それを阻止するチームが発足する。
というか暗躍する人達ばかりだよねぇ。
鳳翔はゲシュペンストの拠点に戻って来たが、しかしふらりと倒れてしまい、それを見つけた高雄によって艦娘達が普段寝泊まりしている広いベッドルームに運ばれ、寝かされていた。
フィリピン第二基地の柳生提督の部下である明石(柳)によれば『過度の精神的な疲労』だという。
この島に到着した時には疲労など見えなかった鳳翔に何があったのかと高雄(管)は心配したが、話を聞いてなんというか、呆れていた。
「大淀が浄化されてて気持ち悪い件について」
「なんて酷い理由でぶっ倒れてんですか」
とは言っても菅原提督が海軍を去った後、高雄(管)は当時の大本営の腐った上層部から左遷されて他の鎮守府に移動させられたため、直接大淀と会うことも無くなってしまい、噂話程度にしかその後の大淀の変化を知らなかった。
おそらく『護国同盟』の幹部である鳳翔は長倉平八郎を喪った後の大淀といろいろあったのだろうと推測するが、この島で再会した時には『昔の大淀』とあんまり変わらない感じだったのでむしろ高雄(管)は噂で聞いた『変貌した大淀』の話はおそらくスネに傷持つ連中が流したネガティヴキャンペーンのような物だったのだと思い安心していたし、何よりこの拠点の大浴場で一緒になった時もやはり大淀はほとんど変わっていなかったようにみえた。
つまり、高雄(管)は過去の大淀と浄化(?)された後の大淀しか見たことはなく長倉平八郎の死後の強い怨みによって変貌した『大澱』状態の彼女を知らない。
とはいえこの鳳翔が何も理由も無くこのように精神的疲労を起こすはずもない。
この鳳翔とは造田家で一緒に暮らした姉妹のような間柄なのだ。
よほど気持ち悪く感じる何かが大淀に感じたのだろう、そう高雄(管)は思い、ふとこの拠点であった大淀に対する違和感を思い出した。
というか、確かにあの大淀のゲシュペンストを見る目はなんというか恋というにはこう、気持ち悪い何かを高雄(管)も感じていた。
いや、長倉平八郎が生きていた頃になんというか鳳翔の店で菅原提督と集まっていた時にもそういう目をしていたような気がする。
座に興が乗り、飲み過ぎた長倉平八郎が菅原提督の前でいつも演説じみた事を言っていた時、大淀はそれをうっとりとした目で見つめていた事を思い出し、
「そうか。あの目は……」
となにかうんざりしたように天井を見た。
そう、長倉平八郎は酔っ払うたびにいつも同じことを言っていた。そう、大抵最後はいつも同じだ。
『全て救うぞ菅原さん!みんな隔たりなく、正しく等しく、人間も艦娘も一切合切、誰も彼もが一緒にいて笑える世の中を作るんじゃ!!』
酒が入っていたとはいえ、それは彼の大きな志だ。
独裁政権下にあったあの頃の日本。全てが灰色の中にあって、あの二人が語らいあい戦略を練り、そして一つ一つ塗り替えていった。
大淀は、長倉の言ったその言葉を実現しようとはたらいていた。その死後もおそらくはそうだったのだろう。
ある日、ひょんなことで大淀が自分から言っていた。それがどんな時でどのようなタイミングだったかは高雄(管)は覚えていない。
確か、宴席がお開きになり、帰る前にトイレに二人で連れ立って行った時だったと思う。艦娘は酒に強いとはいえ、高雄(管)も大淀も結構な量を飲んでいたので、いささか酔っていた。
だが、その時の大淀の目と言葉が高雄(管)にはなんというか、狂信者のように見えて気味が悪かったのは覚えていた。
とはいえ、酔った女の戯言と思うことにしていたのだ。だがその時の大淀の目に何か違和感をずっと感じていた。大淀の視線にその時の狂信的な何かに似たものを、高雄(管)は確かに再び見てしまっていた。
そう、それはゲシュペンストが龍田と那智の助命嘆願をしているときに、たった一瞬だが確かに見た。
もしも鳳翔の言うとおり、大淀が長倉平八郎の復讐に狂っていたとすれば、長倉平八郎暗殺の実行犯であるフィリピン第一基地の提督を殺した龍田、そしておそらくはその現場にいたはずの那智の助命嘆願を聞き入れるだろうか。
確かに、ゲシュペンストという存在はこの世界における最強にして理不尽な戦闘力と破壊力をもち、大淀が許さなかったとしても無理矢理に龍田を那智を救えるだろう。
それに、あの大淀がゲシュペンストからこの世界では並ぶものが無いほどのコンピューターだとはいえ、そんなものをワイロに渡されたとして、それを受け入れるような奴だったろうか。
高雄(管)は何故か背筋にゾッと寒気を感じた。顔から血の気が引いていく。
「……鳳翔さん、やばいかもしれないわ」
高雄(管)がかつて大淀から聞かされた言葉は、
『我が主にならば世界を捧げてもいい。主の理想の為なら……。私は全ての能力を使って、我が主の敵全てを滅ぼします』
だった。
大淀は、交渉事でも何でも譲歩するときも全て彼女の主人である長倉平八郎の言葉があって初めて手心を加えていた。長倉平八郎から以外、何者の贈り物も突っ返す。全ての中心は長倉平八郎。忠犬の如く主である長倉平八郎が全てで、彼女の制御は長倉平八郎以外に出来ない。
だが、長倉平八郎は死んだ。
ではあのゲシュペンストを見る目はなんだ?あの狂信的な忠犬は、何故ゲシュペンストの頼みを聞き入れ、そして彼からのプレゼントを受け取ったのか。
「私は始め、ゲシュペンストを日本の戦力として引き込むつもりだと思っていた。それはそれで危険だと思っていたけれど、でも大淀の目的、いえアイツの意思はそうじゃない。けしてそうじゃないわ!」
そう、高雄(管)は気づいてしまった。
「大淀は、ゲシュペンストを新たな自分の主として仕える気だわ!そして彼を日本の指導者に据えるつもりなのよ!!」
アイツは主を乗り換えるつもりだ!!
鳳翔は絶句した。いや、大淀が気持ち悪いと思ってたけど、マジかよおい。
だが鳳翔は高雄(管)のその直感と様々な海軍内部での陰謀と戦ってきた経験から来るその分析を否定出来なかった。
この高雄(管)が出した答えはどれだけ突飛な事でも奇妙で有り得ないと思うような事でも、最後には正しかったのだから。
「……あの破壊神のようなロボット、いえ、性格はとても平凡な青年のように思えたけど、アレが大淀の手に落ちた場合何が起こり得るか、どんな問題があるかをまず考えて、どうすれば大淀の手が届かない所へ逃がすように手を打ちましょう。幸い、これから来る増援の大本営第一・第二艦隊の面子は『護国同盟』のメンバーよ。何をするにしても彼女達は頼りになるわ」
鳳翔は額の手拭いを右手で取って、ベッドから起き上がった。
高雄(管)は力強く頷いた。
こうして高雄(管)と鳳翔による大淀への妨害組織がこの拠点内に出来たわけであるが、これによって大淀の『第一次ゲシュペンスト鹵獲計画』は失敗する事となる。
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さて、高雄(管)と鳳翔の様子を遠く離れた日本、その大本営・元帥私室にて笑いながら見ていた者がいた。
『予定どおり』
ニヤリと笑いながら、槍の石突きで二人の襲撃者を打ち据えて、そしてまた構える。
襲撃者は二人。
一人は折れた刀を持ち、もう一人はもはやクナイの一本も無くなり、それぞれが片膝を突いて叢雲を睨んでいた。
「てめぇその槍はなんなんだ!!お前の槍じゃねぇな!!」
天龍が血を吐きながら吠えるように言った。
天龍の持つ刀を折ったのは、叢雲の持つ見慣れない槍だ。それは叢雲が持っているアンテナ状のものでは無く、まるで大型のサバイバルナイフを無理矢理槍の柄に差し込んだような武骨なものだった。
「あら、わかる?小島基地近海で拾ったデカいナイフに柄を付けてみたのだけれど、まぁかなり使えるわねぇ」
涼しい顔で叢雲はしれっと答える。つまりは叢雲が今使っている槍の正体は、かつてゲシュペンストが小島基地近海でマヨイの群れと戦った際に使い捨てした『コールドナイフ』に槍の長柄を付けたものだった。
「クソ、アイツの武器かよっ!」
「うぁー、チートじゃん!」
天龍も川内もルソンで造田博士を救出した際にゲシュペンストに会っているし会話も交わしている。それにゲシュペンストがその時使っていたスラッシュリッパーやマゴロクブレードの威力も見ていた。
とはいえ、この天龍も川内も接近戦においては艦娘の中で五本の指に入るほどの実力者である。
というよりも本来この二人は叢雲以上に強い。
ただの武器の性能が良いぐらいで本来、叢雲が敵う相手ではない。だがまるで叢雲は息も切らせずに余裕すら見せて二人を圧倒している。
まぁ、そのからくりは未来視で自分が勝てる勝てる未来を探り当ててその未来での自分の動きを寸分違わず再現した故に勝てたのである。
とはいっても叢雲が勝つためには事前に多くの条件を満たさねばならず、この勝利を得るために叢雲は物凄い労力を割き、またかなりの努力を強いられたわけなのだが。
なにしろ必要条件の一つであるゲシュペンストのコールドナイフの槍は確かに強い武器であり、天龍の刀をぶち折れるほどの力を秘めている。
だが、三メートルのロボットが使う大型ナイフを槍にしているのである。その大きく重い槍を叢雲が自在に使うには、かなりの鍛錬を要したわけである。
また、未来視で見たとおりの動きもそんな代物を使って行わねばならなかったわけであり、そりゃあもう大変なんてもんで済まされないほどの努力だったりするのだ。
なんせこの槍の重さといったら、今も突きつけている槍をもつ腕がプルプル震えていることからもわかるだろう。
その様子を好奇と見たか、川内が気づかれぬほど自然に懐から煙玉をだそうとした。
が、それも叢雲の知っている展開である。
「川内、煙玉はここではNGだから」
叢雲は腰に引っ掛けてあるリモコンのボタンを素早くポチッと押した。
すると川内と天龍の頭上からドバシャーーーッ!!と消火用のスプリンクラーの水が大量に降り注ぐ。
「ウゲっ!?」
「うわっ?!」
まぁ、これで戦闘は終わりである。叢雲は重い槍をドスっと床に突き刺すと、腕を組んで二人に言った。
「まったく、頭冷やしなさいな。というか何を勘違いしてんだか。確かに龍田と那智を助けたかったら来いって言ったけど、私が大切な家族に何かするわけないでしょうに」
はぁーっ、と叢雲は溜め息を吐いて言う。
「ああん!?この手紙を見て勘違いしねぇ奴がいるかよ!!」
天龍は上着のポケットから手紙を出して床にたたきつけた。それは床に溜まったスプリンクラーの水でグチャグチャに濡れ、もう文字すら読めなくなっただろうが、天龍の怒りから、よほど挑発的でとんでもない事が書かれていたのだろう。
だが、その紙面が水を吸ったことで、何かじわーっと大きな赤い文字が浮かんだ。
『嘘だよーん』
未来視が使える叢雲故に出来る仕掛けだった。天龍が水で濡れた床に手紙を叩きつける事を見透かしてのいたずら……にしては手が込んだ嫌がらせ……だった。
それを見た天龍は「てめぇって奴はぁぁぁっ!!」と拳を振りかぶって叢雲に詰め寄ろうとしたが、叢雲は素早く槍を床から抜き天龍の鼻先に突きつけ、制止した。
「くっ、てめぇ……!」
天龍はギリッと歯を軋ませ、鋭い野獣の目つきで叢雲をにらんだ。
フフ怖(笑)などと余所では言われる天龍型一番艦天龍だが、この天龍のそれは血塗られた本物の野獣である。叢雲はその片目の眼孔の恐ろしさに耐えた。
飄々と受け流すかのように、余裕綽々の態度を貫かねばならない。この場の空気の流れの全てを自分が支配しておらねば後々の未来に禍根を残すようになってしまうからだ。
天龍と川内に侮られるわけにはいかない。侮られれば彼女達はそれによる気の緩みから、戦闘の際に大きな失敗をしてしまう事になる。それは彼女達の死のみならず世界が滅びる未来へと繋がってしまうのだ。
叢雲はニヤリと笑った。不敵な笑みを。
「まぁ、聞きなさいな。確かに煽るような事を書いたのは悪かったわ。でも龍田達を助けるのにあなた達の力が必要なの。協力して」
叢雲は槍を引っ込めてまた床に突き刺した。
「今、フィリピンでは大規模な作戦が進行中なんだけど、それに龍田と那智が巻き込まれてるのよ」
「……話を聞かせてもらおうか。つか、またろくでもない情報でもつかんだのか?」
天龍の目が龍田の名を聞いて若干やわらいだ。
よし、食いついたと叢雲は内心安堵するも表情は変えず、
「そんなところね。で、未確認適性物体の通称『アンノウン一号』もフィリピン辺りで活動してんだけど、どうもその『アンノウン一号』を大淀が鹵獲したがってるって話なのよね。あなた達、あのロボットと仲良し……なのよね?」
「仲良くねぇよ。借りはあるけどよ。つかアイツが龍田達の側にいるなら安全なんじゃねぇか?」
天龍は怪訝そうにフウムと唸った。
「問題は『澱鴉』の艦隊もそこにいるってことよ。アイツは龍田達を見れば問答無用に攻撃を仕掛けてくるはずよ……」
『澱鴉』の名を聞いて天龍と川内から殺気が沸き立つ。この二人も軍視局の大淀には何度もこっぴどい目にあわされて来たのだ。
「……そういう事か。大淀の要請には海軍の艦隊は拒否出来ねぇ。いくらゲス野郎でも守り切れねぇ。奴は艦娘に攻撃出来るような奴じゃねぇしなぁ」
「確かにねぇ。つーかゲス公があの腐れマン○メガネをぶち殺してくれれば全部解決なんだけど、アイツには無理だろなぁ……」
叢雲は二人の様子に、『あっ、これ進○ゼミで見た奴だ!』みたいな顔をした。いや、進○ゼミなんぞこの世界には無いが。
「で、高速飛行挺をチャーターしてるから、私と一緒に台湾とフィリピンのちょうど中間に位置する無人島まで行って欲しいのよ。二人を助けるためにあちらに鳳翔さんに行ってもらってるのよ。鳳翔さんならうまく時間を稼いでくれるはず」
叢雲は元帥の高級そうな黒檀のデスクの裏からバケツを2つ取り出してニッコリ笑って、
「大淀の手から家族を守るのよ!私達造田家の手で!」
と、叢雲は窓の外に向けてビシッ!と指をさしていう。
天龍と川内は顔を見合わせると、なんか胡散臭い物を見たと、うんざりした表情を浮かべた。
叢雲が自ら動く時、それはろくでもない事が起こる時である……と、いうわけでもなく。
本来ならば大淀がやらかす『ゲシュペンスト鹵獲計画』は成功するはずだったわけですが、それでは多くの艦娘の未来はろくでもない事になってしまうわけで。
とはいえ艦娘の救済計画としては悪くないプランでもあるので最良解の未来のために叢雲が計画自体を簒奪することにした、という。
まぁ、救済される艦娘の中に大淀も入るのでお前によーしみんなによーし、なのですけどね。
というか、主人公もメインヒロインも出て来ないというσ(^_^;