二次創作/デジモンアドベンチャー03 変わりゆく時代の中で 作:島鳥 烏
今回の話で物語が大きく動き始めていきます。ファンとして待望のあの二体のバトルも・・・。
と言っても、先に投稿しているもう一つの話の方で知っている人もいると思いますが。
これから先、大人となった太一がどんな物語を進んでいくのか。お楽しみいただけたらと思います。
「・・・・どうしたもんかな」
いつも通り出勤して、いつも通り机に突っ伏す太一だったが、この日はいつもの様に呑気に寝息を立てはせず、思い悩むようにどこか遠くを見つめていた。
「辛気臭くするのはやめてもらえませんか?周りにも悪影響が出るので」
相も変わらずと言えばいいのか、ついこの前に弱さを見せていたのがまるでなかったかのように太一に海莉は辛辣な言葉で話しかけてくる。
「はぁ、それを言われたらな・・・」
「それで何があったんですか?鬱陶しい先輩がより一層鬱陶しくなるのは相当な事だと思いますけど」
「・・・お前な。・・・まぁ、いいか。て言うか、特に話す事でもないんだよな」
溜息混じりに体を起こした太一に海莉は何があったのかを聞き出そうとするも、自分の胸の中にしまおうとする太一に不機嫌そうに眉根を寄せる。
「人には根掘り葉掘り聞いておきながら自分は話さないつもりですか?」
「いや、それはだな・・・」
思わずごまかそうとする太一だったが、有無を言わせぬ冷たい視線に直ぐに折れる。
「分かったよ。まぁ、こっちだけが聞くのもフェアじゃないしな。でも、ここじゃちょっとな。・・・今度の休みは空いてるか?」
「問題ありません」
そうしてまた休みの日に会う約束を取り付け、そしてその約束の日に海莉は太一から思いがけない話を聞く事になる。
「・・・それって会社を辞めるって事ですか?」
「まぁ、そうなるな」
約束の当日、適当に入った喫茶店で海莉が太一から聞かされたのは、デジモンをパートナーに持つ子供達の中から特筆した可能性を持つ子供達を選定し、次世代を担う中心的存在として育てると言う計画。そしてその教官を太一に勤めて欲しいと旧友でもある光子郎から直接連絡を受けていたと言う事だった。
「また急な話ですね」
「そうなんだよな」
受けるか断るか直ぐには答えが出せずに待ってもらってはいるが、その猶予も一週間だけ。それもその計画が子供達の夏休みに合わせて実施されるからと決まっていたからだ。
あまりにも急すぎるが、この話を持ち掛けてきた光子郎もまた聞かされたのはつい最近。
デジタルワールドやデジモンに対応する為に政府が新たに設立した省庁である電脳省から告げられた指示にデジモン研究の第一人者とされる光子郎でさえ、政府直属の研究機関に属している以上従わざる負えない。
けれどその計画そのものに光子郎は異を唱えるつもりはなく、寧ろそれを支持する考えを持っていた。ただ一点、その子供達を導く教官がある程度の知識を持っているだけでしかなく、パートナーのデジモンすらいない人間だと言う事を除けば。
パートナーデジモンのいる大人は限られるのだからそれも致し方ないのかもしれない。それでも納得のいかなかった光子郎は電脳省の人間に直訴してその代わりとなる人物を一週間以内に見つけられるのならばと言う条件で確約を取り付けた。そして直ぐに太一に連絡が来たのだった。
だが、太一にも積み重ねてきた日々がある。
「まだ企画だってまだ途中なのにですか?」
「そこまで無責任じゃないって」
「でも、やりたいんじゃないんですか?」
「・・・どうだろうな」
「悩んでるって事はやりたいって事なんじゃないんですか?そうじゃなければ悩んだりしないですよ」
「・・・そうだな」
太一だっていつまでも子供のままじゃない。子供の時の旅を経て責任を負う意味を理解していた太一が後輩に助けてやると言っておきながらそれを放り投げるような事なんて出来はしない。それでもこの話を受ければ、アグモンと一緒に働く事が出来る。今までずっと胸の内にある蟠りを解消できる。
会社に残ればパートナーとしての責任を果たしているとは言い切れない状況が続き、話を飲めば社会人としての責任を放棄する事になる。どちらにしても納得できる選択にはならない。それなら今までやってこれたのだからこのままの方がいいんじゃないかと考えてしまう。
そんな太一の背中を押したのは他ならぬ海莉だった。
「やりたいんならやればいいんじゃないですか?」
「でも、お前。途中なのにって言っただろ」
「突然の事だったんで。でも、うじうじしている先輩を見てる方が目障りでもありますから」
「目障りって・・・。容赦ないな」
一切鈍りを見せない切れ味鋭すぎる海莉の言葉に太一も苦笑を漏らしてしまう。
「事実ですから他に言いようはないですよ。それに先輩言いましたよね。必要な時は頼ればいいって。自分でそう言っておきながら自分は頼らない気ですか?」
「それは・・・」
自分が言った事をそのまま返されて太一は口を噤んでしまう。
「企画の方は私がちゃんとやっておきますよ。殆ど出来上がってますから何とかなります。それに必要があれば他の人を利用しますから。それでいいんですよね?」
そう言ってのける海莉は弱みを見せた時やそれ以前にはなかった芯の強さを持った笑みを見せてくる。
そんな姿を見せられたら太一もいつまでもうじうじと悩んでなんていられない。
「・・・決めたよ。俺、会社辞めるよ。もしかしたらこれが俺のやるべき事なのかもしれないしな」
子供達を育て導くのが、かつて選ばれし子供達として様々な経験をし、そして今大人になった自分達の役割なのかもしれない。そして他の仲間達もそれぞれの道を見つけ歩んでいるのかもしれない。だからこそそれを見つけられなかった自分がきっとやらなければいけない事だから。
「さてと、そう決めたんなら早速行動に移さないとな。光子郎にも連絡しないといけないし。と、その前にここの会計を済ませとかないとな」
「あ、私の分、出しますね」
「いいよ。一応こんなんでも先輩だし、それに話も聞いてもらったんだからその相談料代わりって事にしといてくれ」
そう言っては太一が席を立った間にアグモンが海莉に礼を伝える。
「太一の背中、押してくれてありがとう。僕じゃなかなか聞けない事や言えない事ってあるから」
アグモンも太一が内心で色々と抱えている事は気付いていた。でも、何も力にはなれなかった。
強大な敵や苦難の道なら互いに乗り越えてきた。それでも人間社会においてはそうはいかない。人間社会での生活で悩みを抱えていたのはアグモンも同じだった。
だからアグモンの言葉には太一だけではなく、アグモン自身の感謝の思いも込められていた。
「別に鬱陶しかったからそう言っただけです」
「君って結構不器用なんだね」
「・・・ほっといてください」
そんな海莉のそっけない姿にアグモンは改めて助けられなかった友達の事を思い出してしまっていた。
それから時間は流れ、計画が実施される当日。
「今日から教官としてお前らに指導を行う八神太一だ。それとこっちは・・・」
「僕は太一のパートナーのアグモンだよ。皆、よろしくね」
軽い挨拶と共に研究所内に用意された訓練所に集められた子供達を見回す。
子供ながらに鍛えられた体つきとそれに見合うだけの力強い眼光を宿した少年。大武 雅人(おおたけ まさと)と発達した両腕を持つ鉱石型のデジモン、ドスモン。
細身ながら鋭い目つきの少年。間宮 佑真(まみや ゆうま)とショットガンを背負い、頭に比べて大きい迷彩柄のヘルメットを片目を隠すように斜めに被るトカゲのデジモン。ショットモン。
この年で既にばっちりとメイクを決めている今時の少女。蔵戸 美結(くらと みゆ)と魔法使いの様な杖を巻き付けた尻尾で掲げる白蛇のデジモン。アスクモン。
見るからにおとなしそうな少女。朝霧 風花(あさぎり ふうか)と雲の様な柔らかな毛で全身を覆われ、ふわふわと宙に浮かぶ羊雲型デジモン。フワリモン。
この四人が次の世代の選ばれし子供達。太一達に負けず劣らず癖が強そうだ。
「それじゃ、早速訓練を開始してもらう。まずは手始めにランニングといこうか」
太一の指示に美結が不満の声を上げる。
「え~、それってあたしもですか?」
「ああ、そうだ」
「別に必要なくないですか?」
「このメンバーが将来どんな道を進むのかも分からない。だが、どんな道を進むにしろ体力はあるに越した事はないだろ。それに一人一人の基礎体力も知っておきたいしな」
「面倒なんですけど・・・」
あからさまに嫌そうに表情を曇らせる美結だったが、それをパートナーのアスクモンが窘める。
「そう腐るな。これぐらい予想は出来るだろ。それともこんな事で来ない方がよかったと言いいだすのか?」
「分かってるっての。私だってなんとなくで来た訳じゃないんだし」
パートナーであるアスクモンの落ち着き払った言葉で美結は不満を飲み込むが、代わりとばかりに今度は雅人が憎まれ口を叩く。
「ま、俺は正直今更なんですけどね。最低十キロは毎朝走り込みしてるし、今日も既にやってきてるし」
「お前はそうかもしれないけど他はそうじゃないからな。このメンバーで協調できるようにする為にも例外は認めないぞ」
「別にいいですけどね。走る距離が少し増えるぐらいだろうし」
仕方ないと肩を竦める雅人に対して吐き捨てる者がいた。それは太一ではなく雅人と同じく選ばれし子供達の一人、佑真だった。
「・・・だったら始めから黙ってればいいだろ」
不満ばかりの仲間に不快感を滲ませる佑真に雅人も苛立ち交じりで食ってかかる。
「あ?別にいいだろ。思った事を言っただけなんだからよ。そもそもお前にとやかく言われる筋合いもねぇだろ」
「さして重要でもない事で時間を無駄にされてるんだがな」
「だったら俺よりもまずあいつに言えよ」
そう指摘された美結はこっちに来るのかと嫌そうな顔をする。だが、佑真の嫌みのターゲットが変わる事はなかった。
「見た所、体を鍛える事と無縁なのだから少しぐらい不平不満を言うのは大目に見る。だが、あんたの場合は言動以前に見た目だけでも鍛えている事ぐらい伺える。そんな奴が今更その程度で文句を言ってるんだ。これ以上無駄で下らない事なんてそうそうないだろうからな」
「はっ、そんなに時間を無駄にされるのが嫌ならてめぇこそ黙ってろよ。そのせいで更に時間が無駄になったんじゃねぇのか」
「今ここで時間を浪費したとしてもこの先同じ様な事で時間を浪費されるのを防げるのなら無駄にはならないだろ。これだから考えの足りない奴は・・・」
「・・・どうやら喧嘩売ってるようだな」
「単純すぎるにも程があるな。まさか脳筋なんてものが実際にいるなんてな」
沸点へと達しかける雅人に対して完全に冷めきっている佑真。水と油と言うより火と氷の様に相いれない二人だが、その間に割って入る者がいた。
「空気悪いよ~。これから一緒にやっていくんだから仲よくした方がいいんじゃないかな~」
一触即発の空気にも意に返さずにフワフワと空中で揺れるフワリモンが緩衝材の役割を果たし、二人のパートナーもフワリモンに続いて収めようとする。
「マサト・・・」
「・・・分かってるって。これで手を出したら脳筋呼ばわりを認める事になっちまうからな」
「佑真も。もうそれぐらいでいいんじゃないですか?」
「・・・ふん」
かろうじて事なきを得て太一は胸を撫で下ろす。変に遺恨を残すよりは一度徹底的にやらせた方がいいかとも考えてはいたから止めずにいたが、問題なく収まるならその方がいい。
(前途多難って所だな。まぁ、俺達も順風満帆で進んでた訳でもないしな)
太一は個性の強い面々に昔の自分達を少しだけ重ねてしまう。
「どうにか収まったようだな。それじゃランニングを始めてもらうが、さっきも言ったように基礎体力を見るのが目的だからな。30分間走ってもらうが、各自のペースで走ってくれればいい」
太一は軽く説明を終えるが、そこにフワリモンが質問をしてきた。
「私はこのままでいいの~?それとも下に降りた方がいいの~?」
「そうだな・・・。まぁ、そのままでいいか。普段もずっと浮いてるんならそっちで調べた方がいいだろうしな」
「よかった~。私、全然走れないから~」
宙に浮くぐらい体の軽いフワリモンともなれば地上を移動する方が難しいようだ。
「他に聞きたい事がある奴はいるか?・・・いないようだな。それなら始めてくれ」
太一の指示を受けて各自訓練所の外周を走り始める。
一人一人走る速度が違う中で早いペースで走り出したのは佑真とパートナーのショットモン。
あれだけ強気だった雅人はと言うと最下位にいた。だが、それもその体の重さ故に動きの遅いパートナーのドスモンに合わせていたからだった。
「さて、それじゃ俺は先に行くぞ。そっちはそっちで走ってくれよ」
「・・・ワカッテイル。・・・・イツモノコトダ」
体同様重さを感じる口調でドスモンは雅人に頷き返し、雅人もスピードを上げて他の面々を一気に追い抜いていく。
「・・・何だ。ただの口先だけの奴かと思ったがそうでもなかったか」
「へっ。そっくりそのまま返してやるぜ。って言いたい所だが、そこまで言える程度じゃなさそうだしな。お先!」
そう言い捨てる雅人は余裕の笑みと共に佑真を軽く抜きさっていく。
「佑真」
「何だ?あの脳筋に触発されるとでも思ってるのか?はっ、俺をあんな馬鹿と同じにするなよな」
易々と抜かれるも、佑真は言葉の通り気に留めず自分のペースで走り続ける。
一方、最後尾付近ではフワリモンと共にそのパートナーの風花が十分程度で息を切らし始めていた。
「・・・もうちょっと気楽にやった方がいいんじゃない?」
そんな風花の前を走っていた美結がスピードを落として並走しながらそんな風に軽く言ってくる。
「・・・こ、ここに来た以上はやれるだけの事をしておきたいから」
「ふ~ん、真面目なんだね。でも、それだけ真面目にやってるって事はそれなりの理由とかあったりする訳?」
「り、理由は、その・・・」
「デジタルワールドに行ってみたいんだよね~」
その質問に対して答えに窮する風花に変わってフワリモンが答える。
「デジタルワールドに行ってみたいって、それだけ?」
あまりにも代わり映えしない上に答えに窮するような理由でもなく、美結はそれだけでは納得できない。
「う、うん」
全部を話してないのは誰の目にも明らか。けれど、タブーと言う程の事情があるようにも見えない。
その不可解な風花の様子に美結の嗅覚が敏感に反応する。
「もしかして・・・男?」
「え?あ、その、そう言うのじゃなくて・・・」
ただの思い付きでしかなかったが、あからさまに良い淀む風花の様子に美結は確信する。
「へ~、だったらあたしとちょっとは似てるかもね」
「に、似てる?」
「だってあたしはその為に来たんだし。いい男を捕まえれば、いい暮らしが出来るじゃない?将来の為よ、将来の」
「い、いい男?」
「そうよ。だってここに集められてるって事はステータスになるでしょ?そうすればいい所に就職できるだろうしね。そう言う男を捕まえられたらあたしの将来は安泰が約束されるしね」
「そ、そうなんだ」
ませていると言えばいいのか、現実的な理由にそんな事まで今はまだ考えていない風花はどう返せばいいのか分からない。
そんな風花を後目に美結はまるで井戸端会議の様に話しを続ける。
「でも、正直期待外れなのよね。だって、ここに来てる男子って生真面目そうなくせにひねくれるっぽいのと、無駄に暑苦しいのじゃない?ま、そのうち後輩が出来るかもしれないから当面はそっちに期待って所かな」
自分とはあまりにも違う上に走り込みの疲労でまともに言葉を返せない状態の風花を置いて、既に一人語りの様になりつつある美結に地表を泳ぐように滑らかに這っているパートナーのアスクモンが苦言を呈する。
「今の彼女は君とおしゃべりする余裕なんてないみたいだが?少しは相手の事も考えた方がいいぞ。独りよがりでいる相手に君の言ういい男が近寄ってくるとは思えないのだが。君はどう思う?」
「あんたもいつも一言余計なの直した方がいいんじゃない」
「生憎と私は君の様に理想の相手を探す必要なんてないからね」
「はぁ、そうよね。あんたは探さなくてもどうとでもなるもんね。羨ましい限りですよ」
苦言に皮肉で返した美結ではあるが、それに耳を傾けない程愚かではない。
「けど、あんたの言う通りではあるしね。ごめんね無駄な体力使わせて。頑張るのはいいけど倒れない程度にしておきなさいね」
最後にそう言い残して美結は僅かにスピードを上げて少しずつ風花との差が開いていった。
そうして基本的な訓練だけで初日が終わりを迎える。だが、それは子供達だけで大人達はまだまだやるべき仕事は残っていた。
「成程。ある程度は予想通りではありますが、なかなかに優秀な子達が集まったようですね」
研究室にて今日一日で取れたデータを元に測定した子供達とそのパートナーの能力を確認しながら、研究所の主任を務める科学者、泉 光子郎が感想を口にする。
「そうだな。だけどそれも予こっちで選定したからってのも大きいんじゃないのか?」
光子郎の背後から画面を覗き込んでいた太一が上半身を起こしながらそう返す。
「選定したと言っても身体能力ではなくどれだけパートナーと絆を深めているかを基準にしているんですけどね」
「パートナーを進化させられるかどうか、だっけ?」
戦う事が全てではない現代において必要となる能力は多岐に渡る。それらを考慮して基準を作るのは不可能に近く。その為、基準にされたのはパートナー同士の絆であり、それに際してデジモンを進化させられるかどうかを参考にする事となっていた。
「せやかて、それが基準になるなんて不思議な感じでんな。わいらなんて普通に進化してたさかい」
光子郎のパートナー、テントウムシのデジモンであるテントモンが感じた事をそのまま口にする。
「まぁ、僕達の時は生き残るかどうかの状況でしたからね」
「普通に暮らしてればあの時の俺等みたいに進化させなきゃならないって切羽詰まった状態にそうそうならないからな」
かつての選ばれし子供達は様々な苦難を通して成長し、そしてそれを共に乗り越える為にとパートナーを進化させる力を得ていた。だが、争いと無縁の世界ではかつての選ばれし子供達の様に差し迫った危機と遭遇する事など滅多に有り得ない。それを踏まえた上で早い段階で進化させられると言うのはそれだけパートナーとの絆を築けていると言う証拠になる。
「それが影響しているかどうかは分かりませんが、個性豊かな子が集まったようですね」
単に普通の生活をしているだけでは進化させる機会などなかなか訪れない。だからこそ、選ばれた子供とそのパートナーは聊か特殊な環境にいる事が多く。その為、今回集まった子供達はかつての選ばれし子供達よりも個性が強いように見受けられる。
「そうだな。会って早々に喧嘩をおっぱじめそうになってたぐらいだしな」
「そういう太一だってヤマトとよく喧嘩してたよね」
アグモンの指摘に太一は苦笑を漏らす。
「いや、あんな風に初日にいきなりぶつかるって事はなかっただろ。それに喧嘩ってのとも違うしな」
まだまだ青い子供達の姿に過去の自分達を少しだけ重ねてしまう。けれど、そのまま思い出話に花を咲かせる訳にもいかない。
「太一さんから見て、今日集まった子達はどんな風に思いましたか?」
「そうだな。あの威勢のいい雅人ってのは良くも悪くも真っ直ぐな奴って感じだな。でも、もう一人の佑真って奴も熱さはないけど筋が通ってる感じはするかな」
「根っこは互いに真っ直ぐなのに表面があまりにも違うからぶつかり合ってしまうって所ですか。成程。それでは女の子達の方はどうですか?」
「う~ん、色々と未知数って感じがするな。美結って子は今日の訓練でもあからさまに手を抜いてるけど適当にやってるって訳でもないしな。正直、見た目や言動とは違ってなかなか底の見えてこない奴だな。けど、人を思いやれる心は持ってるみたいだったな」
「最初見た時はミミさんみたいに感じましたが、どうやらそうでもないようですね」
外見的な特徴から比較されたのはかつての仲間の一人、太刀川 ミミ(たちかわ みみ)。天真爛漫で自分の気持ちを素直に出してしまう事から時折我儘とも言える行動をとってしまっていたが、人を思いやれる優しさも持っていた。
外見だけではなく、内面的にも通ずる所はあるが表面に出さないという点においては大きく違っているようだ。
「それともう一人の風花って子はこのメンバーの中では普通って言えばいいのかな。真面目に取り組んではいるけど、それ以外に取り立ててどうこうって言うのはあまりないな」
「でも、この中で唯一完全体まで進化させる事が出来ているのがこの子なんですよね」
「事件に遭遇した時にってのは情報にあったな。その時に力を制御できずに暴走させてしまったってのもな」
メンバーの中で一番普通の子に近いが、同時に普通の子がしない経験をしてきた子でもある。だからこそ、人間性として底の見えてこない美結とは違った意味で未知数と判断するしかない子でもあった。
「なんて言うか。改めて考えてみれば見る程、個性豊かな面々が揃ったてのが結論だな。その分、教官って言うのも結構大変そうだけどな」
そう結論付ける太一だが、これまでの生活の中にはなかった充実感と期待の籠った口調はそんな言葉とは対照的で、そしてそれはアグモンも同じだった。
「僕達だって順風満帆でやってこれた訳じゃないしね。大変そうだけどなんとかなるよ」
太一とアグモンの二人はやっと自分達のいるべき場所が見つかったような気がして、これから先の杞憂など気にならなかった。
だがそれも予想だにしなかった事態が予想もしていなかった場所から発生してしまうまでの短い間だけでしかなかった。
太一が教官としての日々を送る中で、夏祭り当日を迎えた。
結果的に途中で放り出してしまった企画の成り行きを確かめる為にアグモンを連れて会場へと足を運んでいた。
「なかなか盛況みたいだな」
「面白そうな屋台も沢山あるね」
「少し見て回るか。イベントが始まるまで少しあるしな」
今日の祭りではデジモンと共に出店する屋台を集める為に場所を優先する事もあって人目に付く所にある屋台の大半では人とデジモンが一緒にやっている屋台が多い。その為、普通とはちょっと違った屋台も多い。
そんな屋台を回っていると、祭りには似つかわしくない奴がいた。
「何だ。お前も来てたのか」
祭りを楽しむにしては仏頂面で屋台を一瞥しながら会場内を歩き回っていた海莉に気付いて太一は声をかける。
「・・・先輩も来てたんですね」
「途中で投げ出す事になったからな。どうしても気になって。そっちも同じか?」
「まぁ、そうですね」
途中で離れてしまった太一同様に最初の仕事となった海莉も今回の企画の成り行きが気になって様子を見に来たようだ。
「それはいいとしても、折角の祭りなんだからもう少し楽しそうにしたらどうだ?」
「お祭りなんてどこも似たようなもんじゃないですか」
「いやいや、これだけデジモンを活用した祭りなんて他にないだろ」
「その分は興味深く見てますよ」
「見るだけじゃなく加わった方が楽しいぞ」
「そうそう、太一の言う通りだよ。ほら、このイカ墨スパゲッティとか、変わってるけど結構おいしいそうだしさ。食べてみなよ」
そう言いながらアグモンは大量に重ねた戦利品の中から一番上にあったゲソモンの墨を使って作られたイカ墨スパゲッティを海莉に差し出してくる。
「イカ墨ですか・・・。見かけはしましたが、日本の祭りでパスタと言うのはどうなんでしょう」
「別にそこまで気にするもんでもないだろ。ベビーカステラだって似たようなもんだろ」
「・・・そうかもしれませんけど」
太一が祭りの定番の出店の一つを例に出す事で海莉も一応の納得をする。
「じゃぁ、問題はないだろ。ほら、食ってみろって。物は試しとも言うんだしな」
「・・・分かりましたよ」
太一に言いくるめられて海莉はしぶしぶとアグモンからイカ墨スパゲッティのパックを受け取る。
「・・・こうしてみると少しだけ焼きそばみたいに見えなくもないですね」
透明なパックは意外にも祭りの場においての異色さがある程度払拭するという効果を発揮していた。
異色さが緩和されたとはいってもこう言った状況そのものに慣れていない海莉は躊躇いを混じらせながら一口だけ食べる。
「・・・意外と美味しいですね。普通のよりも味に深みがあるような・・・」
「へぇ~、やっぱ普通のイカ墨じゃなくてゲソモンのイカ墨を使ってるってだけはあるって事か。・・・この機会を逃すのはちょっと惜しいかな。イカ墨のなんて洒落たもん自体今まで食った事ないから比較しようもないけど」
「だったらこれ。お返しします。食べかけでなんですが、一々戻るのも面倒でしょうし」
「お前はいいのか?折角なんだし。それとも他のとか食うか?」
「他のもいいです。元々何かを食べたりする気もなかったですから」
「いや、少しぐらい食えるだろ」
少しはマシになってはいるが、相変わらず素気のない海莉に苦笑しながらも太一は突き返されたイカ墨スパゲッティを受け取る。
そんな海莉にそれならとアグモンがある提案をする。
「だったら、他の所を見て回ろうよ。食べ物以外にもあるんだしさ」
「ああ、そうだな。お、あそこのとか面白そうだぞ」
海莉の答えを聞きもせずに太一は目についた屋台の方へ向かっていく。
「・・・全く、強引なんですから」
そう溢しながらも海莉はそれをそこまで嫌だとは思っていなかった。
それから時間が経ち、太一達は目的のイベント会場となる野音とも呼ばれる大音楽堂へと来ていた。
「どうにか人は集まってくれたようですね」
夏祭り自体は早くから宣伝していたが、コンサートの方は突然の事もあって全くと言っていい程に宣伝する時間はなかった。だからこそ人の入りが一番の懸念だったが、デジモンが参加する物珍しさにSNS等によって予想以上に広まったのだろう。
それにそれだけでもなく、集まった人の割合を見る限り若干女性の方が多い辺り当時ファンをしていた人達も噂を聞きつけてやって来ているようだ。
その両方から人が集まってなかなかの盛況ぶりを見せていた。
「後は失敗しない事を願うばかりですね」
後は舞台に上がるヤマト達次第。だが、太一とアグモンには一切心配する気持ちはなかった。
「それは大丈夫だろ。なんたってヤマトとガブモンだし、他のメンバーもヤマトが認めた奴らだからな」
「そうそう、これぐらいあの二人なら全然へっちゃらだよ」
「信頼してるんですね」
「まぁな」
そんな何気ない会話を交わす中で、海莉は太一と共にしていて感じた事を口にする。
「・・・会社、辞めてよかったみたいですね」
「ん?何だ?急に」
「会社にいた時は覇気と言うのが一切なかったですけど、それと比べれば少しはマシになったようなので」
「正直、今の方が性に合ってるってのはあるな」
「確か子供達の教官をやっているんでしたね」
「そうそう、それで訓練つける事になった奴等がまた一癖も二癖もありそうな奴等ばっかりでな」
「でも、期待できそうな感じはしてるよね」
「まぁ、有望だとしてもチームワークが全然なのがな。当面はちゃんと仲間として認めあえるようにするのが重要になるだろうし」
「あまり考えなくてもそのうち何とかなるんじゃないかな」
「そうかもしれないけど、訓練をつける身としてはそんな気長にも待ってられないだろ。効率だって悪くなるしな」
「それならその時々でやり方を考えればいいんじゃないの?」
「そう簡単にはいかないだろ。場合によってはそれも有りだけど、チームワークを優先する方があいつ等にとってもいいだろうしさ」
共に子供達を導く立場にいる者として太一とアグモンの二人が意見を交わしているのを海莉は送り出したのは間違いではなかったと密かに柔らかな眼差しで見ていた
そんな風に会話を交わしているうちにライブの開始を告げるアナウンスが流れ、ゆっくりと会場の明かりが消えていき、やがて夜の帳に包まれていった。
それに合わせて会場が静まり返った時。
「プチファイアー!」
舞台上から発せられた声と共に青い炎が迸り、会場に設置されていたトーチに火を灯す。
そしてその青い炎の幻想的な光がステージ上を照らし出し、ヤマトの率いるバンド、TEEN―AGE WOLVESの姿が浮かび上がらせる。
「久々のライブだ!今までおとなしくしていた分を今日一晩で全部吐き出してやる!俺達の事を知ってる奴ばかりじゃないだろうが一緒についてきてくれよ!!」
ベースと共にヴォーカルを務めるヤマトのシャウトに続いてメンバー全員が一斉に演奏を開始する。
激しく力強い演奏の中でヤマトはガブモンと並んでクールさの中に熱さを秘めて歌い上げる。久しぶりのライブで更に新メンバーを迎えた事も合わさり、心の底からステージを楽しむ思いは奏で音楽に乗せられ、そしてそれはかつてのファンを中心に伝播し、会場全体のボルテージが高まっていく。
そしてクライマックスに近づいた時、最大の見せ場を迎える。
「行くぞ!ガブモン!」
「OK!ヤマト!」
掛け声と共にヤマトはデジヴァイスを掲げ、そこから溢れ出す光がガブモンに更なる力を与える。
「ガブモン進化!メタルガルルモン!」
ガブモンは体のほぼ全てをメタル化した狼。メタルガルルモンへの進化を果たすと、ヤマトの歌とバンドの演奏の中、その身軽な体を駆使して会場の天井へと駆け上る。そして空を見据える。
「コキュートスブレス!」
吐き出された絶対零度の冷気は空へと昇り、そして空を漂う雲へと届く。コキュートスブレスによって急速に冷却された雲の中の水蒸気が雪となって降り始める。
青い炎に加え、真夏の夜に降る雪に彩られる演出の許にライブは歓声に包まれて大盛況のままに最期を迎えた。
「お疲れ様。いいライブだったぞ。って言ってもお前ら以外のライブなんて言った事ないんだけど」
祭りが終わり、野音でもヤマト達が資材の撤収をしている所に太一とアグモンが顔を出していた。旧知の相手と会いに行くのに邪魔をしたくはないし、そこまでする関係性がある訳ではないと海莉は先に帰っていた。
「そうか。こっちも久しぶりのライブを楽しめたしな。なぁ、ガブモン」
「ああ、そうだね。歌は緊張したけど」
そうライブの感想を述べるガブモンにアグモンは小首を傾げる。
「そうなの?僕にはそうは見えなかったけど」
「アグモンはただ見てただけだからだろ」
口を尖らせるガブモンにヤマトは笑いを溢す。
「ははっ、そうだよな。見てるのとやってるのじゃ全然違ってくるしな」
「でも、うまくいって良かったよ。最後の演出も天候次第じゃ出来なかったしな」
今回のライブにおいて集客以外に懸念していた事もうまくいって良かったと太一も安堵していた。
「天候って言っても快晴じゃなければいいだけだし、出来ないなら出来ないでそのまま終わらせる予定だったしな。って言うか、それについて言いたい事があるぞ」
「ん?急ごしらえの企画としては悪くないだろ」
「企画としてはな。でも、その話を持ってきたお前が突然会社辞めるってのはどうなんだよ」
「あ~、それは心から悪いって思ってるよ。ちゃんと伝えるべきだったんだどこっちも急すぎてな。すっかり忘れてた」
「ったく、忘れてたじゃないだろ。まぁ、後を引き継いだ子がしっかりした子だったから何も問題はなかったけど」
「まぁ、本来はあいつに任された仕事で俺はサポートって役割だったからな」
太一の説明に今度はガブモンが疑問符を浮かべる。
「えっ?あの子って太一よりも年下に見えたけど、それなのに太一がサポートなの?」
「俺が教育役をしてたからな。それで初めて任された仕事のサポートしてたんだよ」
「それなら猶更途中で投げ出すなよ」
「言われなくても分かってるよ。それで悩んでたのをこっちは大丈夫だからってそいつが背中を押してくれたんだよ。いや、蹴り飛ばされたって方があってるかもしれないけど」
太一は容赦なかった海莉の言葉を思い出して苦笑してしまう。
「で、その子は一緒じゃないのか?」
「さっきまでいたけど、それがどうかしたのか?」
「いや、ただの後輩って感じでもなさそうだったからな」
「お前、変な誤解してないだろうな。さっきまでいたって言ってもあいつもイベントがうまくいくかを見に来て偶々会ったってだけだぞ」
「ふっ、そういう事にしておくか」
「だから変な誤解してんじゃねぇっての」
ヤマトの誤解とも言えなくない勘違いを払拭しきれないまま別の話題に変えられる。
「それにしてもお前が教官か。うまくやってるのか?」
「ああ、その話か。出来る限りは、って感じかな」
「そうか、でもサラリーマンやってるってのよりはしっくりくるか」
「うん、僕もそう思う。さっきだって子供達の事、色々話し合ってたしね」
会社に勤めていた時は仕事の事でアグモンと話し合う事はなかった。アグモンが必要な時もしてもらう事を一方的に伝えていただけ。やっとパートナーとしての実感を持って出来る仕事に就けるまで長い時間がかかってしまった。
「そう言うのは自分で言うもんじゃないだろ。でもまぁ、ヤマトよりは向いてるのは確かかもな。お前なんて弟一人相手に右往左往して挙句の果てに俺達に戦いを挑んでくる始末だったし。それに比べれば・・・」
「あ・・・、太一それは・・・」
ちょっと人生の寄り道をしてしまった事を言われるむず痒さを誤魔化すように茶化す太一だったが、それはまずいとガブモンが口元を覆う。
もう昔の事でお互い茶化し合ってもそこまで気にする事でもなかった筈なのだが、ヤマトの表情は暗く沈んでいく。
「ど、どうしたんだ?」
ヤマトの予想外の反応に太一がガブモンに耳打ちする。
「それが実はタケルの事なんだけど、その、ここの祭りでデジモンバトルがやってるって聞いてちょっと見に行ったんだけど、そこでタケルが司会をしてたんだよ」
「司会か・・・少し以外だけどそれだけか?」
「司会をしてたのはいいんだけど、その、恰好がちょっと変わってたと言うか、派手すぎるというか・・・」
「一体どんな格好してたんだよ」
「こう仮面付けてなんか天使みたいな衣装で・・・」
「あ~・・・それは・・・」
ヤマトの弟でしっかり者のタケルがそんな格好で人前に出ているのを想像して掛ける言葉を失ってしまう。
「ライブに出るまで俺が何とか励ましたし、ライブの間にすっかり忘れてたみたいなんだけど・・・」
「俺が余計な事を言って思い出しちまったと」
「・・・次ぎ会う時どんな顔して会えばいいんだ・・・」
些細な事だが、ヤマトには相当衝撃的だったのか深く肩を落とすヤマトを前に太一は自分の不手際の後始末をしようと試みる。
「そんなに気にすんなよ。タケルだってもう子供じゃないんだからいつまでも生き方に口挟む訳にもいかないだろ」
「分かってる・・・分かってるさ・・・・分かってるんだけど・・・」
これはかなりの重傷の様だ。それでも何とか立ち直らせようとするが、それは太一のスマホにかかってきた着信音によってそれ処ではなくなってしまう。
「・・・何だ?こんな時に」
スマホを取り出して確認するとその着信相手は光子郎だった。
「誰から?」
「光子郎からなんだけど、こんな時間にどうしたんだ」
画面を覗き込んできたアグモンに答えながら太一は着信を取る。
「光子郎か?どうしたんだ。こんな時間に」
太一の問いに返ってきた光子郎の声は張りつめていて、その理由も直ぐに判明する。
「実は帰ってくる調査隊の為に開いたゲートから正体不明のデジモンが現れてしまって。何とか取り押さえようとしたんですがその力が想像以上で・・・」
「逃がしたのか?テントモンはいなかったのか?」
「それがテントモンもやられてしまったんです。ヘラクルカブテリモンに進化させても歯が立たなくて・・・」
究極体のヘラクルカブテリモンに進化しても歯が立たない。そんな相手となればその強さは尋常ではない。それだけの力を持ったデジモンが街へと出てしまったとなれば間違いなく緊急事態だ。
「テントモンは無事か?」
「ええ、何とか。研究所の復旧作業に就いてもらってます。そのデジモンの行方を今追っているので太一さんにも対処に当たって欲しいのですが」
「ああ、分かった」
「それではよろしくお願いします。発見報告が上がり次第連絡します」
「どうした?」
通話を切った太一にヤマトが話しかけてくる。会話の内容から緊急事態を悟ったヤマトも数々の困難を乗り越えてきた。弟の事で悩む事を脇に置いておくぐらいの判断は出来る。
「ああ、それが・・・」
太一が聞いた話を聞き、ヤマトも事態を把握する。
「そうか、それなら俺達も力を貸そう。それだけ力のある相手なら俺達の力も必要になるかもしれないしな」
「でも、いいのか?まだ片付けがあるんじゃないのか?」
「そうも言ってられない状況だろ。メンバーにはこっちから話しておくさ」
「すまない、頼む。油断の出来ない相手みたいだからな」
久しぶりの戦闘。しかも力を合わせる必要のある相手に必然的に緊張感が高まる。それはアグモンとガブモンも変わらない。
「だったら久しぶりにあれをやる事になるんだね」
「その必要がないままの方が良かったけどね」
再び現れた未知の脅威に対して覚悟を決めた矢先、再び太一のスマホから着信音が流れる。
「光子郎か?もう場所が・・・」
光子郎からの連絡だと思って着信を取った太一だが掛けてきた相手は違った。
「・・・叔母さん?どうしたんですか、珍しいですね」
連絡をしてきたのは太一の叔母だったが、それはまた別の問題を持ってくる物だった。
「・・・亮(たすく)が?・・・心配しすぎじゃないですか?・・・そうですか。分かりました。こっちも見かけたら連絡します」
ただの日常会話とも思えない様子に通話を終えた太一にアグモンが話の内容を尋ねる。
「亮がどうかしたの?」
「ああ、亮もこの祭りに来てたらしいんだけど、まだ帰ってきてないって心配してたんだよ」
「亮?」
聞きなれない名前にヤマトが聞き返す。
「亮ってのは俺の従弟なんだよ」
「従弟って、それで何でお前に連絡してきたんだ?」
「昔色々あって、今はもう大丈夫なんだけどそれに俺が関わっててな」
「お前に連絡してきた理由は分かったけど、その従弟ってそんなに気に掛ける年なのか?」
「確か、今は小6だった筈だけど」
「それで帰るのが多少遅くなったからって心配しすぎじゃないのか?」
「そうなんだけど、携帯にかけても繋がらなかったらしくてさ」
「バッテリーが切れてただけじゃないのか」
「それなら直ぐに帰るだろうからいいんだけど」
「・・・タイミングが気になるか」
「偶々ならいいんだけどな」
正体不明のデジモンが街に現れたと時を同じくして亮の行方が分からなくなった。ただの偶然ならいいが、もし巻き込まれてしまっていたら・・・。
「どちらにしてもそのデジモンを探しに行く方が先決だろうな」
「そうだな。巻き込まれてなければそのまま帰ってるだろうし、巻き込まれてたら助ける必要があるしな」
「それじゃ手分けして探そう。そっちが見つけるか光子郎から連絡が来たら俺に連絡してくれ。俺が見つけたらそっちに連絡をする」
「ああ、分かった」
そうして非常事態を収束させる為に凡そ十年ぶりとなる戦いの場へと赴く事になってしまうのだった。そしてそれがこの先に待ち受ける騒動の始まりでもあった。
「あいつか!光子郎の言っていた奴は!」
「そうみたいだね、ヤマト」
光子郎からの発見報告を太一から聞いてきたヤマトが先に現場に駆け付け、僅かに遅れて太一も駆け付ける。
「亮も一緒か。まさかとは思ったけど的中するなんてな」
「しかも、あまり穏やかとも言えそうにないようだ」
超金属、クロンデジゾイドの鎧を纏った竜戦士、アグモンが進化したウォーグレイモンは太一を抱えながら夜空を飛翔して現れる。
二人の視線の先にいたのはどことなく太一を落ち着かせたような少年とその傍らには全身をローブで包んだデジモン。
そしてその二人を見据える全身を黄金に縁どられた漆黒の鎧で覆い、青いマントをはためかせる騎士のデジモン。十中八九この騎士の方が光子郎の言っていたデジモンだろう。
そしてその漆黒の騎士は太一達の存在に気付き、視線を向けてくる。
「ウォーグレイモンとメタルガルルモンか・・・」
単に相手を認識しただけではない様な深い声色で自分の前に現れた二体のデジモンの名を呟くが、その視線から発せられる気迫の前に太一達にはそれに気を回す余裕はなかった。
「ただもんじゃないってのは間違いないらしいな」
「最初から全力で行くしかないって事か」
覚悟は決めていたとはいえ、それを実行する為の最後の確認を終え、互いに目配せする。
「久しぶりだな。行くぞ!ウォーグレイモン!」
「本当にこの力が必要になるなんてな。頼んだぞ!メタルガルルモン!」
「「ジョグレス進化!!」」
二人が同時に掲げたデジヴァイスが一際強く輝きだす。そしてその光に導かれ、ウォーグレイモンとメタルガルルモンは融合し、二つの力を合わせた新たなるデジモン。純白の鎧とマントに身を包み、ウォーグレイモンの形をした左腕とメタルガルルモンの形をした右腕を持つ聖騎士、オメガモンへと進化する。
白と黒、相対する二体のデジモンが視線を交錯させる。緊迫した空気の中、先に口を開いたのは漆黒の騎士だった。
「・・・まさかまたこうしてオメガモンに会えるとはな」
漆黒の騎士が呟いた意味深な言葉にオメガモンは怪訝な表情を浮かべる。
「私を知っているのか?」
そうにしか聞こえない呟きだったが、オメガモンにはこの漆黒の騎士と出会った事はない。だが、それも当然だった。
「ああ、よく知っているさ。但し俺のいた世界のオメガモンだがな!」
それ以上、何も語る気はないと漆黒の騎士は両腕で展開させた魔法陣から無数の光弾を放つ。
対して、オメガモンは振り抜いた左腕のグレイソードで迫る光弾を次々に切り捨てる。そして全ての光弾を切り捨てるとそのまま流れるように構えた右腕のガルルキャノンから絶対零度の冷気弾放ち、反撃を繰り出す。
それを漆黒の騎士は攻撃の為に展開していた魔法陣を防御用の魔法陣へと変え、正面に出現させた障壁で防ぐ。その攻防を切っ掛けに両者の激しい戦いの幕が切って落とされる。
最初の攻防の後、漆黒の騎士が再度魔法陣から光弾を放ち、オメガモンがグレイソードを切り払う。同じ流れ、だが同じ展開にはならなかった。
光弾の光にその身を隠して接近していた漆黒の騎士はグレイソードを振り抜いた瞬間の僅かな隙をついてオメガモンの懐に入り込み、拳を繰り出す。
済んでの所で右腕を構えて防ぐも漆黒の騎士は立て続けに拳を繰り出し続ける。
防御に徹するオメガモンだったが、ついに漆黒の騎士の拳がオメガモンの体を捉える。けれどそれは漆黒の騎士の攻撃がオメガモンの防御を上回ったからではない。オメガモン自身が防御を緩めたからだった。
そしてオメガモンは漆黒の騎士の拳を受ける代わりにカウンターを仕掛ける。左腕を繰り出すと共に収納されていたグレイソードの刀身を伸ばし、漆黒の騎士を狙う。
だが、その狙いを察知した漆黒の騎士は飛びのくように後方へと下がり、オメガモンのカウンターを避ける。と、同時に展開した魔法陣から光弾を放つ。
漆黒の騎士は回避行動中にも攻撃の手を休めはしない。だが、それはオメガモンも同じ。
避けられたと理解するや否やオメガモンはガルルキャノンを構えて冷気弾を放つ。
光弾と冷気弾が擦れ違い、同時に両者に迫る攻撃に対して、オメガモンはグレイソードで切り払うが、漆黒の騎士は最初に交錯した時よりも互いの距離が近い上が故に防御の魔法陣への切り替えが間に合わないと判断し、体を捻って冷気弾を擦れ擦れで直撃は避けるも冷気までは完全に避けきれず僅かに体の表面を凍結させてしまう。
実力はほぼ互角。けれど、戦闘が激しさを増す影響を考えなければならなかった。
「オメガモン!なるべく町に被害を出さないように気を付けるんだ!」
「ああ!分かっている!」
戦闘の舞台は東京上空。もし流れ弾が街へ向かえば大きな被害をもたらしてしまう。そうならないよう気をつけなければならない分、オメガモンが圧倒的に不利になる。・・・筈だった。
「・・・太一、気づいてるか?」
「オメガモンだけじゃなく、あいつも街に被害を出さないようにしている事か?」
状況を考慮すればオメガモンが不利である事は明らか。そして両者の力は互角。にも拘らず戦況が膠着しているのは向こうも街に被害が出ないように気を付けているからだ。放った光弾の全てが例えオメガモンが避けたとしても決して街へと向かう軌道をとってはいない事もそれを証明している。
「案外、悪い奴って訳でもないのか?」
「・・・どうだろうな。何か狙いがあるのかもしれないし」
「それも有りうるか。それに例え悪い奴じゃないとしてもこっちの話を聞いてくれそうになさそうだしな」
「話をするにしてもまずは倒すしかないって事か」
行動もそうだが、やはり二人には今戦っている相手がどうしても悪には見えなかった。漆黒の騎士はオメガモンと正反対でありながらどことなく似ているように感じていたのだから。それでも話し合いが出来ない以上、戦うしかない。
実力は互いに匹敵し合い、万全の状態で戦えない状況も同じ。この勝負は長く続く。誰もがそう思っていた。
だが、たった一人だけ違っていた。そして戦いの幕引きも唐突に訪れる。
「ふっ・・・・ふっふっふっふっ・・・」
不意に笑いだした漆黒の騎士を前に緊迫感を維持したまま戦いの手が止まる。
その不可解な様子に怪訝な表情を返すオメガモンを漆黒の騎士が鋭く見据える。
「成程・・・、流石はオメガモンと言った所か。いや、俺の知るオメガモンよりも僅かに上回っているかもしれないな。・・・人との絆がその源になっていると言う事なのだろう」
戦いの中で楽しむかのような感情を吐露する漆黒の騎士だったが、突然その声音から感情を消し去る。
「だが、所詮はその程度だ」
そう言い終わるや否や漆黒の騎士の姿が揺らめく、そう認識した瞬間にオメガモンの腹部を激しい衝撃が貫く。
「・・・ガッ・・・ハッ・・・・!」
その衝撃に襲われたと同時に漆黒の騎士が目の前に現れ、そしてその拳がオメガモンの腹部に叩きつけられていた。
認識すら出来ない理解不能な一撃。だが、これは一撃だけでは終わらない。突然目の前に現れたかと思えばその瞬間に姿が掻き消え、そして今度は背後から激しい一撃を叩きこまれる。
漆黒の騎士の一方的な攻撃。それは一瞬ごとに次々とオメガモンの体に叩きこまれ、そして最初の一撃から一秒と立たない内に、その無数の攻撃の前にオメガモンは力なく地面向けて墜落を始める。
「な・・・」
何が起きたのか、理解も認識もする間も与えられなかった光景を前に太一もヤマトも言葉を失ってしまう。
沈黙の中、オメガモンが地面へと叩きつけられる音を一瞥しながら漆黒の騎士が静かに告げる。
「お前が俺に勝てる訳がない。何故ならお前の、お前達の抑止力になる事こそが俺の本来の役割だったんだからな」
静かに、けれどその奥底に悲痛な叫びを秘めたような言葉と共に戦いの決着がつけられた。
だが、まだ終わりではない。
邪魔者を倒した漆黒の騎士が自身の目的を果たそうと亮達の方へと視線を向ける。その瞬間、漆黒の騎士の目が見開かれる。
その視線の先では突如開いたデジタルワールドへと続くデジタルゲートを亮と共にいたデジモンが超えようとしていた。
「逃がすか!」
その先へ向け全力で飛翔するが間に合わない。漆黒の騎士がそう判断するとすぐさま展開させた魔法陣が漆黒の騎士の全身を包もうとする。
だがそれは漆黒の騎士目掛けて迫ってきた冷気弾によって止められてしまう。
戦いの決着がついても全てが終わっていなかったのはオメガモンも同じだった。
満身創痍になりながらも残った力を振り絞って打ち出した最後の一撃は漆黒の騎士の行動を阻み、そしてデジタルゲートは亮達を飲み込み、その口を閉じた。
「・・・チッ」
最後の最後で目的を阻まれ、忌々し気に背後へと振り向いた漆黒の騎士の眼前で力の全てを使い果たしたオメガモンはアグモンとガブモンへと別れる。
そしてその現場へ援軍として調査隊を引き連れた光子郎がやってきていた
次回予告
太一達の前に突然現れたアルファモン。そしてデジタルワールドへと消えていった亮。
けれど、太一は助けに行く手段はなく、まだ訓練を始めたばかりの子供達を代わりに行かせるしか方法はなかった。
大人となったが故の無力感に苛まれる太一だったが、その一方でこの事態の裏で暗躍している者の存在があった。
次回、「もう、子供じゃない・・・」
移りゆく時代の中で何を見出すのだろうか・・・。