ゲス提督のいる泊地   作:罪袋伝吉

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 大淀さんバラストタンク漏れ。

 パラオ泊地に来ることになる龍田さんと那智が敵方で登場。

 なお、艦これ世界ではカラー液晶パネルもありません。テレビは昔はあったけどブラウン管方式で、さらに現在はテレビ局などはほぼ壊滅したままで、ラジオが主流、という設定です。


【過去話】怨霊艦隊~ゴーストシップ⑦

 情報交換なのか、試食会なのかわからんような状況に一時はなったが、それも終わり。

 

 玄一郎はあらかじめフィリピン泊地のあちこちにバラまいた偵察用のステルスドローンの映像を二人に見せるために液晶モニターを出したが、二人はそれが何なのかわからなかったようで、

 

「何ですか?このプラスチックの板?」

 

「まな板とまな板立てかしら?」

 

 などとキョトンとしている。

 

「いや……モニターだ。今、フィリピンに飛ばしたドローン、偵察機の映像を転送している」

 

 スイッチを入れて映し出された映像はリアルタイムの夜のフィリピン泊地のそれぞれの施設であり、その映像をゲシュペンストが明るさを補正し調整して見やすいようにリアルタイムで編集している。

 

「これって、テレビ?!ブラウン管じゃない!それに動いて……ええっ?!」

 

「ええ、それにこんなに鮮明に!!」

 

 彼女達が驚くのは仕方が無い。長く続く深海大戦によって資源のほとんどを輸入に頼っていた日本は、海路を分断されたために様々な産業技術も衰退させ、さらには日本暗黒時代とも言われる左派政権の横行により、技術の発展はさらに遅れていたのである。

 

 液晶モニターなどこの世界ではまだ発明もされていないし、テレビもその存在は知られていても、テレビ局はもはや無く、避難警報を受信するためのラジオは普及して、それもようやく娯楽番組を放送するようになった、というレベルなのである。

 

 むろんコンピューターはある。だが、それも深海大戦が起こる前に作られたものをなんとか修理したり、部品をかき集めて制作したりしている物が大半であり、それらも軍や政府機関の一部で使われているのみである。

 

(ブラウン管なんて久々に聞いたぞ、そんな言葉)

 

 などと玄一郎は思ったが、戦争の無かった玄一郎の世界の技術と深海大戦によって技術の発展が遅れているこの世界の技術の差は仕方がないと思い直した。

 

「通信用携帯液晶モニターだ。タブレット端末とも言うが、ゲシュペンストが作られた世界のものだ。偵察機のカメラの映像を表示している。まず、画像を四分割にして、左上を第一基地、左下を第二基地、右上を第三基地、そして海上施設が右下だ」

 

 モニターを分割させ、それぞれに文字で第一第二、とわかりやすいように表示させて、それらの外周にドローンを進めて行く。

 

〔それぞれの基地の外周には、外部から攻撃を受けた形跡は無い。つまり、深海棲艦からの攻撃でそれぞれの基地が壊滅したわけでは無い〕

 

「わっ?!映像から声がでた?!」

 

 映像の解析をゲシュペンストに頼んで液晶モニターのスピーカーを使って言ってもらっているのだが、その声に沖田少佐も大淀もやはりというかなんというか、かなり驚いている。

 

「こんな薄いもののどこにスピーカーが?!あと、なにこの渋い声?!誰?!」

 

「画面自体が振動するスピーカーになってんだよ。声の主はゲシュペンストのAIの音声だ」

 

「AI……つまり、人工知能、ですか?」

 

「そういうもんだ。まぁ、俺の相棒なんだが、普段こういう風に声を外部に出して人に話しかける事は無いんだが俺が又聞きにしてもう一度話すってのも面倒だからな」

 

〔……本来、話す事は控えたいが仕方ない。各基地施設内部にドローンを進ませるぞ」

 

 ドローンのマニュピレーターが、第一基地のドアに伸ばし、そのドアを開ける所が映し出された。

 

「あの、偵察機なのよね?なんで腕みたいなのがあるの?」

 

 おそらく偵察機と聞いて沖田少佐の頭の中に浮かんでいたのは、艦娘の空母が飛ばす戦闘機だったのだろう。

 

 だが、ゲシュペンストの持つステルスドローンは、スラッシュリッパーの刃を取り除いたような形をしており、下部に折りたたみのアームがついている。

 

「作業用マニュピレーターアームが付いてるからな。場合によっては銃を持たせて射撃させることも出来るぞ?」

 

 なお、ステルスドローンは例によって例の如く、ズフィルードクリスタルで作られたものである。

 

〔第一基地には熱源反応無し。生体反応無し。動体反応無し。ふむ、腐敗ガスがあの部屋から出ている〕

 

「……そこは、提督の執務室ね。腐敗ガス?」

 

〔ドアを開ける。……あまり良いものでは無いだろう。ガスの発生源は、死体からだ〕

 

 ドアが開き、執務室のデスクに座っている、海軍の制服を着た死体が真正面に映った、と同時にモザイクがかかる。

 

「……サービスってわけか?」

 

〔ご婦人に見せるのは憚られる。我々は解析結果が得られれば良いからな〕

 

(変な所で紳士的なんだが……)

 

 玄一郎の視点では、きっちりと死体の映像が総天然色など真っ青なほどモザイク無しで鮮明に映っている。死体に集っているハエや蛆虫などもくっきりはっきりとして、かなりエグい。

 

(嫌がらせかっ?!嫌がらせなんだな?!これはっ!!)

 

 おそらく、無理矢理に喋らせていることに対する仕返しであろう。たまにゲシュペンストはこういう事をする。

 

〔……第一基地の提督の死因は何らかの刃物による斬殺。死体の腐敗状況から死後一週間といったところだろう〕

 

「……そこまでわかるの?というか、ちょっとこのモザイク消して。斬られたあとをみたいのよ」

 

〔あまり良いものでは無いぞ?〕

 

「見慣れてるわよ。死体なんてね」

 

 ゲシュペンストはモニターのモザイクを取り払い、実際の映像を映した。そこには真っ向からの袈裟切りにされた死体が映る。

 

「……左肩から胴体まで切り抜いている。辺りに飛び散っている血の跡から、これは心臓まで一気に振り抜けるほどの力と速度と、そして尋常じゃない切れ味と耐久性を持った得物でなければ無理ね」

 

〔その通りだ。ただの鋼の刃物では無理だ。いかに力が有っても折れる。しかし、この世界にこのような芸当の出来る刃物はあるのか?』

 

「……艦娘の中には、刀や槍、薙刀を持った者もいるわ。例えば木曾なんかサーベル型の艤装をもっているし……えっと、床の画像出せる?」

 

〔ああ。これで良いか?〕

 

「ええ。ここまでの血飛沫だもの。殺害した奴にも返り血がかかっているはず。そして、床のここからは血飛沫は伸びていない。長柄の武器、そして振り抜けるものと言えば長い柄の『薙刀』ね。そしてこれまでの技、いえ業を持っている艦娘は、私の知る限りただ一人よ」

 

「知っているのか?」

 

「ええ。五年前に白鳥財閥と白鳥中佐について調査している最中に、危うく私もこうなるところだったのよ。第13特務艦隊に所属していた天龍型二番艦。『血濡れの薙刀姫』と呼ばれ恐れられる、龍田よ」

 

〔その『血濡れの薙刀姫』とはこれのことだろうか?研究施設の廊下を今、歩いているのを確認した〕

 

 モニターの四分割している画面を通常の画面に切り替え、研究施設の映像を大きく映す。

 

 そこには紫がかった髪を長目のショートボブにした、薙刀を手にもつ艦娘が映っていた。

 

 カツーン、カツーン、カツーン、とドローンが拾うパンプスの音が響く。

 

 その艦娘は、もう一人、重巡と思われる長い黒髪をサイドテールにした艦娘とそしてもう一人、肩に鉄製の袖鎧のような物をつけた桃色の髪の艦娘と話をしている。

 

《……あなた達に言われた事は、やったわ。提督を解放して……》

 

 袖鎧の艦娘は、龍田に必死の形相で詰め寄ろうとし、サイドテールの重巡の艦娘に髪の毛を掴まれ、そのまま床にたたきつけられた。

 

《……あらあら、那智。この明石はちゃんと仕事をしてくれたわぁ。そんな乱暴しなくても良いじゃなぁい?》

 

 なにか間延びしたような、優しげな声で龍田は言った。だが那智と呼ばれた艦娘は、

 

《……ふん、あのままつかみかかろうとコイツがしたなら、お前、斬っていただろう?》

 

 と、苛立たしそうな素振りで龍田をにらむ。

 

《あはっ、ずいぶん優しいのね、那智。あなたらしく無い》

 

《私まで血に塗れるのは嫌だっただけだ。入渠施設まで行くのに何分かかると思っている?最上階だぞ?》

 

《そういえば、そうねぇ。まぁ、いいわ。私はあの狂った所長さんの所へ行くけど、あなたはどうするのかしらぁ?》

 

《……ふん、コイツを独房に連れて行く。まださせることがあるのだろう?》

 

《そうねぇ。所長さんのやることには興味無いけど、もしかしたらあるかもねぇ?でしょお?》

 

 龍田が、不可視になっているはずのドローンのカメラの方を向いて、にぃぃぃっと笑った。

 

 それはなんともすざまじいほどの狂気を孕んだ、いや、もはや殺気としか言いようのない笑みだった。

 

《おいたが過ぎる子は、まだまだ居そうだしねぇ?》

 

 その視線は確実にドローンのカメラを捉えているとしか思えないほどに正確にこっちを見ている。

 

 モニターを見ている大淀が「ひぃぃぃっ?!」と悲鳴を上げるほどにその顔は恐ろしかった。モニターの映像がくっきりはっきり、龍田の姿を映し出していたので余計に怖い。下手なホラー映画など目じゃないほどに。

 

 だが、そのまま龍田はくるりとドローンのカメラに背を向け、モンローウォークで廊下を進んで行った。

 

「……すげぇな、あの女。不可視モードのステルスドローンに気づきやがった」

 

〔おい、玄一郎。大淀が気絶したぞ。しかも……〕

 

「ん?ありゃっ?!」

 

 ジョボジョボジョボ………。

 

 大淀は、龍田の眼光をモロに見てしまい、気絶しつつ失禁していた。

 

「うわっ?!こりゃいかん?!」

 

 致し方なく、ドローンによる偵察は一旦中止となった。

 

 沖田少佐は大淀を風呂に。玄一郎は厨房の床掃除に。

 

 再び作戦会議が行われたのは、その一時間後となった。

 

 




 厨房で失……いえ、バラスト水漏れって、それはちょっとかなり困るどころの騒ぎではありません。

 この過去話での龍田は、パラオ泊地でゲシュペンストに救われる前の、狂気に侵されていた頃の龍田です。

 近接戦ではおそらくは最強に近いと思われる艦娘の一人です。

 さて、そんな怖いおねーさん相手に玄一郎はどうたたかうのでしょうか?

 あと、さらっと那智さんも出てきたよ?



 
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