鳳翔と彼は数奇な縁で結ばれています。
……鳳翔さんって実は魔性の女なのかも知れませんね?
斎藤一夫陸軍司令部付き特務大尉はかつて元対深海棲艦特殊戦術部隊にいた。
当時『斬艦の鬼』と呼ばれた男であり、陸軍に置いては人間で深海棲艦を『斬る』ことの出来る者の一人であった。
その彼の持つ軍刀は『鳳翔刀』。軽空母鳳翔の鋼材から造られた刀である。
斎藤がこの刀を持っているのはある種の縁からだったといえる。この刀の元となったのは、彼の曾祖父が大切に家の床の間に飾っていた『軽空母鳳翔の廃材』である。
斎藤の曾祖父は呉の軍港で戦艦の建造工事に携わっていた、ただの工事人だった。
ある日、鳳翔の鋼鉄の板を交換した際に、彼はその部品を何故か廃材置き場に捨てることができなかった。
こっそり自分の家に持ち帰った。見つかれば罰せられたのは間違いない。だが、それでも持ち帰ったのだ。
理由はわからない。しかし斎藤の曾祖父が鳳翔になにかしらかの想いを持っていたのは確かであり、ずっとその鋼鉄の板を錆びないように磨き、宝物のように床の間にずっと飾っていたのだ。
だが、その彼も亡くなりいつしかその鋼鉄の謂われもなにも彼の家族は忘れてしまっていた。しかし曾祖父が大切にしていたものなので、捨てるような事もせず、やはり床の間に飾り続けた。なんとなく、そこにあるのが当たり前のようになっていたのもある。
その曾孫であった若き日の斎藤は何故そのような廃材を飾っているのかを不思議に思い、いろいろと調べ、曾祖父の日記を読み、それが日本海軍の鳳翔という空母の部品だった事を知った。
鳳翔や様々な大戦当時の戦艦はほぼ全て失われており、やはり貴重なものなのだと思ったが、それに何かしらの刻印や鳳翔のものであるような特徴も無かったので斎藤はただ単に自分の曾祖父が変わり者であったのだと結論づけした。
たしかに、それは平和な時代ではただの廃材であり、曾祖父が大切にしていたものだから飾っていただけの変わった置物程度だったのだ。
深海棲艦に彼の住む港町が襲撃されるまでは。
斎藤のすむ港町が深海棲艦に襲われたのは彼が16の頃だった。斎藤は逃げる際に何故か鳳凰の鋼鉄の板を持っていかねばならないような気がし、それを手に持って家族と避難場所へと向かった。両親や妹はそんなもの何故持って出たのだと言ったが、斎藤にもそれはわからなかった。おそらく気が動転して持って出たのだろうと斎藤の父は言い、誰もがそうなのだ、仕方ないだろうと祖父も言った。
言ったその時。
深海棲艦の人型が、彼の家族に砲撃を加えた。たったの一撃。たったの一発の砲撃。
それで斎藤の家族はみんな死んだ。呆気なく死んだ。一瞬の間に爆ぜて死体も残らず。
斎藤は、何故か無事だった。
だが、深海棲艦はすぐに斎藤の元へと迫り、恐怖に動けない彼を捕まえようとした。
追い詰められた斎藤はその鳳翔の鉄の板を握り、でたらめにそれを振った。警察官の銃も通用しない、化け物の頭にただの鉄の板が当たった瞬間、深海棲艦の頭は吹き飛んだ。
呆気なかった。
彼は焼けた町で途方にくれて立ち尽くした。気が付いたら軍に救出されていた。
軍は斎藤から鳳翔の鉄の板を取り上げ、軍の工廠に送った。
艦娘もまだ居なかった頃であり、深海棲艦に対して有効な武器となりうるそれを軍は徹底的に調査研究したが、何故古い軽空母の鋼鉄が深海棲艦に対して有効であるのかまではわからなかった。
試しに、軍はかつて沈んだ軍艦の鉄板などを加工して深海棲艦に使用してみたものの鳳翔の鉄板ほどにも効果は出せず、鋼材の組成や様々な側面から分析したが、結局はなにも生み出せはしなかったのである。
なにもわからぬまま、軍はその唯一深海棲艦に通用する鋼鉄の板を兵器として加工する計画をたてた。
鳳翔の鉄の板は打ち鍛えられ、一振りの刀へと姿を変え、いつしか『鳳翔刀』と呼称されることとなった。
刀となっても、やはり深海棲艦への攻撃力はすざまじかった。通常の刀ならば刃も通らぬ深海棲艦の装甲を容易く切り抜くほどの威力をそれを示し、軍は『鳳翔刀』の実戦投入を決定した。
だがしかし。
たとえ深海棲艦を倒せる武器であっても、ただの一振りの刀に過ぎない『鳳翔刀』である。艦砲を持つ深海棲艦の艦隊に敵うはずもなく、その使い手となった軍人達は次々と倒れ、死んでいったのだった。
当たり前と言えば当たり前である。銃を持った集団相手に刀だけで突っ込ませるような戦い方をさせれば普通はそうなる。
だが人は勝手なものである。
いつしか『鳳翔刀』はあたかも呪われた妖刀と呼ばれるようになったのである。
それでも、他に通用する武器の無かった軍は、次々と兵士達に『鳳翔刀』を持たせて戦わせた。それしかなかったからである。
何人も何人も使い手の間を『鳳翔刀』は約五年の間、渡って行った。
そして。陸軍軍人となった斎藤の元へと戻ったのである。
それはまるで運命のようであった。
曾祖父の残した軽空母鳳翔の鉄の板。少年だった彼を救ったそれが、彼の手に再び握られる事となったのである。
そして。彼は今、その鳳翔の化身とも言うべき女性を妻にしている。
なかなかに数奇な運命ではないか、と斎藤は思いつつ、ニヤリと笑い妻のいる輸送機の後部ハッチに向かった。
「パラオ、か。何かと縁があるものだな」
すでに夕刻。パラオの夕日は血のように赤かった。
鳳翔さんに取り憑かれたい。お艦マジお艦。