ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 カニの出汁はうまいよね。カニアレルギーの人は食えないけどさ。

 大淀さんとバナナとか言うと、なんかエロい気がするけどそんな話ではない。


【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑤

 玄一郎は沖田少佐と和解し、そして大淀ともなんとか普通に話が出来るようになった。

 

 現在、無人島にいる艦娘は60人ほど。

 

 最初に高雄達を救助した時は、まさかここまで負傷した艦娘達が増えるとは思ってはいなかったが、こうなれば仕方がない。

 

 流石にこの人数である。ゲシュペンストの持っていた食料はすでに底をついており、動けるようにまで体力を取り戻した艦娘達は高雄をリーダーとして食糧確保作戦を実地したが、この無人島は元は人が住んでいた島だったようで、おそらく深海棲艦の襲来で廃棄された島だったのだろう。おそらく十年以上は放置されたバナナ農園や芋畑などが発見され、食糧の心配は無くなった。

 

 また、民家からは様々な物資も確保し、それらは有り難く活用させていただく事にした。

 

 まぁ、何にしてもサバイバルと言うには恵まれ過ぎな感もあるが、物資は豊富な方が良いというものだろう。

 

(……まぁ、いざとなれば俺が飛んで行って昔の伝手で食料とか確保するつもりだったんだが)

 

 と、玄一郎は思ったが、大量の食料などを確保して喜んでいる高雄達を前に水を注すような事は流石に言えない。

 

 まぁ、食糧問題は解決したが、それよりも問題なのは、やはり沖田少佐と沖田少佐がフィリピンから助け出した艤装を外された艦娘達の状態だ。

 

 艦娘達の負傷は酷かったが、しかしそれよりもその精神状態がずっと深刻だった。

 

 沖田少佐の話によれば、フィリピンの海上にある縞傘製薬の研究施設では非人道的な生体実験が行われており、彼女達はその実験材料として捕らえられていたのだという。艦娘達は艤装を外されると常人並みの身体能力しか発揮出来ず、また、海上の航行も不可能になる。故に叛乱と逃亡防止の為の処置として艤装を外されていたのだ。

 

「……艦娘達にとってはこれ以上に酷い仕打ちは無いわ。手足をもがれる以上に、艦としての存在意義や誇りまでも奪われたのと同じだから」

 

 沖田少佐は、悲しみよりも何よりも怒りに震えていたが、しかし力をぐっと入れたせいで痛めた肋骨を圧迫してしまったようで「ぐぎゃっ?!」などと奇妙な声を出してベッドの上でうずくまってしまった。

 

 沖田少佐も負傷しており、肋骨は数本折れ、それ以外にも打ち身や打撲は各所に多数、首のムチウチに背中に何かの刃物で斬られた傷など、満身創痍な状態なのであった。

 

「……おいおい、安静にしてろよ。つか人間は艦娘みたいに高速修復剤で治せねぇんだ」

 

 もはや包帯だらけの湿布まみれな沖田少佐に、玄一郎はココナッツの殻で作った器と箸を渡す。

 

「傷を治すには、栄養だ。ほれ、芋団子とカニのスープだ。おかわりもあるから、たんと食え」

 

 なお、スープを作ったのはゲシュペンスト(=玄一郎)である。なぜ玄一郎が料理までしているのかと言えば、艦娘達に任せると、カニの丸焼きや焼き芋しかでてこなかった。それどころか加熱しないと食えない原種のバナナを普通のバナナのように齧ろうとしたりしていたため、仕方なく玄一郎が作る事になったのである。

 

「うううっ、痛い……」

 

 沖田少佐は痛がりながらもお椀を受け取る。包帯まみれでかなり痛々しいが、こればかりは日にち薬であり、自然治癒で治してもらうしかない。

 

 ずずずずず、と汁をすすり、

 

「ああ、でも久しぶりのまともな食事……!美味しい!」

 

 と涙ぐんだ。いや、涙は単に肋骨が痛かったせいもあるかもしれないが。

 

 ハグハグガツガツ、と食事をかっこんですぐにおかわりを要求する辺り、沖田少佐は飢えていたのかもしれない。

 

「おかわり!」

 

 案外早く治るかも知れんなぁ、と玄一郎はお椀におかわりをよそい続けた。

 

「ホント、今まで食糧も現地調達だったから、もうね。蛇とかカエルとかとって丸焼きで食べてたから、ああっ、料理の尊さがわかるわぁ」

 

 沖田がしみじみとそんな事を言う。

 

 とはいえ。食糧採集班の中にはデカいニシキヘビをとって来た艦娘もいたりする。

 

 誰とは言わないが、多摩ですにゃー。

 

 まぁ、とってきたものは仕方ない。貴重な食糧として原型を留めないような形で料理しよう、と玄一郎は思った。

 

 差し出して来たお椀に芋とカニの身を一切れずつ入れてスープをよそう。

 

「つか、十五杯目だが、そんなに食って大丈夫か?」

 

「あー、居候三杯目はそっと出し、って?」

 

「いや、嫌みじゃねぇよ。艦娘達も食事量は多いからな。だが人間でそこまで食べるのは初めて見た」

 

「あー、私、元々大食いなのよ。諜報は体力勝負だからね」

 

「そういうものか?まぁ、食いたいだけ食うといい。誰も咎めないわな」

 

 しかし、余裕を持って多く作っていたはずだったスープはもう底を尽きそうである。いや、これは沖田少佐のせいではなく、艦娘達の食事量を舐めていたと言わざるを得ない。本当なら明日の朝食に、残ったスープを使って、何か別のものを作ろうと思っていたのが、計画が狂ってしまった。

 

 特に沖田少佐が救助した艦娘達はろくな食事をとらせてもらっていなかったらしく、飢えていたのだ。

 

「ふむ、ちょっと追加を作って来る。寸胴は置いていくから、他の子によそってもらってくれ」

 

「うぉぉ、追加だってぇ?よぉし食うぞぉ!!」

 

 飢えていなかったはずの木曾が何故か立ち上がって喜んでいたが、姉の大井にシバかれて黙らされた。

 

「おだまりなさい!まだ回復してない子もいるのよ!」

 

「まぁまぁ、大井さんも静かにねー?」

 

「……もっと食べられるのは嬉しいクマー」

 

「そうだにゃー」

 

 球磨と多摩はのほほん、と長女と次女なのにのんびりだった。

 

(……あの軽巡姉妹はなんというか個性の塊だよなぁ)

 

 と横目で、というかアイカメラで見つつ、玄一郎は厨房へと向かった。

 

 

 

「はぁ、あんなに有ったスープもあの人数ですとあっという間ですね。計算外です」

 

 ゲシュペンストの後から、大淀がついてきた。どうも大淀は他の艦娘達に比べると小食のようである。

 

 彼女は艦娘ではあるが任艦娘、という基地や鎮守府などで設備や資材などの管理、また、大本営などから来る命令や任務等を管轄する役割を担っている。

 

 彼女曰わく任艦娘は通常は戦場に出る事はないのだという。

 

「任艦娘が艤装を出す時は、大抵は派遣先に出向する時ぐらいですねー。もしくは、本当に非常時で、戦闘しなければならない状況に陥った時ぐらいです」

 

 任艦娘は言わば事務職であるので、体力はさほど無いらしい。

 

「しかし『大淀』と言ったら『礼号作戦』とか『連合艦隊最後の旗艦』とか記憶しているけどなぁ」

 

 玄一郎の記憶している軍艦の知識は玄一郎がいた世界とゲシュペンストの持つデータである。ゆえにこの世界ではやや食い違う事もあるかも知れない、と思うも、

 

「はい、もちろん『礼号組』の大淀もいますし、戦闘に出る大淀もいるのですが、私は大本営から各基地に派遣される任艦娘の大淀なのです」

 

 と大淀は肯定した。概ねこちらの世界でも同じだったようだ。

 

 ただ、どうやら艦娘になった大淀にも様々な大淀がいるようである。

 

「まぁ、艦娘にもいろいろあるんだな。っと、芋が足りないか。仕方ない。使って悪いが、そこの青いバナナを持って来てくれ。俺は寸胴に水を汲むから」

 

「はい、でもこのバナナは食べられないんじゃ?」

 

 人が居なくなったバナナ農園のバナナはすっかり先祖返りして原種のバナナになっていた。原種のバナナは時間が経っても熟することは無く、そのままでは食べることができない。

 

「いや、加熱調理すれば食えるようになるんだ。甘くは無いがウガンダとか、それを使った料理がある。マトケ、って名前だったっけか?つぶして団子にしたりするんだが、味はジャガイモみたいな感じだ」

 

 ゲシュペンストは大きな寸胴鍋に金属の浄水タンクから水を汲んだ。この浄水タンクはゲシュペンスト作であり、川から水を吸い上げるポンプと水を濾過する浄水層からなっており、水道のようにコックを捻ると普通に飲料水が出てくる優れものである。

 

「よっと」

 

 調理台の石竈に寸胴を乗せる。

 

 この石竈はこのログハウスの屋根に使った石の瓦の余りと、近くにあった粘土層の粘土で作ったものである。

 

 最初は一台だったのが、人数が増えたためにもう一つ、もう一つと増やして現在は四台になっていた。

 

「バナナは蒸し器のが早いか」

 

 金属の蒸し器を出してタンクに水を入れて竈に乗せ、その上にバナナと芋を入れた蒸籠を重ねて置いていく。

 

「後はカニだが……。いや、このヤシガニも新鮮なうちに食わんともったいないしな」

 

 そういうと玄一郎はヤシガニを取り出し、キッチンの包丁ラックから三徳包丁を抜いて、高速でスパパパパパパパ、と器用に殻を剥いていく。ヤシガニを取り出し、スパパパパパ、ヤシガニを取り出し、スパパパパパ。

 

 見る見るうちにヤシガニは解体されていき、下に置いたザルに溜まっていく。

 

「あはは……なんだかすごいですね」

 

「この身体になってからは、いろいろな作業のスピードが上がった。しかしインドネシアとかタイとかにも見えないぐらい仕込みが速い人がいたぞ?」

 

「いえ、それだけじゃなくて、この厨房もゲシュペンストさんが作ったんですよね?調理器具も、その蒸籠も」

 

「夜、暇だから作ってみた。どうせ作るなら機能的で凝った方が良いだろ?それに昔から料理が好きでな、作るのも食うのも好きだった」

 

 機械の身体は睡眠も不要であり、夜の長い時間を持て余す。ゆえに暇なのでせっせかせっせかと厨房や調度品などを作ったりしていたのである。眠っている艦娘達に気付かれないようにほぼ無音で。

 

「はぁ、食べることも、ですか?」

 

「ああ、好きだったよ。お金を貯めて旅行して行く先々でいろんなものを食べたよ。日本だけじゃなくアジアやアメリカ、南米、アフリカも行ったな。んで、真似して自分でも作ったりしてな」

 

「今は……食事はとれるんですか?」

 

「いや……ロボットの身体だからな。口も無ければ胃袋も無い。味を感じる舌も無い。食べ物の栄養成分はわかるけど味覚がわからん。とはいえ作るのは楽しいし、みんなが喜んでくれればいいさ。ま、大淀さん、味見は頼んだぜ?」

 

「……何故、あなたはロボットになったのですか?」

 

「そればかりは俺にもわからん。どうも死んだ時の記憶はあるんだが、何故、ロボットになったのかは謎だな」

 

「死んだって……。深海棲艦に襲われて、ですか?」

 

「いいや。なんて説明したらいいのか。俺のいた世界はこの世界じゃないんだ。深海棲艦も艦娘もいなかった。もちろん、ゲシュペンストタイプSなんてロボット……いや、パーソナルトルーパーもな」

 

「深海棲艦も艦娘もいない世界、ですか」

 

「ああ、そうさ。日本は世界一平和で、戦争なんて有り得ないなんて思ってたよ。すぐ近くに核ミサイルを打つような狂った国がすぐ近くにあったってのにな。俺は、いや、街にいた人達もみんな、核ミサイルで死んだ。死んだ俺にはどれだけの被害が出たのかさえわからないが……。覚えているのは、真っ白な光の闇と痛みすらない自分の消滅だった」

 

「核ミサイル?!……そんな事があなたの身に起こったのですか?!」

 

「目が覚めたら、俺の身体はこの機械の身体になってた……っと、湯が沸いたな。昆布を入れて出汁とってってっと。……そういうわけだ」

 

 玄一郎は鍋にデカい昆布を入れた。ようは水炊き鍋などの敷き昆布、というやつだ。

 

「バナナは……もうちょいか。ヤシガニの身を水で洗って、と。ちなみにザリガニとかと同じでヤシガニもよく加熱しないと病原性の寄生虫がいる場合があるから注意が必要だぞ?っと」

 

「……あの、そういえばまだ、助けていただいたお礼、私、言ってません」

 

「あん?そだっけ?いや、良いよ。礼が欲しくて助けたんじゃないし、助かってくれてこっちがありがとう、だ」

 

「いえ、私、助けていただくのは、今回で二度目なんですよ。最初は、あなたは知らないかもしれませんけど……」

 

「ふむ?……いや、データファイルで君の顔を検索しても、出てこないぞ?悪いけど、覚えてない」

 

「ええ、覚えてらっしゃらない、というか知らないはずです。私は五年前に小島基地の任艦娘だったんですが、ゲシュペンストさんが来たときには他の艦娘達と中島基地に退避してましたから」

 

 そう、大淀は五年前に小島基地に任艦娘として派遣されていたのである。

 

「あの基地にいた艦娘の一人として、お礼申し上げます。あの基地の白鳥が居なくなったおかげで、多くの艦娘が救われたのです。それにあの事件のおかげで白鳥の一族を法的に裁く突破口が出来、さらに他の基地で非道な目にあっていた艦娘達も解放する事ができました。本当にありがとうございます」

 

「いや、それだと俺は何もしてないようなもんだよな、それ。つか、言っておくが白鳥って提督は俺が島に上陸したときにはもう殺された後だったからな?俺が犯人じゃないからな?」

 

 玄一郎は自分が犯人にされてるんじゃないかと思って慌てて訂正する。というか、殺人犯かも知れない相手にお礼を言うってなんか変だろ?!とも思うが、あそこの提督はそれだけ恨まれてたんだろうなぁ、とも考え、大淀の清楚で知的な笑顔に何か闇のような物も感じて少し怖くなった。

 

「ええ、それは土方中佐の報告書で私も知っています。ですが、あれほどの大事件だったのですよ?たとえ白鳥の一族がどれだけの権力や財力を持っていたとしても隠せるものではなく、そして、海軍当局としても徹底的に調査せざるを得ませんでした。無論、日本政府も無視出来ません。結果として『私の敵』の残党の一部を討ち取り、艦娘達は救われたのです」

 

「『私の敵』?それはどういう事だ?」

 

「少し、長くなりますが……私の話、聞いていただけますか?」

 

「ああ、料理しながらになるが……」

 

 正直聞きたくないなぁ、嫌な予感がするなぁ、多分いろいろ厄介な問題に首突っ込む羽目になるだろうなぁ、と思うももはや大淀は話す気になっている。

  

 こうなるともう仕方がない。毒食らわば皿まで、である。

 

 大淀は自分の過去を玄一郎に話し始めた。その内容は、以下の通りとなる。

  

 この大淀は左派政権が日本を牛耳っていた際に、政府の内部から日本奪還をしようとしていた中立派の若手議員、中倉平八郎の元に左派の議員から賄賂として贈られた艦娘であった。

 

 元々、大淀は『女衒鎮守府』と呼ばれた舞鶴鎮守府で作られた、謂わば売春婦にされた艦娘だったのである。

 

 中倉は最初、贈られてきた大淀を突き返すつもりであった。だが、そうやって送り返された艦娘達がどうなったのかを知って、返すに返せなくなってしまったのである。

 

 当時は、国民達から取り上げ、奪った資源を湯水の如く浪費して左派政権の政治家達は艦娘を量産していた。苦しむ国民の声など彼らは全く考えなかった。

 

 国民の命も考えぬような者達である。量産された艦娘達の命など、考えるはずもない。

 

 返したならば、大淀は廃棄されるか売春宿に売り飛ばされると知った彼は悩んだが、大淀をそのまま自分の側に置くことにした。

 

 最初は屋敷の家政婦に仕事を教えさせて家事や炊事をさせていたのだが、その上達はかなり早く、どの作業も完璧にこなした事で、中倉は大淀の資質や才能に驚き、そして様々な事を教えて見ることにした。

 

 すると大淀は様々な知識を真綿が水を吸うかのように吸収し、特に中倉が専門とする政治経済学や法務学などをとんでもない速度で学習していったのである。

 

 その結果、大淀は生半な経済学者、政治家など太刀打ち出来ないほどの知識と才覚を持つに到った。

 

 もはや、そうなると家事などやらせておくには惜しいと中倉は彼女を自分の秘書として側に置くことにした辺り、この中倉平八郎という政治家としての器がわかろうというものである。

 

 中倉平八郎はやがて、海軍の菅原道夫大将と交友を持つようになる。目的が同じだった事もあるが、なによりお互いに気の合うところが多く、二人して居酒屋鳳翔で酒を飲んで騒いでいる所を良く見られるほどになっていた。

 

 そう、居酒屋鳳翔で、である。

 

 当時の居酒屋鳳翔は保守派海軍軍人の集う場所であり、中倉平八郎と菅原道夫はここで『日本奪還計画』の綿密な話し合いをしていたのである。

 

 海軍内部からは菅原道夫大将が。左派政権の内部では中倉平八郎が、共に歩む歩調を合わせて進み、その時までに淡々と誰にも知られぬように計画を進めていったのである。

 

 だが、日本奪還計画が発動する、数ヶ月前。

 

 中倉平八郎は、何者かの手によって暗殺されてしまった。中倉が乗る車に爆発物が仕掛けられていたのだ。

 

 中倉の死後、大淀は中倉の意志を継いだ。中倉が政権内部に作り上げた『日本奪還』のためのコネクションを彼女が纏め上げたのである。彼女の働きが無ければ、おそらくは日本奪還は数年遅れたと当時を知る者達は言う。

 

 そうして、中倉平八郎の悲願であった日本奪還は、菅原道夫と大淀の働きで、成ったのであった。

 

 だが、しかし。

 

「みんな、当時、必死だったのです。中倉も菅原道夫大将も、そして艦娘達も、国民の為に血を吐くような思いをして、立ち上がって。しかし……」

 

 大淀は続けた。

 

「白鳥のような外道、いいえ。まだまだ海軍にも日本の中枢にも、外道は巣くっているのです」

 

「……そう、か。そういう連中が大淀さんの敵ってわけか。しかし、そうすると沖田少佐とは?」

 

「いいえ、今回海軍情報部が動いているとは知りませんでした。その、任艦娘は確かに海軍大本営の所属なのですが、海軍の直轄の組織ではなくどちらかと言えば国家防衛局の管轄なので……」

 

「つまり、情報の共有はされて無かった、と?」

 

「お恥ずかしながら、そうなります」

 

「……まぁ、お互いに知られちゃいけない事もあったりするんだろうなぁ。国とか軍とかの事は俺にはわからんけどな。で、大淀さんや沖田少佐が出張ってきたって事は、あの深海棲艦の群れは、フィリピンの研究施設とやらが原因ってか?」

 

「はい。あの研究所は確かに日本海軍の施設ではありますが、実質、軍需産業の複合体『縞傘財閥』の一部、縞傘製薬のプラントなのです」

 

 大淀は、胸ポケットから何やら白い紙を取り出すとそれを玄一郎に見せた。

 

 『極秘資料』と書かれてあり、玄一郎は顔を手で覆いたくなった。

 

「待ってくれ。んなもん俺に見せてどうする気だ?つか巻き込むつもり満々じゃねぇか、それ」

 

「今更、ここまで頭を突っ込んで何を今更。扶桑さん達のために小島基地は壊滅出来ても、私の為にはしてくれないのですか?」

 

 大淀はくすくす笑いながらずいっと極秘資料を突きつける。

 

「……なんか性格変わってないか?あんた。つか、扶桑さん達の事、知ってんのかよ」

 

「ええ。知ってますよ?『アンノウン第一号』とファーストコンタクトをとった艦娘達ですし、彼女達があなたについて全く何も話さなくても、この大淀にはまるっと全部わかるのですよ?」

 

 まぁ、あなたの行動はわかりやすいですから、と大淀は笑顔のままに、自分のメガネをくいっと上げながら言った。

 

 バナナの蒸しあがる蒸気のしゅんしゅんと上がる音が、玄一郎にはシュールに感じた。

 

 




 大淀さんは、詰め将棋の如く自分の話を持ち出してゲシュペンスト(=玄一郎)を逃げられないように、巻き込んだ訳ですが。

 さすがエロメガネ、やることが汚い!

 次回、メガネはエロスのかほり(嘘)でまたあおう!

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