交錯する世界   作:奇稲田姫

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Side A 暁の水平線へ 第9話

早朝。

 

 

戦艦寮に、未だシンと静まり返った廊下で扉の開く小さな音が響き渡る。

 

時計の針はそもそも5時にすら到達していないが、日の出はまだまだ早いようで東の空は若干ではあるが明るくなり始めていた。

 

そんな廊下を、金剛は僅かに開いた自室の扉から顔だけそっとのぞかせると、キョロキョロと左右を確認する。

 

当然のごとくこんな時間に起きている輩なんかいるはずも無く、ただただ無人の廊下が広がっているだけだった。

 

予想通りというふうにため息を零すと、同室の比叡を起こさないように静かに、そして素早く廊下へ出ると、出来るだけ音を立てないように扉を閉める。

 

「ふぁあ。はぁ、なんなんですかネ~。今日に限っていつもよりも早く目が覚めてしまったヨ~。確か、ワタシは今日の出撃も午後からだったカラ、ゆっくり寝ていようと思ったのに。」

 

無人の廊下を静かに歩き、寮の中央階段を足音に気をつけながら1段ずつ降りていく。

 

玄関口の扉を静かに開け、大きく上に伸びをする。

 

といっても時期は夏。

しかも、昨日は雨だ。

朝とは思えないほどの蒸し暑さを肌に感じながら申し訳程度の体温調節装置で体温を下げる。

こういう時に艦娘って便利だと感じる。

と同時に艦娘は道具であるという実感も湧いてくるのだ。

 

精密な機械はほんの少しの温度上昇ですら仕事に影響が出てしまうこともある。

だから、仕事の効率を求める機械の多くは温度を一定に保つために冷却装置を備えているものもあるのだ。

それを考えると艦娘の衣装に内蔵されている体温調節装置はまさしく冷却装置そのものなのでは…………。

 

「艦娘」という「デリケートな機械」の運動効率を下げないための……。

 

と、そんな余計なことを考えつつ、鎮守府の近くにある砂浜を歩く。

 

早朝の散歩なんて、自分でもババ臭いとは思うのだが、如何せんやることが無いのだ。

寝れないものは寝れない。

寝れないなら部屋にいてもしょうがない。

じゃあ、外に出てみようか。

そんな感じだ。

 

しかし、暇つぶしにはなるだろう。

 

思いもよらない事態というのはこういう行動を起こした時に起こるものだ。

 

まぁ、そんな簡単な話でもないのが事実なのだが。

 

「謎は一向に深まるばかり。はぁ、謎の全容が見えてくるのはいったいいつになるのでショウ。木曾……は、恐らくあれ以上の事は喋らないでしょうし、多摩サンは多摩サンでもう喋ってくれそうにないネ~。となると、後は北上と大井は…………確か今日は出撃なかったハズ、聞いてみるデース。それから…………。」

 

最後に残るのは、恐らくこの鎮守府で一番厄介な秘書艦だ。

 

「球磨サンが知らないというのはまずありえないネ。」

 

とはいえ、どうしたものか。

ここまで色々とワタシなりに行動を起こしてきた。

 

それが、これからの未来にどう影響するのかなんて分からない。

そもそも、何故ワタシはこんなにも執着しているのか。

 

 

 

 

ワタシは何をしたいのか?

 

 

 

 

額にシワを寄せながらボーッと視線を足元に落としつつ砂浜を歩いていく。

 

遮蔽物のまったくない砂浜は見通しもよく、遠く彼方まで見通すことが出来た。

 

あぁ、今日も砂浜は綺麗ですネ~。

 

混じりけのない海の青に映える白い砂。

そんな中だからこそ、遠くに見えるブルーの衣装ですらまたいい味を出している。

 

ん?

 

「おや?あれは…………」

 

サクサクと砂浜を踏みしめながら次第にその青いものに近づいていく。

 

あれは…………人!?

 

「た、大変ネ!人が倒れてるヨ!それに、酷いケガネ!早く治療しないと!」

 

いや、砂浜に人が倒れているなんてどんなドラマか映画かと思うが、現に倒れているのだ。

しかも、かなり怪我は酷い。

 

咄嗟に駆け寄って脈を確認。

 

幸い生きてはいるようだが、全身ボロボロでなにがあってこれだけダメージを負えるのかと思うほど酷い状態で気絶している女性。

 

「にしても、この衣装…………。一般人には見えませんネ。かと言って、艦娘だとしても初めて見る衣装デス。……露出も多いネ。」

 

ワタシは僅かな違和感を抱きながら女性をおぶる。

 

「どちらにしろ放置はできないデス。手当が優先ネ。」

 

そのまま鎮守府へと戻ることにした。

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ん。」

 

体全体に暖かな温もりを感じて私は目が覚めた。

 

そんな私の目にまず飛び込んできたのは真っ白な蛍光灯の光。

思わず目を閉じてしまう。

 

本当は腕で光を遮りたかったのだが、鉛のように重い腕は動かそうにも力が入らなかった。

 

そんな時だった。

 

「ん?やっと起きたみたいネ。気分の方はどうデスカ?」

 

不意にかけられた一言。

 

声の主は整った顔立ちに鮮やかなブラウンの髪、頭には何やら黄色いカチューシャを付けた女性だった。

帰国子女かなにかなのか日本語としては語尾に特徴が感じられる。

 

私は自分の体に温もりを与えていたベッドから上半身だけを起こす。

 

「ここは…………?」

 

「ここは第三号鎮守府の医務室デスヨ。」

 

「第三号…………っ!?」

 

そう復唱するのと同時に記憶がフラッシュバックされる。

 

「そうデス。第三号鎮守府デス。今朝海岸で倒れているアナタを見つけて…………わっ!」

 

ほとんど無意識だった。

先程までピクリとも動かすことが出来なかった腕で彼女の肩を掴みかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「他のみんなは!他のみんなは無事なんですか!金剛は!比叡は!翔鶴に瑞鶴は!それからウェストは無事なんですか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────

 

 

正直、ワタシは混乱していた。

 

今まで眠っていた……と言うよりかは気を失っていた女性がお昼時になってようやく目が覚めたと思ったら、いきなり掴みかかってきたのだ。

 

それに、言っていることもよく分からない。

 

金剛は無事か?

と言われても、金剛はワタシだ。

 

無事も何も危険になんてここ数日遭遇した記憶が無い。

 

と言うか、まずワタシは彼女との面識なんてないはずなのに向こうはこちらのことを知っている様子だ。

 

「ちょ、ちょっと落ち着くネ。金剛はワタシだヨ!」

 

「何を言って…………っ。」

 

咄嗟に落ち着くよう促した事で女性の方も我に帰ったようだ。

パッと肩から手を離し、キョロキョロとあたりを見渡す。

 

そして、しばらくの沈黙が流れたあと、女性がポロリと口をこぼした。

 

「……すみません。取り乱しました。」

 

「いやいや、ワタシもビックリしたけど全然問題ないヨ。」

 

「……さっき、ここは第三号鎮守府だと言っていましたが、それは本当なのですか?」

 

「?そうですケド、それがどうしましたカ?」

 

「いえ、ということはあなたは私が出撃している間に新しく建造された艦ですね。はじめまして。しかし、今はそれどころではありません。司令官の所に行かないと…………うっ。」

 

何だかよく分からないことをペラペラ喋ったかと思うと、まだ完全に回復しきっていない体でベッドから出ようとする女性。

当然それは全身に走る痛みによって阻止されるわけだが。

 

額に冷や汗を滲ませる彼女をゆっくりとベッドの上に寝かせる。

 

「あぁ、ほら、まだ完全に回復しきっていないんダカラ無理しちゃダメネ。寝てなきゃダメ。」

 

「でも……作戦の報告をしないと。」

 

「作戦?よく分からないケド。提督に用事?だったらワタシが呼んでくるヨ。」

 

小さく溜息をつきながらカタリと椅子を引く。

 

「……すみません。そう言えば、まだ名前聞いてませんでしたね。」

 

「ワタシデスカ?」

 

「はい。」

 

「ワタシは金剛デス。」

 

「金剛……なのですか?」

 

「そう言えばさっき金剛や比叡は無事かと言っていましたが、そもそも、何故ワタシの事を?」

 

「いえ、大したことじゃないんです。どういうことでしょうか」

 

女性は僅かにまゆを寄せ、意を決したように言葉をこぼした。

 

「……司令官に、会わせてください。」

 

 

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