「計画通り」松平夫妻どや顔。
ムサシ、破れたり!(ナニが破れたかは内緒)。
一部下ネタあり。
夜である。
娘の帰国の報に慌てて松平家にやってきた親父が一人と母親のうちの一人が一人。
言わずと知れた近藤勲大将と舞鶴鎮守府の良心大和であった。近藤夫妻は新幹線に乗ってタクシーでハイヤッ!!と来たのであった。
「オウカーっ!!帰って来てたんなら連絡入れんか~っ!!」
近藤が思い切り親バカしていた。
「お、お義父さん……」
「もうっ、あなたったら!すみません、元帥、奥様、夜分に押しかけてしまって」
「いやいや、私が連絡したのだよ。面白……いや、近藤君も随分と心配していたようなのでね」
今、この人『面白そう』とか言い掛けたよな?
と、玄一郎は思い、そして松平元帥の奥さんである叢雲の方を見た。なんかスッゲェ、ニンマリワクテカしていた。
「近藤君は随分と娘さんを可愛がっているようだね。ふむ」
「はっ、いやぁ、先輩……っと、本来ならば元帥閣下にも先にご挨拶に上がらねばならない所でありましたが、まさかこのような形で……いやはやすみません!」
「いや、黒田准将の乗った戦艦『シロガネ』にたまたま彼女も便乗していたのでね。もう先ほど話はさせてもらったよ。なかなか聡明でしっかりとした娘さんじゃないか。君が養女に、というのもよくわかる」
「はっ、ありがとうございます!」
「というか、その話し方止めないか?ここには気心の知れた者しかいない。確かに部下の手前、範を示すのは上官として正しいが、彼はゲシュペンスト君だよ」
「は?ああ、いえ人化したとは聞いてましたが、あー、お前さんこんな面してたのかよ、ああ、なるほど」
「ふむ、君にもとりあえず紹介したい方々が何人かいるのだが、まず、前の世界でオウカ君が世話になったという、クエルボ・セロ氏。テロリストの正体に関する情報を持ってテロリスト達からクエルボ・セロ氏と共に逃げてきたレモン・ブロウニング女史とその助手のエキドナ・イーサッキ女史。あと、ウォーダン・ユミル氏にゲシュペンスト君の弟子のソースケ・ウルズ君」
だーっと松平元帥はここにいる全員を近藤に紹介した。その顔は非常ににこやかである。
「はぁ、オウカが前の世界でお世話になったと?」
やはりというか、娘が世話になったと聞いてクエルボ・セロの方にまず話しかける近藤。
叢雲がニヒッ、と笑うのが玄一郎の方から見えた。
昔からこの松平夫婦はやたらと人間関係のゴタゴタで遊ぶようなところがあるのだ。おそらく、近藤大将の親バカさを期待しているのだろう。
だが、クエルボ・セロは安全パイであり、オウカと何らか、恋愛に発展するような気配は無い。恩師と生徒といった感じなのだ。
(果たして、誰に飛び火するかわからん。油断出来ん)
玄一郎は様々なシミュレーションをしてみた。
危険な地雷としては、ウルズこと『ソースケ』である。名字が無いので『ソースケ・ウルズ』と名をつけたが、コイツは昔にその兄弟達とオウカやその妹や弟達をバカにしていたという。
バレたらヤバい。確実にヤバい。
内心ヒヤヒヤしながら玄一郎は近藤大将とクエルボの話を聞いていた。
「お世話と言うような事は出来ておりません。力足りず、私はオウカを助けられなかったのです。ですがこちらの世界ではオウカは幸せなようで安心しました」
「いえ、何にしても娘の恩人とあれば私達夫婦にとっても恩人です」
「いえいえ、結局、今回、オウカに助けてもらったぐらいですよ」
「そうねぇ、私達だけじゃほんと危なかったもの。黒田准将とオウカ、それにウォーダンが救出に来てくれて助かったわぁ」
レモンがニッコリ笑って言った。
「……は?今なんと?」
玄一郎は、あ、やべっ!と思った。
なにしろ近藤からは、くれぐれも娘に危険な真似をさせるんじゃねぇぞ、というメールを受け取っていたからだ。しかも民間人は戦闘をさせていた事もある。
レモンはにこにこ顔で「ですから、敵機体の群れに襲われていたところを駆けつけて助けていただいたんですのよ?」と言った。
そう、レモンはわかっていて入っているのだ。そう、わざとである。確信犯である。松平元帥の意図に気づいてわざとぼかさずに、コイツはオタクの娘さんに戦闘行為をさせてましたよー、と、養父である近藤に伝えているのである。
こっちに飛び火したっ?!
「おう、ゲシュ提督よぉ、ちょっと事情話してもらえるか?ああん?」
「はい、近藤大将」
内心、うわーぁ、と思いつつもポーカーフェイスを崩さない。玄一郎が何かを誤魔化したり人を煙に巻くときのもはやそれは癖であり、そして十八番な表情であった。
「俺ぁ、娘を危険な事に巻き込むなって行ったよなぁ?」
(考えろ俺、考えろ俺、何か打開策はないか?!)
「はい」
「なんで、敵に襲われている船の救出にウチの娘が出張ってんだよ」
(くっ、打開策は……)
玄一郎はあえてここはきちんとワビを入れる事にした。
「私が、娘さんの戦闘力を当てにして要請いたしました。敵の機体が多く、また空戦の出来る機体は私とそこのウォーダンの他には娘さんのラピエサージュしかおりませんでした。また、クエルボ・セロ博士は娘さんと縁のある方と言うことで円滑に事情聴取が出来ると判断し今回の決断を致しました」
全て後付けの理由である。ここで責任者である玄一郎が四の五のオウカが無理についてきたなどと言っても通らない。責任者とは全ての責任を負うからこその責任者なのである。
「……おぅ、この娘はなぁ、民間人なんだ。いや、親父としてはなぁ、もう血でその手を汚して欲しくねぇんだ、わかってんのかテメェ?」
「やめて!お義父さん!私が無理矢理に着いていったの!黒田准将は、来るな、と言って止めていたの!でも、クエルボさんが危ないと知って、たまらずに出撃したの!!」
「お前は黙っていろ、オウカ。准将、てめえは俺の気持ちをわかってて、わかってて出したな?何故だ、答えろ!」
「……恩師を救いたいと願う、彼女の思いが痛いほどにわかるからです。俺だって同じ世界の、友人や親友、家族がこの世界に来ていて、それが助けを求めているなら同じ事をしていたでしょう」
玄一郎は姿勢を正した。
「今回の責任は全て俺にあります。全て俺の判断であります」
近藤大将の目を真っ直ぐに見て玄一郎はそう言った。
オウカは、目を見開いた。
「そんなっ!全ては私の我が儘のせいです!お義父さん!悪いのは私です!!」
「オウカ君、責任は大人が取るものだ。現場の責任者は俺だ。許可を出した時点で全て俺の判断で責任は俺にある」
「……言うじゃねぇか。ロボットん時よりいい目をしやがって。准将、腹か顔か、選べ」
「では顔を」
「……と、言いたいところだが、俺にはてめえを殴れねぇな。艦娘同様、お前を殴っても俺の拳が痛いだけじゃねぇか。……大和、代理だ。娘のやったことの始末は付けねぇといけねぇ」
近藤に『娘にやった事』では無く『娘のやった事』と言った。オウカが玄一郎に頼み込んだ事は近藤もわかった。しかし、責任者は玄一郎なのである。故に、玄一郎が始末を付けねばならない、といっているのだ。
それはある意味オウカを叱るよりもオウカには堪えるだろう。大人のケジメを見せる。それも含めての制裁である。
近藤が後ろに下がり、大和が玄一郎の前に来た。
「……げし、げすっ……。こほん。黒田准将、娘が大変、御迷惑をお掛けいたしました。それに娘の我が儘を聞いて下さり、誠に感謝致します。ウチの亭主はほんとに過保護で……」
一応は大和としては母親として謝らねば気が済まなかったのだろう。かなり申し訳無さそうにペコペコと頭を下げるが、玄一郎としては覚悟を完了させているのに、まるで生殺しである。やるなら早くやって欲しいところだった。
「大和、んな前置きは良いから、やれ。黒田准将も歯の食いしばり所を誤る。すまんが、ケジメだ」
「わかっております」
「では。大和参ります」
大和は右に握り拳を作り、そして流れるような動作で玄一郎の顔にストレートを叩き込んだ。
ドガッ!!と音が鳴るほどのストレート。
戦艦の拳である。玄一郎は壁に向かって吹き飛んだ。
「ヒぇッ!!」
息を飲んだのはソースケ・ウルズである。クエルボは目を見開いて驚愕とも恐怖ともつかぬ表情を顔に張り付かせ、レモンはあららと軽く、ウォーダンは渋い顔をしてしかし黙りこくり、エキドナはこれには驚いた顔を見せた。オウカは泣いており、そして松平夫婦は。
うんうん、と頷いていた。
「さて、近藤大将。気は済んだかね?」
「……お見苦しいところをお見せいたしました」
「なに、海軍名物のようなものだ。ところで……。黒田准将、大丈夫かね?」
「ぐっ、流石に日本最大級の戦艦大和の拳喰らって大丈夫とは言いかねま……がくっ」
そこへ、『武蔵の深海棲艦』、表記上は『ムサシ』と区別する事になる、が部屋に入って来た。
「……私の男を殴ったか、我が姉の分霊よ」
「……ケジメをつける為です。黒田准将は立派に『漢』を見せました。あなたが深海側に顕現した『ムサシ』ですか」
「……ふむ、やはり姉の魂を持つだけはある。その眼差しに偽りは無い。そこの娘を養女にしたらしいな大和。良い娘だ。うらやましいぞ。苦難に耐えて折れぬ魂を持っている」
「……確かに、あなたは武蔵なのですね。深海側に顕現しても魂は変わらないわね」
「ふん、当たり前だぞ。大和もどちらでも我が姉よ。変わらぬ。変わるのは人の見方だけなのだ」
「……かも知れないわね。ここにいるということは、あなたも同盟艦になるつもりなのかしら?」
「うむ、今は人も、ものの見方がわかるようになったと聞く。深海棲艦だからと全てを敵視しないとな。私も人に危害を加える趣味はない。それに、この男の事もある。この男が人間に組している以上、妻となる私も着いて行こうと思ってな」
「「……え゛っ?」」
近藤大将と大和は驚いて変な声を上げた
「いや、私はこの男に嫁ぐつもりなのだが?」
「……いや、話によるとあなた、げすっ、げしっ……こほん、黒田准将と戦って大破撃沈になるまで追い込んだと聞いたけど、それがどうして?!」
「いや、あれは魂を抜き出して、肉体を与えるためにやっただけだ。憎くてやったわけではないぞ?」
「いえ、それって普通死ぬからっ?!」
「うーむ、それは普通に顕現している場合だ。この男の場合は、顕現化したロボットの中に死んだ別の魂が囚われていた状態だったというのか。言わば艦娘で言うところの『近代改修』の不完全な状態、というのか。二つの同質同型の魂であるのに混ざり合わず、しかし機械の身体の深層の自我が呪縛しているかのように離さなず、しかし顕現化している魂が同一化を拒んでいる、という状態だったのだ」
ムサシが見た当時のゲシュペンストの状態は、かなり不自然な状態だったと言う。
説明をするならば、当時のゲシュペンストタイプSには魂が三つあり、一つが機体、つまりゲシュペンストタイプSの本能。もう一つがいわゆるカーウァイ・ラウの魂、そして最後が玄一郎の魂である。
機体の魂はカーウァイ・ラウと同化しており、しかし機体の魂はズフィルード・クリスタルの本能により、カーウァイ・ラウの魂を取り込んでいる。さらにそれを強化するように『アタッド・シャムラン』の強い念動が呪縛となってさらにカーウァイ・ラウを機体に縛り付け、もはや分離も出来ない状態になっていたのである。
そこに、カーウァイ・ラウと同一の玄一郎の魂が取り込まれていたのだが、カーウァイ・ラウの無意識の意思によって同化を防がれていたのである。
ムサシはその玄一郎の魂を取り出して顕現化させて肉体のある存在にしようとしたのである。つまり、魂だけの存在に肉体を与えるだけならば逆に生き返らせる行為だったと言うわけである。
しかし、ゲシュペンストタイプSにかかっている『アタッド・シャムラン』の呪縛はかなり強いものであり、機体の魂をとことん弱らさねばたとえムサシであってもそれは困難だった。
「つまり、この男を黄泉返らせるにはそれしか無かったのだ。普通、転生したならば大抵の呪縛は解けるものだ。だが死してもなおあれは呪縛され続けている。あの機体に括られている者は余程、呪縛した女に何らかの思いを懸けられていたのだろうな。それが愛か憎しみかはわからんが」
「……曰わく突きの存在だったのね、げ…こほん、あの機体は」
「ふむ。ゲシュペンスト君と黒田准将の昔の状態はわかったが……。今の状態はかなりひどいよ?君達」
大和とムサシの話に場の全員が集中している中、玄一郎はすっかり忘れられていた。
え?とそちらを見ると、玄一郎は白目剥いて気絶していた。
「きゃーーーっ、黒田准将っ!!」
いち早くオウカが駆け寄り、玄一郎の頭を抱えつつ、脈を取ったり呼吸を見たり、瞼を開いて目をみたりとバイタルチェックをパパパパっとテキパキやっていく。
その様子を見て、にまっ、と叢雲が微笑んだ。
あら、と大和は気づいたようだが、しかし夫の手前、何も言わなかった。
レモンは涼しい顔である。
そして松平夫婦は互いに目配せをして『目標達成』とばかりにニヤリ。
「……ただの気絶だ。水でもぶっかければ治るが、まぁ、ここでは無理だな。どれ。私が寝室へ運ぼう。大和が娘よ、いずれ共に並び戦場に立つ時も来よう。その時はよろしく頼むぞ?」
「え?あの、はぁ」
ぐいっとムサシは玄一郎を肩に担ぎながら歯を見せて笑った。
「若い時は学べ。お前は自分が思っているほど大人ではない。だがそれを恥じる事は無い。若いうちはまだ咲くを知らぬ蕾よ。大輪に咲きたくばより多くを己の内に取り込め。知恵も知識も経験も、華を咲かせる肥やしだ。この男に相応しく咲くを望むならば、な」
のっしのっしのっし、とムサシは玄一郎を担いで、部屋を出て行き、そして。
帰らなかった。
次の朝。
艶テカなムサシと、干からびた玄一郎の姿が、松平邸のリビングに現れたと言うが、その真偽は定かではない。
「ふふふふふ、朝は良いな」
「ソ、ソースケ我ガ……教エ……忘レル……ナ……ソ……シテ……」
ガクリっ。
「……いえ、僕、まだ何も教わってません、師匠」
「し、師匠……失笑……ガクリっ」
負けるな!ゲシュペンスト!戦え!玄一郎!
たとえ夜戦で
『くっ、いいぞ、当ててこい!私はここだ!』
『その集中力、立派なモノだ!』
とか言われても。
……パラオに帰って扶桑姉妹が怖くても。
がんばれー?負けるなー?
全て近藤大将のせい。
大和パンチ。相手は普通死ぬ。
気絶した主人公をさらりと拉致して一晩帰って来ない。流石はムサシさん、そこに痺れる憧れる……というより怖いわー、怖いわー、ムサシはん怖いわー。
次回、鬼の山城、地獄の金剛、音に聞こえた蛇の長門 日向行こうか伊勢行こか、いっそ赤城で首つろか、で、またあおう!(嘘)