本編には多分出ない龍驤のお店を書いてみたくなった。というか、主人公が飯を食えるようになった事でふし。
ゲシュペンスト提督の中の人こと、玄一郎は泊地を抜けだし街へと向かっていた。
毎夜の如く自室に来ようとする扶桑から逃げ、山城の襲撃を避け、そしてやたらとバーニングラヴをしてくるようになった金剛ババ……もとい金剛を交わし。明石のチャリンコを借りて。
向かうは龍驤の店『鉄板焼きRJ』である。
足取り軽くチャリンコリンリンと向かい、わくわくしつつ店の暖簾をくぐった。
入った途端に香ばしいソースの匂いと出汁のいい匂いがする。
(おおっ、これは嗅覚を刺激してたまらない!)
「いらっしゃーい、ってにいちゃん初めて見る顔やなぁ?パラオは初めてかぁ?」
カウンターに座ると龍驤はにこやかな顔で玄一郎にそういうとお冷やを出してきた。
「いや、前からいるよ?」
と言いつつ『ブタ玉小』と『スジ玉小』を頼む。
「へぇ?せやけどウチ、にいちゃん見たことないで?大抵の住人は知っとるんやけどなぁ?」
「どこにでもいるような顔だからな。昔からモブ顔とか言われるし」
「あはははは、モブ顔かいな!せやけどええ感じの顔やで?にいちゃん。せやな、モブさん呼ぼか?」
龍驤はノリノリである。
手際よくお好み焼きのタネを小さいボウルでかき混ぜ、鉄板に乗せて焼く。キャベツがたっぷり入ってるのがまた良さげだ。きっとこのタネのキャベツは甘い。絶対これはうまいと予感させる。
じゅうぅぅぅっ。
タネが焼ける匂いが、広がる。これもまた玄一郎には新鮮だった。
(食いたくて食いたくて仕方無かったもんなぁ)
そう、艦娘達が龍驤の店のアレがうまいとか、新メニューのドレは格別だとか、そういう話を言う度に、ロボットだった玄一郎はものすごく羨ましくて仕方なかったのだ。
幸い、この店の常連の艦娘達はまだ来ていないようだ。
(まぁ、俺が人間になったって知ってる奴はまだ少ないからな)
にんまり、と笑いながら焼けるのを待つ。
龍驤は一つにブタバラ、もう一つにスジの煮込みを乗せつつ、天かすにカツブシをかけて、またタネをかけて、そしてコテで器用にくるり、くるり、と裏返した。
(おおーっ、さすが年期の入った玄人の腕前!)
じゅうぅぅぅっ。また、焼ける音も旨そうなのだ。
「あ、にいちゃん、マヨかけるか?」
「はい、お願いします」
ちょうどの頃合いを見て、龍驤はソース、アオノリ、カツブシ粉、そしてマヨネーズをかけた。
「ほい、出来上がりっと!」
小さくコテで切り分けて、龍驤はそう言った。
ごくり、と玄一郎は箸を持ち。
「ではいただきます!」
と、言うとまず、ブタ玉から行った。ふーふー、と吹いてから、はくっ、とかじる。
「はふっ。あつ、あつあつ……」
まず、ソースの酸味とマヨの酸味が口に広がる。しかし、その中でじゅわっ、とブタの肉の油とタネの出汁、そしてキャベツの甘味が舌に届く。
「ウマッ!!これ、めちゃウマッ!!」
一切れ食べて、感動でじぃぃぃん、とする。
「にいちゃん大袈裟やなぁ~」
「いや、うまい!これが今まで食えなかったんだよなぁ。かーっ、やっぱ生きてるって良いよなぁ!」
もぐもぐガツガツ、とブタ玉を平らげ、次はスジ玉である。このスジ玉をやたらと推してたのは足柄であり、彼女はあちこちの鎮守府や基地などを渡り歩き、その土地土地の美味い物を食べ歩いてきた女傑である。
そんな彼女がうまいと言うのである。こらは絶対にうまいに違いない。
「ごくり」
箸で一切れつまみ、そしてあつあつを吹いて口に含む。
じゅわぁっ、とスジ煮込みの堅くもなく柔らかくもない、ちょうど程よい歯ごたえの中に、うまみが滲む。生地の出汁とスジのうまみが合わさり、キャベツの甘味が加わって……。
「くぅぅっ、これはっ、たまらんうまい!!」
「せやから、大袈裟やって」
「大袈裟なもんか。こんな美味いものをあいつ等は食ってんのかよ、くうぅっ、ズルい!いや、俺もこれから食うけどなっ!!」
「まぁ、気に入ってまた来てくれるんやったら嬉しいけどな?」
「来る!仕事抜け出しても来る!ウマッ!!アツッ!!ウマッ!!全メニュー制覇する!!」
がっつくように食べ、腹はいっぱいになった。
「ところで……。明石にお土産、持ってかんでもええんか?ゲシュ提督?」
「ああ、そういや明石焼き頼まれ……。え?」
「あれ、明石のチャリンコやろ?つか、ウチの目は節穴ちゃうで?それに魂見られる艦娘やったらすぐバレるで?」
「……あー、そりゃそうか。扶桑さんとか身体変わってんのに全く疑いもせんかったからなぁ」
「まぁ、何があったかわからへんけど、物食べれるようになって来てくれたんは嬉しかったわ。せやけどな、ウチらに隠し事はアカンで?あと、扶桑はんから電話あってな?」
「ギクッ?!」
「早く帰らへんと、なんか怖いことになっとるで?扶桑はん」
「……どういう方向の怖いこと?」
「さぁ?提督のベッドが、なんや……(ボショボショ)なっとる感じやろかな」
「……このまま帰らないという選択肢はないんでしょうか?龍驤さん!?」
「帰らへんでもええけど、もうちょいしたら那智とか足柄とか、隼鷹とか来てめちゃくちゃ絡まれるで?帰った方がええんちゃうかな~て、思うで?」
ガックシ、と玄一郎は頭を垂れて、代金払って明石焼きを片手に店を出て行った。
「おおきにー、またおいでや~?」
龍驤の声に見送られつつ、帰りのチャリンコの足取りはとても重かった。
スジ玉ってある店少ない気がするんですがどうなんでしょうね。スジ煮込みを具にした奴なんですが。
しかし扶桑さんが怖いことになってるってどんな感じに怖いのでしょうね?私にもわかりません。