ストライクウィッチーズ~異世界から舞い降りた翼~ 作:疾風海軍陸戦隊
ed「帰還」
ディジョン基地に奇襲をしてきた恐るべきロボットネウロイキングジョーダーク。しかしそこに疾風が出撃し、体の不調で本来の力も発揮できないにもかかわらず疾風はキングジョーダークを撃退させることに成功するが、キングジョーダークに一撃を加える際、キングジョーダークの光線を喰らって重傷を負い、戦いの後疾風はマリアンたちに基地に運ばれ、すぐに手術の準備がされるのであった。
ディジョン基地
「姫さん。落ち着きなって!」
「そ、そうですよ大尉!」
「落ち着いていられるかバーガンデール少尉!黒田中尉!!」
必死で抑えようとする二人を振りほどくと、ハインリーケはマリアンを睨み
「マリアン・E・カール大尉!!どういうことなのじゃぁ!!お主が…お主がいながらなぜ疾風大尉が負傷したのじゃ!!説明せよ!!」
セダンからディジョンが襲撃され、ユニットも破壊され出撃できないとの知らせを聞いたハインリーケたちは援軍としてきたのだが、ハインリーケは疾風が重傷を負ったということを黒田から聞くと、そのそばにいたマリアンに険しい顔で胸ぐらを掴み、強く壁に叩き付けそう訊くとアドリアーナが
「姫さん。無茶言うな。黒田の証言や基地の格納庫の現状を見て、ユニットで出撃できたのは疾風だけだったんだ」
「だからと言って・・・・・」
「私の・・・・・私の責任だ・・・・・・・」
アドリアーナがそうハインリーケをなだめるように言う中マリアンはぽつりとつぶやく
「あの時、出撃したのはあいつじゃなくて私だったら・・・・・いや、もっと早くユニットの修理が終わっていれば……終わっていれば。疾風は・・・・・疾風は・・・・」
「「っ!?」」
皆はマリアンの顔を見て驚く。いつも勝ち気で負けず嫌いである彼女の目から大粒の涙が流れていた。疾風が負傷し基地で運ぶ時、彼女はずっと悔やんでいた。もっと早く修理が終わっていたら、予備のユニットを疾風ではなく自分が履いて出撃していれば、もし格納庫が爆破されるのを未然に防げていれば。こういう後悔が自分の中で渦巻き、今も重傷で手術している疾風に・・・・恋心を抱いている相手に何もできない自分を情けなく思っていたのだ
それを見たハインリーケは
「カール大尉・・・・・・・すまない・・・・言い過ぎた」
ハインリーケはマリアンと同じ疾風に恋心を持っているため彼女の心情を理解し、そして彼女から手を離して悲しそうな表情でそう言うと
「そう言えば・・・エミリアはどこに行ったんだ?」
「エミリアさんなら・・・・・・」
「ここにいるわよ・・・・・」
カーラとジェニファーが話すと、そこへ泥だらけになり、泣いていたのか、目が赤く充血していたエミリアが立っていた
「エミリアさん。どうしたんですかその格好?」
「これを・・・・これを探していた」
そう言いエミリアが出したのは一本の刀だった
「エミリアさん・・・・それは」
「あいつの刀よ・・・・・・基地近く野原に落ちてたわ」
エミリアがそう言いハインリーケはその刀を受け取り、ずっしりと重い感覚を感じる
「(重い・・・・あ奴。こんな重い剣を振り回しておったのか・・・・・・)」
「ハインリーケ。鞘を抜いて刀身を見てみなさい。あいつがどれだけ戦ったわかるわ」
その言葉を聞いてハインリーケは一度だけエミリアの顔を見ると彼女は小さくうなずく。そしてハインリーケは刀を抜くと
「・・・・・刃こぼれがひどい…それに所々、ひびが割れている」
「それだけじゃないわ。さっき確認したけど刀身を支える目釘も折れかけていた・・・・かなり無茶をした証拠よ」
ハインリーケやマリアンたちは疾風が使用した刀の現状を見てどれだけ激しい戦いだったのかがわかる。すると、そこへ医師であるドーセが出てきた。本来セダン基地にいる彼女であったが、疾風の重傷を聞きつけ急いで駆けつけたのだ
「ドーセ先生!。疾風の容体は!!」
「無事・・・と言いたいとこだが、はっきり言ってかなり危険な状態だ」
「「「っ!?」」」
「心臓は聞き取りにくいほど微かだが動いている。いわば仮死状態だ。外傷は体中のねん挫や骨折、特に右足の骨折に頭部の骨にヒビ。そして何より腹部が重傷で内臓までやられていた。大型のトラックや戦車に撥ねられてもあんなひどい怪我はしないよ」
「た・・・・助かるんですか?」
ジェニファーの言葉にドーセ先生は
「今のところ手は尽くした。後は大尉の気力しだいだ。ただ一言、言えるのは面会謝絶、絶対安静、疾風大尉は今夜が峠でしょう」
ドーセが疾風の容体を言う。疾風の容体はあのヴェネチアのマルタ戦以上に悪い状態であった。そしてドーセ先生は周りの皆の顔を見て
「まあ見舞うなら一人ずつ静かにという事で。とりあえず私は隣の部屋にいるから何かあったら呼んでくれ」
静かにそう言うとドーセ先生は隣の部屋に行ってしまう。そして最初に入ったのはハインリーケであった。彼女は疾風のベットの傍に静に座り、ただじっと彼を見つめていた。しかしその目には光が宿っていなかった。そして、どれだけの時間がたったのだろうか、しばらくすると彼女は乾いた笑いをする
「ははは・・・・・・主も馬鹿じゃの大尉・・・・・こんな大怪我をしよって・・・・それでもお主はスーパーエースレッドファイターか?情けないの・・・・・お主の妻や子が知ったら笑われるぞ・・・・・・」
そう言うと彼女の目から一筋の雫が落ち
「大尉。お主言ったであろ?あの二人のことは大切じゃと・・・・・だから、こんなところで死ぬな・・・・それに私とて嫌じゃ・・・・・とてつもなく嫌じゃ・・・・・・」
そう独り言のように言っているとアドリアーナが入ってきて
「姫さん。そろそろ交代の時間・・・・・・姫さん?大丈夫か?」
泣いているハインリーケを見てアドリアーナがそう言うとハインリーケは
「大丈夫・・・・か。確かにわらわは傷一つもなく丈夫じゃ・・・・・カール大尉にはああ言ってしまったが。今思っても己の不甲斐無さに愛想が尽きるわ・・・・・もし、早く到着しておればあいつは生死を彷徨う怪我など負わんかったのに・・・・・あいつを助けることができたであろうに・・・・・・・想いを寄せる相手を救うことができなかった己に腹が立つ」
「姫さん・・・・・やっぱり疾風大尉のことを・・・・・」
「ああ、好きじゃ・・・・・心の底から大好きじゃ・・・・・・たとえ叶わぬ恋だとしてもあ奴の愛人になれなくともよい・・・・あいつの元気な笑顔をまた見たい。あ奴の元気な姿をもう一度この目で見たい・・・・・・もし、あ奴が死んでしまったら、妾は・・・・・それだけじゃない。もし大尉に何かあったら妾はあ奴の家族になんと詫びればよいのじゃ!戦闘隊長であり!上官である妾がこいつを護る!それがあるべき姿であろ! 妾はどうすればよい!?」
涙を流しハインリーケが絶叫する。そしてアドリアーナは
「姫さん。そろそろ交代の時間だ。少し休め。ここに来るまで一度も休んでいないだろ?」
「な、妾はもう少しここに…」
「疲労で姫様まで倒れたら疾風大尉が一番責任を感じるぞ。それにゆっくり休んであいつの目が覚めた時に元気な笑顔でも見せてやれ」
アドリアーナの言葉に納得するとハインリーケは涙を拭き部屋を出る。そして残されたアドリアーナは
「まったく。お姫様を泣かせるなんてとんだ王子様だな大尉」
ゆっくり椅子に座り
「絶対に元気になれよ大尉・・・・・もし目が覚めたら、お前のいた世界のロマーニャの話を聞かせてくれ・・・・・」
そう言い彼女も出て行くと今度はヴァーガンデール少尉が入り
「疾風大尉、僕面白いジョークを思いついたんだ。客が店員に怒鳴った『おーい君!このスープにハエが入っておるぞ!しかも二匹!』すると店員が『し~お客様その二匹目はサービスです。他のお客様には一匹しか入れてませんし肉代も追加しませんよ』てね。どう僕のジョーク?」
周りが凍りつくほどのジョーク。しかしは目が覚めない。それを見たアイザックは帽子をかぶり
「次は大尉も腹を抱えて笑うほどの新しいネタ考えるから。元気でね・・・・・」
そう言い部屋を出る。そして次にカーラが入り、
「大尉。コーラの差し入れだぞ。普通は果物だけどエミリアから聞けば大尉もコーラ好きみたいだからこっちの方がいいよな。今度はこういう形じゃなくてちゃんとB部隊に遊びに来なよ。マリアンだって喜ぶし・・・・・・だから・・・・・だから元気になってよな」
泣きながら部屋を出たカーラ。その後、黒田が入り
「疾風さん。早く目覚めてくださいね。目が覚めたら一緒に映画を見に行きましょう!実はセダンの近くの映画館で面白い映画を見つけたんです。絶対に疾風さんも気に入ると思いますよ!もし、映画間に行くときはポップコーンは私が奢りますから。ですから早く元気になってください。絶対ですよ約束ですからね!!」
疾風の手を握り涙目でそういう黒田。そして黒田が出た後、次に入って来たのはジェニファーだった
「疾風さん。こうしてちゃんとお話しできたのはほんの数日でしたね。エミリアさんからあなたのことはディジョンで沢山聞いたんですよ。疾風さんやエミリアさんの世界のことも戦争のこともこの世界でして来たこと・・・そして疾風さんの恋人や娘さんのことも・・・・・・そうだ。疾風さん。また今度、
ジェニファーはにっこりとほほ笑んだ後部屋を出た。そして次に入って来たのはマリアンであった。そしてマリアンは静かに椅子に座り疾風の顔をじっと見ていた
「疾風・・・・すまない・・・・もっと私がしっかりしていればこんなことにはならなかった・・・・もし、私が速く、お前の援護に駆け付けていれば・・・・・・」
そう言いマリアンは自分の手をぎゅっと握り
「後悔しても仕方がないとは思っている。だけど私は悔しい・・・・・・・・・何が誇りある海兵隊だ。何がウィッチだ・・・・・自分の好きな男を守ることもましてや共に戦うこともできず、ただ地上にいただけなんて自分自身こんなに情けないと思ったことはない・・・・・」
そう言うと彼女の目からポタポタと涙が流れ、そして
「疾風!死なないでくれ!知っている奴、それも自分の初恋の人が死ぬのは嫌なんだ!!私の命を上げてもいい!だからお願いだ。死なないでくれ!もう一度目を覚ましてくれ」
泣きながら言うマリアン。そして限界に来たのかマリアンは涙を拭き飛び出すように部屋を出るのであった。そして空いたドアから入って来たのはエミリアだった
「やれやれ・・・皆湿っぽいわね」
頭を少し掻き椅子に座り疾風の顔を見るエミリア
「疾風。お前は向こうの世界・・・・あの戦争で家族や多くの仲間失った。だが、この世界では大切な人と出会い。そして今お前を思う人がこんなにもいるんだ疾風。絶対に死ぬんじゃないぞ。もしお前が死んだとエイラが知ったら絶対あいつお前の後を追うかもしれないからな。二人の結婚式の仲人なら喜んで引き受けるが二人の葬式は絶対にしないからな。お前もエイラがお前の後を追わないように絶対に目を覚ませよ。お前の命はもうお前一人だけの物じゃないのだからな・・・・・」
そう言うとエミリアは立ち上がり空を見る。空はもう暗く星空が見えていた
「死兆星はまだ見えない・・・・・なら大丈夫ね」
そう言いエミリアは部屋を出ようとするともう一度振り向き
「疾風。お前と私の約束・・・・・こんな形で終わらせたくないからな・・・だから絶対に目を覚ませよ」
そう言い彼女も部屋を出るのであった
一方。デジョン基地の片隅では
「まさか、キングジョーダークが小破するほどのダメージをするとは少し予想外だったな・・・・・」
「どういうことだヤプール。君は疾風大尉の息の根を止めると言ったはずだが彼は生死の境をさまよっているとはいえ生きているではないか」
「落ち着きな同志よ。あいつは目を覚ますことはない一生仮死・・・・いや、本当に死ぬのだ」
「なに?どういうことだ?」
「あいつに致命傷を与えたキングジョーダークの紫のビームはただのビームではない。奴の肉体と魂を分離させる光線だ。あのビームを喰らうと肉体的にもダメージが起きるのと同時にその魂も切り離され、肉体は仮死状態になる」
「・・・・で、分離された疾風大尉の魂はどこに?」
「分離された直後、私の仲間が奴の魂を捕獲し、今とあるところへ運んでいる。その場であいつの魂を八つ裂きのバラバラにしじわりじわりと苦しい思いを感じさせながら殺す。そうすればあいつは肉体的にも魂的にも死ぬことになる」
「だが、疾風大尉の魂を運ぶとなると他にウィッチに察知されるんじゃないのかね?」
「心配には及ばん。奴の魂を運ぶネウロイは特殊な次元を通る。他のウィッチに察知されることもましてはその空間に入ることも不可能だ」
「・・・・その場所というのは?」
「あの世とこの世の狭間だ。もし、その空間に入ることができるものと言えば亡者ぐらいだ・・・・・」
「なるほど・・・・・それよりもヤプール。約束は覚えているだろうな?」
「ああ、このガリア以外の国を我々に渡す代わりにガリアの王統復活に協力しろだったな・・・わかっている約束はたがえないさ・・・・・」
「そうか・・・・それを聞いて安心した」
そう言うとヤプールと話をしていたものは姿を消すとヤプールはニヤッと笑い
「ああ・・・・ガリアには手を出さんさ。今の時点ではな」