ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 今回は、松平朋也准将(後の元帥)と叢雲(後の松平朋也の奥さん)が裏で動いている、という話。

 


【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ③

 

 ゲシュペンストが無人島で高雄達の世話をしている、その同じ頃の日本。

 

 准将に昇進していた松平朋也は居酒屋鳳翔にて、とある人物と秘密裏に会合していた。

 

 その人物とは日本海軍の元元帥であった山本元大将の養女、山本叢雲であった。

 

 この叢雲はこの世で初めて現れた艦娘であり、海軍最初の五人の艦娘の一人であると同時に、その唯一の生き残りであった。

 

 また、この叢雲は他の艦娘とは一線を画する能力を持っており、その能力の高さから山本元(はじめ)元(もと)元帥が保護し、そしてその能力を悪用されないために退役すると同時に彼女を養女に迎入れ、海軍から連れ出したのである。

 

 たかが駆逐艦娘一人と海軍もなんら疑いもせずに叢雲を山本元帥に贈った。なにしろ戦闘能力に関してはこの叢雲も普通の吹雪型駆逐艦の域を出ていなかった為、いくらでも彼女が抜けた穴は他の艦娘で埋められると思っていたからである。

 

 しかし、彼女を山本元帥が引き取りたいと言った事に関してはいささか不名誉な風評も出回る事になった。

 

 それは叢雲の容姿のせいもあった。

 

 叢雲は他の吹雪型駆逐艦に比べても容姿が垢抜けており、非常に美しくさらに髪の毛の色も白銀で目の色も色素が薄く金に見え、非常に目立つ。

 

 老齢の元帥が、そのような艦娘を養女に迎えたという話は、様々な邪推を巷で呼んだ。

 

 山本元帥は長年戦い続けた初期艦を休ませてやりたかったのだ、と好意的に受け止めている者もあれば、長年連れ添った艦娘を妻に娶るのは老齢故に出来ず、養女として迎えたのだろう、と言う者もあり。

 ゲスの勘ぐりで、おそらくはあの叢雲は艦娘して働きたくないが故に山本元帥をたぶらかして養女になったのだと言う者もあれば、いやいや、養女というのは隠れ蓑で、夜の下の世話をさせるために連れ出したのだ、と、ろくでもない事を言う者まで、様々であった。

 

 とはいえ、山本としては叢雲の能力が露呈しないならば何と言われようとどうでも良かった。いや、むしろそういう風評によって煙に撒ければその方が善いとさえ思っていた節がある。

 

 いつも先に叢雲が怒るものだから山本はなだめる方に回っていて怒る暇が無かった、というのもあるのだが。

 

 さて、そこまでして山本元帥が隠したかった叢雲の能力であるが、実は山本の他にもう一人、その能力を知る者が海軍にいた。

 

 それが松平朋也准将(後の元帥)である。

 

 松平朋也は海軍学校卒業してすぐに山本元帥にその才能を買われ元帥直属の部下として取り立てられた若きエリートと表向きは語られているが、実際にはこの叢雲が無理矢理に巻き込んで、山本元帥が手元におかなければならないように仕向けたというのが正しい。

 

 山本元帥から見た松平朋也は海軍学校を卒業して入って来たばかりの若者以外の何者でも無く、首席で卒業したとはいえ、海軍学校を卒業して軍に入ってくる首席卒業者など毎年出てくるものであり、特に気にもしていなかった。

 

 だが、叢雲は海軍の未来に必要な人物として、初対面の松平朋也に自分の能力を彼にあっさりとバラし、山本元帥が放っておけないようにしてまで引き込んだのだ。

 

 そういう点では山本元帥も叢雲の企てに巻き込まれたようなものではあるが、手元に置いて育ててみれば松平朋也は非常に有能かつ今時珍しいほどに性根の座った真っ直ぐな青年であり、山本元帥も非常に気に入り、元帥位を退き、海軍を引退した後に叢雲を託せるのは松平朋也の他には無い、と認めたほどである。

 

 さて。

 

 問題は彼女は初対面であるにも関わらず、何故に松平朋也を海軍の未来に必要な人物だと思ったのだろうか、という事である。

 

 ぶっちゃけて言えば、彼女の能力が『未来視』と『千里眼』であるから、が答えとなる。

 

 彼女の『未来視』は非常に強力であり、運命の分岐点をも見通すほどの力を持っている。つまりは人の運命であろうが、世界の運命であろうが何もかも一切合切を見通し、未来の運行に必要な者、鍵となる者、すなわちキーマンを正しく分岐点に配する事で望み通りの未来へと変えていく事が出来るのである。

 

 ただし、彼女の能力にも弱点や限界はある。

 

 どうやっても分岐点が無い場合には、どうする事も出来ないという点である。それを『完全確定事項』と彼女は呼んでいるが、避けられない事態というのも、やはりあるのだ。

 

 例を言えば、他の初期艦「吹雪」「漣」「電」「五月雨」は皆、すでに轟沈しており、叢雲も必死で運命の分岐点を探して回避しようとしたが、その肝腎な分岐点はどこにも無く、回避は不可能であったし、そして今現在、彼女の養父である山本元帥の年齢は105歳。どんな分岐点をさがしても、あと三年は生きられまい(なお、山本元帥が長生きであるのも全くどの分岐点を進んでも寿命は変わらなかったので、ある意味これは運命とも言える)。

 

 と、このように回避出来ぬ未来もあったのである。

 

 そんな彼女と何故に松平朋也准将(後に元帥)がこの鳳翔の三階の座敷を貸し切って逢っているのかと言えば。

 

 この二人は現在婚約中である事もその理由なのであるが、話はそれだけでは無い。

 

 叢雲の見た最悪の未来『最悪解』を回避する為にその分岐点を潰し、さらに『最良解」の未来へ修正する為のキーマンを正しく配置する方法を話し合うための会議を二人でしている真っ最中なのである。

 

「攻撃目標は『フィリピン泊地・縞傘製薬深海研究所』」

 

 いきなり、叢雲は物騒な事を唐突に言い出した。これには朋也も驚く他……いや、平然と頷いた。

 

「ふむ、当たり前ですね。どう考えでも、今回のフィリピン周辺海域の件はそれしか原因となる要因はありませんから」

 

 どうやら彼も結論として、フィリピンにある日本海軍の施設を攻撃するという事に賛成しているようである。

 

「しかし、どうしましょうかね。大俣大将が縞傘製薬からの要請で他のバカ共もそそのかして艦娘の艦隊を計6もフィリピンに派遣し、どれも音信不通になってますが……」

 

「要請=賄賂って図式は潰さないといけないけれど、大本営の決定も無しに勝手に艦隊を動かしたんでしょ?証拠はとってあるんだから、どうとでもなるわ」

 

「いえ、そっちではなく艦娘達の方です。菅原閣下の艦隊の旗艦を勤められていた『高雄』も行方不明になっているのです。それに他の艦娘達の安否も……」

 

 そう、フィリピン周辺海域でゲシュペンストが救助した高雄は、かつて日本暗黒期と言われた左派政権時代に終止符をうち『日本奪還』を果たした菅原道夫元大将の艦隊の旗艦を務めた『高雄』であり、後の菅原夫人となる艦娘であった。

 

「ああ、ごめんね。そっちの方はまったく心配無かったから。説明するとすでに救助されてるわ。あー、どこから説明するのが良いのかちょっと難しいけど、あの子、とても可笑しくて楽しそうな状況になってるわ」

 

 叢雲は彼女と同じ人物にドロップされた艦娘の今の状況を見てクスクス笑った。つまりは高雄もビアン・ゾルダークにドロップされた艦であり、叢雲ともかつては艦隊を組んだ事もある艦娘であった。

 

「はぁ、千里眼で見えているのですね。しかし楽しそうな状況、ですか?」

 

 朋也は怪訝な顔をした。それはそうだろう。深海棲艦が厳重に、十重二十重に封鎖している海域でそのような楽しい状況など考えられないからだ。

 

「ええ、非常に安全な場所にいるのよ。とっくに彼女は『最良解』の鍵の一つと接触して、その庇護下にあるわ。他の艦隊の子達もね。あはははは、信じられる?あの『重鎮・高雄』とか『鋼鉄の高雄』なんて言われた高雄の濡れて透けたブラジャー見て、それで頑張って大邸宅を無人島に作るバカがいるなんて!!あははははは、しかも、舞鶴の『エロメガネ』が気絶!!あはははははは、どんだけ笑わせてくれるの、あのキーマンは!!あははははははは!!」

 

 叢雲、千里眼で見たゲシュペンストの様子に大爆笑である。

 

 爆笑する叢雲に、千里眼も無い朋也はただただ困惑するばかりである。しかし、朋也にもわかる事は出撃させられた艦娘達は全員無事である、ということで、ひとまずは安心した。

 

「ひーっ、ひーっ、ひさしぶりに爆笑したわ。うん、善い風が吹いてきた!もっと楽しくしてあげましょう!!朋也君、地図と海図出して?」

 

 叢雲は、朋也の出した地図と海図を見て、地図の方には台湾とフィリピンのちょうど中間にある小さな島にボールペンでマルをつけ、そして海図の方には進行方向の航路を書いた。

 

「ここよ。ここに今から言う艦娘を、この航路で派遣して。この航路で進行すれば被害はほぼ軽微で行けるわ。全員明明後日(しあさって)の1500時頃に着ければ『最良解』の未来へは一直線よ!!」

 

 この叢雲がこのように明るい表情で断言するのはかなり珍しい事である。

 

 朋也は全くどんな状況なのかわからないまま、しかし彼女が言う未来は間違い無く善い未来なのだと理解し、すぐさまに彼女の言う通りに手筈を整えたのであった。 




 本当は、本編の十年前の海軍の状況とかも書いてたのですが、どうも暗い話になって行ったので、省きました。

 なおゲシュペンスト(=玄一郎)が助けた高雄は、後の海軍を辞めた菅原大将の奥さんになる高雄さんです。(この半年後にケッコンカッコカリ制度が発足される事になる予定)。

 次回、大淀さんマジエロメガネ!(嘘)でまたあおう!

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