扶桑もその中の一人ですが他にも……。
「「「「なんだとぉぉぉっ!!」」」」
土方中将が査察に来る、と長門、天龍、五十鈴、明石に伝えると、やはりというかなんというかこのザマである。
「ざけんじゃねーぞ、おい!!」
と天龍。
いや、まったくその通り。
「やめてよね~!!」
と五十鈴。
その気持ちはよくわかる。
「最悪だ。クロスロード作戦よりも最悪だ」
と長門。
いやいや、それはあんたのトラウマでしょ?!というかそれよりもトラウマなのかよ?!
「このタイミングで、災厄じゃない!!」
と明石。
最悪じゃなく災害扱いかよ。間違ってないけど。
ゲシュペンスト提督は心の中で同意とツッコミを入れつつ、ゴホンと咳払いをした。まぁロボットなので実際に咳など出来ないので音声だけなのだが。
「そう、新造艦達にとり、悪影響やトラウマを植え付けるような事は避けねばならない。よってみんなの意見を聞きたいのだが……。ぶっちゃけ、何かいい案はないだろうか?」
「……提督が、土方中将の乗っている航空機をブチ墜しに行けば丸く収まると思うのだが?」
まず、土方中将を嫌っている長門が非常に物騒な事を言い出した。
この長門は元々はパラオ泊地で建造された艦娘ではない。またドロップでもない。彼女はゲシュペンストが提督に着任した際に、海軍元帥である松平朋也閣下から戦術指南役として贈られた艦娘である。
故に本国に帰る土方中将とはちょうど入れ替わりにこちらに来たわけであまり面識はない。にも関わらず彼女が土方中将を嫌っているのには理由がある。
それは、本国に帰った土方中将が新造した長門型一番艦長門にある。
土方中将の長門は、土方中将の性癖にかなりの部分で影響を受けた為、土方中将が『艦娘ラヴューン』ならばこの長門は『駆逐艦ラヴューン』と言うようなロリコンになってしまい、周りから「それ長門ちゃう!!ナガモンや!!」と言われる程に日本海軍の誉、ビッグセブン長門の名を汚しまくっているからなのである。
誇り高き彼女としてみれば、土方中将もその『ナガモン』も許し難い存在である。とはいえ。
「「「却下っ!」」」
ゲシュペンスト提督と他の艦娘達が声を同じく叫ぶように却下した。
「仮にもアレでも相手は日本海軍の将校にして大本営四大重鎮よ?!謀叛の意思ありと見られて粛清部隊が来るわっ!!」
五十鈴がツッコむ。
「憲兵さんに連絡するのはもちろんの事として、誰かお目付役いざとなったら速やかに行動不能に出来るような子をつけるしか無いわね」
明石が工廠の建造システムをコンソールで起動しつつ真っ当な意見を述べた。もちろんそれはゲシュペンスト提督も考えていたが、問題は土方中将につける人材である。
「……誰をつけるのが良いだろうか。シフト調整前だから今なら人材は都合はつけられるだろうが……」
「コレに関しちゃ、志願者を募るワケにはいかねーだろな。志願者を募ったら、アレを増長させるような奴が手を上げてくるだろーしな」
そう、天龍が言うように志願してくる艦娘は容易に想像できた。おそらく志願者筆頭に挙げられる艦娘は、暁型四姉妹であろう。
暁型四姉妹は土方中将を特に嫌ってはいない。
それどころかかなりの部分で影響を受けており、例えば響などはやたらとフリーダムで予測不可能な性格となっていたり、雷はやたらと鈍器を振り回したりする。
電は影響が少ないもののやたらと土方中将に甘い。
ネームシップの暁が一番土方中将の影響を受けてはいないのだが、この三人にやたらと振り回され気苦労ばかりかけられており、その役をさせるのは酷というものである。
故に却下。
次に高雄型四姉妹のうち、愛宕。
彼女は全く影響を受けてはいないのにやたらと土方中将を甘やかす。なんというか全てを受け入れるような優しさで見守りつつ「あらあら、うふふ」と優しく接するのであるが今必要なのは優しさではなく、監視役なのである。
故に却下。
また、愛宕では非常に心配だからと姉の高雄がおそらくそれに付き合うであろう事も推測されるが、以前にそれで彼女は急性胃炎でぶっ倒れた事がある。
故に余計に却下。
摩耶、鳥海に関しては絶対に志願などするはずもなく、たとえ姉達が志願したとしても何らかの任務に志願してそれを避けようとするだろう。
まぁ、志願しないだろうから、それはそれで善し。というか摩耶と鳥海には向かないのもある。
さらに、金剛型四姉妹。
パラオ泊地の金剛は女性提督に対してはバーニングラブをしない。彼女は非常にノーマルであるからである。とはいえ土方中将に対しては友情のようなものを持っており可もなく不可もない。
しかし、問題は比叡と榛名、そして霧島である。
ここの比叡は土方中将を嫌っている。金剛とのスキンシップがやたらと多いのもそうだが、それよりもなおかつ比叡はここにいる金剛とは別の鎮守府、それもブラック鎮守府の出身であり、提督という人種をすべからく嫌っているのである。故に彼女は嫌がらせの為にワザと不味く作った通称『比叡カレー』をやたらと食わせようとする。
ゲシュペンスト提督も一度出されたが、ロボット故に食べることが出来ない事もあり、被害は受けていない。ただし、カレーに含まれていた成分を分析して大量の下剤が入っていることを知って恐怖した事がある。
却下、だろう。
榛名も比叡と同じく別の鎮守府の所属だったが、彼女の場合は普通にホワイトな良心的かつ常識的な提督の所で働いていた為、土方中将のような所謂変態には慣れておらず「榛名は……だ、ダイジョーブ、でしょうか?」と、ぶっ倒れるのが目に見えている。というか一度それで本当にぶっ倒れた事があるので不憫である。
故に却下。
最大の問題は霧島であろう。
彼女は普段は冷静沈着で常識かつ理性的な性格で、普段怒るという事はめったに無い。まるで菩薩のように振る舞う、所謂知的女性の鑑である。しかし、そんな彼女をかつて土方中将はキレさせた事がある。その怒りの激しさたるや恐るべし。司令室が全壊し、逃げ出した土方中将を一晩中追い回し、そして捕らえた後は営倉へと叩き込んでようやっとその怒りを納めたという事態になったのである。
流石の土方中将もその後は霧島を怒らせないようにしたと言う。
故に……いや、霧島は保留。
というように、志願させるのも問題なのである。
「……こんな時に鳳翔さんが居れば」
五十鈴がそうポツリとつぶやく。
「いや、そんなしみじみと亡くなった人の事を言うように呟くんじゃない。鳳翔は寿退職して日本に帰っただけだろうが。だが、それには同感だな」
長門が言うように鳳翔は現在、パラオ泊地にいた憲兵の一人と結婚し、本国へ帰国。その後に居酒屋を営みつつ幸せに暮らしているそうである。
ただパラオ泊地にいた鳳翔は土方中将だけでなく、元帥である松平朋也閣下、近藤大将、沖田少将など、海軍の御歴々全てが頭が上がらない艦娘であった。
なにしろ、松平元帥の前、今は隠居している山本元元帥の艦娘の一人であり、深海大戦と現在呼称される今の戦争の初期から戦い続けていた伝説の艦娘だったのである。彼女が今もパラオ泊地にいたならばこんなに悩むことは無かっただろう。
長門はむう、と唸り、
「……いっそ、龍田に頼むか?」
と言った。
「却下だ。それ土方中将を殺らせるつもりで言ってるだろ。ウチの妹を人殺しにさせんな」
天龍が長門を睨んだ。
パラオ泊地所属の天龍型二番艦龍田は訳ありの艦娘である。かつては『第13特務部隊所属・部隊長』だった。
公式に特務部隊は12番隊までしか存在しない事になってはいるが、それぞれが何らかの内調や調査部隊となっている。しかし、非公式として13番隊は存在していた。
この13番隊は特務部の暗部であり、対人暗殺に特化した『死神部隊』と呼ばれる部隊だったのである。
無論、そんな部隊を運営している特務部はブラックで非人道的であり、さらには海軍の元帥である松平朋也閣下ですらも全容すら掴めないアンダーグラウンドなネットワークの元に活動していたのである。
彼女が何故パラオ泊地所属になったのかは、今ここにいる四人とゲシュペンスト提督の他に知るものはいない、機密である。
故にここにいる者には天龍が言っている本当の意味がわかるのである。
「龍田は……却下、だな」
ゲシュペンスト提督がううむ、と唸る。
「大和は振り回されるだろうし、武蔵はああ見えてピュアだから無理。赤城はしっかりしてるけど身内には甘いし、加賀は爆撃しかねない。妙高は向かないし、足柄は暴行を加えかねないし、羽黒は無理。ビスマルクは当然逃げるし、プリンツは哀れな事になるからダメ。グラーフは大本営で研修中、雪風島風天津風はどう考えても被害甚大。もちろんここにいる面子で長門は殺害計画立てたから却下、間宮は開発が押してるから無理、天龍も私も新しい子達の教練の予定をもう立てちゃってるから無理、提督はアレの被害に備えて司令室を離れられないだろうし……。ダメね、誰も適任者がいないわ」
五十鈴が頭を抱えた。
この場の誰もが、深く絶望のため息をはぁーーーーっと吐いた。
ゲシュペンスト提督は、もう霧島先生に頼むしかないかなぁ、と思い始めていた。
長門がいる鎮守府や泊地は全部で12。つまり、長門は12人いるわけですが、件の『ナガモン』は長門達からは長門扱いされてませんので数には入りません。
比叡は元々料理上手な艦娘でしたが、わざとマズい飯を作って提督に食わせる事でうさを晴らそうとする、という設定です。なお天敵は赤城さん。
天龍も実は訳ありな艦娘で、所謂フフ怖さんではありません。様々な経験から怒ると無言かつ冷静になる性格になってます。
なお、おそらくなんか不憫な艦娘は榛名。いろんな意味で。