ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 おーれはー、なーみーだを流さないー、だだっだー。

 ゲシュペンストタイプSは正確にはパーソナルトルーパーではなく、特機扱いでグルンガストを作るときのデータを取るための実験機だったわけですが。

 ゲシュペンスト提督の姿は多少、ゲームのタイプSとは違い、ハーケンさんのゴーストに近い感じと思っていただけたら幸いです。


 


人・機械、そして乙女、建造計画。

 ゲシュペンスト提督は眠らない。

 ゲシュペンスト提督は食事をとらない。

 ゲシュペンスト提督は休まない。

 

 ロボットだから。マシンだから。

 

 扶桑は、ゲシュペンスト提督の机の上の湯飲みを見つめて少し溜め息を吐いた。

 

 今、ゲシュペンスト提督は司令室にいない。工作艦娘の明石に呼ばれ、そちらの方へ出向いて行った。

 

 扶桑はと言えば丁度昼休みの時間になっていたので、留守番を兼ねて昼食の弁当(手製)を食べている。

 

 箸でおかずの煮豆を器用に掴み、上品に口に運びつつもその目は提督専用の湯飲みに注がれている。

 

 もぐもぐ、と咀嚼して次にご飯を口に運ぶも、やはり湯飲みを見て、じぃぃっ。

 

 ゴクリ、とご飯を飲み込んで、そしてまた溜め息。

 

 扶桑は失敗した、と思っていた。

 

 彼女はゲシュペンストが元人間である事を知る、数少ない艦娘の一人だ。そして最もゲシュペンストとの付き合いが長い艦娘でもある。

 

 彼女は自分が最もゲシュペンストの事を理解している『女』だと自負し、そうありたいと常に思っているのだが、今回、飲み物を飲めない彼にお茶を出したのは失敗だったと思って少し落ち込んでいた。

 

 ゲシュペンストは、彼女の煎れた茶を飲もうとしたのだ。

 

 自然な動作で、頭部の、人間ならば口がある部分に湯飲みを近づけて。

 

 飲めるはずもなく、だばっ、と自分のボディにそれをぶちまけてしまった。

 

 彼は非常に驚き「うわぁっ?!あっ、そうか、俺飲めないんだった!!」と言い、茶のこぼれたデスクを見て「いかんいかん、布巾布巾!!」と、こぼれたお茶を布巾で拭いてから扶桑に頭を下げて謝った。

 

「すまん、せっかく煎れてくれたのに……」と。

 

 そのゲシュペンストの姿を見て、扶桑は少し悲しくなった。悪いのは彼ではなく、お茶を出した自分なのに、と。

 

 ゲシュペンストはしばしば自分が機械になっている事を忘れて無意識のうちに人間だった時のように行動する事がある。

 

 今回のお茶の件もそうだが、司令室の隣にあるベッドに寝転がろうとして壊したり、駆逐艦の子達が活躍した時に間宮でアイスを振る舞った時に、折角だから自分も食べようとして失敗したり、と今までにそういう失敗が数々あったのだ。

 

 その度に彼は落ち込んでしまう。自分が人間で無くなった事、人間としての楽しみの大半を失ってしまった事に。

 

 そして、しばらく経つと彼はまた忘れたようにまた、同様の失敗を繰り返すのだ。

 

 工廠の明石はそのゲシュペンスト提督の行動についてこう分析している。

 

 『ゲシュペンスト提督の人間としての精神は無意識のうちに人間として行っていた食や睡眠等の欲求を満たされたいと思っており、それが出来ない不満によってそのような行動を繰り返してしまうのだ』と。 

 

 はぁ~っ、と扶桑は何度目かの溜め息を吐く。

 

 わかっていたつもりなのに、どうして自分はお茶なんて出してしまったのだろうか。

 

 そんな自分にも落ち込む。

 

 「提督はあんなに優しいのに。私は何もしてあげられないのでしょうか……」

 

 窓の外はパラオの青。燦々と日は照って明るく。

 

 故に悩める乙女はこう呟く。

 

 「空はあんなに蒼いのに」と。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 一方、ゲシュペンスト提督は工廠の明石の研究室にいた。

 

 パラオ周辺海域は深海棲艦達との協定によって非戦闘区域指定されているとは言え、この地域の深海棲艦のボスである『空母水鬼』が統括する以外の『はぐれ深海棲艦』や『迷い深海棲艦』の出没はやはりある。

 

 それらはハグレとかマヨイとか呼ばれており、毎年何回かは近隣の海を荒らし回り、漁村や近くを航行する船を襲い、被害を出している。

 

 もちろん空母水鬼とパラオ泊地は協定により、協力してハグレやマヨイの被害をださないように警備や監視を行ってはいるが、それでも海は広く全てを取り締まるには至っていないのが実情である。

 

 明石はゲシュペンスト提督に新たな艦娘の建造を具申していた。いや、明石だけではなく長門や天龍、五十鈴までもがこの工廠の明石の部屋におり、提督に詰め寄っている。

 

「……人手不足、というわけでも無いはずだが」

 

 ゲシュペンストは今のパラオ泊地の戦力をタブレット端末に表示しつつ、過去の予定表のデータやそれぞれの傾向、そして休暇事情等を見比べながら首を捻った。

 

「戦力は確かに足りている。火力もな。それは提督の言うとおりだ」

 

 長門が腕を組みつつ頷く。では何故?とゲシュペンストは問おうとしたが、それを遮って天龍が先に答えを言った。

 

「海戦や決戦なら問題無いぜ。だけどよ、ハグレ相手の警備となると話は違うんだよ、提督」

 

 そのあとを五十鈴が継ぐ。

 

「大抵のハグレやマヨイは小型の駆逐艦や潜水艦がほとんどだって言うのは提督も知ってるでしょ?近頃出没してるタイプは小回りが利いて逃げ足が早い連中なのよ」

 

「相手が戦闘を仕掛けて来るならばいざ知らず、戦艦を見れば逃げ回るような奴らだ。小回りと速度では流石に大型艦では骨が折れる。逃げ場をふさぐにしても近頃は出没件数も増えて来ていて、このままでは近隣への大規模な被害が出る可能性もあるかも知れん」

 

 長門ほどの艦娘がそのように言うのだ。ゲシュペンスト提督は、ふうむ、と唸るように言うと、タブレット端末のデータを消し、今度は現在の資材の備蓄量のデータを表示させた。

 

 パラオ泊地は現在、戦闘が無い分資材はかなり余っており、備蓄量はほぼカンストしている。変わりに戦闘任務が無い分、本国への資材輸送によって泊地は予算や食料、医療品や様々な必需品をいわば交換して運営している状態である。

 

 ゲシュペンスト提督も艦娘を新造したところで資材はビクともしないことぐらいとっくにわかっている。

 

 わざわざ資材の備蓄量を表示させたのは、単に許可する申請書類に現在の備蓄量を書いた上でどれだけ資材を使ったのかも書いて大本営に提出する必要があるからだ。

 

 つまりゲシュペンスト提督は反対するつもりは無い。

 

「わかった。では明石、新造する艦種と数はどれぐらいにするつもりだ?」

 

「とりあえず、駆逐艦が6、軽巡か軽空母と組ませるつもりだけど、そうね……。いや、駆逐艦8、かしら。新しい子が来てくれるまでやるつもりだけど」

 

 明石はそう言い切った。

 

 

 建造のシステムは未だに人間のコントロールの外にある。建造は妖精さん達の仕事であるが、妖精さん達も実はやってみなければどの艦娘になるのかわからない。

 

 艦娘の建造の根幹は、かつての戦艦の魂を下ろしてその魂に合わせて身体や艦装を作るという事にある。

 

 同じ艦が何度も出来るという現象は、その艦の魂がいくつも分かれている事から起こることで……それを分霊と言うのだが……改装に置ける近代化改修は、この同じ艦の分霊を合わせて散らばった分霊を一つにして、魂の結合をする事に他ならないのである。

 

 明石が言っているのはつまりは、とにかく8人、今いる駆逐艦以外の子が出るまで回し続ける!!という事なのである。

 

 これをよその泊地や鎮守府なら土下座して止めてくれーーーー!!とその鎮守府の提督は泣いて叫ぶだろうなぁ。

 

 と、ゲシュペンスト提督は思ったが、このパラオ泊地は過剰過ぎるほどに貯まりまくっている。それも大型建造を10回回してもどうという事が無いほどに。

 

 

 ただ、一つ懸念があるとするならば。

 

 数日後にやってくる、土方歳子中将が新造艦娘達に変な影響を与えないようになんとかせねばならないと言うことである。

 

 建造が終わったら、とりあえず皆に通達せねばならないな、これは。

 

 ゲシュペンスト提督は少し溜め息を吐いた。

 

  

 

 

 

 




 書いてるうちに扶桑さんがなんとなく恋する乙女みたいになってるなー。

 ちなみに、扶桑さんだけが人間だった頃のゲシュペンスト提督の本名を知っている、という設定です。

 なお、ゲシュペンスト提督は扶桑さんの気持ちに全く気づいてません。

 ロボットだから、マシーンだから、ではなく、単に外見が機械の自分が女性に好かれると全く思って無いからです。

 ゲシュさんが扶桑さんをどう思っているかは、不明。
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