二次創作/デジモンアドベンチャー03 変わりゆく時代の中で   作:島鳥 烏

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どうも初めまして。まず初めの本作は02の終わりとエンディングの間の物語となっております。triについては全てが公開されている訳ではないのでないものとさせていただきます。・・・今の所、正直triを認められないと言うのもありますが。

それとカクヨムや小説家になろうにてオリジナル作品を投稿しておりますが二次創作が一部の物しかできないので二次創作物はこちらに投稿させていただきます。

 オリジナル作品の方はアンチチーレムの「一般人の俺が勇者!?~世界を救えって残念チートじゃ無理ゲー過ぎるorz~」https://www.alphapolis.co.jp/novel/261372420/767156212
 ファンタジー世界の日常物「ドレムソレアージュ~陽だまりの家~」https://www.alphapolis.co.jp/novel/261372420/374216166
 を公開しているのでそちらも読んでいただければ嬉しい限りです。


移りゆく時代の中で

 都内某所。新たな時代を見据え、デジモンの能力を活用する仕事の企画から立案、実施まで幅広く引き受けるベンチャー企業があった。時代の変化をチャンスと捉える会社に集まる社員もまたそのチャンスを自分の手で掴もうとする者達で溢れていた。

ただ一人を除いては・・・。

「・・・んご~。んん・・・がぁっ」

 昼過ぎの暖かい日差しの中。たった一人、デスクに突っ伏して寝息を立てている男性がいた。

 彼の名は八神 太一(やがみ たいち)

 かつてデジタルワールドを冒険し、そしてヴァンデモンの野望を打ち破った選ばれし子供の一人。だが、御覧の通り今はただのぐうたら社員になってしまっていた。

「うおっほん!」

 そんな太一の背後に現れたのはこの企画部の課長、藤堂 昭義(とうどう あきよし)は太一の怠慢な姿にわざとらしい咳をする。だか、太一は起きない。

 軽い溜息の後にそれならばと太一の頭に拳を落とす。

「っ~~~・・・。何するんですか・・・」

「お前がぐーすかといびきをかいてたからな」

「もっと他に起こし方ってあるでしょ」

「最初はそうしようとしたんだがな。起きないお前が悪い。そもそも業務の最中に寝るな」

「少しぐらいいいでしょ。やるべき事はやってるんですから」

「終わったんなら次を考えろ。やるべき事なんて探せばいくらでもある」

「分かりました。ぼちぼちやっときますよ」

「全くお前は・・・はぁ~」

 これ以上何を言っても効果はないと諦めた藤堂は先程よりも深い溜息を残して去ってしまう。

 堂々とサボる部下に対する扱いにしては甘いようにも見られるだろうが、太一が言っていたように最低限とは言えやるべき事はやっている。その上でさぼっているのだからあまりきつく言う事も出来ない。サボっている本人に問題がなくとも周りに悪影響が出ると注意する手段もあるだろうが、それすらも太一には使えない。

「よっ、また課長に小言言われてんな」

 太一と藤堂のやり取りを見ていた隣のデスクの同僚が太一に話しかけてくる。

「そろそろ同じ事言うの飽きて欲しいよな」

「それ、課長も同じ事思ってるんじゃないのか?」

「あ~、まぁ、そうかもな。・・・でも、やる事探せって言われてもな」

「だったらこっち手伝ってくれないか?」

「別にいいけど。何すりゃいいんだ?」

 こんな風に太一は頼まれれば同僚の手伝いを文句ひとつなく始めるのもいつもの事。

 迷いのない行動力と柔軟な対応。この課で誰よりも早く仕事を終わらせる太一は誰もが認める程に優秀な人材だ。誰もがチャンスを掴もうとしている様な会社では同僚は仲間である以前にライバルでもある。優秀な人物だと敵対心を持たれてしまうが、それだけ優秀で出世欲がない処か頼めば仕事を手伝ってくれる太一はこの上なくありがたい存在でもあるのだから例え堂々とサボっていても疎ましく思う同僚は一人もいないのだった。

 

 そうしていつも通り定時を迎えると同時に太一は誰よりも早く会社から出ていく。だが、直ぐに自宅に帰ると言う訳ではない。

 その前に太一が向かったのはとある幼稚園。

 新たな時代に合わせて早いうちからデジモンの理解を育むと言う目的で設立されたこの幼稚園では通う子供達だけではなく幼年期のデジモンも育てている。

 その幼稚園の園内に入ると、太一は子供達の見送りをしている若い先生に声を掛ける。

「よ、待たせたな」

「あ、お兄ちゃん」

 その相手は太一の妹、八神 ヒカリ。太一と同じく選ばれし子供として共に旅したメンバーの一人である。今はこの幼稚園でパートナーデジモンのテイルモンと共に勤務している。

 だが、太一がここに来たのは光に会いに来たからではなかった。

「ちょっと待っててね。アグモ~ン。お兄ちゃんが迎えに来たよ~」

 ヒカリに呼ばれて少し離れた場所で子供達や幼年期のデジモンと遊んでいた恐竜型のデジモン、太一のパートナーであるアグモンが子供達に別れを告げて二人の許へやってくる。

 以前、ヒカリが人はどうにかなっているけどデジモンの手が足りないと聞き、太一の仕事でアグモンの力が必要な時は限られている事もあって暇な時はこうしてアグモンに幼稚園の手伝いをさせていた。

「お待たせ、太一」

「それじゃ帰るとするか。ヒカリもまたな」

「うん。あ、そうだ、偶には実家に帰った方がいいよ。お母さんも気にしてるみたいだし」

「ったく、心配しすぎだっての。いつまでも子供じゃないんだからさ」

「それ。私じゃなくてお母さんに直接言った方がいいんじゃない?」

「いや、わざわざ言うようもんでもないだろ」

 独り立ちしているのに逐一親に近況報告するなんて太一にしてみれば流石に気恥ずかしいが、アグモンはそう言った親と子の気恥ずかしさとは無縁だった。

「ん~、でも、ママさんが心配してるんなら会いに行った方がいいんじゃないのかな?僕も久しぶりにママさんのご飯食べたいし」

「お前な~、俺が毎日作ってやってんのにそう言う事言うか?」

「太一のご飯も美味しいけど、ママさんのは一味違うんだよ」

 おふくろの味と言うのは中々代わりの利くものではない。太一が実家から出るまでアグモンも太一の母親の料理を食べていた。アグモンにとっても太一の母親の作る料理がおふくろの味になっていた。

「ったく、仕方ねぇな。アグモンがそう言うんじゃな」

「ふふっ、アグモンのお手柄ね。ごちそう作って貰うよう言っておかなくちゃ」

「ごちそう!やったー!」

 こんな風に穏やかな日常は何事もないままに繰り返されていっていた。

 

 翌朝。

太一とアグモンが暮らすありふれたワンルームの一室。狭いキッチンで簡単な朝食を太一が用意し、その間アグモンはテレビを見ながら待つ毎朝の光景。

「太一~。テレビに光子郎が出てるよ」

「ん?そうか。まぁ、あいつも今や世界一の有名人だからな」

 泉 光子郎(いずみ こうしろう)。かつては選ばれし子供達の一人として共に冒険した盟友。その知りたがる心から培われた知識を使った仲間達を支えてきていた。時代が変わった今、冒険で得たで経験を元にデジタルワールドとデジモンの論文を学生時代に幾つも発表し、それがデジタルワールド研究の基礎となった。そしてその功績から二十代前半の若さにも拘わらず、政府機関として日本で設立されたデジタルワールド研究所の所長として迎え入れられる事となっていた。

 世界中に知らぬ者のおらぬ科学者。方や一介のサラリーマン。一緒に旅していたのにいつの間にかここまで差が開いてしまっていた。

 光子郎だけではない。同じニュースの中で最年長ながらも一番頼りなかった城戸 丈(きど じょう)までデジタルワールドの調査団に医師と加わったと伝えられ、その夢を叶えたのだと知る事となっていた。

 その時その時を誰よりも全力で生きて来た太一だがらこそ、将来のビジョンを描かないままに今の会社に就職して社会人となり、そして、その差を痛感した時から太一はぐうたら社員となってしまった。だが、熱意を無くしたのはそれが全てではない。

 プレゼンなど、アグモンの協力があった方がいい時はアグモンと共に出社するが、アグモンの力が必要になる業務は限られている。そして休日の日も疲れてずっと家で過ごす日々が続いていた。その間、ずっとアグモンは家でする事も殆どなく退屈な日々を過ごさせてしまっていた。パートナーの証であるデジヴァイスさえもカバンの底で眠ってばかりになってしまっていたのだから。

 それに気付いた事が仕事への熱意を無くした一番の理由だった。

 今は休日にはアグモンを連れて遊びに行くようにしている。デジタルワールドに行けられれば一番いいのだが、現在は危険も伴う事から調査団の様な一部の人間しか出入りできなくなっている。その代わりに現実世界だからこそ出来る遊びを楽しむようになっている。

 自分だけじゃない。デジモンの事も考える。それはかつての冒険の中で学んだパートナーとしての責任なのだから。

 

 そうして朝の時間を過ごし、太一はアグモンを幼稚園まで送ってから出社する。だが、この日はいつもと違っていた。

「八神。飲みに行くのに付き合ってくれないか?」

 定時を迎え、帰り支度を始めた太一だったが、それを藤堂に呼び止められる。

「飲みにですか?でも、俺、待たせてるのがいるんですよね」

「何だ?彼女か?」

「違いますよ。俺にパートナーのアグモンがいるの課長も知ってますよね。仕事の間、預けてるんで迎えに行かないといけないんですよ」

「ああ、そうか。話しておきたい事があったんだが・・・」

「それって大事な話ですか?」

「まぁ、ちょっとな」

「そうですか・・・」

 オフィスを避ける様にわざわざ飲みの席で話す内容と言うのは何かしらの事情を秘めているだろう事は容易に判断できる。

「・・・分かりました。でも、連絡だけさせてください。妹の所に預けてるんで伝えておかないと」

「こっちから誘ってるだからな。それぐらい待つさ」

 当然の事だが一応断りを入れてから太一はスマホを取り出してヒカリの働く幼稚園へ電話をかける。

「もしもし、八神ですけど・・・あ、ヒカリか。丁度良かった。実はちょっと迎えに行くのが遅れそうでな。・・・ああ、いつ頃になるのかはまだ分からなくてな。・・・すまん、助かる。また帰る時には連絡するから。アグモンにもすまないって伝えといてくれるか?・・・助かるよ。それじゃまた後でな」

 ヒカリにアグモンの事を頼むと太一はその電話を切る。

「お待たせしました」

「問題なさそうだな。それじゃ悪いが少し付き合ってもらうぞ」

「はい。・・・でも、課長はいいんですか?奥さんに電話しなくても」

「今更だしな。寧ろする方が変に勘繰られる」

「・・・離婚しないでくださいよ」

「余計なお世話だ。そう言うお前は彼女はいるのか?」

「そう言うのとは縁がない人生なもんで」

 上司に対しても歯に衣着せぬ太一に、藤堂も真っ向から迎え撃つ。下の者の遠慮のない言葉に対して上から圧力で潰す真似はしない。藤堂も小言を言ってはいるが、太一を認めているからこそ太一の態度を不快だと感じはしない。寧ろ認めているからこそ小言が多くなってしまうのかもしれない。

 

 そうして太一は藤堂に連れられてカウンター席しかない様なこじんまりとした居酒屋に連れていかれる。

「おやっさん、いつももの通り生一つ。後は適当にお願いします。それと・・・」

 慣れた流れで藤堂は自分の注文をすると、思い出したように太一に顔を向ける。

「お前はどうする?同じでいいか?」

「あ~、迎えに行かなきゃいけないんで酒はちょっと」

「そうか。だったらウーロン茶でいいか?」

「はい、それでいいです」

「つー訳で、おやっさん。こいつのも頼みます」

 注文を聞いたこの店の親父さんが「あいよ」と短く答えるのを聞いて藤堂は空いている席に適当に見繕って座り、太一もその隣に座る。席に着くと直ぐに出された飲み物を受取りながら太一は単刀直入に呼ばれた理由を尋ねる。

「それで話って何ですか?」

「ああ、実は今度うちに来る新人でお前に面倒見てもらいたいのがいるんだよ」

「え?それだけですか。・・・って訳ないですよね。その新人ってのにどんな事情があるんですか?」

 わざわざ飲みの場に連れ出してまでの話にしては肩透かしな答えに太一はそれだけではないと直ぐに察する。

「ああ、まぁな。その任せたい新人ってのはうちの社長の娘さんなんだよ。所謂、社長令嬢って奴だな」

「確かに少し面倒そうですね。それでここに連れてきて話してるって事はうちの連中には秘密って事でいいんですか?」

「話が早くて助かる」

「でも、それなら俺より適任なのがいるでしょ?」

「お前だからいいんだよ。出世欲のない奴じゃないと取り入ろうと変に気を使ったりするからな。そんな扱いされるのは社長やご令嬢本人も望んでないらしいからな」

「へ~、二世って甘いって言うか、こう緩いイメージあるんですけどそうでもないんですね」

「一般的なのは知らないが少なくともお前に任せようとしてる子は違うみたいだな」

「それなら益々俺以外の方がいいんじゃないですか?令嬢だってのを黙ってればいいだけでしょうし」

「伏せてたとしても気付かれない保証はないし、なんだかんだ言いながらもうちの課で一番面倒見がいいのはお前だからな。それにそんなめんどくさそうな新人をあてがっとけばサボる余裕もなくなるだろうしな」

「うわっ、もしかしてそれが一番の理由だったりします?」

「さぁ、どうだろうな」

「いつも通り定時で帰らせてくれますか?」

「それはお前の頑張り次第だな」

「はぁ~、断る事って出来ないんですよね」

「業務命令だからな」

「・・・謹んでお引き受けします」

「ああ、任せたぞ」

 あからさまに嫌そうにする太一を藤堂はいつもの意趣返しだとそれを肴にして酒を飲み始める。

 反対に厄介事を押し付けられたせいか、太一は変に苦い気のするウーロン茶を飲み干し、溜息と共に肩を落とした。

 

 それから約一ヶ月。

「と言う訳で面倒見る事になった八神太一だ。よろしく頼むぞ」

「八神さんですね。改めまして私は霜月 海莉(しもつき かいり)と申します。以後よろしくお願いします」

 事前に聞かされていた通り、太一が面倒を見る事になった社長令嬢らしき新入社員の海利は笑顔とは無縁そうな引き締まった表情に意思の強そうな瞳を肩口できっちりと切り揃えた髪と細めの眼鏡が更にそのイメージを強調させている姿からも一般的なイメージにある甘ちゃんの二世とは違った面倒さがありそうだ。

(・・・はぁ、適当に手を抜くとかできそうにないな)

 折角、アグモンと過ごせる時間とも両立させるのは中々に大変そうだと内心で愚痴る。

 だが、その予想は意外にも外れてしまう。

 

 手始めに基本的な雑務を人通り教えると一度聞いただけで理解し、それ以降は指示を出さなくても率先して動いてくれる。負担になるどころか負担が少なくなってしまう程に優秀だった。だが、太一の気が重いのは変わらなかった。

(・・・こう頑張られるとサボりづらい)

 自分で判断して率先して色々やってくれるが、それを終えた時に次の指示を求めてくる。そのせいでいつ戻ってくるかも分からずサボるにサボれない。

 あまりにの優秀っぷりに手を抜く隙を与えられない太一だったが、それとは別に少し気になる部分があった。

(・・・なんて言うか、少し頑張りすぎな気がするな。気負いすぎって方が正しいぐらいかもな)

 太一を除く大半の社員は成果を出そうと常に全力で取り組んでいるが、海莉の場合は少し違うように見える。結果の為と言うよりはその過程の為に全力を尽くそうとしているとでも言えばいいのか。

 社員同士で力を貸し合っているが、その根底にあるのは利用できるものは利用する。同僚に協力するのもいざと言う時に力を貸して貰う為だ。だが、海莉は全部を自分でやろうと背負い込んでいるような頑張り方をしていた。

(・・・あれは疲れるだろうな)

 なんて子供の頃の後悔から生まれた太一の面倒見の良さはぐうたら社員になっても失われてはおらず、気張りすぎな海莉をつい気にかけてしまう。

「八神先輩。リサーチ結果の整理、終わりましたよ。他に何をすればいいですか?」

「ああ、そうだな・・・」

 戻ってきた海莉の報告を聞きながら太一はさっき考えていた事が気になって海莉をじっと見つめる。それには海莉も怪訝な顔をする。

「・・・何ですか?」

「いや、疲れないかなって」

「は?いきなり何ですか?」

 太一の唐突な言葉に海莉はその怪訝な表情を更に深める。

「いや、なんか見てて疲れそうだなって思ってさ」

「そう言う八神先輩は楽そうですよね」

「そう見えるか?」

「所々が適当ですし、何より覇気みたいな物が感じられませんので」

 教育係としてそれなりに真面目にやっているつもりだったが、それなりでしかない事を海莉には見抜かれていたようだ。

「あ~、でも、まぁ、やるべき事はやってるしな」

「やるべき事だけで満足してるのは八神先輩だけですよ。人に忠告する前に先輩自身、他の同僚の方を見習ったらどうですか?」

 なんてと課長の藤堂に言われた事を新人の海莉にまで言われてしまう。だが、それで考えを改めるようなら初めからぐうたら社員になどなってはいない。

「根詰めすぎるのもよくないだろ。早死にしたくないならな」

「だからって適当にやっていい理由にはならないんじゃないですか?」

 なんてちょっとした言い争いの様相に発展しそうになった所にやれやれと藤堂が仲裁に入る。

「お前ら何騒いでるんだ?」

「こいつが生真面目すぎるんで少しアドバイスしてただけですよ」

「お前はもっとやる気を出せ。これは俺からのアドバイスだな」

「うぐっ・・・」

 いつもの事ではあるがこのタイミングで藤堂にまで忠告されたとなれば二対一で分が悪い。

「課長にまでこう言われるんですから先輩としてもっとしっかりしてください」

 藤堂の支援を受けながらも海莉は調子を良くする事はなく、これは至極当然の意見だとする態度を変えない海莉だったが、続く藤堂の言葉でそれが乱れる。

「だが、張り切りすぎて空回りするのもよくはないしな。そう考えるとお前等はいい組み合わせなんじゃないのか?足して二で割ったら丁度よさそうだしな」

「「それはないです」」

 ほぼ同時に同じ反論をする二人に藤堂は笑みを浮かべる。

「やっぱいいコンビになりそうだな」

 そう言い残して藤堂が離れていく中で海莉は眉を顰めたまま呟く。

「・・・八神先輩には失礼かもしれませんが不本意です」

「はっきり言うな。俺も正直好かれてるとは思ってないけどさ」

「こちらも別に好かれたいなんて思ってませんから」

「そんなつんけんしなくてもいいだろうに。もう少し余裕ってもんをだな・・・そうだ、今度の日曜って空いてるか?」

「・・・空いてますけど」

「そうか。だったら今度の休みにちょっと付き合えよ」

「は?デートにでも誘うつもりですか?この流れで?どんな流れであっても了承する気はありませんけど」

「そんなんじゃねぇっての。別に二人っきりって訳じゃないし、元々の予定にお前も連れて行こうって考えただけだっての」

「何でそんな事を考えるんですか?」

「それはお前の生き方がつまらなそうだからな。兎に角、これはもう決定って事で。それじゃ次の日曜の昼、飯食ってからの方がいいだろうから一時ぐらいでいいか。場所は取り合えずハチ公前でいいか」

「ち、ちょっと待ってください!まだ行くとは・・・」

「あ、そうだ。頼んでたの終わったんだったよな。じゃぁ次は企画会議があるんでその準備を頼むな」

「人の話を聞いてください」

「次の仕事求めてきてただろ。それに応えただけ。ほら、ちゃんと人の話し聞いてるだろ」

「・・・強引ですね」

 パソコンを前にする太一はもう何を言っても聞く耳を持ってはくれないだろうと、海莉は眉を顰めながら言われた通り指示に従う。

 藤堂はいいコンビになりそうだと言っていたが今の様子からはとてもそうは見えない。事実この後もギスギスした関係が続いたまま時間は過ぎていった。

 

 そして強引に約束を押し付けた日曜日。太一はアグモンを連れてハチ公前にやってきていた。

 待ち合わせの定番であるハチ公像周辺には大勢の人が集まっている。日曜ともなれば猶更。その中から探すとなれば一苦労。

「太一~。今日一緒に遊びに行くのってどんな人なの?」

 「う~ん、生真面目な奴って所かな」

「生真面目って事は伊織みたいな感じなのかな?」

「あ~、それ以上かもな」

 伊織とは太一達の次の世代の選ばれし子供達の一人であり、最年少にもかかわらずしっかりした少年だった。だが、海莉の気難しさは当時の伊織以上かもしれない。

 そんな風に太一とアグモンが会話を交わしながらも探し続けるが海莉の姿は見当たらない。

「・・・やっぱ来てないかな」

 了承も得ずに押し付ただけで約束というにはあまりにも一方的であったのだから海莉が来ないのも無理はない。

 仕方ないかと諦めかけたその時。

「どこを見てるんですか?」

「のわっ!?」

 気配もなく唐突に背後から現れた海莉に太一は思わず仰け反ってしまう。そんな太一に海莉から冷たい視線が注がれる。

「大袈裟すぎませんか?」

「お前だってもうちょっと声の掛け方ってのがあるだろ」

「生憎と人と待ち合わせるのはあまり経験がありませんので」

 驚いて跳ねた心臓を落ち着かせようとする太一に対しても海莉の憎まれ口は鈍る事はなかった。

「マジでビックリしたっての・・・。でも、まさか本当に来てくれるとは思わなかったし、そっちの方がある意味ビックリだけどな」

「あのまま無視しても会社で会う事になりますから。それでちくちく言われるのも鬱陶しいんで。でも来なくてもよかったって言うのでしたらこのまま帰らせてもらいますけど」

 そう言って引き返そうとする海莉を太一は引き止める。

「待てって。折角来たのにこのまま帰るのも勿体ないだろ」

「はぁ~、分かりました。で、そちらのデジモンは?」

「初めまして。僕、アグモン。太一のパートナーなんだよ」

 尋ねられて答えたアグモンの自己紹介に海莉は意外そうな表情を浮かべる。

「太一先輩の?珍しいですね」

「そうでもないだろ。今時デジモンなんて珍しくもないんだし」

 太一が言う通り。デジモンが認知された世界においてデジモンは既に日常の中に溶け込みつつある。現にこの場所にもアグモン以外のデジモンも普通にいる。

 だが、海莉が言いたかった事はその事ではなかった。

「私よりも少し下の年代ならパートナーデジモンがいるのは当然ですけど、私達より上の世代はそうでもないじゃないですか」

 デジモンが受け入れられるようになったのは、奇しくも世界を支配しようとしたヴァンデモンの野望が切っ掛けとなった。選ばれし子供達だけではなく、その事件に関わった子供達もパートナーと出会い、そしてそれは事件に関わらなかった他の子供達にも広がっていき、今では子供達全員がパートナーを得ている。だが、子供程柔軟に物事を受け入れられる大人は少ない。

「まぁ、そうだな。って事は、お前はデジモンとあまり接した事はないのか。だったらついでにデジモンの事をもっと知れるんだから一石二鳥だな」

「別に望んでいませんけどね」

「そう言わずに物は試しだと考えてさ。デジモンに関する知識も俺達の仕事には必要になるしな。ほら、まず手始めにアグモンに触ってみろよ」

 そう言いながら太一がアグモンの背中を押して海莉の前に出す。だが、海莉はアグモンと視線を合わせはするものの触るまではしなかった。

「・・・それよりも早く行きませんか?」

「何だ?急に乗り気になって」

「そうじゃありません。面倒な事はさっさと終わらせたいだけです」

 太一のペースに辟易した海莉はさっさと移動を開始しようと歩き出す。

「太一、何したの?」

「何って、特には」

「ホントに?何か凄い嫌われてるみたいだけど」

「まぁ、我ながら流石に強引すぎたかなとは思うけどそれぐらいしないとな・・・。ってのんびり話してる場合じゃない!ちょっと待ってって!何処に行くか知らないだろ!特に決めてないけどさ!」

 どんどん離れていく海莉を太一は慌てながらアグモンと共にその後を追いかけていく。

 

「・・・本当に計画性の欠片もないんですね」

 目的を決めず、適当に街中を歩きまわっていた太一達は小休止の為に目に留まったカフェに入っていた。そんな行き当たりばったりな太一達に振り回されていた海莉は小さく溢した。

「計画立てるのもいいけど、それだと計画通りの場所しか行かないだろ?それじゃ新しい物を発見できないからな」

「だとしても無駄が多すぎます。実際歩き回る方が多かったじゃないですか」

「何だ?もしかしてもう音を上げるのか?口は動く割に体の方は全然なんだな」

「別にそんな事は言っていませんけど」

 等と言い合っている二人を見ていたアグモンがふと思った事を口にする。

「・・・伊織みたいな人って聞いてたけど、なんかブラックウォーグレイモンの方が近いかも」

「そうか?」

「うん、なんて言うか人に合わせるのが苦手そうな所とかがそんな感じかなって」

「俺は直接対峙した事があまりないからな。でも、アグモンがそう感じるならそうなんだろうな」

「あの、人の事で勝手に盛り上がらないでくれませんか?それで何なんですか?そのブラック・・・」

「ウォーグレイモンな。昔そう言うデジモンがいてな。まぁ、正確にはデジモンじゃないんだけど」

「デジモンじゃない?そんなのがいるんですか?」

「ああ。昔、ダークタワー・・・って言っても分からないか。こう黒い塔みたいなのが世界中に出現した時があっただろ?その塔を元にして生み出されたダークタワーデジモンってのがいたんだよ。そいつらは言ってみれば疑似的なデジモンで心を持ってなくてな。でも、唯一そのブラックウォーグレイモンだけは心を持ってたんだ。それで他とは違う事に悩んだりしてた奴なんだよ」

他とは違うが故に自分と言う存在の意味を求め、悩み苦しみぬいた不遇のデジモン、ブックウォーグレイモン。

その心を認め、仲間になろうとしてアグモンは何度も説得を試みたがその思いは実らず、最後には悲しい結末を迎えてしまっていた。

「・・・よくそんなのを知ってますね」

「これでも一応パートナー持ちとしては古株だからな」

「本当によく分からない人ですね」

「ま、色々と経験してきたからな」

「経験してきた結果、達観して今みたいになったんですか?」

「いや、それはどうだろうな」

 海莉の容赦ない一言に苦笑を返すしかない太一の様子を見てアグモンが海莉に尋ねる。

「太一って、仕事場ではどんな風に働いてるの?」

 その質問に反応したのは太一の方が先だった。

「何でそんなの聞くんだよ?アグモンも一緒に働く時もあるだろ。今の部署になってからは減ったけどさ」

「僕がいない時の働きっぷりを知りたいんだよ」

「働きぷりって言ってもな・・・」

 他の同僚ならまだしも海莉は太一に対していい印象は持っていない事は明白。どんな風に伝えられるのか不安はあるが、口止めしようとする方が返って怪しくなってしまう。こうなればもうどう言われても仕方ないかと諦めた太一だったが、海莉の返答は予想とは違っていた。

「・・・やるべき事はやっていますね。後輩がこう言うのもなんですが要領はいいと思いますけど」

 あれだけ会社で言い合っていたにも拘らず、まさか悪く言われないとは思いはしなかった。まぁ、良くも言われてはいないが。

「・・・どんな気の回しようだ?もっとダメ人間みたいに言われると思ったんだけどな」

 予想とは違った太一はその真意を探るべく海莉に耳打ちをする。

「別に気を回してるとかじゃないですよ。仕事が出来るのは見てればある程度は分かりますから。・・・それに今日連れ回されて単に適当なだけじゃないのも分かりましたし」

 ブラックウォーグレイモンの話で普通の人が知りえない出来事を知っていた事もそうだが、アグモンと過ごす太一はいつも仕事で最低限の事しかしない姿とは全く違っていた。職場で見る事の出来ない太一に不思議な人だと言う感想を抱くに至った。

「でも、仕事も今日ぐらいやる気を出してくれればとも思いますけどね」

「それは、まぁ、程々に」

 簡単に評価は覆らない。それところかより一層厳しくなりそうな予感さえする。それでも海莉にはもう太一に対する刺々しい雰囲気だけはなくなっていた。

 

 太一と海莉の関係に僅かながら変化があった日から数日。

「え?企画任せるってマジですか?」

 業務の最中、藤堂から呼ばれた太一は告げられた言葉を思わず聞き返してしまう。それもその筈、まだ半年すら経っていない海莉にやらせようと言い出したのだから。

「いくらなんでも早すぎませんか?」

「そう思うのも当然だろうが、何せ上からの指示だからな」

「何でまたそんな話が来たんですか?」

「あいつは社長の跡目になるかもしれないからな。早いうちに実績を積ませときたいんだろ」

「それは分からなくもないですが、やっぱ早いと思いますよ。それでこけたら元も子もないでしょ」

「それなんだか任せようとしてるのは七月末にある夏祭りのメインイベントでな」

「は?余計無理でしょ。殆ど時間がないじゃないですか」

 まだ五月初め夏祭りまで二、三ヶ月あるとは言っても企画を考え、準備し、実施するとなるとかなり厳しい。それを初めての仕事として任せようなんて無茶にも程がある。だが、会社の上層部もそこまで考えが浅い訳ではなかった。

「その通りなんだが、この件は失敗しても構わないんだよ」

「どういう事ですか?」

「夏祭りの中で人とデジモンの共存をテーマにしたメインイベントにデジモンバトルを考えてたらしいんだが、安全上の問題で規模を縮小しなければならなくなったんだとさ。でもそれだとメインイベントにするにはあまりにも弱くなってな。それでどうにか代わりになるような方法はないかと知人を通じて社長の方に話が来たらしい」

 人間がセコンドとして指示を出し、デジモン同士が戦い合うデジモンバトルは新しい格闘技の一つとして定着しつつある。アリーナも開かれ、デジタルワールドから来たタイタモンが孤高の覇者として君臨する程には人気を得ている。

「ダメ元で来た仕事で出来れば何とかして欲しいってだけだからな。夏祭りの運営側からすれば重要な問題だが、うちとしては出来なかったからと責められるようなもんでもないんだよ」

「成程。失敗してもダメージがなく、成功すればかなりの拍が付くとそういう話ですか」

「ああ、その通りだ。それに早い内に失敗を経験させるのもプラスになるだろうしな」

「どっちに転んでも海莉にとってプラスになると。最初聞いたときはどうなんだと思いましたけど、意外と過保護だったんですね」

「そう言ってやるな。あいつだって色々大変だろうしな」

「じゃなければあんな性格にはならないでしょうね」

 なんの不自由も悩みもなく育っていればあそこまで頭は固くなる事はないだろう。それは近くで見ている太一が一番分かっている。

「と言う訳でだ。お前には全力かつそれとなくサポートしてやってくれ。うまくいかなくてもいいとは言っても成功すれば困った時の頼みの綱って評価を得られるし、そうなれば会社にとってもかなりのプラスになるからな」

「事情は分かりましたけど、結構きつい事言いますね。全力かつそれとなくなんて」

 海莉には優しくともそれがうまくいくようにサポートをしなければならない太一の負担は大きい。だが、それも教育係の役割なのだから仕方ない。

 

 その話を太一に伝えた後で今回の件を伝えられ、海莉は企画を考え始めていた。必要な事は一通り見せていたし、何より海莉自身の吸収力の良さもある。早くはあるが形には出来るだろう。だが、それも形だけの上に期限が短すぎる。始めから無理のある仕事なのだから気負う必要はないと伝えてはいるが、忙しなく動き回っている様子からはどうやらそれも届いてないように見える。

(・・・さて、どうしたもんかな)

 素直に助けを求めてくれれば楽なんだが、性格上それはないだろう。こっちからそれとなく手助けを買って出ようとする自分の仕事をしてくださいと断られてしまっていた。

 今回ばかりは強引にやるべきではない。もし、強引に助けても海莉はそれを自分の成果だとは受け入れないだろう。それでは海莉の為にはならない。せめて海莉の方から協力を頼んでくれるようになれば話は別なのだが。

(・・・とりあえず様子見するしかないか)

 そう決めて待つ事に決めるも何も進展がないままこの日は定時を迎えてしまう。

「さて、それじゃそろそろ帰るとしたいところなんだけど・・・」

 いつもならさっさと帰り支度を始めるのだが、そうもいかない。

 帰り支度を始める前にと太一は机に噛り付いている海莉に視線を移す。そしてやれやれだと隣にまで言って声をかける。

「あんまり考えすぎてもいい案なんて浮かんで来やしないぞ。それに考えるだけなら家でも出来るだろ。環境を変えた方がいい時だってあるしな」

「・・・何が言いたいんですか?」

「気楽にやれって事だよ。それに教育係としてお前を放って先に帰る訳にもいかないしな」」

「本音はそれなんじゃないですか?だったら私に構わず帰っていいですよ。何か言われたら私の方から帰ってくれと言ったと説明しておきますから」

「そういう訳にもいかないっての」

「・・・分かりました。今日はもう帰りますよ。いつまでもそこに突っ立っていられると集中できませんからね」

「そうしてくれると俺も助かる」

 海莉も太一の言う事を不承不承ながらも聞いて帰り支度を始める。そしてそのまま退社し、会社の前で別れるとそのまま海莉が帰路に就いたのを確認してから太一も駅へと向かっていく。

 電車に乗ってアグモンの迎えに行こうとする太一だったが、どうにも海莉の事が気になってしまう。

(融通の利かない割にはやけにすんなりに帰ったよな。・・・あいつって頑固だけど頭は回るし、もしかするかもな)

 ある考えが浮かんだ太一はホームから出ると通行人の邪魔にならないよう脇に寄ってスマホを取り出す。

「もしもし、八神ですけど。・・・はい、アグモンの事でヒカリに頼みたい事がありまして。すいません、お願いします。・・・ああ、ヒカリか。ちょっと仕事でな。もしかしたら今日はアグモンを迎えに行けないかもしれないんだ。・・・ああ、悪いな、一晩だけアグモンの事頼むよ」

 ヒカリにアグモンの事を頼むと太一は出たばかりのホームの中へと戻っていく。

 

「やっぱりな」

 会社に戻った太一の眼には帰った筈の海莉が一人残ってデスクに向かいながらキーボードには触れずにじっとパソコンの画面を睨みつけている姿があった。

 その海莉も太一の存在に気付くと横目で視界の隅に太一を入れる。

「・・・戻ってきたんですか」

「それはこっちのセリフだ。ったく、そんなに画面をただじっと見てても目が悪くなるだけだぞ」

 そう言いながら傍までやってきた太一に海莉は鬱陶しさを込めて再度同じ事を聞き直す。

「何で戻ってきたんですか?」

「教育役の責任があるって言ってなかったか?」

「これは私が任されたんですから先輩は関係ありません」

「・・・確かにそうかもな。いつまでも面倒見るって訳にもいかないし。だったら、俺がほっとけないってのならどうだ?」

「自分の仕事は適当なのにお節介だけは率先してやくんですね」

「俺の性分って奴だからな」

「面倒な割に得にならない性分なんてあるんですね」

「そうでもないぞ。色々と面倒な事もあったけどそれ以上にいい思い出だって沢山あるからな」

 未知の世界での冒険。幾度も襲われた困難を乗り越えられたのも、様々な出会いを経て築いた絆も海莉が面倒だと言ったこの性格があったからだ。時には仲間とぶつかり合う事にもなったりもしたがそれもいい思い出になっている。・・・そう、いい思い出なんだ。

「ま、その面倒な性格の奴に関わったってが運の尽きだとでも思って諦めろ」

 だが、海莉もそんな太一の言葉をすんなりと受け入れられる性格ではなかった。

「・・・これは私が任された仕事です。どうやろうが私が決めます。先輩は関係ありません」

 頑ななまでに弱みを見せようとしない海莉に太一はこの程度では足りないのか、それならと思い切った行動に出る。

「・・・それはお前が社長の娘だからってのに関係してんのか?」

「・・・知ってたんですか?」

「一応事前には聞かされてたな」

「何で私なんかをここまで構うのかやっと分かりました」

「勘違いするなよ。俺は別に取り入ろうとか考えてないぞ。俺には出世欲や野心なんてもんはないしな。それとも何か?俺は楽して稼ごうとするようなのに見えたか?」

「・・・そうは見えませんね」

 出世を望むのなら普段から仕事に熱意を持っているだろうがサボってばかりの太一にそんな熱意等なく、休みに連れだ回された時に楽して稼ごうとする様な浅い人間ではない事も海莉は理解していた。

「だから言ってるだろ。俺は望まれなくても勝手にお節介やくような面倒な性格なんだよ。だからさ、面倒ついでに何でそこまで自分だけでやろうとするか話してみないか?」

「・・・・・・」

 口を閉ざしたままの海莉は想像以上に手強い。それでも太一は根気強く付き合う。

「周りに言いふらしはしないし話をしても何か変わる訳でもないんだからな。まぁ、話さなくても変わらないけど、もしかしたら話した方が少しは気が楽になるかもしれないぞ」

 太一の粘りの前に心が動いたのか、それとも白旗を上げたのか、海莉は自分の心情を語り始める。

「・・・太一先輩は違ったとしても、周りは私を特別扱いするんですよ。私が何かを成しても社長の娘だから、失敗しても社長の娘だからって。父が社長をやってるってわかった途端にですよ。そんなに大きな会社でもないのに。会社が出来る前からの知り合いだってそうです。軌道に乗り始めたら特別扱いし始めて。それまでは普通に接してたのに。それが鬱陶しくて、そんな事を言わせないようにするには私の力だ、父は関係ないって認めさせるしかないんです。その為には誰の力も借りる訳にはいかないんです」

 海莉は令嬢だと言うレッテルを張られて個人として見てもらえない事に苦しんでいたのか。成程、アグモンの感じた通り、自分の存在を、その価値を求めているのはブラックウォーグレイモンとよく似ている。

「成程な。お前の気持ちが分かるって言えたらいいんだろうけど、生憎とそんな経験はした事ないからな。でもさ、あまり意固地になるのもよくはないってだけは言ってやれる。俺はそれで取り返しのつかない間違いを犯しそうになったんだからな」

 太一もかつて仲間を助けられなかった事で自分を見失い、自らを責め、その結果アグモンを理性もなく闘争本能のままに見境なく暴れ回るスカルグレイモンへと進化させてしまった過去があった。

「余裕がなくなると周りが見えなくなってやっちゃダメな事まで分からなくなって、そのせいで最悪な事態を招いてしまうんだよ。それに人一人に出来る事なんてたかが知れてるしな。だからいざと言う時、誰かに頼れるぐらいの余裕はなくしちゃダメなんだよ。頼るってのが出来ないなら利用するってのでもいいだろうしな。それでもし、勝手な事を言う奴がいれば言わせとけばいいんだよ。どうせそう言う奴は誰が何をしようが勝手な事を言うんだからな」

「・・・私は先輩みたいに出来ませんから」

 海莉は今こうして太一と向き合って始めて太一の強さ、そして自分の弱さを噛み締めてしまう。

「だったら猶更誰かを頼れ。肩書とか関係なくお前を見てる奴だっているんだしな。少なくともここに一人いるぞ。馬鹿真面目な奴を放っておけない物好きがな」

「先輩・・・」

 海莉は真正面から思いをぶつけてくる太一に初めて心が揺れる。そしてその心を映し出したかのように揺れる瞳で太一を見つめる。

「・・・わ、私は・・・その・・・」

 人を頼ってこなかった海莉は中々言い出す事が出来ない。その間、太一は静かに待った。

「・・・その・・・先輩・・・助けてくれますか?」

「ああ、任せておけ」

 そうしてこの日を切っ掛けに二人の関係は大きく変わっていった。

 

「よう、久しぶりだな。太一」

「ああ、高校卒業して以来だからな」

 それから数日。日も落ちた夜の街の一角で太一は海莉の担当した企画を成功させる為に仲間の一人であった石田ヤマトと会っていた。そしてこの場にはこの二人だけでなく、アグモンと共にヤマトのパートナー、被ったオオカミの毛皮で体を頭を隠している爬虫類型のデジモン、ガブモンも伴っていた。

「ガブモンも元気みたいだな」

「うん、太一とアグモンも変わりないみたいだね」

「それだけが取り柄みたいなもんだしね」

「それって自分の事言ってんのか?もしかして俺も含めてんじゃねぇだろうな」

 太一はアグモンの頭をウリウリと押さえつける。

「ごめん太一~、悪気はないんだよ~」

「って事はやっぱり俺も含んでんじゃねぇか」

 そんな太一とアグモンの変わらないやり取りにヤマトは笑みを浮かべる。

「ふっ、しかし驚いたぞ。いきなり電話を掛けてきたと思ったら言い出した事も唐突だったからな」

「他に頼れそうなのもいないからな。で、どうだ?頼めそうか?」

「まぁ、どうにかな。バンド時代のメンバーにも話してみたら久しぶりのやるのも楽しそうだって乗り気だったからな。そっちも何とかなりそうだ」

「そうか、助かる」

 祭りの企画として太一はデジモンが戦うだけの存在ではないとアピールする意味も込めてライブの開催を考えた。そしてその為にかつての仲間であったヤマトに協力を仰いだ。

 学生時代、ヤマトはバンドを組み、時折ライブを開いていた。プロとしてやっていた訳ではないが、急な話を持ち掛けられる信頼できる相手はヤマトしかいなかった。それにその腕前はなかなかの物だ。当時は同年代の女の子から大きな人気を得ていて、ライブを開けば大勢のファンが集まる程だったのだから。

「けど、大丈夫かな。俺はヤマトの演奏を見てただけだったし」

 ヤマトとは反対にガブモンは不安そうにする。

「誰が一番急かって言ったらガブモンだしな。でもこれはヤマト達だけじゃなくてガブモンもいないと意味ないからな」

 学生時代、ヤマトがバンドを組んで活動していた頃はデジモンは殆ど知られていない時期だった。その為、ガブモンは演奏には一切関わってなかった。

 だが、デジモンとの絆をテーマにしたイベントなのだからガブモンの存在が必須になる。

「大丈夫だよ。ガブモンとヤマトならどうにか出来るって」

「相変わらず楽天的と言うか。アグモンのそう言うとこ羨ましいよ」

「いや~、それほどでもないよ」

 励ますはずのアグモンの方がガブモンの言葉によって喜んでしまう。

「ったく、お前の方が喜んでどうするんだよ。でもまぁ、ガブモンもあんまり深く考えなくていいぞ。今から楽器は無理だろうけど歌があるし、何なら歌わなくても演出で魅せるって手もあるしな。その場合、こっちでも色々考えるし」

「うん、そうだね。僕もヤマトと一緒に舞台に立ってみたいし」

「ああ、俺も同じだ。ガブモンも一緒だったらより一層楽しくなるだろうしな」

 ヤマトがバンド活動をしていた頃はまだデジモンが一般的ではなく、ガブモンは参加する事無く舞台袖から見守るだけだった。だが、パートナーとして共に舞台に立ちたいと言う願望は僅かながらあった。勿論、ヤマトもそれは同じ。そしてその願いは今になって叶えられる機会がやってきたのだ。

「ま、何とかなりそうで良かったよ。悪かったな、突然で。こっちとしてももっと余裕を持って取り組みたかったんだけどな」

「ま、そっちの都合ってのもあるだろうしな。それに俺のだって出来なければ出来ないと断ってたさ」

「ホント助かるよ。けど、驚いたのはこっちだって同じだぞ。まさか二人がJAXAの職員になってるなんてな」

 連絡を取った時に互いに簡単な近況報告もしていたが、その時に聞かされたヤマトの就職先の予想外っぷりにかなり驚いたものだ。

「まぁな。でも、職員なら普通に新卒の採用もしてるし、そこまで驚くようなもんでもないんだけどな」

「いや、だとしても驚くっての」

「それもガブモンのおかげってのもあるからな。デジモンの可能性は宇宙開発にも応用できるかもしれないってので一発採用してもらえたんだよ」

「へぇ~、そうだったのか。でも、一番意外だったのはヤマトがJAXAに就職しようとしたって所だったんだけどな」

「確かにそうかもな。でも、考えてみろ。俺達がデジタルワールドを旅したみたいに宇宙にも未知の世界が広がってるんだ。俺達みたいに知能を持った生物がいるかもしれないし、そうなればデジモンみたいな存在だっているかもしれない。そう考えたらワクワクしてこないか?」

「・・・成程な。お前は今も冒険しようとしてるんだな」

「まぁな。でも俺だって意外だったんだぞ。お前が会社勤めだなんてな」

「・・・まぁな、俺にはお前みたいにやりたい事も、あの時みたいにやらなくちゃいけない事もなかったからな」

 いつも率先して前へと進み、仲間達の中心となっていた太一と常に慎重さを忘れず仲間達を支えてきたヤマト。だが、未知の世界を目指すヤマトと平穏な日常を送る太一。いつの間にか互いの在り方が入れ替わってしまっていた。

 太一も太一なりに今の生活を送っている。それが間違いだとは思わない。

 それでも先も見えず命の保証すらなかった、あの未知の冒険の日々に比べれば霞んでしまう。

 太一なりに今の生活を行っているが絶えず寂寥感は胸の中に漂っている。まるで過去の日々は変わらずそこにあるのに今の自分だけが消えてしまっているようで・・・

 

 だが、転機は突然訪れる。

 




次回予告
 会社員としての生活を送る太一だったが、次世代の選ばれし子供達の教官の話が舞い込んでくる。新たな時代において自分の役割を見出し始める太一だったが従弟である少年、亮(たすく)がアルファモンに襲われている場面に遭遇してしまう。
 そしてこれが太一が新たな時代に翻弄される全ての始まりとなるのだった。
 
次回、「やるべき事」
移りゆく時代の中で何を見出すのだろうか・・・。
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