逃げて、走って、飛んで。
さて、どうなるかねー。
土方は、青葉の号外記事を読んで。
「ぶひゃっひゃっひゃっ、だーはははははは、ぶげらぶげら、ぶひゃひゃひゃ!!」
と腹を抱えてめちゃくちゃ笑い、そして酸欠気味になりつつ、「ひーっ、おかし、ひーっ、おかしー!!」とまだ笑っていた。
ここは鉄板焼き屋RJの二階である。
「土方さん、そんなに笑わなくても」
沖田はやはり青葉から受け取った号外新聞に目を通して、ぷくくっ、と吹いている。
「あんたら、ほんま変わらへんなぁ。あー、ゲシュ提督も災難やわ」
RJがビールを持ってきて言う。
「んー、でも問題は人権なんよね。つか戸籍の問題だからね。異世界のスーパーロボットに人権を与えようってのはなかなか。艦娘擁護派も艦娘祭祀派もアイツに関しては特殊過ぎてなかなか動かないのよね。松平元帥も働きかけはしてるんだけどねー」
実際、元上司として土方はかなりその辺で怒っていた。玄一郎はとにかく昔こき使われたと言っているのだが、それもゲシュペンストを軍に必死で認めさせようとしていた側面もあったのである。まぁ、使い減りしないわ無補給で戦えるわ、汎用性高いわで調子に乗って働かせていたのもあるが。
「しかし未だに軍の備品扱いで登録されてたというのは知りませんでした。あんまりです!」
沖田は玄一郎の性格と頑張りを知るが故に怒っている。というか、そつなく提督業をこなしている彼が報われないのはあんまりだとも思っていた。
と、二人の隣の席の間仕切りのふすまが開いた。
「その辺はもう問題無いぞ、土方、沖田。今回、黒田准将には日本国籍が与えられた」
そこには、大和ラムネの瓶を片手に持った斎藤一夫がいた。
「「アーイェェッ?!サイトー=サン?!サイトー=サンナンデェ?!」」
「VIPの護衛役として今日赴任してきた。陸軍特務大尉、斎藤だ。まぁ、今は憲兵ではない。そう怖がるな」
「そうそう、私もいるのですよ?」
鳳翔も、その隣にいた。
「「アーイェェ?!ホーショー=サン?!ホーショーサンもナンデェ?!」」
「お前らが悪巧みをしている時は必ずここの二階だからな。昔のように現れてみたまでだ。懐かしいだろう?」
実は斎藤夫妻は、龍驤に話を通してスタンバイしていたのである。なお、昔、この店が居酒屋鳳翔だった頃は鳳翔に頼んでやっていたわけである。
陸軍の依頼を何故断らずに鳳翔が聞いていたのか、と言うとやはり、斎藤狙いだったからなのだが、自分の上司である土方や沖田を売っても男を獲ようとする鳳翔さん。怖いわー、めっちゃ怖いわー。
「し、心臓に悪い!!つか、ほんとなんで?!」
「輸送機で来た。VIPの護衛だ。さっきも言った」
チャリンコで来た、と言うようにさらりと言う辺り、もう斎藤は壊れかけている。疲労のせいだろう。きっと。
「あと、ゲシュ君にも辞令と見舞いの品を松平元帥から預かって来たんですよ?」
「……つか、さっき黒田『准将』って?」
「そうだ。つまり昇進だな。人化したので国にも無理矢理ねじ込んで戸籍もスピード認定させる事に成功したんだそうだ。つまり、ケッコンカッコカリも問題無く出来る。さらに結婚(ガチ)も出来る。……元気があれば、出来る出来る何でも出来る、子供だって出来る、出来る、出来る……(ブツブツブツブツ)」
あ、壊れた。
「……えと、その、なんか変になってない?その、大丈夫?斎藤さん?」
「夫は最近いろいろと疲れが溜まっておりますから」
さらりと疲労の原因(夜戦)の元凶はおほほ、と笑いつつ言った。やっぱ怖いわー、鳳翔さん怖いわー。
「絞り取り過ぎや、鳳翔。というか死相出掛かっとるでこれ」
龍驤が鳳翔にツッコむ。さすが関西まな板、恐れを知らぬ。まぁ、ある意味長い付き合いの気安さではあるのだろう。
「新婚、ですし?」
「いや、何年たっとんねん。仲ええのんはええけどな。資源は大切に、や。生きとったら一生使えんねんで?」
「……俺は資源なのか?」
斎藤がげっそりとしながら頭をうなだれさせた。愛とはなんだろう、とかブツブツまた言い出す。
「……ええと、まぁ、がんば?」
「負けるなー?がんばれー?くじけるなー?」
沖田と土方はやる気なさげに応援するが、まぁそんなもの届きはしない。
「まぁ、夜のスペシャルお好み焼き焼いたるから、それ食べて精をせいぜいつけや?精だけに」
「……お下品。で、夜のスペシャルお好み焼きの具は?」
「レバーペースト、牡蠣、ニラ、ニンニク、筋煮込み、玉ねぎやな。なんならコブラ酒もつけるで?」
「……俺は酒は飲めねぇんだ」
「そーか?」
「まぁ、それはともかく、ゲー君、昇格して戸籍認められたって?」
「はい、松平元帥は、とにかくパラオには練度99の艦娘が多く在籍しているにも関わらず『結魂』艦がいないのを懸念なさってまして。今のままでは『陰極の気』を押さえられなくなると……」
『結魂』とは、魂を結んで絆を深める事に他ならない。陽極と陰極を結ぶ事でお互いを補完しつつ、力を高め合い、さらには安定に導く事を指す。
陰陽思想によくある概念であり、この場合、男は陽極、女が陰極に当たる。
艦娘においては、全員が女の姿と性質を持ち、ともすれば陰極に傾きやすく、故に無念の想いや怨みを持って轟沈すれば『深海棲艦化』してしまいやすいのである。
その陰極に対する存在に『提督』によって中和するのが現在の艦娘基地構想の骨子なのであるが、この『提督』をシステムに当てはめても『練度』の高い艦娘、すなわち顕現化して年数が長いかったり、戦闘経験を積んだ艦娘達は往々にして陰気を溜め込み、その陰極の力は押さえきれなくなるのである。
たしかに『練度』は艦娘の強さの指標ではあるが、もう一つの側面としてはその霊力の強さも指し示すのである。霊力が高いという事はすなわち、その持つ属性の気が高いと言うことでもある。
陰極の気が高い事は、すなわち様々な悪影響も出るということなのである。
例を上げれば扶桑がまず筆頭に上げられるだろう。
まず秘書艦としたならば艦娘建造で有り得ない現象を引き起こす。その霊力を込めた砲弾は重装甲かつグラビティフィールドを展開したゲシュペンストの装甲すらも貫通するほどの威力を発揮し、艦装無しで300キログラム以上のゲシュペンストを引っ張り上げる力を出せる。さらに、彼女の精神にもやはりそれは影響を与えており、昔の彼女では考えられないほどに怒りや嫉妬心を表に出しやすくなっているのである。
さらに次の例を上げるならば、比叡もそうであろう。
彼女は望まぬケッコンカッコカリと形だけの結婚(ガチ)をさせられ、女として否定された関係を強要された艦娘といえる。彼女の形だけの夫は『ホモ』であり『女性嫌悪症』を持つ『ガチムチ変態男』であったのだ。
故に『結魂』も全く無く、怨念を溜め込むだけ溜め込んでおり、精神にトラウマを抱えたままである。故に通常ならば離婚(ガチ)をしたならば戻るはずの練度が戻らず、かなり危険な状態にある。
そのような危険な艦娘達は他にもいる。
天龍、龍田などは暗殺という目的に使われていたせいで、殺した者達の怨念を取り込んでいるし、夕立、時雨は壊滅した仲間達の無念を取り込み、精神的に変調をきたしている。
足柄は男日照りで少し荒れているし、愛宕などは母性が強すぎて何かを甘やかしたくて仕方なくなっているし、瑞鳳などは玉子焼きを誰かに食わせたくて仕方ない。赤城はとにかく食事に固執、加賀はツンデレ演歌歌手としてデビューしつつあるし、もう大なり小なりとにかく、大きな異常現象が起こるのも時間の問題ともいえる。パラオ泊地はかなりの危険な状態にあるのだ。
「それに、ゲシュ君の問題もあるのです。彼は、肉体が無いままに陽の気を溜めすぎたのです。戦うたびにそれは大きくなっているのです。彼の兵器を使うときの破壊の言霊。これが彼の闘争本能を増大させて、荒ぶる魂へと変わりつつある。彼自身、鎮めねばなりませんが、幸いな事に今は肉体が出来た状態です。故に、急がなければなりません」
「……つまり、童貞を早いとこ捨てさせねーとヤベーのよな」
「……あの童貞がそないに易々と応じるやろかなぁ。あれ、とことん拗らせとるで?早いとこなんとかせなあかんのやろけどな」
「つまり、童貞こじらせて新世界の王とか童帝とかそういう感じになるわけですね?」
「魔法使いとか賢者とか通り越してそれですか」
「俺は童貞だぁぁぁ!とかアイツ言いそうだからな。いや、もう言ってるかもしれん。で、チェストーーーとかデカい敵に示現流やらかすんだ、これが」
「それは、恋人が殺された主人公のアニメじゃないですか。出来ればゲシュ君には、こう……ラブラブ天驚拳とか出すようなエンディングでこう、幸せになって欲しいのですが」
「……あの、なんの話をしてんの?」
「いえ、彼がその『結魂』しないと大変な事になりかねないというお話ですね」
「……なんや、もうカオスやなぁ。とりあえず、ウチ下に下りとるで。注文はタッチパネルな?」
「回転寿司屋みたい」
「うっさいわ!ベル鳴らして一々御用聞きやったら疲れんねん!足短いねん、階段辛いねん!」
切実な店側の問題であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、玄一郎は追われていた。
「アオバワレェーーーーっ!!」
と叫びながら、いつかアイツクレーンに全裸で縛って吊す!!その前にケツをバシバシしばいてやる、パンツ脱がしてなぁぁっ!!とか思っていた。
追いかけているのは足柄、その両隣には夕立と時雨である。
飢えた狼と猟犬の三匹は即興とも思えぬほどの連携で玄一郎を追い詰めつつある。
「右っ!回り込んで牽制!左っ、夕立、直進!そのままっ!」
指示する足柄はまさに歴戦の艦娘である。それは玄一郎の行動を読み切り、確実に逃げ場を潰している。砲撃自体は無い。基地内での御法度なのである。
事の発端は、玄一郎が間宮食堂を出てから起こった。偶然、出入り口で足柄とばったり遭遇した事からだ。
店に入ろうとする足柄に呼び止められて、そこで普通に対処したはずだった。
「あら、あなた、どこかで見た気がするわね?」
と言われて、玄一郎は単に
「いやぁ、どこにでもいるような顔ですから」
と答えただけなのである。だが、さらに事態は深刻に悪化した。夕立と時雨が
「「あーっ!提督の中身っ(ぽい)!!」」
と、叫んだからだ。その手には青葉の発行している新聞の号外。そこにデカデカと玄一郎が伊良湖ベーカリーでブルーノ隊長と写っている写真が乗っていたのだ。
すぐさま玄一郎は走って逃げた。
そう、なんか夕立と時雨がそういった時、足柄の雰囲気が変わって、そう、獲物を見つけた狼のような目をしたからである。
そして、現在に至る。
「俺が何をしたーーーっ!!」
「ええい、とまりなさいな!!」
「たぁぁぁっ!!」
「ぽいぃーっ!!」
(やべぇ、この先は行き止まりだ。くっ、ならばっ!)
倉庫の路地の行き止まりに追い込まれる玄一郎。これが常人ならば、行き場は無い。
「追い詰めたわっ、おとなしくなさいな!!」
足柄がそう言った瞬間、玄一郎は路地の壁の側面へと走った勢いのまま飛んだ。
そして壁に足が着くと同時に反対側の壁へとジャンプ、そしてそれを繰り返して倉庫の屋根へと飛び乗った。
「せいやぁあああっ!!」
気分はまるでパルクール、アサシンでクリードな感じである。強化人間の身体能力はそんな事も朝飯前でやってのけた。
「ふははははは、さーらーばーだーーーっ!!」
捨て台詞を残して、そのまま倉庫の屋根を伝って、走り去る!!
と、思ったら何か手裏剣が飛んで来た。
クナイという形の両刃のダガーのようなそれの柄を掴み、他のクナイを弾き飛ばし、腹の辺りに向かう殺気に、後ろに飛びつつ、掴んだクナイでそれを受け止めた。
ガキーン!と金属の響くような鋭い音が響いた。
クナイの主は川内。腹に切りかかったのは神通であった。
「やるじゃん『提督』!」
「さすがです『提督』」
二人は『提督』と言っているのになんかやたらと好戦的な目をして……いや、何かそれよりもっとおかしい、お前らなんか変なモンでも食べたか?というような目、すなわちハートみたいなそんなエフェクトがかかったような目だった。
「あの、提督ってわかってんのになんで攻撃してくんの?君たち」
「んー?夜戦?」
「提督に勝って、さらなる高みへ登る為です!そう、ケッコン艦に、なって提督のお側に!」
「…………」
玄一郎は絶句した。
ナニコレ?ナニ?コイツらの頭ん中どうしたの?ナニカされたの?ワケワカンネェ。
「夜っ戦~、夜っ戦~、夜戦が終わっても、『夜戦』してよ?約束よ?」
「提督にあの時託された『五郎入道正宗』。この刀の意味をずっと考えていました。そして今夜、やっとわかったのです!提督は、この刀に相応しい女になったときに、私を娶るつもりなのだと!!ですから、勝負です!!」
「夜戦~夜戦~、はっじめての~夜戦~。優しくしてね?」
「……夜戦バカと剣術バカが変なので、那珂ちゃんのファン辞めます」
もうやだ、と玄一郎は思い、そしてクナイを握りしめつつ、ため息を盛大に吐いた。
ナニコレ?艦これ?
玄一郎の明日はどっちだ!?
足柄さんと夕立と時雨。
川内神通組。
夜は狩りの時間です。