フラグはここからどんどん立って行きます。
過去話、いつ終わるんかな、と書いてて思うのですが、もうちょい。
そして登場しない影の薄いメインヒロイン達。
「不幸だわ」「空はあんなに……。あ、夕日だったわ」
夕刻をやや過ぎた頃。
海軍で言うところの1900時頃である。ゲシュペンスト(=玄一郎)は台湾経由でこちらに来る輸送艦と飛行艇をそのレーダーで捉えた。
事前に近藤大佐からフィリピン泊地の寄生生物を駆逐するための三式弾等を積んだ輸送船と、命令伝達用に飛行艇が来ると聞いていたので、その旨、深海棲艦側にそう伝える。
「しかし、話を聞いてるとあんたらの本拠地……大本営?とか言ったか。かなりの騒ぎになったんだなぁ。いや、大淀さんに頼まれたものの、俺は単に報告書を送るだけだと思ってたからなぁ」
コリコリ、と頭部を人差し指で掻くような仕草をして、玄一郎はそう言う。
「今回の事件で、上層部の人間がかなり更迭されたらしい。政府の役人から官僚、政治家もな。内乱罪が適応されるらしいが……。本国に帰ってみないとどれだけの規模の検挙かはわからんが、ううっ、なんというか帰りたくないな、これは」
「そうよねぇ。帰ったは良いけれど、とばっちりで私達まで更迭とか……無いわよね?」
土方が、ウェアラブルPCでまた何か書類を書いている大淀に恐る恐る話しかける。
「大丈夫ですよ?まぁ、少なくとも、松平准将の指揮下にある方達は特に白鳥財閥系や縞傘財閥系との癒着もありませんし、それに軍主導派の芹沢派とも協調もありませんでしたし」
「……なんというか、ピンポイントで全部やらかしてるじゃねぇか。一斉粛正って言われても仕方ねぇぞ?」
「中倉翁の意向です。まぁ、正直な所、私も中倉翁がそこまでやらかすとは思っておりませんでしたが、これには元海軍元帥の山本閣下の依頼もあったようなのです」
「……はぁ?いや、何故そんな事がわかるんだ?」
「いえ、これです。ゲシュペンストさんに頼んだのは書簡の輸送もそうなのですが、これの通信機能を日本の中倉翁の所と繋げてもらったのです。ダイレクトに話せて便利ですよ?」
大淀が、ほら、と画面を見せると、そこには年老いては要るが眼光鋭い着物姿の人物が映っていた。
大淀がイヤホンマイクをはずすと、その画面の人物の咳払いの声がスピーカーから聞こえてきた。
「うおっほん!ワシが中倉利道じゃ。ふぅむ、お前らが松平財閥の小倅んとこの部下って奴らか?」
「「「どぉわぁぁぁっ!!しゃ、喋ったぁ?!」」」
近藤、土方、沖田が画面から退く。
「あん?失礼な奴らじゃ。まぁ、ワシもこの……なんつったか?この板っきれに大淀ん顔が移って話し出した時は驚いたがのう。本当に信じられん技術だが、まぁ、そんなモンはどうでもいいわい」
中倉利道。通称、中倉翁。
政界の最古株の政治家にして、元陸上自衛隊陸将の肩書きも持っており、最後の自衛隊陸将だった人物である。
政界入りした後、深海戦争勃発当時に陸上自衛隊を日本陸軍として再編した立役者である。
そのため日本陸軍との強いパイプを有し、左派によるクーデター時には、やんごとなきお方達を北海道へと連れだし、そして左派達から守り抜いた筋金入りの人物でもある。
今は政界を退いた身ではあるが、その発言の影響力は未だに健在であり、目をつけられたならば、逃れる術は無いとも言われる程に恐ろしい人物として知られている。
なお、旧・自衛隊や陸軍関係者には珍しく艦娘に対しての理解があり、艦娘擁護派では無いが大淀を娘同然に思っているため話のわかる人物でもある。
後に『新・艦娘法』、つまり『艦娘人権法』とも呼ばれる法案や『ケッコン・カッコカリ』や艦娘と人間の結婚を認める様々な法を推し進め『艦娘人権の父』と呼ばれることになる人物であった。
そんな大物と直接話をするなど、近藤達も思ってはいなかった、というよりもそんな機会など欲しくは無かった。
なにしろ画面から、かなりのプレッシャーがずぉぉぉん、とのし掛かるように放出されている。
(こ、これが……深海棲艦を生身で倒し、北海道にて左派政権を寄せ付けず、日本の象徴を守り抜いた男か……!)
近藤などはもう、中倉利道のそのプレッシャーにかなり圧されていた。
顔には無数の傷がある。その傷は深海大戦の初期にただの陸自のレンジャーアックスで深海棲艦と戦闘を行った際についたものであるとされる。なお、公式記録としてその戦闘で彼が倒した深海棲艦の数は三体。陸軍最強の男として当時は新聞を賑わせた男でもあるのだ。
チラリと大淀の方を見るが、大淀はにこにこと笑うだけで近藤達の心境などわかってはいない。おそらくは身内同然なので慣れてしまっているのだろう。
「今回の一件は、左派共の生き残りがヤケクソんなって起こしたバイオテロである。こちらで捕らえた連中は復讐兵器とかなんとか呼んどったらしい。アホな連中じゃ。逆恨みに捕らわれてそんなものを作りおって。何が艦娘は人類を滅ぼす、じゃ。そんな兵器を使えば艦娘どころか人間も滅びるわ」
「つ、つまり今回のフィリピン泊地でのテロは、旧左派の引き起こしたテロ、だと?」
「ふん、縞傘財閥は前の左派政権時に成長した企業体じゃが、現在、その内部は旧左派の生き残りに巣くわれとってな。とはいえ、奴らは愚かな思想で動いとる癖にこれが賢しい。尻尾がなかなか掴めんかったが、大淀のおかげで今回の一件で全ての絡繰り、そして連中の罪が暴かれたのじゃ」
「つまり、奴らはあの研究施設の中に様々な犯罪の証拠を?」
「うむ、海外への武器や物資の横流しに、艦娘の人身売買、様々な証拠から関わった政治家、陸海空の軍人達のリストまで残しておったのだ。前々から臭いとは思っておったが、その周辺海域は激戦地という報告から、なかなか査察も入りにくかった。しかし、ようやっと連中を一網打尽に出来たと言うわけじゃ」
(激戦地、ねぇ。その割にはあの研究施設、全く被害が無いのよねぇ)
沖田少佐はそう思ったが、口には出さなかった。
なんとなく、その絡繰りはこのゲシュペンストの無人島拠点に来て、寄生生物駆除のために入渠していく深海棲艦達を見ていて感づいていたのだ。
どの深海棲艦達も、全く艦娘達に対しての敵対心も持ち合わせていない。
それどころか、艦娘に対して挨拶をしてくる者や第二基地・提督の柳生が救出された事に対して、怪我はないか?とかお大事に、とか言ってくる者もいたのだ。
それでわからぬわけは無い。
ようするに、フィリピン泊地の提督達や艦娘達は元々深海棲艦達と密約を結び、平和的にやりとりをしつつどちらにも損害の出ないように戦う振りをして戦果を捏造して大本営に報告していたのだろう。
おそらくは上層部はその事をとっくに知っていたのだろう。
そして、それを黙認しつつ利用したのだ。それはその方が彼らには都合が良かったからだ。
長引く戦況は激戦地だと大本営や政府に報告するにはもってこいであっただろうし、また、激戦地とあればなかなか査察も入ることは出来ない。
(……平和主義な人達を隠れ蓑にして、奴らは隠れていたのか)
沖田少佐は、ギリッ、と歯を食いしばったが、近藤達は中倉利道の話す内容に集中してそれに気づかなかった。
「国内の掃除はこちらに任せい。そちらは、一匹残らず、バイオテロの事態収集に当たってもらいたい。もう松平の小倅から聞いとるとは思うが、海軍大本営の艦隊に便乗して陸軍の精鋭部隊をそちらに送った。万が一の陸戦を想定しての事だが、上手く使うが良い。指揮権はそちらに任せる。健闘を祈るぞ?」
「は、ははぁーっ!」
もう、近藤達は画面の前で平身低頭、土下座状態でひれ伏した。
「ところで、じゃ。大淀よう、お前を助けたっちゅう、ゲシュペンストとやらは?」
「ああ、そこに居ますよ。ええっと、ゲシュペンストさーん?」
「んぁ?俺か?」
玄一郎は、自分には無関係と思って、流しで洗い物をしていたが、大淀に呼ばれて画面の前に来た。なお、エプロン姿というなかなかにシュールな格好だったりする。
「むぅう、確かに……ロボットだのう」
「ああ、ロボットの身体だが?」
「いや、すまんな。人ならば顔を見ただけでその人となりがわかるが、流石にお前さんの顔ではようわからん!」
中倉利道はワハハハハと豪快に笑った。
「まぁ、表情なんぞ無いからな。で、爺さん、俺に何か用か?」
怖いもの知らず、というのか、日本における重鎮・中倉利道を玄一郎は、なんだこの爺さんは、と言う感じで平然と答える。
「いや、なに。ウチの大淀を助けてくれたらしいからな。親代わりとしては、やはり礼を言うべきじゃろうと思ってな」
中倉利道の先ほどの厳めしい顔が、神妙な表情にかわる。
「ああ、そんな事か。礼なんぞ要らない。助けれるなら助ける。いつもの事だ」
玄一郎はそう答える。実際のところ玄一郎は命が奪われるのを見るのを嫌っている。
旅をして多くの死を見てきた。
軍隊のゴロツキに殺される村人達。餓死で皆、全滅した村々。独裁者に虐げられ、奴隷のように扱われて死んでいく者達。反抗ゲリラとなって大事な人達を守るために死んでいった若者達。
旅の中で、助けられた者達もいるし助けられなかった者達もいる。仲良くなって笑いあった者達が、数日もしないうちに、屍をさらす。
そんな体験をするうちに、玄一郎は人々の死を嫌うようになっていた。だから、助けてきたという、そういう面がある。
普段は、本来隠すべきはずの、スケベ心で可愛い子や綺麗な子は助けなきゃ!という面を見せているが、いや、それは本音なのだが、それでも、いつも助けて、助かってくれてありがとうと思ってしまうのだ。
「……大淀はな、ワシの息子の側に居て、そして息子が死んだ後もワシの元に残ってくれた娘同然の艦娘なのじゃ。ワシからすれば助けてくれたお前さんにはどれだけ礼を言っても言い足りると言うことはない」
中倉利道は深々と頭を下げた。
「画面越しですまんが、礼を言わせてくれ。誠にうちの娘を救っていただき、感謝のしようも無い」
「いや、まぁ……」
玄一郎は礼を言われる事に慣れてはいない。というか偉そうな、いや実際にかなりの地位にある人物なのだが、そんな人物に頭を下げられて恐縮しない者はいない。
「あー、頭を上げてくれよ。助けたっても、高速修復剤ぶっかけて拠点で寝かせただけなんだからよ?」
「それでも、だ。お前さんにはそれだけでも、本人、家族にとってはそれほどに大事な事じゃ。ワシも、戦場で多くの部下や国民の死を見てきた。深海大戦が始まって、ワシらの力足らずどれだけの命が失われていったのか。それゆえに、お前さんの行いは、賞賛しつつ礼を言うほどに尊い。もう一度言いたい。ワシの娘を助けてくれて、本当にありがとう、と」
「いや……。本当に、やめてくれよ、慣れてないんだ、こういうのは!つか、俺だって助かってくれて、ありがとうなんだぜ?いや、変な事言ってるかも知れねぇけど、この世界を旅して、救われることなく死んでいく人達を見てきた。だから爺さん、あんたの気持ちは、良くわかるが、もう礼は充分だぜ」
玄一郎は、内心、止めてくれと思った。中倉利道の話は、過去に見た、ウィグルや中東での出来事を思い出させて、トラウマをえぐられるような気分になった。
「……そうか、なるほど。ウィグルを解放した『黒い魔神』に、中東の英雄に力を貸し、中東の大連合を成立に尽力した『黒き亡霊(シャバーハ)』。なるほど、お前さんの事じゃったか。様々な情報を見たが信じられんような話が多くてな。『魔神が数多くの戦車をひっくり返し、投げ飛ばして進んで行った』とか『ただ一人でライフルの弾が飛び交う中を悠々と歩き、ただの一人の死人も出さず、銃器のみを破壊してうち勝った』とか言われても与太話かと思っとったが、なるほどなるほど!」
「……いや、そんな事はしてないぞ。単にジープをひっくり返したり、こっちを見た敵の兵士達が銃を捨てて逃げ出しただけだ」
とは言え、まぁ、似たような事はやったので、それは自分の事なんだろうな、とは思った。
まぁ、話とは人伝にどんどん誇張されていくものだ。
とはいえ、玄一郎もあまりウィグルでの事や中東での事はあまり思い出したくなかった。正直、玄一郎にとって、それは人の作り出す地獄だったからだ。
その地獄を許せず、玄一郎は戦った。しかし悪い記憶だけでは無く良い記憶もあるが、もうそんな経験はしたくは無いと思っている。
「そうか……。お前さんもまた、戦場を見てきたか。世界中に、深海棲艦の被害のみならず人の戦乱も数多くあるが……。お前さんがあと30年、いや20年顕れるのが早ければ……いや、よそう。とにかく、お前さんとは一度会って話をしたいものじゃ。……日本に立ち寄った際は、是非ワシの屋敷に来てくれ。無論、軍に手出しはさせん」
(……実際、あんまり行きたくねぇな。まぁ社交辞令を言って話を打ち切るか)
玄一郎はそう思った。なんとなくそれが良さげに思ったのだ。
「ああ。立ち寄ったら行くぜ。いつになるかはわからんけどな」
いつになるかわからない、つまり、イコール、行くかどうかわからない作戦である。
「うむ。ワシの命があるうちにな。墓ん下では話も出来ん。お前さんが亡霊でもな?」
そう言って、中倉利道はまた一礼した。
その後は、また大淀と話があると言い、大淀に代わったが。
まぁ、ヘッドセットを大淀が接続した為、その内容はわからなかった。
また、玄一郎もそれを盗聴しようとは思わなかった。何というか、トラウマを刺激された後で聞きたくはなかった。
(……ふぅ、やっと話が終わったぜ。しっかし、大淀さんもかなり愛されてんだなぁ。まぁいい爺さん、か?)
などと思って、そそくさと再び流しの洗い物に取りかかったのだったが……。
「ヒソヒソヒソ……。のう、ヤツをなんとか籠絡するかなんとかして、日本に連れて来れんか?」
「ヒソヒソヒソ……。ええっと、無理なんじゃないかと思いますけれど、その、オーストラリアに向かう予定だったとか言ってますし……」
「そこをなんとか、ホレ、お前の頭脳ならこう……いろいろと、な?この通信機やらお前に渡したコンピューターとか、もう今の最先端なんぞ遥かに凌駕しとる!それにワシゃヤツが気に入ったぞ!人間だったならば、養子にしてお前を嫁にやっても良いぐらいに気に入った!」
「ええっと、ゲシュペンストさんはロボットですし。流石に……。いえ、素敵な方ですけれど。人間でしたら、その……確かに」←ぽっ、と頬を赤らめている。
「ヤツはのう、ただの一人で貧しい村人達を救い、ウィグルを解放し、中東では武装テロ組織の跋扈する石油産地を無血で取り戻し、独裁者を倒し、人々を救った。それほどの武勇伝を持つ。何より、中東がさらに安定したならば、ヤツの口利き如何で原油をさらに融通してくれるようになるかもしれん。それに日本に味方をさせればどれだけ日本の国益となるかわからん存在じゃぞ?!」
「ま、まぁ、打診はしますけれど、その、はい」
二人がそんなやりとりをしているとは、玄一郎も夢にも思っていなかったのである。
まぁ、これから約数年後、玄一郎がパラオで鹵獲された際にこの中倉利道が影でいろいろと手を回したり、大淀をパラオに送りつけたり、隠居先としてパラオに住み着いたりするのだが、それはまた別の話であろう。
とっぴんぱらりのぷう。
さて。
大淀さんの保護者、政界のドン中倉利道氏この時代ですと73歳。
本編では83才ですが、まだまだ元気なジジィです。本編ではもう隠居してパラオに住んでおりますので、また出てくるかも知れません。