機動戦士ガンダム外伝 デブリーフィング0079   作:とりでのひと

1 / 2
「我々は今、スペースノイドの住まい、コロニーさえも武器にしてしまった」
  ジオン公国軍 オリヴァー・マイ技術中尉


初陣、空が落ちる日

 宇宙世紀0079年1月、ブリティッシュ作戦。ハンス・シュタイナー少尉は対艦戦闘部隊の一員として作戦に参加した。初陣だった。

 開戦にあたり親地球連邦の立場を取っていたサイド2の、8バンチコロニーであるアイランド・イフィッシュを制圧。核パルスエンジンにより軌道を離脱させ、地球に落下させる作戦だ。

 攻撃目標となったのは地球連邦軍本拠地、南米に位置するジャブロー。核兵器をも防ぐと言われた重厚な岩盤の地下に隠されたこの秘密基地を破壊すべく、ジオン公国軍はコロニーの大質量を落着させるという暴挙に出た。厳密には当時ジャブロー地下基地の正確な位置はジオン側の知るところに無かったが、コロニー衝突時の衝撃は多少の誤差があろうとジャブローを壊滅させられる筈だった。

 連邦・ジオン間の戦力比は30:1とされている。その圧倒的劣位にあるジオンが勝利し得るシナリオは、このコロニー衝突作戦を除いて他に無い。

 シュタイナー少尉を含む対艦戦闘部隊に与えられた任務は、落下軌道へと投入されつつあるコロニーを、攻撃阻止の為に展開した連邦艦隊から護衛する事。具体的にはそれら連邦戦闘艦を撃破する事だった。

 この戦闘においてジオンの優位は二点あった。

 先ずはミノフスキー粒子だ。近年発見されたこの新物質はその特性の一つとして、電子機器や通信装置に対し著しい障害を起こす。大艦巨砲の傾向にあった連邦主力艦はより遠距離からの高火力砲撃を旨としており、高出力レーダーによる索敵はその性能を活かす為に必須だった。ミノフスキー粒子の影響によるレーダー障害は、連邦軍からその優位を奪い去る。

 次に人型ロボット兵器、モビルスーツの存在だ。コロニー建設等に利用されていた工作機械を戦闘用に発展させた全高18メートルのロボットは、ミノフスキー粒子散布下での行動を前提とし、有視界戦闘を念頭に置いて作られている。ジオン軍主力モビルスーツであるザクⅡは、既存の宇宙戦闘機による攻撃を耐える堅牢な装甲と優れた機動性を誇り、容易に連邦主力艦に肉薄、打撃を与える事が可能だ。

 シュタイナー少尉に割り当てられたザクⅡは、コクピット周辺に耐放射線液を充填されたC型と呼ばれるタイプだ。核砲弾を装填された単発式の無反動砲、通称バズーカが装備され、この一撃で連邦艦艇に大打撃を与える。その後は副次兵装として装備された120mm口径機関砲、ザクマシンガンにより敵艦の武装を中心に攻撃し、他の味方への攻撃を抑止する。

 

 しかし、そうした楽観的な事前情報とは裏腹に、シュタイナー少尉は恐怖した。実際に戦場へ突入した時、彼を待ち受けたのは連邦艦によるメガ粒子砲の嵐だったからだ。

 士官学校の同期卒業生であった彼の僚機は、敵艦の主砲射程距離に突入するや否や、青白く煌めく光芒に撃ち貫かれ、誘爆した推進剤の爆炎の中に消えた。敵の猛攻の最中にあって、シュタイナーはそれにすら気づかなかった。

 敵はばら撒いているのだ。敵の直線射線を避ける為のランダム自動回避運動で揺さぶられるコクピットの中で、シュタイナーはそう理解した。戦艦の数を揃えて並べ、ひたすらこちらに向けてメガ粒子砲の弾幕を形成している。なら、このザクⅡのセンサーが敵を捉るまでは、祈る事しか出来ない。

 だが彼の祈りは届かなかった。がむしゃらに放たれたメガ粒子砲の一撃が、ザクⅡの右腕を直撃し、無残にもぎ取った。同時に核砲弾を装填したバズーカの推進剤が高熱により爆発を起こし、砲身の破裂によって生じた破片がザクのモノアイスリットを直撃した。装甲で覆えなかった脆い部位へ破片は深く突き刺さり、メインカメラとバランサーが停止する。本来ならば推力を抑えて制御すべき状況だが、シュタイナーは咄嗟にバーニア出力を上げてその場から離れようとした。致命的な操作ミスだ。

 制御困難のままいたずらに推力を与えられた結果、彼の機体は激しく回転し、瞬間的に強烈な荷重がシュタイナーの身体にのしかかる。全身の血液が下半身へと押しやられ、脳への血液循環を遮る。視野が狭まり色彩が消え、目の前が真っ黒に染まる。そして間もなく、彼は気を失った。

 

 再び意識を取り戻したのは、回収用に展開したザクⅡが彼の機体を掴んだ時だった。敵のメガ粒子砲も既に彼らの元には届かず、代りに味方艦であるムサイ級軽巡洋艦が後方に迫っていた。それはこの宙域での戦闘が終結し、前線が押し上げられている事実を示していた。

 目を覚ましても尚、シュタイナーはどこか夢の中にいるような感覚を覚えていた。敵の姿すら見ないまま、一発の銃弾すら放たないまま、ただ眠っていたのだ。戦場に出ながら、何もせずに寝ていた。そして尚、生きている。

 ただ、茫然とする他なかった。

 ムサイ級へと回収された後、彼は所属する小隊が全滅したとの報告を受けた。この時はじめて、彼はヘルメットを投げつけて怒りを示した。連邦に対してではない。隊の仲間が命懸けで戦っている間、何も出来なかった自らに対しての激しい苛立ちだった。

 

 結果から言えば、ブリティッシュ作戦は本来の目的であるジャブロー攻撃に失敗した。連邦の激しい艦砲射撃や地上からの対空攻撃による損傷により、大気圏突入後に空中分解。しかし分裂した破片は世界中へと散らばり、最も大きな破片が衝突したオーストラリアでは、その中心にあったシドニーが文字通り消滅した。

 この作戦における民間人死傷者数の中に、ジオン軍の毒ガス攻撃によって大量に虐殺されたアイランド・イフィッシュの住民が含まれている事を、シュタイナーはまだ知らなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。