ゲシュ兄さん。
金剛さんは良い女。
帰還した玄一郎は簡単な指示だけ第一艦隊の旗艦を勤めた伊勢に出し、そのままゲシュペンストとカルディアを連れて執務室へと向かった。
途中、パラオ湾岸の警備任務から帰還し、寮に帰る途中の不知火に会い「やぁ、不知火!君の生き別れのおねぇさんだよ?」などと言って紹介しつつ、からかった。
「えっ?!私に生き別れのおねぇさんが?!」と不知火は本気で驚いていたが、君も君の姉の陽炎達もみんなパラオ泊地で建造されたのに何故にこうも引っかかるのだ、と玄一郎はちょっと心配した。
なお、思い切りカルディアにシバかれた。めっさ痛かった。
カルディアは素直に信じている不知火の態度にめちゃくちゃ焦りつつ、自分が生き別れの姉ではないと説明していたが、その姿にはかつての悪側のアンドロイドには見えず、思わず玄一郎は笑った。まぁ、カルディアにまたシバかれたのだが。
そのあと、まるで今気がついたように不知火は玄一郎に、「ええと、あなたはどなたです?」と言って来た。
どうやら不知火は玄一郎が提督であるとわかっていないようだった。まぁ、仕方ないだろう。ゲシュペンストの姿しか不知火は知らないのだろうし、そのゲシュペンストは玄一郎の後ろにいるのだ。
故に玄一郎も悪乗りし「実は俺が君の生き別れの兄さんなんだ!」とやらかした。
「ええっ?!あなたが私の兄さん?!」と引っかかったので、おいおいと思うも面白かったので、「ほら!不知火、胸に飛び込んでおいで!!」などとさらにやらかした。
不知火は本当に飛び込んで来て「会いたかった!兄さん!!」と言いつつ抱きつき、うりうりと頭を胸にこすりつけてきたので、この子は将来悪い男に騙されそうだからマジで俺心配と玄一郎は思った。
「いや、悪い、俺は実は提督なんだ」
冗談だ、と玄一郎がバラしても、不知火は離しはせず、というかむしろしがみつき「提督が私の兄さんだったのですね?ああ、ゲシュにぃさぁん!」と某ロム兄さんを呼ぶような感じで玄一郎を呼びすりすり。
「ゲシュ兄さん。お願いがあるのですが?」
「不知火、いや俺は君の兄じゃないんだが?あとゲシュ兄さんはやめれ。つか、お願いって何だ?」
「兄さん、不知火はもう大人なのでケッコンカッコカリ出来るんですよ?」
「……いや、だから兄さんと呼びつつケッコンカッコカリとか訳解らんのだが?」
「何のことですか?兄さん。不知火何のことかわかりません、うりうりうり、マーキングマーキング」
すりすりうりうりうりゅんうりゅん。
「いや、そんなに頭擦り付けられてもだな。つかカルディアねーさん、助けろ!」
「……いや、私はお前の姉ではないし?というかそのシラヌイとなら姉妹と言われても別になんとも思わないが、お前のような変態とはすっごく嫌だ」
「誰が変態やねん?!つかマジお願いします、この子しがみついて離れてくんないの?!」
「自業自得だ。自分でなんとかしろ」
〔うむ、墓穴を掘ったお前が悪い」
カルディアもゲシュペンストももう、非常に冷たかった。
「大人になったら兄さんのお嫁さんになる!とか世の妹達は幼い頃に言うではないですか。なので、もう大人ですから兄さんのお嫁に行きます、を不知火は実行したいのですが?」
「いや、過程すっ飛ばしっ?!つかブラコン?!」
「可愛い妹のお願いです。禁断の兄妹愛プレイとか好きなんですよね?」
「プレイ言うな。つかお前最初から解っててチャンス狙ってやがったな?!」
「不知火の落ち度じゃありません。隙を見せた兄さんの落ち度です。大丈夫、血が繋がってないからケッコンカッコカリも大丈夫。むしろ推奨。いえ決定」
「何を言っとるのだ不知火?!」
「一万年と二千年引く一万年と千九百九十年ぐらい前から愛してる。兄さん、あなたと、合体したい……」
「なんか壮大な感じで実はそうでもない年数?!つか具体的過ぎて生々しい!あと兄さんはやめれ?!」
「……しかたありませんね。はぁ、でも存分にテイトクニウムを補充出来ました。ちょっと満足です」
ようやく不知火は玄一郎の身体から離れた。なんとなくその顔はやたらと満ち足りた表情で少しドヤッ。
「どんな成分だよそれ。いや、言わなくていい。うん」
なんとなく、女の子が言ってはいけないようなワードが出そうな気がしたのであえて止めた。
不知火は珍しいぐらいの笑みを浮かべて。
「……ケッコンカッコカリ、いつでも申し出をお待ちしてます。なお検討されなくとも押し掛けますのでよろしくです。ではこれで。『兄さん』」
そう言うと寮の方へと歩いて言った。
ものすごい疲労感に玄一郎はがっくりとし、これからは艦娘をからかったりするのは止めよう、と心に決めた。もっともそれがいつまで守られるかは不明であるが。
「……ふむ、お前は随分と慕われているのだな。変態なのに。あと、いらんことはしない方がいいぞ?あちらが上手(うわて)だ」
「変態は余計だ」
「とはいえ、確かに私に似ていたな。一緒にいたら確かに姉妹と間違われそうだが、お前の部下だけあってやはり変だ」
「カルディア、実は俺、お前の生き別れの……」
両手を広げてさぁ、おいでっ!とやりつつ。
べしっ!
脳天にチョップをくらった。
「ちょっとは学習しろ。お前と私は他人だ。それに兄という存在にはろくな目にあわされていない。もう結構だ」
ピート・ペインを思い出しながらカルディアは眉間にシワを寄せた。あれは正直兄と呼ぶのもカルディアにとって嫌な存在だった。今から思えばあれをぶちのめす事が出来た妹機のアシェンを羨ましいと思う。まぁ、あのアシェンも正直、嫌いなタイプなのだが。
「そういや、そうだったな。お前の記憶で見てた。軽率だった。すまんすまん」
「いや、いい。過去の話だ」
「ま、いろいろあって当たり前だ。さて、とりあえず滞留許可申請書を作らにゃならんが、ゲシュペンスト、出来たか?」
〔とっくに執務室のプリンターに出してある。遊びすぎだ。それに他の艦娘に捕まる前に執務室へ行こう〕
「仕事早いね、流石。で、土方中将達は?」
〔執務室だ。君を待っている〕
「ふむ、では。妙な視線があちこちからするから急ごうか。身の危険を感じちゃうしね?」
玄一郎はとりあえず、周りを刺激しないように慎重に、しかし急いで基地司令部の建物へ向かった。
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執務室には土方と沖田が待っていた。二人の秘書官の長門と加賀、そして玄一郎の秘書の扶桑、何故か金剛がいた。
「おかえり~ゲー君、黒やん」
と、土方中将が全く軍人と思えないだるだるさで出迎えた。おそらく泊地周辺地域の警戒の指揮に加えて各地のテロリストの活動、そして大本営との情報などを分析したりして疲れているのだろう。
沖田少将はと言えば、きっちりとしつつも、やはりその目には隈がが浮かんでいる。球磨~、ではない。隈である。伊達に二人とも若くして他の将官を抑えて重鎮になどなってはいない。ふんぞり返るようなお飾りの将官達とは一線を画す、行動する頭脳なのである。
「ふむ、そっちカルディア少尉だね。うんうん、なかなかナイスなコスしてんね。あたしが土方歳子中将だよ?よろしくね」
「……中将?」
「ああ、この軍人としてだらけきっているのが土方中将、そしてこちらの真面目な方が沖田少将だ」
「失礼ねぇ、黒やん。フレンドリーって言ってよ。まぁ、真面目にやるかね。はい、日本海軍大本営所属の土方よ。このパラオ泊地は現在厳戒態勢にあってね。黒田准将とゲシュペンストが出撃しなきゃならないときの司令官代理をしてんのよ。で、こっちが大本営所属、諜報部司令の沖田少将」
「はっ、カルディア・バシリッサ少尉であります。今回の救出、感謝致します」
カルディアは叩き上げの軍人らしく正式な敬礼した。
沖田はやはり敬礼で返したが、土方は手をひらひらと振って、堅苦しいのはナシナシ、と言ってへらへら。
よくこれで軍人、それも中将なんて務まるなといつも玄一郎は思うが、これが土方という人間なのである。仕方あるまい。
「いいのいいの。それにカルディア少尉、ゲー君と同郷だって?異世界からいきなりテロリストの真っ只中なんて災難だったねぇ」
土方のその言葉にカルディアは驚いた。
「普通は常識的に考えて有り得ないとか否定されるものでは?私が言うのもなんですが」
「ん~?前例でとんでもないのが来たからねぇ。そのとんでもないのに保証されたらそりゃあ信じるしかないっしょ」
土方は玄一郎とゲシュペンストを指差しながら言った。ある意味納得の答である。
「話を聞いてあたしはまた、コイツみたいにとんでもない破壊の権化みたいなのが来たのかと思って一瞬警戒したけど、まぁ、少尉みたいな可愛い子なら良いわ。むしろ姉妹とかいないの?大歓迎よ」
「むしろ私は来て欲しく無い。殺し合う仲でしたから」
カルディアが、苦虫潰したような顔をしてそう言った。
「……あー、殺伐としてたのね」
「……まぁ、敵味方以前に腹が立つ相手でしたので」
場が微妙な空気に包まれた。
カルディアの記憶を見て知っている玄一郎もこれには苦笑するしかなかった。というか、あの変な連中が相手では正直、真面目なカルディアも大変だったろうな、とか思った。あんなまとまりの無い連中が世界を一つ救うとか本当なら無理だろ、とか思ったが、よく考えればこのパラオ泊地も人の事は言えないのである。
(……艦娘達もカオスだからなぁ)
正直な所、玄一郎の性格も人の事は言えない。
「ごほん。それはさておき中将、カルディア少尉もいろいろあって疲れております。在留届やら関係書類渡して……っと、もう大淀、終業してますか。明日に話を聞くことにして今日のところはもう休んでもらってはいかがですかね?」
玄一郎はそういい、この微妙な空気をなんとかしようとした。
それでなくとも玄一郎も扶桑姉妹と話をせねばならないのである。とっとと終わらせたい、そう思っていた。
「ん~、そうね。ああ、そうそう。カルディア少尉。お腹は空いてない?もし良かったら私達と一緒しない?このパラオの間宮食堂はね、すんごい美味しいのよ!奢ったげるから、どう?」
「美味しい?……是非ともご一緒させてくださいでありますのことですのよごんす!!……ごほんごほん!!いえ、ご一緒させていただきます」
「……え、ええ。一緒に行きましょうであるのことよ?」
土方は少し引き気味だったが、この人にはものすごく珍しい現象であった。
「ヘーイ、トッシー、ワターシも一緒して良いでーすカー?」
金剛が手を上げて言った。玄一郎はおや?と思った。てっきり金剛はこの場に残るとばかり思っており、昨晩の件について話を聞きたいと思っていたのだ。
「おっ、金剛も来る?うんうん、いこういこう!歓迎歓迎!」
土方が嬉しそうにうんうんと首を縦に振る。
「ん~、それなら扶桑は?来る?来ちゃう?どう?」
「いえ、山城が食事を作って待っておりますので……」
「あ~、そっか」
土方には珍しく簡単に引き下がった。そして一瞬、にやり、と笑うのが見えた。
そして。
「ごにょごにょごにょ」
と扶桑にしか聞こえないように囁くと、肩をぽん、と叩いてさらにニンマリ。
扶桑は何か少し困り顔をしたが、それでもニコリと笑った。
「んじゃ、行きますかねぇ」
土方はカマーン!と言いつつみんなを連れて出て行く。途中で一行の後ろにいた金剛がさりげなく玄一郎に近づき。
「……ワターシ達の話はマタ後日ネ。今晩は扶桑達と、ネ?」
と囁いた。
とあるところで見た不知火の猫耳生やしたイラストがやたらと可愛くて不知火を猫化してしまった。
主人公がどんどんバカになってる気がする。
次回、婚約指輪の代償、でまた会おう!(なお予定は未定)。