機動戦士ガンダム外伝 デブリーフィング0079   作:とりでのひと

2 / 2
「我が軍の劣勢はジオンのモビルスーツによるもの。我々も同じ土俵に立つのです」
  地球連邦軍 ヨハン・イブラヒム・レビル将軍


ホワイトカラー

 ジオン軍はブリティッシュ作戦の失敗を踏まえ、サイド5、通称ルウムにおいて同様のコロニー落とし作戦を試みる。ルウム戦役だ。

 しかし、前回コロニー破片の落着による大被害を受けていた連邦軍は、動員可能な戦力のうちほぼ総てを投入し、作戦の阻止にあたった。その規模は、ジオン軍勢に対して三倍にも及んでいたという。

 結果、新兵器モビルスーツの前に壊滅的被害を受けながらも、二度目のコロニー落としは阻止された。が、ここでも連邦は致命的な失態を犯した。連邦軍内でも有数の指揮官として知られていた、レビル中将が捕獲されてしまったのだ。

 艦隊の壊滅と、レビルの捕獲。連邦軍将官達は敗戦を覚悟した。

 だが奇跡は起こった。

 連邦軍特殊部隊による決死の救出作戦の末、捕虜となっていたレビルが生還を果たしたのだ。そして彼は宣言した。

「ジオンに兵無し」

 帰還後に彼が行った演説は、ジオン軍の厳しい内情を白昼の元に晒し、その事実こそ二度に渡ってコロニー落としが試みられた理由への答えだった。

 国力に劣るジオン公国には、初めから早期決戦以外に勝利する道など無かったのだ。コロニーの大質量を衝突させジャブローを壊滅させた上で、ジオン優位での終戦協定を迫る。消耗戦となれば、ジオンに勝機は無い。

 完全とは言えないものの、その目論見は半ば達成されつつあった。ブリティッシュ作戦により失われた地球人口は総人口の半数にも及び、ルウム戦役においてはモビルスーツに対する既存兵器の脆弱性を露わにした。もしレビル将軍の救出に失敗していたなら、地球連邦の敗北も有り得たかもしれない。

 しかしレビルは生還し、ジオンにはこれ以上の大規模作戦を行う戦力など残されていない事を報せた。壊滅に近い打撃を被っていた連邦にも、敗戦を受け入れる以外の選択肢が示されたのだ。

 その後両陣営間で交わされた条約は、ジオンの事実上の勝利を示す休戦条約ではなく、戦争行為における最低限の規定を定める、戦時協定となった。いわゆる南極条約だ。そしてそれは、この後一年に渡る戦いの、つまり一年戦争の幕開けを意味する物だった。

 

 早期決戦の道を断たれたジオンは、不利とされた長期戦に作戦を切り替えた。南極条約において核・生物・科学兵器、そしてコロニー落としに代表される大質量兵器の使用が禁止された為、残る手段は戦力を地球へ降下させ、地上を占領する事しかない。同時に連邦の施設や物資を接収していく事で、激しく消耗したリソースを回復する。

 こうして行われた地球降下作戦は、重力下においても猛威を振るったモビルスーツの力により、電撃的な進捗を見せた。あらゆる地形を走破し、多様な武装で既存兵器を蹂躙するモビルスーツは、アースノイドに地の利が有る地球上でさえ、驚異的だったのだ。

 

 この劣位を覆すべく、レビルは二つの課題を挙げた。ブリティッシュ・ルウムで失った艦隊を再建するビンソン計画。そして連邦製モビルスーツの開発と量産を実現する、RX計画。後にV作戦と改められたプロジェクトだ。

 独自のモビルスーツ開発。連邦の技術者たちは、先ず既に実用化されているジオンのザクを解析する所から始めなければならなかった。

 幸いと言うべきか、ザクの入手は容易ではないにしろ機会には恵まれた。何せ、ジオン軍は大量に地上へ降下させたのだ。行軍中に頓挫した機体や補給地点で駐機中の物、戦闘中にパイロットの戦死した物。運と状況に恵まれさえすれば連邦はザクを鹵獲していた。

 

 ラチェット・フォードもまた、このモビルスーツ開発計画に関わる事になった。

 北米の工科大学でパワーアシスト機器の研究をしていた頃、連邦軍からのスカウトがあった。勿論フォードだけでなく、彼が知っているだけでも10人以上は同様に誘いを受けている。

 在学中であった為に最初は断ったが、それから間もなくしてコロニーが落ちた。幸い彼の家族は無事だったが、学友の中には家族や友人を亡くした者も居る。彼らの悲しみと怒りに満ちた表情は、フォードに軍へ協力する覚悟を決めさせるには十分なものだった。彼は改めて、連邦軍のスカウトを請けに行った。

 間もなく十分な訓練も受けられぬまま、フォードには少尉の階級章が与えられた。訝しむ彼に、担当の士官は「セキュリティ上の理由」とだけ答えた。その言葉の意味はすぐに解った。すぐにモビルスーツに関する大量の資料を押し付けられたからだ。

 膨大な資料と睨み合う日々の中、彼はジオンの主力モビルスーツであるザクについて理解を深めていった。つまり現在、連邦の並居る通常兵器を蹴散らしている脅威のメカニズムについてだ。

 まず彼を驚かせたのは、最低限の推進装置で無重力下での機動制御を実現する、AMBACと呼ばれる技術だ。モビルスーツの四肢を動かし、その反動で機体を制御する。加えて、脚底部に設けられたバーニアは足を動かせば自在に向きを変えられる。結果としてブリティッシュ作戦・ルウム戦役では連邦の艦砲射撃を掻い潜る機動性を見せつけた。

 マニピュレータで武器を保持する方法も、射撃管制の常識を覆したと言える。戦闘機等と違い、機首を攻撃目標に向ける必要が無い。射線を横へ向けられる点は、機動戦において有利に働く。巨大な戦艦の付近を横切りながら射撃を加え、離脱しつつ攻撃を続ける事もできる。

 ただし、地上では違った観点が必要になる。重力下では数十トンの重量によって移動速度は低下し、勿論重力に抗って飛び続ける事もできない。数秒間ジャンプするのが精々だ。

 とはいえ、携行可能な火力や防御性、移動効率などを考慮すれば、主力戦車を圧倒する物であるのは間違いない。多くの機体に装備されている機関銃には120mm口径の高初速弾が装填されており、戦車だけでなく頭上を飛び去る戦闘機に届かせるだけの性能はある。そして、命中すればよほどの幸運が無い限り一撃で撃墜される。

 連邦はこれに匹敵する、または凌駕する性能を持つモビルスーツを開発しようとしている。そう考えると、フォードは頭が痛くなった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。