ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 なっがーい!

 いえ、予定通りにやっと来たけどこれまでいろんなキャラが勝手に動いて過去話が終わらない。

 大淀さんとの絡みも進まない。比叡も動かない。

 斎藤さんの活躍とか、天龍と川内の登場も、もうちょい先です。 


【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑳

 

 扶桑姉妹と龍田がゲシュペンストの焼いたパンケーキもどきを食べながら、造田博士の話をあれこれとしている間に、近藤大佐達が島の除染と寄生生物除け作業を終えて帰って来た。

 

 作戦会議は輸送艦に乗った日本海軍と陸軍の増援、そしてこの海域の深海棲艦のボスである深海鶴棲姫こと『深海瑞鶴』とそして海峡夜棲姫の『深海山城』の二人を交えてする予定だが、近藤大佐はとにかく現地の詳しい情報を欲しており、ゲシュペンストと話をするために無人島拠点の厨房に来たのである。

 

「……ここまで増えてんのかよ、寄生生物ってのは」

 

 厨房の大型モニターに表示された、研究施設の各階層のマップの光点を見て近藤大佐は顔をしかめた。

 

 この光点の一つ一つが『感染者』とそしてその『感染者』の身体の中で成長した『成虫』であるが、もはや建物のマップの内は白く、黒い部分ほとんど無い。白が七黒が三で無論、寄生生物が白である。

 

〔フィリピン泊地の第一から第三まで、その艦娘の数は462名。その全てが『感染者』になっている。また、第一基地の提督が密造艦娘が製造していた事を差すリストがあった。人身売買組織に流された者もあるが、大半は研究施設に送られた、とある〕

 

 ゲシュペンストはモニターのスピーカーからそう答えた。いつ聞いても冷静かつ落ち着いた渋い声である。

 

「そうなると、460どころかもっといるってことか?!クソっ、第一のクソ野郎がロクでもねぇ事をしやがって、艦娘を何だと思っていやがる!!」

 

 ドカッ、とテーブルを叩く近藤。おそらく、寄生生物に感染させられた艦娘達の事を思って怒りに駆られだのだろうが、今は、それを怒る場合では無い。

 土方が

 

「近藤さん、落ち着いて」

 

 と言ってなだめる。

 近藤に息を深く吐き出すと

 

「すまなかった。そうだな、今はその時じゃない」

  

 と、この場にいる皆に謝った。

 

 ふむ、この大佐、なかなか良い奴だな?と思いつつ、

 

「あんたの気持ちは良くわかるさ。それこそ、基地を全部更地にしてしまいたいぐらいには俺も頭に血を登らせてんだ。だが、そうだ。今はまだその時じゃない」

 

 と玄一郎は近藤にそう言った。

 

 近藤は真剣な顔でゲシュペンスト(=玄一郎)の方をマジマジと見た。見られた玄一郎は軽口に怒ったのか?とも思ったが、

 

「お前が、海軍基地を破壊して回ったのは、それか?ゲシュペンスト」

 

 と近藤はと聞いてきた。

 まさか軽口に食いつかれるとは思わなかったが、玄一郎はやはり軽く答えた。

 

「そんな所だ。だが、怒りはぶつける時にまで俺は溜めておく主義でね。最後に爆発させるんだ」

 

 肩をすくめて言うと、近藤は少し苦笑いをした。

 

「……ああ、確かに、その通りだ。すまん、説明を続けてくれ」

 

 何か得心の行ったように、近藤の顔から怒りの表情が消えて、何かスッキリした、迷いの無い顔に変わった。

 

〔了解だ。……『感染者』及び『成虫』、その数おおよそ1500。念動フィールドで護られているうちはまともに攻撃は通用しない。その状態で三式弾をいくら降らせたとしても、駆除は容易ではないだろう。ほとんどがすでに『成虫』となっており、『成虫』は念動フィールドが無い状態でも人間や艦娘以上に素早く動ける。さらに近接戦闘能力、装甲値も高い〕

 

 ゲシュペンストはモニターの画面に寄生生物の成虫の姿を映し出した。

 

 寄生生物にとっての『感染者』は言わば成長する際に必要な栄養を提供する動くさなぎであると言えた。

 寄生生物は『感染者』の脊髄神経や中枢神経に自分の神経脚と呼ばれる触手状の動く神経の様な物を伸ばし、その身体のコントロールを奪う。

 

 コントロールを奪われた『感染者』は自らの意思通りに身体を動かせなくなり、意識のあるまま、異常な行動を寄生生物によってさせられる。

 深海鶴棲姫こと深海瑞鶴がおかしな踊りを踊っていたのがそれに当たるが、彼女の場合はまだ完全には寄生生物に身体のコントロールを乗っ取られておらず、身体まで融合されていなかったために高速修復剤による治療が可能だったのである。

 

 コントロールを完全に乗っ取られた『感染者』は意識のある状態で、人や艦娘などを襲うようになる。人間ならばそれは『感染者』や『成虫』のエサとして貪り食われ、艦娘であるならば新たな『感染者』となるように卵を植え付けられてしまう。

 

 また、植え付ける宿主がいなくとも、寄生生物の卵は孵化し、産まれた幼生体は宿主を探して様々な場所へと移動し拡散していく。だが、宿主を探せなかった幼生体の生存出来る期間は短く、約半日程で死滅する。

 

 宿主の中で成長を遂げた寄生生物は『感染者』のその身体を融合吸収をし、皮膚を脱ぎ捨てて『成虫』になるが、『感染者』の姿はあたかもゾンビのようであるが、『成虫』の姿は非常に醜悪な姿をしており、似ている生物を上げようとしても、地球上の生物のどれにも当てはまらないような姿をしていた。

  

 二足歩行の触手状生物に人や昆虫などを混ぜたような形状をしており、おおよそまともな生物とは思えない。しかも、宿主であった艦娘の胴体の形状を鋳型にしたかのような甲殻を持ち、女性のようなフォルムをしている辺りがますます醜悪に見える。

 

「……こんなモンがウジャウジャいるのかよ」

 

〔なお、特殊なタイプが存在することも探索の結果判明している。力が強く腕部に大きな鎌型の爪を持つ『戦闘特化型』、エサとなる人間を巣に運ぶ『運搬型』、腹に卵を多数抱えている『増殖特化型』そして最後に『女王型』だ。どれも通常個体よりも強力かつ厄介だが、『女王』の大きさと質量はかなりの物だ。さらにこれを撃破せねば今回のバイオテロ事件は終束しない〕

 

 ゲシュペンストは画面を四分割して、それぞれを表示し、それぞれの特徴を説明していった。

 

【戦闘特化型】

 

 通常個体より装甲が厚く体格が大きい。その胸部装甲を見るに、重巡クラスに寄生したものが成虫になったと思われる(なお、フィリピン泊地には戦艦や空母は配備されていない)。戦闘能力が高く、体格に比べて動きも素早い。腕部に大きな鎌型の爪を持ち、さらには口から強力な酸を吐く事も出来るためかなり厄介な敵である。

 

【運搬型】

 

 腕部の鉤爪が物を掴むように特化しており、その爪は武器としてだけでなく、エサを捕らえて運ぶ為にも機能している。おそらく軽巡クラスに寄生したものだと思われる。

 

【増殖特化型】

 

 腹に多くの卵を抱えた『成虫』。常にその腹からは寄生生物の幼生体が孵化しつづけており、かなり醜悪な姿をしている。どの艦娘に寄生したのかは不明だが、装甲は無いに等しいが、むしろ攻撃された時に卵と幼生体をバラまいて破裂するため、最も注意せねばならない敵だろう。

 

【女王】

 

 高さ6メートル、体長20メートルの巨大な寄生生物。頭部から様々なコードが伸びているが、そのコードは上の階の『深海扶桑』が収められているカプセルや機材に繋がっており、おそらくはそれによって念動フィールドなどを発動させているのだと思われる。また、頭部の大顎のようなものの近くにも、カプセルが直接接続されているが、そのカプセルの中には白衣を着たミイラ化した女性の死体が入れられている。

 『女王』自体は全く動いておらず休眠か仮死状態であるが、未だに卵を産み続けており、この女王を撃破せねば全ての寄生生物駆除は終わらない。

 

 四タイプの特殊型を説明した後で、ゲシュペンストがその『女王』を大写しに表示した。

 

「おいおいおい、それでなくても厄介なのにこの『女王ってのはなんなんだ?!デカ過ぎるだろ、おい!?」

 

「あのカプセルは、なんなの?というか上の階層のカプセルが『深海扶桑』で直接『女王』にとりつけられているカプセルが……ミイラに……その腕に抱えられているのは、頭蓋骨?」

 

 土方が『女王』の大顎付近のカプセルを指差して問う。それにあわせてゲシュペンストはその映像を拡大した。

 

〔ミイラの胸の所員証には『縞傘英子』とある。ただ、そのミイラが抱えている頭蓋骨は何のための物かわからん。これも造田博士の霊力測定器のカプセルと同様だが、配線その他がかなりややこしくてな。この装置の意図が私にも全くわからない〕

 

 『縞傘英子』はこの研究施設の所長である。

 龍田がその後を追ったものの、一歩遅く、所長室にある海底層へ向かう直送エレベーターで脱出されてしまったのだが、しかし、その時は当たり前だが、生きていた。

 なのに、たった一日とかからずこのようなミイラ化するとは果たして何があったというのか。それにそのミイラが持つ人の頭蓋骨は一体誰のもので、なんのために持っているのか誰にもわからなかった。

 

「ま、そっちのカプセルは今はわからんってわけだ。とにかくあんたらの作戦は寄生生物の駆除。俺がやらにゃならんのは『深海扶桑』さんの救助。俺が『深海扶桑』さんをあそこから連れ出さなければ、寄生生物にかかってる念動フィールドは解けないし、あんたらは駆除しようにも攻撃が通用しないってわけだ」

  

 モニターの画面が研究施設の横からの全体図へと切り替わった。

 

「……何か、お前さんには方法があるのか?というか、俺達には手詰まりにしか思えない。逐次戦力を投入したとしても、奴らにエサをくれてやるものだ。艦娘達を投入する事も出来ない」

 

「ああ、あるぜ?とっておきの方法って奴がな。ま、聞いて驚け見て驚け、って奴だ。だが、問題が無いわけじゃないが今のところ、シミュレーションしてみて、それが一番確実だ」

 

 ガイン!と胸部装甲を拳で叩き、音が鳴る。

 

 扶桑姉妹と龍田は、なんとなく嫌な予感がした。いや、自分達になにか不幸が起こるとか、そういう予感ではない。

 ゲシュペンスト(=玄一郎)が無茶な事をやらかす時特有の癖が出ていたからである。

 

 それはワタヌシ島で扶桑姉妹達が見た彼の仕草でもそうだったし、そして龍田が江ノ島やルソンで見た時も同様だった。

 それは、まるでフラグのようだった。

 彼が胸部装甲を叩く時は大抵の場合、それは過酷な戦いへ、死地へと赴く際に見せる、虚勢の顕れなのだ。

 

「玄っ……!ゲシュペンストさん、それはっ?!」

 

 思わず席から立ち上がって、扶桑は彼が行おうとしている危険な作戦を止めようとしたが、しかし。

 

「扶桑さん大丈夫。俺とゲシュペンストを信じてくれよ。それにまだ作戦を練ってる最中なんだ」

 

 玄一郎はそう言い、扶桑を座らせた。

 

 そして、モニターに研究施設を横から見た全体図を表示させて自分が行おうとしている『深海扶桑救出作戦』を説明した。

 

 この場の全員が、絶句した。

 

「あんたそんなの無理でしょーーーっ?!」

 

 絶句の次に全員から出た言葉は、それだった。

 

「えーっ?ゲシュペンストのスペックならなんて事無い作戦だぞ?」

 

 玄一郎はそう言ったが、まぁそれはとにかく無茶な作戦だったのである。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 さて、こちらは無人島拠点に向かって航行中の飛行艇の中である。

 

 斎藤は席に座り、そして何故か重箱に詰められた様々な料理をご馳走になっていた。

 

 いや、夕飯がわりに陸軍の糧食である、固形ブロック食、つまりカ○リーメイトのようなものとゼリー状のチューブ食を出してそれで済ませようとしたら、居酒屋の女将さんもとい、日本海軍の艦娘であり軽空母の『鳳翔』がそれを止めて、持っていた風呂敷包みの風呂敷をとき、重箱を開けて、こちらをどうぞ、と分けてくれたのである。

 悪いとは思ったが、斎藤だって携帯糧食なんぞよりはうまそうな重箱の料理の方を食いたいと思う。

 いや、その重箱の料理は旨いのは間違いないのだ。なにしろ沖田と一度、鳳翔の店で食べてその味はわかっているのだ。

 

「いや、悪いですねぇ。しかし助かりますが、本当によろしいので?」

 

 いつものぞんざいな口調がなりを潜め、丁寧な言葉使いになっている。

 正直なところ斎藤は女性というものが苦手だった。と、言うより陸軍は男所帯であり、そんな中に16の頃からいた斎藤にとって、女性とどう話せば良いのかわからないのだ。

 無論、自分の部下の中には女性隊員である沖田がいたりもしたが、配属されて一年で海軍の方にスカウトの話が来て、これ幸いにそっちに追い出した。

 いや、女が苦手だからではなくいつ死ぬかわからん陸軍よりもそちらの方がよほど良かろうと考えたからであるが。

 そんな理由で斎藤は女性相手の場合、とても言葉使いが丁寧になる。もっとも沖田に関してはその限りではないが。

 

「はい、同じ機に同乗される方が居られると聞いて降りましたので、その分も作っておりましたので。とはいえ斎藤大尉だけと思ってませんでしたので、その、食べていただかないと、逆に……」

 

 その重箱は五段重ねの大きなものだった。

おそらく鳳翔はもっと同乗者の人数がいると思って沢山料理を用意してきたのだろう。おそらく五人前ぐらいはありそうである。

 確かにその量は鳳翔だけでは食べきれるものでは無い。鳳翔がどれだけ食べるのかはわからないが、斎藤も食べてやらねば残ってしまうだろう。いや、食いきれるか?と斎藤は思ったが旨いものをたらふく食えるのだ。ありがたくいただこうと思った。

 

「では、遠慮無く」

 

 箸を取り、ご飯の箱を受け取りつつ、まずは好物の出汁巻きをいただく事にした。

 斎藤は全く料理と言う物をしない。好物はあるがどれもが子供じみたものであり、普段は立場上周りの目を気にしてどんな店に行ってもまず、頼まない。

 酒も下戸で飲めず、酒を飲まない理由に『常在戦場』と嘯いて『酒が入れば手元が狂う。手元が狂えば死が待っている』と言って来たのである。

 

 存外、良い格好しいの見栄っ張りな男であるが、その見かけと今までの軍功でそれらしく見えるのだから仕方ない。

 

 そんな彼が普通に頼める好物が出汁巻きなのである。そして、居酒屋・鳳翔の出汁巻きは、どこか懐かしくそして彼の好みの味だった。

 

 口に運ぶと、ジュワッと玉子と出汁の良い風味が滲み出て、堅くも無く柔らかすぎず、ああ、あの時に食ったのと同じくうまい、と斎藤は目を瞑って、少し感動していた。

 

「……あの、いかがです?」

 

「……旨い。あの時も思ったが、この出汁巻きは好きだ」

 

 斎藤は知らず、本音を出す。

 

「ああ、良かった。うふふっ、この出汁巻きは昔、私が働いていた小料理屋の女将さんから、初めて教えていただいた料理なんです」

 

「む?艦娘が、小料理屋で?それはまた……」

 

「はい、日本にまだ海上自衛隊があった頃です。私は造田毘庵博士に拾われた艦娘の一人でした……」

 

「……?!では、最初の艦娘達の一人?!と、いうか、そんなあなたが何故に小料理屋で?余計にわからないのですが?」

 

「ええっと、当時、造田博士の会社の商品が売れなくてですね、その、借金塗れになっちゃったんです。私達もその商品は売れないからやめておいてと散々言ったのですが……。それで、みんなで家計のために働きに出たんです。新聞配達や牛乳配達、ウェイトレスにハンバーガーショップ、そして私は造田博士の行きつけの小料理屋で働かせていただいて」

 

「ぞ、造田博士も、存外……いや、そこで料理を覚えたのですね。なるほど……」

 

「はい、とても優しい女将さんで、あんたは筋が良い、とそれこそ、その女将さんのお店の全てのお料理を教えて下さいました」

 

「しかし、だとしても何故、今も居酒屋を営んで?いえ、艦娘は日本海軍の重要な戦力、それが……」

 

「昔、山元元帥閣下から、お許しをいただきまして。戦闘の無い時は店をやってもよろしい、と。ですが段々と私も戦いに呼ばれなくなりまして。やはり時代遅れの軽空母ですのでそれは仕方ありません。ですので、ほとんど居酒屋におります」

 

 困ったように鳳翔はそう言うが、しかしこの人は確かに居酒屋を営んでいる方が、なんというか良いと斎藤は思った。いや、彼女をけして貶しているわけではない。

 彼女の、なんというか暖かなひまわりのような性格を見て、このような女性には戦場よりも、平和に居酒屋を営んでいて欲しいと思ったのである。

 

「いや……あなたは戦場よりも、その。うまく言えないが……。軍務で疲れて帰って、店が開いていて、貴女がお店で待っている、そんな……方が俺は嬉しいと思う。きっと、貴女の店の常連は、そう思ってるだろう」

 

「うふふ、ありがとうございます。ところで斎藤大尉について、松平准将から少し気になる事を聞かされておりましたが……」

 

「ん?松平准将と言えば海軍の?なんだろうか。はて?」

 

「いえ、私が軍の艦船であった頃の鋼鉄材で造られた『軍刀』をお持ちだとか」

 

「ぐほぉっ?!」

 

 ご飯を飲み込もうとしていた斎藤はむせてしまい、ゲホッゲホッ。鳳翔はその背中をさすってやり、そして咳が終わるとさささっ、と魔法瓶の水筒からお茶を入れて出してやる。

 

「ああ、済まない。いや、そういえば貴女の名前も『鳳翔』だったな。どうも、この軍刀とは何故か結びつかなかったが……。確かに、私の軍刀は、私の曾祖父が大切に床の間に飾っていた帝国海軍の軽空母『鳳翔』の鉄材を、日本陸軍が接収して作刀したものです。……数奇な運命で、また私の手に帰って来ましたが……」

 

「まぁっ!なるほど。だから沖田少佐が斎藤大尉を私のお店に連れて来た時、他人のように感じなかったのですね。合点がいきました」

 

「……はぁ、そういうものですか。いえ、なら俺は貴女に感謝するべきなのでしょう。子供の頃、深海棲艦に街が襲われ俺は……貴女の一部だった鉄材を持って避難場所へと向かう最中に、深海棲艦と遭遇したのです。死ぬかと思いましたが、その鉄材が俺を守ってくれたのです。思えば、それは貴女に助けられたも同然。子供の頃、助けていただいて、ありがとうございました」

 

「いえいえ、それは私ではありませんが、おそらく私の根幹に近い所の鉄材なのですね。……斎藤大尉は知っておられますか?私達、鳳翔の肋骨は左の一本が無いのです。その鉄材は、おそらく、私達『鳳翔』のその肋骨なのでしょう」

 

「な……?!」

 

 斎藤は思わず鳳翔の左胸を、というより脇の部分と自分の軍刀を交互に見てしまった。

 

「うふふっ、大丈夫ですわ。一番下の、人間で言うところの12番肋骨、つまり無くても何の支障もない骨ですので」

 

「……そ、そうなのですか?いや、しかし」

 

「本当、私達の肋骨で、貴方の命が助かったと思えば、それは本当に良かったと思ってますわ。ですが、そうですねぇ、今回の作戦が終わりましたら、また、私のお店に来ていただきたいと思ってます。私の肋骨もそうですが、やっぱり斎藤大尉の事、他人のように思えないのです」

 

「あ、ああ。そうだな。とはいえ、その、俺は陸軍だ。海軍の連中が多い店は、その……、行きにくい。それに、俺は酒は飲めない。だから、昼時、定食を食いにまた行く」

 

「はい、是非、お顔を見せに来て下さいな。お待ちしておりますので……絶対ですよ?」

 

 鳳翔はくすくすっと朗らかに笑ってそう言ったが、ぞくり、と斎藤の背中をまるで冷水でも浴びせかけられたかのような寒気が走った。

 

 な、なんだこの背中を走る嫌な予感はっ?!

 

「あら、もうお話をしていたら、食事が進みませんね。ごめんなさい。はい、これもどうぞ。金時豆の煮物です。大根もどうぞ?」

 

 お皿に乗った、うまそうな煮豆と良く出汁の染みた大根。

 いや、これの味も確かに前に鳳翔の店に行った時に食べて旨いのは知っているが。

 

 斎藤は言いようの無い、なにか踏んではいけない場所へ足を踏み入れたような気がしてならなかった。

 

 もっとも、それがわかるのは今から数年も後の話。

 鳳翔もこの時は斎藤にただ好感を持っていただけなのだが、しかし、彼らの運命は、この時に決したとも言える。

 

 斎藤はもう、この鳳翔からは逃げられない運命にこの時、すでに捕らわれてしまったのである。





 鳳翔さんは、斎藤さんに会わなければまだ普通のキャラでいられたと思う。

 居酒屋・鳳翔。あったら行ってみたいですねぇ。きっと美味いだろうなぁ。

 なお、斎藤さんの好物は、ハンバーグとかエビフライとか、子供が好きそうなメニューだったりします。

 パフェとかお汁粉とかも大好きです。

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