金剛型の恐ろしさよ……。
指輪職人の朝は早い。
朝日と共にわらわらわらわらと集まって来た妖精さん達に、伊良湖特性のビスケットやクッキーを配り、よろしくお願いします!!と頼み込んで指輪の仕上げをお願いするわけである。
ハンマー妖精さんがお菓子を食べながら、ぐっ!と親指立てて「任しておきな!」と頼もしく、他の妖精さん達もお菓子に群がる。
妖精さん達の作業に誤りは無い。ベテラン揃いなのである。
なお、夕張はとっくに帰っていない。薄情なわけではない。帰ってくれないとやたら3Dレーザー精密加工機について聞いてきたりして作業の邪魔になったので帰ってもらった。
「これ磨くです?」
「ナガモンにダイヤ赤です?」
「情熱の薔薇なのです?」
「ビスケットうまうま」
「あ、シナモンクッキーとっちゃヤです」
「鏡面仕上げするです?」
「ほーぅれぃ、耳を済ませてごらーん?妖精さん達のぉ声がぁ……」
「ぶーるぅぁぁ!」
「もってーけー魅惑~てきーなー」
「銀河の妖精なのです?」
「妖精でもようせぇへんわ」
「足柄さん、やっとお嫁に行くです?」
「なぁ、おまえ提督だろ?指輪おいてけ?婚姻届おいてけ?」
「妖怪婚姻届おいてけです?」
「行き遅れ大量出荷です?古参艦娘は嫁入りよー?」
「けだものはいてものけものはいないです?ベッドの上でどったんばったん大騒ぎ?」
「らっぶがーん?」
「武器用なままじゃ生きていけないです?重!金!属!」
「まーいにーちハッピー?」
「しやわせが一番です?」
「ホールインワン賞なのです?」
「保険入らないとやべーです?」
「責任重大なのです?」
「ショットガンマリッヂで馬の首送られるです?」
「マヒーヤ、マイヤヒー、マイヤフー」
大量の妖精さんが集まり、寄ってたかって、わらわらわらわらわらわらわらと指輪の研磨を始めた。
なお、妖精さん達はやたらと危険な事を言うので耳をふさぐか発言を無視するのがよろしい。
まぁ、あとは任せよう。
玄一郎は徹夜で磨き作業の前のリングのチェックや、はめるダイヤの指定表などを作成して、ふらふらになっていた。
「ゲシュペンスト、後は頼む……」
〔うむ、というか帰ってとっとと寝ろ?〕
「いや、今週の秘書艦に指示をせにゃ……」
缶コーヒーのブラックをぐいっと飲んで、自分が磨いた初期ロットの指輪を箱に入れてポケットに入れる。
「婚約指輪のバーゲンセールみたいだよな」
〔致し方ない。普通の鎮守府ならばカッコカリの指輪のみという話だが〕
「こういうのは、平等にせにゃならん。一人贈って他に贈らないってのは不和の元だぜ」
〔筋を通すにはそれしかないか。予備もあわせて作っておく。あとはまかせろ〕
一応はケッコンカッコカリ希望者はその旨、大淀の事務局まで希望用紙を出すように、というお触れを出しているが、予想外の相手からの申し込みがある場合にも対応せねばならない。
予備は大事。これに尽きる。
なお、これまでにモーションをかけてきた艦娘達を優先しつつ、婚約指輪を渡す順番はその希望用紙の先着順である。施工は明後日から、となる(なお、それまでに主要な艦娘に対しては渡すつもりであるから、指輪はさっさと仕上げねば成らない)
玄一郎はまた、えっちらおっちらと走って執務室へと戻った。
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執務室に戻ると、金剛がいた。いや、比叡とか榛名とか霧島がいた。
ティーポット持参の、伊良湖のパンまで用意していた。
「ヘイ、テートクぅ、たまには一緒にブレックファストするデース!」
にっこにこ、と金剛はかなり上機嫌である。
「なお、扶桑さんと山城さんは、二日酔いで来るのが少し遅れる、との事です」
霧島が苦笑してそう言った。本妻ェ。
とはいえおそらく金剛達に、朝に声をかけたという事はとっとと金剛達に指輪渡せってこったろなぁ。
と、バタバタバタバタ、と廊下から走る音が聞こえて来た。
「あん?なんだ?……って?!」
バン!と扉を開けて入って来たのはウォーダンであった。この男には珍しく顔を青ざめさせている。しかも着ている服装がやたらと乱れており、一体何があったのか。
「すまん提督、匿ってくれ。追われている」
そう言って急いで玄一郎のいるゲシュペンスト用の大きなデスクの影に隠れた。
「おい、何があったんだ?トラブルはごめんだぞ」
「……昨日、あのタ級に酒を飲まされ、倒れてしまったのだ。そして倒れている間に……」
ウォーダンはかなり憔悴していた。目に隈が浮き、髪の毛もバサバサになっており、なにか追いつめられているようにも見える。
と、どこからともなく、
「あ~なた……?ウォーダン……」
ウォーダンを呼ぶ榛名の声がした。
一瞬、玄一郎は部屋にいる榛名を見たが、しかしこの榛名が発した声ではない。
「あーなたー?どこですかぁ~?私のあなた~?ウォーダン……?」
びっくぅっ!!とウォーダンはして、ガタガタガタガタと震え出した。尋常ではない。
「うふふふふ、かくれんぼなんて意外と子供っぽいですね?あなた。でも、榛名はこれでも探すのは得意なんですよ~?」
考えるまでもない。あの声は『榛名のタ級』の声だ。まるで心の芯まで底冷えするような寒気を感じさせるような声の響きである。
(おい、何があった。なんか俺まで怖いぞ、アレは)
(……襲われたのだ。酩酊して動けぬ所を。一生の不覚っ)
(なんと?!それは……性的に、か?)
(……そうだ)
悔しそうな顔をウォーダンは見せたが、なんとは無しに恥ずかしそうにも見えた。これは脱童貞したと見える。
「あーなたはーいーまどこでなにーをしていまーすーかー」
(なんか歌い始めたぞ?つかヤベェ感じパネェな。大鉈でも持ち出しそうなヤンデレ臭だぞ、アレ)
カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、カツ、ツ、ツ…………。
「ウォーダーン?ウォーダン、ウォーダーン……ウォー……ォー」
足音と声がどんどん離れて行く。どうやらここにいるとは気づいていないようで、執務室を通り過ぎて書類管理倉庫の方へと向かったようだ。
玄一郎とウォーダンはほっと胸をなで下ろした。
ウォーダンは立ち上がって、はぁぁぁぁっ、と息を吐いた。とは言え油断は出来ないと小声で、
(……なんとか、撒けたか)
と言った。
(……もう少し隠れていろ。襲われる恐怖は俺もよく知っている)
(かたじけない)
ウォーダンはまた机の影に隠れようとしゃがもうとしたが。
ギィィィィィィっ。
執務室の扉が軋むように少し開き、そこから青く光る目が覗いた。
「ウォーダンノコエ……ソコデスネ……!!」
「ひいぃぃぃぃっ?!」
「ミツケタ、アナタ……」
「あわっ、あわわっ、あわっ?!」
腰を抜かしたようにウォーダンはへたり込んだ。ここまで慌てふためき怯えるウォーダンなど、見たこと無い。
ギィィィィィィ…………っ。
タ級が闇を纏いながら、背中の蛇のような艦装と長い髪の毛をうねらせつつ執務室にゆっくりとした足取りで入ってきた。
「サァ、アナタ?テイトクサンヤ、オネエサマ達に迷惑カケチャ、ダメデスヨ。ハルナは大丈夫デス、優しく、優しくシテアゲマスから、ネ?」
口調が深海棲艦にありがちな発音になっていた。これはかなり怖い。顔も蒼く白く染まり、この前見たときはまだ肌の白い人、って感じに見えていたのに、深海オーラを纏うとこんなに恐ろしくなるものなのか。
がっしっ。
白く細い手がウォーダンに伸びる。
榛名のタ級は、ウォーダンの服の襟首の所を掴み、そしてぐいっと引っ張った。
「やめろ、お前はそんな奴じゃなかったはずだ!優しい女のはずだ!くっ、ふりほどけん?!」
「ウフフフフフ、優シク、優シクシテアゲマスカラ……モット、モット、愛シテアゲマスカラ、ネ?」
「いや、もう無理、いや限界だっ!!というかもう許してくれぇぇぇっ?!」
「勝手ハ、ハルナガ、許シマセン」
「いーやぁぁぁぁっ!!」
あまりの恐怖に止める間も無かった。まるでホラー映画のワンシーンのようだった。バタンと扉が閉まり、ただただ、ズルズルズルズルと引きずられていく音が遠くなって行く。
玄一郎達は、ただただウォーダンが連れて行かれるのを見ているしか無かった。
玄一郎がハッ!と我に返り、タ級を追おうとしたが、だが、しかしそれは金剛に止められた。
金剛は玄一郎の前に立ちふさがった。
「ダメデース!」
「金剛……、何故だ?」
金剛は首を横に振り、言った。
「あのタ級は、北方棲姫に匹敵するほど強いデース!我が妹ながら、アレは恐ろしいほどに怨念を溜めてマス……」
「……しかし、ウォーダンが!」
だが金剛はなおも首を横に振る。
「多分、一度しちゃって、火がついただけデース。深海化したせいもあるケド、愛情がスタンピードシテマースネー」
榛名は情熱的デースからー?などと金剛は言いつつHaHaHaと笑った。
「笑い事で済まして良いのか?」
「サァ?どの道、邪魔したら泊地壊滅の危機デース。それを思えばウォーダンの人身御供で鎮まるなら安いものデース!」
泊地とウォーダン天秤にかけりゃ、泊地が重い提督業。この場合、命の危機も何も無かろう。場合によっては新たな命すらも出来ちゃう可能性も無きにしも非ず。ある意味めでたい。お前がパパになるんだよぉぉぉっ!!的な悲哀もあるが。
「強く……生きろよ、ウォーダン」
窓の外を見れば、ウォーダンの笑顔がキラーンと光っているような気がした。まぁ、窓から見えるのは、ずりずりずりずりと引きずられていくウォーダンと引きずって行くタ級が見えるわけなのだが。
しかし、あのタ級は榛名が深海化したんだよな、と思い、艦娘の方の榛名をちらっと見れば。
ものの見事に気絶していた。平然としていたのは比叡ぐらいであり、霧島もやはり気絶。
うん、なんか安心したようなそうでもないような。
その後、つつがなく金剛にケッコンカッコカリの指輪を渡し、比叡、榛名、霧島には婚約指輪付きでケッコンカッコカリの指輪を渡した玄一郎であったが。
自室に金剛四姉妹に運び込まれ。
「なんとぉぉぉぉっ?!」
ウォーダンと同じ運命を辿ったのは、余談であろう。なにしろ本編で語れはしない。R-15だから。
「お、お前らも……おんなじや……タ級と……おんなじや」
がくっ。
四人がかりで朝なのに夜戦。いや、もう野戦といった方が良いのでは無かろうかというほどの混戦。
金剛姉妹と、特別な絆を結びました(ほぼ強制)。
「これでFinish!?な訳無いデショ!私は食らいついたら離さないワ!」
「ぎゃーーーっ!!」
「気合いっ!挿れてっ!!」
「ひえーーーっ!!」
「夜戦なの?腕が鳴るわね!!」
「ひぎぃぃぃっ!!」
「マイクチェック!ワンツー、ワンツー……私の想像以上の性能です。さすが司令の司令塔」
「んほぉぉぉっ?!」
四人の金剛型が組んず解れつからみつく。代わる代わるに。提督の叫び声は、正午まで止むことは無かった。
なお、秘書の大和さんと秘書補佐のアイオワさんは、昼から出勤、と金剛から根回しがあったらしく。
この襲撃は計画的犯行であったことは間違い無い。
散りゆく友を見捨てたら、すぐに我も散りゆく定め、虚しく肩を落とし、男達は地獄に笑う。
どうせ俺達は最低野郎、微かに漂う血の匂い、魑魅魍魎が牙をむく。
提督の飲む金剛の紅茶は甘い。
次回、ボトム……げふんげふん。
アイオワちゃんスイートでまた合おう!(嘘)