぐに一緒に戦えるようになるよ」と返し、「無駄に叫んでたキャプテンは滑稽だったメロ」とほざく白いのを殴り倒して指示を続けた。