二次創作/デジモンアドベンチャー03 変わりゆく時代の中で 作:島鳥 烏
新作ゲームが色々と出る年末年始。投稿が遅れる可能性が高かったですが、そこまで送れずに投稿できました。
今回の話は基本会話回になるので地味目な話になりますが、繋ぎとして必要なのを部分を詰め込んだ話になっています。
では第三話。よろしくお願いします。
「どうした!もう諦めるのか!そんな様でデジタルワールドでやっていけると思ってるのか!」
そう檄を飛ばす太一に対して、太一の教え子達は苦しそうに表情を歪ませる。太一が示す試練と言う大きな壁を子供達は目の当たりにしていたからだ。
「くそ・・・!何であんなに強えんだよ」
「そんな大げさに言わなくても・・・。教官に選ばれるだけはあるってだけだろ」
雅人はアグモンが進化した成長期のデジモン。頭部を甲虫のような殻に覆われた恐竜型のグレイモンの強さを前に苦渋を噛み締める。強がってはいるが、佑真もそれは同じ。
ドスモンは全身を発達させ、鋼の腕を持つドゴスモンへ。
ショットモンはヘルメットがぴったりと嵌るまでに成長した細身で身軽さを感じさせる細身の体で武器をアサルトライフルへと持ち替えたアサルトリザモンへと。
グレイモンと同じく成長期へと進化させているにも関わらず、たった一体を相手に複数で挑んでも太刀打ち出来きず、その実力の差をまざまざと見せつけられていた。
「弱音吐いてるなんて随分余裕あるじゃない。ならまだまだいけるわよね」
「ああ、その通りだ。天命女媧(てんめいじょか)」
人間の上半身と蛇の下半身を持ち、雌雄一対の蛇を体に巻き付ける獣人型デジモン。アスクモンから進化したナーガモンが呼び出した絡み合う雌雄の蛇。その片方の癒しの力を持つ雌蛇が傷ついたドゴスモンとアサルトリザモンの体を癒す。
「・・・マケタトハ・・・・イッテハイナイ」
「・・・・・・」
ドゴスモンはまだまだこんなものではないとグレイモンを見据える目から闘志は消えておらず、アサルトモンも無言ながらもそれは同じ。
こうして子供達とパートナーが共に試練に立ち向かう中で、ただ一組、風花とフワリモンだけが加われずにいた。
風花はかつてフワリモンを暴走させてしまった時の記憶。以前住んでいた所で不審者に目をつけられ、その時に風花を守ろうとフワリモンは完全体へと進化を果たした。だが、本来戦う力を持ってないフワリモンのその意思は過剰な物となり、そこに風花の抱いていた恐怖まで合わさり暴走してしまい、そしてその力で相手に重傷を負わせてしまった。
そして凄惨な凄惨な光景とそれをフワリモンにさせてしまった事が風花の心に深い傷を刻んだ。
その傷によって風花は話す事が出来なくなっていたが、そんな風花の傷を癒したのがデジタルワールドへ行ってしまった亮だった。
ただ一人、ずっとパートナーのデジモンと出会えず寂しくつらい思いをしているのに自分の事まで気にかけてくれた。その優しさに触れる内に風花にとって亮はかけがえのない人になっていった。
「・・・ふーちゃん。私も戦うよ」
「フワリモン・・・」
「だって、亮君とあの子を探したいから。ふーちゃんも同じ気持ちだよね」
「で、でも・・・」
「私が人を傷つけるのをふーちゃんがまだ怖がってるの分かってるよ。でも、怖がってるだけじゃ亮君達の所に行けないから」
「フワリモンは悪くないよ・・・。あの時だってフワリモンが私を助けてくれようとしたのは私だって分かってるから・・・」
それでもあの時の恐怖が今でも消えてはいない。握り込む拳がそれを物語っていた。
「私は信じてるよ」
「えっ・・・」
「だって、ふーちゃんには亮君と話したいからって一歩踏み出せた強さがあるから。だから亮君の所に行く為に同じ様にもう一歩踏み出せるって私はふーちゃんを信じてる。だからふーちゃんも私の事を信じて欲しい。もうあんな風にはならないって」
「フワリモン・・・」
フワリモンの普段の緩やかさとは違う強い意志の籠った言葉は風花の支えてくれる。
「・・・私も信じてるよ。だから一緒に行こう!亮君達の所へ!」
「・・・うん!」
また一歩踏み出す決心をした風花の心に応じてデジヴァイスが光を放つ。
「フワリモン進化!」
体を覆う羊毛が雨雲の様に灰色に変化し、その中からすらりと伸びる四肢と緩やかに巻いた角の生えた頭を出すクラウディモンへと進化を果たす。
四組全員が揃って自分達の前に挑む体制が整った事に太一とグレイモンは目配せをしながら笑みを浮かべる。
「・・・やっと全員揃ったな」
だが、それは子供達とそのパートナーにとって本当の試練が始まる事を意味していた。
「それじゃぁ、こっちも本気を出すぞ!」
「おう!」
「グレイモン進化!!」
そして現れたウォーグレイモンと言うあまりにも大きな壁を子供達は目の当たりにしてしまう。
「ウォーグレイモンって完全体飛ばして究極体・・・」
「成熟期のグレイモンにすら勝てる様子もなかったってのにな」
「いくら何でも大人げなくない?」
佑真、雅人、美優が揃ってその大きさにたじろいでしまうがそれも無理からぬ事。だが、それでも太一はウォーグレイモンへと進化させた事以上に容赦のない言葉を飛ばす。
「これぐらいで怖気づいてどうする!デジタルワールドに行ったら何が待っているか分からないんだぞ!例えお前達が怖気づいたって向こうは手加減なんてしないぞ!」
かつて自身もデジタルワールドへ迷い込み、数々の脅威と対峙してきたからの言葉には口先だけではない重みがあった。
それでも亮の許へ行くと決意をし、揺るぎない一歩を踏み出した風花はその重みにも折れなかった。
「・・・今、亮君がそういう目に遭ってるかもしれない。だから私は亮君の所へ行かなきゃいけないんだ。絶対に行くって決めたんだ!!」
「戦うのは苦手だけど、ふーちゃんが信じてくれるなら私は戦える!亮君の所へ連れて行ってあげるんだ!」
風花とフワリモンの意思は周りをも触発させる。
「・・・佑真」
「分かってるよ。危険なんてない状況で逃げ出すなんてダサいからな」
アサルトリザモンと佑真は言葉も少なく意思を疎通させる。
「キュウキョクタイとタタカウ。ソレモイイケイケンニナル」
「そうだな。これだけ強い奴と戦えるなんて滅多にないだろうしな」
ドゴスモンと雅人は拳を打ち鳴らしながら闘志を高める。
「ふむ。では私達はどうする?」
「当然やるに決まってるでしょ。あの子があれだけ思う相手なんてかなり興味あるしね」
ナーガモンと美優は本来の捉えどころのなさを取り戻す。
こうして子供達は葛藤と共に苦難に立ち向かう。けれど葛藤に苦しんだのは子供達だけではなかった。
時間は遡り、アルファモンの襲撃から一夜明けた翌日の早朝。研究所内の会議室に関係者が集っていた。そこに最後の一組である光子郎とテントモンがやってくる。
「お待たせしてすいません」
「いや、騒ぎを収める為だろ。それにそんな風に言われたら全部そっちに任せてた俺達の立場がなくなるしな」
アルファモンが巻き起こした騒動は都内の上空が舞台となっていた。被害は道の一部が破損されただけで殆どなかったとはいえ、大勢の人達に目撃されてしまい、その事態を収拾させる為に光子郎が陣頭指揮を執っていた。
「俺達って、僕達だって怪我人がいないかとかの確認をしてたのを忘れないで欲しいんだけど」
そう愚痴を漏らしたのは医師として様々な面で研究所の一員として協力している丈。
「そうそう、おいら達だって何もしてなかった訳じゃないんだからな。まぁ、怪我人なんていなかったから直ぐにやる事は無くなったけど」
丈の肩越しに顔を覗かせながらフォローになっていないフォローをしたのは体温を保つ体毛で全身を覆われた海獣型デジモン、丈のパートナーのゴマモン。
かつて選ばれし子供達として旅を続けたメンバーでこの場にいるのはこの三組だけ。ヤマトとガブモンはこの場にはいない。大人になった今、ヤマト達にはヤマト達の生活がある。事情なら太一から全て聞く事が出来る以上拘束する訳にもいかない。それに必然性がなければ研究所内に部外者を無許可で入れる訳にもいかない。それもまた別々の道を進んでいるが故。
「僕としては太一さんこそ一番重要な役目を任せたつもりなんですけど」
「そうやで、光子郎はんの言う通りや。太一はんとアグモンはんにはそっちのお方のお目付け役をしてもろうてたんやからこっちも集中して出来たんやさかい」
光子郎に続いてそう話すテントモンの視線の先にはこの事態の張本人であるアルファモンが腕を組み、壁に背を預けながら沈黙を守っていた。
「・・・いや、俺達は何もしてないよ。もしこいつが何かしようとしても俺達じゃ止められないからな」
オメガモンにジョグレス進化しても勝てなかった相手にアグモンだけ太刀打ち出来る筈も無い。あれだけの戦闘を繰り広げた相手とは思えない程にアルファモンは大人しく従っていた。
自分に注がれる全員の視線にアルファモンが淡々と事務的に答える。
「あいつに逃げられた以上、争っても無意味なだけだからな」
「あいつって、亮の事か?」
アルファモンが狙っていたのは自分の従弟の亮のようだった。だが、太一にはアルファモンが亮を狙う理由が見当もつかない。
「亮・・・?ああ、あいつと一緒にいた人間の子供か」
「・・・そう言えば亮と一緒に誰かいたよね。ローブで体が見えなかったけど、多分デジモンだと思うんだけど」
アルファモンの口ぶりを元にアグモンが自分の記憶から亮と一緒にデジタルワールドに行ってしまった亮以外の何者かを思い起こす。
「・・・そう言えば。亮のパートナーデジモンか?」
「でも、亮にはパートナーがいなかった筈だよね。もしかして最近見つかったのかな?」
アグモンが話している通り、亮にはパートナーデジモンがずっと居なかった。デジヴァイスが亮の許に現れていたのにパートナーだけが現れず、。表に出してはいなかったがそれを悩みとして抱えていたのは太一もアグモンもそれとなく気付いていた。
共に行動しているとなればパートナーデジモンでついに出会う事が出来たのだろう。そこまで考えを巡らせるに至ったが、だとしても腑に落ちない。口ぶりからして亮と共にいたデジモンを狙っている事は分かるが、何故狙っていたのかに繋がらない。
その謎は続くアルファモンの話で更に深まる事になっていく。
「あの子供も自分のパートナーだと言っていたな。だが、それは有り得ない」
「有り得ないって・・・」
そう聞き返した太一にアルファモンが更に続ける。
「ああ、有り得る筈がない。何故ならあいつはデジモンなんかじゃないからな」
「デジモンじゃないって・・・。じゃぁ一体何なんだ?」
「・・・そうだな。人間に合わせて言うなら亡者と言った所か?」
「・・・亡者。バケモンとか、そういう類、と言う訳でないですよね」
幽霊の姿をしたゴースト型デジモンのバケモンがいるが、それもデジモンである事に変わりはない。亡者と言う言葉で光子郎の頭にバケモンの姿が浮かぶが、デジモンではないと言う以上はそれとも違うのだろう。
「・・・あいつの事を理解するにはまずは俺達の世界の事から始めた方がよさそうだな」
それぞれの反応を元にアルファモンはそう判断し、アルファモンが狙っていた存在について。そして自分が今ここに来るに至る経緯を一から順に語り始める。
「俺達の居た世界では秩序を守る善のデジモンと、自分の欲を満たそうとする悪のデジモンが長い間、争いを続けていた。その戦いの中で多くのデジモンが死んでゆき、そしてそのデータの残骸が寄り集まって生まれたのがあいつだ。決して存在してはならない異物。そういう意味で仮にロストモンとでも呼ぶのが相応しいのかもな」
「・・・デジモンが死ぬ?でもそれならデジタマに戻るだけじゃないのか?」
例えデジモンが死んだとしても消滅する訳ではない。息絶えたデジモンはデータとなって始まりの町へと帰る。そこでデジタマと言う卵の状態になってまた生まれ変わる事が出来る筈。
「ああ、そうだな。だがそれも、デジモンの命とも言える核、デジコアが残っていればの話だ。デジコアすら失ったデジモンはデジタマに戻る事すら出来ず、そのままデータの残骸になるだけだ」
「デジコアって確かチンロンモンが持っている玉の事じゃないのか?」
かつて進化の力を失っていた太一達の世代の選ばれし子供達はチンロンモンの持つデジコアから力を与えられ、世界の危機に挑む事が出来た。
同じ名称のデジコア。だが、太一達の知っている情報とは違っていた。その疑問にアルファモンが答える。
「同じ物だ。デジコアとは電脳核でありデジモンの命。チンロンモンは生命の力を持つデジモン。だからこそ12ものデジコアを有し、操る事が出来る。それだけだ」
「・・・光子郎、デジモンの核って本当なのか?」
かつての冒険の中でも知る事のなかった情報。その真偽を確かめるように太一は光子郎に訊ねる。
「・・・はっきりそうだとは言えません。ただ、デジモンに核となる何かが存在しているのは把握しています。恐らく間違いないかと」
太一が停滞していた間にも研究は進み、その中でデジモンの調査はそこまで辿り着いていた。だが、そこまでだ。その核の正体を知る為にデジモンを殺す等、光子郎に出来る訳がないのだから。
光子郎がアルファモンの話す内容を一部とは言え肯定する中で新たな疑問に気付いたゴマモンがそれを口に出す。
「でもさ、じゃぁ何で、ロストモン?って生きてるんだよ。そいつが残骸になったデータの集合体って言うなら核がないんだろ?」
「・・・ダークタワーデジモンみたいなやつじゃないのか?ああ、でもあれはダークタワーそのものがエネルギーを持っていたから核がなくても動いてたのかな」
ゴマモンの疑問に丈も浮かんだ事を口にするが、本人が最後に否定していたようにそれは全くの無関係。
「・・・そのダークタワーとやらは知らないが違うだろうな。何故ならあいつにもデジコアはあるからな」
そのアルファモンの返答にアルファモン以外の全員が疑問符を浮かべる。その代表として太一がそれを口に出す。
「いや、デジコアを亡くしてデータの残骸になったのが集まって生まれたって言っただろ。話が矛盾してるんじゃないのか?」
「まだ途中なんだから矛盾に決まっている。デジコアを亡くしたデータの集合体だが、それが集まるにも依り代となる物がいる。その依り代となったのが肉体のデータを破壊され、デジコアだけとなってしまったデジモンが始まりの町へと戻る前に、生きようとする残留思念に突き動かされた無数のデータの残骸が密集してその姿を形成したのがロストモンだ」
アルファモンは全員の疑問に答えた。だが、その話に似たデジモンを太一達は知っていた。
「それってキメラモンと同じじゃないのか?」
複数のデジモンデータを組み合わせて人造的に生み出された合成型デジモン、キメラモン。かつて太一のアグモンが進化した完全体のメタルグレイモンのデータを利用されて生み出されたキメラモンと対峙した過去があった。
「キメラモン・・・。ふっ、あんな物と一緒にするな。あれはそうなるように数体のデジモンのデータを組み合わされただけだろ。そんな物と比べ物にならない。あのロストモンの中には何百、何千、何万、一体どれだけのデジモンのデータが密集しているのかすら把握出来ない程に密集しているんだ」
アルファモンの言う通り、キメラモンとも比べ物にならない。そしてそんなデジモンが存在していると言う話に光子郎が愕然とする。
「・・・それで肉体が維持できるんですか?」
「・・・維持など出来る筈がない」
「・・・どういう事ですか?」
「あいつがデジモンではないと言った事がそれに繋がってくる。それだけの膨大なデータが一つに纏まれる筈がない。データの残骸になったとは言え、残留思念が宿っている。だからこそ死を拒み、生を得ようとデジコアに密集したが、そのデータ一つ一つに宿る意思は別々の物。それが一つになれる筈がない。だからこそあいつはデジモンではない。デジモンになりきれていない」
「・・・成程。だからこそ維持できる筈がないと」
「ああ、そうだ。いずれあいつはその歪みから肉体が崩壊し、デジコアは始まりの町へ、データの残骸はデジモンの墓場であるダークエリアに行く。そう俺達は考えていた。・・・だが、それは間違っていた」
そう言いながらアルファモンはギリリと心の奥底から溢れ出そうとする感情を押し殺すようにその言葉に力が籠っていく。
「あいつがデジモンへと進化した時、この世界は終わる・・・。俺達の世界がそうであったように・・・!」
悔恨や怒りと言った負の感情を噛潰しながら吐き出すアルファモンの言葉にアグモンは戦闘中の事を思い出した。
「そう言えば戦ってた時も言ってたけど、君の世界って何?」
「・・・言葉の通りだ。この世界の奴はパラレルワールドを認識できていないのか?」
「・・・並行世界ですか。概念としては存在していますが、確証を持つまでには至っていませんね。・・・ですが、どうやら実在する様ですね」
光子郎はアルファモンの話からそれが真実である事を理解する。
「ああ、そうだ。世界は幾つも存在し、全てではないが大半の世界にそれぞれに違ったデジタルワールドが存在している」
「でも、君の世界は滅びたんだろ?」
真面目過ぎる弊害。デリカシーのない丈の発言にアルファモンは苦々しく頷く。だが、それは丈に向けられたものではなく、自分自身へ向けた物だった。
「ああ、そうだ。俺達の世界にはロイヤルナイツと呼ばれる秩序を守る一三体の聖騎士型デジモンがいた。だが、その力を以てしても太刀打ちできなかった」
「・・・君もそのロイヤルナイツの一員だったの?」
「ああ、そうだ」
「・・・その中にはオメガモンもいたんだね」
「ああ」
そのアルファモンの返答でアグモンは最後に残っていた疑問が解ける。と、同時にゴマモンが驚きの声を上げる。
「え!って事はオメガモンクラスの奴が十三体もいたのに勝てなかったってのかよ!?」
「ロイヤルナイツの中でもオメガモンはリーダー的存在ではあるが、そうなるな」
「リーダー?あんたじゃなくてか?」
こっちの世界のオメガモンを圧倒するだけの力を持ちながらアルファモンではなくオメガモンがリーダーだったなんて言われても太一には納得いかなかった。
「俺はロイヤルナイツの中でも異端だからな。なんせ俺の役目はロイヤルナイツとして戦うのではなく、ロイヤルナイツと戦うのが役目だからな」
「は?何だそれ」
「完璧な存在などこの世にいない。秩序の守護者とは言え道を誤る事もあるし、意見の相違からロイヤルナイツ内で対立し、その役目を果たせなくなってしまう事もある。そうなってしまった時にロイヤルナイツとして本来のあるべき姿へと戻す。それが俺の役目だ」
「ロイヤルナイツの一員でありながら、ロイヤルナイツの抑止力、と言う事ですか」
「・・・オメガモンが手も足も出なかった理由はそれか。オメガモンたった一人に手こずるようじゃそんなたいそうな役目が果たせる訳ないからな」
アルファモンがオメガモンを圧倒するだけの力を持っていた事も理解できた。だが、同時に太一にはどうしても納得いかない部分も生じてしまう。
「でもさ、じゃぁ何でお前はここにいるんだ?それだけ圧倒的な力を持ちながら勝てないからって守るべき世界をおいて逃げ出したのか?」
太一の指摘にアルファモンの声が重くなっていく。
「・・・ああ、そうだ」
「他の奴等はどうした?こっちに来てるのか?」
「・・・いや、俺だけだ」
「なら、お前は仲間さえも見捨てて自分一人だけで逃げ出したって言うのか?」
「・・・ああ、それが仲間達の意思だったからな」
「仲間の意思?見捨てていかれるのかが?」
「・・・俺だって最後のその時まで共に戦い抜きたかった。だが、仲間達はそれを望まなかった。俺がいたとしても勝ち目はない。世界が滅びる事は免れなかった。だからこそ、仲間達は最後に望んだんだ。例え自分達が滅んだとしても、他の世界が同じ道を歩まぬ事を。だからこそ、俺はなんとしてでもあいつを消さなければならない。あいつがデジモンへと進化してしまう前に、手遅れにならない今の内に・・・!・・・そうでなければあいつらの死が全て無駄になってしまう・・・」
今にも泣きだしてしまいそうになってしまう程の嘆きを、悲しみを、胸の内に宿しながらもその意思を継ぎ、仲間の死を背負ってアルファモンはこの世界に来ていた。決して見捨てて逃げ出したのではない。
「・・・悪かった。知りもしないで勝手な事を言って」
「そう思われても仕方ないからな」
奥底に宿る感情を今一度押し込めるようにアルファモンは単調に返す。
そのまま誰かが何かを言い出す事もなく、沈黙が場を支配する。
アルファモンの重荷が伝染したかのように重苦しい空気になってしまったのを払拭しようとテントモンが務めて明るい口調で話題を変えようとする。
「ま、まぁ、あんさんの事情も分かった事やし、これ以上特に聞く事もあらへんやろ。それよりもこれから先をどうするかを考えんとあかんのやないやろか」
「ああ、その通りだ」
テントモンの言葉に続いたのは光子郎でも太一でも、ましてや丈でもない。会議室に新たに現れた人物だった。
「子供が一人、デジタルワールドへ行ってしまったと聞いているが、捜索隊はどうなっている?もう編成は済んでいるのか?」
「い、いえ、それはこれから・・・」
「全く・・・。何を話していたが知らないが、悠長にしている暇はないだろ。もし万が一の事があったらどうするつもりだ」
余計な事を全て削ぎ落したかの様な怜悧なその視線に光子郎はたじろいでしまう。
そんな突然の乱入者の事を聞こうと太一は丈に耳打ちする。
「あの人って誰なんだ?」
「電脳省の大臣だけど、知らないのか?」
「ああ、なんか見覚えがあると思ったけど大臣か」
「結構ニュースにも出てるんだけどね」
「そんな頻繁には見ないからな。でも大臣にしては若いな。30後半ぐらいか」
「電脳省は出来たばかりで人がいないし、デジモンが関わってくるのは主に若い世代だから出来るだけ年代が近い方がいいって事で抜擢されたらしいよ」
「ふ~ん」
電脳大臣、荒木 真司(あらき しんじ)。若さを買われて抜擢されたと言ってそれだけではない。やり手としての片鱗は光子郎を叱責しながらも感情を抑え、理路整然とする事を忘れないでいる所からも見て取れる。
「君がどれだけ貢献しているかも分かっているし、誰よりも熱意を持っているのも知っている。だったら猶更今回の件を深刻に捉えてくれ」
子供がデジタルワールドへ迷い込んでしまうと言う非常事態。荒木の様子も当然だろう。けど、デジタルワールドを知る太一に焦りはなかった。
「まぁまぁ、言いたい事は分かりますけど焦っても何も変わらないんじゃないですか?それにデジタルワールドってそこまで危険な所って訳でもないですしね。話の分かる気のいい奴等だって大勢いますから。ダークマスターズとかヴァンデモンとかみたいな危険な奴等だってもういませんし」
横から収めに来た太一の言葉に荒木は一瞬だけ眉を顰める。
危険な存在は過去に倒した。それが非常事態でも焦りを持っていない事の根拠だが、それは間違っていた。太一の知るデジタルワールドの情報は昔の物でしかなかったのだったから。
そしてその事を丈の話で知る事となる。
「あ~、それなんだけど、実はちょっと問題が起こってて」
「・・・問題ってなんだよ」
「今、デジタルワールドでD❘ブリガードって言う奴等がデジタルワールドの各地に現れて侵略行為をしてるんだよ」
「は?そんなの聞いてないぞ!?」
今まで知らされてなかった事態に動揺を見せる太一への説明を丈から光子郎が引き継いで続ける。
「子供達の訓練に専念してほしかったから言わなかったんです。太一さんの事です。伝えたらきっと自分達も行くと言い出すでしょう?それに侵略と言って散発的でデジタルワールドに住むデジモン達や調査隊だけで対処出来ている程度でしたから」
「だとしてもそんな状況の所に行ってるんだろ!もしそんなのと遭遇したらどうする!」
「ええ、分かっています。直ぐにでも捜索隊を結成するべきなのも。ですがそれは意味がありません」
「意味がない?どういう事だ?」
その言葉に太一よりも先に叱責していた荒木が反応する。
「ゲートキーパーが破損してしまってゲートを開けないんです。ですから捜索隊を結成した所で送る事が出来ませんから」
ゲートキーパー。それはデジタルワールドへ行く為のゲートを管理する装置。
ブラックウォーグレイモンが自らの命と引き換えに施した封印。それは光ヶ丘に開いたゲートを閉じた物だったが、光子郎は歳月をかけてその封印を解析し、そしてそれを全世界へと広げていた。それは人間がデジタルワールドに、デジモンが人間界に迷い込まないようにする為。そして世界中の様々な組織によるデジモンの悪用を防ぐ為でもあった。
デジモンと言う存在は使い方次第では簡単に世界の軍事バランスを破壊できる危険性を持っていた。だからこそ各国が牽制し合う事となる。
そして世界がデジモンを巡って争わぬようにゲートキーパーが作られ、デジモン研究の一人者である光子郎の存在。そして何より他国への侵略を可能とする軍隊を持たない日本ならばと管理する権限が与えられるに至った。ただ、条件として研究の成果は全て公表されると共に、世界中の研究者がこのデジモンセンターに集う事になってもいるが。
だが、そのゲートキーパーが今は使用できない。
「破損ってまさか」
「ええ、どうやら彼が暴れた時に。転送装置だけではなくゲートキーパーにまでかなりの負荷が掛かってしまったようです」
アルファモンがゲートから現れた時の抵抗によって出た被害の中にゲートキーパーも含まれていた。
「なんて事だ・・・。何か方法はないのか?」
「・・・一つだけ方法があります」
「・・・それは何だ」
「その方法と言うのが、かつてゲートが開いた事のある場所。ゲートが繋がりやすい特異点でゲートを無理やりこじ開けると言うものです」
「出来るのか?」
「一応、ゲートキーパーの能力を測る実験の中で確認出来ています」
「だが、直ぐに実行に移さない所を見ると問題があるのか」
「そうです。ゲートが開けはするものの安定しなくて。大人が通れるだけのゲートが開けないんです。・・・ただ、子供ならどうにか通る事は可能ですが」
その言葉に太一が反応する。
「子供って・・・」
「ええ、今の状況で捜索隊として向かわせる事が出来るのはあの子達しかいませんね」
あの子達。それは太一が指導している次世代の選ばれし子供達。だが、訓練を開始して月日は殆ど立っていない。十分だと言えるような練度には全くと言っていい程、達していない。
「いくら何でもそれは無理だ!まだあいつ等にそんなの任せられる訳ないだろ!」
「僕もそう思います。子供達を送るよりもゲートキーパーの復旧を待った方がいい。二次遭難になってしまったら目も当てられませんしね」
「・・・クソ!結局何もできないのか・・・!」
「・・・子供達か」
そう呟いた荒木にテントモンがそう言えばと次世代の子供達、その計画の事を口にする。
「確か次の選ばれし子供達の計画を考えたんは荒木はんでしたな。流石にこんな早うもしもの時が来るなんて思いもしませんでしたやろうけど」
「・・・ああ、そうだな。・・・だが、子供達に任せる事が出来ないのなら意味がない」
荒木の考えがまた違った形でその必要性を示していた。にも拘らず荒木の反応は単調でそれに何を感じているのかが読めない。それも大臣と言う立場に立つが故に自己を出さないようにしているからなのか。
「・・・そう言えばデジタルワールドへの遭難者が出た時にデジヴァイスの反応を探して場所を特定すると言うのがあったな。あれは使えないのか?」
「それは既にやってます。ただ、実際に使う事のなかったものですから調整が必要で少し手間が掛かっているんです」
「そうか」
実現しなかった物まで持ちだして対処しようとしている光子郎の姿勢を知り、荒木はそれ以上何かを言う事はなかった。そして荒木は腕時計を見て時刻を確認する。
「・・・そろそろ時間か。私はもう行かなければならない。進展があり次第報告を上げてくれ。・・・それとすまなかったな。君もあらゆる手を講じているにも関わらず怒鳴ってしまって」
「いえ、こんな事になってしまうのも初めての事ですからね。それに責任のある立場だからだと言うのも承知していますから気にしないでください」
光子郎のその言葉を聞きながら荒木は会議室から去っていった。
「何だよ。いきなり来たかと思えば直ぐにいなくなるなんてさ。偉そうにするぐらいならなんか一つぐらいいい案だしてけっての」
最後まで一方的なままにいなくなった荒木にゴマモンが不満を漏らす。それを丈がなだめる。
「まぁまぁ、多分これから会見を開かなくちゃならないんだろうし、ここに来たのだって少しでも正確な情報を得る為だろうしさ。それに僕達の分まで非難を浴びる事だってあるんだろうし」
「なんか人間ってめんどくさいよな」
「時々はね」
そんな風に荒木が慌ただしく去っていく一方で太一は何も出来ないのかと悔しさを噛み締めていた。
「あ、あの、亮君がデジタルワールドに行ってしまったんですよね?」
亮の捜索に行けなくとも教官としての役目を果たさなければならない。訓練の時間になり、子供達が集まる中で風花がそう切り出してきた。
「亮の事を知ってるのか?」
「は、は、い、同じ学校でクラスも同じなんです。それでいつも話しかけてくれてて・・・」
「そうだったのか・・・」
亮のクラスメイトである風花は朝に流れるニュースでその事を知り、それを確かめる為に切り出したのだろう。
もう既に明らかにされている事、隠す必要はないと亮はそれを認める。
「間違いなく亮はデジタルワールドに行ってしまった。・・・俺もその場にいたからな」
その場にいた。それは太一でも止められなかったと言う事を意味している。それは風花も察したが、それを敢えて問いただすような事はしない。風花が聞きたいのはたった一つ。
「亮君は無事なんですか?」
「・・・それはまだ分からない」
「そんな・・・」
不安が払拭される事のない風花を後目に佑真が更に踏み込んだ事を聞いてくる。
「捜索隊は出してるんじゃないですか?」
「それだが、ゲートが開け無くなっててな。送りたくても送れないんだよ」
「・・・それは一大事ですね」
単にデジタルワールドに迷い込んだ者がいると言うだけでは済まない事態になっている事を佑真を始めとした他の子供達も知る中で風花の不安だけが募っていく。
「亮君を助けに行く方法は何かないんですか?」
「言っただろ。ゲートが開けないんじゃどうしようもない」
「で、でも、それじゃ亮君が・・・」
誰よりも亮を心配する風花の思いにアグモンが触発され、光子郎との話の中で出てきた事を口走る。
「・・・大人は行けないけど子供なら行けるって言ってたよね」
「アグモン・・・」
余計な事を言わなくていいと言外に告げる太一だったがもう遅い。
「それなら私なら行けるって事ですよね・・・。お願いします!亮君を探しに行かせてください!」
「それは認められない。お前達はまだ十分な訓練を積んでいない。それなのに行かせられる訳ないだろ」
「それは・・・でも・・・」
太一の判断は最もで風花も納得いかなくとも言い返す事が出来ない。
だが、そんな風花をフォローしてくれる子がいた。
「けど、私達ってこう言う時も念頭に置いて集められたんじゃないんですか?確かに言う程訓練なんてやれてませんけど、そんな事言うんならいつならいいんですか?ってなるんじゃないんですか?」
「それは・・・そうだろうが・・・」
美優の指摘に太一は言い淀んでしまう。
痛烈な援護をした美優は風花にウィンクを送る。どうやらその様子からデジタルワールドへ行ってしまったのは風花が好きな相手だと察したようだ。
「正直俺も行けるなら行かせて欲しいっすけどね。訓練って言っても大した事しないし。それならデジタルワールドに行った方が経験を積めるってもんですよ」
色恋など無縁の雅人はそれに全く気付いていない中での純粋に自分が思っている事を言っただけだが、結果的に美優に続く形となっていた。だが、その軽く感じる言い方に太一の琴線に触れてしまう。
「そんな軽はずみな考えが通用するようなデジタルワールドは甘い所じゃない」
「そんなのここに来る前から覚悟できてますよ」
雅人の言い方は軽いが、その鋭い目つきは決して軽い考えで行動しているような奴には決して宿る事はない。雅人の覚悟の程はその眼が伝えてくる。
そして風花もまた亮への思いが失われてはいない。
「甘い場所じゃないなら猶更亮君を助けに行かないといけないじゃないですか・・・!」
子供達の心は変わらない。どこまでも真っ直ぐで昔の自分と仲間達を思い起こさせる。そしてその眼差しが今の太一にはあまりにも痛かった。
「・・・今日は自主訓練だ。俺がいたんじゃずっと押し問答が続きそうだからな」
それだけを言い残して太一は子供達の前から逃げるように訓練所から出ていってしまった。
「・・・なんであんな事を言ったんだよ」
休憩室に移動した太一はついてきたアグモンを軽く睨む。
「だって、あんなに亮の事を心配してるの見てたら黙ってるなんて出来ないよ。もし僕達が向こうの立場だったらって考えてみてよ」
「そんなの言われなくても分かってる。・・・分かっててもどうしようもない事だってあるだろ」
「太一・・・」
「俺はあいつらと一緒に行く事が出来ない。もし何かあっても守ってやる事が出来ないんだ。それなのにあいつらを送り出すなんて出来る訳ないだろ。俺はもう子供じゃない・・・。子供じゃないんだ・・・」
かつてデジタルワールドを旅していた時は全部自分達の考えで、自分達の責任で行動していた。
けど、今は違う。大人になった太一は子供達の分まで責任を負わなければいけない。もし何かあっても何もしてやれない。子供達に全部任せるなんて無責任な事を出来る筈がなかった。
あの頃のままだったらきっと後先考えずに突っ走ってただろう。だからこそ子供達の気持ちは痛い程分かる。なのに自分はそれを止めなければならない。
二律背反の板挟みによって誰よりも苦しい立場にいながらも何も出来ずに立ち止まるしか出来ない太一だったが、それはある人物によって簡単に打開される事となる。
頭を抱えたくなってくる太一の許にスマホがバイブで着信を伝えてくる。
「誰から?」
突然かかってきた電話の相手が誰なんだろうと言うアグモンの問いを聞きながら太一はスマホを取り出して着信画面を確認する。
「・・・海莉からだな」
こんな時に一体どうしたんだと思いながら太一は電話に出る。
「海莉か?どうしたんだ?」
「いえ、その、ニュースで騒ぎになってるの見まして。もしかしたら先輩も関わってるんじゃないかと思って」
「野次馬気分で掛けてきたのか?」
こんな時にと太一は言葉に険が混じる。
「先輩じゃあるまいし、そんな適当な理由でわざわざ掛けませんよ。・・・別れた直ぐ後にだったみたいなので大丈夫だったのかって少し気になってしまって」
心配してと言いつつ毒を混ぜてくる海莉に思わず苦笑してしまう太一だったが、太一自身気付かないうちに悩みに回していた思考がそこから離れていた。
「お前は俺を一体何だと思ってるんだよ。・・・まぁ、大丈夫とは言えないけど俺とアグモンは無事だよ」
「・・・本当ですか?」
「何だよ。本当ですかって」
「いえ、先輩の話し方がやけに真面目過ぎるんで」
「俺だって真面目になる時ぐらいあるっての。全くお前は・・・」
全く別の方向で頭が痛くなりそうになってくる。けれど、新しい痛みは嫌な痛みではなかった。
「全くって言いたいのはこっちの方です。何かあったんでしょうけど、あんまりヘタレてないでください。じゃないと先輩の言葉で、その、勇気みたいなものを貰えたのが何だったんだってなってしまいますから」
「・・・勇気、か」
その一言は太一にとって大きな意味を持つ。かつての選ばれし子供達の中で太一の持つ力の象徴だったのだから。だが、それを言った海莉は太一の真意を知る由もない。
「わ、私の柄じゃないってのは分かってますけどそれ以外言い表せる言葉がないんです。・・・先輩がいたから周りの事なんていちいち気にしなくていいって、そう思えるようなったんですから。先輩はもう少し周りの事を考えた方が良いかもしれませんが」
「・・・折角そんな風に思ってくれてたのかって礼でも言おうかとしたのに全部台無しじゃねぇか。・・・でも、まぁ、ありがとな」
「そ、そんな事を一々言うぐらいならさっさと元に戻ってください。そんなんじゃこっちも調子が狂うんですから」
「そうだよな。でも、どうしたらいいんだろうな・・・」
海莉の容赦ない言い方にいつの間にか気が楽になってついそんな愚痴を漏らしてしまう。だが、それに対する返答も容赦のない物だった。
「知りませんよ。そんなの」
「・・・励ましておいて知りませんか」
「ええ、知りませんよ。だって先輩の今の立場からすれば部外者の私に話せる訳ないですよね。先輩の置かれている状況が分からないのにどうこう言える訳ないじゃないですか」
「そりゃそうだろうけど・・・」
「聞く相手は別に私じゃなくてもいいんじゃないですか。こう言う時に話し合える相手が直ぐ傍にいるじゃないですか」
そう言われて太一は気付いた。自分が自分自身の中だけで抱え込んでいた事に。
大人になって社会に出てアグモンと別々に過ごす事も多くなって知らず知らずのうちに紡いでいた筈の絆が離れてしまっていたのかもしれない。
「・・・そうだったな。・・・本当にありがとな。電話してきてくれて」
「だから別にいいですって。それじゃこれから出勤しないといけないんで切りますよ」
「ああ、それじゃぁな」
通話を終えた太一は他にも着信が来ていた事に気付いて確認してみるが、それは海莉が掛けてきたものだった。やけにタイミングが良く思えるが、こうして繋がるまで何度も掛けていただけだった。
それだけ心配させていたのだと知った太一は益々ここで立ち止まる訳にはいかなくなってしまう。
「・・・なぁ、アグモン。やっぱりさ。俺はあいつらを送り出すのってあまり良いと思えないんだよ。さっきも言ったけど万が一だって起こりえる。それでも俺は助けてやれないんだから」
「・・・太一はその万が一を恐れてるんだね。それは僕だって分からなくないよ。でも、それってなんだか太一らしくないよ」
「・・・俺らしくないか」
「そうだよ。だって太一の一番の力は勇気だよね。僕だって太一の勇気のおかげで力を得られてきたんだ。それなのに万が一を怖がって何も出来なくなるなんてやっぱり太一らしくないよ」
「・・・海莉にも言われたな。俺が勇気をくれたんだ。それなのに俺がこんなんじゃそれっていったい何だったんだって」
そして太一はアグモンと海莉の言葉と共に自分を苛んでいた恐れを飲み込む。
「そうだよな。俺はもう子供じゃない。だからこそ子供の時とは違う大人としての勇気を持たなきゃいけないんだ。あいつらを信じて送り出す勇気を」
「そうだよ!それでこそ太一だよ!」
「でも、ただ送り出すだけじゃ無責任と変わらない。今のままじゃそうなっちまうだろ」
「だったら僕達で試そうよ」
「試す?」
「うん。僕達が直接試せばいいんだよ。あの時の僕達みたいに何が起こっても挫けずに立ち向かえるかをさ」
「・・・ああ、そうだな。アグモン、一緒にやってくれるか?」
「当然だよ。僕達はパートナーなんだからさ」
こうして太一もまた大人になったが故の葛藤を乗り越えてまた一つ成長していたのだった。
「でも、太一さんから子供達をデジタルワールドに行かせようと言い出されたのは驚きまいたよ」
「けど、太一はんらしい気もしますわ」
子供達の覚悟を試し、そしてデジタルワールドへと送り出した太一達はとある店に集まって昨夜から続く慌ただしさから一息ついていた。
子供達がデジタルワールドに行っている時に研究所から離れてもいいのかと思う人もいるだろうが、研究所には常に人が残るようにしており、子供達から連絡が来れば光子郎のスマホに繋がるようにしてある。それに研究所から離れなければならない理由が光子郎にはあった。
「・・・いや、驚くってんならこっちも言いたいけどな」
太一が驚いているもの。それは光子郎に連れられてきたこの店にあった。と言うのも今いる場所は名だたる高級料亭の座敷だったのだから。
「太一とアグモンに久しぶりに会えたからってこんな所に来なくても・・・」
驚いていたのは太一だけではなく丈も同じだった。だが、二人のパートナーは違った反応をしていた。
「おいらはかなり嬉しいけどな。ん~、この懐石料理って奴?超うまい」
「ん~、確かに美味しいけど量が少ないのが物足りないかな。僕は普通のお店の方がよかったかも」
その繊細な味に大満足なゴマモンと質より量のアグモン。反応は対照的ながらも共にこの場所の雰囲気などそっちのけで料理を味わっていた。
「おい、アグモン。折角、光子郎が連れてきてくれたのにそれはないだろ。気持ちは分からなくもないけど。でも光子郎も本当に大丈夫なのか?こんな所に来て」
「気にしないでください。どうせ使い道なんて殆どなくて溜まる一方ですから。それにここに連れてきたのも僕なんですから」
この場所に集まったのも光子郎からの提案で払いも光子郎が持つと言っていた。三人の中で最年少の光子郎に奢ってもらうのは気が引けるが、最年少ながらも一番の出世頭が光子郎でもある。稼ぎの良くない研究者と言えど所長をも務めているのだから給料は決して悪くはなく、その上、研究が趣味をも兼ねている光子郎はプライベートで使う事がないのだから負担とも感じてはいない。
それ以前に医師とはいえまだまだ駆け出しの上に調査隊の一員でしかない丈や教官と言えど研究所に雇われている太一にはとても手が出せる筈も無いのだから払いは光子郎が持つしかないのだが。
「それにしても凄いよな。こんな所にも来れるなんて。こう言う所って一見さんお断りとかじゃないのか?」
仕事でずっと接点を持っていた丈だからこそ普段あまり意識する事のなかった所長と言う肩書にしみじみと感慨深いものを感じてしまう。
「何度か接待を受けたり、反対に外国の要人にデジタルワールドやデジモンに関係する接待に同行する事がありましたので」
「所長様様って奴だね。でも、やっぱこう言う所は場違いな気がしてどうにも落ち着かないかな。もっと普通の飲み屋とかでも良かったんだけど」
「それは僕も同感です。何度か連れてこられたと言ってもこう言うのにはいまいち慣れなくて」
「え?ここに連れてきたのは光子郎だろ?」
わざわざ連れてきたにも拘わらず好んでいる場所ではないと言い出す光子郎に太一は思わずは眉を寄せてしまう。
「ええ、ここなら何処かで誰かに話を聞かれたりはしませんからね」
「・・・どういう事だ?」
「実は気になっている事がありまして」
「研究所で話してた時には出来ない事なのか?」
「ええ、そうです。誰が聞いてるか分かりませんから」
「・・・穏やかじゃなさそうだな」
光子郎の意味深な言い方に太一も背筋を正す。
「気になっている事と言うのもタイミングが良すぎると言う事なんです」
「タイミング?」
「はい。アルファモンが狙っていたロストモンと一緒にいた亮君の前でデジタルゲートが空いたのがあまりにもタイミングが良すぎやしませんか?まるで誰かがその二人をアルファモンから逃がそうとしたみたいに」
「・・・・・・」
光子郎の抱いた疑念に皆一様に口を噤む。もしそれが本当だったらアルファモンとは違う何者かが裏で動いている事になる。だとするならその目的はアルファモンから亮とロストモンを守ろうとした善意なのか。それともアルファモンが恐れるロストモンの力を利用しようとする悪意なのか。今はまだその判断も出来ない。
「それにゲートキーパーが破損したのも疑問が残るんです。転送装置がある転送室とゲートーキーパーの制御ルームは別に分けてあるんです。アルファモンが暴れたと言うだけでは壊れる筈はないんですよ」
「それならやっぱりゲートを無理やりこじ開けるような誰かがいるって事かよ」
かつて自らの力で自在にゲートを開き、人間界へと現れたデーモンと言うデジモンがいた。あまりにも強大な力の前に倒す事は出来ず、開いたゲートの中へ押し返す事が精いっぱいだった。封印された状態でゲートを開く事がデーモンに出来るかどうかは分からない。だが、もしそんな事が出来る者がいるのであればそれはデーモンと同じがそれ以上の力を持っている相手であると言う事を意味している。
だが、まだそうであると決まった訳ではない。
「その可能性もありますが、研究所の中にいる誰かがアルファモンが現れたタイミングを見計らってゲートを開き、そしてアルファモンがデジタルワールドへ行けないようにゲートキーパーを破損させた。と、考える事も可能です」
「でも、それだとアルファモンが来る事を予め知ってる誰かがアルファモンより先に来て研究所に入り込んだって事になるんじゃないのか?いくら何でもそれは無理があるんじゃないか?」
荒唐無稽とも取れる光子郎の考えに丈は苦笑を浮かべる。
「ですが、それを言うならデーモン以上の力を持った何者かがいると言うのも信じがたいではないですか」
「それはそうだけど・・・」
「・・・どちらにしろ信じがたいのには変わりないか。それならただの偶然でしかないっての不思議じゃなくなるか」
そんな状況の中に子供を送り込んだ太一だが、今朝の様に動じたりはしなかった。どんな苦境にも立ち向かえる強さを子供達が持っている事を太一は知っているから。
「そうですね。出来る事ならそうであって欲しい所ですが」
「どのみち、今は俺達に出来る事をするしかないだろ。ま、出来る事って言ってもかなり限られてくるだろうけどな」
「・・・でしたら太一さんにはあれに対応してもらいましょうか」
「あれ?」
「はい、子供達とは関係ないのですか、実は警視庁から捜査協力の依頼が来てまして」
「警視庁から?」
「何でもデジモンを使ったと思わしき不可解な事件が多発するようになっているらしく、その操作に協力してほしいそうです」
「このタイミングで事件が起こってるか・・・」
「流石にこれはただの偶然だと思いますけどね。デジモンが人と暮らせばそれを悪用しようとする人が現れてもおかしくないですし、こちら側で暮らすデジモンが増えればその分、事件が起こる確率も上がってしまいますから」
「まぁ、そうだろうな。分かったよ。それじゃ子供達の事はそっちに任せるよ」
子供達を心配する気持ちは当然あるが、事件が起こっているのなら見過ごす事は出来ない。
デジモンに一番近いのは子供達だ。だからこそ子供達が危険にさらされないように手を打つのも大人としての役割なのだから。
こうして太一は子供達がデジタルワールドへ行っている間に捜査協力の要請を受ける事となった。だが、それが一連の出来事に裏で暗躍する者へと繋がっているとはこの時はまだ知る由もなかった。
次回予告
選ばれし子供達の一人で、刑事になった一乗寺賢とパートナーのワームモンと再会した太一とアグモンは共にシャドーと名付けられた黒いデジモンが引き起こす事件に奔走する。
関係性のない事件だと思っていた事がやがて一連の出来事の核心へと辿り着く事となる。
その先に待っていたのは太一達と因縁のある存在だった。
そしてまた世界を巻き込んだ騒乱が引き起こされる事となる。
次回、「突き進む。その為に」
移りゆく時代の中で何を見出すのだろうか・・・。