乙女の戦のドラが鳴る。乙女の進軍ラッパが高らかと、婚活の戦野に鳴り響く。
長門さんが髪をアップにしたら、めちゃ綺麗だと思うんだ。
ターゲットは金剛。
長門の砲弾回避を失敗し、間宮のフルコースディナー券を長門にゲットされた。
パラオ泊地の間宮はチケット式である。
食堂の入り口のチケット販売機で選んだメニューのお食事券を買って渡すんであるが、そのチケット販売機に無い特別なメニューも存在する。
その特別な間宮券が要するに提督が艦娘達にご褒美やお祝い、労いとして渡す特別間宮券である。
まぁ、アイス券は普通にチケット販売機にあるものと同様だ。まぁお小遣い程度に出される事が多い。
次にMVP用のパフェ券。これは文字通りMVPを取った艦娘にご褒美として進呈するものである。このパフェは通常メニューのパフェとは異なる上に、季節毎に種類も変わるのでレア度が高い。これの為にMVPを目指す艦娘も少なくは無い。
その次の等級に、スペシャルデザート券が来る。このスペシャルデザート券はやや難易度の高い任務を達成した艦娘に出すものである。また重要な来客にお出しする際に使われる事もあり、通常のパフェよりも豪華になっている。
その他の間宮券としては、外来の客用のお食事券、練度が10上がる事に出されるおやつ券、艦娘の技能認定試験等に合格した際にお祝いとして出されるデザート付き定食券などがある。
だが次の間宮券はめったに出ない間宮券である。
ディナー券。
これはパラオ泊地に着任した艦娘の練度が99に達した際にお祝いとして渡されるものである。お祝い用であるから、所属艦隊六名様ご招待な券であり、ある種のパーティー用といえる。現在は練度99の艦娘ばかりになっているのでレアと言えばレアであり、実はかなりダブついていたりする。
間宮フルコースディナー券
究極にして最高額の間宮券である。これはパラオ泊地に来た賓客の中でも王侯貴族、皇族、首相クラスの方々をもてなす為に用意された至高の間宮券である。間宮最高のスペシャリテをふんだんに発揮された料理の数々は圧巻である。……が、そんなに王侯貴族や皇族、首相クラスはパラオに来なかったりするので、これも年々ダブついていたりする。
また貴賓を迎える際には通常の間宮食堂ではなく、貴賓食堂を利用するわけだが、これもめったに使われない。使われない施設というのはどれだけ綺麗に保ててもそれなりに雰囲気でわかるものであり、それはさすがに恥ずかしいものである。それにいざ突然高貴な賓客が来た際に施設が機能しないのではさすがにこの泊地の威信に傷がつくというものである。
故にどうせ購入した券(なお、ディナー券は施設費として公費で計上されており、そういう点が海軍の無駄使いなどと揶揄されるが、つけられる格好はやはりつけておかねばならないのも外交なのである)がダブついているならば、と間宮と伊良湖達への演習も兼ねて『フルコースディナー券』は年に四回程度、期間毎の最多MVP艦娘達に進呈され、貴賓食堂も使われているわけである。
とはいえ、やはり高貴な方々を通す施設とそれにお出しする料理なのである。そのチェックはやはり教養やマナーを知る艦娘統括や責任者がせねばならないのである。
間宮にまさかは無い。それは玄一郎も知ってはいるし解ってもいる。だが、それでもやらねばならないのが管理者というものである。
しかし玄一郎も物を食する事が出来ない機械の身体だったわけであり、そのチェックは大抵、大和、金剛、長門、扶桑、伊勢など信頼出来る者達にお願いしていたわけである。(本来ならば天皇陛下の御召艦であった比叡もチェック業務を行わせたかったが、比叡カレー事件のせいで比叡は間宮立ち入り禁止である)
今年の夏も『間宮フルコースディナー券』の時期が来たのもあり、その前のチェック業務を誰かに任せようと思った矢先の勝負だったので、軽々しく『直撃されたらフルコースディナー券』などと言ってしまったわけだが、ものの見事に艦娘達の策略に引っかかり墓穴を掘っている。
うかつにも程がある。やはりアホなんではなかろうか、コイツは。
「うむ、やはり賓客用のフルコースのチェックは提督がやるべきだろうし、丁度良い機会である、はは、ははははは」
などと嘯くもスマホを持つ手は震えている。
フルコースディナーのチェックで券を使う時は、抜き打ちで予約を入れねばならない。何故抜き打ちで、なのかと言えばいついかなる時であっても賓客を迎えれねばならぬ、という間宮の提言から、である。
けして嫌がらせではない。むしろ、最初の頃に
『今晩、誰それがチェックに行くから』
などと朝に間宮に連絡したら連絡が早すぎ、
『そんなに猶予があったら、抜き打ちになりません!』
と逆に叱られる始末だったのだ。
『間宮と伊良湖は食の戦場に常に身を置く艦娘なのです!こなせて当たり前を訓練とは言いません!』
とも言われた。
日本海軍の食の守り手の精神を思い知らされた気がした。
とはいえ。
むむむむむむ、求婚された相手にかける電話、しかもチェック業務とはいえ他の艦娘、つまり女性連れなのである。
ぐぬぬぬぬぬぬ。
そもそも扶桑姉妹に頼めたならばそんなに玄一郎も悩む事は無かった。しかし前回のチェックで扶桑姉妹はすでにフルコースディナー券を使っていたのでそうも行かなかったのである。
さらに、玄一郎は自分が行く事を考えていなかった。理由は今まで誰か艦娘に頼んでいたからだ。
なお、この間宮フルコースディナー券は一枚につき最大四名様まで使用可能である。貴賓の御家族も対象になるからである。
うむ、流石に子供を連れて行ったなら長門も間宮もそういうケッコンカッコカリな話もするまいと、弟子のソースケを巻き込もうと思ったが、先ほど扶桑姉妹とムサシに連れて行かれてしまった。
「我が弟子にテーブルマナーを学ばせる良い機会である」
と玄一郎は言ったが、しかし
「子供連れでは不粋極まりない。お前は女心をもっと学ぶべきだ。解っていてやろうとするのはもはや罪悪だぞ」
というムサシの言葉に賛同多数で引き下がるしかなかったのである。
無論賛同したのは妻二人と雷のレ級、そして何故かいた土方と沖田である。
「私達は鉄板焼き屋RJに行ってくるからごゆっくりぃ~?」
土方がみんなを連れて行ってしまった。なお、山城に玄一郎はRJ飲み放題セットチケットを五枚ふんだくられてしまった。
いつも、山城にふんだくられている気がする。
だが、そうやって扶桑姉妹が不満そうな素振りも嫉妬も何もしないのはかなり玄一郎にとっては不満であった。
「俺を見捨てないでくれぇぇぇっ!!」と扶桑に抱きついて反応を見たが、逆に「よしよし、よしよし」されてしまい、不発に終わった。
なお、山城とムサシにも代わる代わる『よしよし』された。
ちょっと幸せな気分になったが、弟子の目がかなり冷たかった。なお、土方は「リア充爆発四散して果てろ」とぺっ!された。
とはいえ、玄一郎もアホだが鈍くはない。もうすでに長門とも扶桑姉妹は談合済みなのだ。いや、金剛、長門、扶桑姉妹、そして恐らくは土方も沖田もほぼ全員連んで包囲網を完成させているのだ。
そしてその総指揮を取っているのは、おそらく、いや百パーセントで金剛っつ!!
(おのれ、あの紅茶楽隠居め。一矢、せめて一矢報いてやる。どうせ逃れられぬなら、せめてっ、番狂わせぐらいはっっ!!)
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
玄一郎はスンゲェ悪い笑顔を浮かべてそう思った。まぁ、まさか軍人肌の長門の策略にハマっているとは知らず、玄一郎は姿を見せぬ金剛に怒りのガッデーム・ジュテームをかます算段を始めていた。
玄一郎の腹は決まった。そんなわけで間宮に連絡を入れ、すんなりと間宮は了承。
そこは間宮に申し訳無いと思いつつも策がそこにあるなら食い破り不退転!!と気合いを入れてガルルルルル~と唸った。
玄一郎の腹はすでに、重婚上等御意見無用、間怠っこしい事無し一切合切全部抱えてド派手にぶちかましてやらぁっ!!ただし、金剛、テメェだけは影のフィクサーな位置から表に引きずり出して、正面から求婚してやらぁ!!な感じで煮詰まっていた。
「だーっはっはっはっ、どわーっはっはっは!!」
ヤケクソ気味に笑い、ガニ股大股、ところで全員で何股?な感じで貴賓食堂へと向かう、ダイナマン好きのアンダーテイカーのファンの変態自爆墓穴堀り人、腹マイト抱えて人生の墓場に肩まで使って導火線着火アウトなアホであった。
どう転んでも、大大大爆発ぅどわ~っ、である。
つまり、救いようは、無い。(ポクポク、チーン)。
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夜。
貴賓食堂につけば、その上品な煉瓦の建物に瓦斯灯を模したランプに光が灯り、独特の雰囲気を醸し出していた。
貴賓食堂の玄関が開いており、奥に続く廊下には赤く鮮やかな絨毯が敷かれていた。
その前に待つ婦人が一人。
上品なベージュのドレスに身を包み、手に肘まであるシルクの長手袋、黒い髪を細く三つ編みにしてて横に結い上げて真珠をあしらった銀のバレッタで留め、その顔(かんばせ)に薄く化粧を施した、美しくも貴賓のある女性。
玄一郎は一瞬、はて?と思うも自分を待つ者と言えば長門にほかならず、己の部下である。見間違う筈もなく、いつもと違う美しさに只々見とれてしまった。
確かに長門は美人である。そこは玄一郎も異は唱えないし良く知っている。しかし普段の武人としての長門を近くで見てきた故の、この驚きである。
「くっ、やられた……」
思わず玄一郎は声を漏らした。
相手は仕留める気満々ではないか。
「ふふ、提督何がやられたのだ?」
にっ、と笑って言う辺り長門は解っていてやっているのだと玄一郎は確信する。
口調はいつも通りのお堅いものではあるが、妙に声に艶がある。ルージュを引いた唇は艶やかに弧を描き、その目のアイシャドゥも長門の瞳を引き立てていた。
「提督よ、見とれてくれるのは嬉しいが、エスコートしてくれないか?やはり淑女としては男性から動いて貰わねばな?」
玄一郎は長門の方に進み、肘を軽く曲げて差し出した。
「ああ、では行こうか?」
長門は玄一郎の腕を取り、そして二人は貴賓食堂へと進んで行った。
食堂の両開きのドアの前、その左右にはメイド服を来た天龍と龍田が控えていた。
「「いらっしゃいませ、黒田准将、長門様」」
通常、貴賓食堂での演習の出迎えは行儀見習いの艦娘、もしくは任務の開いている駆逐艦の子達が行うことになっている。それが何故この辻斬り天龍姉妹になるのだ。
「……やられた」
「お待ちしておりました。黒田准将、長門様。本日はパラオ泊地、間宮貴賓食堂にお越しになり誠にありがとうございます」
「ふふっ、当パラオ泊地の間宮の他では味わえぬ格別のおもてなし、どうぞ最後までご堪能していただけるよう……」
「……腹を括って楽しませてもらうよ」
「では、お二人様、どうぞ」
にぃぃぃっ、と笑う殺人メイド二人に案内され、玄一郎はもう逃げ場なんぞこれっぽっちも無いことを再確認し、腹を括った。いや、すでに腹は括っている。
毒を食らわば皿までというが、毒などありようがない。あるのは花のみ。
だが、玄一郎が最初に積む花はすでに決まっている。
策士は必ず顔を見せるはずだ。金剛は必ず現れる。いつも最後の仕上げは自分でやる奴だ。
玄一郎の一矢はそこで放たれる。
胸に秘めし一矢、鋭く有りて目にもの見せん。ただのケッコンカッコカリと言う無かれ。提督の提督たる提督の意地、我にあり。
玄一郎の表情はポーカーフェイスに軽く笑みが乗っていた。いつもの飄々としたアホ顔である。
だが、向かい側に座る長門はにっこりと笑った。
我が策、すでに成れり!
そう、後はただ、提督と食事を楽しむだけで、最後は金剛が放たれる矢の弦を自らはじくだろう。そして、重婚多重奏曲のフィナーレの鐘が鳴る。
友に報い、戦友に報い、全てのパラオの戦乙女の戦いに幸あれ!!あと自分にも!!
カウントは、始まっていた。
逃れられぬ艦娘達の包囲網。
やられた。いやまだだ、まだ終わらんよ。
虚しくアホの心に響く叫び声。
嘘だ!
墓穴は広げるものだと地獄が笑う。
次回、ボトム……げふんげふん。
次回、シュート・ザ・ダイヤクイーンでまたあおう!(?)