を言ってみたいセリフの一つにしてくれた偉大なる童帝に敬礼。
間宮さんはよく出るけれど伊良湖さんはお話にそんなに出てきませんよね。二人とも私は好きです。
ブルーノさん再び登場。
朝、現在が目覚めるとベッドの隣、左には扶桑、右には山城がいた。
自室の鍵は締めてあったはずだし、部屋のドアの向こう、執務室にはゲシュペンストがおり、入ってこれないはずだったのである。
……なのに何故いる。
両方からまるで抱き枕に抱きついているかのようにがっちりホールドされてしかも足まで絡んでいて身動きとれない。
すーっ、すーっ、と両側から寝息が聞こえる。
仕方あるまい、と玄一郎はゲシュペンストに助けを求めた。
(相棒、助けろ)
〔まだ寝ていろ。起床予定時刻まであと二時間ほどある〕
(いや、起きたいんだ。つか鍵を閉めたはずなのに何故に扶桑姉妹が居るんだ?)
〔……彼女達は提督の自室で寝る権利を主張し、権利が守られないならば提督の自室のドアの破壊も辞さない、と。施設の修繕に余計な予算は出したくない〕
(……いや、お前止めろよ、つかどんな権利だよ)
〔ドアを開けるだけで平和に治まるのだ。武力行使だけが道ではない〕
(いや、武力行使されて脅しに屈しただけだよな?!それっ?!つか、スーパーロボットが脅しに屈するなよ?!)
〔脅しに屈したわけではない。君の部下の希望をちょっと叶えただけだ〕
部下の希望=41センチ砲全門突きつけ×2。
(叶えるなっ!つか屈してるだろがっ!!)
〔私とて、かつては……いや、とにかく今日のミッションに備えて寝ろ。お前は病み上がりのような状態にあるのだ。休養が取れるときはそれに努めろ〕
(休養出来ない状況に荷担した奴が何を言うか!!)
〔寝るがいい〕
(寝れるかっ!!)
〔しかし、寝ろ?〕
(だから寝れるわけねーだろっ!!)
〔……童貞というものは無い。あるのはただの体験と経験だけなのだ〕
(うるせーーわっ!つか、なんかやたら最近変なこと喋るようになりやがったな、おまえ?!)
〔私も業務がある。では切るぞ〕
ぷつっ。
(おい!てめっ?!ゴラァッ!!)
通信を切られた。なんだろう、ゲシュペンストは扶桑姉妹に対して便宜を計るというのか、こう、けしかけているような感じがする。それに、〔私とて、かつては〕などと何かを言いかけてたが、ロボットの過去に何があったというのだ。
「くそっ、逃げやがった」
孤立無縁の状況下で、左右からの挟撃である。さらに身動き取れず逃げ場も無い。
(いや、諦めるな。諦めた時に人は本当に終わってしまうのだ)
もぞっ。
左腕をなんとか引き抜こうと動かしてみる。
がっちり。
扶桑のホールドは完璧だった。腕にしっかり抱きついている。
(これは抜け出せそうにない)
仕方なく右腕を引き抜こう、そう思って右の山城の方を向いて、思い切り目があった。目と目があう、パートツー。
じーっ、とその勝ち気そうな瞳で玄一郎を眺めている。
「……起きてんのか?」
「起きてんのよ?」
「当ててんのよ的に言うんじゃねぇ」
「当ててんのよ?も、やってんのよ?」
言われてみれば密着して確かに当たっていた。テンパってて気づいていなかったが。
言われて感じる、この柔らかさ。山城は背が高くスレンダーそうに見られるのだが、しかし、出るところは出て引っ込むところはちゃんと引っ込んでおり、さらに女性らしい柔らかさもしっかりとある。
至近距離、山城の匂いもしっかりといい匂いである。
「じーっ」
いや、何故に言葉で私見てんだからね?的にアピールするかな。
「よいしょ」
玄一郎は誤魔化す必要も無いのだが、その視線をなんだか直視するのがなにかこう、居心地が悪いようで、誤魔化しつつ、頭を天井の方に向け、そして右からも何か視線を感じて、いや、気づいてません、俺、気づいてませんからねっ?と思いつつ。
「ん~、もうたびらんないよ……むにゃむにゃ、すやすや」
と、目を瞑って寝てますよアピールをした。
だが、そんなもので誤魔化せるはずもない。両サイドから、手が伸びてきて、玄一郎の頬を、つねっ×2。そして、むにん、とつまんで引っ張った。
「寝たふり(しないでください)するな」
「いひゃいいひゃい(痛い痛い)、ひやめれ(止めれ)!」
後に玄一郎はこう語る。『艦娘に、両側から頬を摘ままれて引っ張られるとかなり痛い。なんというか、何でもするから許してくれ!と言いたくなる』と。
いま玄一郎が感じている痛みを表現するならば、これは夢じゃないよね?ちょっと私の頬をつねって見て?というのを英訳したら、『ペンチ・ミー、プリーズ』になるわけで、だからといって工具のペンチでやらないようにな?というほどに痛かった。
艦娘の力でやられるとそれぐらい痛いのだ。
夢も見てない現実の痛みをベッドで味わうこの苦痛からようやく解放されれば、こう、人の重みってやっぱり結構あるんだね?とか思うような重みが左右からのしかかる。
上体を持ち上げた二人に上から覗かれていた。
扶桑姉妹の瞳は、黒いというより赤い。その赤い瞳四つにじぃぃぃっ、と見つめられるのは少し怖い気がする。
「あー、目が覚めちゃった?ごめんねぇ、ははは、おっと、まだ夜中の4時頃じゃないか。だめだよ、ちゃんと寝ておかないと。明日はまた『VIP』が二人も来るんだ。忙しくなるぞぉ?」
「「……じーっ」」
「あのね、二人とも、そのいかにも見てますってのを声に出してアピールせんでも、ね?」
「「見て(るんですよ)んのよ?」」
「うん、まぁ、言われなくてもわかるけどさ?」
「「ベッドにいる(んですよ)のよ?」」
「……うん、わかる。そう、いつもの事だよなぁ、うんうん」
「「同衾」」
「こっちは動悸息切れしてんのよ?いろんな意味で。つかシンクロすな」
玄一郎はさて、どうやって逃げるべきか、と頭を回転させた。ゲシュペンストの機体だった時はやたらと頭だけは回ったのだが、どうも自分の脳みそだけだとその回転は遅いようだ。しかもゲシュペンストが通信だけでなく回線まで切ったおかげで、リンクする事も今は出来ない。
「ちょっとマテ。は、話せばわかるっ!!」
しかし古来よりそのセリフを相手に言って生き残れた試しは無いのである。
「待て、は聞き飽きたわ、私達」
「そうね、山城。もう人の身体なんですもの。待った無し、です」
「俺は童貞だあぁぁぁっ!!」
玄一郎は叫んだ。
「私だって処女よっ!!」
「あのっ、その、私も、処女……です……」
いや、なのに逆レイプかまそうってなんですか?!というか慎みをもっともって頂きたい。
「ええい言うな、はしたない!つか大和撫子のセリフちゃう!!」
「だって……」
「仕方ないじゃない……」
「いや、なんかある意味安心はしたわけだがそれはそれっ!!」
玄一郎はすぅぅっ、と深く息を吸った。そして気合いと共に言葉を吐いた。
「黙れっ!!そして聞けっ!!」
このままでは埒があきそうになかった。こういう時は、やはりこのセリフだろう、と裂帛の気合いを込めて某示現流な親分のセリフを叫ぶ。
ビクッ!と二人は迫る動きを止めた。
その動きを止めた隙に、玄一郎は素早くのしかかる二人の下から脱し、そしてさらにベッドの下まで転げるようにして脱出。
「脱出っ!!あーばよぉぉ、扶桑さーん、山城ちゅわーん」
先ほどまでの有無を言わせぬ気迫もどこへやら。これまた某怪盗の三代目のような軽薄さでひよいひょいひよい、と扶桑姉妹の伸ばした手をかわし、そのままドアを開けて、脱兎の如くゲシュペンストのいる執務室へ。
〔……作戦時間までには戻れよ?〕
走る玄一郎に、ゲシュペンストが財布を放り投げてきた。
(てめっ、後で覚えてろよ?つか膝詰め説教だかんな?!)
ぱしっ!とそれを受け取り、玄一郎はとにかく雲耀の速さもかくたるものかとばかりに廊下を駆け抜けた。
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逃げに逃げて、現在早朝五時。所謂、0500時というやつである。
玄一郎は、今まで全く用事のなかった間宮食堂の前まで来ていた。間宮食堂の隣の伊良湖のやっているパン屋がもう開いており、焼きたてのパンの香りがこちらまで漂って来ていた。
ぐうぅぅぅっ、とやたら腹の虫が鳴いた。
ふむ、と逃げるときにゲシュペンストが投げてきた掴財布の中身を玄一郎は確かめると、迷わず伊良湖ベーカリーへ入って行った。
「いらっしゃいませ!」
伊良湖の元気の良い声が店に響いた。もう店の中は朝出勤する前の艦娘や憲兵達、迫地の現地スタッフなどでいっぱいで、イートインのテーブルはどこもワイワイガヤガヤと賑わっていた。
しかし、制服や作業着の中、TシャツにGパンという玄一郎の姿はどうも浮いているようで、やたらとジロジロと見られている。
しかし、まぁ仕方ねぇわな、と玄一郎は開き直ってトレイとトングを持って買うパンを選んだ。
(カスクードにベーグルサンド、お、これはクリームパンか。うさぎの形してんのな。目にレーズンが使ってあるのか。うーちゃんがモデルなのか?これ。おお、あんパンのヘソには塩漬けの桜の花が押し付けられてんだな。由緒正しき花見あんパンだな)
ひょい、ひょいとパンをトレイに乗せてレジで会計を済ませ、イートインのカウンター席に座る。
(ふむ、ベッドで寝た時もそうだったが、やはり人間サイズに座れるってのは良いもんだな)
カスクードを包んでいる紙の包装を外し、おもむろにかぶりつく。
パリッとした焼きたてのフランスパンに、ハムとスライスしたオニオン、スライスチーズが挟んであり、シンプルなのにそれが美味い。
「おー、コイツはなかなか」
バリッ、ともう一口かじって、紙コップのコーヒーで流し込む。口に広がるハーモニーが素晴らしかった。
「そりゃあ、みんな買いに来るわなぁ。うん、うまい」
気分は孤高のグルメである。
(パラオ迫地・伊良湖ベーカリー、とかテロップが出たりしてな)
「おう、隣良いかい?にいちゃん」
と、玄一郎の横にトレイを持った初老の男が来た。
「ええ、良いですよ」
その男を見れば憲兵隊の隊長、ブルーノである。ブルーノの目には隈が浮かんでおり、あくびを一つすると、玄一郎の隣に座った。
「お疲れ様ですね、ブルーノ隊長。というか、今回の事態では非常にご迷惑をかけたようで」
「ああ、本当にやたらめったらトラブルが起こりやがるもんだなぁ。徹夜で調書まとめて今の時間だぜ。しかも夜勤明けでも今日も仕事とくらぁ、って、あんた誰だ?というかなんかあった事があるような気がしてたが、どうにも思い出せねぇ。そんな事ぁ、今まで無かったのによ」
玄一郎は、あっ、しまった、と思った。が、ここで誤魔化せるような相手では無いのはこのブルーノの経歴データから知っていた。というか元敏腕刑事の彼を騙しおおせるとは思えなかったのである。
「……ゲシュペンスト、ですよ。ブルーノ隊長。私がゲシュペンストの中身です」
小声でひそひそと玄一郎はそう名乗った。
「……あれって、中に人が入ってたのかよ。通りでどっかで会ったように思ったわけだ。で、中から出て朝飯か?」
「ええ、そう言う感じです」
誰にも聞かれないように二人はひそひそと話す。が、しかし。
どの海軍基地、鎮守府、そして迫地には大抵いる。由緒正しき伝統的な艦娘パパラッチ青葉がこの伊良湖ベーカリーにいた事に彼らは気づかなかったのである。
パンを頬張りながら、青葉はギラリと目を光らせる。こんな事もあろうかと、胸ポケットのメモに差してあるスパイ用のボールペン型のカメラで特ダネを取りまくる。
もうすでに青葉の頭には記事の見出しの構図と煽り文句ができていた。
すなわち、『ゲシュペンスト提督の中の人の貴重な映像を入手!!これが我らの提督だ!!』である。
これがゲシュペンストの機体の身体だった玄一郎ならば直ぐに察知出来ていただろうが、人の身体になった今、全くそれに気付くことが出来なかった。
これが後々、大きな騒ぎを巻き起こす一端となることを玄一郎はまだ知るよしも無かったのである。
なお、夜這い発案者は酔っ払ったパラオの足柄さんじゅうなな才。おいおい。
青葉ワレェっ!!はお約束。